鍛冶作業記録

新生鍛冶作業 第二段  2003年12月21日〜24日

 12月21日から24日まで、貯めた2日間の代休を使って、2003年の最後の鍛冶作業をしてきました。東京を出発したのは20日の午後6時、通常で有れば3時間で須賀川に着くところ、この日は冬型の気圧配置が強まり、関東地方は強風と北部では降雪があり、東北道に入ったところで宇都宮IC以北が通行止めということを知りましたし。事前に知っていれば常磐道経由でコース取りした物を・・・。氏家の国道4号線に出るまで1時間半、ここから須賀川まで4時間も・・・、何と7時間も掛かって須賀川到着は午前1時過ぎでした。高速を含めて雪道を150km運転したことになりますが、ヘロヘロ状態で須賀川に到着しました。

 
  須賀川の伯父の家の鍛冶場になる庭 雪だらけ・・・    裏すきを作るための金床 作るのに鉄粉が沢山出ました

 翌21日、気持ちよく晴れていましたが、雪の積もった中で鍛冶作業場の設営、2時間も掛かりました。寒いこと限りなし・・・。
 最初の作業はお世話になっている工場の社長さんから頂いた鉄のかたまりを「裏すき」を作るための金床に仕上げる作業です。立方体のかたまりですから、アールを付けるのに沢山の鉄粉を飛ばしました。
 午後から鍛冶作業に入り、まず1本整形前の状態まで仕上げました。『裏すき用の金床』は、前回加工した、いつも使っている金床にアールを付けた物よりも遙かに使いやすく、『馴らし打ち』の段階ではこれを使うことにしました。

 22日は午前中に炭切りと藁灰の補充、前日に作った物の整形を行い、午後から2本目の制作に取りかかりました。前日に鍛造作業を見ていた伯父が先手を買って出てくれました。この伯父、来年で90歳、硬式テニスを日課としてテニスクラブに通っています。福島県下のテニスプレーヤーでは最高齢とか・・・。「足は衰えているが、腕にはまだ余裕があるからな!!」と、先手を申し出てくれました。
 でも、『向こ鎚』を打つには呼吸が合うことと、こちらが打ってもらいたい部分を的確に打ってもらう必要があります。呼吸はずっとお世話になっていますし合うと思いましたが、打つ場所、打ち方が心配でした・・・・。
 ベルトハンマーを持たない身からしては『向こ鎚』があるということは実に素晴らしいことです。やっていただくことにして作業開始。呼吸はピッタリでした。でも、打つ場所、打ち方はやっぱりこちらの意図するところとはちょっぴり違って、鎚の角が痕として残ってしまう状態です。ですからイメージする80%まで打ってもらい、後は1人で修正するようにして作業をしました。
 2人で鍛造するということはやはりすごい能率です。使用する炭の量は予想していたほぼ半分、時間も半分です。伯父も鍛冶作業に興味を持ってくれて、嬉しいこと限りなし・・・・!! 「鎚を振るうくらいはお安い御用だな、これからもやってあげよう!! 結構楽しかったよ!!」と、嬉しいお言葉、これから作業が楽になります。

 夕刻、前日に作った物の焼き入れ作業をしました。気温は0度か、それ以下の状態です。研ぎの作業を考えて刃側をかなり薄めにして焼き入れをしました。焼き入れ温度はかなり納得できる状態で焼き入れ水に・・・。取り出してちょっとたつと、『ピン』という音が・・・。あれ何の音だ?ひょっとして・・・・。と思っていると、またまた『ピン』という音、あれあれ?と思いつつ、焼き刃土を落とすために冷たい水道水で洗うとまたまた『ピン』・・・・。やっぱりこれは・・・・。
 裏すき部分の酸化膜を剥がした後、明るい部屋に持っていくと、三ヶ所に、ヒビが入っていました。全くガッカリです。
 ヒビが入った部分を観察してみると、二ヶ所はあきらかに地金が刃側に他の部分より入り込んだ状態の部分、もう一つのヒビは特別何も変わったところがない部分で、此処が一番大きくヒビが入っていました。


ヒビの入った部分 (マジックで印を付ける)

 考えられる原因は、
  1,研ぎを掛けるときの手間を考えて刃側を薄くしすぎたこと、鋼部分が出るくらいまで削り込んだ事  
   で、地金と鋼の膨張率に違いが出過ぎた事。
  2,気温(アウトドアー鍛冶ですから外気温がそのまま焼き入れ時の気温になる)が低く、そのために鋼
   内のストレが発散しきれずにヒビとなった事。
  3,全く自分の作業、特に温度管理が悪かったため・・・。
 これは今後の経験からしか原因は分からない事かもしれません。でも、思えば、馴らし打ちの段階での毎回の自然冷却の時、焼き反りがかなり出ました。秋田で教わったことから考えてみると、鍛造時の温度管理に問題があったのかな?自分の作業の未熟さがなせる失敗の線が強いですね・・・。
 21日は会津方面の山から吹き下ろしてくるメチャクチャ冷たい風の中の作業でしたから、知らないうちに温度が下がり過ぎたりしたのかもしれません。作業場の遮光シートの中には火鉢をおいて暖をとりながら作業したのですが・・・・。アウトドアー鍛冶には寒気が一番の敵かもしれません。

 今回の作業は、青紙2号を7cm使って、刃渡り14cm程の物を作る事でした。そして、前回カイサキ(貝先)部分が汚く仕上がったことを直すことが最大の課題でした。3本とも、上側に出るカイサキ部分はかなり満足な物に仕上がりました。(前ページの仕上がりの写真と下に示す写真と比べて見てください。)

 
鋼(上に載っている物)を左のような形にして鍛接すると、鍛接終了時には右の写真のようになる

 
カイサキ取りをした状態                       鍛造終了時の状態

 上の写真でも分かるように、峰側になる鋼の上端はもう少し刃側と平行に長めに台形にした方が仕上がったカイサキにメリハリが出るようです。この写真の物は、峰側にダラーッと長く地金部分が現れて、ちょっと格好悪いですね。
 また、中子側に鍛接不良部分が出てしまいました。これは鍛接温度のムラと、延ばしたいが故に力一杯叩いてしまって、鍛接最初の段階の接着不十分なときに力が加わって剥がれてしまったためと思われます。これは次回の課題になります。


カイサキ部分が綺麗に出来た2本目のナイフ
(上の工程を示した写真ナイフの荒砥段階のもの)

 素材の寸法ですが、鋼は青紙2号で幅25mm・厚さ5mm・長さ70mm、地金は岡安鋼材のFKU幅25mm・厚さ9mmです。これで刃渡り13〜14cm、刃幅30mm、峰の厚さ3mm程のナイフが出来ます。

 23日も同じ寸法で作業しましたが、結果は中子側に鍛接不足の部分が現れました。次回の作業ではここを重点目標に作業をするつもりです。

 今回は出発時の通行止めから始まってアクシデントだらけ、幸光さんから頂いた送風機が壊れてしまい、最終日はこの春までのようにブロアーを送風機代わりに・・・・。もう一つはディスクグラインダーのディスク交換時のストッパーボタンが素材に当たった拍子に破損・・・。よりによってよくもあんな小さいボタンに当たったものです。とにかく踏んだり蹴ったりの状態でした。送風機は新しい物を購入した方が良さそうです。ストッパーは何とか自分で修理をして使えるようにしたいと思っています。

 ちょうど1年前『火床』を新しく作って作業をしました。あれからずいぶん作業の内容が変わりました。そして、この夏は秋田に鍛冶修行にいき、鍛冶作業のスタイルが自己流から一つの規範を持った作業に変わり、今回はその2回目。できあがる作品もかなり納得できる物になってきました。失敗の原因も何となくあそこが悪かったのでは・・・・?と、考えられるようになったことは今年の一番の収穫のような気がします。
 来年、2004年の鍛冶作業はどんな作品が出来るかな? 鍛冶作業を終えて帰ったばかりですが、今から次の作業にワクワクした物を感じています。まずは送風機を手に入れなければ・・・・。

 皆さん、どうぞよいお年をお迎えください!!
(2003.12.25.)





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