への字追肥について


  ○ 松阪地方の平均的作型(4月下旬〜5月中旬田植え)におけるへの字追肥の
     要領についての詳細です。

  ○ 品種はコシヒカリ中心の説明になります。


      圃場の観察


 元肥ゼロでのスタートであっても、年度による生育の違い
 があります。

 中間追肥の時期が近付いたら圃場の様子を観察します。
 観察の要点は、
   @ 分けつ数
   A 葉令
   B葉色      です。

 葉色の観察に適した天候(曇・雨天または早朝)を選び、
 周囲の慣行栽培稲との違いも視野に入れチェックします。

 手前の濃い葉色の田が元肥ゼロ、後方が慣行稲です。
 
  @分けつ数    慣行稲

への字稲

 植え付け本数4〜8本・株数70株/坪、
 分けつ数30〜40本/株です。

 この地方のコシヒカリの有効穂数は1000本/坪
 なので、1株本数を出穂までに半減させる必要が
 あります。

 そのためにとられる方法がチッソの中断と中干しです。

  

 植え付け本数1〜3本・株数40〜50株/坪、
 分けつ数15〜20本/株です。

 まだ分けつに20〜30%の余裕があります。

 
 これから中間追肥を行い中期の活力を上げます。

A葉令        

 これまで出葉していた葉(
)より一段と長い葉()が
 出始めると出穂40日前のサインです。

 この葉が止め葉から数えた第5葉に当たり、
 稲の背丈が急に高くなったように感じます。
 
 植え付け時の本数だけ先に出葉するので、親茎の
 数を確認するのにも便利です。

 また、この第5葉以降出葉する葉が刈り取りまで生きる
 葉なので、この時期からの肥培管理が重要になる
 訳です。

 中間追肥はこの出穂40日前を中心に前後10日間に
 行います。

B葉色   慣行稲   

への字稲

 中干しの時期に入り、葉色は急にさめています。
 カラースケールで3.5〜4です。

 これから穂肥までの1ヶ月間色を落として行きます。
 (V字肥効)

 
葉色の確認は隣の慣行稲との比較によっても可能
 ですが、できれば葉色カラースケールを使用すると 
 正確です。

 

 無肥料でも細植えの稲は葉色があまり低下しません。
 カラースケールで5〜6です。

 これから幼穂形成期までの半月間葉色を最高に上げて
 行きます。(への字肥効)

 
 晴天の早朝の写真です。
 葉に露が付き重くなっている時にも差が見えます。

 への字稲と慣行稲では同じ葉色でも葉の硬さが違うため
 印象が違います。

 左(慣行稲)は葉露の重みで葉が垂れており、葉表に
 日光が反射して明るく光っています。
 
 右(への字稲)は葉が直立しているため葉裏を見せ、
 鈍いつや消しに見えます。

 


  中間追肥の方法

分けつ・葉令・葉色を確認したら適期に追肥を行います。

1、時期
  基本的には、出穂45日前を中心に前後10日間が適期ですが、葉色が薄く分けつが少ないほど
  早めに、分けつが多く葉色が濃いほど遅めに施肥にします。
  また、4月中の早期田植えや砂地の圃場では55日前と35日前の2回に分けて追肥するのが
  安全です。

2、量
  基本的には慣行稲の元肥量と同量あるいは30%減で充分ですが、コシヒカリの場合1回の追肥
  に使える窒素量は粘土地で4Kg、砂地で3Kgが限度です。

  この量で不足する場合は施肥回数を増やすか、緩効性肥料(有機・IB態チッソ等)を使用する
  ようにします。

3、肥料の種類
  チッソ:への字稲作は稲の様子を見ながら生育をコントロールして行く技術ですので、条件の良い
       圃場では硫安・尿素等比較的即効性の窒素肥料単肥が使いやすいと思います。

  燐酸:燐酸吸収係数の高い土壌や砂地で燐酸欠乏による分けつ不足が見られる圃場では、
      過燐酸石灰を使用することもあります。

  カリ: 稲作にカリ肥料は必要ありません。

4、穂肥
  への字稲作では基本的に穂肥は施肥しませんが、暖地の早植え地帯・やせ地・高温多照の年等
  どうしても穂肥を必要とする場合があります。


 二山への字をイメージ化しました。

 縦軸は肥料の効き具合を、横軸は時間経過を表します。


    追肥後


  追肥後一週間目のコシヒカリ圃場です。

  この圃場は硫安でN2.5Kg施肥しました。

 周囲の圃場の葉色(3.5〜4.5)に比べ2スケール
 濃い状態(5〜6)で推移します。

 
    二山追肥 (出穂35日前)


 慣行稲の穂肥時期が近付いて来ると、への字稲と
 葉色の違いが際立ってきます。

 への字稲はこの後も出穂まで黒い葉色を保たせます。

 1回の施肥で追肥が出来ない圃場では2山目の追肥を
 します。

 


 早期田植え(ゴールデンウィーク前)のコシヒカリは
 生育期間が長く、中期一発追肥でへの字生育しない
 ことがよくあります。

 この作型では二山への字追肥を基本にします。

 追肥時期を出穂55日前と35日前の二回に分け
 必要量を7:3で分施します。

 写真のように濃い葉色の中に薄く色むらが出始めたら
 2回目の追肥時期になります。

 



  他品種


           キヌヒカリ

 穂数型品種にしては分けつ性が悪く葉色も濃く推移
 します。

 中間追肥で分けつを取ることが難しい年があるので、
 植え付け株数をやや多くするか、または元肥が必要な
 圃場があります。

 いもち病に対してもコシヒカリ以上に弱いので一回当たり
 の施肥量をN・5Kg以内にします。


           どんとこい

 初期生育はコシヒカリ以上に軟弱・ひ弱に見えます。

 中期以降は横方向への生育となり、分けつは後期に
 集中します。

 完全な穂数型品種なので中間追肥を多めに与え、
 穂肥の施肥も積極的に行います。


2004年版にもどる 2005年版にもどる