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様々な可愛らしい洋菓子や和菓子を並べて、高級でとても美味しいと話題の紅茶を出す。
テーブルの上は白蘭を大歓迎していた。
けれどテーブルの向こう側にいるこの城の主は、不機嫌さを隠そうとせず前面に押し出した顔で白蘭を見ている。
「あー、もう、こんな事だろうと思いました!」
文句を言う綱吉を余所に白蘭は菓子を口に運ぶ。
ボンゴレのコックはいい仕事をするといつも思う。
ボスや幹部に日本人が多い為か料理は日本風な物が多く、ふわふわとしたケーキはいつ食べても美味しい。
見た目は綺麗で味もいい和菓子もお気に入りだ。
それらを遠慮なく食べながら、菓子の味は勿論、昨日までの結果にも満足した様子で白蘭は笑う。
昨日戦い終えた後、後片付けを何処からか出てきたミルフィオーレの人達に任せて綱吉と白蘭は少し話をした。
内容はお互いに分かっている事の確認。
ドン・グリッジョが話を持ちかけてきた事。
ついでだから白蘭は遊ぼうと思った事。
そんな事だろうと思い折角なので綱吉もそれを利用した事。
適当にその辺に座って回収されていく人を見ながら話をした。
大体の話をした後、疲れた、と綱吉が言って話は終わり。
本気ではなかったが、それなりに強く蹴ったり殴ったりをしたので、綱吉は唇の端を切っていたし、白蘭も少し体が痛かった。
お互いに痣は出来ているだろうと思った。
とにかく明日話をしましょう、そう言って綱吉は帰った。
もう面倒だから飛んで帰ると言って空に消えた。
白蘭も空の散歩でもしようかと思ったが、桔梗に止められて大人しく車で帰った。
そうして夜が明けてお昼が過ぎた頃に白蘭はここに来た。
いつも通り部下置いてけぼりの1人訪問。
今日の綱吉にその部分を突っ込む気力はなかった。
「いいじゃない。グリッジョとジャッロを一掃したかったでしょ?」
「否定はしません。」
綱吉とてマフィアだ。
何事もない穏やかな交渉が理想だが、その理想はとても難しく、利用出来る状況が目の前に転がっていたら使っておこうと思う。
おかげでほぼ一方的な交渉が出来る。
分かっていたんだろう、と綱吉は目で訴えた。
偶然だよ、と白蘭は笑う。
「消しちゃえばいいのに、とは思うけどね。」
「そこは口出ししない約束です。」
「そうだったね。」
グリッジョもジャッロも後処理はボンゴレがする事になっている。
白蘭を殺そうとした、それを理由にミルフィオーレが2つを潰してもよかったが、それはあの場で全員が皆殺しにされるも同じ事。
目の前でそんな事をさせるなんて綱吉は黙って見ていられない。
綱吉とてマフィアだが、同時に気持ちは今でもごく普通の青年だ。
甘いと言われても、殺せばいい、という選択なんて安易に選べない。
綱吉が降伏を促していた時に黙っていたように、白蘭はもうこの件に興味は薄くどうでもいいというのが本心。
でもそれを棚に上げて、貸し1つね、と言った。
嫌そうなのに律儀に頷いた綱吉を白蘭は可愛いなと思っていた。
「実験への協力もありがとう。」
「あの時あの場所でやる必要、やっぱりないと今でも思うんですけど。」
白蘭が作った結界と武器。
実戦でのデータが欲しかったなんて適当な嘘もいいところだ。
気を抜いていた戦いへの耐性と、折れそうな覚悟での攻撃。
あれで一体どんなデータが取れるのか。
そういう事には疎いので綱吉にはさっぱり使用用途が見出せないが、研究者としては何か得る物があるのだろうか。
「普通に実験やるだけじゃつまらないじゃない。」
やっぱり遊んでいただけのようだ。
「ドン・グリッジョには同情します、心から…。」
「敵に同情してあげるなんて優しい。」
「何かもうそういう問題じゃありませんよ。」
綱吉も目の前の菓子から小さな饅頭を取る。
少し違和感はあるが、概ね懐かしい日本の味。
どうも疲れているらしく、甘さを心地良く感じながら菓子を飲み込みお茶を飲んで一息つく。
カップを机の上に置いてから綱吉は軽く姿勢を正した。
「それでは始めますか、真面目に交渉。」
この場には綱吉と白蘭しかいない。
他にこの話を記憶する人はいない。
でもそれでいい。
2人ともこの会話を記録するつもりもない。
今回の出来事は白蘭の遊びに綱吉が付き合っただけの話で、お互いの立場は全くの無関係。
交渉なんて綱吉は言ったが、ただの話し合い。
ドン・ボンゴレとドン・ミルフィオーレではなく。
綱吉と白蘭が、最後に簡単に話をして今回の事を終わらせる、ここはその為の場所だ。
「まず貴方がクラッキングしてくれた事に関して。」
「そっちもやってくれたんだから、それでチャラだよ。」
「正一さんには謝ってくださいよね。」
「ところで、彼が動いたのって、キミの指示?」
「まさか。売られた喧嘩を買っただけって、そう言っていました。」
「そっか。」
白蘭はただ嬉しいという気持ちでいっぱいの顔で笑う。
裏のない笑顔はやっぱり可愛いと感じた。
正一の前でもこんなふうに笑えばいいのに、とほんの少し思ったが、白蘭は正一に対して好き勝手にやり過ぎなので、彼がこの笑顔を見ても素直には信じないだろう。
自業自得なので同情などしてやらなかった。
「次にオレを嵌めてくれた事。」
「ボンゴレの敵を一掃するのに協力した、と好意的に解釈してよ。」
「まぁ、オレはそう思えますけど、でも今日は獄寺君達には会わないで帰ってくださいよ。」
何せ昨日の今日なので説明が終わっていない。
自分が無事だった事を伝え、パーティーは無事に終わった事を聞き、そこで気力の限界がきて眠ってしまった。
彼らへの説明はこの後の仕事。
その前に下手な手出しはしてほしくない。
分かっているのに意地悪を考えるように白蘭は首を傾げた。
「どうしよっかなー。」
「マジで帰れ。」
「じゃあ今度このケーキをホールで頂戴。」
「あげますから、準備する為の事前連絡はください。」
「じゃあ次回は連絡するね。」
この調子ではまたすぐに来そうだ。
テーブルの上の菓子が余ったら持って帰るではダメなのだろうか、と思ったが見てみれば既に半分はなくなっていた。
とても2人分の量ではなかったのに。
「その細い体の何処に行くんですか、このお菓子達は。」
「久し振りに翼なんか出したから疲れちゃって。」
「まぁ…、あの翼の炎圧は怖いですけどね…。」
そういう問題ではない気がするが、もうどうでもよく思えた。
全部食べられる前にいくつか自分の前に菓子を確保しておいてから、綱吉は話を進める。
「殴り合いは両成敗でいいですよね。」
「ボクの試作品が壊されたのは?」
「あれは自分で壊していたじゃないですか。」
「結界の方がキミに崩された影響で壊れたよ。」
「もうちょっと頑丈に作ってくださいよ…。」
「あはは。」
「実験に付き合った。それじゃダメなんですか。」
「うん、いいよ。」
あっさり頷かれると気持ちが悪い。
そして理由が分かっているから綱吉は露骨に嫌そうな顔をする。
白蘭はにこにこと綱吉のそんな表情を眺める。
妙な空気が出来上がって少し経った頃、誰かがそっと扉を叩いた。
今日この執務室は白蘭が帰るまで守護者達も立ち入り禁止。
けれど1人だけ呼んでおいた人がいる。
「どうぞ。」
「し、失礼…、します…。」
そろりと扉を開けて躊躇いがちに正一が顔を出した。
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