『 永遠 ( とわ ) に ・・・! ― (2) ―
』
§ 教授の娘 (2) ― 承前 ―
「 さあ ・・・ ! お食事にしましょう。 皆さん、どうぞ?
えっと・・・ あの。 あなた・・・・も ご一緒なさってくださいな? 」
「 ・・・・・・・・ 」
ヘレンは殊更明るく皆に声をかけた。 そして ― ジョーの後ろに見え隠れている女性にも笑顔を向けた。
「 ありがとう、ヘレン。 あ 彼女はフランソワーズ。 ミッション時には 003 さ。 」
ジョーはさらりと言うと ・・・ね? という表情でフランソワーズに笑いかけた。
「 ・・・・・・・・・ 」
その女性はいっそう顔を強張らせ、ますますジョーの背中にしがみつく。
「 フランソワーズ・・・大丈夫だよ。 ここはぼくの家・・・ 今は皆のアジトさ。 」
「 ・・・ 家 ・・・? ジョーさん、あなたのお家・・・? 」
「 そうだよ。 長旅で疲れただろ? ちょっと・・・先に休んだほうがいいかな・・・ 」
「 ・・・・ジョーさん ・・・ このヒトたちは 誰 ・・・? 」
「 誰・・・って ・・・ あの 」
「 あれ〜〜 どうしたんだァ〜 えらく他人行儀じゃんか、003。 」
のっぽの赤毛が無遠慮に口を挟む。
「 ゼロゼロ・・・ なんですって? 」
今度はへレンが目を見張っている。
「 ミス・へレン? 00・・・で始まるのは我々のコード・ナンバーなのだよ。
彼女は ・・・ 003だ、 < お仕事 > の時にはな。 」
「 ミスタ・ブリテン・・・ そうなのですか。 あの それじゃこの方も サイ 」
「 ああ 悪いけど。 皆 先に食事を始めていてくれないか。
彼女・・・ちょっと疲れているからね。 部屋で休ませてくるよ。 」
ジョーはヘレンの言葉を遮った。
「 あ ・・・ ああ。 それがいい。 すまんが俺たちは先にやっているよ。 」
「 うお〜〜 腹 減ったァ〜〜 ヘレン〜〜 メシ、メシ〜〜!」
「 そ・・・うですか? それじゃ・・・ あ、なにか果物とかでもお持ちしましょうか? 」
「 ああ そうだな。 それじゃお願いしようかな。 あと・・・水のペット・ボトルを頼みます。
さあ フランソワーズ、 こっちだよ。 安心していいんだ。 」
ジョーは小さな子供と連れてゆくみたいに彼女の背に腕をまわした。
「 ・・・ メルシ ・・・ ジョーさん ・・・ 」
まだ怯えた瞳で、 でも彼女はジョーにだけほんのりと笑顔を見せた。
「 ・・・ お嬢さん? ご気分は悪くないですかな。 」
ギルモア博士が ごく自然な調子で口を開いた。
博士はずっとメンバー達の会話を聞いているだけで ひと言も発していなかったのだ。
「 ・・・? あの ・・・ あなたは? 」
「 ああ ・・・ ギルモア博士といって・・・ まあ、ぼく達の監督・相談役・・・かな?
大丈夫、信用していいよ。 お医者さんでもあるから具合が悪ければ・・・ 」
「 ・・・ 大丈夫ですわ。 ちょっと・・・頭痛がするけど・・・ 」
「 それならば お嬢さん ・・・ま、後からホットミルクでも運ばせましょうな。
今夜はゆっくりお休みなさい。 全ては明日 ・・・ そのほうがいい。 」
「 ・・・ はい ・・・ ありがとうございます・・・ 」
「 博士 ・・・ それじゃ・・・ 」
ジョーは博士にちょっと頭をさげると フランソワーズを半分抱きかかえる風にしてリビングを出て行った。
「 博士 ? 」 「 博士! 」
リビングのドアが閉ると、サイボーグ達の視線が一斉に博士に向けられた。
「「「 彼女はどうしちゃったんです!? 」」」
「「「 本当に <彼女> なんですか?? 」」」
「 うん? ああ ・・・ おそらく99%・・・ 彼女は003じゃ。
どうも完全に記憶が混乱しておるようじゃな。 なにがあったかわからんが。 」
「 記憶・・・って! こん前のミッションの時は アイツ、フツ〜だったじゃね〜か。 」
「 あの後・・・ マドモアゼルはパリに帰ったのだったよなあ。 」
「 そうだった。 ジョー達とは別れて、一人でパリに戻ったんだ。 」
一瞬 沈黙が広がった。
その間に ・・・ なにかあったのか・・??
誰もが同じことを考えていた。
「 あ、そんじゃ・・・博士、 検査して簡易メンテでもすればいいじゃね〜か 」
「 バカだな、お前。 いきなりそんなことしたら彼女は怯えるだけだぞ。
何しろ・・・ジョー以外、我々とは <初対面> なんだから。 」
「 ふ〜ん、そんじゃ オレ達ってば単なる 怪しい・オッサンズ ってことか。 」
「 左様 左様・・・ まさにホット・ミルクと一晩の眠り、が最上の治療薬ってトコだろうよ。
しかし なんでまた マドモアゼルは忘れちまったんでしょうかね、博士? 」
「 わからん。 事故や災害に遭った・・・とは思えんしなあ。 」
「 ふ〜ん ・・・ そんじゃオレらはともかくメシ! メシにしよ〜ぜェ〜〜!! 」
「 ったく お前は〜〜 食うことしか考えないのか!? 」
「 いや・・・一理あるぞ? ここで案じていてもどうにもなるまい? 」
「 そうだ。 次の一歩のために休息が必要だ。
ピュンマの容態も安定した。 つぎ、考えねばならない。」
ジェロニモ Gr.の端的な発言に 皆がうんうん・・・と頷いた。
ジャンジャン〜〜!! かァん カンカン・〜〜〜
「 アイヤ〜〜〜 皆はん、どないしてん。 早う席についてや〜〜
腹が減っては なんとやら 言うやんか〜〜 」
大人がなべのフタをお玉で叩きつつ キッチンから顔を覗かせた。
「 うわ〜お〜〜待ってましたァ〜〜 」
「 ほっほ・・・ た〜んと食べれば ええ考えも浮かびまっせ〜〜 」
「 なんでもい〜から メシ〜〜〜 」
「 お前は 〜〜 腹具合にしか関心はねえのかよ? 」
「 るせ〜〜〜 」
彼らは 声高に談笑しつつ食堂に集まっていった。
ヘレンはにこにこして黙って彼らのヨタ話を聞いていたが ― ふっと出口に視線を向けた。
― ジョー ・・・ あのヒトが そんなに気になるの・・?
カタン ・・・ ジョーが 二階から戻ってきてドアを開けた。
「 ・・・ あれ、皆は? ・・・・ あれれ ヘレン ? 」
「 ・・・ ァ ・・・ ごめんなさい。 ぼんやりしてしまって・・・
は〜い それじゃ晩御飯にしましょう! 張さんが腕を振るってくれたの、とっても美味しそうよ。
ジョーさん、あの方・・・フランソワーズさんは? 」
「 うん ・・・ かなり疲れているみたいなんだ。 本人は大丈夫っていうのだけれど・・・
あ そうだ クッキーかなにかないかな? 少しでもなにか食べると落ち着くと思うんだ。 」
「 昨日 焼いたクッキー、まだ残ってます。 クラッカーもあるからカナッペでも作りましょうか。
あの ・・・ あの方が・・・003 だって、本当ですか? 」
「 うん。 でも、さっきも見ていただろう? ものすごく混乱していて・・・
本人に 003 であった記憶は全然残っていない。 」
「 ・・・ まあ ・・・ それじゃ みなさんのことも・・・ 」
「 ああ。 ぼく達の全員が <初対面> だし、この家・・・ いや、この国自体、初めてだろうね。 」
「 そうなんですか。 それで あんなに怯えた瞳をして・・・ 美しい方なのに・・・ 」
「 うん・・・ 今はそっとしておいてやるしかないな。
皆 彼女と会うのを楽しみにしていたのに。 」
「 ジョーさんも・・・? 」
「 え ・・・ あ うん・・・ 彼女とはずっと・・・一緒に闘ってきた仲間だからね。 」
「 そう ・・・ね。 あ、今 果物とクッキー、持ってきますね。 ちょっと待っててください。 」
「 うん ・・・ ありがとう、ヘレン! 」
ヘレンはキッチンへと急いだ。
彼女の瞳の奥には 先ほどの二人の姿が焼きついて離れない。
怯えた彼女を ジョーはそれは大切に扱っていた・・・ まるで脆いガラス細工みたいに・・・
ジョー ・・・
なんて優しく笑いかけるの・・・
なんて ・・・ 穏やかに話しかけるの・・・
なんて ・・・ なんて 愛しそうに 彼女を見るの・・・!
ヘレンは いつの間にか彼女の心の中にしっかりと住み着いたセピアの瞳の青年に
熱い言葉をなげかけていた。
コ ・・・トン。 自然に足音を潜めてしまう・・・
「 ・・・ ミルクとクッキー ですけど・・・あの? 」
ヘレンはトレイを捧げたまま 声をかけた。
あの女性 ― フランソワーズが滞在する部屋は ドアが半開きになっている。
「 ・・・ あの・・・? 」
遠慮してそっと声を掛けたのだが・・・ 中の人物にはとどかなかったらしい。
頼まれたことでもあるし、とヘレンは意を決してドアの正面に立った。
・・・・ あ ・・・・ ジョー ・・・さん
「 ・・・・・・・ 」
ヘレンは そう・・・っとトレイをドアの横に置くと 立ち去った。
― しっかりと口を押さえて。 ・・・泣き声を漏らさないために・・・
ドアの内側で ジョーはあの亜麻色の髪の女性を両腕で抱いていた。
「 ・・・フラン ・・・ お願いだ、しばらく ほんの暫くこうさせてくれ・・・ 」
そんな彼の独り言を聞いたのは 当の亜麻色の髪の乙女だけだった。
― その夜、 とうとう 003 は、 仲間たちの前に姿を現すことはなかった。
§ 踊り子 (2)
― カツ カツカツ ・・・カツ ・・・
ジョーは狭い階段を彼女に着いて登っていった。
「 ・・・ あの お兄さんは・・・ 」
「 ええ ・・・ 今日は帰ってこれなかったみたい・・・
今日の公演は 絶対に見てやる、って言ってくれてたのに・・・ 」
「 お兄さん ・・・ 軍関係の仕事、なんだろ? 」
「 ええ ・・・ 空軍のパイロットなの。 やっぱり忙しかったのかなあ・・・ 」
「 うん ・・・ きっとお兄さん、がっかりしているよ。
きみの今晩の舞台、 とってもよかったからね。 」
「 え ・・・ まあ、見ていらしたの? 」
「 うん ・・・ 」
「 嬉しいわ! ふふふ・・・ 自分でもちょっとは上手くいったな〜って思ってて・・・ 」
「 よかったね。 」
「 ええ、 夢への第一歩、よ。 がんばっちゃいます、わたし♪
さ ・・・ ここです。 ね、お願い、ちょっとだけでも寄っていってください。 」
二人は 階段の一番上、最上階まで登ってきた。
古びた、しかしがっちりしたドアの前でジョーはまだ躊躇っていた。
「 わたし ・・・ ジョーさんのこと、信用していますから。
お兄ちゃん・・・いえ、兄も怒ったりしないと思います。 さあ どうぞ。」
フランソワーズは さっとドア開けた。
「 ・・・ それじゃ お邪魔します。 ありがとう。 」
「 こっち・・・あ、コート、どうぞ? ここに座ってください。 」
彼女はジョーを招きいれると リビングと思われる部屋に案内した。
「 今 ・・・ 荷物、置いて ・・・ お茶、淹れますね。
ちょっと 待っててください。 あ・・・ ウチは煙草、オッケーですからね〜
灰皿、どうぞ使ってくださいね。 お兄ちゃんってば もう・・・ヘビー・スモーカーなの。 」
ちょっと肩を竦め、でもにこにこしつつ彼女はリビングから出ていった。
ああ ・・・ 落ち着いた・・・いい部屋だな・・・・
地味だけど 居心地がいい・・・
ジョーは椅子に掛けたまま、何気なく周囲を見回した。
年季の入りかなり色褪せた壁紙は どうやらもとはビアズレー模様だったらしい。
テーブルには手編みと思しきレースのクロスが広げられていて 中央には陶器の花が飾ってある。
その脇にやはり陶器の灰皿が置いてあった。
ジョーはそっと手に取ってみた。
ずっと お兄さんと ・・・ 暮らしていた・・?
これは ・・・?
灰皿には ― ホコリが溜まっているだけだった。
使われていた形跡は 見当たらなかった。
ふと目を転じれば 部屋の隅のサイド・ボードの上には沢山の写真立てが飾られている。
別に隠してあるわけでもないので 彼は立ち上がりひとつ、ひとつ見ていった。
若い夫婦と小さな息子。 赤ん坊を抱いた婦人。 父と息子。
幼い兄と妹、そして両親。 惚れ着の家族 軍服姿の青年。 チュチュを着てポーズする少女。
兄と妹 ― フランソワーズが明るく笑っている。
どれもこれも 家族の歴史、 どこの家にも飾られている類の写真だった。
これが ・・・ フランソワーズのお兄さん・・・ 彼女の家族なのか・・・
ああ ・・・ なんて幸せそうに笑っているんだ・・・!
ジョーの心はいたたまれない想いで一杯になった・・・
そこにある写真は。 どれもこれも丁寧に飾られチリひとつなかった が。
・・・ これは。
全て ― セピア色に変色し 隅に書かれた日付は色褪せており、半世紀前のものだった ・・・
「 お待たせ〜〜 さあ 熱いうちに召し上がれ・・・ 」
カチャ・・・ 陶器の音が響き、フランソワーズがお茶を運んできた。
「 あ ・・・ どうもありがとう。 こんな時間に 本当にすみません ・・・ 」
「 うふふ・・・ もうそれは言いっこなし。 ジョーさんはわたしの恩人ですもの。
兄だって喜んでお招きすると思うわ。 」
「 ありがとう。 頂きます ・・・ 」
「 はい、どうぞ。 こっちはチーズ・クッキー。 キャラウェイ入りで兄が好きなんですけど・・・ 」
良い香りが 部屋いっぱいに広がった。
「 ・・・ うん ・・・ 美味しい! きみの手作りかな、上手だね。 」
「 ありがとう! ああ お兄ちゃんったら〜〜 どうして帰ってこれなかったのかしら〜 」
「 お兄さん・・・軍人なんだろう? 仕方ないよ。 」
「 ・・・ そうなんだけど。 ジョーさんのこと、紹介したかったな、わたし・・・ 」
「 え ・・・ 」
「 あ ・・・ だって。 わたしの、わたし達のこと、助けてくださった恩人ですもの。 」
「 きみは ・・・フランソワーズ。 あの・・・本当に何も覚えていないのかい。 」
「 え? なんのこと? 」
碧い瞳がじっとジョーに注がれる。 そこにはいささかの陰も見えない。
彼女自身は 全く本当に記憶が ない・・・ のか・・・
「 さっき襲ってきたヤツラ ・・・見覚えは? 」
「 ううん・・・全然。 ・・・ あ そういえば・・・ 」
「 なにか? 」
「 ええ。 あの・・・ ずっと視線が ・・・ 」
「 視線? 」
「 そうなの。 舞台でわたしのことをず〜〜〜っと追いかけている視線があったの。
ううん、踊りを観ている っていうカンジじゃないの。
なんていうのかしら・・・ こう・・・粘りつくみたいな・・・イヤなカンジ。 」
「 心当たり・・・なんかないよね? 」
「 ええ。 あ、でもとっても温かい気持ちの視線も感じたわ。
安心できて ・・・ 応援してもらえました。 」
「 ・・・・・・・ 」
微笑む彼女が ・・・ ジョーは抱き締めたいほど愛しい・・・。
「 妙なことを聞くけれど・・・ きみのクローゼットに見慣れない服がないかな。 」
「 見慣れない ・・・ 服? 」
「 うん。 そのう・・・特殊な服なんだ、赤い服なんだけど。 」
「 ??? なんだか・・・・わからないけど。 見てみるわ・・・
ああ 兄の部屋も探してみます。 ジョーさんのお手伝いになるなら・・・ 」
フランソワーズはちょっと首を傾げつつも 自室に探しにいった。
彼女の部屋に ・・・ 防護服があれば。
しかし ・・・ それは彼女の幸せを奪うことになる・・・
ぼくは ・・・ やはり彼女にとって疫病神なんだ・・・
ぼくは ・・・ 来なかった方がよかったのか・・・
ジョーはぐ・・・っと手を握った。
自分は 今。 彼女の幸せを・・・この手で潰そうとしている ・・・
「 ジョーさん? ちょっと・・・ 来てください〜 」
となりの部屋から 彼女の声が呼んでいる。
「 ・・・ どうしたのかい。 」
ジョーは 席を立ち、彼女の声にする方へ出ていった。
寝室のドアを開け、フランソワーズが怪訝な表情で立っている。
「 どうした? ・・・ あったのかい。 」
「 ・・・ ええ ・・・ これ のことですか・・・? 」
フランソワーズは部屋の中から 薄いケースを持ち出してきた。
「 クロゼットの奥に置いてあったのですけど。 こんなケース・・・知らないわ。初めて見るわ
わたしのじゃ ありません。 あ ・・・ お兄ちゃんが置いたのかしら。 」
「 本当に・・・ 見覚え、ないのかい。 」
「 ええ。 ね、怖いから開けて ・・・ くれませんか。 」
「 ― ぼくが 開けてもいいのかな。 」
「 ええ。 これはわたしのものじゃないわ。 」
「 ・・・・・・・・・・ 」
― カチリ。 ジョーはケースを開けた。 ・・・ 彼には馴染んだ作業だった。
目の前にひろげられた赤い特殊な服 ・・・ フランソワーズは目を見張っているだけだ。
「 ・・・ これは。 なに・・? 見たこともない服だわ。 」
「 見覚えはない? きみの服 ・・・ ではないと思うかい。 」
「 いいえ? これ・・・パンツ・スーツ・・・ いえ、なにかのユニフォームみたい・・・
かわった手触りの布ねえ・・・ まあ ・・ これはスカーフかしら・・・ 」
「 そう ・・・ か。 うん ・・・ きっとこれは・・・ お兄さんのものなんだよ。 」
「 兄の?? ・・・ それならどうしてわたしのクロゼットに??
・・・ あら? これ・・・ 兄にはサイズが小さいのじゃないかしら。 」
「 お兄さんの部屋は・・? 」
「 こっちよ。 」
彼女は反対側のドアを開けた。
「 ごめんなさいね、散らかっていて・・・ もう お兄ちゃんったら・・・ 」
フランソワーズは苦笑しつつ、電気のスイッチを押す。
「 でもなにも特別なものは置いてないと ・・・・ 」
「 ・・・・ ・・・・ 」
ぱちり、と点った灯りの下に ― ホコリが積もった部屋が浮かび上がった。
確かに ― 余計なものは なにも、ない。 いや ベッドと古びたチェストがひとつ だけ。
チェストの上には埃がたまり、ベッド・カバーは色褪せている。
そのベッドも使われた形跡はない。 そう 長い間・・・
「 ・・・ 変だわ・・・? だって ここ・・・ お兄ちゃんの部屋なのに・・・!」
フランソワーズは もう泣きだしそうな顔で 冷え冷えとした部屋に立ち尽くしている。
ジョーはそっと彼女の肩に手をおいた。
「 怒らないで聞いてくれるかな。 」
「 なんですか。 」
「 ・・・ きみがお兄さんと・・・最後に会ったのは いつ? 」
「 え? ああ・・・この前の休暇の時だから・・・ えっと ・・・・
・・・え ・・・あら?? いつ だったかしら ・・・・?? あ・・・・あら?? 」
不安な瞳がきょろきょろと動く。 一生懸命 思い出そうとしているのだが・・・
「 ・・・ 思い出せない・・・の・・・わたし・・・アタマがどうかしてしまったの・・? 」
「 フランソワーズ・・・ もう いいよ。 ごめん ・・・ 」
ジョーはそっと彼女の肩に手を当てた。
「 いいんだ。 たいしたことじゃない。 」
「 ・・・いいえ! だって 兄は ・・・ 兄は・・・確かに・・!
ウチに ・・・ ここに帰ってきたのよ・・・! 」
「 ああ ああ そうだね。 きみのお兄さんは軍務に忙しいんだよ。 ね? 」
「 ・・・ え ええ ・・・ 」
「 ― うん? 誰か ・・・来た? 」
ジョーはふと、顔を上げた。 彼も 003ほどではないが強化された聴覚を持っている。
「 え? なにも ・・・ 聞こえてなかったわ? 」
「 ・・・ うん ちょっと ・・・ 」
「 見てくるわ。 」
「 ・・・あ! 待って! 」
フランソワーズは ぱっと玄関に駆け出した。 ジョーは慌てて彼女を追う。
「 ・・?? あ あら? 」
「 危ないから気をつけて・・・ どうした? 」
「 ジョーさん。 これ・・・ 」
「 ? 」
アルヌール兄妹の部屋のドア横に 薔薇の花束が置いてある。
豪華な紅薔薇の花束、というよりも花籠で大仰に盛り上げてあった。
「 きれい・・・ でも 誰からかしら。 え・・・でも今ごろこんな時間に配達? 」
カードでも着いてないかしら・・・と彼女は花かごの側に屈みこんだ。
「 !? ・・・触っちゃいけない・・! 」
「 え・・・? あ・・・! ジョーさん・・・ 」
ジョーは その花籠を掴み一瞬にして ― 消えた。
「 ・・・ ジョーさん??? うそ・・・どこへ行ったの??
だって 階段を降りてゆく足音も聞こえなかったのに。 」
ぶる・・・ 全身に震えがきた。
夜気の寒さのせいだけではない。 言い知れぬ恐怖が彼女を襲った・・・
な なんなの・・・ なにか ・・・とてつもないことが・・・起こっている?
わたし ・・・ どうしたらいいの・・?
ガクガクと震える脚を懸命に踏みしめ 部屋に戻った。
ほんの数時間前まで 舞台の成功に酔っていたのに・・・
ライトを浴びて 拍手をもらって。 にこやかにレヴェランス していたのに・・・!
今 ここでガタガタ震えている自分が とても信じられなかった。
わたし ・・・ 本当に わたし なの・・・?
くたくたと床に崩折れたとき ― ズガ −−−−ン ・・・・!
かなり遠くで なにか・・・爆発音が聞こえた。 事故でもあったのだろうか・・・
― バン ・・・!
ドアに なにかがぶつかった。
「 ・・・?! 」
「 ぼくだ、 ジョーです・・・! 」
「 あ!! は、はい! 今すぐに開けます!」
彼女は 急いでドアを開けた。
「 ・・・ ジョー ・・・さん ・・・! 」
「 やあ・・・ もう安心していいよ。 <おくりもの> は始末した・・ 」
「 始末? ・・・じゃあ あの音が? 」
「 うん ・・・ ちょっとね。 厄介なことになってしまったな。 」
「 ジョーさん ・・・わたし・・・ 」
「 大丈夫、今夜はぼくが一緒にいますよ。 」
「 ・・・・・・・ 」
大きな青い瞳が じっとジョーを見つめている。
「 ・・・ 一緒に ・・・ 連れていって・・・! 一人は ・・・ 怖い・・・!」
「 わかった。 ぼくが護るよ。 一緒に行こう!」
「 何処へ? 」
「 ― 日本へ・・・! 」
ジョーは ぎゅ・・・っと彼女の震えている身体を抱き締めた。
― フラン・・・ フランソワーズ ・・・!
たとえきみが ぼくのことを永遠に思い出させなくても
ぼくは ・・・ ぼくは。
きみを 護る! そう 永遠に ・・・・!!
「 行こう。 ・・・ 夜が明けないうちに この街を出る。 」
「 ・・・ Au revoir Mon Paris ・・・・ 」
§ 教授の娘 (3)
「 よい・・・しょ・・・っと。 」
「 ええと・・・? これで全部かしら。 」
「 そうですね。 ふう・・・ この国はお野菜や果物が沢山ありますねえ・・・ 」
「 そうね。 あなたのご出身は ・・・え〜と? 」
「 わたし、パリ生まれなんです。 あの ヘレンさんは? 」
フランソワーズとヘレンは両手にレジ袋を提げ、裏口からキッチンに入ってきた。
ジョーの家に着いて3日、 フランソワーズの体調はほぼ回復していた。
未だに <003> についてはなにも思い出せていない・・・
それでも彼女は フランソワーズ として だんだんこの家に、そして<仲間たち>と馴染んでいった。
・・・ ジョーさんのお仕事の役に立てるのなら・・・!
それに ・・・ 皆 変わってるけどイイヒトたちみたいだし・・
ヘレンと一緒に食事の用意やら買出しに出かけたりし始めた。
女性たち二人の存在は この家の空気を和らげ明るいものにしていた。
「 ヘレン、で結構よ? 私? 私はロンドン生まれよ。 でも父は転勤が多かったから・・・
ポーツマスやダートマスとか・・・ いろいろ住いは変わったの。 」
「 わあ。 そうなんですか〜 素敵! わたし、いろいろな国へ行ってみたいなあ〜って思ってました。
ニッポン もすご〜〜く興味があって。 パリっこにはアコガレなんですよ。 」
「 そうなの? この辺りは穏やかできれいな地域よね。 とっても明るいし・・・
さ〜て・・・ 今夜のメニュウは・・・ 何にしようかな? 」
「 それは張さんに ・・・ あ。 そうか 張さん、今晩はお店の方に出かけているのでしたっけ・・・ 」
「 ええ。 せっかく繁盛してきたお店なのに・・・ 全部後輩に譲り渡してくるって。 」
「 なぜ?? 」
「 ・・・ この戦いが厳しいものになるから、でしょうね。 後顧の憂いを断つ ってわかる? 」
「 こうこ・・・? わかりません。 」
「 判らないほうがいいかもしれないわ・・・ さあ私達は美味しい食事を作りましょ。 」
「 そうですね! メニュウ、どうします? ヘレンさんのお得意料理とか・・・ 」
「 それじゃ・・・ この国でもポピュラーな カレー にしようかしら。 男のコは皆好きみたい。 」
「 カレー・・・? それってインド料理・・・じゃないのですか? 」
「 もともとはね、 でもこの国でのカレーはまた別の料理らしいわ。 」
「 よくご存知ですね。 」
「 国にいたころ、父の部下に日本人の方がいたの。 母も日本にいたことがあるって・・・ 」
「 お母様、どんな方 ? 」
「 私が子供の頃に亡くなってしまったの。 優しいヒトだったわ 母は ― ・・・・・ あ・・? 」
ことん ・・・ ヘレンの手から 洗いかけのジャガイモが落ちた。
「 落ちました・・・ ほら。 」
「 ・・・ あ ・・・ ああ ・・・ 」
ヘレンは宙の一点を見つめたまま 手が止まっている。
母は ・・・ 私の ママ ・・・ ママ ・・・?
・・・ 顔が ・・・ 思い出せない・・・
ママ ママ ・・・! ママの笑顔 ・・・ ママの声 ・・・
・・・ 私のママ ・・・・!?
― どんなヒト だった・・・の ・・?
「 ・・・・? あ ・・・ご、ごめんなさい! わたし、何かいけないこと、聞いてしまいました? 」
フランソワーズがこそ・・・っと言った。
「 ・・・え ・・? あ ああ いいえ ・・・ ご ごめんなさい なんでも ないの。 」
「 あの・・・大丈夫ですか? ジャガイモ、わたし洗います。
フランス人もね、ジャガイモ、好きなんです。 わたしのママンのフリット ( フライ )ね〜
パパもお兄ちゃんも大好きでした。 」
「 ・・・ そう ・・・それじゃ・・・ お願いできる? 」
「 ええ 喜んで♪ うふふふ・・・ ジョーさんも気に入ってくれるかなァ〜 」
パリジェンヌは頬を染めてジャガイモをゴシゴシ洗い始めた。
「 ・・・・・・・・ 」
ヘレンは 彼女に背を向けて肉のブロックを取り出しまな板に置いた。
・・・ パパ ・・・? 私のパパ は ・・・ 父はウィッシュボン博士。
ガンコな科学者で 軍に所属して数々の研究成果を挙げ・・・
一人娘の私のことを愛してくれ ・・・た ・・・
でも。 パパの笑顔が ・・・ 可愛がってくれたはずのパパの笑顔が ・・・
・・・・ パパ ・・・!
パパの笑顔が ・・・ 見つからない・・・
私 ・・・! 思い出せない ・・・・!!?
「 あの・・・ ヘレンさん? ご気分が悪いのですか? どうぞ休んでいらしてくださいな。
わたし、一人でつくれますから・・・ 」
「 ・・・ あ・・・ フランソワーズさん ・・・ 」
何時の間にかしゃがみ込んでしまったヘレンの背をフランソワーズがそっと撫でる。
「 ・・・ い いえ・・・ 」
「 だめです、無理しちゃ。 さっき仰ったでしょう? これからの闘いは厳しいものになる、って。
今はゆっくり休んでおいたほうがいいです。 」
「 ・・・ ありがとう・・・ あなた、やっぱり 003 なのね? 」
「 ― わかりません、 本当に全然 覚えてないんです。
わたしにわかるのは ・・・ ジョーさんの笑顔がとっても嬉しいっていうことだけ。 」
亜麻色の髪を揺らし頬を染め ― 彼女はとても愛らしく見える。
・・・ そう ・・・ そうなの ・・・
あなたも ジョーさんを ・・・
<003> じゃなくてもあなたは ジョーさんが 好き なのね
「 ごめんなさい ・・・ 申し訳ないけどちょっと横になってきてもいいかしら。 」
「 ええ どうぞ! あの! <カレー> は無理だけどポトフなら作れます!
ママンのポトフも美味しいの。 任せてください。 」
「 それじゃ ・・・ お願いします・・・ 」
ヘレンはエプロンを外すと キッチンから出ていった。
「 ・・・ だらしないわね、ヘレン。 これしきのことで ・・・
! ・・・ ヘレン ・・・って。 私・・・は本当に ヘレン・ウィッシュボン なの・・・? 」
踏みしめる足元が ぐらぐらゆれ崩れ落ちる・・・ みたいに感じる。
一歩 一歩 踏みしめ手すりにすがり、二階の寝室にたどりついた。
着替える気にもならず そのまま、ベッドに転がり込んだ。
「 私は ― ヘレン。 ヘレン・ウィッシュボン 」
天井を見つめ 確かめるみたいにひと言 ひと言、くっきりと言ってみた。
目の前に翳す手は 見慣れた手、細いけれどしなやかな指には傷ひとつ ない。
「 私は ウィッシュボン博士の娘。 ブラック・ゴーストに追われて ・・・ 」
でも。 ― ほんとう ・・・?
この手は・・・ 本当に ニンゲン の手 なの・・・?
この家に集まっている人々、ジョーも、そして あの女の子も <サイボーグ> なのだという。
サイボーグ ・・・ 父の研究もサイボーグ兵士の能力 ( ちから ) に関わることだった。
サイバネティック・オーガナイズ ― 脳組織以外の身体のパーツをメカニズムを代替し能力をアップさせる。
「 ・・・ もしかしたら。 私は ― 私も ・・・ さ ・・・サイボーグ・・?? 」
とんでもない考えが浮かんでしまった。
「 そうよ・・・・! もしかしたら。 記憶が曖昧なのはそのためなの??
私は ・・・サイボーグで ・・・<ヘレン・ウィッシュボン> という記憶を与えらえただけ・・・なのかも・・・ 」
目の前の白い手が、たった今まで自分のものと信じていた、その手が ― 不気味に見える。
この中には ― もしかしたら。 メカが ・・・ 詰まっている・・?
・・・ コードや ICチップが ・・・ 血や骨の替わりに詰まっているかも・・・
私 ・・・ もしかしたら。 ブラック・ゴーストが送り込んだ ・・・スパイ・・・?
「 いいわ。 私。 自分自身で確かめてみるから・・・! 」
ヘレンはベッドからゆっくりと起き上がった。
ベッドの脇にはシンプルなナイト・テーブルが置いてある。 引き出しを開けてみた。
「 ナイフ・・・ いえ この部屋には置いてないわね。 ・・・あ、ハサミ! これなら・・・ 」
ごく普通のハサミだが 先端の尖っている部分を突き立てれば ―
「 ・・・ 私は・・・ 私は・・・・! 」
ハサミを握った手を振上げ ― 目の前に置いた我が手を目掛け !
「 ― バカなことは やめるんだッ !! 」
彼女の手が がっちりと握り止められた。
「 !?!?? ジョーさん ・・・・! 」
「 なんてことを・・・ 君の綺麗な手を傷つけるなんて・・・ 」
ジョーはしっかりと彼女の右手を握ると、ハサミをもぎ取った。
「 あ ・・・ でも でも ・・・わたし。 」
「 君は! ヘレンだよ。 ちゃんとした生身の人間だ。 ― ぼく達とは ちがう・・・! 」
「 ・・ ジョーさん ・・・ジョー ・・・・! 」
「 ヘレン ・・・ 」
ジョーはすがり付いてきたヘレンを 優しく抱いた。
「 君 ・・・ 君もなにか混乱しているんだね・・・
でも安心していいよ。 ここには仲間がいるんだ。 君を護る。 」
「 でも・・・でも、私・・・・もしかしたら・・・ ブラック・ゴーストの・・・ 」
「 もし君がヤツラの一味だとしたら。 どうしてヤツラは君を襲うのだ? 」
「 でも でも・・・・ 」
「 最初、004が、アルベルトが 疑っていたけれど・・・でも今は皆そんなこと、思っていないよ。
それどころか感謝してる。 フランソワーズの面倒をみてくれて・・・ 」
「 ・・・ やっぱり ジョーさんは・・・ 」
「 え なに。 」
「 ・・・ なんでもありません。 ああ 食事の用意、手伝わなくちゃ。
フランソワーズさん・・・きっと一人でてんてこ舞いしているはずよ。
なにしろ ・・・ 10人前、作るのですもの。 」
「 うん 頼むよ〜 さっき・・・ジェットがジャガイモ剥きを押し付けられて悲鳴、上げてた・・・ 」
「 まあ・・・ それじゃ急いで救助に行かなくちゃ。 」
「 救助? 」
「 ええ。 ジャガイモの救助。 ジェットさんにやらせておいたら・・・悲惨よ!
ジャガイモがかわいそう・・・! 」
「 あははは・・・ そうだね。 じゃ・・ 行こうか。 」
「 ・・・ ええ ・・・ 」
ジョーは笑って彼女を放すと、先にたち寝室を出て行った。
・・・・ キスもしてくれないの ね ・・・
やっぱり私は ・・・ただの仲間 ・・・いえ、 <居合わせたヒト> なのね・・・
護ることが <仕事> だから・・・?
そう・・・ 仕事だから なのね、 あなたの優しさも ・・・
ヘレンは声もなく 重い吐息を漏らしていた・・・
― ズガ −−−−−− ン !!!!
突如 爆音とともに家全体が揺れた。
「 ?! な、なに ?? 」
ヘレンは衝撃で床に転がってしまった。
「 ・・・ い・・たた ・・・ ジョー ・・・ みんなは・・? 」
必死の思いでよろめきつつもリビング・ルームへ降りていった。
§ 踊り子 (3)
― ズガ −−−−−− ン !!!!
大音響とともに ぐらり、と家が揺れた。 リビングのガラスも数枚 割れた。
「 うわ!? な、なんだ 〜〜〜 !!! 」
「 う?! 敵襲か?? 」
何事もなく寛いたメンバーたちは慌ててリビングに集まってきた。
「 博士!? 大丈夫ですか!? 」
「 ・・・ おお〜〜 諸君 ・・・ ワシはなんとか無事じゃよ〜〜 」
「 なんだ なんだ? ・・・ 外になにかいるのか? 」
「 ちょっと待て。 今 ・・・ レーダーを ・・・ 」
― グゥワ −−−− ンッ !!!
再び家全体が揺れ どうやら門扉が吹っ飛ばされた模様だ。
「 うわ〜〜 お、 おい! グレート、早く レーダーを稼働させろ ! 」
「 ちょ ちょいと待ってくれ ・・・ 」
「 早くしろ! 」
≪ 海中に潜航艇発見! 座標を送るわ、004、002! 009!! ≫
ふいに全員のアタマの中に聞き慣れた 声 が響いた。
「 んん ??? 」
「 あ ?? 」
「 お?? お・・・ おうよ! ・・・ 了解! オッサン、行くぜ! 」
「 ― 了解。 」
たちまち長身の二人がリビングの窓から飛び出して行った。
そのまま二人は裏手の崖っぷちから海上に飛びたちまち004のミサイルが海中へと突き刺さる
ドガ −−−−−− ン !!!!
「 ・・・ こ、攻撃 成功! 海中の敵は壊滅した模様・・! 」
グレートがレーダーのモニター前から怒鳴った。
「 なにネ、アンサン。 いまころレーダー稼働したアルか。 」
「 んなこと言ってもなあ〜 ・・・ レーダーはいつもマドモアゼルの担当で我輩は・・・ 」
「 声 聞こえた。 彼女の声だ。 」
「 左様 ・・・ あれはマドモアゼルからの全員への脳波通信だった・・・ 」
「 フランソワーズ!!! 」
ジョーが防護服で飛び込んできた。 どうやら海中から直行したらしい。
彼の足元には 水溜りができている。
「 ジョー。 マドモアゼルなら キッチンのはずだぞ。 」
「 うん ・・・ あ ヘレンさん ・・・ 寝室にいるんだ・・! 」
「 俺、 見てくる。 ジョー お前は 」
ジェロニモ Jr は黙ってキッチンを指した。
「 ・・・ん ! ありがとう! 」
ジョーは小さく頷くと 大股でリビングを横切って行った。
「 ・・・ フラン? フランソワーズ・・・? 」
「 ・・・ ・・・ 」
キッチンの隅に 隅の床に。 彼女はこめかみを押さえ縮こまっていた。
「 フラン! 大丈夫か!? 」
「 ・・・ ジョー ・・・さ ・・ん ・・・ 」
ジョーは飛んでいった彼女の身体にそっと両腕を回した。
しなやかな身体は固く冷え、ぶるぶると小刻みに震えている。
「 どうした? 怪我は? ガラスが飛んでこなかったかい。 」
「 ・・・ うん でも 大丈夫・・・ 」
「 そうか・・・ ああ こんなに髪にガラスのカケラが・・・ 切れたところは? 」
「 ・・・ 平気みたい・・・ チクチクするけど・・・ 」
「 そうか。 よかった・・・ 念のため 博士に診ていただこう。
・・・ もう、平気だよ、怖いことはない。 ヤツラは壊滅したからね。 」
「 ― ジョー! わたし ・・・わたし、気が・・・狂ってしまった・・・の??
アレは ・・・ なに?? なぜ 見えるの どうして 聞こえるの!?
わたし ・・・さっき、 なにを言ったの!? 」
「 フランソワーズ・・・ 落ち着きたまえ。 なんでもないんだ、 なんでも・・・ 」
「 でも ・・・ でも! わたしの目が 耳が ・・・ 勝手に・・・! 」
「 いいんだ、もう・・・忘れるんだ。 ほら、こうすれば。 もう怖くはないだろう? 」
ジョーはふんわり・・・ 彼女を抱きかかえた。
「 安心しろ。 どんなことがあってもぼくが護る。 きみを護るから・・・ 」
「 ・・・ ジョー・・・ 」
書斎として使っている部屋で博士はヘレンの脚に包帯を巻いていた。
「 ・・・ ほい、これでお終いじゃ。 打撲と脚がガラスの破片で少し切れただけじゃよ。
綺麗な顔が無事でよかったのう・・・ 」
「 まあ 博士ったら ・・・ お上手ですのね。 ありがとうございました。 」
「 ほんにまあ ヤツラは相変わらず荒っぽいことをするのう・・・
しかし ウチの皆さんは頼りなるでの、アノ程度ではビクともせんよ。 安心なさい。 」
「 はい・・・ 皆さんは? あら フランソワーズさん ・・・ 」
「 おお ジョー・・・ どうしたね? 」
ジョーがフランソワーズを連れてきた。
「 彼女・・・ガラスの破片を被ってしまって・・・ 怪我がないかどうか診てくださいませんか。 」
「 おお おお 勿論。 さあ ここにお座り。 」
「 ・・・ はい ・・・ 」
「 私、お茶でも淹れてきます。 皆さん 一息いれましょう。 」
へレンは殊更明るく言って キッチンへと席を立った。
「 ああ ありがとう、ヘレン・・・!
さあ フランソワーズ? こっちに座って・・・ 」
「 はい。 」
フランソワーズは素直に博士の前に座った。
「 ・・・ おやおや・・・ガラスの破片がこんなに ・・・ ジョー、ブラシを持ってきてくれ。
お嬢さん? どこか痛むところはありませんかな? 」
「 多分 ・・・大丈夫・・・と ・・・ 」
「 ふむ ・・・? この傷は・・? 」
「 え? ・・・ ああ この首の後ろの、ですか。 ずっと前から・・・ 子供の頃からあるんです。
古傷です、もうなんともありません。 」
「 ほう・・・ それならいいが ・・・ うん、どこも怪我はないですな、よかった よかった・・・ 」
「 はい。 あ わたしもお茶の仕度、お手伝いしてきますね。
なにかお好みのお茶はあります? 」
「 そうじゃなあ・・・うん、わしはロシアン・ティ がいいのう・・・ 」
「 わたしも好きです〜 それじゃ 美味しいの、淹れてきますね? 」
「 うんうん・・・ 宜しく頼むよ。 」
「 はい♪ 」
フランソワーズは やっとにっこり笑うとヘレンの後を追ってキッチンに行った。
博士は 彼女の後姿をじっと見ていた が。
「 ・・・ふむ・・・? 子供の頃からの古傷 ・・・とな・・・
― 003 には あんな傷はないなあ。 」
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updated :02,08,2011.
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******** 途中ですが
・・・・何処まで書くか??? まだ決めてません〜〜 (泣)
が! まだもうちょっと続きます。
いろいろ原作のエピソード、すっ飛ばしていますが
( ぴゅんまさまの件とか ) 93めいん・ヨミ?? ですので
お目を瞑ってくださいませ <(_ _)>
お気に召さない方、スルーしてくださいね〜