『  プリンセス in  ブルー  ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ざわ ざわ ・・・  周囲の < 森 > が揺れた。

そこは 森、 いや 森に似た空間だった。  樹木にもみえる長細いものが無数に密生している。

生まれて初めて足を踏み入れた場所なのだが なぜか違和感はない。

フランソワーズの目は さっきからずっと・・・まん丸に見開かれているままだ。

「 あの ここ は・・・ メリジェーヌさま?  これは この沢山あるものはなんですか。 」

「 ここはね、 精霊の杜 ( もり ) よ。私たちの王国を護ってくれている精霊たちが棲んでいるところなの。 」

「 精霊の杜 ・・・  ここも 森 なんですね・・・・ 

 じゃあ ・・・ この長細いものは 樹 なんですか。 」

フランソワーズは そうっと側の < 樹 > に触れてみた。

それは彼女が見慣れている木々より 幾分ひんやりとしていて小枝も葉も柔らかい。

この森はとても深い ・・・ 彼女は < 眼 > で素早く周囲を観察していた。

 

真珠の宮 に助けられた次の日、メリジェーヌ姫に誘われて 精霊の杜  にやってきた。

「 ・・・・ そこにはなにがあるのですか? 」

「 あのね、精霊の社 ( やしろ ) があるの。 聖なる場所なのよ、ここに棲むヒトに是非会いたいの。 

 フランソワーズ、貴女を紹介するわ。  そして、お願いをして力を貸してもらわなくちゃ・・・ 」

「 力 ・・・? 」

「 ええ。 さっき提案したでしょ・・・ ほら 入れ替わり ・・・ 」

「 あ ・・・ はい。   この杜は地上と同じ、静かで穏やかな場所なのですね。 」

「 そうよ。  この杜の木々が海の国々の空気を清浄に保ってくれているの。

 だからどの国でも 精霊の杜 はとても大切にしているわ。

 杜をきちんと維持・管理するのは国王のとても重要な務めなの。 」

「 まあ ・・・ そうなんですか。  そうやってみなさんが大切にしているのですね。

 この中にいると とても落ち着いた気分になります。 」

「 ・・・ね?  私たちが大切にする理由が判ったでしょう? 生命の杜、とも言われているわ。

 さあ ・・・ 中に入りましょう。  あ、フランソワーズ、脚は大丈夫? 

「 はい。  ばあやさんが張ってくださった薬草のシップのおかげで痛みが引きました。 」

「 そう  よかったわ〜〜 ばあやはね、医術の心得もあるの。 

 私のお母様のお輿入れの時に付いてきてくれた人なのよ。 

 お母様は私が子供のころに亡くなってしまったから、ばあやがお母様の替わり。

 本当の <お得意 > はね・・・ 」

「 メリジェーヌさま、 当ててみましょうか? 」

「 わあ わかるの、フランソワーズ。 」

「 ええ  ばあやさんのお得意は  美味しいお食事つくり  でしょう? 」

「 当たり!! すごいわ〜〜 フランソワーズって♪  どうしてわかるの? 」

「 あの・・・ わたしの側にもとてもよく似た料理の名人がいますから。 」

「 まあ  そうなの??  それなら私たち、入れ替わっても全然大丈夫よ〜 

 是非 精霊の魔法使いに会わなくちゃね。 うふふふ・・・・ 」

「  ・・・ 魔法 ・・・使い・・・? 」

「 ええ。 この杜の、いえ この王国の護り主よ。 

 そしてね。  私達の計画を助けてください・・・ってお願いしようと思って。 」

「 まあ ・・・ 」

「 うふふふ・・・私の名づけ親でもあるのよ、大丈夫、とっても優しい方よ。 

 さあ ・・・ こっちよ。  あら ケルベロス ・・・ お迎えにきてくれたの? 」

フランソワーズの足元に なにか茶色の小型動物が駆けてきて 早速じゃれついてきた。

「 え? あら ワンちゃん?  わあ ・・・ 舐めちゃいやよ〜〜 」

「 まあ・・・ ケルベロスが知らないヒトにこんなに懐くなんて。 珍しいわね〜

 あ このコは精霊の杜の番人の一人なの。 」

「 そうなんですか。 ケルベロス? あなた、わたしをメリジェーヌ様と間違えているのじゃなくて? 

フランソワーズに 撫でられ、その動物はわさわさ尾を振っている。

「 ・・・ ちがうわ。  ケルベロスにはね ちゃんとわかっているのよ。

 あなたが この杜の ・・・・ いえ この王国のお友達だということがね。 

 さあ 魔法使いの館までもうすぐよ。 

二人の乙女は 茶色毛の動物と共に軽やかに杜の奥へと分け入って行った。

 

 

 

 

 

ドルフィン号は なんの手掛りを得ることもできなかった。

ピュンマの焦りとともにジョーはどんどん口数が少なくなってゆく。

二人しかいないコクピット、始めは慌しく動きまわる音が響いていたが ― 次第にメカニカル・ノイズが

聞こえるだけになった。

 

「 ・・・ ピュンマ。 引き上げよう。 」

   ―  パン ・・・!

ジョーが 補助レーダーのパネルに拳を押し付けた。

「 ジョー!! だってまだ・・・ 」

「 ああ。  だが これ以上は ・・・ 無駄だ。  そろそろ夜明けだ。 

 ドルフィンが人目につかないうちに 帰還しなければ ・・・  」

「 あ  そうだね。 慌てて出航してきたからステルス加工もしてないし、ヤバいよな。

 でも ジョー! このままじゃ ・・・ 」

「 ― 仕方ない。  なにかあったとしても 彼女もサイボーグ戦士の一員だ。

 なんとか ・・・ なんとか持ち堪える・・・と思う。 」

「 ああ   うん、 そうだね。  帰還して博士にもっと詳しく相談してみよう。 」

「 ・・・ うん。 自動操縦に切り替える。  」

ジョーはそれきり 口を噤み今まで集めた調査記録を熱心に解析し始めた。

 

    ザザザザ −−−−

 

夜明け前の海を ドルフィン号は一路岬の崖下へと戻っていった。

 

    ―  次の日・・・、いや ドルフィン号は戻ったその日の夜に 再び出航した。

今度は 入念にステルス加工し、予備のレーダーも搭載した。

博士のアドバイスを貰いジョーとピュンマは出来る限りドルフィン号の探索性能をアップさせたのだ。

二人とも一睡も ― いや、休憩すら取っていない。

「 ピュンマ。 ・・・ これでとりあえず出発しよう。 」

「 うん。  あ ・・・ 救助用グッズと あと、応急手当キットも持ってゆく。

 まあ ・・・ 使用しないで済むことを願っているけど さ。 」

「 ありがとう、ピュンマ。  それじゃ 休みなしで悪いけど・・・ 」

「 当然だよ? 休んでいるヒマなんかないさ。  僕は出来ればすぐにでも泳いで戻りたいんだ!

 ふふ ・・・ こんな時はサイボーグだってことに感謝しなくちゃな、 ジョー。 」

「 ピュンマ ・・・ 」

「 ごめん、何回も繰り返して煩いかもしれないけど。 僕は自分が許せない・・・

 なんであの時 ・・・ 彼女を強引にでも止めなかったんだ? 暢気に構えて・・・

 世界中の船舶が行方不明になって イワンだって原因がわからないのにさ。 

 僕は平気で ・・・ ほどほどにしておけよ・・・なんてへらへら笑っていったのさ! 」

「 ピュンマ・・・ それを言うなら そもそも彼女があんな無茶な単独行動にでたのは

 ぼくのせいなんだから。 」

「 なんか彼女 ・・・ 機嫌わるかったけど・・・ 」

「 うん。 ぼくが彼女を今度の調査から外したことをすごく怒っていたみたいなんだ。 」

「 ・・・ ああ なんかそんなこと 言ってたっけ。  でも どうしてなんだい? 」

「 ぼくは ・・・ 彼女には 最高の花嫁になってほしくて。 

 余計なことで折角の結婚式を台無しにしたくない。  

 フランはきっと とても楽しみにしていると思うんだ。 何も言わないけど・・・ 」

「 女の子は皆そうだよ、ジョー。 」

「 そうか ・・・ ぼく ・・・ よくわからなくて。

 ぼくに出来ることは 彼女を最高に幸せな花嫁にすることなんだ、と思って・・・

 式のこととか籍のことも・・・ちゃんとしなくちゃ・・・って決心したんだけど。

 彼女 ・・・ なんか気に入らないのかな ・・・ 」

普段から口の重いジョーは 相変わらずボソボソと ― 一見 どうでもいいコトみたいに話す。

しかし 長年一緒にいるピュンマにはすぐにわかってしまった。

 

     なあんだ ・・・ コイツってば。

     結婚式、 いちばん楽しみにしているのは ジョー自身なんじゃないか〜

 

     あはは ・・・ 例によって照れてるってことか・・・! 

 

「 ジョー。 そのこと、 彼女に言ったかい? 」

「 ・・・ いいや。 そんなこと、言わなくてもわかってるだろう? 」

「 ・・・ ああ  そうか〜 ・・・ 」

「 ??  ともかく ・・・  出発しよう。 」

「 了解。  ジョー・・・ 大丈夫だよ!  イワンだって眠る前に言ってたじゃないか。 その・・・ 」

「 うん。  生体死のゼロ波は確認していないってね。

 だけど、 それ以外は皆目不明なんだ。  ありがとう、ピュンマ。 覚悟はできている。 」

「 ・・ ジョー ! 」

「 たとえ ・・・ 亡骸であってもぼく達は <回収> しなくちゃならない。

 ― ぼくらの仲間の身体を 誰か他人の目に曝してはならないんだ。 」

「 ・・・ ん。 そうだな。 よし、潜航するよ。 」

「 了解。 」

 

       フランソワーズ ・・・! 今 ・・・ 今  行くからな!

 

       フランソワーズ。 きみの選択は間違ってないよ!

       この朴念仁はね、 ほっんとうに心底・・・ 君にベタ惚れなのさ!

 

 

  ―   今回は徹底的に捜索するぞ・・・!   

 

ジョーもピュンマも無言でしっかりと頷きあった。

 

 

  ・・・ ところが。 

問題の海域は おそろしく静かで普段とったく変化がなかった。

穏やかな初秋の海が うらうらと陽をうけてたゆたっていた ・・・。

二人の焦燥感を嘲笑うごとく、海面は鏡みたいに凪いだままだ。

  ―  異常なし。  誰もがそう判断する状況だった。

「 ・・・くそう 〜 ・・・ なんだって・・・ 何にもないんだ?! 

「 ジョー。  どんなにレーダーやソナーの精度を最高レベルに上げても  なにも反応がないぜ?

 博士が言っていた緊急信号コードも全然キャッチできない・・・ 」

「 そんなことって・・・? 」

「 よし、 ちょっと潜って直に僕が調べてくる! 」

「 ピュンマ! 冗談じゃないよ、ここの深度、わかっているだろう?

 いくら深海用サイボーグでも 無理だよ! 」

「 でも ジョー!!  フランソワーズ が ・・・ 

「 ・・・ いや。 ここでさらに君を危険な目にはあわせるわけには行かない。

 ぼくは サイボーグ戦士のリーダーとしてこれ以上のダメージは避けなければならないんだ。

 帰還しよう。  徹底捜索の範囲を記録して、しらみ潰しにしてゆこう。 ・・・ その方法しかない。 」

「 ・・・ う・・・チックショウ!!   くそ〜〜〜〜っ !! 」

いつも冷静沈着なピュンマが 珍しくも罵声をあげコンソール盤をばんばん叩いた。

「 ピュンマ・・・ぼくのこと・・・ 彼女を見捨てる冷たいヤツだとおもうだろうけれど・・・ 」 

ジョーは モニターを睨んだまま微動だにしない。

「 ジョー。   きっとフランソワーズも ・・・ そうしろって・・・言うよ。 」

「 ん・・・ 彼女なら 必ず、な。 我々にとって大切なことが何なのか、彼女はわかっているさ。

 フランは 立派なサイボーグ戦士なんだ。 」

「 ああ そうだよ、誰よりも立派な、 ね。 」

「 うん。 」

ジョーはほんの少しだけ 笑顔をみせた。 

「 なあ ジョー。 それをさ、彼女にちゃんと言ってやれよ? 喜ぶぜ。 」

「 え・・・ ?  なんだってわざわざ言わなくちゃならないんだい?

 そんなこと、彼女だって自覚しているさ。 」

「 ・・・ おいおい ジョー? 君、本気でそう思っているのかい? 」

「 え・・? どういう意味なんだ? 」

ピュンマはからかい半分な気持ちで言ったのだが  ・・・ どうやらジョーは本気でわからないらしい。

本人は至極マジメな顔で首をひねっている。

 

     ・・・ あは・・・ こりゃ ・・・ ジョーって。

     ホンマモノの 天然 なんだ・・・   

     あ  そっか・・・

     それで 彼女があんなに不機嫌だったんだなあ・・・

 

来日した時の フランソワーズの膨れっ面が目に浮かんだ。

こんな状況なのに ピュンマはなんだか・・・腹の底から愉快な気分になってきた・・!

「 おいおい〜〜 ジョー?  君ってばもうすぐ結婚するんだろう?

 もっと女性の心理を ― いやさ、女心を知らなくちゃ。 

 円満な家庭生活は難しいぜ? 」

「 ・・・ え ・・・?  か・・・家庭生活 ・・?? 」

ジョーは相変わらず豆鉄砲を喰らった鳩・・・みたいな顔をしている。

「 そうさ。  あのな。 女の子ってね、わかっていてもちゃんと言葉で言ってもらいたいのさ。

 特に好きな相手から ・・・ その甘い言葉なんかはね。 

「 ・・・ す 好きな相手 ・・・甘い言葉・・・!  」

ピュンマは前髪の後ろに隠れてしまった009をほっぽらかしさっさと操縦席に座った。

「 さ。 それじゃ帰還するよ。  ・・・そして徹底的に解析だ! 」

「 了解。 」

ジョーも低いけれど はっきりと応えた。

 

     ―   フランソワーズ −−−−−− !!

 

彼の声にならない悲鳴が 大海原に吸い込まれていった ・・・

 

 

 

 

杜の中は 進むにつれて薄暗くなってゆく。

木々の数が次第にふえ 小路の左右にはびっしりと枝が生い茂っている。

「 ・・・ あの ・・・ メリジェーヌさま。 この道でいいのですか? 」

「 ええ 大丈夫。 ほら・・ ケルベロスが先導してくれているわ。 」

「 あら 本当・・・  まあどんどん行ってしまったわ。 」

「 もうちょっとのはずよ。 あ ・・・ フランソワーズ、あなた また脚が痛む?  」

「 あ 脚は全然大丈夫です。  なんかもう治ってしまったみたい・・・ 」

「 そう? 無理はしないでね。  ほうら 見えてきたわ・・・ 

 あれが魔法使いの社 ( やしろ ) の入り口よ。 」

「 精霊の魔法使いが棲んでいるのですね。 」

「 そうよ。  ・・・ さあ行きましょう。 」

「 はい。 」

二人の乙女は姿勢を正すと ゆっくりと御影石の門をくぐっていった。

 

 

その広間はほのかな明かりに照らされ 涼やかな香りの煙が漂っていた。

社の奥の間から ゆっくりとした足取りで 主 が現れた。

メリジェーヌと一緒に フランソワーズも頭を垂れ、そのヒトの前に跪いた。

 

     コツ ・・・ コツコツ  ・・・・

 

「 ・・・ メリジェーヌ姫。  ようこそ参られた・・・ 

「 精霊の主さま。 ご機嫌よう・・・ 今日はお友達と一緒です。 」

「 友 ・・・?   おお ・・・ 太陽と風が香る ・・・ 」

二人の前に 精霊の主が ・・・ 魔法使い がゆっくりと歩いてきた。

巨きな身体だが 声が温かい。  なによりも彼が出てきただけで広間の空気が軽くなった。

 

     ・・・ なにかとても ・・・ 温かいヒト・・・?

     魔法使い、と言っていたわね。

     ・・・ シャーマンの一種なのかしら。 

 

「 地上から来たのか?  ・・・ 美しい娘だ。 ワシがこの精霊の杜の主・・・

 わが王国のお転婆姫に誘われてよう来た・・・ 顔を上げよ。 」

 

    ・・・・?!?  え ・・・ こ  この声・・・?  

    え!?  うわ〜〜〜  ウ ウソ ・・・!

 

そっと頭をあげて  ・・・ フランソワーズはあやうく声を上げてしまうところだった。

 ― だって・・・ 目の前の < 魔法使い > は・・・

 

        ・・・・ ジェロニモ Jr. ・・・?????

 

深海の、 そして 冬の空の 色の衣を纏った、 005・・・いや 彼に瓜二つだったのである。

 

 

「 我らが水底の国でゆっくりして行くがよい。  翡翠色の瞳をした娘 ・・・

 地上にはそなたの瞳と同じ色の風が吹いているのだろう。 」

「 ・・・・・・・・ 」

フランソワーズは 驚きを抑え慎ましく頭をさげた。

「 主さま。 ・・・ 今日はお願いがあって参りました。 」

「 願い とな。 メリジェーヌ姫  」

「 はい。  私たち・・・私とフランソワーズ ・・・ <入れ替わり> をしたいのです。

 主さまのお力をお貸しください。 」

「 入れ替わり ・・・  」

メリジェーヌ姫は 無邪気に青い瞳を輝かせ、彼女の思いつきを話し始めた。

「 ほう ・・・ しかし、姫。 そなたは国王陛下の許婚・・・ 軽はずみは許されん。 」

「 わかっています。 でも ・・・ まだ <許婚> ですわ。

 陛下のこと、お慕いしていますし誠実で立派な方だと思っています。

 ・・・ でも。 私   ・・・  これで いいのでしょうか。 」

「 ・・・ 姫。 」

「 この結婚は家同士の約束・・・私は小さい頃から将来の王妃として育てられました。

 でも・・・ でも ・・・・私。  こんなあやふやな気持ちで ・・・ 王妃になれません ・・・

 私は本当に陛下を愛しているのか・・自分自身がわからないのです。 」

「 わたしからもお願いします。  あの ・・・ わたしも。  婚約者のこころが・・・わからない・・・

 ずっと ずっと 愛している、と思ってきました。  彼のこと、わかっていると思ってました。

 でも  ・・・ 今になってわたしも 迷っています。  このままで いいのか・・・って。 」

「 フランソワーズ ・・・ 」

「 それでお前たちは入れ替わって  それぞれの許婚の心を試したいのか。 」

「 試す、なんてそんなこと!  ・・・ただ 私は ・・・ ほんの少し自由な時が欲しいだけです。

 考えたいのです ・・・ 私 ・・・私自身の心を。 」

「 精霊の主さま・・・  姫君のお気持ち、 わたしもよく判ります。

 わたしも ・・・ すこし離れて ・・・ わたし自身を見つめなおす時間が欲しい、と思っています。 」

「 ・・・ ふむ ・・・ 」

「 ほんの少しの間 でいいのです。  そのためになら なんでも致しますわ。 」

「 ・・・ なんでも、 とな。  姫  それに 地上の娘。 お前たちにはその勇気があるのか。 」

「「  はい  」」

「 そうか。  ・・・  それでは少し待っていなさい。 」

精霊の杜の主は 再び音もたてずにするすると奥の間に消えた。

 

「 メリジェーヌ様 ・・・ 本当に ・・・いいのですか。 」

「 勿論よ。  私こそ勝手に貴女を巻き込んでしまったわね。 」

「 いいえ。 わたしもメリジェーヌ様と同じ気持ちですから。  ・・・ 迷っています、わたしも。 

 こんな気持ちで ・・・ 彼について行って・・・彼の花嫁になってもいいのかしら・・・って。 

 彼のこと、わかっているつもりだったけど・・・ そんなのわたしの思い込み、みたいだし・・・

 わたしも 自分自身の想いが わからないのです・・・ 」

「 ありがとう! フランソワーズ・・・ わかってくれたのは貴女だけ。 

 ばあやに話ても 皆そんなものですよ・・・って笑うだけだったの。 」

「 ・・・ メリジェーヌ様・・・ ! 

二人の娘は 同じ気持ちで頷きあった。

 

 

「 ここに特別の香 ( こう ) がある。  この香りを浴びるといい。

 そうすればそなた達二人の容貌は周囲の者には見分けがつかなくなる。

 ― ただし、 真実にそなた達を愛する者 には効かぬ。 」

主は大きな香炉を二人の前に据えた。

凝った彫刻が 灯りを集めて鈍く光る。  どうやら黄金の香炉らしい。

まったりと甘い香りが 二人を包む。

「 そして その効き目はこの香が香炉で燃え尽きるまで、だ。 

 安心せよ、この香は日に数ミリしか燃えぬ。 

 毎朝 日の出前に祈りをささげよ。 その時に香の残りが判るだろう。 」

「 ・・・ 主さま。  真実愛する方には わたし達が入れ替わっていることがわかるのですか? 」

「 そのとおりだ、 地上の娘よ。  」 

「 なんだか ・・・ ちょっと怖いです。 やっぱりヒトのこころを試す・・・みたいで・・・ 」

「 そうかな? 真実を知るだけだ。 」

「 ・・・ 真実 ・・・ 」

「 そうだ。 そして おのれ自身の真実もとっくり見つめてみるがいい。 」

「 はい ・・・・ ありがとうございます。 」

フランソワーズは慎ましく頭を垂れた。

「 主さま。 ・・・ それでは私達はこれから入れ替わって・・・ お家に < 帰り > ますわ。 

「 メリジェーヌさま。  あの ・・・いろいろ教えてください・・・ だって あの ・・・ 」

「 地上の娘よ。 なにも心配はいらぬ。  お前の立ち居振る舞いに疑いを持つものはいない。

 姫も同じ ・・・ 愛する者だけが真実を知るだろう。 」

「 ・・・ 愛する者だけが ・・・ 」

「 素敵!  杜の主さま、ありがとうございます。 」

姫君は 頬を染め腰を屈めて丁寧に会釈をした。

 

「  ― 待て。  預かり物をさせよ。   その勇気があるか。 」

 

「 ・・・ え ・・・?

びん・・・と響く声に 二人の乙女達はびくり、と足を止めた。

「 預かり物 ・・? 」

「 そうだ。  これは特別な術なのだ。 約束を守れるか?

 姫。 そなたからは その豊かな黄金の髪を預かろう。

 地上の娘。  そなたは そのすずやかな声を預けてゆけ。 」

「 ・・・・・!?? 」

「 そなた達が 再びこの社 ( やしろ ) に戻ってきたとき、元通りに返してやろう。

 それまでは メリジェーヌ姫、そなたは亜麻色の髪、地上の娘よ、そなたは口をきくことはできぬ。

 そしてこの魔法を誰にも告げてはならぬ。

 もし約束を違えれば お前たちは二人とも永遠にもとの姿には戻れぬ。

 故郷の地を踏むこともできぬ。  どうだ。  その勇気があるか。 」

「「 ・・・・・・  」」

乙女達は一瞬顔を見合わせたが すぐにしっかりと頷いた。

 

 

  くう 〜〜ん ・・・!

社の前で ケルベロスが鼻を鳴らして待っていた。

「 あら ケルベロス。 待っていてくれたの?  ありがとう! 」

姫君は ごしごしケルベロスを撫でてやっている。 

ケルベロスも嬉しそうにしっぽを振り回し辺りの空気をかき混ぜて喜んでいる。

フランソワーズも動物好き、微笑んで眺めていたが ふと姫君の長い髪に目が留まった。

 

      姫君は ・・・ あの髪を <預けて> ゆくのよね・・・

      綺麗な金の髪 ・・・  

 

      ・・・ あ!  そうだわ ・・・ 

 

「 メリジェーヌ様 ・・・ これを。  これを付けていらっしゃれば ジョーは ・・・

 彼は ・・・ わたし だと思うでしょう。 」

フランソワーズは 髪からカチューシャを外すと姫君に差し出した。

「 そう? ・・・ さっき主さまは真実愛する者には入れ替わりが判ってしまう・・・って仰ったけれど。

 うまくゆくといいわね。  あらこれ・・・ 可愛いわね。  ありがとう、フランソワーズ。 」

「 ・・・・・ 」

フランソワーズは少々複雑な想いで 姫君の笑顔を見つめていた。 

「 そうだわ。  貴女にはこれを ・・・。 これは亡くなったお母様のお形見なの。 」

姫君は首からきらきら光るものを外すと フランソワーズの手に預けた。

「 まあ そんな大切なものを・・・!  うわあ・・・ 綺麗・・・! 」

ひんやり ・・・ 掌に固い感触がある。

「 これ・・・ 海の泡の化石なんですって。  遠い昔からお母様のご実家に伝わっていて・・・

 これね、音が出るの。 ここに唇を当てて息を吹きかけてみて? 」

「 いいのですか。 大切なお母様のお形見なのでしょう? 」

「 いいの。  ほら 吹いてみて。 」

「 はい ・・・ 」

フランソワーズは その繊細なガラスの粒みたいなアクセサリーにそっと唇を寄せた。

 

    ピュルルル ・・・ ピュルルル 〜〜〜

 

細い細い ・・・ 海鳴り、春を告げる風 ・・・みたいな音が流れた。

「 きっと役に立つと思うの。  貴女 ・・・ 声 を預けてゆくのでしょう? 」

「 はい。 ありがとうございます。  とても優しい音色ですね。 」

「 ええ ・・・ これ お母様の声だ・・・って思っているわ。

 お母様が フランソワーズ、貴女を守ってくださいますように・・・ 」

姫君は フランソワーズの身体に腕を回し、頬にキスをした。

「 メリジェーヌさま ・・・ きっと上手く行きますわ。 」

「 そうね ・・・ あら。 ケルベロスも応援してくれるって・・・ 」

   くう〜〜ん ・・・ 茶色毛の小動物は二人の乙女に鼻面を押し付けてくれた。

「 それじゃ ・・・ 作戦、開始 ・・・ ね♪ 」

「 はい♪ 」

 

 

 

 

 

    ザザザザ −−−−−−   ザザ −−−−−

 

昨日の大風の影響がまだ少し残っているのかもしれない。

沖には白波がいくつか見られたが 海岸にはいつもと変わらぬ波が穏やかに寄せては返している。

ジョーはちらり、と水平線に視線を飛ばしたが すぐに波打ち際にもどした。

台風などで海が荒れた翌日には 多くのものが海岸に打ち上げられる。

水底が削られ 深く沈み眠っていたものが再び姿を現すのだ。

 

ほとんどが大量のゴミだったけれど ジョーはその中を注意深く見つめつつ歩いていた。

 

    なにか ・・・ なにか みつからないか・・・

    服の切れ端、 舟の一部 ・・・ アクセサリー ・・・ なんでもいいんだ・・・!

 

ジョーは祈りに似た気持ちで海から上がった後、夜明けの海岸を辿っていた。

この辺りは小規模だが入り組んだ地形になっている。

「 ・・・ん ??  あんなところにも ・・・ ゴミか ・・・・ 

 ? ・・・いや ・・・ いや! ちがう ・・!! あれは ・・・あれは・・・! 

「 ・・・ そ そんな ・・・ そんなはず・・・ ?! 」

ジョーは震える脚をぐっと踏みしめ 駆け出した。

崖下のすこし入り込んだ海岸、その波打ち際に ヒトが・・・打ち伏していた。

おそらく 潮に乗って流れ着いたのだろう。

今 昇ってきた朝日に ちかり・・・と なにか赤いものが光った。

 

     ― フ ・・・ フランソワーズ ・・・?!?

 

「 ・・・・?! 

飛びつき抱き締めたい衝動を抑え、ジョーはそっと抱き起こした。

びしょ濡れのドレスに包まれた身体は暖かく、亜麻色の髪が纏わりつく顔には血の気がある・・・!

見慣れた赤いかチューシュが 涙が出るほど懐かしい。

「 おい・・・!  しっかりしろ!! おい! 」

「 ・・・ う ・・・ う ん ・・・・? 」

「 大丈夫かい?  フランソワー ・・・ ズ ・・・? 

「 あ ・・・ あなた ・・・は? 」

大きな瞳がゆっくりと開くと  じっとジョーに注がれた。

深い深い・・・ 色が ジョーの心に染み渡る・・・

「 ぼくだよ、ジョーだよ! ・・・ まさか ・・・ 覚えていない ・・・のか? 」

「 ・・・ え ・・・わ  わからない・・・ なんだか靄の中にいるみたい ・・・で ・・・ 」

「 そうか。  ショックが強過ぎたんだな、きっと。 

 大丈夫、ゆっくり休めばちゃんと思い出すさ。   さあ 家に帰ろう! 

ジョーは できるだけそっと彼女を抱き上げた。

はらり・・・ と濡れた髪が肩から頬に落ちた。

「 ・・・!??  こ ・・・ これ  は ・・・!?  

 ああ  ・・・ 私の ・・・ 私の か・・・ 髪 ・・・! 」

彼女は両手を顔押し当て身を縮めてしまった。  涙が指の間から零れている。

「 ? どうしたんだい?  急に ・・・ 具合が悪いのかい。 」

「 ・・・ か 髪 ・・・ 私の ・・・! 」

「 髪? ・・・うん、乾かせばちゃんとまた綺麗な髪になるよ ・・・  あれ? 」

ジョーの腕の中で 彼女は両手で顔を覆ったまま小刻みに震えている。

「 寒いのかい?  とりあえず早く家にもどろう。 ほら・・・泣くなよ。

 博士に診て頂いて ・・・ あ っと。  昨日からお留守なんだっけ・・・

 う〜〜ん ・・・困ったなァ イワンもまだ 夜の時間 だし。

 ピュンマに相談してみよう。  さあ ・・・ 帰ろう、もう安心だよ ・・・ フラン ・・・ 」

「 ・・・・・・・・・  」

ジョーは できるだけ静かに崖の上の邸まで彼女を抱いていった。

 

 

 

「 フランソワーズ !!!  無事だったんだね ・・・・!!! 」

二人が玄関に着くとすぐにドアが開き ピュンマが飛び出してきた。

「 ピュンマ ・・・さっき脳波通信で報告した通り、崖の真下の波打ち際で見つけたよ。」

「 うん うん!  そうか〜〜 よかった ・・・ ! 本当によかった・・よ ・・・ 」

ピュンマはもう半分涙声になり フランソワーズに抱きつこうとした。

「 ・・・ あ ??  ・・・ きゃ ・・・ 」

「 ?? フランソワーズ ?? 」

彼女はジョーの腕の中で さっと顔色を変え身を捩った。

「 ああ  あの ・・・どうも なんか・・・ 混乱しているみたいなんだ。

 ゆっくり休めば いつものフランになると思うけど・・・ 」

「 そ そうか ・・・ あ〜〜 博士もイワンも 不在ってのがイタいね〜

 それじゃとりあえず彼女の部屋に運ぼうよ。 あ バスルームが先かなあ?

 いいや、両方ともすぐに準備できるから。 待っててくれよな!  」

ピュンマはそのまま二階へと二段とびで跳んでいってしまった。

「 あ ・・・ もう〜〜 気が早いヤツだなあ。

 ・・・彼は ピュンマ。  ぼく達の仲間だよ。  ・・・ 思い出したかい ? 」

「 ・・・・・・ 」

ジョーは腕の中の恋人に 優しく話しかけていた。

 

 

「 な なんだと?  憶えていない? ・・・ 記憶障害か? 」

「 あや〜〜 そりゃ困ったアルね〜  そやけど、ご無事でなにより、でっせ〜〜 」

グレートと張大人は急を聞いて応援に駆けつけてきていた。

二人の心配顔は ジョーの報告でひとまず安堵の色で覆われた。

「 うん ・・・ 博士がお留守なので詳しい検査はできないんだけど。

 本人は元気なんだ。 どこもとりあえず怪我はないし。家のこととか少しづつやり始めたよ。 」

「 ほう、それなら案外すぐに思い出すのじゃないかね?

 記憶障害は激しいショックや酷い疲労の後にはよくあることだ。 」

「 だと・・・ いいのだけど。 」

ジョーはなんとなく歯切れが悪い。 

「 大丈夫さ、きっと。 やっぱり今回の事故はすごいショックだったんじゃなかなあ・・・

 海の事故のことも全然覚えていないっていうのも、わかる気がするよ。

 でも フランソワーズは フランソワーズだもの。 あの笑顔を見ると本当に元気になるよね。 」

ピュンマはもう手放しで喜んでいる。

「 ほっほ〜〜 そやったら一緒に美味しいゴハンを作るアルね。

 楽しいコトしやって美味しいモノ、お腹いっぱい詰め込みはったら す〜ぐに元気になるアルよ。 」

「 左様 左様〜〜  大人の料理とマドモアゼルのスウィーツで我らも元気回復だな。

 おいおい ジョーよ?  愁眉を開きたまえ、男前が台無しだぞ。 」

「 え・・・ あ  ああ  うん ・・・ 」

「 ジョーは心配疲れ かな。 僕はこれからドルフィン号の整備をしてくる。

 ああ ・・・あのフランソワーズ号、行方不明なのはちょっと・・・ 惜しいね。 

 そりゃ勿論、本人の無事が一番だけど さ。 」

「 うん ・・・ そうだね。  あ ぼくも手伝うよ。 」

「 ジョー、 きみは少し休んでいたほうがいい。 ずっと休みナシだっただろ? 」

「 なに言ってるんだ、ぼくらは 」

「 ああ そりゃそうだけどさ。  心労は僕たちだって生身のヒトと同じさ。

 そ ・ れ ・ に。  特に君は元気になってなくちゃ。 」

「 え? 」

「 来月は 君達の結婚式 だろう? 花婿が削げた頬をしてたらせっかくの式が台無しさ。 」

「 ・・・ ピュンマ ・・・ ! 

「 それじゃさ、 今回の事件のデータの整理を頼むよ。

 博士がお帰りなったら詳しく分析してもらわなくちゃ。 まだ他の艦船は行方不明なんだからね。 」

「 そうだね。  ありがとう、ピュンマ。 」

ばち・・・!っと大袈裟にウィンクを返すと ピュンマは口笛を吹きつつ地下ドックに下りていった。

大人はグレートを助手にして キッチンでコトコト下ごしらえを始めている。

 

      ・・・ 皆 ・・・ 気がつかない ・・・ いや 見えないのか・・・?

      ・・・ フラン ・・・?  フランソワーズ ・・・ ? 

 

      それとも 本当に僕が疲れているだけなのだろうか。

 

ジョーはこつん・・・と自分の頭を突き PCの前に座った。

 

 

その夜は ― 崖の上の邸は ひさびさに笑い声で溢れた。

グレートと張大人が加わり 夕食は楽しい宴となった。

フランソワーズもキッチンに立ち、あれこれ準備を手伝い 皆もほっと安心していた。

「 うん・・・なんとまあマドモアゼルの笑顔の素晴しきことよ・・・!

 我輩は満腹だ・・・ ははは・・・腹も心も、なあ。  ほい、ピュンマ、もう一杯・・・ 」

「 お〜っとっと・・・ ん〜〜〜 美味い♪ グレート〜〜 そりゃ皆のセリフだよ〜〜  

 あはは ・・・ う〜〜ん・・・ あれ? な〜んか天井が回るねえ〜 ・・・ 

 ほら〜〜〜 ぐれ〜とォ〜 グラスが空だよォ〜〜 ん ♪ 」

「 おう・・・この邸もマドモアゼルを待っていたのさぁ〜〜  おっとこぼれる〜 」

グレートとピュンマは 差しつ差されつ、相当できあがっている。

「 ピュンマはん! あんさん、もうええ加減で置きなはれ。 

 それ以上この呑み助に付き合うてたら ぶっ倒れまっせ。 」

「 うふ ・・・ 私も 熱くなっちゃいました。 ちょっと・・・風に当たってきますね。 」

フランソワーズは席を立つと テラスへ出ていった。

「 おお〜〜〜 花の乙女の頬に桜が咲いておる〜〜 良き眺め・・・  ヒック ・・・ 」

「 アレ〜〜 グレートはん、あんさんもでっか。  困ったお人やなあ〜 もう ・・・ 

 おんや? ジョーはんは あんまり飲まんかったなあ。 」

「 あ うん。 ・・・ これでも一応未成年だしね。

 なあ 大人。  あの ・・・ フラン・・・ どうだった? 」

「 どうだった?  どないな意味やね。 

「 いや そのう 〜〜 一緒にキッチンに立ってて・・・さ。  なんかこう・・・いつもと違う、とか・・・ 」

「 いつもと? う〜ん ・・・ そうやなあ ・・・??

 あのコォはデザートを ワテは御飯を作ってましたよってなあ・・・

 ・・・ そや 今晩のデザート、アレは仏蘭西料理やおまへんなあ。 」

「 え ・・・そうかい? 美味しいなあ〜と思ったけど。

ジョーは今晩のデザート ・・・ 黒蜜掛けの寒天ゼリー を思い浮かべた。

ほどよい甘味とさっぱりした口当たり ・・・ こってりした中華料理の後にはぴったりだ・・・と思ったのだが。

「 はいナ。 ええお味やったで。  そいでもアレはフランソワーズはんのお国にものとは違いまんな。 」

「 え? ・・・ジュレやブラマンジェは彼女のお得意だろ? 彼女、よく作るし ぼくも・・・皆も好きだよね? 」

「 そうや。 けど な、ジョーはん。 あんさんは慣れてるよってなんとも思わんかったのや。

 ・・・今日のデザートは いつもと一緒やあらへん。  ジュレとよう似てましたけどな・・・

 あのな。 寒天やら天草やらは普通西洋のお国の方々は使わはりませんな。 」

「 ・・・ へえ ・・・ そうなんだ・・・? 」

「 はいナ。  ・・・ ま、フランソワーズはんはこのお国での生活に慣れてますさかい、

 寒天でん、天草を使った寄せモノでん、美味しそうに食べはるけど・・・  」

「 ふ うん ・・・ 」

「 ま、たいして気ィにすることやないわな。  きっとなあ、あんさんの嫁はんとして気張ってはるんや。 

 ジョーはん? 安生 ・・・ あの子ォを大事にせなあかんで! 」

どん!っと意外な強さで 大人はジョーの背中を叩いた。

「 あ・・・ う  うん ・・・ ありがとう 大人・・・ ! 」

「 なァに・・・ あんさんらの幸せがワテらみぃんなの幸せなんやで。

 あのコォを泣かせはったら わてらみ〜んな許しまへんで! 」

からからと笑うと 大人はお皿を集めてキッチンへ消えた。

「 ・・・ なあ、 ピュンマ。 グレートも ・・・ どう思うかい?  ・・・あ 〜〜 ・・・ 」

ジョーが振り向けば ― ピュンマはもうとっくに沈没し、 グレートも とろん・・・とした眼差しで

カラのグラスを見つめぶつぶつ言っているだけだった。

「 ・・・ なんだぁ〜〜  よ〜う ・・・ 花婿!  しっかりやれよォ〜〜 ・・・ははは ・・・ 」

「 ああ ああ わかった わかった・・・ やれやれ・・・ 」

ジョーは二階に飛んでゆき 毛布を取ってくると二人に掛けてやった。

「 あれ? 彼女は ・・・  ああ  テラスか ・・・ 」

 

 

 

海の 波の音が とても懐かしい ・・・ そして夜風が火照った頬に心地好い。

彼女は大きく息をつき、胸いっぱいに潮の香りを吸い込んだ。

 

     ―  ふう ・・・・ !   ああ この香り ・・・!

     やっぱり海の側にいるとほっとするわ・・・

 

ふわり・・・と 亜麻色の髪が肩口で揺れる。

彼女はきゅっと巻き毛をヒト房にぎって すぐに放してしまった。

 

     わたしの ・・・ 髪 ・・・! 

     この髪も ・・・ 綺麗だけれど。  でも ・・・ 私の黄金の髪・・・

     陛下も褒めてくださった ・・・ 私の髪 ・・・

 

すん ・・・ 涙が一粒 鼻の脇を転がり落ちた。

真珠の宮にいるときには 少しばかり鬱陶しい・・・とさえ思っていた彼の人がたまらなく懐かしい。

 

     ・・・ いつも微笑んで私のおしゃべりを聞いてくださったわ・・・

     わがまま言っても  姫の好きなように・・・って・・・

 

     ・・・ ご ・・・ごめんなさい ・・・ 私 ・・・

 

か え り た い  ・・・ ぽっちり彼女は呟いた ― 

 

 

「 やあ・・・ ここは寒くないかい。 」

ぽん ・・・と 暖かい手が肩に置かれた。

「 ・・・・!? あ ・・・ あ・・・・ジョ  ジョー ・・・ 」

振り返ればすぐ後ろに明るいセピアの瞳が 温かい光を湛えて彼女を見つめていた。

「 ・・・ あ ・・・ あの  ・・・ 」

彼女はどぎまぎとし 目を伏せてしまった。

「 ・・・ 美味しかったな〜 君のデザート・・・ もちろん大人の料理も、だけど。

 料理の腕があがったって、皆が褒めていたよ?  

 ぼくは運のいいオトコだよね、こんな料理上手なヒトを奥さんにできてさ。 」

「 え・・・ええ  そう ね・・・ 」

「 なあ 本当に大丈夫かい?  なんだか ・・・ 元気がないみたいだけど。 」

「 そ ・・・ そんなこと、ないわ。  ちょっとだけ 疲れちゃっただけよ。

 私 ・・・ もう休みます。  お休みなさい ・・・  」

彼女は テラスの端から振り向いて ジョーに微笑んだ。

「 ・・・ 愛してるよ・・フランソワーズ ・・・ 」

ジョーはゆっくりと彼女の身体に腕を回した。

 

   ― びく・・・! 

 

白い腕が 身体が震えた。  ジョーの腕にもはっきりと伝わってきた。

彼は亜麻色の髪をかき分け 彼女の耳元でささやく。

「 やっぱり・・少し寒いかなあ・・・  ぼくが暖めてあげるよ・・・

  ね ・・・ 今夜はぼくの部屋で待っていてくれる? 」

「 ・・・ え!? 」

一瞬 ・・・ 彼女の笑みが固まる。 大きく見開かれた瞳が凍りつく ・・・

「 ふふ  冗談だよ。   なあ ・・・? 」

「 ・・・ はい? 」

 

        「 ― 君は。  誰なんだい? 」

 

「 ・・・ !? 」

 

 

 

 

 

Last updated : 11,16,2010.               back     /     index    /      next

 

 

 

 

 

************   途中ですが

原作は アノお話なのですが。  あの海の底の人々・・・はあんまりだと思うのです。

やっぱりらぶらぶ話 には 美女と素敵な王子サマ? 王様? が登場しないとね〜〜

・・・ ってことで 王様 は次回に登場いたします (^_^;)

ようするに マリッジ・ぶる〜 な女の子話 ・・・ かな?

蛇足ですが。  西洋人も 寒天 好きです・・・・

ワタクシはバリバリの日本人ですので 当然大好き♪ であります☆