実盛物語 花も実もある実盛 2007.4.19

8日と18日に歌舞伎座中村錦之助襲名披露公演の夜の部を見てきました。

主な配役
斉藤別当実盛 仁左衛門
葵御前 魁春
九郎助 亀蔵
小よし 家橘
小万 秀太郎
太郎吉 千之助
瀬尾十郎兼氏 彌十郎

「実盛物語」のあらすじはこちらです。

仁左衛門の実盛は、平成16年の前回にもまして姿や、高低差のある豊かな台詞廻しがほれぼれするくらい爽やかで、まさに水を得た魚のようでした。数多い役の中でもベスト3に入るはまり役だと感じました。

糸に乗るのが非常に上手く、見得はまるで桜の花がぱっと咲いたように華やかで、注目の「物語」も、平家の侍にその女を捕らえろと言われる「いやもう口々に」で見せる、いかにも「弱ったなぁ」という表情などなど、こんなに面白いものだったのかと思い、その一方優しさや深い悲しみの情も充分に感じられ、花も実もある実盛でした。

花道を出てきただけであたりが明るくなるようだったといわれる十五代目羽左衛門はきっとこんな雰囲気の役者だったのでしょう。

今回太郎吉を仁左衛門の孫の千之助が演じたことで、いっそうほのぼのとした雰囲気が感じられました。千之助はまだ糸にのれませんけれど、見得をきっぱりときめてみせたのが頼もしかったです。18日に見た時は三味線が千之助の台詞に合わせてすこし速めに弾いていました。瀕死の瀬尾の長台詞の間、じっと瀬尾の顔から目をそらさないでいたのは上出来でした。

いったん死んだ小万が、腕を継いだら少しの間息を吹き返すところは、幽霊が出てくる時の「ねとり」が演奏され、これが怪奇現象なのだということが判りました。この秀太郎の小万も哀れでとてもよかったと思いましたが、彌十郎の瀬尾が腹をさされてからの述懐をしみじみと聞かせました。魁春の葵御前も姿のたおやかさ、物腰の品のよさ、死んだ小万への情などが素晴らしかったと思います。

最後に馬に乗った実盛の幕外の引っ込みは、馬との感情の暖かい交流を感じさせる場面を楽しませてくれました。この馬がまたなかなか姿の良い愛嬌のある馬でした。

口上は新・錦之助が師と仰ぐ富十郎が中心になって行われ、雀右衛門、芝翫親子、梅玉・魁春兄弟、仁左衛門三兄弟、親戚筋の吉右衛門、勘三郎親子に萬屋一門の若手など二十三人が、ずらっと顔を揃えて祝いの口上を述べました。信二郎を子供のころから知っている人たちが、「昔はわんぱくだった」と言っていたのはちょっと意外に感じました。

角力場」は富十郎が濡髪、錦之助がつっころばしの若旦那・与五郎と素人相撲取・長吉という対照的な二役を演じました。富十郎の濡髪はさすがに貫録充分で、懐の深さを感じさせました。8日だけだったのかもしれませんが、富十郎の息子の大ちゃんが黒衣で床几の後ろに控えていて、濡髪が握りつぶす茶碗を渡していました。

錦之助の与五郎はニンに合っているようで、茶屋の親父とのやりとりなども面白く演じていました。長吉の方は勢いが不足気味で、特に濡髪がわざと負けたのだと知った後、カッとくるところが物足らなく感じました。

この場面では一杯に声を張らなくてはならないので、8日にもちょっと不安を感じましたが、18日に見た時はやはり声を痛めていたように思いました。しかし全体としてはずっと良くなっていました。

歌江、京蔵、芝喜松が演じた、吾妻を連れて出てくる仲居たちが廓の女らしい雰囲気を醸し出していました。東蔵の茶店の親父は何を演じてもソツがなく、地味ながら獅童の三原有右衛門が平敵として面白い味を出していたのには驚きました。福助の吾妻も危ういところで蓮っ葉にならず、なんとなくたよりなげなところが出せたのがよかったです。

劇中で濡髪が隼人が演じる弟子・閂に歌舞伎座の頭取に錦之助襲名祝いの楽屋見舞を届けさせたり、茶屋の亭主が錦之助が演じる与五郎に「錦之助にそっくり」と言ってみたり、襲名演目ならではのお遊びがありました。

最後が勘三郎の「魚屋宗五郎」。勘三郎の宗五郎が妹を理不尽に殺された悲しさと悔しさのあまり、絶っていた酒を飲んでだんだん崩れていくところが恐ろしく上手いと思いました。まわりの人々とのアンサンブルもよく、特に勘太郎の三吉は自然な軽さがぴったりでした。

花道から沈鬱な表情で出てきた勘三郎声の声がいつになくぼそぼそとしていたので、声の小さな人だったと話に聞く六代目はこんな感じではなかったかなぁと思っていたところ、筋書きに勘三郎自身が今回六代目のテープを聴いたと書いてあったので、やっぱり!と我が意を得た思いでした。(*^^)v

我當の家老は実直な感じが合っていましたが、18日には玄関の場で床几に腰かけていたので、よほど足の具合が良くないのでしょう。錦之助の磯部の殿様の、宗五郎夫婦へ心から詫びている様子には好感が持てました。

この日の大向こう

8日は会の方は2人ということでしたが、口上にはたくさんの声が掛かっていたようです。瀬尾の首を見事討ち取った太郎吉に「豆松嶋」という声がかかっていました。

ある大向こうさんのお話では「松嶋屋」と「豆松嶋」「千之助」の三種類を場合に応じて使い分けていらっしゃるそうです。亀蔵さんの九郎助と一緒の出では「松島屋」と亀蔵さんに掛けるので、この子役さんは仁左衛門さんのお孫さんだということをお客さんにアッピールするために「千之助」とおかけになさったりするとか。

角力場の最後、濡髪の富十郎さんと長吉の錦之助さん揃っての見得では、富十郎さんが身体をころして新・錦之助さんに譲っていらっしゃり、柝の頭で掛かった声は「萬屋」でした。

18日の口上では、錦之助の挨拶に「おめでとう!」という声が掛かり、雰囲気がもりあがりました。この日は会の方はベテランの大向こうさんお一人で、気持ちの良い声を掛けていらっしゃいました。

しかし「魚屋宗五郎」の前に帰ってしまわれたようで、それまで一緒に調子よく掛けていた一般の方の声もバッタリ掛からなくなり最後はちょっと寂しかったです。上手な大向こうさんはいわばチアリーダーのように一般の方の声をリードしているのだということがよくわかりました。

歌舞伎座4月夜の部演目メモ
夜の部
「実盛物語」 仁左衛門、魁春、秀太郎、千之助、彌十郎、亀蔵、家橘
「二代目中村錦之助襲名披露口上」
「角力場」 富十郎、錦之助、福助、彌十郎、獅童、
「魚屋宗五郎」 勘三郎、七之助、勘太郎、時蔵、錦之助、我當

目次 トップページ 掲示板

壁紙&ライン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」