鍛冶作業記録

センの制作 裏すきに成功!!  2003年6月6日〜8日

 今回はセンの制作とそれを使ってみることを第一の目的に鍛冶作業を行いました。
 熊公の鍛冶屋のテキスト「鍛冶屋の教え」やネット上の鍛冶作業のページでセンにはお目に掛かっていましたが、実際に使ってみることはありませんでした。現在の課題の一つに、片刃ナイフの「裏すき」が有ります。グラインダーですいても綺麗に仕上がることは少なく、どうした物か考えていました。センを使って裏すきをすることは知ってはいましたが、お世話になっている工場の社長さんは、大きな回転砥石ですくと良いのでは?と、言われました。確かに、ビデオ学習した限りでは、センを使っていたのは一人だけでした。しかし、大型回転砥石を購入することは出来ませんし、昔ながらの「セン」「セン掛け台」を作ることにしました。ここで大きなアドバイスを下さったのは、掲示板の常連さん、「しかさん」です。ご自分が使われている「セン」の写真や、作るときのポイントを寄せてくださいました。本当に助かりました。実物のセンは、岡安鋼材さんの展示品に有りますから、ここでしっかりと眺め、触って、参考にしました。

 
自作したセン掛け台                     センの刃の部分の拡大

 
今回作ったセン                        しかさんのセン

 とにかく、しかさんの真似っ子です。センの材質は「SKS−3」、青紙クラスの物ですから焼きを硬くすれば大丈夫と考えました。
 今回の作業では、黄紙2号を使って「片刃の剣鉈」を作りました。この裏すきを実際にセンでやってみました。センは「削る」と言うより鋼を「切る」と言った表現の方がピッタリでした。
 火造りの段階で裏面を鎚で凹に仕上げ、荒削りの段階でディスクグラインダーで、軽く浚います。そしていよいよセンの出番、グググッと手応えがあり、少しずつ少しずつ削れ(切れ)て行きました。指で触って少し出っ張っているな!と思うところを軽く切ってやると、滑らかになりました。デリケートな作業はやはり手作業ですね!!これからはセンとセン掛け台は手放せません。

 
実際にセンを掛ける  白いツブツブが切れた鋼の屑                裏すきを終えた剣鉈        ・

 今回の作業のもう一つは、藁灰を作り、「焼き鈍し」を行うこと。前回3月の作業では60リットルの藁を用意して、出来たのは5.5リットルにしかなりませんでした。今回は、伯父の知り合いから藁を頂くことが出来て、12リットル位になりました。
 SKS−3の鋼は火造りからあげた状態の空冷しただけでドリルの歯が立たなくて苦労したのです。これは「焼き鈍し不足」であることを「しかさん」がご指摘下さり、藁灰を作り実験してみました。12時間藁灰の中で寝かせたSKS−3は、ちゃんとドリルが通りました。これも大成功です。
 ここで、もう一つ確認したことで、SKS−3は空冷状態では焼きが入ってしまう。それに対して黄紙2号は空冷で充分にセンやドリルが使えると言うことです。鍛冶作業を始めた当初使っていたのはSK−3でした。これは黄紙2号クラスの物でした。(本ページの2002年10月〜11月の「鋼の研究」に掲載) SKS−3とつきあい始めて1年が立ちますが、この使い勝手の違いを認識するまでに随分と時間が掛かってしまいました。

 今回の作業では2本のナイフを作りました。1本は前述の黄紙2号を使った「片刃の剣鉈」、もう1本はSKS−3を使った「両刃の刀子」です。後者は焼き鈍し実験に使いましたが、焼き入れ後歪み取りで刃割れを起こしてしまいました。ガックリです!!
 この歪みは考えるに、左右の地金の厚さが均等でなかった為に起こったのだと考えています。厚さは2mmです。粗研ぎしたときに、鋼の出方が左右対称にならなかったのです。地金は3mmの物をUの字型に曲げた物に鋼を挟みましたから、本来は対称になるはずなのですが・・・・。カナトコに接する側の方が叩かれる側より延びる感じを受けていますから、作業中の鎚打ちに偏りがあったために起こった物かも知れません。でも、鎚打ちで歪めば当然修整するために反対を打つわけですし・・・。グラインダー掛けもセンターは揃えたはずなんですが・・・。火床の火が暴れていたのかな? これは研究課題となりました。
 鍛接は2本ともバッチリ、新火床の使い勝手の良さと、岡安鋼材の社長さんからのアドバイス、鉄ロウの三者がピッタリと鋼と地金をくっつけてくれています。
 最後に、片刃剣鉈の制作過程をお知らせします。

 黄紙2号は16mm角の角棒状態、まずこれを適当な大きさに打ち伸ばす作業から始めます。30cm程のものに仕上げることを考えて、鋼は厚さ5mm・幅2cm・長さ11cmに打ち伸ばしました。鍛冶屋さんでは片刃の物を作るときに鋼を写真@の様に加工することを知りましたので、その通りにしてみました。この鋼の加工(打ち伸ばし〜成形)に40分使いました。
 地金は厚さ9mm・幅2.5cm・長さ14cmです。今回は地金の方が体積的に1.6倍ほど多い計算になります。
 鋼をどうしてこのような形にするのかは良く分かりませんが、地金部分に馴染むようにくっついてくれるメリットがあるような気がします。でも、そうだとすると、どうして切っ先に向かって、峰側部分の鋼を厚くするのでしょうか? 何方かこの事を知って居られる方ご一報下さい。

@                            A
 
鋼と地金をあわせてみる                   地金に鍛接剤を蒔く

B                           C
 
赤めた鋼で鍛接剤をサンドイッチに            1回目の鍛接ほぼくっついた状態
                                   最初の鎚打ちで「バン!」と、ノロが飛び散ります。

D                           E
 
鍛接終了加熱したときも均等に赤くなるここからは成形を始める      切っ先部の成形 写真下側が刃になる部分   

F                          G
 
      切っ先を成形し終える                    中子部分の成形 鏨で切れ込みを入れる

H                          I
 
中子部分の成形を終える                刃の部分を成形するために湾曲させる

J                           K
 
 刃の部分の鎚打ち終了 湾曲も元に戻る                   荒削りをした状態         

 出来上がった剣鉈の長さは30cmです。刃厚は3mm 刃の幅は3.2cm 刃渡りは19cmです。中子部分は使おうと思っている鹿角の関係で1cmカットしました。
 1本は刃割れを起こしガックリですが、センを作ることが出来たこと、焼き鈍しの事を確認したこと、鋼の種類による勝手の違いを知ったこと、そして、待望の剣鉈を綺麗な裏すきを入れて作れたこと、充実した鍛冶作業が出来ました。騒音のでないセン掛けの作業の時には、遠く近くにカッコウの鳴き声を聞き、庭にセキレイが飛んできて餌をついばんでいました。何とのどかな、何とすてきな時間だったでしょうか。アウトドアー鍛冶の醍醐味を味わうことが出来ました。鍛冶作業は本当に楽しいです。
 次回の作業は8月になります。次はどんな作業をしようかな!?
(2003.06.08.)





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