(4)結婚記念日は二人だけの時間をもつ

 去年(一九九三年)の九月四日、私たちは日本に向かう飛行機の中にいた。アメ

リカに留学中の長男を尋ねた帰り、夫婦二人だけで空の旅を楽しんでいるところだ

った。

 その日は、私たちの結婚記念日。

「私たち、すっかり舞い上がっているって気がしない?」

「ほんとだよな。ものすごく舞い上がっちゃっているみたいだな」

 二十三回目の記念日にあたるその日も、私たちは、気分上々で、他愛ない冗談を

言って笑い合った。

 私たちは、昔から、結婚記念日は夫婦二人だけで過ごすことにしている。去年の

記念日は、偶然空の上だったけれど、それでも私たちは二人きりの時間を充分に楽

しんだ。

 昔は二人きりになるということが大変だった。小さい子供たちをおいて、私たち

は一晩泊まりで家を離れることにしていたからだ。遠くへ行かなくても、外で食事

をして、都内のホテルに泊まるのでもよかった。とにかく、私たちは完全に子供か

ら離れて、二人きりになることにしていた。そのために、子供を母にあずけたりと

、準備が大変だったのだ。

 生まれて間もない子供を抱えているときなど、私のほうは、「何もそこまでしな

くたって」と気持ちが萎えそうになったが、そういう私を主人は頑固なまでに励ま

した。

「親子は血のつながりがあるけれど、夫婦は、もとは他人同士じゃないか。一年に

一度ぐらいは二人きりの時間を作ろうよ」

 こうして、私たちは毎年欠かさず二人きりで結婚記念日を過ごしてきた。

 子供たちが大きくなった今では、私たちももう、子供のことを気にせず好きなよ

うにその日の計画を立てることができる。

「今度の結婚記念日は、どうしようか?」

「映画を観て、どこかでおいしい物でも食べたいわ」

「よし、じゃあ、そうしよう」

 意見が一致して、私たちはいそいそと出かける。そして、たいてい夫のみたい映

画を観ることになる。

「何も結婚記念日に『エクソシスト』じゃなくても・・・。もっとロマンチックな

映画を観たかったわ」

「そんなものは観なくていいんだよ。ロマンチックは観るものじゃなくて、するも

んさ」

 どんな一日でも、それが二人の記念日というだけで、私たちは、無邪気に楽しい

のだ。

09年05月21日新設