南座顔見世 華やかな舞台 2010.12.5 W279 |
京都南座の顔見世初日(11月30日)夜の部と二日目(12月1日)の昼の部へ行ってきました。
今回の顔見世は海老蔵突然の休演で、特に夜の部の序幕「外郎売」の代役を初役で務める愛之助がどんな舞台を見せてくれるかと、楽しみでもあり不安でもありましたが、落ち着いて難しい早口言葉の長台詞をほんの数日前に頼まれたとは思えないほどほぼ完璧にこなし、3年前やはり海老蔵の代役で鳴神を初役で見事に演じた時以上に感心しました。ただ相変わらず「イ」に近い「エ」の発音だけは、江戸前とは言えないのではと思いましたが。 夜の部の二幕目「一力茶屋」は由良之助に吉右衛門、おかるに玉三郎、平右衛門に仁左衛門という豪華な顔合わせで大変魅力的でした。由良之助が本心をあらわにして九太夫を打ちすえるところは、耐え忍んだ気持ちがマグマのように噴出。胸に迫ってくるものがありました。玉三郎のおかるは二階に現れて団扇でほてりをさましたり、手鏡をかざして手紙を盗み読む姿がしなやかで素晴らしく美しかったのが、心に残りました。おかると平右衛門の仲睦まじさは兄妹の幼いころを思い出させるようでした。仁左衛門も肩の力が抜けた平右衛門で良かったと思います。
三幕目の「河庄」では治兵衛の藤十郎が、他のだれにも真似できない自在な芸を存分に見せました。まだ初日とあってか治兵衛に意見する孫右衛門の段四郎が、終始プロンプターに頼りきりだったのは残念でした。太兵衛と善六を演じた橘三郎と寿治郎のアクの強い根性悪ぶりが堂に入っていました。小春の扇雀は激昂すると声が無残に割れてしまうのが、心中してもと思わせるほどの女らしい優雅さに欠けているように思いました。
四幕目は「鳥辺山心中」。お染の芝雀の可憐さが印象的で、半九郎の梅玉の「濁りに沈んで濁りに染まぬ清き乙女に恋をして」という名台詞も冴え冴えとしていました。果たしあいの相手・源三郎の松江の枠からはみ出すような激昂ぶりも好ましく感じられました。
最後が翫雀の「越後獅子」。後半不安定な一本歯の下駄で、その上長い晒しをふるという奮闘ぶりでしたが、これが終わると夜の11時というのにはげんなりしました。やはり出し物が5つというのは多すぎで、私が行った南座の顔見世の10回の内で一番遅い終演時刻ではなかったかと思います。
翌日昼の部は10時半からで、序幕は孝太郎と愛之助の踊り「羽衣」で始まりました。この日は祇園の舞妓さん芸妓さんたちの総見で舞台、桟敷席ともに華やいでいました。(余談ながら幕間にとなりの「松葉」へおそばを食べに出たら舞妓さんたちがたくさんいらしてました。(^^ゞ)
二幕目は「寺子屋」。松王丸が吉右衛門、千代は魁春、源蔵が梅玉、戸浪が芝雀というそれぞれぴったりの配役で見ごたえがありました。吉右衛門の松王のどっしりとした存在感は圧倒的で、松王の台詞、動き全てが確信に満ち溢れているように思われました。涎くりの種太郎の少年のような初々しさが可愛らしく、さかんに「播磨屋」という声がかかっていて、ほのぼのと明るい播磨屋の未来を感じました。 三幕目は「阿国歌舞伎夢華」(おくにかぶきゆめのはなやぎ)。休演の海老蔵に替って仁左衛門が山三を踊り、阿国の玉三郎との濃密な舞台を見せてくれました。仁左衛門の憂いのある伏せぎみの目が効果的で、阿国と山三の過ごした想い出の日々を彷彿とさせました。澤瀉屋の笑也、笑三郎、春猿、それに吉弥らの踊りもはんなりとした雰囲気を醸し出していました。
昼の部の最後は十三代目仁左衛門を偲んで松嶋屋三兄弟が演じた「沼津」。「棒鼻」では平作の我當のために舞台から客席に降りる階段もなだらかで頑丈な特製の階段がつけられ、南座には客席を横断する通路がないのでどうするのかと思っていましたら、十兵衛と平作はいったんロビーへ出て再度花道揚げ幕から登場。我當の平作は特におかしさを強調していませんでしたが、細やかな情が感じられました。「平作内」ではお米の秀太郎は印籠を盗もうかと思案するところで、いったん木戸の外へ出てふところに右手を入れるやり方でした。
千本松原の場では前の場の木戸の杭が、舞台転換の最後にパカッと開いて「千本松原」と書かれている杭になるのが松嶋屋の型で、悲劇の中にも微笑ましさを感じさせます。仁左衛門の十兵衛は最後まで心根の優しい男だというのが強く印象に残りました。三兄弟によって演じられた「沼津」はとても自然で、しっくりとかみ合っていると感じられる舞台でした。 南座の顔見世は充実していて華やかで、ハレの日のウキウキした気分をたっぷりと味わわせてくれました。祇園にゆかりのある演目「一力茶屋」や「鳥辺山心中」「阿国歌舞伎夢華」を当地で見るというのも素敵な経験でした。 |
この日の大向こう |
初日夜の部は初役で「外郎売」の五郎を演じる愛之助さんを応援する声がたくさんかかり、劇場全体が温かい雰囲気に包まれました。会の方はお昼よりは減ってお二方だったそうです。 二日目の昼の部は最初のうち声をかけられたのはお一人だけでがんばっておられました。「沼津」になると声を掛ける方もずっと増え、客席と舞台が一体となるような感じがして気分よく楽しめました。 |
12月南座演目メモ |
昼の部 |
壁紙:「まさん房」