ウィザードリィエクス2外伝
凛の冒険 エピソード0
5・特訓、ララスキマイラ
「特訓が必要だな」
私のふがいない戦いぶりに、ララスさんが決然と言い放ちました。
「特訓、ですか?」
「ああそうだ。今のままじゃあとてもじゃないがこの先へ進むのは無理だ」
「そんな・・・」
シュンと肩を落とす私、そこへリリスさんがなぐさめてくれました。
「大丈夫よ凛、強くなるための特訓なんだから」
「そうですね。私、強くならなきゃ」
リリスさんの言葉に力づけられ、私は顔を上げました。
「ララスさん、特訓お願いします」
「その息だ。特訓たって難しい話じゃない。俺様のララスキマイラと戦ってもらうだけだ」
「ララスキマイラ!」
ララスさんは召喚師です。
中でも得意にしているのがキマイラの召喚だそうです。
キマイラとは魔法によって合成された魔獣です。
ライオンをベースにサルとヤギが奇妙に組み合わさった何とも珍妙な生き物だと生物の時間に教わりました。
「よし、構えろ凛」
「ハイ」
ララスさんから距離を取り忍刀を構えます。
「召喚、ララスキマイラ!」
ララスさんが叫ぶとロードの床に奇妙な紋様が浮びうがリました。
召喚陣です。
直径2メートルほどの円の中に、さまざまな幾何学模様が描かれた召喚陣が妖しい色を放ってぼんやりと輝き始めました。
次の瞬間、光がパッと強く輝きます。
あまりの眩しさに目が眩んだかと思うほどでしたが、やがて視界が回復しました。
そして。
私の目の前には一頭のキマイラが、今にも飛びかからんばかりの勢いでこちらを睨んでいます。
「凛、そいつがお前の相手だ。本気で戦えよ」
「ハ、ハイ!」
キマイラに睨まれた私はまるでヘビに睨まれたカエル状態で、思わず身体がすくんでしまいそうでした。
それでも勇気をふりしぼってキマイラへと向かいます。
キマイラが私を向かえ討たんと右の前足を振り上げました。
それを見た私は右へ、つまりはキマイラの左側へと走りこみました。
そちら側なら、振り上げた右足は届かないはずです。
グワっ。
キマイラが雄叫びを上げながら右前足を振り下ろしましたが思ったとおりです、振り下ろされた前足は私の身体にかすることなく虚しく空を切るだけでした。
その隙を突いて、今度は私がキマイラに攻撃します。
「たぁー!」
私の放った一刀はキマイラの頭部(ガラスシリンダーのような容器の中にライオンとサルとヤギの頭が詰め込まれている)にヒット。
ガラスシリンダーが粉々に砕けてその中の頭がゴロゴロと転がり落ちたのです。
そして。
キマイラはすぅっと消えてしまいました。
「ふむ、なかなかやるじゃないか凛」
「ありがとうございます」
ララスさんに褒められたら悪い気はしませんよね。
「レベル1とはいえキマイラを一撃で倒すとはな」
「レベル1?」
「それじゃあ次はレベル3キマイラだ。油断するなよ凛」
「えっ? あっ、ハイ!」
どうやら先ほど私が倒したキマイラはレベル1に設定されていたようです。
どうりで、私でも簡単に倒せてしまったわけですね。
次はレベル3、一体どのくらい強くなっているのか、私の中で不安が高まっていきました。
「召喚、ララスキマイラ!」
再びララスさんが叫ぶと、先ほどと同じように召喚陣が輝いて二体目のキマイラが現れました。
今度のキマイラも私をグッと睨みつけてきているのですが、その殺気と言いますか、放っているオーラがレベル1の時とはずいぶん違う気がします。
私は慎重にキマイラの動きを見定めようと努めます。
一方キマイラも私の動きを警戒しているようです。
私もキマイラもお互いにレベル3同士ですからね、両者なかなか手が出せないまま、じりじりとした時間だけが過ぎていきました。
「何をやってる凛! それくらいの相手に臆している場合じゃないぞ」
「ハイ!」
ララスさんの檄が飛びます。
確かに、いつまでも睨みあっていても勝負は付かないでしょう。
ならば。
私は思い切って正面からキマイラへと迫りました。
「真正面から突っ込むなんて」
リリスさんの悲鳴が聞こえますが、私は構わず突き進みます。
私の動きに気圧されたのか、キマイラの反応がわずかに遅れました。
その隙を突いて忍刀を振るいます。
ガツーン!
私の放った一刀は、またもキマイラの頭部に設置されたガラスシリンダーに当たりました。
しかし今度はガラスシリンダーを砕くことは出来ませんでした。
私の攻撃を避けられないと判断したキマイラは、護りに意識を集中させて私の攻撃を凌いだのです。
一度攻撃をしくじると、今度は相手からのカウンターが飛んできます。
忍刀を弾かれたままの不安定な体勢の私へ、キマイラが全体重を乗せて体当たりをしてきました。
「ニャっ・・・」
キマイラの反撃に吹っ飛ばされて、一瞬呼吸ができなくなります。
床に突き飛ばされた私は、ゴロゴロと転がって何とか体勢を立て直しました。
このままやられているわけには行きません。
今度は私の反撃です。
私は再度正面からキマイラ目掛けて飛び込みました。
キマイラも受けて立つつもりなのか逃げる素振りを見せません。
走る私と身構えるキマイラ。
両者が激突しようとするその直前、私は急ブレーキからバックステップを見せました。
キマイラとの距離を一度離したのです。
それで虚を突かれたのか、キマイラの集中が切れたように思えました。
その隙を見逃さずに、今度こそ私がキマイラに横薙ぎに払った一刀を浴びせます。
忍刀は綺麗な弧を描いてキマイラの首筋へ。
そして次の瞬間。
キマイラの胴体からガラスシリンダーが根こそぎ切断されて、ゴロンと床に転がり落ちたのでした。
「やった!」
後ろからリリスさんの歓声が聞こえてきました。
大丈夫、間違いないですよね。
この勝負、私の勝ちです。
「やるじゃないか凛」
「ありがとうございました」
ララスさんの言葉に深く頭を下げてお礼を言いました。
そして二人の下へ走り寄ります。
「凛、カッコ良かったよ」
「そうかな」
リリスさんと二人、抱き合って喜びました。
「まずまずの出来だった。まあ静流には遥かに及ばないがな」
褒めたと思ったらすぐけなすララスさんです。
「どうせ。静流お姉ちゃんには適いませんよーだ」
「そう拗ねるな。お前はまだまだこれからだ。これからいくらでも強くなれる」
「本当ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
そう言いながら、ララスさんが私の頭を撫でてくれました。
私の頭に乗せられたララスさんの手はとても大きく、そして温かくて、それがいかにも男の人の手って感じで。
だから私の心臓がちょっとだけドキって反応したのでした。
少し顔が火照って、ひょっとしたら赤くなっているかも。
そんなことを思ったらますます心臓がドキドキしてきて・・・
「どうした凛?」
「あー、なんでもありません。て言うか、子供扱いはやめて下さい。あっ、耳にさわらニャいでー!」
精一杯の強がりで言い返しつつララスさんの手から逃げましたが、まだ心臓はバクバクいってます。
私は「落ち着け、落ち着けぇ」と自分自身必死に言い聞かせました。
そんな風に一人焦っている私に対して、ララスさんは大人の余裕なのか涼しい顔のまま。
それがちょっと悔しかったり・・・
「だいぶ時間を喰った。先を急ごう」
「オッケー。ホラ凛も行くよ」
っと、今はそんなことで呆けている場合ではありません。
気持ちを切り替えるために一回深呼吸。
心が落ち着いたところで
「よしっ、行きましょう!」
二人の後を追って、私も歩き始めました。