東京地方裁判所 その10

懲戒解雇事由の不存在

プリント作業(補足)

  1. コニカは、Tが、過去にも7N3を使用してプリント作業を行ったことがあるから、今回も同じであると主張している。
  2. しかし、過去の作業では、1種類のフィルムを10駒プリントするのに約1日を要していた(乙14)が、本件作業は、15種類のフィルムを約500駒プリントせねばならず、そのフィルムも極端なスロープネガ(同一シーンを段階的に露光を変化させたフィルム)ばかりであり(N課長調書)、明らかに過去の業務とは作業量が大幅に異なる
  3. 過去の7N3の作業でも、Tは、濃度のみを変化させてプリントしていたのであり(甲15)、この時も不良プリントは発生していたが、過去の作業における不良プリントの発生は何ら問題としていないことからも、本件プリント作業における不良プリントの発生を懲罰事由としているのは、付随的に後に付加的に挙げられたものに過ぎないことを物語るものである。
  4. W部長は、保証人であるという理由で、Tの身内に手紙を送ったが、それは本件プリント作業のわずか2ヶ月後であるのに、問題としているのは労基署への申告や組合活動ばかりであり、プリント作業で損害を被ったとしながらこのことは何ら問題としていない(甲13の1)ことからも、当時、このプリント作業が問題とされていなかったことは明らかである。
  5. 本件作業は、決して不良プリントの発生が絶無であれという作業ではなかった。習熟した人でも相当量の不良プリントが発生する(N課長調書)のであり、7N3に習熟していなかった(争いがない)Tが、不良プリントを発生させたのは無理からぬことである。
  6. コニカは、カセットテープにプリントレベル出しのデータが入っていたと主張するが、Tは、7N3を管理する商品評価研究室の社員からカセットテープを借りて読み込ませている(甲8)。
  7. Tがカセットテープを借りた(乙36)ことは争いがない
  8. カセットテープのデータが間違っている場合があること(A係長調書)にも争いがない。
  9. プリントレベルが出ていなければ色がずれる(A係長調書)のであり、換言すれば、プリントレベルが出ていれば色はずれないのである
  10. 従って、Tが色を変化させずにプリントしたことは従来の方法と同じであり、見本(必ずしも基準ではない)とならないほど色がずれていたとすると、プリントレベルが出ていなかったということで、Tの責に帰すものでもなければ故意もない。
  11. Tは、プリントレベルが出ていない7N3で色変化させながらプリントした経験は一度もない(甲15)し、プリントレベルが出ている場合は、従来より、色変化させずに濃度のみを変化させていた(甲8)。
  12. 付言すると、仮に色変化させる場合があったとしても、まずは色変化させずにプリントし、その仕上がりを確認するのは第一段階である。
  13. 根本的なプリントレベルの出し方は、(甲14)の通りであり、非常に時間が掛かる。Tが、(甲14)の作業を行ったことがなければ、このような記述は出来ない筈である。コニカも、正しく理解している(乙39)と述べている。
  14. コニカは、H係長に相談すべきであると主張しているが、Tは、上司であり直接の業務指示者であるA係長と連絡を取っていたことは争いがない。同係長によれば1回(A係長調書)だが、Tは(甲15)で詳細に述べている。
  15. コニカは、本件作業を極めて重大なものと主張しているが、仮に重大な業務であったならば、Tの作業進捗をA係長が確認しないのは極めて不自然である。
  16. コニカは、実損害は不良プリントだ(H人事課長調書)と述べているが、賃金の後払い的性格である退職金債権を喪失させる懲戒解雇とは、その金額においても、明らかに比較均衡が保たれていない。
  17. 上記の通り、Tが故意に不良プリントを発生させたという事実はないから、従業員就業規則第96条1号「故意に事業場の機械・工作物その他物品をき損しまたは紛失したとき」、同条第2号「業務について故意に事実上の損害を与えたとき」に該当しない。

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