ウィザードリィエクス2外伝
凛の冒険 エピソード0
7・リリスの逆襲 エピソード0
アリテト山脈の中継地点での休憩を終えた私たち、そのまま次のロードを目指します。
聖戦塔から大陸を西に走るクライスロードへと進みました。
「このロードは少し長い。気をつけろ」
ララスさんの表情もホトロードにいた頃よりも強張っているように見えました。
アリテト山脈からエルウィン湖を結ぶのがこのクライスロードです。
ここはロードを構成するマップがホトロードよりも2枚多く、そして出現する敵兵もバラエティに富んできます。
ロードを突破するためには、それらに対応できるだけの能力が要求されるのです。
「マップ確認します」
私のなけなしのお小遣いで買ったマップを起動させました。
「このマップだとルートは・・・」
空間に映し出されたマップから最短ルートを確認します。
大丈夫、ショートカットコースが開いているのでそれ程苦労せずに中枢までは進めそうです。
ララスさんを先頭に、私、リリスさんの順で続きます。
本来ならば、敵兵との肉弾戦を担当するくのいちである私がパーティの先頭に立たなければならないのですが、やはりレベルの差は大きくて。
私の前を歩くララスさんの背中がとても大きく、そしてたくましく見えます。
一方リリスさんはというと、いまだにカエルショックを引きずっているみたいです。
「あのー、リリスさん?」
「・・・」
気になって声をかけてみましたが、リリスさんは無言のまま、じっと私を一睨み。
そして・・・
その表情が一瞬ニヤっと歪んだように見えたのは気のせいでしょうか。
とにかくリリスさんのご機嫌はまだ回復していないようです。
「さっきはゴメンね」
私は素直に謝ることにしました。
誰だって苦手なモノのひとつや二つはありますから、私もちょっと調子に乗りすぎました。
「別に、気にしてない」
素っ気無いリリスさんの返事に私はもう何も言えませんでした。
「ほっとけ凛、リリスだってしばらくすれば機嫌も直る」
「でも・・・」
ララスさんはそう言いますが、悪いのは明らかに私のほう。
でも結局どうすれば良いか分からなくて、そのまま黙ってララスさんの後を歩くだけでした。
私達の雰囲気は良いとは言えませんが、幸いにも敵兵に遭遇することなく一つ目の転移門へ。
それを抜けた二枚目のマップも簡単に突破した私たち、クライスロードの中枢へと辿り着きました。
すると
「お待ちしておりました、リリス様」
私たちを待ち構えるようにして一人の美少女が立っていたのです。
金髪で長身、どこか神秘的なオーラを持ったその女の子は、顔立ちがどことなくリリスさんに似ているようです。
でもこの人、どこかで見たことがあるような・・・
「よく来て下さいましたわ、お姉さま」
「ハイ。リリス様に呼ばれたらどこにだって飛んできますわ」
リリスさんと、リリスさんが「お姉さま」と呼ぶ女の子が抱き合って喜び合っています。
そうです、思い出しました。
確かあの人は
「皆さんお久しぶりです。エセルです」
そうそう、エセルさんです。
以前リリスさんのバースディパーティの時にお会いしていました。
エセルさんもリリスさんと同じ電脳種で、リリスさんの先行タイプに当たるのだそうです。
エセルさんを含めて全部で13体の先行タイプがいらっしゃるのですが、彼女たちは一般にプルトと呼ばれています。
プルトはまさにリリスさんのお姉さん、中でもエセルさんは長女に当たる人なんですね。
「お久しぶりですエセルさん」
「よっ」
挨拶をする私とララスさんに、エセルさんが再度深々と頭を垂れました。
「それで、エセルさんがどうしてここに? たしか普段はメルキオロードのほうにいたと思いますが」
「はい。リリス様にお呼ばれしましたの」
エセルさんは私の顔を見るなりにっこりと微笑みました。
「そう、リリスが呼んだんだ。是非とも凛に会ってもらいたくて」
「私に?」
リリスさんも私の顔を見て笑ってます。
でもその笑い顔は微笑みなんかじゃなくて・・・不敵な笑みとしか言いようのない表情です。
「あのー、リリスさん?」
おそるおそるリリスさんに話しかけましたが、リリスさんはそれには答えずに。
「それではお姉さま、お願いね」
エセルさんにウィンクを送るのでした。
「分かりましたリリス様」
エセルさんが再度深々と頭を垂れます。
私もララスさんも、何が起こるのかとじっと固唾を飲んで見守るしかありません。
エセルさんが右手を高く差し上げました。
そして叫びます。
「カモン、ナイト・オブ・ダイヤモンド!」
エセルさんの指がパチンと響きました。
すると・・・
私たちの目の前に真っ黒で巨大な球体が出現したのでした。
球体はまるで机の上で弾かれたコインのように、その場で勢いよく回転し続けています。
「こ、これは・・・」
「まさか、無限種か」
あまりの事態にそれだけつぶやくのがやっとでした。
呆然とする私たちに、リリスさんがフフフと笑いながら説明してくれました。
「凛にはこれからエセルお姉さまのガーディアンと戦ってもらうわ」
「な、なんでそんなこと」
「あーら、私からのプレゼントよ。凛にはもっと強くなってもらわなくちゃ。そのための修行相手ね」
「だからっていきなり無限種と戦わせるなんて、ムチャクチャだろう。さてはリリスお前、カエルの腹いせにこんなことを」
「ええそうよ。カエルの恨み、ここで晴らさせてもらうわ!」
「そんな〜」
どうやらリリスさんは、さっきのカエルの仕返しをしようとエセルさんをここまで呼び出したみたいです。
それにしても、無限種と戦えだなんて、リリスさんも無理を言います。
だって無限種って通常の魔物よりずっと強いんですよ。
さっきレベルアップしたとは言え、たかだかレベル4の私に戦わせるなんて。
「ご安心下さい」
そんな私の不安を鎮めようと、エセルさんが静かに言葉を紡ぎます。
「ナイト・オブ・ダイヤモンドは全無限種の中でも最強といわれていますが、それもフルパワーで戦った場合の話です。今回は凛様に合わせてナイト・オブ・ダイヤモンドもレベル1に設定させていただきますわ」
「えー、それじゃつまらないよ」
「リリス様、それ以上のわがままはお見苦しいですよ」
「分かったわよ。それじゃあレベル1は認めます」
「聞き分けが良くてらして助かりますわ」
エセルさんがにっこりと微笑みました。
「それではあらためまして。凛様」
「は、はい」
「あなたにはこのナイト・オブ・ダイヤモンドと戦っていただきます。そうでないとリリス様の気が済みませんからね。ただしレベルは1です」
「分かりました」
私としてもリリスさんにイジワルしちゃった負い目がありますから、これは受けないわけにはいかないでしょう。
「そしてもう少し条件があるのですが、よろしいでしょうか?」
「条件、ですか?」
「ええ。このバトルはイベント扱いですので逃走は不可となっています」
「ハイ?」
「そして、万が一凛様が負けてしまったら即ゲームオーバーです。もちろんリセットは禁止ですよ」
「あのー、いったい何の話なんでしょう・・・?」
「その時はこの連載も終了。来週からは『プルト・愛の劇場』がスタートしますわ」
「え? え? えぇ?」
話が見えないんですけど・・・
連載ってナンデスカ?
来週ってナニ?
その「何とか劇場」ってなんなんですかー!?
「凛、負けるんじゃないぞ。作者だってそんな話は考えてないんだからな」
ララスさんの声援です。
って、だから作者って誰なんですかー!
「あら失礼ですわ。『プルト・愛の劇場』は、リリス様と私どもプルトの愛の物語ですの。ああ、きっと感動的なお話になるんでしょうね」
うっとりとした表情で語るエセルさんですが、なんかもう細かいことはどうでも良くなってきました。
とにかく戦って勝てば良いんですよね。
「お姉さま、早く戦いを始めましょう」
「そうね。すっかり容量を取ってしまったわ。それでは。コホン」
リリスさんに急かされると、エセルさんはひとつ咳払いをしてから指をパチンと鳴らしました。
「ナイト・オブ・ダイヤモンド、降臨!」