ウィザードリィエクス2外伝
凛の冒険 エピソード0
4・ファーストバトルは苦い味
いろいろありましたが、旅の仲間も決まり、私の装備も整いました。
「さあ、出発しましょう」
気分新たに、私は歩き出そうとしました。
が・・・
「おいちょっと待て」
ララスさんに呼び止められてしまいました。
「はい、なんですか? あっ、ひょっとしてまた誰か来たとか・・・」
私は再度転移門へと注視しました。
さっきのララスさんのようにまた誰か出て来るのかと思ったのです。
「そうじゃない。凛、お前歩いて行く気か?」
「そのつもりですけど」
「転移定期とは言わんが、せめて転移切符くらい持ってないのか?」
「そんなの持っているわけないじゃないですか。新入学徒のお小遣いでそんな高価なもの買えると思います?」
「やれやれ」
肩をすくめるララスさんです。
「ララスは持ってないの?」
「ああ、慌てて飛び出てきたからな。持って来るのを忘れちまった。リリスは?」
「リリスはもともと必要ないから」
リリスさんはロードのネットワークを使ってあちらこちらへ自由に移動できるのだそうです。
結局誰も転移のアイテムを持ち合わせていないみたいですね。
「良いじゃないですか。私は最初から歩いて行くつもりでしたし。それにそのほうが私の修行にもなりますから」
「めんどくせえな・・・そうだ、さっきみたいに式部京の購買から転移定期を・・・」
「その手があったわね。それじゃあ」
ララスさんの提案にリリスさんが名案だとばかりにポンと手を叩きました。
「ダメです! これ以上父上のツケを増やされたら私生きて帰れませんよ!」
「いやそれは生きて帰った後の話だと思うんだが。それはともかく、分かったよ凛。仕方ねえ、歩くか」
私の剣幕にララスさんが折れてくれて、歩き決定です。
何はともあれ、父上のツケが増えなくてホッとしました。
私たちが今いるのがホトロードの中枢です。
このフロアの転移門は、それぞれ対角線の位置に設置されています。
式部京に近い「R門」がマップの右下隅、そして次のロードに近い「L門」はマップの左上隅です。
私たちは右下から左上へ、斜めにロードを進みます。
その途中、ピーンと警戒音が鳴りました。
敵兵警戒域です。
このエリアは特に敵兵の出現率が高いので注意するようにと、ユリウス先生の講義で教わりました。
私はひとり、周囲の様子に神経を配りながら歩いていたのですが・・・
「オイ凛、そんなに緊張するな」
「だって敵兵警戒域ですよ。いつ敵が出て来るか分からないじゃないですか」
「そんなの心配ないよ。こんなところで出て来る敵なんてザコだけだから」
ララスさんとリリスさんはいたって平気な顔です。
どうやら張り詰めていたのは私だけだったみたいです。
「そうですね。うん、大丈夫、大丈夫」
自分に言い聞かせるように「大丈夫」を繰り返しました。
それに、何かあってもララスさんとリリスさんが力になってくれるはずです。
でも二人に甘えていたらダメですよね、自分の身は自分で護らないとね。
そのためにもまずはリラックスです。
もう少し肩の力を抜いても平気かな、私がそう思った矢先でした。
ロード内に敵兵襲撃を告げる警報音がピーンと響き渡ったのです。
「てっ、敵ですか!」
「落ち着け凛」
慌てる私をララスさんがいさめてくれます。
「でも・・・」
「大丈夫よ凛、よく見て」
不安な私をリリスさんが諭してくれます。
二人の言葉に心を落ち着けてから、あらためて周囲の様子を確認します。
すると、目の前の空間にフワフワと浮ぶコインの集団が現れたのでした。
「クリーピングコイン、ザコの中のザコだな」
半ば呆れたような声でララスさん。
古代文明の遺物とも云われるクリーピングコインは魔法生物です。
ロード内をフワフワとさまよっては時々人に襲い掛かったりするようなのですが、しょせんは手も足もないコインです。
反対に人に捕まってはロード外へ持ち出され、加工されてお土産用のコインとして利用されるのがオチみたいですね。
「ちょうど良い。凛、ひとりでやってみろ」
「ハイ」
相手がクリーピングコインなら私ひとりでも大丈夫・・・だと思います。
って、そんな弱気でどうするんですか?
これが私にとって初めての実戦、何としても勝たなければなりませんよね。
背中から忍刀を抜くとじっとコインを見据えます。
コインは小さいしフワフワと微妙に揺れていて、妙に捕らえどころがありません。
でも相手の動きをよく見て、まずは一枚のコインに狙いを定めました。
「たぁー」
忍刀をコンパクトに振りぬいてコインに斬りかかります。
いえこの場合はコインを叩きつけたといった感じなのですが、とにかく私の攻撃は見事にコインにヒットしました。
私の攻撃を受けたコインはロードの床に叩き落されて、チャリンと鳴ってその動きを止めました。
「やった」
私が喜んだのもつかの間
「油断するな凛、まだ終わってないぞ」
ララスさんの檄が飛びます。
「分かってます」
私は二枚目のコインへと攻撃しようとしたのですが・・・
「アレ? アレレ?」
先ほどまでは五、六枚かなと思っていたクリーピングコインが、今は十枚くらいに増えているじゃないですか。
「コノー!」
私はその中の一枚に攻撃して床に叩き付けました。
それに対してコインはまたも仲間を呼んで、今では二十枚近くに増えています。
「えいっ、やぁー、ニャー!」
私がどんなに攻撃しても、その度にコインは仲間を呼んでどんどん増え続けます。
これじゃあキリがありませんよぉ。
「まさかとは思ったが、やはりこうなったか」
「ありがちだよねー」
端で見ているララスさんとリリスさん、私の戦いっぷりに呆れてしまっているようです。
そして
「凛、下がれ」
業を煮やしたララスさんがズイっと前に進み出ました。
私はララスさんの指示に従って前線から下がります。
そしてララスさんが軽く息を吸い込んだかと思うと、その息をコイン目掛けて一気に吐き出しました。
ララスさんの吐いた息は炎のブレスとなってクリーピングコインの群れを飲み込みました。
炎に焼かれたコインが次々と床に落ちては、チャリンチャリンと乾いた音を立てています。
あっと言う間でした。
私が倒せなかったクリーピングコインの群れを、ララスさんは一瞬にして壊滅させてしまったのです。
私は呆然とその様子を見ていただけでした。
「凛」
「はい・・・」
ララスさんの呼び掛けに対して私の返事は力ないものでした。
「相手が一体なら今のお前でも何とかなるかもしれない。だがな、ロードの中じゃ魔物が群れを成して襲ってくるんだ。だからこちらもパーティを組んで魔物の群れに対抗するんだ。それを忘れるな」
「はい」
ララスさんは、私が一人でロードに入ろうとしたことをとがめてくれたのです。
私、思いあがっていました。
学徒にさえなってしまえば静流お姉ちゃんに会いに行ける、自分一人の力でロードを突破できる、と。
でも現実はこの様でした。
私一人ではクリーピングコインさえ持て余してしまうのですから。
私、まだまだ未熟者です。