盟三五大切 仁左衛門の源五兵衛 2008.11.25 W232

23日、歌舞伎座でおこなわれている「歌舞伎座百二十年 吉例顔見世大歌舞伎」昼の部を見てきました。

主な配役
薩摩源五兵衛 仁左衛門
笹野屋三五郎 菊五郎
芸者小万 時蔵
家主 左團次
若党八右衛門 歌昇

賎ヶ谷伴右衛門
実はごろつき勘九郎

権十郎
了心 田之助
富森助右衛門 東蔵
虎蔵 團蔵

「盟三五大切」のあらすじはこちらです。

四世鶴屋南北が71歳の時に書いた「盟三五大切」は昭和51年に国立劇場で復活上演されてから8度めの上演とのこと、「忠臣蔵」の後日談という設定で書かれた前作「東海道四谷怪談」がうまく取り入れられていて、初演当時の観客は大喜びしたことでしょう。ひねったユーモアやグロテスクな残虐場面など、大南北ならではの魅力にあふれたお芝居です。

これまでに3度三五郎を演じてきた仁左衛門が、今回初役で源五兵衛を演じました。仁左衛門の源五兵衛はみるからに姿の良い二枚目で、小万にぞっこん惚れこんで何もかも貢いでしまう人の良さはぴったりでしたが、一転してだまされた恥辱をはらそうと虎蔵の家に忍び込み五人を斬り殺すところでは、あまり凄味は感じられません。

しかし三五郎夫婦が隠れすむ元おいわの住んでいた長屋に訪ねてくるあたりから、冷え冷えとした気を発散しはじめ、ついには小万の腕の「五大力」が「三五大切」に書き換えられているのを見て、そこまで馬鹿にされた屈辱と恨みから、小万の子供をその手で殺させ、小万をじわじわとなぶり殺す源五兵衛には、すさまじいまでの迫力がありました。

その後、源五兵衛は小万の首を大事に懐へ入れて仮の住まいにしている愛染院に持って帰るのですが、三五郎の家の戸口にたたずむ源五兵衛の目がくらがりの中でも真っ赤だったのは、ぞっとする光景でした。愛染院で小万の首の前でご飯を食べながら、本当はこうしたかったと呟いた時、やはり本当に小万を愛していたからこそこれほど残虐なことをやったのかと思わせるそんな源五兵衛でした。

ところで鶴屋南北世話狂言集(春陽堂)を読んでみると、源五兵衛は「ヤイ、小万、このようにわれと二人食事をしようと思うたに、心柄こそ」と「首に茶をぶっかける」とあり、仁左衛門の源五兵衛像とはだいぶニュアンスが違うように思いました。

小万の時蔵は艶のあるあでやかな姿と深川芸者の男っぽい口調がよく似合っていました。根から悪い人間ではなく故主に義理だてする夫に頼まれ気がとがめながらも源五兵衛をだます小万は、はまり役。小万の妹分の芸者・菊野の梅枝もしっとりとしたものごしが、印象に残りました。

三五郎の菊五郎は、たいした罪悪感もなく源五兵衛をだまして金をとる小悪党じみた調子の良さ、鬼横町の長屋の面白さなど、明るいところはとても合っていました。しかし小万の兄を手に掛けてしまってから大詰めの切腹までの急転直下の心もちの変化がもっと感じられてもよかったように思います。

歌昇が律儀で主人思いの若党・八右衛門をあますところなく見事に演じていました。小万の兄で家主弥助実は御用金泥棒の左團次は、得体の知れないうす気味悪さが出ていていつもとは違う雰囲気。三五郎の父・了心を田之助が足が悪いのをあまり見せず元気に演じていたのはうれしく思いました。

次が藤十郎の「廓文章」-吉田屋。藤十郎の廓文章は松嶋屋のやり方よりずっとあっさりしていて、簡素。伊左衛門の花道の出には差出を使いませんでしたが、古風な雰囲気をかもしだす差出を使う方が私は好きです。

その他おきさの出でも、伊左衛門が隠れていてだれだか当てさせるようなこともせず、幇間が出てきて仲直りの仲裁をする件もありません。ひたすら伊左衛門をクローズアップするやり方で、他の人のしどころはほとんどないという感じ。

夕霧の魁春は伊左衛門との間にできた子供とも引き離されている悲しい境遇や、実際には若死にした夕霧の不幸を背景に感じさせる、大人びた夕霧でした。

藤十郎の伊左衛門の手がつきたてのおもちのようにやわらかそうで、それだけで苦労したことがない大店の若旦那を表現していたのには感心しました。

この日の大向こう

今月も都内4箇所で歌舞伎の公演がおこなわれているためでしょうか、「盟三五大切」の最初のうちどこからも声がかからず、大向こうさんはどなたもみえていなかったようです。

と思っていたら序幕「佃沖新地鼻の場」の 主役三人が顔を揃えた見得で、一階のなかほどで男の方が、もうがまんできないといった感じで掛け始められました。この方はお声もまわりの迷惑になるほど大きくないと思えましたし回数は少ないながら、特定の役者さんに限らずここぞというところで掛けておられたので、かなりの歌舞伎通とお見受けしました。

源五兵衛が小万の首をもって引っ込む花道の見得で、もうおひとり声を掛けられただけという有様でしたので、まったく声がかからないという寂しさがこの方に救われた気分でした。

ただ一か所、源五兵衛が「まことに人では・・・」と言いかけた間で、すばやく掛けられたにもかかわらず、三五郎が「ええ?」と問い返すのに少しかぶってしまったのだけが、残念でした。ここは声を掛けないほうが良かったと思います。

「廓文章」になると三階から威勢の良い声が聞こえはじめ、それからはさきほどの方はまったく掛けられなかった事にも良識を感じました。ところで「廓文章」では山城屋さんの御贔屓の方なのか、はっきり聞き取れない声を二三回掛けられた方がいらして、何とおっしゃったのかちょっと気になりました。

11月歌舞伎座昼の部演目メモ
「盟三五大切」 菊五郎、時蔵、仁左衛門、田之助、團蔵、権十郎、錦之助、東蔵、友右衛門、歌昇、梅枝、左團次、翫雀
「廓文章」 藤十郎、魁春、我當、秀太郎、

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