ウィザードリィエクス2外伝
凛の冒険 エピソード0

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10・魔軍VS式部京学徒

「静流・・・お姉ちゃん?」
「リン・・・コロス・・・」
 虚ろな瞳をした静流お姉ちゃんが、手にした刀を振り上げました。
 あの刀はそう、村正の刀に違いありません。
 父上の持つ村正よりは劣ると云われていますが、その切れ味は他の刀剣類を遥かに抜きん出ているはずです。
「コロス!」
 静流お姉ちゃんが村正の刀を私目掛けて振り下ろしました。
 私はとっさに忍刀で受けようと・・・
「凛、逃げろ!」
 とっさに聞こえたララスさんの叫び声です。
 私はその声に反応してその場から後方へと飛び去りました。
 次の瞬間、お姉ちゃんの放った一刀が、ついさっきまで私がいた場所へと突き刺さっていたのです。
 凄まじい切れ味を誇る村正の刀は、ロードの床を深々と貫いていました。
 もしも私が忍刀で受け止めようとしたならば、刀は折られ、そして私自身も真っ二つに斬り裂かれていたに違いありません。
「静流お姉ちゃん、しっかりして!」
 私はお姉ちゃんの名前を必死に呼びました。
 それで意識が戻ってくれればと願って。
「無駄さ子ネコちゃん。静流には自分の肉親を殺すように暗示を掛けてあるのよ。子ネコちゃんが『お姉ちゃん』を連発すればするほど、静流は子ネコちゃんに襲い掛かるってわけさ」
 パンドゥーラの嘲笑が耳に障ります。
 悔しい。
 本当に悔しくてたまりません。
 私には、魔族に操られて苦しんでいるお姉ちゃんを救うことはできないのでしょうか・・・
「リリス、静流をおとなしくさせる方法は無いか?」
「そうね・・・静流自身を止められないなら、彼女を操っているヤツを始末するしかないわ」
「確かに」
 ララスさんとリリスさんが頷きあって動き始めます。
「凛、パンドゥーラは俺たちが何とかする。お前は静流を説得し続けろ!」
「ハイ!」
「その前に、アクセス・・・」
 リリスさんが何やら呟き始めました。
「イカロスのマザーコンピュータに接続、物質情報を・・・」
 早口で捲くし立てるリリスさん、その言葉がピタリと止まりました。
 するとどうでしょう。
「あっ」
 私の着ていた忍装束が光の粒になって四散していきました。
 ホトロード中枢で体操着から着替えさせられたと同じように、私の身体は眩い光の中、下着姿になっているはずです。
 装備のバージョンアップを図ってくれているのだと思うのですが、私も一応女の子なので・・・
 突然裸にされるのは勘弁してもらいたいです。
 そんなことを考える間もなく、光が鎮まります。
「忍者迷彩と迷彩ズボンよ。それぞれ魂鎮めの効果を付加してあるわ。そして刀はコレ」
 リリスさんが一振りの刀を手渡してくれました。
「あずみよ。イカロスの物流庫にあるモノのなかで一番良さそうなものを選んでおいたから」
「ありがとう、リリスさん」
「でも気をつけて。あずみでは直接霊の類いを斬ることはできないわ。あくまで静流の攻撃を受けるだけだから」
「分かった。行ってきます」
 リリスさんから貰った新しい装備を身にまとい、静流お姉ちゃんへと向かいました。

 一方ララスさんは、すでにパンドゥーラとの戦いを繰り広げていました。
 九尾のムチを振り回し、召喚師ながらも肉弾戦を挑んでいるのです。
 その戦いぶりは、決してパンドゥーラに劣るものではありません。
「ええい面倒だ。お前の相手はコイツらに任せるとしよう」
 パンドゥーラが短い呪文を唱えると、ロードの空間に突然巨大な魔法陣が浮かび上がりました。
 魔界とこの世界とを結ぶ召喚陣です。
「出でよ、我が僕たち」
 パンドゥーラの叫びと共に、召喚陣からは魔物の大軍が押し寄せてきたのです。
 ゴブリン、オーク、トロルといった亜人種。
 ゴースト、ゾンビ、スケルトンなどの不死の魔物。
 その他にも私の知らない魔物もたくさんいます。
 突如として現れた魔物の群れに取り囲まれてしまったララスさん。
「けっ、向こうが数で来るならこちらもそれに合わせるだけだ」
 ララスさんは慌てることなく呪文を唱えます。
「ララスキマイラハリケーン!」
 ララスさんが叫ぶとこちらも巨大な召喚陣が浮かび上がり、そこからは大量のララスキマイラが次々と湧いて出てきます。
 ララスキマイラは次第に円形に陣を形作っていくようです。
 よく見るとそれは渦巻き状の陣形だと分かります。
「行け!」
 ララスさんが一言号令を発すると、渦巻き状の陣を作ったララスキマイラたちが一斉に回転し始めました。
 ララスキマイラ固体の回転と、渦巻き状の陣営そのものの大きな回転。
 二つの回転が複雑に絡まりあいながら、ララスキマイラの軍団が敵魔物の群れへと突っ込んで行きます。
 それはまるで大海に発生した巨大な渦潮が小船を飲み込むようでした。
 魔物の群れは次々とララスキマイラの渦巻きの中に飲み込まれ、回転ですり潰され、倒れた魔物は踏み付けられます。
 飲み込まれるのをまぬがれた魔物たちも激しく回転する渦巻きに弾き飛ばされていきます。
 パンドゥーラが召喚した魔物の群れは、今や半分にまで勢力を減らしていました。
 そのパンドゥーラ本人にはリリスさんが迫ります。
「アンタの相手はリリスが務める!」
「よくも来たわね、この電脳ロリータ小娘が」
「ナニよ、このインラン女が」
「ハン、いつまで経っても凹凸のない体型だねえ。女として情けなくないかい?」
「うるさい! チチなんてでかけりゃ良いってもんじゃないでしょ!」
「言うじゃないか、この★$#!」
「何ですってー、この☆℃@!」
 私にはとても口にできないような恥ずかしい言葉です・・・
 リリスさんとパンドゥーラは、お互いに技や口汚い罵り言葉を繰り出しては、攻撃や口撃を交わしています。

「ええい面倒だ。更に強力な魔界の軍団を召喚してやる」
 ララスさんとリリスさんの想像以上の反撃にあったパンドゥーラが、再度召喚の呪文を唱えます。
 またも出現した巨大な召喚陣から現れたのは、先ほどの魔物たちよりも遥かに強大な悪魔の軍団でした。
 グレーターデーモンを筆頭に、レッサーデーモン、フラック、サイデル、グレムリン、ミノタウロス、レイバーロード、ヴァンパイア。
 私なんかではとてもじゃないけど倒せない、どれをとっても強力な魔物の軍団です。
「ヤバイ、これ以上はキマイラを召喚できないぞ」
「こっちだってパンドゥーラの相手だけで手一杯だよ」
 ララスさんとリリスさんも、新たに召喚された魔軍にさすがに戸惑いの色を隠せません。
「ハーッハッハ! これでこの戦いはもらったようなものだね。モノども、やっておしまい」
 パンドゥーラが全軍に出撃の命を出しました。
 悪魔の大軍はララスキマイラに迫ります。
 元もとの固体の大きさが違う上に、ララスキマイラのほうはすでにかなりの戦力が疲弊してきています。
 あっと言う間に潰されていくララスキマイラの陣営。
 魔軍の勢力がララスさんに、リリスさんに、そして私にも迫りつつあります。
「ダメか・・・」
 ララスさんがつぶやいた、その時でした。
 ロードの空間が再度大きく揺らいだのです。
 そして
「ホークウインド隊、参上!」
「ホビット小隊、入ります!」
「夢見る乙女隊、行きまーす!」
 突如として現れたのは先輩学徒の皆さんです。
「先輩方・・・どうして?」
 私がつぶやいた時、通信機に式部京からの連絡が入りました。
「こちら式部京、ユリウスです。先ほどエルンロード中枢にて異常な魔物の出現を感知しました」
「ユリウス先生・・・」
「凛ちゃん、そこにいるんでしょ? 腕利きの学徒たちを派遣したから頑張って!」
「ハイ!」
 私がユリウス先生と通信をしている間にも、先輩学徒の皆さんは魔物の大軍相手に奮戦していました。
 ホークウインド隊がグレーターデーモンを次々と薙ぎ倒していきます。
 忍者と侍を中心にして結成されたホークウインド隊は、式部京のパーティの中でも一番の実力者揃いと言われています。
 夢見る乙女隊がレッサーデーモンを退けます。
 女の相手は女が務める。
 レッサーデーモンは女型の悪魔ですが、全員女の子で構成された夢見る乙女隊は見事に女同士の戦いを制していきました。
 そしてホビット小隊は、戦場を素早く移動して敵軍を混乱に陥れていきます。
 全員ホビットで構成されたこのパーティは、種族固有の素早さを活かした機動力が売りなのです。
 先輩学徒の皆さんの大活躍で、悪魔の軍団は壊滅へと向かっているのでした。

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