今回も次の作業に向けて、デスクワークです。『鋼のおはなし』 大和久重雄著 (日本規格協会)の内容を自分なりに理解するために整理してみました。
鉄の組織には『オーステナイト』『パーライト』『マルテンサイト』『フェライト』『トールスタイト』『ソルバイト』『セメンタイト』『ベイナイト』の8種類の組織があるそうです。
この中で、最後の『ベイナイト』は、オーステンパという特別な焼き入れをすることによって得られる組織ですから、熊公のような鍛冶作業には関係がない物のようです。
『フェライト』は純鉄のこと。
『セメンタイト』はFeとCの化合物、Fe3Cのことです。
発見者の名前に由来するそうで、『○○○イト』と呼ばれるそうです。
まずは、鋼の温度による組織の変化です。下の図は自分なりに考えた温度による鋼の組織変化です。これが正しいかどうかははなはだ疑問ですが、『鋼のおはなし』を読んだ中で、自分なりに図化した物です。誤りがあったらご指摘いただきたいと思います。
鋼は上図に示したように温度によって組織を変化させます。鍛冶作業をするときにどの辺の組織を相手にしているかを知っておくことが大切と考えています。
次に、自分なりに考えている作業の経過と、組織の変化を図にしてみました。
自分の作業を少し科学的に眺めてみると、なるほどと思うところがあります。これがお役に立てば幸いです。また、記述に誤りがありましたらお知らせいただけると幸いです。
『鋼のおはなし』の中には、『焼き割れ』についての記述が有りました。参考までに載せておきたいと思います。
『焼き割れ』は急冷によって起こると考えるのは誤りであると言うことが書かれていました。焼きが入るときに割れるのだそうです。鋼が焼きが入るのはMs点(約250度)で、この温度以下で『焼き割れ』が起こるそうです。その為、Ms点までは早く冷却し、Ms点以下をゆっくり冷却することで焼き割れを防ぐことが出来る。と書かれてありました。こうすることで、「割れず硬く」焼きを入れることが出来るそうです。
その意味で、『焼き刃土』は重要なポイントのようです。「鍛冶屋の教え」では、爆発的に蒸発する空気の振動によって割れると書かれてあったと思いますが、硬くなった鋼がそう言った振動にさらされることで割れが起こるのかも知れませんね。
『焼き曲がり』は、加熱と冷却が均一に行われない時に起こること、オーステナイト状態の組織を急冷することで、マルテンサイト組織になりますが、炭素を吐き出しきれない状態で組織を固定してしまうために、鋼が膨張する事によって起こる事です。これは「焼き戻し」の作業によって、ストレスをとり、トールスタイトの組織を作ることで、粘りを持たせ、修整に鎚打ちすることが必要になるわけです。
この他にも『ストレス』についての記述があります。鋼にとって引っ張る力のストレスは悪玉で、圧縮の力は善玉だそうで、圧縮によるストレスは硬さを増すそうです。ストレスの解放は、450度以上に加熱すると100%解放され、200度で約50%、100度で約25%のストレスが解放されるそうです。『焼き戻し』の作業はこの事柄をやっているわけですね。
こうやってみていくと、鋼は生き物ですね。調べれば調べるほど鋼の奥深さに感心し、経験でこれを扱ってきた鍛冶職人達の知恵と努力に脱帽します。温度以外にも含まれている成分によっても硬さや温度の管理が違うわけで、まだまだ先は闇の中です。
なんだか分かった風に書いていますが、その実、熊公はいつも暗中模索状態です。ただ、この作業はこういう組織にしているのだ、と分かっているのと、そうでないのでは、作業の取り組み方が違ってきますよね・・・・。
現在、鍛冶作業の友「しかさん」からのアドバイスで、裏すき用の「セン」と「セン掛け台」を制作しています。次回はこれを報告することになると思います。「しかさん」からはご自分の使われている「セン」・「セン掛け台」のお写真を送っていただき、刃の角度や硬度など詳しくお知らせいただき、本当に感謝しております。
道具を作ったら、今度はその使い方になれる必要があります。頑張らねば・・・・。
今日は、岡安鋼材さんに「黄紙2号」と「ハンドル材」を購入しに行きました。その時に、展示されている「セン」をじっくりと眺めてきました。また、社長さんともお話しすることが出来て、鍛接のアドバイスのお礼を言うとともに、またまた新しいアドバイスを頂きました。感謝です。
熊公のホームページを見ていただき、掲示板に書き込みしていただいている皆様やメールを頂いている方々によって、熊公の鍛冶作業は支えられています。これからもどうぞ宜しくお願いいたします。
(2003.05.24.)
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