鍛冶作業記録

割り込み鋼付けに挑戦 2004年8月17日〜24日

 待ちに待った鍛冶作業です。3ヶ月ぶりです。今回は『割り込み鋼付け』を行う事と、『小柄』を造ることがテーマです。家族の理解と協力のもと、1週間の長きに渡り須賀川での鍛冶作業が行えました。
 新調した送風機『SF-50』の威力も試したいし、改修した火床の具合も見たいし、コークス・鋼・地金をたっぷり持って行きました。

 17日の午後1時過ぎに東京を出発して、須賀川には4時に到着しました。すぐに鍛冶場の設営を行いました。

 18日、小柄を2本と。割り込み鋼付けの作業を1本行うことにしました。小柄は本来は玉鋼の無垢の物、全鋼の物ですが、熊公の物は当然地金に鋼を付けた物です。鋼はヤスキ鋼−青紙2号−2×3cmの大きさ、厚さは6mm。地金は幅2.5cm、厚さ12mmの物を使いました。
 割り込みに使う地金は、厚さ20mm角のもの、鋼は同じくヤスキ鋼−青紙2号−で、幅15mm、長さ5cm、厚さは6mmです。

 送風機のスイッチをON、ばっちりの送風量です。『炭の山田』さんのホームページをリンクしたら、山田さんから「オガ炭」というものを1箱頂きました。そこでこれを火種にすることにしましたが、このオガ炭に火が着き難いのです。松炭を3〜4個混ぜてやると良いようです。しっかり熾った所でコークス投入です。バッチリ温度を上げることが出来ました。
 高校野球・アテネオリンピックのラジオ放送を聴きながらの作業です。送風機が実に静かですから、騒音はグラインダーを使うときと、鎚打ちをするときだけになりました。

 
理想の火床になった奥には火の回らない部分を造ることに成功        割り込みに使う鋼の成形の様子         ・

 小柄造りは特別今までの作業と変わったところはありません。鋼が小さい分、鍛接不足が起こることもなく作業が出来ました。ただ、この大きさの鋼を12〜13cmに伸ばすのと、厚さを3mmにする作業はひたすらハンマーを振る以外ないわけです・・・・。
 割り込みの作業ですが、割り込み用のトマホーク状の鏨を持っていませんから、固定鏨(躄鏨)を使って行うことにしました。しかし、無理がありました。切れ込んでくれたのは1cm位、上からハンマーでたたきますから、地金も若干縮むし・・・・。でも、鋼を挟むことは何とか出来ました。(挟んだ状態の写真を取り忘れた・・・・)

 
何とかここまで割り込みました                       鍛造の結果     

 割り込み鋼付けについては、「しか」さんから貴重なアドバイスを頂いていました。鍛接温度は高めにすること、片面だけを叩きすぎないこと・・・・等々。
 鍛接はばっちりと思われる感じに仕上がりました。本日の作業は「焼き鈍し」まで行い終了です。右腕は乳酸がしっかりたまっちゃった状態です。

 19日は成型・焼き入れの作業です。

  
柄を共金仕立てにした小柄                   オーソドックスな小柄

 
割り込みで造ったナイフ、この段階では鍛接不足は見られない

 柄を共金仕立てにした小柄は刃との境部分の加工に少し時間が掛かりました。また、ブレード面が全体的に刃に向けて薄くしてありますから、銘切り鏨を使うとき苦労がありました。
 いよいよ焼き入れです。小柄の方は片刃ですから、地金側に反りが出ます。割り込み鋼付けの場合はまわりを地金が覆っている状態ですから、鋼の冷却時の膨張の力がどのように出るかこれが問題です。

 
左側に若干鍛接不良の面が出ました

 上の写真は初めて造った割り込み鋼付けの作品ですが、左側の面に筋が入るように鍛接不十分の感じの部分が現れましたが、作品には仕上げられるものと思います。
 小柄ですが、オーソドックスな形の物の銘が浅すぎる感じで、焼き入れ後もう一度銘切り鏨で打ってみました。2〜3回叩いても鋼の方には影響がないのでもう少し深くと欲張って強く叩いたら・・・・。ヒビを入れてしまいオジャンとなってしまいました。何でも欲を掻くのは行けないですね、反省!!

 20日も小柄2本と割り込み鋼付けを行いました。小柄はオーソドックスな形の物、前日の失敗がありますから、銘切りだけはしっかりと焼き鈍し後にすることに・・・。
 今日の割り込みに使う地金は厚さ2cm 幅3cmのもの、固定鏨(躄鏨)では深さが足りないことを知りましたから、ディスクグラインダーで切れ込みをいれ、加熱後固定鏨で口を広げることにしました。鋼は青紙2号、前日と同サイズです。

 
ディスクグラインダーで切り込みを入れる           加熱後鏨で口を広げる

 
念のため切り込み部分の酸化皮膜をとる          たっぷり鍛接剤をかける

 割り込みの作業はなんだか日本刀の心金を挟み込むような感じ、こちらは硬軟逆なわけだけど・・・。そこで銃刀法に抵触しない長さの短刀のような感じに造ってみることにしました。いやいやパワーがいります。スプリングハンマーが欲しい〜〜〜!!

 小柄2本、割り込み鋼付け1本の鍛造後、焼き鈍しまでで本日の作業終了です。右手はかなりぱんぱんの状態です。

 21日は成型、焼き入れの作業です。須賀川の伯父のお隣に住む姪っ子さんのご親戚の方がお盆帰省で来られていました。午後からこの方達が作業を見学に来ることになっていましたから、今日はなんだか緊張しました。
 まずは成型です。日本刀のように成型した割り込みの作品、この段階では鍛接不良個所は見られませんでした。

 
これが仕上がったら我が家の守り刀にするつもりでいました (刃渡り14.5cm)

 焼き入れの時に見学者が・・・。焼き入れを見ていただくことになりました。「小柄は片刃だから、軟鉄側に反るんです。」と話して焼き入れ、その通り反りがでるのを見て「へ〜〜〜!!」と、感心してくれました。「割り込みの作品は反りは出ませんが、歪みがどこかにでちゃうと思います。」と、焼き入れをしたら、反りはまったく出ませんでした。早速焼き刃土を落としにかかると、ジャ〜〜〜ン、剥がれが現れました。鋼が暴れたんですね。ガッカリなんて簡単な表現ではすみません。そういえば「しか」さんのメールに、「成形してから気付くと、精神的ダメージによる疲労度が大きい・・・」て有った事思い出しました。身をもって体験させていただきました。

 
現れた鍛接面の剥がれ、鋼にヒビも入ってました

 小柄の方は順調な仕上がりです。

 
佐藤重利さんの作品だと玉鋼無垢だけど12万円もする・・・・ 形だけは小柄です

 ショックを受けながらも約束の鋼付けのデモンストレーションをすることになりました。小柄造りの寸法でまず鋼、地金の説明をして、鍛接剤の説明をして、何でこれがくっついちゃうのかも話しました。そしていよいよデモンストレーションです。しかし、やはりショックを受けていたためでしょうか、中子側の鍛接不良の箇所が出てしまいました。それでも見学してくれた小学生とお父さんは感激してくれました。「夏休みの自由研究になるな!!」と、話されていたので、鋼と地金、そしてデモンストレーションしたものをプレゼントしましたし。これで本日の作業終了です。
 お盆の後の最初の土曜日は須賀川の花火大会です。釈迦堂川の河原で行われるのですが、伯父の家はその会場から500m程の所にあります。ばっちり花火見物が出来るのです。

 
花火師の競演というものがあるのですがこれが素晴らしいです2尺玉が上がります
 今年は3尺玉は上がらなかったようですがこれが上がると家が揺れます

 22日は昨日のダメージをまだ引っ張っている感じ、8時過ぎから始める作業ですがなかなか始められないで居ると、昨日見学しに来た小学生が、「まだ作業しないの? 作業見せてください!!」と、催促されて作業に取りかかりました。
 今日は気分一新すべく、息子達に鏃を造ってやることにしました。鋼は1cm×2.5cm 厚さ6mmのヤスキ鋼−白紙2号−です。1日で焼き入れまで行うことにしました。『征矢』の鏃です。初めて造るわけで試行錯誤しましたが、何とか形になりました。

 
飾って置くのにピッタリという感じ 合戦の時にこれが飛んでくるかと思うと怖さを感じます・・・

 中子を細く長く四角に打っていくのは鎚打ちの勉強になりました。中子の長さは約22cm 全長27.5cmです。槍の形でも刃渡り(穂長)約5cmですから、15cm以下ですので、銃刀法には抵触しないはずですが・・・・。

 23日鍛冶作業は最終日です。割り込み鋼付けに3度目の挑戦です。地金は初日に使った20mm角のもの、最初にグラインダーで切り込みを入れて、前回と同じ要領で作業します。鋼は白紙2号、サイズは1.5cm×7cm 厚さ6mm。また、5月に鍛接だけして置いた黄紙2号の片刃ナイフの鍛造を平行して行います。午前中に鍛造を終え、昼前には焼き鈍しをして午後には成型焼き入れと、1日でこなすちょっとハードな作業です。伯父が先手を勤めてくれますから何とかなるのですが・・・。
 結果です。割り込みの作品は成型時は鍛接不良個所は見られませんでしたが、やはり焼き入れ時に鍛接面の剥がれが出ました。

 
左側にはがれが起きている                    右側は綺麗に仕上がっている

 
    鋼が盛り上がる感じではがれが起きている       鍛接面を引き裂く感じにはがれが起きているのが分かる

 黄紙2号のナイフですが、これが面白い現象が出ました。焼き鈍し後、ちょっと厚さが気に入らないところがあったので、冷鍛をしてその部分を何とか思う状態にしました。これは鋼が黄紙であるからやってみたことですが、その結果長さが1cm程伸びる感じになりました。ちょっと驚きました。鋼にはまったくヒビなどはいることなく、黄紙で有れば焼き鈍されていれば冷たい状態でも伸展性があることを知りました。おそらく白紙・青紙は無理と思います。


峰側から見ています 鋼側に反りが出ています

 焼き入れの結果です。反りが鋼側に現れました。ちょっとビックリです。このようになった原因はおそらく冷鍛のためだと思います。ここで今後の研究課題が浮かび上がってきました。
 残念ながら、焼き入れされた鋼側を伸ばすことは不可能に近いようです。切っ先部分を割ってしまいました。

◆◆◆今後の研究課題◆◆◆

T, 焼き鈍された鋼の組織はパーライトの状態、ストレスが解放されているはずです。その状態で冷鍛によって伸ばされたわけで、組織には伸びのストレスがかかったはずです。焼き入れ時の加熱で、このストレスは解放されようとしたはず、それに水による急冷が行われ、鋼は膨張する。ところが伸びのストレスが解放されたところに膨張が起きたわけだから、その歪みが吸収される・・・。1cm近く伸ばしちゃったわけで、その歪みの吸収は十分出来、まだ余りがあった、その結果反りが鋼側に現れた。これが現在の自分なりの解釈です。今後実験をしてみないと何とも言えませんが、焼き鈍し後冷鍛を行ってやることによって焼き反りを減らしてやることが出来るかも知れません。更にです。割り込み鋼の膨張による鍛接面の剥がれを冷鍛によって防げるかも知れません。最終日に今後の研究課題が現れたこと、とても嬉しいです。

U,割り込みの作品、2本目は両側に剥がれが起きましたが、1本目と2本目は左側です。これは鍛接時にハンマーで叩かれる面側、金床側には剥がれが無い(少ない)のは鍛接時に素早くひっくり返して両面を叩いてやる必要があった事をあらわしているような気がします。鍛接にも状況があるようです。充分に地金と一体化されていれば剥がれは起きなかったと考えられます。その時は鋼が割れるのかな?

 この2つは次回の鍛冶作業で追求してみるつもりです。ここまで読んでくださったみなさんの中で、この辺の知識をお持ちの方いらっしゃいましたら、是非メールを下さい。ご指導・ご意見を頂けると幸いです。

 最後に改修された火床の状況ですが、火玉の出来方は予定通り、送風機SF−50は予定通りの力を発揮してくれました。奥に敷いた鉄板は丁度良い火玉の広がりの調節になりました。また、ロストルも平面を上にすることで作業がしやすかったです。1週間使い続けたロストルには何の変化も見られませんでした。

 
1週間使った火床の状態 ロストルは変化無し レンガ面にコークスによる付着物が多く見られるようになる

 24日は撤収作業。そして作品の荒砥ぎをして、午後3時半に須賀川を出発し、伯母の墓参りをしてから帰路につきました。伯母が亡くなってから50日目、新盆が終わり20日に仏壇の中に入りました。作業している場所を丁度見守ってくれる場所になります。伯母がすぐそばにいてくれるような感覚で作業しました。23日に得た今後の研究課題も、伯母がくれた感じを受けました。
 10本の作品を造るのにコークスは40kg使いました。1本4kgの見当ですね・・・・。
 1週間の長期の鍛冶作業を許可してくれた家族に感謝!! 鍛冶作業を受け入れてくださった須賀川の伯父に感謝!! より一層修行を積み、良い作品を造っていきたいと思っています。
 次の作業は12月、4ヶ月もある!! 待ち遠しいな〜〜〜!! 近くに工房が持ちたいです。
(2004.08.25.)





トップへ
戻る
前へ
次へ

鍛冶屋の部屋入り口

酔鍛磨庵日誌

熊公の独り言  熊公アニメの部屋  好きな所入り口

高山植物のページ 菊谷さんのMIDIの部屋 リンクのページ  お便りのページ