風の歌に想いを乗せて・・・

久しぶりに学園への道を歩いている。凛ちゃんと、さつきと、私の三人で。

2人には私は見えていないはずから、2人きりで歩いてるつもりだろうけれど。

あの事故以来のことだから、もう1ヵ月以上経っている。

・・・いや、まだ1ヵ月くらいしか経っていないんだ。それだけなのに、とても懐かしく感じる。

この短い間に色々あったから・・・あり過ぎてしまったから。

もうこの道を凛ちゃんと二人で歩くことはできないんだ。たとえ私が隣にいても、凛ちゃんには届かない。

今更ながら悲しくなってきた、もう二度と・・・

「・・・・・・っ!!」

「ちょっと凛、どうしたのよ!?」

突然、凛ちゃんが下を向き、走り出した。さつきの事も振り切って。何かから逃れるように。

『凛ちゃん!!』

そのまま暫く走りつづけ、唐突に立ち止まり、荒い息をつく。

その目にはうっすらと涙が浮かんでいるように見えた。

「もう、凛どうしたのよ、いきなり走りだしたりして」

「はぁ・・ご、ごめん、さつき。でも・・・ここは・・・・」

そこまで聞いて気づいた。今凛ちゃんが走り出した場所。

そこはちょうど、私が事故に遭った、あの交差点だった。

そうだ、すっかり忘れていた。わたしは学園から帰る途中で事故に遭ったのだから、

学園に行く時は、当然その場所を通る事になるのだ。他にも道はあるけれど、とても遠回りになってしまう。

「そうだったね・・・行こうか、凛」

さつきもそれに気がついたんだろう、それ以上は何も言わずに歩き出した。

凛ちゃんもその後について行く。少し泣きながら。

私は暫くその場に立ち尽くし、それでも2人の後を追いかけた。

(凛ちゃん・・・ゴメンね)



「あ、凛ちゃん久しぶり〜、大変だったね、もういいの?」

学園に着いて教室に入った途端、沢山のクラスメイトが凛ちゃんの周りに集まってきた。

みんな口々に凛ちゃんへ励ましや、慰めの言葉をかけてくれている。

その言葉の一つ一つから本当に凛ちゃんを心配していた気持ちが伝わってくる様だった。

・・・良かった。凛ちゃんの周りはこんなに優しい人達ばかりだったんだ。

これなら何も私が心配する事は無いのかも知れない。きっとみんなが支えてくれる。

そう思った。だけど・・・

「・・・・・・呼ばないで」

凛ちゃんが小さい声で何か呟いた。いつの間にか俯いていたせいもあって、よく聞き取れなかったけれど。

「え?なあに、凛ちゃん」

それは周りにいた子も同じだったようだ。その中の一人が聞き返した。

「凛ちゃん、て呼ばないで」

小さい声で、もう一度同じ言葉を繰り返した。

「どうしたの?急に。今までずっとそう呼んでたじゃない」

「うん・・・だけど、もうその呼び方はやめて・・・お願い」

そう言った凛ちゃんの目にはやっぱりうっすらと涙が浮かんでいた。

「う、うん、分かった」

それを見てしまってはそう答えるしかないのだろう。集まっていた子達はとまどいながらも頷いた。

(凛ちゃん・・・私がそう呼んでたからなの?)

その呼び方は私が子供の頃からずっと使っていた呼び方だった。

だけど今、凛ちゃんはその呼ばれかたを嫌がった・・・なぜだろう?

少し考えてみて、理由は一つしかない事に気づいた。

私が使っていたからだ。

私が呼んでいたその呼び方で呼ばれると、どうしても私を思い出してしまうから。悲しくなってしまうから。

今朝の交差点での事もきっとそういう事なんだろう。

あの場所を通ると事故の事が頭に浮かんでしまうから。私が死んだ時の事が。

それはとても辛いから、だからなるべく早く通り過ぎようとしたんだ。

何も見ないように、辛い事を思い出さなくて済むように・・・・・

凛ちゃんは少し、無理をしているのかも知れない。

まだ辛いのに、いつまでも悲しんでいたら周りの人たちが心配してしまうから、迷惑をかけてしまうから。

皆を安心させるために少し無理をして、それでも悲しみはそう簡単に癒えはしないから・・・涙を流す。

それはとても凛ちゃんらしい考え方だと思う。

いつも周りを気にして、自分の事より相手のことを先に考えてしまう、いつも優しい凛ちゃん。

そして悩みや悲しみは自分の中に溜め込んでしまうんだ。

・・・凛ちゃんがそうなったのは、そして今、凛ちゃんの顔から笑顔が消えてしまったのは、

・・・私のせいかもしれなかった。