いつもは自宅に籠もるゴールデンウィークですが、今年は仕事の関係で作業できるのが8月と12月になってしまいそうなので、渋滞覚悟で鍛冶作業に出かけました。2日(日)が出勤で、6日(木)が代休になったので、上手くすれば渋滞に遭わないかも・・・。と、2日の夜に須賀川に行きました。いつもよりも空いているくらいの東北道に驚きながら須賀川に入りました。この日(5月2日)は、須賀川の伯父の卒寿のお祝い日、前回の作業で作ったナイフをプレゼントに持っていき、喜んでもらいました。
さて、今回の作業のポイントは、
@ コークスを使用した作業。
A 前回の作業で考えた作業計画で動く。
1日目に設営後、鍛接を必要な分行う。
2日目には鍛造、焼き鈍しを行う。
3日目には成形、焼き入れ、焼き戻し、荒砥ぎを行う。
4日目(最終日)は予備の時間として、撤収をメインにする。
B カイサキを綺麗に仕上げる。
と言ったことです。
前回の作業で、自作した厚さ3mmの鉄板のロストルがボロボロに成ってしまいましたから、まずはロストルをどうするか、ネットで見つけました。熊公の火床にピッタリのものを。『炭の山田』という会社の鋳鉄製のロストル棒です。これ5本で、左右に3mmずつの隙間が出る状態。早速購入しました。1本の値段は420円です。
下の紙は自作ロストルの設計図、見事に同サイズ 中央部が蒲鉾型に高くなっている(断面は台形)
写真を見てお分かりの通り、蒲鉾型に中央部分が高くなり、断面は台形で、ピッタリ合わせた状態でパチンコ玉が下から3分の1位の所で引っかかる感じのものです。此ならば10回以上の作業に耐えるでしょうし、購入も簡単です。
『炭の山田』のURLはhttp://www2u.biglobe.ne.jp/~sumiya/index.htmlです。
次に、コークスの購入。ネットで2ヶ所見つけました。1つは陶芸を中心にした感じのホームページ、もう一つは燃料店のものでした。両方とも1袋20kg。前者は3780円、後者は2400円でした。両方から取り寄せてみて様子を見てみることにしました。
コークスには2種類有ることご存じでしたか? 石炭コークスとピッチコークスというもの。石炭コークスはお馴染みですよね。ピッチコークスというものは、石油の精製の時に出る残りかすを蒸し焼きにしたものだそうで、燃焼後はほとんど灰が出ないそうで、高温が出せるものだそうです。ただし、値段も25kgで6300円と高いのです。
渋谷燃料氷店で購入したコークス(小塊) 材料屋.comで購入したコークス
並べてみると違いが分かります
左:渋谷燃料氷店 右:材料屋.com
鍛冶作業には渋谷燃料氷店のものの方が良い感じです。値段も安いですからね。このお店は電話・FAXでの注文になります。
渋谷燃料氷店の電話:042−723−5746 FAX:042−723−6226
さて、前置きが長くなりました。ロストルにコークス40kgを持って須賀川に行きました。準備したロストルがどんな燃焼を呼ぶのか、中央部が高くなっていることがどんな影響を生み出すか、楽しみでした。
火床にロストルをセットした状態
下に前回まで使用した鉄板ロストルを敷き、奥まで火玉が広がるのを防ぐが・・・
ロストルの隙間が手前から奥まで有りますから、火床全体に火玉が広がってしまいます。
これは焼き入れ時に問題が出てきます。 右の火かき棒はロストルの隙間をかくもの。
改修した火床はコークス使用が可能になりました。しかし、ロストルの隙間は手前から奥までのびていますから、更に、今まで前後に2つの気室を作っていたものを、1つにしたこともあり、空気が漏れて、火玉が火床全体に広がってしまいます。これでは鍛接・鍛造時は良いものの、焼き入れ時に切っ先部分をオーバーヒットしないように加減するスペースが無いことになってしまいます。下に鉄板を敷いても、これまでの10cmほどの遮蔽では役に立たない状態であることが分かりました。
1日目、必要量の鍛接を行う事を目標にしていますから、鍛冶場の設営後鍛接に取りかかり、7本鍛接し、カイサキ取りまで行いました。
今回の作業に使う鋼はヤスキ鋼の『白紙2号』です。鋼のサイズは巾25mm・厚さ6mm 長さを5cmにした物を4本、7cmにした物を2本。更に『黄紙2号』(これはもともと16mm角の角棒)巾25mm・厚さ6mm・長さ10cmに成形した物1本鍛接しました。
コークスは火力が強いので鍛接は松炭よりも楽に出来た感じです。また、火持ちが良いので炭くべの回数が少なくて済むので楽でした。しかし、火力が衰えるのが一気という感じ、炎が小さくなり出したら補給してやらないといっきに消えてしまいます。送風を止めてもすぐに消えてしまいそうです。
それから、出る灰の量は松炭の10倍以上と言った感じです。防塵マスクを付けて作業した方がよいですね。でも、朝の炭切りから解放されたのは時間の余裕が出るのは確かです。
鍛接を終了したもの 右端が黄紙2号 新しく購入したヤットコ(長さ45cm) 平口と箱形
平口 箱形 口先のサイズは8分(25mm)
鋼製ですからグリップ力抜群
前回の作業で口先を割ってしまった箱形のヤットコを新潟三条の小由製作所につくってもらいました。鋼製ですからグリップ力があります。使い勝手の良いヤットコだと思います。値段が安いです。平口のものが2000円・箱形のものが3000円です。
小由製作所(コヨシセイサクショ)
〒955-0851 新潟県 三条市 西四日町1−4−20 電話・FAX 0256−32−4198
2日目、鍛造作業です。まずは火床の奥の方に火玉を広げない工夫です。レンガ片を入れることでなんとかクリアーしました。
レンガ片を入れて様子を見る
上下に見える鉄片はロストルのがたつきを取るためのもの
朝から3時頃まで、伯父に先手を勤めてもらって鍛造作業。新年度早々に右ひじを痛めてしまったので、ハンマーが思うように振れず歯がゆさを覚えました。1人で有れば2本位しか鍛造できなかったと思いますが、今回は黄紙のものをのぞく6本を鍛造することが出来ました。先手の力は大きいです。伯父に感謝です。
3時過ぎから『馴らし打ち』の作業をして、夕刻に『焼き鈍し』をしました。
焼き鈍しを終えたもの
左から3本目は柄を共金仕立てにする予定でしたが、
目測を誤って地金を切断してしまい、結局中子仕立てにしました。
今回の作品のカイサキの状態ですが、90点くらいの物2本。80点が2本。60点1本。50点1本。と言ったところです。前回考えた鍛接時に打つ方向を変えるのは何となく効果が有った感じです。
コークスは火力が強く、火持ちが良いので、鍛造には適していると思います。ただし、焼き肌が松炭とは違って、何かタールのようなものが付着した感じに成ります。焼き入れ時には松炭を使用する鍛冶屋さんが多いのはこの辺を考えてのことかと思いました。熊公もそれに習って、翌日の焼き入れには今まで通り松炭を使用することにしました。
コークスの使用はここまで、7本の鍛接(鍛接用に鋼を成形したり、地金の反りを取ったりする作業も含め)、6本の鍛造に使ったコークスの量は25kg弱位だと思います。小粒のコークスの方が鍛冶作業には向いていると思います。でも、火持ちは少し大きめの方がよいようです。ですから、必要に応じて大粒のコークスも混ぜてやったりすると良いかも知れません。
それにしても、コークスの灰は多いです。そして『水打ち』をするときにはねる水(湯)は汚いです。作業着が黒い水玉模様に成ってしまいました。
3日目、まずは成形です。いつものように、柄共金仕立ての物は焼きっぱなしのワイルドな物に、中子仕立ての物は鎚目を入れる作業をしました。そして、夕刻から焼き入れ。そして焼き戻し。やはり緊張します。
成形を終え、焼き入れを待つ今回の作品6本
今回の焼き入れでも、以前のような焼き反りが出ることは殆どありませんでした。反り取りは緊張しますが、結構楽に反りを取り除くことが出来たこと嬉しく思いました。
焼き反り取りで時間切れとなりました。荒砥ぎは最終日回しとなりました。一気に6本を仕上げていくのは欲張りでした。4本が良いところです。次回の作業は4日で4本のペースで行こうと思います。
焼き入れの松炭の使用量ですが、まず十能5杯分くらいで火を熾し、1本目はこれで焼き入れ、次からは3杯入れて焼き入れすると丁度良いことを知りました。
4日目最終日、まずは反り取りの再確認。そして、ディスクグラインダーに取り付ける神沢鉄工株式会社の簡易サンダーを使って荒砥ぎをします。素手で温度が上がりすぎないように確認して、時々ビショビショに濡らしたタオルで温度を下げながら作業をします。荒砥ぎ自体は東京でも出来る作業ですから、慌てずに・・・・。鍛冶場撤収も殆ど済ませておいて、作業をします。
グラインダー掛けの手順 (熊公の採っている方法の紹介)
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@ 刃先の厚さが0.5mm位に成るように削る
こうすることで、刃の付かないところや付きすぎ
る部分を無くすようにします。
切っ先の手前のアールの付く部分は刃が付き
やすく、意外に切っ先部分は刃がつかないもの
ですから、その辺を注意して作業します。 |
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A 鎬のラインを決め刃の面全体を削り落とす
焼き入れ前の成形で鎬のラインは大体決定し
てありますからそれをしっかりと決め、@で決め
た刃線まで面を作っていきます。
ビショビショに濡れたタオルで熱を取りながら作
業します。サンダーの方向を変えるとヤスリ目が
変わりますから、これを使いながら、削っている
部分を確認しつつ作業します。
写真の刃の部分の白くなっているところが無く
なれば刃の厚さは0.5mmに整ったことになりま
す。 |
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B 刃が付く所まで全体の面を削る
Aで刃の厚さが0.5mmほどに揃ったら、もう一
度@の作業を行い、刃が付く状態にしてAと同じ
ように作業していきます。とにかく『青焼け』が起
きやすいですから、頻繁に熱取り作業をしていき
ます。
次の砥石掛けが楽になるように、平面をしっか
り作り、刃の付きやすい部分に充分注意しながら
作業を進めます。
この作業が済んだら、裏面をディスクグライン
ダーの紙ヤスリタイプのディスク#240〜400番
の物で面を整え、鎚目を付けた鎬部分と、裏面
にパフ掛けをして、防錆材を塗り砥石掛けに移り
ます。
此処まで来れば仕上がりまで後わずかです。 |
熊公は最近、大型のベルトサンダーよりもこの簡易サンダーの方が刃の面を確認しながら削れるので良いのではないかと思い始めています。ただし、このベルトサンダーの研磨面の長さは6.5cm・巾15mmほどで、此処に滑りをよくするためのカーボンパットを張り付けるのですが、しばらく使っているとこのパットに窪みが付き、その結果刃の面が蛤刃の様に凸面が強くなり、仕上げの研ぎを掛けるときに結構苦労してしまいます。そこで、今回はこのカーボンパットの替わりに鉄片を付けてみました。当然、受ける面はいつも平らですから刃付けが楽になりました。1本を仕上げるのには30分ほどでしょうか・・・・。
カーボンパットの滑りの良さは鉄片にはありませんから、ベルトの消耗は早い感じです。ベルト1本でナイフ2本というところかな?ベルト2本でナイフ3本かな? ベルト1本はおよそ300円、ナイフ1本につき150円〜200円位掛かることになりますね。もう少し安いか、長持ちしてくれればよいのですが・・・・・。
荒砥ぎは3本終えて、4本目の途中で帰宅時刻になりました。後は帰宅してからの宿題です。
2日間コークスを使用した火床とロストルの様子
今回はほぼ計画通りに作業を進めることが出来ました。コークスの使い勝手も分かりましたし、ロストルも問題なく使えました。なぜ中央部が高くなっているのかは使ってみても良く分かりませんでしたが、特別困ることもありませんでした。火床の奥に火玉が行かないための工夫をしなくては成りませんが・・・・。
コークスの出す温度はかなり高いのですね、上の写真でも分かると思いますが、耐火煉瓦に熔けた物が付着しています。これがレンガなのか、コークスの何かなのかは分かりませんが・・・・。耐火モルタルの耐熱温度は1200度。モルタル部分のダメージは大きめですが、今すぐ火床が壊れてしまうようなことは考えられませんから、そのまま使い続けるつもりでいます。ロストル部の酸化は思ったより少な目でした。
今回も充実した作業でした。大満足(^_^)v 次回の作業は8月でしょう。ここでは少し長目に作業を計画しようと思っています。そして、その次の作業は12月です。間があいちゃうな〜〜〜〜!! 近くに工房を持てたら良いな!!
(2004.05.06.)
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