緩和 01






 否応なしに全ての人間が雰囲気に酔い盛り上がり、一種の興奮状態へと陥る大規模な祭りに乗じて盗みや暴行を働く輩(やから)というのは、残念ながら何時の時代にも後を絶つ事はない。
 大仕事の狙い目とばかりに、綿密な計画を立ててその日に備えてくる集団もいるくらいだ。
 その街で何十年も前から行われている伝統のお祭り行事。
 大量の神輿(みこし)が男達の手によって担がれ、雄々しい掛け声と共に荒々しく揺らしたり他の神輿とぶつかり合いながら渡御(とぎょ)する街を上げてのお祭り騒ぎ。
 日が落ちてから行われるそれは三日間連続で営まれる。
 日が高いうちも祭り見たさに集まってくる大勢の観光客をターゲットにあちこちで出店や屋台やイベントが展開され、結果この三日間は一昼夜問わず街が活気づく。
 これまで特別大きな問題もなく、地元の人間から観光客まで全員が全員盛り上がり楽しむ事が出来た祭り。
 しかしその裏で、年々数を増やす窃盗や暴行の被害に頭を痛める事が多くなってきた。
 勿論自警団による警備は強化している。
 が、大規模な祭りゆえにどうしても隅々まで目が行き渡らない。
 警備の人数を増やそうにも、長年続いてきた伝統の祭りに支障をきたさないよう考慮すれば回せる人数などたかが知れている。
 まさか女子供を頭数に入れる訳にもいかない。
 このままでは地元の人間は勿論、観光客にまで何かしらの被害が及ぶ可能性がある。
 安全を考えれば祭りの中止とまではいかなくとも、縮小化は止むを得ないかと思われた。
 しかしこれまで受け継がれてきたものは何とかそのままの形で後々まで残したい、という気持ちは全員一致で捨てきれずにいる。
 ならばこの問題を解決するにはどうしたらいいのか。

 キリルがギルドから持って帰ってきた依頼は、まさにそんな街のSOSを形にしたものだった。





 


>>次

NOVEL