ウィザードリィエクス2外伝
凛の冒険 エピソード0

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11・静流お姉ちゃんと私

 先輩学徒の皆さんがパンドゥーラ率いる魔物の軍団と戦っている一方で、私は静流お姉ちゃんと向かいあっていました。
「リン・・・」
 静流お姉ちゃんは憎悪の宿った視線を私に向けてながら、村正の刀を振り回します。
「お姉ちゃんお願い、正気に戻って」
 ガツン、ガツンと村正の刀による攻撃をあずみで受け止めます。
 さすがはリリスさんがイカロスから取り寄せてくれた刀です、凄まじい斬れ味を誇る村正の刀を相手にしても全く引けを感じません。
 そして防具には魂鎮めの効果が付与されています。
 その恩恵として、今や亡霊となった静流お姉ちゃんの攻撃を大幅に緩和してくれているはずです。
「静流お姉ちゃん!」
 何度も何度も、私はお姉ちゃんの名前を呼び続けました。
「リン・・・ニゲロ・・・」
「お姉ちゃん?」
 私の声が届いたのでしょうか? お姉ちゃんの瞳から一瞬憎悪が消えたように思えました。
「リン・・・ワタシハ・・・オマエヲ・・・コロシタク・・・ナイ・・・ニゲロ・・・リン・・・」
 声も絶えだえに、静流お姉ちゃんが話しかけてくれます。
 そう、お姉ちゃんは必死に戦っているのです。
 パンドゥーラによってかけられた暗示を振りほどこうと、意識の下で自分自身と壮絶な戦いを展開しているのです。
 そんなお姉ちゃんを目の前にして、私一人が逃げられるはずはありません。
 お姉ちゃんが戦っているなら私も戦います。
 だって静流お姉ちゃんと私は血の繋がった姉妹だから。
 小さい時にはケンカもしました。
 それはおかしやおもちゃの取り合いだったり、どっちが叩いたとか蹴ったとかのじゃれあいだったり。
 たいていは私がわがままを言って、そんな私に静流お姉ちゃんが口うるさく小言を言ってきたりしたものでした。
 でも私は静流お姉ちゃんが大好きでした。
 いつもお姉ちゃんの背中を追いかけて、お姉ちゃんが死んだ後も少しでもお姉ちゃんに近付きたくて、だから強くなりたくて。
 式部京聖戦学府に正式に学徒として入学して、くのいちになって、そしてここまでやって来たのです。
 私はまだまだヒヨッコだけど、でも今目の前で苦しんでいるお姉ちゃんを見捨てて逃げるなんてできるはずがありません。
「静流お姉ちゃん分かる? 凛だよ。お姉ちゃんの妹の凛だよ」
 私は必死に静流お姉ちゃんに呼びかけ続けました。
「リン・・・りん・・・凛・・・?」
「お姉ちゃん!」
 私の呼びかけがお姉ちゃんに届いた、そう思ったのですが・・・
「残念だけどそうはいかないよ。忘れたのかい? 静流には『自分の肉親を殺すように』暗示をかけてあるんだ。
 自分から妹宣言なんかして、バカじゃないの? 子ネコちゃん」
 リリスさんの相手をしながらも余裕の表情のパンドゥーラです。
「さあ静流、もう遊びの時間は終わりだよ。そこにいる『アンタの妹』をさっさと殺しちまいな」
 パンドゥーラが静流お姉ちゃんに命じました。
「リン・・・イモウト・・・コロス・・・」
「お姉ちゃん!」
 静流お姉ちゃんの瞳に、再びあの冷たい憎悪の色が戻りました。
 村正の刀を振りかざし、私へと狂気に満ちた一刀を放ちます。
「うわっ」
 静流お姉ちゃんの攻撃を何とか紙一重でかわしましたが、その時、私の道具袋からポトリと何かが落ちました。
 生徒手帳です。
「いっけない」
 私はとっさに落とした生徒手帳へと手を伸ばしました。
 こんな時にと思われるかもしれませんが、生徒手帳にはとても大切な物がはさんであったのです。
 私が素早く生徒手帳を拾い上げたら、その大切な物がひらりとこぼれ落ちてしまいました。
「!?」
 それを見た静流お姉ちゃんの動きが止まりました。
 生徒手帳からこぼれ落ちた私にとっての大切な物、それは一枚の写真でした。
「コレハ・・・?」
「お姉ちゃんその写真覚えてる? 二人で一緒に撮った写真だよ」
 そう、その写真に写っているのは、静流お姉ちゃんと私なのです。
 あれはそう、忘れもしない、静流お姉ちゃんが式部京聖戦学府に入学した日のことです。
 校庭の桜の樹の下で二人で並んで撮ってもらったあの写真、そこには生前のお姉ちゃんと私が仲良く並んで写っていました。
 静流お姉ちゃんはまだ左目をケガする前で、おろしたての制服を着てちょっとすました顔。
 私も今よりちょっとだけ幼くて、桜柄の綺麗な着物を着ていました。
 静流お姉ちゃんが失踪した後、私はその写真を肌身離さず持ち歩いていたのです。
 だってその写真は、私にとって大切な宝物だから。
 お姉ちゃんがゆっくりと写真を拾い上げ、じっと見入っています。
 そして。
 眼帯をしていない右目から一筋の涙が零れ落ちました。
「凛・・・懐かしいな」
「お姉ちゃん!」
 どうやら静流お姉ちゃんは正気に戻ってくれたみたいです。
 昔の懐かしい想い出が、お姉ちゃんを現実へと引き戻してくれたのでしょうか。
 写真を見ながらとうとうと涙を流すお姉ちゃん。
 そんなお姉ちゃんに駆け寄って、そっと肩に手を置いてみました。
 するとどうでしょう。
 さっきはすり抜けてしまったのに、今度はしっかりとお姉ちゃんの身体に触れることができたのです。
 ひょっとしたら、防具に付与された対霊の効果かもしれません。
 感極まった私はガバッとお姉ちゃんの身体にしがみ付きました。
「お姉ちゃん・・・」
「凛、まったくお前はいつまで経ってもあまえんぼうだなあ」
「だって、だって・・・」
 今は亡霊となってしまったお姉ちゃんですが、この時ばかりはしっかりとその温もりや匂いをを感じることができました。
 私にとってはとても懐かしい、静流お姉ちゃんの感触でした。
 しっかと抱き合う私とお姉ちゃん、そこへパンドゥーラが忌々しい声で割り込んできます。
「何をしている静流、早くその女を殺すんだ。そいつはお前の妹だ。肉親を見たら殺すんだよ。さあ、早く!」
 すでに召喚した魔物のほとんどを倒され、孤立無援となったパンドゥーラです。
 パンドゥーラ自身もリリスさんと激しく戦っていたから、最後の切り札はもうお姉ちゃんだけなのかもしれません。
 しかし静流お姉ちゃんは、もうそんな言葉に惑わされたりはしませんでした。
「よくも私をたばかってくれたなパンドゥーラ。この礼はキッチリさせてもらうぞ」
 静流お姉ちゃんが村正の刀をパンドゥーラに向けました。
「ひっ、何をする静流・・・」
「問答無用!」
 気合一閃、お姉ちゃんの放った一刀は背中を見せて逃げようとしたパンドゥーラを捉えました。
「ギャー!」
 背中に大きな傷を負ったパンドゥーラ、その傷からは魔族の証である青い血がドクドクと滴り落ちています。
「おのれ・・・おのれ・・・よくも美しい私の身体に醜い傷を付けてくれたわね。この礼は必ずさせてもらう。覚えてな」
 パンドゥーラは捨て台詞を残して闇の中へと溶けて消えてしまいました。
「逃がしたか」
 悔しそうに顔をしかめるお姉ちゃんです。
 そんなお姉ちゃんに、私はもう一度抱き付きました。
「お姉ちゃん、ありがとうね」
「ん? 何がありがとうなんだ?」
「いろいろだよ」
「そうか、いろいろか」
「うん」
 私とお姉ちゃんは、しばらくそのまま抱き合っていました。
 お互いの温もりと存在をしっかりと確かめるために・・・

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