実盛物語 菊五郎の捌き役 2003.5.12

8日、歌舞伎座昼の部に行ってきました。

主な配役
実盛 菊五郎
瀬尾十郎 市蔵
九郎助 左團次
葵御前 萬次郎
小よし 右之助
小万 芝雀
仁惣太 亀蔵

実盛物語のあらすじ
保元の乱で源義朝は平清盛に討たれる。しかし後白川院は源氏の「白旗」を義朝の弟、義賢(よしかた)へ与える。義賢は源氏再興に力を尽くすが平家の軍勢に攻められ、身重の妻、葵御前を琵琶湖のほとりに住む百姓九郎助のところへ落延びさせる。また「白旗」を九郎助の娘・小万に預け、壮絶な討ち死にを遂げる。-ここまでが「義賢最期」

ここ九郎助のうちでは妻小よしが、娘の小万の行方がしれないのを案じている。そこへ網打ちに行った九郎助と孫の太郎吉が、女の片腕を見つけて戻ってくる。しっかりと何かを掴んで放さないその手は、太郎吉が指を一本一本開くと不思議に簡単に開いた。手が握っていたものは義賢が小万に託した源氏の「白旗」だった。

そこへ平家方の侍、斎藤別当実盛と瀬尾十郎兼氏が、この家の甥・仁惣太の訴えによって、かくまっている葵御前のお腹の子の詮議にやってくる。
実盛(さねもり)は「もし女児なら命は助けよう」と言うが瀬尾(せのお)は「腹を掻っ捌いて確かめろと清盛から命じられている」と迫る。

そこへ小よしが生まれた赤子を抱いてくるが、錦の包みの中は女の片腕がだった。怒る瀬尾に、今は平家方だが源氏に心をよせる実盛は「鉄の玉を産んだ」という中国の故事を持ち出し、こういうこともあるかもしれないと言いつくろう。瀬尾は引き上げる振りをして藪の中に隠れる。

葵御前は実盛の温情に感謝する。すると実盛が「以前白旗を持った女の腕を切り落とした事がある」と言い出す。

白旗をもって逃げた小万は泳いで琵琶湖を渡ろうとしたが、平家の軍勢に追いつかれるところを実盛が助けあげようとする。だが他のものが白旗を奪おうとするので、もと源氏につかえたことのある実盛は白旗が平家の手に渡るのにしのびなく、やむなく小万の腕を水中に切り落としたと物語る。

そこへ村のものが打ち上げられた小万の遺体を運んでくる。実盛の提案で、切り落した腕に白旗を持たせ遺体の腕に繋ぎあわせると、小万は一時息をふきかえすがまもなく息絶える。九郎助は「小万は実は本当の娘ではなく、光盛という銘のある刀と共に拾った平家に縁のある者の娘」となげきつつ物語る。

それを見ていた葵御前は今度は本当に産気づき、男児を出産。義賢の幼名、駒若丸と名づける。九郎助は太郎吉を若君の家来にと葵御前にたのむが、「平家に縁のものなら、一度手柄を立てたなら家来にしよう」といわれる。

そこへ隠れていた瀬尾が出てきて、小万の遺体を足蹴にし、若君を渡すように迫るが、太郎吉が突き出した母の形見の小刀に倒れる。実は小万は瀬尾の実の娘。娘を育ててくれた九郎助の恩に報い、又孫の太郎吉に手柄を立てさせるため進んで太郎吉に討たれたのだった。

晴れて若君の家来となった太郎吉に実盛は「成人したら母の敵である自分を討ち取るように」と言い残して馬に乗って去っていく。


「源平布引滝」(げんぺいぬのびきのたき)の「実盛物語」は人形浄瑠璃から移入されたお芝居です。木曽義仲誕生の物語で、実盛は実存する「手孕村(てはらみむら)」の名前を付けたり、木曽義仲の家来の手塚太郎の名付け親となったり、二十数年後の自分の討ち死にの際の黒髪の由来も予言。これは縁起譚といわれる手法で「道明寺」の道真の像の話などと同じです。

今月は九代目團十郎と五代目菊五郎の没後100年を記念して、それぞれの当たり役を当代の團十郎と菊五郎が演じました。

五代目の当たり役だったという実盛を演じた菊五郎ですが、なかなか立派な実盛でした。物語で糸にのるところも小気味よく、カドカドで極まる形も美しくて、今まで見たことがない菊五郎の裁き役でしたが、菊五郎十年ぶりに演じた実盛は成功だったと思います。

太郎吉の鼻をかんでやったり馬に乗せてやったりするところも自然の情がありました。太郎吉の清水大希君、今回も間がとてもよくて上出来。

今回の上演で話題になったのは新・市蔵の瀬尾が最期に見せる「平馬返り」という技です。膝をついて足首を立てたような状態から一気に前方宙返りするのですが、これにはビックリ!今までは瀬尾役者は割りと年配の方が多かったのでこういう荒業は見たことがなかったです。

以前團蔵が瀬尾を演じたときにこの「平馬返り」をやったそうです。

新・市蔵は声がそれほど低くないので、敵役としてあまり凄味はないのですが、今後は持ち味を生かした役で活躍していただきたいと思います。

いつも瀬尾を演じている左團次は今回九郎助を演じましたが、こちらのほうが合っているように思いました。左團次のひょうきんなところはどうしても役に出てきてしまうので、本当は敵役でない役のほうが良いのでは・・・しかし「俊寛」の方の瀬尾は近頃堂々たる瀬尾になってきたと思います。

小よしは田之助と筋書きに書いてあったのにの、実際は右之助が演じ、顔がちょっと若すぎるようでしたが、いろいろと用事の多い役なので代わって良かったかもしれません。

ところで九代目團十郎はこの「実盛物語」の実盛を「二股武士」と嫌っていたそうで、演じようとしなかったという話です。

「幡随長兵衛」の水野を演じた新・権十郎は兄萬次郎に似た良く通る声、出尻清兵衛の新・男女蔵はこれまで赤っ面の役が多かっただけに新鮮に見えました。、長兵衛倅長松を演じた新・男寅はとても可愛らしく、口上の時はじっとしていられませんでしたが、お芝居になるとなかなかしっかりしていて、感心。

この日の大向う

この日は大向うの会の方はひとりもいらっしゃいませんでした。最後の「幡随長兵衛」のときなど、それまで数人掛けていたのが、二人くらいに減ってしまってちょっと寂しかったです。

実盛物語では「物語せんと〜」と実盛が前にすすみでるところで「まってました!」と声が掛かりました。ですが肝心の竹本にかぶってしまいましたので、あそこにはあまり綺麗に掛けられないようです。それと「まってました!」はやはり時代物より世話物に合う掛け声の様な気がしました。

口上の時「〜代目」と言う声が沢山掛かりました。今回六代目を襲名なさる役者さんが二人いらっしゃいました。「六代目と呼ばれてしかるべき役者は一人しかいない」とおっしゃる方もありますが、襲名の時くらい、盛大に「六代目」と掛けてお祝いしてもいいのではないかしらと思いました。

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