『  海の底には  ― (3) ―  』

 

 

 

 

 

 

  カツ カツ カツ カツ !

 

高い靴音を響かせて、姫君は広間に入ってきた。

今回は非公式な、いわば私的訪問なので 歓迎行事や国王夫妻による出迎えはない。

ふわり ふわ ・・・  彼女の歩みと共に薄紫の裳裾が派手にゆれる。

姫君はジョーの真正面に立った。

 

「 ご機嫌いかが? ジョー様。 」

「 たまら姫  ・・・ ようこそいらっしゃいました。 」

ほんの軽く会釈をした姫君は すっと白い手を差し出し艶然と微笑む。

ジョーは かなりぎこちない笑みを返し、彼女の手に身を屈めて口付けをした。

 

   ふわん ・・・   濃い脂粉とキツイ香料が鼻腔をつく。

 

「 ( う わ ・・・ く くしゃみ ・・・ ! ) ・・・・ ! 」

ジョーは表情を歪めつつも 必死にクシャミを堪えた。

「 まあ ・・・ わたくしの訪問はご迷惑でしたかしら? 」

すかさず姫君が突っ込んできた。  冗談か? ともとれるが目は笑っていない。

「 え! い いえ そ そんな ・・・ 大歓迎です。 」

「 そうかしら?  」

「 そうですとも!  あの すみません、季節の変わり目で ちょっと風邪を・・・ 」

「 まあ〜〜〜 それは大変!  でも大丈夫、わたくしのこの髪がすべてを浄化します。

 海の底の国いちばんの癒しの髪ですから。 」

ふぁさ・・・・  姫君は首を振り その長い髪を揺らした。

 

  ― 薄紫にけぶる髪 ・・・ 確かに海の底では珍しい色だ。

 

「 大変に美しいですね。 」

「 まあ〜〜〜 お上手♪♪ うふふ〜ん ・・・美人だって そんなにはっきり仰る殿方って♪ 

 ジョー様が初めてですわ〜〜 うふふ〜ん♪ 」

「 ・・・??? 」

ジョーは髪のことを褒めたのだが ・・・ 姫君は大々的に誤解、というか都合よく解釈したらしい。

「 わたくしの美しさとジョー様の勇気で この御国は安泰ですわ。

 眉目秀麗な子孫たちもたくさん増えるでしょうし♪ 」

「 ・・・ は は あ ・・・ 」

「 ああ〜〜 わたくし、ね。 婚儀の日が待ち遠しくて♪ ずっとジョー様のお側にいたくて♪ 

 それでこうしてお訪ねしましたのよ。 」

「 ・・・ はあ 」

「 このお部屋も わたくし好みに飾ってよろしいでしょう? 」

姫君はぐる〜っと部屋を見回した。

ここは <若君の客間>で つまりはジョーが彼の客人や友達を招待するサロンなのだ。

ずっとかなり殺風景だったが 王妃陛下と今はキララが体裁を整えてくれていた。

大理石の壁には暖かい感じのタピストリーが下がり、床にも植物の繊維で織った敷物を置いた。

大きな花瓶には この国のやや白茶けた緑の葉と小さな花をつけた草が沢山活けてある。

冷たく冷ややかだった部屋は なかなか居心地のよい空間に仕上がっている。

ジョーはとても気に入っていて 自室の模様替えもキララに頼んでいた。

「 え ・・・ あ あの。 今のままでは ・・・その〜 お気に召しませんか? 」

「 邪魔なものが多すぎますわ。  大理石の壁には輝石の衝立が似合います。

 床は  あら? これはなんですの? 靴にひっかかりますわね? 捨てさせてください。

 花は ああ若様の客間には金属の造花が相応しいですわ。 」

「  ・・・ あ  そ そう ・・・ ? 」

「 ええ。 わたくしにお任せくださいな。  え〜と・・・? そこの侍女にやらせましょ。

 ああ お前 ―   ?! 

「 ・・・・・・・・ 」

キララは 慎ましくずっと入り口近くに控えていたが そっと一歩前にでた。

暗がりから出てくれば 部屋の灯が彼女の髪に輝きを灯す。

 

   きらり・・・ それは姫君の髪飾りやネックレス、耳飾、果てはドレスの飾りより鮮烈な光・・・

 

「 ! な なあに??  ・・・  まあ〜〜 黄金の 髪?? 」

「 ・・・・・・ 」

「 あ あの。 ぼく付きの侍女で ・・・ キララといいます。 」

ジョーは 丁寧にお辞儀をするキララの側に飛んでゆく。

「 まあ ・・・ 」

たまら姫の表情が固まり、習慣的に浮かべている微笑が凍りついた。

「 ・・・・・・ 

「 お前 ・・・ その髪はホンモノなの? 貝の粉で染めたのではなくて? 」

「 ・・・・・ 」 ふるふる・・・キララは身を低くしたまま首を振る。

「 ふうん? それじゃ何で染めたの?  ― 答えなさいッ 

 まあ〜〜 このわたくしの問いに返事をしないのですか! 

「 姫君 ・・・ あの ・・・ キララは口が・・・ 話せないのです。 」

ジョーはやっと二人の間に入り込み、キララを背後に庇った。

「 口が?  あら ・・・ そうなの。 ふうん ・・・ 」

じろじろと姫君は不躾に 侍女を眺め回す。

すんなりした長い手脚に 細い首。  侍女の礼装はあまり似合っていないが

細身でしなやかな身体の線がはっきりとわかる。

「 あ ・・・ あの。 き キララはとても働き者で母も気に入っていて・・・ 」

「 あぁ〜〜ら そうなんですの。 へえ〜〜〜 」

「 ・・・ あ  あのぅ 〜〜〜 それでぼく付きの侍女で ・・・ 」

「 侍女、ですわよね。 ええ 当然ね。 

 ああ お前、 ここを片しなさい。 敷物がわたくしの靴にひっかかるの。 」

「 ・・・・・・ 」

キララは 膝を折って会釈をすると床に屈んだ。  敷物にしているラグを集めて出した。

「 あ  ・・・・ そ そんな キララ 」

「 ほら さっさとやりなさい。 」

 

      「 ウ〜〜〜〜〜 ワン ワンッ !!!! 」

 

突如 大きな吼え声が客間に うわ〜〜ん・・・と響いた。

「 !? きゃ〜〜〜〜〜〜〜 !! な なんなの〜〜〜〜 」

「 ゥ ワンッ !!! 」

茶色毛のカタマリが隅っこの暗がりから飛び出してきて キララの足元に座った。

「 ゥ 〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・ !! 」

彼は鼻先に皺をよせ姫君にむかって低く唸っている。

「 ・・・・・・! 」

キララは お止め ・・・といった身振りをし、ぽんぽん ・・・・とケモノの首の辺りを軽く叩く。

「 ゥゥ〜〜〜 ゥ〜〜〜〜〜  」

パタパタパタ ・・・ ケモノの太い尾が床で揺れている。

「 やあ くびくろ、 ご苦労さん。 お前はいつだってキララの味方なんだねえ 」

「 クウン ・・・ 」

ジョーも近寄ってきてケモノを囲んで楽しそうだ。

 

    !!!   んまあ〜〜 皆でこのわたくしをないがしろにして・・!

 

姫君は恐怖も忘れ無視された怒り ( と ヤキモチ ) で一杯になった。

それでもやっぱり恐かったので ととと・・・っとジョーの側に寄った。

そしてから はった! と件のケモノを睨みすえたわけだが ・・・ 迫力は全然ない。

「 まあ! なんですの、この ・・・ 野蛮そうなケモノは? 」

「 え ・・・ ああ、これはね、 いぬ という動物ですよ。  

 大丈夫、ちっとも野蛮なんかじゃありません。  なあ クビクロ? 」

「 ワン! 」

「 ああ ほらまた〜〜〜  こんなに大きな声で〜〜 」

「 これが地声なんですよ。 いつも元気で今で城の番もしてくれてます。 」

「 でも どこから?  この海の底のイキモノじゃありませんわ! 」

「 ええ。 彼はキララの相棒です。  キララのボディ・ガードも兼ねてますね〜

 ・・・ ぼくも仲間に入れてもらったので ぼくの遊び相手もしてくれますが。 

 なあ クビクロ、 そうだよな〜 」

「 ワ ワン!! 」

ケモノは調子付き ますます大きく吼える。 すたすた寄ってきて ちょい・・・と

姫君の裳裾の端を嗅いだりしてみせる。

「 ひッ  ひえ 〜〜 」

 

     な なんなの!??   このワタクシを無視して〜〜〜

 

姫君の額の青筋はひくひくと痙攣している。

「 と ともかく!  追っ払ってくださいな!

  ぴららが恐がりますわ!  ねえ ぴらら?   」

「 ・・・・ぴらら ・・・? 」

「 ええ。  ねえ ぴらら? 恐かったでしょう? 」

「 ??? 」

姫君は 手に提げていたバッグに話しかけた。

 

    きゅい〜ん ・・・ !   なにやら高い鳴き声がした、と思ったら。

 

真っ白でふわふわした・・・ 何か がバッグからぽわん、飛び出した。

「 さあさ いらっしゃい、ぴらら・・・ 」

大きな耳とシッポをもったイキモノが 姫君の腕に抱かれている。

「 ぴらら ぴらら・・・ 怖いことなんかないからね・・・

 今、 この野蛮はケモノを追い払わせますからね!  安心をし。 」

 

    キュウ キュウ〜〜〜  !  

 

白いふわふわ は コレも高い声で鳴くとぽん、主人の腕からすりぬけ床に降りた。

「 あ!  ぴらら・・・ 危ないわ、戻っておいで! 」

ぴらら と呼ばれた白いふわふわ は 姫君の声など聞こえない風で

すすす・・・っとクビクロの足元に寄ってゆき ―

 

   キュウ キュウ ??    ・・・ ク〜ン ・・・・ ワン♪

 

二人、いや 2匹は 一瞬緊張して見つめあったが  すぐに

 

    (  a  boy  meets  a girl  )

 

鼻面を擦りつけ・・・たがいにすりすり〜〜し始めた。

「 まあああ〜〜〜〜!!! ぴらら ・・・ 」

「 やあ ・・・クビクロ? 新しい友達が気に入ったのかい? 」

「 ワワンッ ! 」 「 キュウ〜〜 」 二匹が唱和する。

「 へえ ・・・ もう意気投合していますよ。 」

「 まあ!! ちょっと! わたくしのぴららをヘンに誘惑しないでちょうだい!

 ああ〜〜 ほらほら あっち行って! さ ぴらら・・・いらっしゃい。

 あなたの自慢のロング・コート・・・ 汚されたりなんかしていないわね? 」

「 いらっしゃい。  聞こえないのですか ぴらら! 」

姫君はツンツンして 彼女のペットを呼び戻した。

 

   キュウ キュゥ 〜〜〜   ク 〜〜 ン ・・・!

 

二匹はひた! と見つめ合い  ― やがて仕方ながない、といった顔つきで

それぞれの主人のもとに戻った。

「 ― 失礼いたしますわ ッ !! 」

 

 

   パタン  ―   迎賓室のドアが閉り  ・・・ やっと静寂が訪れた。

 

薄紫の裳裾を蹴立てるようにして 姫君はやっとご退出になったのだ。

「 あ ・・・ は。   なんか疲れたな・・・ 」

「 ・・・・・・ 」

苦笑しているジョーに キララがそっとカップを乗せたトレイをさしだした。

いい匂いの湯気が ジョーの頬にあたる。

「 ああ ありがとう ・・・  うん イタダキマス。 」

ジョーは長椅子に座り込むと カップを受け取った。

「 ― ふう ・・・ 美味しい ・・・  これ、いつもの海藻茶かな? 」

「 ・・・・・・ 」 キララが軽く首を振る。 す こ し だ け ・・・と彼女の唇がうごく。

「 ?  きみが?  なんだろうな、すごく懐かしい味なんだけど ・・・

 ああ おいしい・・・ 疲れが抜けるよ、ほんとうに。 」

「 ・・・・ クゥ・・・ン  」

ジョーの足元でクビクロが すまなさそうに声をあげる。

「 あは ・・ クビクロ〜〜 お前だけだよ、いい想いをしたのは〜〜

 あの新しい友人は どうだい? なかなかの美人じゃないか。 」

「 ワン〜〜〜 」

ジョーの手に クビクロがすりすり・・・と頭をこすりつけてきた。

「 あはは ・・・ いいんだよ、ぼくのことは気にしなくても。

 お前はお前の友人と楽しくすごせばいいんだ。 よしよし・・・ 」

「 ・・・・・・ 」  キララもにこにこして クビクロの頭をなでる。

「 お前の友人はいいとして。  キララ、すまないね、いろいろ・・・ その不快は想いをさせて・・」

「 ・・・・・・ 」 

「 悪いヒトじゃないんだけど・・・ ぼくはどうも ・・・ 苦手だなあ・・・

 あの意志の強さは見習うべきかも、とは思うけど ・・・ 」

「 ・・・・・・ 」  キララはゆっくりと首を振ると ジョーのカップを受け取った。

「 なんていうのかなあ ・・・ いつでもなんでも自分が中心に物事が回っているって

 信じているんだよな。 それは君主としては必要な自覚かもしれないけれど ・・・ 」

「 ・・・・・・ 」  彼女はそっとジョーの後ろに周り 肩の手を掛けた。

「 あ は? そうやって ・・・ うん、ほぐしてくれるのか?  ありがとう ・・・

 ああいう女性 ( ひと ) と一緒にいるとぼくはくたくたになってしまうんだ。

 でも これは父上・母上が決められた婚儀だから。 」

「 ・・・・・・  」 彼女の手の動きはいささかも乱れない。 

しかし ・・・ ジョーには見えぬ彼の背後で キララは表情を曇らせる。

そんな彼女を見て クビクロがぱたり ぱたりとシッポを振る。

「 うん? なんだい、クビクロ? 」

「 キュ ゥ〜〜〜 ゥ〜〜 」

「 どうした? 外に遊びにゆきたいのかな? 」

「 ワン!! 」 違います! と言った風にクビクロが吼え、その場に伏せをした。

「 ああ ここに居てくれるかい? 嬉しいなあ・・・

 うん 私的な問題だけじゃないんだ。 海の底の国としての問題もある。 

 どうもよからぬ侵略の手があって ・・・ 隣国と協力して警戒しなければならない。 」

「 そのためにも あの姫君との婚儀が急がれるんだけど  どうもなあ ・・・  」

ありがとう、とジョーはキララの手をかるく押さえた。

「 お蔭で少し楽になったよ。  あ! そうだ・・・キララ。 ダンスだよ、ダンス。

 姫君の歓迎祝宴で 婚約の印として二人で踊らなくちゃならないんだ。 」

「 ・・・・・・ 」  まあ・・・ とキララの青い眼がますます大きく見開かれる。

「 ぼく、全然ダメで ・・・ ばあやがちょこっと教えてくれたんだけど ・・・

 ばあやは男性のステップをよく覚えてないっていうしさあ。 」

「 ・・・・・・ 」 キララはにっこり笑うとジョーの前にでて彼の手を取った。

「 あ 教えてくれるのかい? 」

「 ・・・・・・ 」 うんうん ・・・とキララは微笑みかける。

「 わお ありがとう!  あ 音楽がいるね、 ちょっと待ってくれる? 」

ジョーは急に快活になり、長椅子から飛びたつみたいに部屋から駆け出した。

「 ・・・・・ 」 笑顔で見送ったけれど  キララはすとん、とその場に座り込んでしまった。

膝に顔を押し当て ― 涙を押しとどめる。

「 キュウ〜ン ・・・・ クン ? 」

クビクロが彼女の周りをうろうろ歩き回り 冷たい鼻面を押し付けてきた。

「 キュウ〜 ン ・・・? 」

「 ・・・・・ 」  涙の筋が残る顔を上げ、キララはクビクロの首を抱き寄せる。

「 ゥワン ? 」

「 ・・・・・・ 」  しばらくこうしていて ・・・  キララは茶色毛の首筋に顔を埋めた。

「 ワン。 」  クビクロは低くひと声鳴くと 静かに彼の女主人のなすがままになった。

「 ・・・・? ・・ 」  ほんの数分の後、 キララははっと顔をあげた。

 

     タタタタ ・・・・!  城の廊下を駆け足の足音がこちらへやってくる。

 

「 ・・・・・・ 」  ハンカチをだし、キララはそっと頬をぬぐい髪を手で整える。

泣いていたと思われるのは やっぱりイヤだった。

「 さあ 持ってきたよ! 」

バン! と大きな音とともにドアが開き ― ジョーが息せき切って立っていた。

「 ・・・・・・ 」  キララは明るい笑みを頬にうかべて 彼の側に駆け寄った。

 

 

「 え〜〜 ? もう一回?? 」

うんうん ・・・と彼の腕の中でキララが頷く。   ― くすくす ・・・ 彼女は笑う。

「 ふう ・・・ ちょっともう ・・・ バテバテなんですけど・・? 」

ジョーは天井に向けて ふう〜・・・っと熱い溜息を吐いてみせた。

「 ・・・・・ 」  だめだめ ・・・と微笑みつつも彼女は首を振る。

広いはずの部屋の中には 二人の熱い・・・空気がふくらみ、隅っこに澱んでいた冷たい闇まで

なにやらごそごそ動き出しそうだ。

「 じゃあ ・・・ もう一回だけ だよ? 」

「 ・・・・・・ 」 こくん、と彼女が頷き 彼の胸に身を寄せ ―

 

   カチ。  手にしていた小さなスイッチを押した。  ( 残念でした〜 期待した方♪ )

 

  ♪♪♪ 〜〜〜〜 ♪♪♪  ♪♪♪ 〜〜〜

 

途端に すこし古風な音楽が流れ出し キララはジョーをひっぱりステップを踏みはじめた。

 

   ― そう ・・・ 若君は ダンスの特訓を受けているのだ・・・・!

 

「 〜〜〜 あ! ご ごめん  ・・・・ 〜〜 〜〜〜 あ! また まちがえた! 」

ジョーの動きはぎくしゃく うろうろ・・・ キララが巧みにリードしていても

音に乗っている、とは全く見えない。

「 ・・・・・ 」  ふう・・・ 溜息ひとつ、でキララはジョーの手を離し 足をとめた。

「 〜 ? え・・・? あ?  あの ・・・ もういいかなあ〜〜 」

「 ・・・・・ 」  ダメダメ。 キララは首を振り、今度はジョーの横に並んだ。

「 ・・・・・? 」  一緒に動いて? と彼の顔を見、ステップを踏みはじめた。

「 え? あ ああ 一緒に ね。  う〜ん と?  ワン ツ スリー ワン ツ スリ〜 」

始めはぎくしゃく とても三拍子とは見えなかった動きも 彼女の真似をし、

彼女の身体の動きに合わせてゆくうちに ― なんとか ・・・ ダンスらしき風に見えるようになった。

「 ・・・・・ 」 うんうん ・・・  やっと彼女が頷いてくれた。

「 わ♪ そ そう?  これで ・・・ いいのかな♪ へへへ ・・・・ 

 な なんか ・・・ 楽しいね?  キララ、きみと一緒なら ― ずっと踊っていたい ・・・ な♪ 」

「 ・・・・・ 」 一瞬 彼女も笑みを弾けさせたが すぐに消えてしまった。

「 ・・・・? 」 手にしたスイッチをみせ、キララは若君の前に立つ。  もう一度、と誘う。

「 え・・・  はいはい、判りました 先生。 

 ふう ・・・ では。  踊っていただけますか、お嬢さん? 」

えへん、とジョーは姿勢を正してからキララの前で 慇懃に会釈をした。

 

  はい。   では ・・・ おねがいします    ♪♪♪ 〜〜 ♪♪♪ 〜〜〜

 

古風なワルツにのって二人は ― 見つめあったままゆっくりと踊りはじめた。

 

     あ  あ ・・・ なんて ・・・ なんて綺麗なんだ・・・

     ・・・ ぼくは。  知ってる のか?  うん 知ってる・・・!

     知ってるんだ!  この瞳も この温かさも!

 

     ジョー ・・・ ジョー ・・・

     ああ  ジョー ・・・!  お願い 思い出して・・・!

     あなたのこころを縛っている見えない糸を 断ち切って!

 

想いを籠めた二人は 滑るように軽々と音の翼に乗って踊ってゆく ・・・

 

     ・・・ そう だ ・・・よ?  ぼく は ・・・・

     ああ なにか思い出せる ・・・ か?  

     ・・・ ドアが  こころの奥のドアが 開く ・・・?

 

     ジョー ・・・  ああ ジョー ・・・!

     わたし よ?  わたし  よ ・・・!  

     お願い 帰ってきて・・・ あなたの心をわたしに戻して!

 

 ―  バタン ・・・!    いきなり迎賓室のドアが開いた。 そして ・・・

 

       キュウ キュウ キュウ 〜〜〜〜〜 !

 

真っ白なふわふわ・・・が甲高い声をあげつつ・・・転がりこんできた。

「 ゥワン? ・・・ ワン!  ク ゥ〜〜〜〜ン !!! ワン! 」

「 キュウ キュウ  〜〜〜 ♪ 」

た!っと駆けてきたクビクロは ― たちまちソレと鼻面を擦り合わせいちゃいちゃし始めた!

「 ・・・・・ ??  」 思わずキララが足をとめた。

「 わ!?  な ・・・ なんだ?   あ ああ ・・・ 姫君のトコの ・・・ え〜と ・・・? 

 なんていったっけ?  ひらひらした名前だったよねえ? 」

「 ・・  ・・  ・・  !  」 キララが大きく口を動かして教えてくれる。

「 え・・・?   あ ああ!  ぴ ら ら だね? 」

「 ・・・・・・ 」  うんうん ・・・ 金の髪が肩口で揺れる。

「 な〜んだぁ? クビクロ〜〜〜 お前 案外手が早いんだなあ? 

 さっきであったばかりじゃないか〜〜 」

「 ウワン?  クゥ 〜〜〜〜 ♪ 」

「 そんな目をしてもダメだぞ。  ま・・・気持ちはよ〜〜くわかる けど。 」

ジョーはクス・・っと笑いキララをじっと見つめた。

「 ・・・・・・ 」  自然に頬が赤く熱くなってしまう。 ・・・でも嬉しい。

「 ね キララ?  」

 ワン!  クゥ〜〜ン ・・・  キュウ キュウ 〜〜〜 

二匹も 一緒に声をあげる。  ぴららはちゃっかりクビクロの背に乗っていた。

「 よ〜し じゃ お前たち、観客になっておくれ? 

 それでは 改めて。  ― 踊っていただけますか? お嬢さん。 」

ジョーは 微笑み彼女の手を差し伸べた。

まだ彼のステップはかなりぎこちなく、 堂々とリード・・・には程遠い。

彼女が巧みに彼に方向を指示しテンポを保っている。

それでも 二人は踊りながら 熱く 熱く みつめあう。

 

    キララ ・・・  きみ は。  きみってひとは・・・

 

    ジョー  わたしを見て。 そして ・・・ 思い出して

 

    ・・・ ぼくは この瞳を 知っている ・・・?

 

    ジョー  あなたを追ってここまで 来たわ

    あなたを想って ここにいるのよ ・・・

 

    キララ  ・・・ いや  ちがう ・・・・

    この瞳に 語りかけた名は ・・・ 愛しく呼んだ名は ・・・

    別の名だった  ・・・  そう ・・・たしか ・・・

 

踊る二人の影を 茶色毛とふわふわの白い羽毛が眺めている。

二匹の視線は 二人の動きから離れない。

二人が寄り添うように 二匹も身体を寄せ合い鼻面をこすりつける。

日頃は冷たい空気が満ちている迎賓室が 暖かく楽しい居間になってゆく・・・

 

    あ ・・・れ ?  この空気  こんな雰囲気 ・・・

    ぼくは 知っている ぞ?

    

    ジョー ・・・ ねえ ジョー。

    二人でたくさんお喋り、したでしょう? 笑いあったわね?

 

    う ん ・・・ そうだよ、こんな暖かくて楽しい 場所・・・

    そして懐かしい笑顔  ・・・  きみの!  きみの笑顔 ・・・!

 

    ジョー。 あなたがいてくれたわ。 あなたと一緒だったわ

    大きなお月様を見たわね   満天の星空を眺めたわね 

 

    か ・・・ えり たい・・・  帰る ・・・?

    え  ―  な なんだ 今のぼくの言葉は 

 

    ジョー。 あなたと一緒ならどこへでも ゆくわ。

    ジョー ・・・ あなたのためなら なんだってできる・・・!

 

    ・・・ きみの名前 ・・・ きみの ・・・

    ああ もう少しで浮かんでくる ・・・ かも ・・・

    ・・・ そうだ やっぱりこんな風に海に側に いた ね?

 

    ジョー  あなたの瞳は変わっていない

    ジョー  あなたのこの手の暖かさも変わっていない

    思い出して!  そして 二人で帰りましょう ・・・

 

    きみは  ふ ・・・ らん ・・・そ わ ず ・・・?

 

 

「 お待ちくださいまし〜〜  姫君さま〜〜  どうぞお待ちを〜〜 」

 カツカツカツ  カッ カッ カッ !!

乳母の君の叫びにちかい声と一緒に 大きな足音が聞こえてきた。

 

   ―    バンッ ・・・!    いきなり迎賓室のドアが大きく開いた。

 

「 わ?!  な なんだ? 

「 ・・・・?? 」

二人は驚いて 動きを止め ―  そんな二人の目の前には。

 

「 失礼いたしますわ、ジョー様。  ぴららがこちらにお邪魔していませんこと? 」

 

薄紫の髪を靡かせ、たまら姫が立っていた。

息が乱れ 髪も乱れ ― 頬は紅潮している。

「 や やあ? 姫君 ・・・ あの? どうかなさいましたか? 」

「 ―  ジョー様。   あ〜ら とんだオジャマをしてしまいましたかしら、わたくし。 」

姫君は じろり、と目の前の二人 ―  しっかりと寄り添い ・・・ いや、ホールドをして

ダンス・パートナーと密着してる二人を見た。

 

「 え?  ・・・あ! ・・・ 」

「 ・・・・・ 」

キララはさっと身を引き<若様>の 後ろに控えた。

乳母の君があたふた・・・まだ流れていた音楽をとめる。

「 あ  あの〜〜 ぼく達は別にそんな ・・・  あの ダンスの練習を・・・ 」

「 ― ダンス ? 」

「 はい、姫様〜〜 そうなんでございますよ。  はい〜 」

若君の側にもどると 乳母の君は熱心にとりなす。

「 姫様のための歓迎の宴 ・・・ その時に姫様を上手にリードできますように・・・って

 若君はダンスの練習に熱中していられるのですよ はい。 」

「 ・・・ まあ ・・・ それで侍女をお相手に ですの? 」

「 はい〜〜 この ・・・ キララは城一番の踊り手ですので ・・・ はい。

 キララを相手に若様は熱心に練習しておられたのです。 そうですわよね、若様? 」

「 え!?  あ  ああ そう そうです!

 キララはとてもダンスが上手で ・・・ ぼくはすっかり夢中になっていました。 」

「 ― 夢中に?! 」

「 あ あの! ダンスに、でございますよ。  さあさ 若様〜〜 練習はそろそろこの辺で・・・

 お茶の時間にもなりますし?  ああ キララ・・・ ここは私が片すからね。

 お前はお茶の仕度に手落ちがないか 見てきておくれ。  」

「 ・・・・・ 」  キララは大人しくお辞儀をすると 静かに迎賓室を出ていった。

「 あ あの ・・・ 」

「 ダンス の練習 ねえ・・・  ふうん ・・・ 」

「  ワン っ !!! 」

部屋の隅にいたクビクロが ひと声大きく鳴いた。

「 きゃ・・・  あれ〜〜〜 ジョー様〜〜 このケモノがぁ〜〜 」

「 なにもしません。  クビクロ どうした? 」

「 ワンッ !!! 」  クビクロはジョーを見つめパタパタ・・っとシッポを大きく振ると

 トトトト ・・・  と部屋を横切ってゆく。

「 クビクロ。  キラ・・・いや お前の主人を頼んだよ? 」

「 ワン! 」

「 キュウ キュウ〜〜〜〜 」

残された白いふわふわした生き物が 淋しい気に鼻を鳴らす。

「 まあ〜〜〜 ぴらら! やっぱりここにいたのね??  おいで。 」

「 ・・・ キュウ キュウ 〜〜 」

「 いらっしゃい。 」

「 ・・・・ キュ ・・・ 」  白い羽根毛をゆらし、ぴららは主人の腕に戻った。

「 もう〜〜 ・・・ あら?? この・・・茶色の毛はなあに?

 お前 ・・・まさかあのケモノと一緒にいたの? 」

「 キュウ キュウ〜〜〜 」

「 まあ イヤ!  ばあやに綺麗にしてもらわなくちゃ。 さ 行きましょう。

 ジョー様?  それでは失礼いたしますわ。 」

形ばかりは優雅に会釈をすると、姫君は薄紫の裳裾を翻し部屋を出ていった。

 

  キュウ  キュウ 〜〜〜〜 !!

 

  ワンッ −−−!  クゥ 〜〜ン ・・・!

 

二匹は離されててもなお、遠く鳴きあっていた。

「 ・・・ おやめ クビクロ。  あの人を怒らせるだけだよ。 」

「 ク ゥ 〜〜 ン ・・・ 

ジョーがぽんぽん・・・と彼の首の黒毛を撫でてやると クビクロは吼えるをやめた。

「 ・・・・・・・ 」

キララが静かに寄ってきて、クビクロを連れてゆこうとした。

「 キララ。  不愉快な想いをさせて すまない。

 あのヒトは ・・・ 悪気は多分ないのだろうけど・・・ ああいう性格なんだ。 」

「 ・・・・・・ 」 キララは慎ましく目を伏せている。

「 ふ ・・・ ぼく ってさ。 彼女の言いなりになっているよね、 不甲斐無いオトコだろ。

 いくら恩のある養父母のため ・・・ とはいえ ・・・ 」

「 ・・・・・・ 」  え? ・・・ キララはふと 目を上げた。 

「 きみもそう思ってくれたなら ・・・  うん・・・ これでいいんだ。 」

ジョーは クビクロの側に屈みこみその茶色毛をごしごし・・・撫でた。

「 オマエも相棒になってくれるよな? 

「 ワン! 」  この頼もしい仲間は即答する。

「 ありがとう!  キララ ・・・ きみももう休んでくれたまえ。

 ・・・ きみの本当の名前、 なんといのだろうね。 ぼくは知りたい。 」

セピアの瞳がじっと彼女をみつめる。

「 ・・・・・・ 」  ―  かろうじて視線を外し 彼女は横に首を振った。

そして 侍女としてのお辞儀をすると、クビクロをつれて若君の客間から下がっていった。

 

 

 

  どたばた  ドタドタドタ ・・・・

 

「 ひゃあ〜〜 忙しい 忙しい〜〜   若様〜〜 ここをお開けくださいまし〜〜

 ジョー様〜〜 お目覚めですよね??  」

ドアの向こうで乳母の君が声を張り上げている。

「 ばあや?  なんだ、 ノックすればいいのに ・・・ 」

ジョーは笑ってドアを開けに行く。

「 おはよう。 どうしたんだい?  うわ?? 」

 ずん。  荷物が先に部屋に入ってきた。

「 なんなんだ〜〜 ばあやは荷物に変身したのかい? 」

ととと・・・っと荷物を受け止めつつ ジョーは後退りをする。

「 ジョーさま!  な〜にを暢気なことを仰っているんですか〜〜

 ほらほらほら〜〜 お早く!  試着してくださいまし! 」

荷物の後ろから乳母の君のまるまっちい身体がようやく見えてきた。

「 試着? 」

「 そうでございますよ!  本当なら昨日までにお願いするつもりでしたのに・・・

 なにせね、数がたくさんすぎて 〜〜  よっいしょ!  

 ズズン・・・!  荷物をしっかり若君に押し付けると 彼女はに・・・っと笑った。

「 さあさ。  お着換え お願いしますよ! 」

「 あ  あの・・・ なんの?  」

「 まあああ!  若様!  今夜の たまら姫様歓迎の宴用のお衣裳でございますよ! 

「 衣裳・・・って   あの この服じゃあダメかい。 」

ジョーは 柔らかい生地のシャツを引っ張った。 きちんと洗濯はしてあるし、着古しではない。

「 まあああ!  そのお洋服は普段着でございましょう??

 宴 ですよ〜〜 それに若君は婚約の印のダンスをなさるのですよ? 」

「 ・・・ あ  ああ  ・・・ そうだった ・・・ね 」

「 そうです!  これもあれもそれも・・・み〜〜んなキララが丁寧に調えてくれました。

 彼女が縫ったものもあります。 あの娘は本当に器用で気立てもよくて ・・・

 皆 大層気に入っておりますよ。  いえ その話ではなくて! 」

ばさ ばさ ばさ ・・・!  乳母の君は次から次へと服を出しジョーの身体に当ててみる。

「 ふうん ・・・?  これがいいかしらね  いえ こっちですかね?

 〜〜〜 まあいいわ ともかく順番にご着用願います! 」

「 ・・・ はいはい わかりました。 」

ジョーは服の山を眺めて苦笑した。

 

   キララが調えてくれた ・・・  彼女の心意気を無にはしたくない。

 

「 ― なあ ばあや? 聞きたいんだけど ・・・」

「 え〜と・・・ ああ その組み合わせ、よくお似合いですわ〜〜 」

「 あの! 服の話じゃなくて。 ばあやは ・・・ ばあやもキララが気に入っているかい? 」

「 え??  ええ ええ あの娘はいいコですよ。 」

「 うん。  彼女 ・・・ 今はぼく付きの侍女の仕事をしてもらっているけど。

 本当は < 客人 > だ。  ぼくと同じに < 外 > から来たヒトだし。 」

「 はあ それは そうですけど ・・・ 」

「 だから 彼女にも今日の宴に出席してほしいんだ。 」

「 キララは若様付きですから ・・・ 出席しますよ、勿論。 」

「 あ〜〜 そうじゃなくて。 侍女として、ではなくて ・・・ そのう ・・・ 

 客人として。 ぼくが招待した、という形で出席してほしいんだ。 」

「 それは ・・・ 構いませんが。  キララはなんと申しますか・・・ 」

「 ぼくが直接頼むよ。 だから ばあや ・・・ その、彼女の服を・・・

 宴に相応しい服を誂えてやってくれないか。 」

「 若様 ・・・ それは ・・・ 」

「 うん。  それで ・・・ 髪飾りとかは ぼくが用意した。 」

彼は部屋の奥に入ると なにか小さな箱を手に戻ってきた。

「 これ ・・・ どうだろう? 」

「 ・・・ まあ・・・  これは 」

「 うん。 ぼくが作ったんだ。  輝石よりも彼女にはぴったりかな、と思って。 」

乳母の君はしばらく箱の中身と ジョーの顔を交互に見つめていたが

やがて真顔で彼と向き合った。

「 ― ジョー様。 ジョー様のお頼みとあらばなんだって。

 ナイショですけど。 ばあやもキララのことが気に入っています。

 ええ勿論侍女としてじゃなく。  若様のお気持ちも ちゃ〜んと・・・ 」

「 ばあや ・・・ 」

「 ばあやもね〜 薄々わかっていましたよ。

 でも ・・・ これを拝見して確信しました。 ええ ええ ようございます。

 ばあやもしっかり ・・・ 応援いたしますよ。 」

乳母の君は ばちん! とウィンクをした。

「 ありがとう・・・! 」

「 さ! それではまず! とっとと! 若様はご自身のお衣裳を決めてくださいまし。 」

「 ふぇ〜〜〜 ・・・ はいはい ・・・ 」

ジョーは腹を括って並べられた服に向き合った。

 

 

 

  ざわざわざわ ・・・  城の大広間では着飾った客人たちが ゆったりと談笑している。

 

貴賓席には すでに国王夫妻がご着席しておられ、招待客との挨拶は済んでいた。

宴を仕切る家臣たちが 目立たぬよう大広間を行き来して気を配っている。

客人達も 銘酒片手に和やかにあれこれ四方山話に花を咲かせていた。

 

「 正客の姫のお出ましはまだですかな ? 」

「 ほほほ ・・・ 姫君はお化粧にお忙しいのではなくて? 」

「 左様 左様 ・・・ 女性のお仕度には時間がかかりますからな ・・・ 」

 

「 ・・・ 若様は あの姫君とご成婚なさるのかしら。 」

「 でしょうな。 隣国との絆を強めるため には・・・ 」

「 そう ですわねえ・・・ でも 少しお気の毒な気が ・・・ 」

「 それは言わない約束です。 

「 ええ ・・・ そうでした ・・・ でも ねえ・・・  」

 

「 国王陛下がお元気で喜ばしいですね。 」

「 本当に ・・・ 王妃様も今日はご出席なのですね。 」

「 体調を崩していらっしゃると伺っていましたが  」

「 ええ。  すこしはお宜しいのかしら ・・・ 」

 

  カタン ・・・  重いドアが開いた。 新しい客人が到着し招じられて来た。

ざわめきが一層華やかになった。

 

「 おや。 何方でしょうな。 」

「 隣国の方かしら。   あら 女性の方 ・・・ どちらのお嬢様かしら。 」

「 ほう ・・・ いや これは・・・! 」

「 ・・・ まあ ・・・ あの御髪・・・! 」

 

    ざわざわざわ  ― 客人たちの視線とひそひそ話はすべてその女性に集中した。

 

新しい客は ―  煌く金の髪を軽く結い上げ 水色のドレスを纏っている。

玉座へと歩むたびに きらきら・・・金の髪を飾るティアラが瞬く・・・

 

「 金の髪 ですか ・・・ どちらの姫君だろう? 」

「 御髪も見事ですけれど まあ綺麗な方 ・・・ 」

「 ドレスと瞳の色がぴったりですわね〜〜 」

「 おや ・・・ 髪飾りは・・・宝貝ですか。 」

「 ええ ええ そうですわね。  輝石よりも美しいですねえ ・・・ 」

 

満場の感嘆の吐息の中、 彼女は国王夫妻に慎ましやかに挨拶をし、お側に控えた。

 

「 こちらにいらっしゃればよいのになあ〜 」

「 左様 左様 是非ともお声を拝聴したいですな。 」

「 ええ  あ ・・・ ほら そろそろご正客の姫君がお出ましなのではなくて? 」

「 そうですね。 今 若様が席を外されましたから・・・ 」

「 お迎えにいらしたのでしょう。 ・・・ あのお嬢様とお話していらしたのに・・・ 」

「 楽しそうでいらしたわね。 」

「 ・・・ そりゃ ・・・ 」

「 あ ・・・ お出ましのようですわよ? 」

 

  ―  やがて本日の主賓が登場した。  若君に手を取られ満面の笑みと共に・・・

薄紫の髪が 歩みと共に派手にゆれて広がり、 同じ色のドレスには眩いばかりに

輝石が散りばめてある。

 

一瞬 会場の関心は姫君の上に集まったが ― すぐに別の所に集中した。

 

「 ・・・ 綺麗なお嬢さんですわねえ〜  」

「 優しい笑みだ・・・ ああ 是非お近づきになりたい〜〜 」

「 母上〜〜 あのお嬢さんにどうしても紹介してください! 」

「 まあ 王妃様が楽しそうに笑っていらっしゃる・・・ 」

「 ええ ええ あのお嬢さんが髪飾りをお見せしているようですよ 

  

     なんて可愛らしい方なのでしょう。 若君とお似合いですね。

 

 

 

 

  サクサクサク  ・・・・   ヒュウゥ ・・・・

 

数十分後。 宴での <注目の的>  は  城の近くに海岸を歩いていた。

はたはたとドレスの裳裾が海風に靡き 煌く髪も乱れがちだ。

 

「 ・・・・・・・ 」  彼女は懸命に砂地を見ている。

「 ワン!?  クゥ 〜〜〜ン ・・・・ 」

彼女の足元には ぴたり、と茶色毛のケモノが寄り添っている。

大丈夫よ・・・と彼女は ケモノの頭をなでる。

 

    ふう ・・・ 困ったお姫様だこと ・・・

   

海風の中 彼女は溜息をつき、少し波立ってきた海面に目をやった。

 

 

・・・ そう。  たまら姫はキレてしまったのだ・・・!

多くの客人達の賛辞を知ると 彼女は居丈高にその人物を呼んだ。

  そして。

「 キララ。  わたくしね、海岸で耳飾りを落としてしまったの。

探してきて頂戴。  ・・・ あのケモノもつれていって! 」

「 ・・・・・・ 」

「 ジョー様にはわたくしからお話しておきます。

 キララに大切なご用を頼んだ、ってね。  さあ早くいってきて! 

「 ・・・・・  」  キララは素直の頭を下げると静かに会場を出ていった。

「 たまら様 ・・・・ 」

姫君の側近が困惑している。

「 ふん。  わたくしですから ね。 この国の次の王妃になるのは!

 ・・・ 今ねえ 海は荒れているのですって。  ほほほほ ・・・ 」

 

 

 

  ザ −−−−− ン   ザバ −−−−ン  ・・・・

 

寄せる波が大きくなってきた。  風向きも変わってきた。

 

   これは ・・・ 嵐でもくるのかしら ・・・  

    ―  あら ・・・??

 

荒れる波間にひょっこり ・・・ 見慣れたモノの一部が浮き上がってきた。

 

   ・・・ あれは  ・・・ ドルフィン号 ・・???

 

 

 

Last updated :  09,25,2012.         back      /     index     /    next

 

 

 

*********  またまた途中ですが

すみません〜〜〜 あとちょこっとなのですが  

続きます ・・・!

人魚姫 ですと お姉さん達が来てくれますが。

こちらでは お兄さん達?? が来るの かも・・・