『 プリンセス in ブルー ― (3) ― 』
― チリ・・・ン ・・・
スプーンがソーサーの上で澄んだ音を立てた。
「 ほら。 カフェ・オ・レだよ・・・身体が温まる ・・・ 」
ジョーは彼女の前に 湯気のたつカップを置いた。
二人はテラスからリビングに戻り、 隅のソファに向かい合っている。
「 ・・・ありがとうございます ・・・ わあ 可愛いカップですね。 」
「 ああ ・・・ これ、フランのお気に入りなんだ。 」
ジョーはちらっと 花模様が浮き出た白い茶器に目をやった。
「 まあ ・・・ あの 黙って使ってもいいのかしら。 」
「 友達なんだろ? 」
「 ええ。 今度会った時にあやまっておきますね。 」
「 うん ・・・ よろしく頼むよ。 」
「 はい。 」
メリジェーヌはにっこり笑い カップをとりあげた。
「 あの ・・・ 他の皆さん ・・・ ? 」
「 うん、 大丈夫 ・・・ あの二人は酔って熟睡しているし大人はもう寝室だ。
誰もぼく達の会話を聞いてないから・・・安心して。 話してくれるよね ・・・? 」
「 ・・・ ごめんなさい。 」
「 謝ることなんかないよ。 なにか・・・事情があるんだね? 」
「 ・・・ はい。 でも・・・ お話することは できないんです。 約束なので・・・ 」
「 約束? ・・・ それはフランも同じなのかい? 」
こくん・・・と亜麻色の髪がゆれて、彼女は素直に頷いた。
長い睫毛が白い頬に濃い影を落とす・・・ まろやかな頬と薄紅いろの唇・・・
すんなり伸びた細い首にジョーはおもわず見とれてしまう。
本当に ・・・よく似ているな ・・・・
皆がフランソワーズだって思い込むのも無理ないよ
・・・ どこがどう違うか・・・ってぼくにもよくわからないんだけど。
でも。 直感的に感じたんだ。
― フランソワーズじゃない ・・・って
そう思うのと同時に ジョーは目の前にいる娘に全く悪意がないことも感じていた。
「 君はフランソワーズといろいろ話合ったんだね?
きみとフランが入れ替わること・・・彼女が提案したのかい。
フランはそんなに ・・・ ここに帰るのがイヤなんだろうか・・・ 」
「 え・・・ ち、ちがいます! そんなこと・・・・ 彼女はひと言だって言ったことないわ。
黙っていたけど・・・ 本当は帰りたくて仕方なかったのよ・・・
私には わかったわ・・・ 」
「 そうか ・・・ 」
「 それに これは私が ・・・ 私が言い出したことなの、 フランソワーズさんは悪くないわ! 」
必死にみつめる彼女の瞳に ウソはない。
「 うん ・・・ 君の言葉を信じるよ。
なあ、 ひとつだけ教えてくれる? フランは・・・フランソワーズは 無事なんだね? 」
「 はい。 フランソワーズさんは 元気です。 」
「 そうか! ・・・ よかった・・・! それがわかれば充分だよ・・・ ! 」
「 あの もうすぐ・・・もうじきここに、このお家に帰ってきます! 」
「 え?? 本当かい! 」
「 はい。 あの ・・・ ジョー・・・さん。 」
「 なんだい。 あ ジョー でいいよ。 そうだ 君の本当の名前を教えてくれる? 」
「 メリジェーヌ。 でも・・・これ以上はお話できません、ごめんなさい・・! 」
「 謝らなくていいってば・・・ メリジェーヌ・・・綺麗な名前だね。 」
「 ありがとう・・・ あの ジョー ・・・? 」
「 うん? 」
「 あの ね。 フランソワーズさんが言ってたんですけど ・・・ すごく幸せだって。 」
「 わあ ・・・ 君、フランと仲良しになったんだね? 」
「 ええ。 お友達になりましたもの。 素敵な方・・・ジョー・・・のフィアンセさん でしょ? 」
「 え ・・ あ うん、そうなんだ。 来月 ・・・ 結婚する。 」
「 まあ〜〜 素敵♪♪ あの・・・ それでね、もっといろんなこと、話してほしいって。 」
「 え? なんだって? 」
「 もっとね、いろいろ・・・楽しいことだけじゃなくて、イヤなことも苦しいことも・・・・
そうよ 辛いことや 怒っちゃうこと、悲しいことも よ。 いっぱい話して欲しいの。 」
「 ・・・ そう ・・・フランソワーズが言っていたのかい。 」
「 ええ。 ・・・わたしも同じなの。 なんでも言って欲しいのよ。
あのね。 言ってくださらないと ・・・わからないの。 ううん・・・わかっていても、言ってほしい。 」
「 そうなのかい・・・・ 」
「 そうよ。 ね ・・・ ジョーさん、これ・・・ 」
メリジェーヌは カチューシャを髪から外した。
「 これ。 フランソワーズさんが貸してくださったの。
これをしていれば ジョーはきっとわたしだと思うわ・・・って言ってたけど。
でもね 彼女は そんなことはないわ! って思っていたのね。
私のことを ジョーさんはきっと <ちがう!>って見抜く・・って信じていたみたい。 」
「 ・・・ うん ・・・ 初めはちょっとだけ・・・ フランかなって思ったんだ。
そのカチューシャも彼女がずっと着けていたものだってわかったし。 だけど・・・ 」
「 だけど ・・・? 」
「 ・・・ 理由は自分でも判らない。 でも 頭の中で声がした・・・
ちがう ・・・ 彼女じゃないって。 うん・・・フランの声が聞こえた のかもしれない。 」
「 ・・・ そう ・・・ 」
真実 そなたを愛する者には この術は効かぬ
精霊の主の声がメリジェーヌの心の中に甦る。
そうだ・・・ このヒトは 本当に 本当に フランソワーズを愛しているんだ・・・・
姫君は なんだか自分のことみたいに嬉しくなってきた。
メリジェーヌは にっこり と微笑んだ。
「 ・・・ あ ・・・・ 」
ジョーはその笑顔に 一瞬見とれてしまった。
「 うふふ・・・ ジョーさん? 私はフランソワーズさんじゃありませんよ。
そんな目で見ちゃ だめ。 」
「 あ ・・・ご ごめん ・・・ つい・・・ 」
「 あ〜 フランソワーズさんに言いつけちゃいますよ〜 」
「 ・・・ メリジェーヌ 〜〜 」
「 うふふふふ ・・・ ジョーさんってば。 ごめん ・・・ が口癖ですか?
「 ・・・ あは ・・・ 君って。 楽しいヒトだね。 」
二人は長年の友人同士みたいに 楽しげに語りあった。
「 ・・・ 君にお願いがあるんだ。 」
「 はい? 」
「 あの ・・・ どうも他の皆には君が フランソワーズ に見えるらしいんだ。
だから ・・・ その ・・・ 」
「 ええ。 わかっています。 このオウチにいる間は < フランソワーズ >として振る舞いますわ。
あの ・・・ ジョーさん、手伝ってくださいね。 」
「 うん。 ・・・ 君も大切なヒトがいるんだろう? 」
「 はい。 私も フィアンセの気持ちがわからなくて・・・ それで 」
「 そっか ・・・ 。 この家で楽しんでくれよな。 」
「 はい♪ ジョーさん? 時々は デート、してくださいネ? 」
「 え?? 」
「 だって二人はフィアンセ同士でしょう? あんまりヨソヨソしくしてたら ・・・ 変よ? 」
「 はいはい わかました。 ピクニックにでもゆくかい? 」
「 わ♪ 私、地上をいっぱい歩いてみたいわ〜 」
地上 だって?
・・・ この女性 ( ひと ) はどこから来たのかな
まあ そんなことはどうでもいいや。
フランが 無事なら ・・・ 元気なら・・・!
あは ・・・ しばらくはこの姫君のお相手か・・・
・・・ 妹って。 こんな感じなのか ・・・ な?
ジョーは 満更でもない気分だ。
あの事故以来、心配と哀しみで干からびがちがちになっていた彼のこころが
少しだけでもほぐれ潤う気がするのだった。
「 これをお巻きしましょう。 お咽喉が楽になりますよ、姫さま。 」
「 ・・・・・・・ 」
ばあやさんは朝から姫君につききりである。
「 本当にねえ・・・ せっかく陛下にお目にかかる日なのに・・・ 姫様のお咽喉の調子が悪いなんて。 」
「 ・・・・・・ 」
<姫君> のフランソワーズは大きく首を振り、大丈夫よ・・・と微笑んでみせた。
「 そうですか? ・・・ ちょっと御髪を上げていてくださいな、姫さま。 」
「 ・・・・・・・・ 」
フランソワーズは両手を髪の下に差し込んだ。
しっとりとしなやかな金の絹糸にも似た髪が両手に余り滑り落ちる。
わあ ・・・ なんて ・・・ 豊かで綺麗な・・・髪 ・・・!
メリジェーヌ様 ・・・ 大切にしていらしたでしょうに ・・・
「 さて ・・・・と。 これでよし。 姫さま、きつくはありませんか? 」
「 ・・・・・・・・ 」
こくり、と頷く <姫君> の髪を整えつつ、ばあやさんはじっと見つめていた が。
「 姫様 ・・・・ いえ あの。 違っておりましたらお許しください。 」
「 ??? 」
「 あなた様は ― フランソワーズさま ですか。 」
フランソワーズの目が またまたまん丸になってしまった。
「 地上からいらしたお嬢様・・・・ やはり・・・。
そうですか ・・・ ウチの姫様ですね? 姫様がまた・・・なにかオイタを考えられたのですね。 」
「 ・・・・・ 」
フランソワーズは 困った顔で仕方なしに頷いてみせた。
「 わかりました。 ウチの姫様の責任ですから ・・・ このばあやもご協力いたします。 」
「 ・・・! ・・・! 」
「 お姿は姫様そっくりですから この真珠の宮のものたちにも姫様だと信じます。
ばあやですか? ふふふ・・・ばあやは姫様がお生まれになる前からお側におりますから。
自分のことよりよくわかります。 」
「 ・・・・・・・ 」
「 大丈夫ですよ、はい。 ばあやもお手伝いしますから。 」
ぱちん・・・!とちっこい目をウィンクしてくれたその姿は どうもみても張大人に思え
フランソワーズは 自然に笑みがわきあがってきた。
「 あらあら・・・ その笑顔。 本当にウチの姫様にそっくり・・・
ええ ええ。 ばあやはもうなんにも申しません。 お二人でお決めになったことをなさいませ。 」
「 ・・・・・・・・ 」
「 さあ。 今日は陛下のお話相手に王宮に伺候する日 ・・・ お供いたしますですよ。」
「 ・・・ ・・・・ 」
ばあやさんに手を取られ フランソワーズはドレスの裳裾を曳いて立ち上がった。
国王の許婚 ・ メリジェーヌ姫 として歩きだした。
メリジェーヌ様。 あなたの代わりをしっかり務めてきますね。
「 メリジェーヌ姫。 ようこそ ・・・! 」
輝く髪の青年が 満面の笑みを浮かべ立ち上がった。
「 ・・・・・・・ 」
フランソワーズは腰を屈めて優雅にお辞儀をし ゆっくりと身を起こした。
白と淡い水色のドレスの裳裾がゆらゆら揺れて海原の波にも見えた。
彼女は初めて この海の王国を統べる青年国王の顔をはっきりとみつめた。
え ・・・!? ジョー・・・ ううん、 お お兄さん ・・・???
・・・ いえ ちがうわ。 ジャンお兄さんによく・・似てるけど。
ちょっと違う ・・・
一瞬目を見張り呆然としてしまったけれど なんとか微笑むことができた。
「 姫 ・・・ 乳母どのに伺ったが咽喉を痛められたとか 。 ここまでいらして大事ないのですか。 」
「 ・・・・・・・・ 」
「 お顔の色が冴えないと ・・・ 」
「 ・・・・・? 」
ふと言葉が途切れ、顔をあげれば 青い瞳がじっと彼女を見つめている。
・・・ え ・・・・? なにをそんなに そんな目で 見ているの・・・
もしかしたら ・・・・
真実 愛する者には 効かぬ
精霊の杜から 主の言葉がフランソワーズのこころに響いてくる。
そう よね。 この方は。 婚約者だから、じゃなくて。
本当に心から メリジェーヌ姫を愛しているのね
フランソワーズは なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。
しかし 今更 < 止める > わけにはゆかない。
今は メリジェーヌ姫 として振る舞うしかないのだ。
「 ・・・? ・・・ 」
「 ああ 失礼しました。 どうぞ こちらへ ・・・ 」
「 ・・・・・ 」
フランソワーズは 青年国王に手をとられ豪華なソファに腰をかけた。
香り高いお茶やとりどりのプチ・ガトーやらフルーツ・・・ およそ女の子好みのものがテーブルに並んでいる。
青年は あれこれ快活に婚約者の姫君を話かけてくれた。
話しぶりは聡明で それでいてユーモアがあり、彼が婚約者を大切に思っていることがすぐにわかった。
・・・ ご ごめんなさい・・・!
わたし ・・・ あなたの気持ちを ・・・ 決して玩んでいるわけではありません。
あなたは 一人の青年として メリジェーヌという乙女を愛しているのね
「 姫。 今日はいつにも増して貴女の笑顔が素晴しい ・・・ 」
青年は礼儀正しく 彼女の手を取った。
「 大変失礼なことを伺いますが ・・・ 」
― びくん・・・と < 姫君 > の身体が揺れた。
「 ・・・? 」
「 姫君。 貴女は ― どなたですか。 」
「 !? ・・・・・ 」
「 ああ ・・・ 申し訳ない。 貴女は声が出ないのでしたね。 う〜ん・・・
それでは 頷くだけで結構ですから お答えください。
貴女は 私の婚約者・メリジェーヌ姫 なのですか。 」
「 ・・・ ( いいえ ごめんなさい! ) 」
「 そうですか。 やはり・・・ 彼女は メリジェーヌ姫は 元気ですか。 」
「 ・・・ ( はい。 ) 」
「 ・・・ よかった・・ 貴女はとてもよく彼女に似ていらっしゃる。
どうぞ寛いでください。 これ以上は伺っても仕方ないようですから・・・ 」
「 ・・・ ( ごめんなさい ) 」
姫君は いや フランソワーズはにっこり微笑むと立ち上がり 青年国王の手を取った。
「 え? ・・・・ 踊ろうって? ・・・ ああ いいですね。
実は私もダンスが好きなのですよ。 」
彼も笑みを湛え、進みでた。 さっと合図をするとどこからか優しい音楽が聞こえてきた。
「 姫君。 踊っていただけますか。 」
「 ・・・・ ( よろこんで ) 」
満面の笑でフランソワーズは頷くと 青年国王の腕に身を預けた。
「 ・・・ お上手ですね。 私の婚約者より お上手ですよ。 」
「 ・・・ ( いいえ いいえ。 愛する方と踊られるのが一番ですわ) 」
「 暖かい微笑みをありがとう・・・
あのお転婆姫は 私の大切なタカラモノです。
彼女の明るさ・元気な笑顔に 私はいつも癒してもらい、彼女の励ましに困難な国務へ向かう
勇気をもらっているのです。 」
「 ・・・・ ( 素敵♪ 愛していらっしゃるのね。 ) 」
「 私は ・・・ 迷っています。
彼女は ・・・とても素敵な女性 ( ひと )、 余計な苦労をかけたくない・・・
あの元気な微笑みを しぼませたくないのです。 」
「 ・・・・・・・・・? 」
「 ええ ・・・ 彼女を一人の男として心から愛しています。
しかし ・・・ いえ、だからこそ。 彼女を私から解放した方があのヒトは幸せでしょう・・・ 」
「 ・・・ ( いいえ いいえ! ) ! 」
フランソワーズは激しく首を振った。
ああ そうなのね・・・・?
それで メリジェーヌ姫は陛下の態度が曖昧に感じていたんだわ・・・
大丈夫よ! メリジェーヌ・・・!
あなた達・・・ 本当にらぶらぶな恋人同士なんだわ
「 碧の瞳の姫君 ・・・ あなたは不思議な方だ・・・
そうしてなにも仰らないのに ・・・ 私の心がどんどん軽くなってゆく。 」
「 ・・・・ ( わたしの力ではりませんわ。 陛下が彼女をお想いになっているからです ) 」
「 私は ・・・ 彼女をこのまま愛し続けても いいのだろうか。 」
「 ・・・。 ( はい。 ) 」
フランソワーズは力強く頷いた。
「 ― ありがとう! ・・・・私の未来の妃はよいお友達を持っていますね。 」
「 ・・・ ( 陛下 ・・・ ) 」
「 おお 素晴しい笑顔だ・・・ それではもう一曲、踊っていただけますか? 」
「 ・・・ ( はい!) 」
二人は優しい音楽に乗って広間で流麗に踊ってゆく。
「 あなたは ・・・ 本当に素敵な女性 ( かた ) ですね。
ああ・・・ 男としてあなたの意中の方が少々妬ましいですな。 」
「 ・・・・ ( まあ 陛下ったら・・ ) 」
「 あはは・・・ 冗談・・・じゃないですよ、本当に。 」
「 ・・・ ( あとでメリジェーヌ様に言いつけますから。 ) 」
「 え? なんだって? ・・・ 悪戯っぽい眼つきが可愛らしい・・・ 」
「 ・・・ 陛下。 まことに申し訳ないのですが ・・・ 」
広間のドアが少しだけ開き 侍従の一人が顔を覗かせた。
「 ? 何事だ? 何人も立ち入るなと申しわたしてあったはずだ。 」
「 申し訳ありません 緊急を要しまして 実は ・・・ 」
「 ? 少し待て。 ・・・ 姫君? 申し訳ないが少し中座いたします。 」
青年国王は フランソワーズに笑顔をみせると ドアから出ていった。
「 ?? ( どうしたの? ・・・ いいわ、 < 耳 > を稼働させてみましょう。
・・・・ え ・・・ええええ???? なんですって? BGが?? 」
国王の許に急報が入っていた。
かねてから 他の海底の国々に海上への進出を促していた <黒い人々> が
この王国にも 強要してきた。
これまでも何回も 脅迫めいた要請があったのだが その度に国王は断固はねつけていたのだ。
しかし 今回 <黒い人々> は 武力をもって攻撃の手を向けてきた・・・!
フランソワーズはとんでもない情報を聞きとり、 さっと頬を強張らせた。
「 こんなに平和な ・・・ 静かに暮らしている人々の国にまで手を出そうというの?
・・・ 許せないわ! 」
すっくと立ち上がった彼女は ― 完全に 003 になっていた。
国王陛下。 メリジェーヌ姫様。
・・・ばあやさんを始めわたしを助けてくださった方々・・・
そして 海の底の国に住む 沢山の同胞たち
安心して。 わたし達が ― 護るわ!
カツカツカツ ・・・!
青年国王は足音高く戻ってきた。 見違えるほど険しい表情だ。
「 姫君。 大変に申し訳ないのですが。 急な用件で本日は − 」
「 陛下。 ― ご一緒に闘います。 」
「 ・・・ 今 なんと? 碧の瞳の姫君。 貴女は声が ・・・」
国王は まじまじと彼女を見つめている。
「 はい、 <約束> で 話してはならないことになっています。
違えれば ・・・ わたしは・・・二度と元の世界に戻れません。
でも。 構いません。 わたしは闘います。 闘ってこの国を護りましょう。
わたしは ― サイボーグ戦士 の一人なんです。 」
「 姫君・・・・! ・・・ サイボーグ ・・・ 戦士? 」
「 はい。 少しお待ちくださいませ。 ジョーに、 いえ、仲間に応援を頼みます。 」
フランソワーズは軽く会釈をすると 広間の端にある窓辺まできびきびと歩いていった。
「 わたしの <声 >が ・・・ 聞こえるといいのだけれど。
― ジョー −−−−−−−−−− ! 」
フランソワーズは 目をしっかり閉じ脳波通信で呼びかけた。
同時に強く ・・・ 強く心の中で念じた。
そんな彼女を 国王はじっと見つめていた。
「 ・・・ ジョー? それは ・・・ 貴女の大切な方のことですか? 」
「 あ ・・・ はい。 わたしのフィアンセです。 」
「 ほう ・・・ それはそれは。 男として羨ましい限りです。
その方とあなたのお仲間が応援してくださるなら とても心強いです。
私は なんとしてもこの・・・海の底の国々の平和を守りたい。 」
「 陛下のご決意、必ずや実行されます。 ― 失礼して身なりを整えて参ります。 」
フランソワーズはもう一度 腰をかがめて優雅に挨拶をした。
「 ・・・ ありがとう。 ああ ・・・ その姿、解いてしまわれるのは惜しいですね。
騒動が収まった暁には また・・・ 踊っていただけますか。 」
「 はい、 喜んで。 わたしのフィアンセはどうもダンスが苦手で・・・ 」
「 ははは・・・ おそらくその替わりに射撃の腕はピカ一 なのでしょう?
さあ 私も準備をします。 わが配下のものたちが出撃の命令を待っています。 」
「 はい。 」
フランソワーズは 今度はきびきびと挨拶を返した。
・・・ きらり ・・ !
なにかが胸元で強い光を放った。
「 ・・・ おや。 姫君 ・・・ 海の泡 をお持ちですね? 」
「 海の泡・・・? ・・・ あ これ・・・ メリジェーヌ様が貸してくださいました。 お母様のお形見とか・・・ 」
「 おお よかった! それを鳴らしてください。
きっとあなたの心を占めている方に通じます。 そして私のお転婆姫にも。 」
「 はい。 」
フランソワーズは煌く泡の貴石をそっと口元に運ぶと ふ・・・っと息を吹いた。
ぴゅるるるる ・・・・・ ぴゅるる ・・・・・
細いけれど力強い調が 彼女の手元にあるアクセサリーから流れでた。
それは海底王国の空気に混じり立ち昇っていった。
「 そう ・・・ そんなことが。 それであなた方は闘いの日々を過していらしたのですね。
サイボーグ ・・・ ? 改造? まあ・・・! なんということを! 」
「 そうです。 でも ぼくはサイボーグに改造されて 愛するヒトと巡りあえました。 」
「 フランソワーズさん ね。 」
「 はい、 ぼくは孤独から解放され やっと・・・ここしばらくは平穏に過しています。 」
「 ・・・ 皆さんで協力して勝ち得た平和ですね。 素晴しいわ。
ああ ・・・ いい気持ち。 地面を歩くって ― 素敵♪
土や砂って なんて暖かいのかしら・・・ 風や緑って なんていい香りなの ! 」
メリジェーヌは 腕を大きく広げ深呼吸を繰り返している。
ジョーに <事情> を打ち明けてから、 二人はヒマをみつけては海辺や裏山に出かけていた。
「 アイヤ〜〜 フランソワーズはん? お日様た〜んと浴びてええ空気吸って。
美味しいモノをたんと食べればたちまち元気になるでェ 」
「 うん、僕も安心したよ。 あ〜あ・・・ 少しのんびりさせてもらうよ〜 ふぁ〜〜 」
「 ほう? 我らが海の達人も休日かい。 ・・・ふぁあ〜〜 我輩にも移ったぞォ〜 」
仲間たちもてんでに 自分達の時間を楽しんでいる。
彼らには ジョーとフランソワーズが仲良くデートしている・・と映っている。
ギルモア邸全体に のんびりモードが漂い始めていた。
「 地上って。 こんなに明るくて暖かいのですね。 わああ・・・眩しい・・・・ 」
「 ふうん ・・・・ 今日は薄曇りだし季節も季節だから あまり明るい日じゃないんだけどね。 」
「 私にはとても明るく感じるの。 地上の草とか木はとても固いのね。 ちょっとびっくり。
面白い手触りね。 ・・・ ふうん ・・・・ 」
砂をすくったり海岸に生えている浜昼顔にそっと触ったり ― メリジェーヌは大さわぎをしている。
そんな元気な姿を追いかけつつ、ジョーはついつい微笑を浮かべてしまう。
「 ・・・ ああ あなたは素敵なヒトだなあ・・・ なんか一緒にいると元気になるよ。 」
「 え ・・・ そうですか? 」
「 うん。 君の側にいるとね、こう・・・エネルギーをもらえるって感じがするな。 」
「 ・・・ それって。 私が跳ねっかえりだって仰りたいの?
いつもばあやに叱られて・・・ 私のフィアンセも <私のお転婆姫> なんて呼ぶし・・・ 」
姫君はちょっと拗ねた顔をしている。
ぽーーーーん・・・と手にしていた貝殻を 海に投げ入れた。
「 ・・・さあ お帰り ・・・ 波に揺られているほうが好きでしょう・・? 」
ジョーはますますこの女性がカワイイ!と思え 笑い声が漏れてしまった。
「 ・・・ あら。 そんなに可笑しいですか 私。 」
「 ああ ごめん ごめん ・・・ そうじゃないんだ。 可愛いなあ・・って思ってさ。 」
「 え ・・・ 」
「 あのね。 <私のお転婆姫> って。 君のフィアンセは君のことが可愛くて可愛くて・・・
そんな風に呼ぶんだよ。 うん・・・なんかさ、その気持ちよくわかるな。 」
「 ・・・ だって。 もっと大人しくて淑やかな女性 ( ひと ) がいいのじゃないかしら。
その・・・ 彼の立場上ってこともあるし、 それに・・・ 彼はとても思慮深くて ・・・・ <オトナ> なの。
私たちは家同士が決めた婚約者だから ・・・ きっと仕方なく私と ・・・ 」
「 そんなこと、関係ないよ。 ソイツはね、君にベタ惚れさ。 うん これは保証するよ。
これはね、同じ男性視点から見た意見だから、確かだよ。 」
「 え ・・・ そ ・・・ そうなの・・・? 」
「 うん。 だから ・・・ いつでもその笑顔、忘れないで。
あは・・・ぼくもちょっと・・・ 君のフィアンセが羨ましいな〜なんて思ってる。 」
「 ・・・ ジョーさん・・・! 」
「 冗談・・・じゃないよ、うん。 ぼくもさ・・・君にいろいろ言ってもらって・・・
ありがとう。 フランの気持ちがちょっとわかってきたよ。 」
「 うふ・・・ ジョーさんこそ。 フランソワーズさんにべったべたじゃないですか〜
いいな〜 いいな♪ もうすぐ結婚式なんでしょ、羨ましいなあ〜 この、このォ〜〜 」
「 メ メリジェーヌ! 姫君がそんな口、きいちゃだめだよ〜 」
「 ま。 ばあやみたいなこと、言うのね。 ・・・ あら? どうしたんですか? 」
ジョーはたった今まで笑顔で彼女のお喋りを聞いていたのだが ― 突然 表情が消えた。
厳しい眼をして 彼はじっと宙を睨んでいる。
「 ・・・ あの ・・・ ジョー・・・さん? 」
「 ・・・ あ ごめんね。 今 ・・・ 聞こえたんだ。 」
「 聞こえた? 」
「 うん。 彼女の フランソワーズの声が。 確かにぼくを呼んでいる。 」
「 え ・・・ 私にはなにも聞こえなかったわ。 」
「 あ ・・・ うん。 ぼく達には特別な通信機が備わっているんだ。
今まで全然反応しなかったのに。 ・・・ メリジェーヌ、君の国で呼んでいるのだろうか。 」
「 ・・・なにか あったのかしら。 ・・・ あ あら? 」
今度はメリジェーヌがじっと耳を澄ませ海をみつめている。
「 なにか聞こえるのかい。 」
「 ええ。 ・・・ 海の泡が。 お母様のお形見が・・・鳴っているわ。
フランソワーズさんが呼んでる・・・! 」
「 え? それじゃやっぱり。 」
「 ええ。 ジョーさん。 ・・・私 御案内します。 海の底の国へ。 」
「 海の底? ああ やはり君はそこから来たんだね? 」
「 はい。 私の国へお連れします。 」
「 ありがとう ! フラン 今 行くからな。 」
ザザザザ −−−−−−
穏やかだった水面に 少し波が立ってきた。 ・・・ 風が強くなった。
「 ばあやさん ばあやさん ・・・ ? 」
フランソワーズは帰邸するなり声を上げて彼女を呼んだ。
「 姫様・・・!? どうなさったのです? 」
ばあやが大慌てで邸の奥から駆け出してきた。
「 ええ あのですね すぐに 」
「 姫様? お部屋へ参りましょう。 さ さ・・・ 」
「 あの ・・・ 大急ぎで・・・ 」
「 はいはい わかっておりますですよ。・・・ お嬢様、他のものには聞かせたくございませんでしょう? 」
「 あ・・・ そ、そうだったわ・・・ 」
「 お疲れになりましたでしょう? すぐに美味しいお茶をお持ちしますね。 」
ばあやさんは殊更大袈裟に言って姫君を部屋へと促した。
「 ばあやさん。 なにか 動きやすい服装をお願いします。 」
「 ・・・ 争い事ですか。 」
「 ?! なぜ それを・・・ 」
「 この国では有事には王族が先頭に立って闘います。
ウチの姫様は王妃になるお方・・・ 姫様もいざとなれば背の君をお助けしお護りするのですよ。 」
「 まあ・・・すごいわ! 」
「 はい。 さ・・・お嬢さま、あなた様の舟にあった服をすぐにおもちします。
でも ・・・ お話になって・・・よろしいのですか? 」
「 ・・・ いいの。 とにかくここを護らないと・・・! 」
フランソワーズは きっぱりと言いきった。
これでいいわよね ジョー。
・・・ あなたの応援を待っているわ。
この国を ・・・ BGには渡さないわ・・・!
「 よし ・・・ このまま潜航してゆこう。 」
「 了解。 ・・・ すごいな、こんな経路があったんだね。 」
ピュンマはソナーとレーダーを見つめつつ 嘆声を上げている。
ゴ ・・・・ ゴゴゴゴ ・・・・
ドルフィン号は滑らかな動きで海の底へと降りてゆく。
「 メリジェーヌ? 大丈夫かい。 こんな艇に乗るの、初めてだろう? 」
「 ええ。 でも私は海の国の人間ですもの、全然平気よ。
私たちの世界へのドアの潜り方 をお教えします。 行きましょう。 」
「 うん、勇ましいお姫様だね。 そんなトコまでフランソワーズにそっくりだよ。
なあ、ジョー? 」
「 ・・・ え・・・ あ うん・・・ 」
「 おいおい・・・ メリジェーヌに見とれていたのかい?
フランソワーズに言いつけるぞ〜〜 」
「 ピュンマ! 違うよ。 海の底での作戦を考えていたんだ。
どうやったら海の国の人々を巻き込まないですむか・・・・? 」
「 ジョーさん ・・・ すごいわ・・・・ 」
「 フランソワーズが待ってるから・・・ それに君の国を大切にしなくちゃな。
フィアンセの君も 心配しているだろうし。 」
「 そうそう。 ジョーから聞いたよ。 いや〜〜すっかりフランソワーズだと思ってた・・・
う〜ん・・・ 今こうやって見ても・・・そっくりだね! 」
ピュンマはコンソール盤を操作しつつも嬉しそうだ。
「 おいおい ピュンマ。 しっかりパネルを見ててくれよ。 」
「 ピュンマさん。 私もお手伝いします。 レーダーの扱いは習得しています。
それに ・・・ この辺りから先は故郷への <帰り道> ですから。 任せてください。 」
「 あは・・・ ますますフランみたいだなあ〜
うん、それじゃ ナヴィを頼むよ。 ジョー、彼女がいればパワー倍増!
僕たちだけでもなんとかなる・・・ ! 」
「 そうだな。 それに ・・・ 目的地に着けばフランがいる。 」
「 ジョーさん? ピュンマさん。 ― 私のフィアンセも勇猛な戦士です。 」
「 そうか! それじゃますます心強いよ。 」
「 うん。 潜航を続けよう。 」
待っていてくれ。 今 行くから。
三人は強い決意で深い海を見つめていた。
「 陛下 ・・・ 」
「 ・・・おお 地上の姫君、いや フランソワーズ殿 ・・・・ そのいでたちは・・・ 」
「 お見苦しい恰好で失礼いたしました。 こちらに伺候するまで他の方々には
<メリジェーヌ姫> ですから。 では ・・・ 」
「 そうでしたね。 おお ・・・ これは ・・・ 」
海の底の国の青年王は目を見張った。
メリジェーヌ姫は彼の目の前で挨拶をし、全身を包んでいたマントをぱさ・・・っと払う。
― そこには。 赤い特殊な服のサイボーグ戦士が立っていた。
「 陛下の配下としてご命令ください。 」
サイボーグ戦士は 国王の前に片膝を突いた。
「 ・・・ 素晴しい。 わが軍は百万の味方を得ました。
早速主だった指揮官たちに紹介しましょう。 」
「 ありがとうございます。 行きましょう、そして 侵略者どもを追い払うのです! 」
フランソワーズは国王に従って 指令本部へと向かった。
「 <黒い人々> はかなり強力なバリアを張っていて 我々の攻撃は歯が立たないのです。 」
「 そうですか。 わたし達の艇がくれば ・・・ お力になれると思います。 」
「 あなた達の艇? 」
「 はい。 もうすぐこちらに来るはず・・・いえ、必ず来ます。
海上からここまで降りてこられる艇です、 <黒い人々> のデータもあります。 」
「 おお ・・・ それは素晴しい!
・・・ 失礼ですが。 貴女は ・・・ メリジェーヌ姫様 ・・・ですよね? 」
軍の指揮官の一人が じっとフランソワーズを見つめている。
「 ( あ・・・! しまった! ) え ・・・えと ・・・ 」
「 そうだ。 私の婚約者・メリジェーヌ姫だ。
諸君、私の将来の妃は先ごろ地上の国へ多くのことを学びに行っていた。 」
国王が力強く言い添えてくれた。
「 それは心強いですな。 陛下、陛下は素晴しい婚約者をお持ちです! 」
「 我が国はますます安泰でございますな。 」
「 そういうことだ。 では皆の者、作戦開始だ。 」
「 は。 」
指揮官たちは次々に部署についてゆく。
フランソワーズはずっと宙を睨んでいたが さっと笑顔になった。
「 ! ジョー! ここよ! 待っていたわ! 」
≪ フラン!! フランソワーズ ・・・ !!! ≫
≪ ジョー! 待っていたわ! こちらの状況と作戦の概要を送るわ!
脳波通信の回路をフル・オープンにして! ≫
≪ お〜い フランソワーズ! 僕もいるんだ、僕にも送ってくれ。 ≫
≪ あら! ピュンマもいるのね。 うわ〜〜心強いわあ〜 ≫
< フランソワーズさん? >
≪ ・・・・え・・・?! メ メリジェーヌさま??
ど、どうして?? 貴女がわたし達の脳波通信と同調できるのですか? ≫
< 私にもわかりません。 でも ・・・ 私の心にあなた方の会話が
はっきり聞こえますもの >
≪ メリジェーヌ様。 貴女様はわたし達の仲間・・・と天が決めたのでしょう。
ご一緒に侵略者どもを打ち破りましょう。 ≫
≪ 了解! ≫
「 なあ ジョー? ・・・ フランソワーズも・・・このお姫様もさ、 すごいなあ・・・ 」
「 え ? 」
脳波通信を一旦切り、ドルフィン号は海底の国へのゲートをくぐってゆく。
ピュンマはコンソール盤を操作しつつ ジョーをちらり、と見た。
「 なにが ・・・? 」
「 うん、 今までだってそうだったけど。
フランってさ、 どんなピンチでも絶対に 退かない んだ。
いや ただ盲進するってことじゃないよ、 いつもかっきりしっかり前を見てる。 」
「 ああ うん、そうだよね。 本当に一番強いのはフランソワーズかもしれない。 」
「 ジョーさん。 そのこと、ちゃんとフランソワーズさんに言ってあげてね? 」
「 メリジェーヌ ・・・ 」
「 お姫様? 君も同じだよ? 君も ・・・ 最強の戦士さ。」
「 まあ ・・ ピュンマさんったら・・・ 」
メリジェーヌ姫は頬を染めているが 嬉しそうだ。
「 さあ! このまま攻撃態勢に入ろうよ。 姫君、 ナヴィゲート、頼みます! 」
「 はい! 」
「 よ〜し ・・・ 突入するぞ! 」
「「 了解 ! 」」
戦闘は 短時間で終結した。
BGは海底王国の反撃を甘くみていた。 その上 ドルフィン号からの想定外の攻撃をうけ
<黒い人々> は脆くも全滅していった。
そして囚われていた地上の艦船や客船と人々は 無事に救出された。
ザザザ −−−− ・・・
ドルフィン号は 海底王国の港に悠々と接岸した。
「 さあ どうぞ! メリジェーヌ姫。 」
「 ありがとう! ジョーさん、 ピュンマさん。 」
ジョーとピュンマは 姫君をエスコートして上陸した。
「 ― 姫 ・・・ ! 無事で ・・・ 」
「 陛下 ・・・ 我が国の頼もしい友人をご案内いたしました。 」
メリジェーヌ姫は 国王の前に進み出てジョー達を紹介した。
国王をはじめ海の国の人々と サイボーグ達はなごやかに挨拶を交わす。
不思議にも この地に足を踏み入れた時から姫君の髪は輝く黄金色 ― もとの髪に戻っていた。
「 ・・・ あの ・・・フランは・・? 」
ジョーは気もそぞろで きょろきょろしている。
「 ジョー。 落ち着けよ。 」
「 うん ・・・でも ・・・ 」
「 大丈夫ですよ。 貴方の大切な方はあちらに。 目立たないように宮殿の奥の間でお待ちです。
姫、御案内を頼みます。 」
「 はい、陛下。 ・・・ お心使い、ありがとうございます。 あとは 私にお任せくださいますか。 」
「 おお 勿論。 メリジェーヌ姫、あなたは将来の王妃・・・ しっかりと采配をたのみます。 」
「 ・・・ はい! 陛下 」
メリジェーヌ姫は 喜びに頬を染めつつ、ジョー達を案内した。
「 ― ジョー ・・・・! 」
「 フランソワーズ ! 」
奥の間のドアを開けると フランソワーズが駆け寄ってくる。
ジョーは両腕を広げ 防護服姿の彼女をしっかりと抱きとめた。
「 よかった・・・ 本当によかった・・・! 」
「 ジョー・・・ きっと ・・・ きっと来てくれるって信じていたわ。 」
抱き合う腕はお互いを愛撫し いつしか二人は熱く口付けを交わす ・・・
「 あ ・・・ ごめん ・・・ こんなところで ・・・ 」
「 ・・・ う ううん ・・・わたしこそ ・・・ ああ でも嬉しい・・・ 声、届いたのね。 」
「 きみの声はどこにいても聞こえるさ。 あ ・・ あれは笛かい? キレイな音も聞こえた。
メリジェーヌ姫がすぐに気がついてくれたよ。 」
「 まあそうなの! 嬉しいわ ・・・ 一目でも会えて ・・・ 」
「 え? 」
「 ・・・・ ジョー ・・・ ごめんなさい ・・・ 」
フランソワーズは 身を捩るとジョーの腕の中からはなれた。
「 ― 帰れない。 わたし ・・・ 地上へ帰れないの。 」
「 なんだって?? いったいどうして! 」
「 わたしは。 ・・・ わたしは約束を ― 精霊の主様との約束を破ってしまったわ。
だから ・・・ もう二度と地上へは戻れないの。 」
「 そんな ・・・ ! よ、よし! それなら・・・ぼくもここに残る! 」
「 ジョー・・・! だめよ、 それは ・・・ダメよ。 」
「 しかし ・・・ ! きみ一人を置いて戻ったりできない! 」
「 ジョーさん? フランソワーズさん? ・・・ あの ・・・ごめんなさい、聞こえてしまって・・・ 」
ドアを小さく開けてメリジェーヌ姫がそっと顔を覗かせた。
「 あの ・・・ お茶をご一緒に・・・って陛下からのお招きをお伝えに来たのですが・・・
フランソワーズさん。 私が精霊の主さまにお願いします。 」
「 姫様 ・・・ でも これはわたしが勝手に主様との約束を破ったのですから。 」
「 でも! それは・・・私の代わりにこの国を護ってくださったからですわ!
私! 今から精霊の杜に行きます! 」
メリジェーヌ姫は 裳裾を翻し駆け出した。
「 あ・・・ 姫君 ! あ は・・・ <私のお転婆姫> って国王陛下の気持ちがよ〜くわかったよ。
あの姫の行動力には きみも顔負けだろ、ぼくの跳ねっ返り姫・フランソワーズ。 」
「 ジョーォ!! 」
「 おいおい ・・・ いちゃいちゃしている場合じゃないよ! 早く姫君を追いかけよう! 」
「 あ ピュンマ〜〜 一緒に来てくれるのね。 」
「 当たり前だろ。 急ごうよ! 」
「 了解 ・・・! 」
サイボーグ達は 精霊の杜目指して大急ぎで出発した。
「 ・・・ 主さま? 精霊の杜の主さま? 」
メリジェーヌ姫は 一人乗りの艇から飛び降りると社 ( やしろ ) に駆け込んだ。
わんわんわん・・・・わん?
茶色毛の小動物が走ってきたが、メリジェーヌ姫とみとめるとすぐに尻尾を振りすり寄ってきた。
「 あらあら ・・・ ケルベロス・・ 久し振りね。 よしよし・・・いいコねえ・・・
あ ・・・ 主 ( ぬし ) 様 ! 」
社の奥の間から 精霊の主が現れた。
「 メリジェーヌ姫 ・・・ なにをそんなに慌てておるのか。 」
「 主さま! あの ・・・ ! フランソワーズさんのことですけれど! 」
「 ― わかっている。 あの地上の娘は 自ら約束を違えたのだ。
そうなればどうなるかは 判っているはずだ。 」
「 でも! それはこの国を護るため・・・ フランソワーズさんは覚悟の上で ・・・ 」
「 ・・・・・ 」
「 そうだわ! それじゃ・・・ 私、 私もこの髪を・・・お返しします!
そうすれば同じでしょう!? 私の髪で ・・・ 皆が幸せになるのなら! 」
「 待て。 メリジェーヌ姫。 ここでそなたの黄金の髪を切れば二度と同じ髪は得られぬ。
黄金の髪は この国の王妃のしるし。 失えば ― 」
「 ・・・ か ・・・ 構いません! 皆が 皆が ・・・ 幸せなら。
・・・ 陛下 ・・・ ああ 陛下・・・! 愛しています ・・・ お幸せに ・・・ 」
メリジェーヌ姫はベルトから細い剣を抜くと さっとその豊かな髪に当て ― 引いた。
きゃ −−− あ −−−−− ・・・・!
彼女はその瞬間 悲鳴をあげ床に崩れおちた。
「 メリジェーヌ様 ・・・! 」
フランソワーズが飛び込んできた。
「 ああ メリジェーヌ姫! 主 ( ぬし ) 様 ・・・・! 約束を違えたのはわたしですわ!
どうぞ・・・ 姫君をお援けください! わたしはどうなっても構いません。 」
「 地上の娘よ。 それではそなたは永遠に地上には戻れぬぞ。 それでいいのか。 」
「 はい、どうぞ。 」
フランソワーズは 倒れている姫君の側に跪き静かに眼を閉じた。
「 よい覚悟だ。 それでは ― 」
精霊の主がその手をフランソワーズの頬に触れた。
ごめんなさい・・・ ジョー。 さようなら。
どうぞ ・・・ 幸せに ・・・
「 ― メリジェーヌ姫よ そして 地上の娘よ。 もう よい。 」
「 ・・・・ え ・・・? 」
「 う ・・・ん ・・・・ ああ 私・・・? 」
フランソワーズが眼を開くと、 彼女の側でメリジェーヌ姫がぴくり、と身体を動かした。
「 姫君! 大丈夫ですか。 」
「 ええ ・・・ あら ・・・? 私の髪・・・? さっき切り落としたはずなのに・・・」
姫君の背には 輝く黄金の髪が豊かに波打っている。
「 主 ( ぬし ) さま・・・・? 」
「 もうよい、と申した。 そなた達の勇気に免じ ― 忘れよう。
メリジェーヌ姫。 よき王妃となられよ。
地上の娘よ。 故郷に戻り幸せな花嫁になれ。 」
「「 ・・・ 主さま・・・・・! ありがとうございます! 」」
「 よい。 しかしもう二度と ・・・ 行き来はできない。 いいな。 」
「 ・・・・・ お幸せに ・・・ ! 」
「 貴女も ・・・! 」
よく似た二人の乙女たちは こころからの抱擁を交わした。
ザザザザ −−−−−− ・・・・・
冬の海が ゆるゆるとうねり藍色の波が寄せ そして 引いてゆく。
フランソワーズは ふと・・・眼をさました。
ついさっきまで 熱く昂まっていた身体にはまだ芯熱が残っている。
愛の残渣が まだ冷めてはいない。
ふう ・・・ ああ お月様かしら ・・・
床に零れる光をたどり、彼女はジョーの腕からすり抜けテラスへ出ていった。
ぴゅるるる ・・・・ ぴゅる ・・・・
波の音の合間から 細い細い透明な音色が聞こえる。
あれは 水底の国の妃が奏でる幸せの響き ・・・
フランソワーズには 月光をうけた水面の輝きが姫君の髪にも思えた。
「 ・・・ メリジェーヌ・・・ 素敵な国王様と幸せなのね・・・ 」
「 ― この姫君も 十分幸せだろ? 」
ぱさ・・・っとガウンが後ろからかけられた。
「 ・・・ ジョー? 」
「 こら ・・・ そんな恰好でテラスに出て・・・ ぼく以外にきみの身体を見せたくないんだけどな。
たとえお月さまでも、さ。 」
「 ・・・ ジョーってば ・・・ 」
「 うん ・・・ こうやって。 」
ジョーはガウンごと彼女を抱き締めた。
「 ・・・ もう ・・・ 」
「 ふふふ ・・・ 愛してる、愛してるよ、フラン。 もうどうかなりそうなくらい・・・愛してる!
ぼくの ぼくだけの ・・・ 愛しい姫君・・・フランソワーズ ・・・! 」
「 ジョー ・・・ 愛してるわ ・・・ ! 」
煌々とした月明かりの中 ジョーの新妻は 満面の笑みを浮かべた。
さて それで。 これは < おとぎ話 > のお約束。
海の国、青の国のプリンセスも。 ブルーな気分に陥っていた地上の姫君も。
恋人の熱い胸に抱かれ いつまでも いつまでも 幸せに暮らした ・・・ のでした。
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Fin.
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Last
updated : 11,23,2010.
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************* ひと言 ************
長々とお付き合いくださいました方、いらっしゃいましたらありがとうございます<(_
_)>
御都合主義 は大得意ですので〜〜 あんまり突っ込まないでください、
なにしろこれは < おとぎ話 > なんですから♪
ジョー君って。 二人っきりの時には ラテン系全開・・・なヤツのよ〜な気がしてきた・・・!
原作 あのお話 はあまりに素っ気ないので ( 御大〜〜ごめんなさい〜〜<(_
_)> )
それだけに妄想の余地 100億へくた〜る???
海の底には 別の国があったほうが素敵ですよね・・・