(2)相手に感謝する心を忘れずに

 もし、夫婦が感謝し合うことを忘れたら、その関係は、さぞ味気ないものになる

ことだろう。

「おまえのおかげで、俺は安心して仕事に行けるんだよ」という夫の気持ちもなけ

れば、

「あなたが働いてくれるから、私たちはこうしていられるのよ」という妻の気持ち

もない。これでは、夫婦の間は殺伐としたものになってしまうに違いない。

 結婚してしばらくの間は、私たちは本当にお金がなかった。どんなに多くの仕事

をこなしても入ってくる収入のほとんどが借金の返済にまわされ、手元に残るのは

月に十万にも満たない額だった。私たちは食費を切り詰め、朝食のおかずが生卵一

個というような倹約生活を長いこと送った。

 そういうところから二人でがんばってきたせいか、私たちは、お互いの存在を本

当にありがたいと思っている。

「俺たちも、ここまでよくがんばってきたもんだなあ」

「あそこからここまで来れたなんて、みんなあなたのおかげよ」

「いや、おまえがいてくれたからだよ」

 ちょっと気恥ずかしいけれど、言葉にすればそんなふうになるだろう。 しかし

私たちも、もう二十年以上つれそった夫婦だから、たまには「ありがとう」と声を

かけ合うにしても、こんな会話を実際に口にしているわけではない。言葉にしなく

ても、日常の何気ないところに、互いに向けられた感謝の気持ちは感じとれる。

「あ、こいつ、今、俺に感謝しているんだな」

「あんなことしてるけど、あの人は私にありがとうを言っているのね」

 そんなことを自然に感じ合えるようになった。

 最近のアンケート調査では、既婚者で一度でも離婚したいと思ったことがある人

の割合は必ず高い数値を示すのだという。しかも、別れたいと考えたことがある人

は、男性より女性が多いというのだが、日本の男性には、結婚した途端に自分の立

場にあぐらをかいて、俺が家族を養ってやっているのだ、女房のおまえが家を守る

のはあたりまえだという意識ばかりふくらみ、妻に対する感謝などすっかり忘れて

しまうタイプが多いことが、その大きな理由のようだ。これでは妻のほうが別れた

いという気持ちになるのも、無理のない話だろう。

 これとは逆に、子育てに追われていることを理由に、夫の存在をないがしろにす

る妻を嫌い、夫が帰宅拒否症になる、などということも多いと聞くが、夫婦は、も

とは他人同士なのだ。どんなに馴れ合った間柄でも、感謝をし合う気持ちがなけれ

ば、いい関係を保つのは難しい。

09年03月11日新設