義経千本桜 重厚な大物浦 2009.10.27 W255 | ||||||||||||||||||||||||
歌舞伎座さよなら公演十月芸術祭大歌舞伎、初日夜の部、20日昼の部を見てきました。
「義経千本桜」のあらすじ(各場をクリックしてください。) 夜の部は「義経千本桜」の半通しで、玉三郎初役の典侍の局がどうだろうかと楽しみでした。渡海屋で奥から出てきた玉三郎のお柳・実は典侍の局は、美しくかつ品がありました。しゃべりになるとあくまで宮廷人としてのおっとりとした雰囲気を重視していたようで、宿屋の女将さんが人が何を言ってもかまわずしゃべりまくるというような押しの強さが足りず、お芝居がトントントンと行かず、その辺の面白さはまだこれからだと感じました。 大物浦で十二単姿で登場した玉三郎はこんなに素敵に十二単を着られる人もなかなかないだろうと思えました。帝の乳母としての品格も十分でしたが初日だったため子役を後向きにさせたり下に抱えおろしたりするのに手間取り、お芝居の流れはちょっと停滞気味。典侍の局が帝を抱いて入水しようとする時の「いかに八代竜王恒河の鱗、安徳帝の御幸なるぞ。守護したまえ」と言うところは、最後の方でちょっと動いてしまったけれど、動かずに最後まで言い切った方が良かったように思いました。 定評のある吉右衛門の銀平はますます風格がそなわってきて番傘をさし、厚司をはおった姿で花道を出てくるだけで大きさを感じさせます。充分に手に入った役だからでしょうが、台詞廻しも実に堂々としていて、ぐんぐん引きこまれます。最後の大碇をつけて入水する場面も思いっきり良く大変に見事で、飛び込んだ後はしばし呆然としてしまうほどでした。 弁慶の段四郎は初日だからでしょう、最初の出の台詞が混乱していましたが、二度目の出「いかに知盛」は大変立派で、知盛を仏に帰依させたいという気持ちがよくわかりました。 富十郎の義経は、渡海屋で中合引?を使ったのは思ったほど違和感はなかったですが、お柳が酒をつごうとするところだけが高さが違うからかやりにくそうでした。けれども、富十郎の冴えわたった声は舞台を引き締め、格調を高めていました。 四天王は種太郎、巳之助、右近、隼人の若手が顔を揃えていましたが、新しい歌舞伎座ができるころにはこの人たちもすっかりたのもしくなっているだろうと思いをはせました。「渡海屋」と「大物浦」はそれぞれの役にかなった役者を得て、こくのある見ごたえのある場になっていました。 菊五郎は「吉野山」は素晴らしく良かったですが、「四の切」の方は自身でもインタビューで語っているように長袴のさばきが最初から上手くいかず、階段から出てきたときから袴がきれいにさばけていず、下手の渡り廊下のようなところへあがる時も、長袴を綺麗にはねあげることができなかったのは残念でした。こんなことは今までの菊五郎にはなかったので、一抹のさびしさを感じました。しかしながら毛縫の衣装になってからは非常にすっきりとした狐忠信で、台詞もしみじみと聞かせ義経がわが身につまされるのが自然に思えました。静御前は菊之助。 昼の部は「毛抜」の三津五郎初役の粂寺弾正が一番の注目ポイントでした。なにを演じてもすっとその役になってしまう三津五郎ですが、最初のころはちょっと地味な感じで客席の反応も鈍く(拍手がほとんどなくて)出てくるだけでご機嫌な弾正のユーモラスな雰囲気があまり出ていなかったように思います。毛抜を下に置いたのにもかかわらず、何も変化がおこらない状態がしばらく続くのも変だと思えました。 偽の万兵衛に閻魔大王への手紙をもたせるあたりから、だんだん調子がでてきて、最後は気持ちよく花道を引っ込んで行きました。花道七三の見得は刀をしめ縄にみたて頭上に両手で持ち上げるだいだいの型ではなくて、肩にかつぐやり方でした。 錦の前の梅枝がたよたよとしたお姫様の感じが出ていて好演。敵役玄蕃の團蔵もはまり役でした。玄蕃が弾正に討たれた後、首が飛ぶのは初めてみたような気がしますが、古い型ということです。 次は玉三郎の舞踊「蜘蛛拍子舞」。お柳とは違っていかにも娘娘した白拍子雛菊の柔らかな花びらのような玉三郎は女形としての美しさの極みと思えました。舞台一面に紅葉の枝で飾られ、まさに季節感あふれる演目。紅葉の真っ赤な枝を三人が持って踊るところが、刀を打つ火花が散る様子を現しているようで、面白く思えました。正体を現してからも蜘蛛の糸の投げ方が綺麗で、いうことなし。 後ジテの蜘蛛の精はこれまた思いきった白塗りに茶と赤と黒で恐ろしげな隈取りで、ぐわっと口を開けて真っ赤な舌を見せたり、玉三郎はこのすさまじい隈取りを楽しんでいるように見えました。押し戻しの坂田金時に三津五郎が登場し、華やかに締めくくりました。 三幕目が藤十郎の「河庄」。やはり紙治などを演じると藤十郎は圧倒的に上手いなと感じます。上方言葉を自由自在にあやつり一瞬で気分をさらっと変えてしまう、他の人にはとうてい真似できないだろうと思われる芸をたっぷりと見せてくれました。 治兵衛の兄、孫右衛門の段四郎は肚がしっかりしているので、言葉が多少遅くても問題なく藤十郎をがっちりと受け止めていました。小春の時蔵は少しやつれた感じの女郎という雰囲気が良く、かよわそうでも芯のしっかりした女性に対してまるで子供のようにだだをこねるダメ男という構図にはまっていました。 封印切の八兵衛を連想させるいじわるな太兵衛を亀鶴が達者に演じ、その連れの善六の寿治郎も印象に残りました。時蔵の次男、萬太郎が丁稚の三五郎を演じていました。 最後は松緑の長男、藤間大河(ふじまたいが)の初お目見えのための一幕で「音羽嶽だんまり」(おとわがだけだんまり)。まず最初に吉右衛門、菊五郎、大河、松緑、そして富十郎による口上があり、本人はただ一言「よろしくお願いします」と可愛らしい声でしっかりと言いました。 その後は色とりどりの衣装で11人もの登場人物が華やかに大河の門出を祝っていました。鬘は違ったものの菊五郎と富十郎が似たような格好だったのには、ちょっと不思議に思いました。 |
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この日の大向こう | ||||||||||||||||||||||||
初日とあって、大向こうさんも6人いらしていて、一般の方もここぞというところではたくさんの方が声をかけていらっしゃりとても賑やかでした。 「渡海屋」で段四郎さんの弁慶が出てくるまでかからなかった声が直前に「京屋」とかかりはっとしましたが、京妙さんにかかった声のようでした。「吉野山」では「女雛男雛」の件でどっと「御両人」という声がかかりました。^^; 昼の部は最初はおひとりだけでしたが、おしまいには大向こうさんも二人見え声がかかっていました。「河庄」ではいろいろ掛けるポイントがあるんだなぁと、たいへん面白く感じました。 たとえば小春が「なんにも言うて、くださんすな」とあまりの辛さに癪をおこしはっと胸を抑えるところ、怒りに我を忘れた治兵衛が小春に「人の皮着た、どどど狸め」とぽんと膝を打つところなどなど。節目節目で掛かる声が、上方言葉に良い具合にマッチしてリズムが良くなっていたと感じました。 それから治兵衛が「魂ぬけてとぼとぼうかうか」花道へ出てきてもすぐには声がかからず、七三で向き直って初めて掛かっていたのも納得でした。 |
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10月歌舞伎座演目メモ | ||||||||||||||||||||||||
昼の部 |
壁紙:「まさん房」 ライン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」