『 海の底には ― (4) ― 』
ビュウ −−−−− ・・・・
海からの風はますます激しくなり、 同時に海岸に押し寄せる波も高さをましている。
台風の接近を思わせる天候であり、こんな時に海岸線を歩く物好きはいない。
しかし ― キララは波打ち際ちかくで立ち止まったきり 動かない。
ザン −−−− ・・・・! ザバ ーーーーー ン ・・・・!
寄せる波の飛沫がドレスに飛び散り やがて足元にも波の先端が押し寄せて始めた。
「 ・・・・・・・・ 」
それでも彼女は動かない。 じっと佇み、沖の一点を見つめている。
あれは ・・・ ドルフィン号??
いえ まさか ・・・ 波が光っただけ かも・・・
ううん でもあのシェイプは ― 確かに !
≪ ・・・ 003? この通信がキャッチできるかい? ≫
突然 頭の中に聞き覚えのある <声> が飛び込んできた。
え ・・・? これ ・・・もしかして脳波通信 ・・??
ううん そんなはずない・・・
ここに来てからは全然発信できなかったんだもの
彼女はこの海の底の国に流れ付き < 若様 > と出合ったときから ずっと ―
脳波通信で彼に、 いや 009 に呼びかけを続けていた。
しかし 一度も返事はなく ・・・ 着信しているかどうか もわからない。
声と一緒に 脳波通信の機能も壊れてしまったのかしら・・・
それとも ― ここには特殊ななにか ・・・ シールドがあるの?
003は サイボーグとしての能力を全く稼働させることができずにいた。
≪ 003! フランソワーズ・・・!!! 返事してくれ !!≫
<声> は頭の中でがんがん喚きはじめた。
≪ 008。 ・・・ ボリューム、下げてくれないかしら? ≫
≪ ああ!! 受信できるんだね!? 無事なんだね!? ≫
≪ ・・・・・・・・・ ≫
バシャ ・・・! 彼女は突然、波打ち際に蹲った。
≪ おい?? どうした?? ここから君が見えるんだ、何があったんだ〜〜 ≫
≪ ・・・ う ・・・ ううう ≫
≪ 大丈夫かい?? これから泳いで迎えにゆくからッ !! ≫
≪ だ 大丈夫 よ ・・・ 嬉しかった ・・・だけ ・・・ ≫
≪ ??? 嬉しい ?? ≫
≪ ええ。 フランソワーズ って呼ばれたの、久し振りだったから・・・ ≫
≪ おいおい〜〜〜脅かすなよ? ≫
≪ ・・・ごめんなさい ・・・ ≫
≪ いいさ いいさ。 でも、久し振りってどういうことかい。
君がフランソワーズ号・改 で潜っていったのは昨夜じゃないか〜 ≫
≪ ― え ?? ≫
ザッバ −−−−− ン ・・・・!!! ますます海が荒れてきた。
≪ なあに? なんだかよく聞こえなかったのよ ・・・ ≫
≪ だから。 君が一人で出発した後をすぐに追ってきたんだよ?
大渦巻きを利用しなくても別のルートを001が見つけたのさ。 ≫
≪ ・・・ え ・・・・? すぐ に ですって? ≫
≪ それよりも。 ジョーは? 彼とはコンタクトできたかい。 ≫
≪ ジョー? ・・・ だめよ、彼は全然忘れているの。 ≫
≪ 忘れている・・・ってなにを。 ≫
≪ だから 全て、よ。 地上のこととか皆のことも ・・・ わ わたしもことも。
ううん、それどころか自分自身のこと・・・ 009 だってことも。 ≫
≪ ええ?? 本当なのかい? ≫
≪ 残念だけど本当よ。 何回・・・ 何百回も脳波通信で話かけたけど・・・全然。
返事はないし ううん ・・・ 気がついてもいないわ。 ≫
≪ そうだったのか ・・・ ≫
≪ わたし、 自分自身の脳波通信システムがダウンしたのかと思ってたの。
だって 目も耳も ・・・ 普通の発声も ・・・ ダメだから ≫
≪ う〜ん 応答がまるっきりナシ、だと そうも疑いたくなるよねえ ≫
≪ だから ― さっきは一瞬 パニックになりかけたわ、わたし。 ≫
≪ ごめん ごめん ・・・ それじゃ ジョーも同じ状態ってことかい? ≫
≪ わからない。 彼はなにも覚えていない、と言っているわ。
ここに流れ着いてからの記憶しかないみたい。 ≫
≪ ・・・ そ うか ・・・ この通信のことも、知らなければ回路を開くこともしないよなあ・・・ ≫
≪ わたしの ね 名前も ・・・ なにもかも覚えていなかったの・・・ ≫
≪ そ りゃ ・・・ ショックだっただろうね・・・ ≫
≪ もう ・・・ 慣れたわ。
それとね、地上とここではどうも時間 ( とき ) の流れ方が違うようなの。 ≫
≪ ふむ ・・・ 時空間の歪み、かなあ。 ≫
≪ かも しれないわね。 ≫
≪ ともかく 彼を連れ出してこれるかい? 多少強引でもドルフィンに乗せちゃえば
すこしづつでも思い出すかもしれないよ ≫
≪ それも考えたけど。 でも ダメだったらどうするの? ≫
≪ あは ちょっと無理だね。 それになあ この状況 ・・・ ちょっと不自然すぎるよ。 ≫
≪ 不自然? ≫
≪ ああ。 ジョーもきみも 全くサイボーグ機能が稼働しないってこと。
物理的な損傷はないんだろう? ≫
≪ ええ。 ジョーも <元気> だわ。 ≫
≪ ふむ・・・ ちょっと探ってみる。 こっちは任せてくれよ。 ≫
≪ きゃ ・・・! ≫
≪ ?? どうした?? 003〜〜 ≫
≪ あ ・・・ ご ごめんなさい ・・・ 波がね 大きな波がざば〜・・・って ・・・ ≫
≪ おい 気をつけて! ・・・でも 003? なんだってこんな荒天候の日に
浜辺なんかにいたのかい? ≫
≪ ええ ・・・ ちょっと苛められているのよ、わたし。 ≫
≪ へえええ??? ≫
≪ 話は長くなるから ・・・ とりあえず、周辺の索敵をお願い。
どうもね ・・・ なにかあるんじゃないか、と感じるの。 ≫
≪ あは それは僕たちも同じさ。 きみの、 いや サイボーグの能力を
封じる、というか無効にする < 何か > があるんじゃないかってね。 ≫
≪ ふふふ ・・・さすがね ピュンマ。 お願いします。 ≫
≪ 了解。 今後の定時連絡だけど ― ≫
≪ そうねえ ・・・ 多分 わたし、この浜辺に出てくるから。 通信するわ。 ≫
≪ オッケ〜 おい、風邪ひくなよ〜〜 フランソワーズ ? 濡れただろ? ≫
≪ うん ・・・ でも 大丈夫。 頼もしい相棒がいるもの。 ≫
≪ 相棒? ≫
ワンッ !!! ワワン ッ 〜〜〜〜
脳波通信を拾うことなんか出来ないはず。 それでもクビクロはしっかりと返事をした。
≪ 任せてくれ、 ですって。≫
≪ あはは・・・ ああ クビクロも元気なんだね よかった〜〜
ヨロシクって伝えてくれよな ≫
≪ 了解〜〜 そろそろ 若様 がやって来そうな気がするわ。 それじゃ ー ≫
≪ こちらも了解。 気をつけろよ! ≫
ぷつり。 頭の中のおしゃべりは終った。
「 クゥ 〜〜ン ?? 」
足元に茶色毛の温かな身体が寄り添ってくる。
うふふふ ・・・ ありがと、クビクロ。 大丈夫、わたし 元気だから。
<キララ> は ぽんぽん、と彼の背を軽く叩いた。
さあて。 姫君様の仰せに従わないと ね・・・
キララは湿気っぽくなったドレスの裾を絡げ海岸線をうろうろし始めた。
― ザ ザ ザ ザ −−−−−−−− !!
時折大きな波が浜に侵入してくる。 風もまだ強い。
灰色一色の海岸線で彼女の金の髪だけが 唯一の色彩だった。
しかし その美しさを眺めるものも 愛でるものも だれもいない。
「 ― キララ 〜〜〜 !? おい どこだ〜〜 」
遠くから聞きなれた声が飛んできた。
あら。 まあまあ ・・・ 礼装のままじゃない ・・・
汚れてしまうわねえ・・・
それにしても わがまま姫君はどうしたのかしら
キララはちらり、と視界の隅にジョーの姿をとどめつつも そのまま浜辺を行き来していた。
「 あ! キララ〜〜〜 海が荒れている、危ないぞ! 」
だだだ・・・っとジョーは駆け寄ってくると さっと彼女を抱き上げた。
「 ・・・・・・・・ 」 青い瞳が大きく見開かれ じっとジョーを見た。
「 ごめん、 ほら 波がくるから。 クビクロもおいで! 」
「 ワンッ ! 」
ジョーは彼女を抱いたまま 大股で波打ち際から離れた。
「 大丈夫かい、キララ。 」
「 ・・・・・・・ 」 彼の腕の中で彼女は笑顔で答える。
「 そうか ・・・ よかった ・・・ ばあやから聞いたよ。
なんというか ・・・ 困った姫君で ・・・ごめん。 きみに嫉妬しているみたいだ。 」
「 ・・・・・・・ 」 キララが微笑む。 灰色の空のもと、その笑みは彼女の髪と共にキラキラと輝く。
「 ・・・ キララ ・・・ あ ちょっとだけ ごめん ・・・! 」
「 ・・・? ( あ ・・・ ) 」
若様は腕の中の美女を そのまま、きゅっと抱き締め ― 唇を重ねた。
・・・・ あ れ ・・・? この感触。
知ってる ?? ぼくは この暖かさを知っているぞ ??
ごめん ・・・ 照れ臭そうにもう一度言って、若君は彼女を離した。
「 ばあやが慌ててぼくに教えてくれたんだ ・・・ 姫君がきみを外に追い出したって。
ごめん ・・・ ぼくがようく姫君に言っておくから。 」
「 ・・・・・・・ 」 キララは再び微笑して彼を見上げた。
「 それに あの ・・・ごめん ・・・ いきなり その・・・キス 」
「 ・・・・・・ 」 ゆっくり首を振ると 彼女はなにかを差し出した。
「 うん? なんだい ・・・ え? これ ・・・ 耳飾、だよね? 」
「 ・・・・・・ 」 うんうん ・・・と彼女が頷く。
「 あ! 姫君が無くしたって言ってたヤツかい? よく・・・見つけたね? 」
「 ・・・・・・ 」 キララの手がクビクロの背をなでる。
「 やあ〜〜 クビクロ、 お前のお手柄かい? ありがとう ! 」
「 ワン ッ ! 」
「 本当にキララの相棒は頼もしいね。 さあ コレはきみから姫君に・・・
ほら、高価な輝石ばかりの耳飾だ、見つかってよかったよ。 」
「 ・・・・・・・ 」 キララの手の中で 輝石の耳飾が輝く。
「 ・・・ ぼくには この・・・貝殻の髪飾りの方が百倍も綺麗に思えるけど ね。 」
「 ・・・・・・・・ 」 ジョーにとってはそのまた百倍に美しく思える微笑が彼へと注がれる。
「 キララ。 ・・・ きみが 」
「 ・・・・・・・ 」 キララの手が す・・・っとジョーの唇に伸びる。
「 ・・・・・・・ 」 彼の口を 白い指が封印する。
「 キララ? ・・・ ぼくが きらいか? 」
「 ・・・・・・ 」 大きな ノー を彼女は全身で表現した。
≪ ジョー!!! ジョー ・・・ ! 聞こえる? 返事 して ! ≫
キララは、 いや フランソワーズは全身全霊を込めて脳波通信で呼びかけた。
「 ― な・・・ んだ ・・・? 」
一瞬 ジョーの表情が変わった。 なにか信じられないモノをみる目付きだ。
「 ・・・ キララ いま ぼくを呼んだ? ・・・ いや まさか そんな 」
「 ・・・・・・・ 」 彼女は静かに彼の手をとり じっとその顔をのぞきこむ。
・・・ こ の ・・・ 瞳 海よりも そ 空 ・・・ よりも青い ・・・
この ・・・ 髪 陽の光を宿す ・・・ 金 ・・・
「 ・・・ きみ は ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
ゆっくりと 彼の手が彼女を抱き寄せ 彼女の顔を見つめる。
― そして 二人はどちらからともなく腕を絡ませ合い 唇を寄せ ― 重ねた。
さきほどの戯れのキスとは違う、求め合い貪りあう ― 深い口付け ・・・
愛しい ひと ・・・ よ!
・・・・ ああ! この温もりは 確かに ・・・ あなた ・・・
フランソワーズの瞳から 一筋の涙が静かに静かに零れ落ちた。
「 ・・・ あ ご ごめん ・・・ なんだかあんまり懐かしくて キララ。 」
「 ・・・・ ?? 」 一瞬にして 身体が冷えた。
・・・ キララ? えええ? 思い出してのでは ないの??
あ・・・ わたし まだ 能力 ( ちから ) 使えない ・・・
「 驚かして悪かったね。 すみませんでした。 」
ジョーは 彼女の身体を離すし、はにかんだ表情で少し笑った。
「 ・・・・・・ 」 彼女は再び目を伏せ 力なく首をふる。
「 ああ ドレスが ・・・ 濡れてしまったね。 早く着替えなくちゃ・・・
さあ 城に戻ろう。 」
「 ・・・・・・ 」 こくん、と頷くと チリン ・・・と髪飾りの貝殻が鳴った。
ジョーは微笑むと 先にたってすたすたと歩きだした。
・・・ ジョー ・・・ あなたは まだ 思い出してはいない のね ・・・
フランソワーズは キララ として悄然と城の若君に後に付いていった。
「 ・・・ ク ゥン・・・ 」
ずっと大人しく控えていたクビクロがぱたぱた寄ってきてこそ・・・っと彼女の手を舐めた。
「 ジョー様〜〜〜 どこにいらしたの? ずっとお探ししておりましたわ〜〜 」
「 ・・・ ああ たまら姫。 これは ・・・ 失礼いたしました。 」
城に戻り、大広間に入るや 甘ったるい声と強い脂粉の香りがどっと押し寄せてきた。
「 あらあ〜 御髪がこんなに乱れて ・・・ あらまあ マントの裾が少し湿っておりませんこと? 」
「 え? ああ ・・・ 海がかなり荒れてきましたのでね 」
「 海?? まああ〜〜〜 そんな危ないところにいらっしゃるなんて〜〜〜 」
「 キララを探しに行きました。 ― はい これ。 」
チャリ。 ジョーはポケットから出したものを姫君の手に押し付けた。
「 ― まあ なんでしょう?? ・・・ あら。 」
「 貴女の耳飾でしょう。 ちゃんとキララが見つけましたよ。 」
「 あ ら まあ そうですの? さすが〜〜 ジョー様の侍女ですわね♪ 」
「 失くさないようにしっかりお持ちください。 」
「 ジョー様ぁ〜〜 付けてくださいませんこと? わたくしの耳に。 」
「 ― ・・・・ これで宜しいですか。 」
「 ん〜〜〜 ・・・ ステキ♪ 」
たまら姫はべったりジョーに寄りかかる。
「 おやおや ・・・ 御仲のよろしいことで・・・ 」
「 あらまあ ・・・ 」
「 ・・・ 両国でとりきめた婚儀ですからねえ ・・・ 」
「 そう ・・・ お気の毒に ・・っと これは失礼 ・・・ 」
遠目には二人は仲良く寄り添った風に見えるので 客人たちはひそひそ囁きあう。
「 近年 ずっと・・・海が荒れ模様ですし ・・・ 」
「 以前のようにまた 黒い輩 が潜んでいるのでしょうか? 」
「 いや ・・・ ヤツラの巣窟は崩壊した、と聞いていますが。 」
「 では やはり若様のご婚儀で厄払い、ということですかな。 」
「 あら? あの金の髪のお嬢さんは? 」
「 さあ・・・ まあ たまら姫の積極的なこと ・・・ 」
「 ・・・ 若様もご趣味が ・・・ 」
「 あら これはほら 国同士のお取り決めですもの。 」
「 あ そうですよねえ ・・・ あの姫君はお美しいけれど ・・・ 」
「 し。 それは言ってはだめよ、将来の王妃様かもしれませんから。 」
「 ・・・です ね 」
たまら姫はおおっぴらにジョーに纏わり付き 大層ご満悦である。
「 うふふ・・・ あら? キララ? その形 ( なり ) はなんです?
わたくしの歓迎の宴に そんな汚れた恰好で! 」
ジョーの後ろに控えていたキララに やっと気がついたのだ。
「 ・・・・・・ 」 キララは濡れたドレスの裳裾を引き寄せ身を屈めた。
「 姫君。 彼女はあなたの言いつけで海岸まで行ったのですよ?
そして この耳飾を見つけたのも、 彼女です。 」
「 あ あら そうだったかしら?
でも ともかく! そんなドレスではね・・・ 退出なさい。 戻ってこなくていいわ。 」
「 では 彼女を送ってゆきますので。 失礼いたします。 」
「 あ・・・ ジョー様〜〜〜 」
ジョーは 振り返りもせず、キララをつれて大広間から出ていった。
カツカツ ・・・ カツ ・・・・
城の廊下を 若君はキララを連れて歩いてゆく。
行き会う召使たちは怪訝な顔をするが すぐに身を寄せ頭をさげた。
「 ・・・ ごめん。 あのヒトは本当にどうも ・・・ 」
「 いいえ ジョー。 あなたが ― え? 」
「 キララ!? きみ 声が! 」
「 え ええ ・・・ 」
自然に答えていたキララだが それはちゃんと声になっていた。 ― 本人が一番驚いている・・・
「 よかった! これできみの本当の名前も 」
≪ ジョー? フランソワーズ? 聞こえるかい? ≫
頭の中に聞きなれた声が 飛び込んできた。
≪ ピュンマ! 聞こえるわよ ≫
≪ よかった。 今 BGの基地跡だ。 遺棄されていた装置を完全に廃棄したよ。
やはりね、機能への妨害装置だけが不完全ながら稼働していたんだ。 ≫
≪ そうだったの・・・ ≫
≪ ああ。 この国の気象異常・・というか不安定さも解消されるよ。 ≫
≪ よかった ・・・・ ピュンマ ありがとう! 発声可能になったわ! ≫
≪ そうか! で・・・能力 ( ちから ) はどう? ≫
≪ ちょっと 待ってね。 ≫
「 え・・っと・・・ あ ら ? 」
キララ いや フランソワーズは <能力> に集中しようとした、しかし ・・・
「 ジョー ・・・! 」
彼女の目の前で 若様 ・・・ いや ジョーが呆然と佇んでいる。
「 ジョー! 大丈夫? 」
「 ・・・ な んだ ・・・? 頭の中に声が ・・・ でもこの声をぼくは知っている・・・ 」
「 ああ! ジョー ・・・! あなたも脳波通信をキャッチできたのね! 」
「 のう は つうしん ・・・? 」
「 そうよ! ジョー 。 いいえ 009 ! 」
「 ぜ ゼロ ゼロ ・・・ ナイン ・・・? 」
「 ― わたしを 見て。 わたしは 003。 フランソワーズ よ。 」
「 フランソワーズ ・・・・ ? 」
「 ! 」 フランソワーズは いきなり彼に抱きつくとじっとその顔を見つめた。
「 ジョー。 わたし よ ・・? 」
そして そのまま彼の唇に熱く あつく ・・・ 自らを重ねた。
「 あ ・・・・ ! ? う ・・・ ≪ ・・・・ フ ラン ・・・? ≫
≪ ― そうよ ジョー! ≫
≪ ! フランソワーズ !? ≫
≪ そうよ! そうよ ジョー ・・・・! ≫
≪ ああ ああ ・・・・ きみだ、この暖かさ この感触は きみ だ! ≫
≪ ジョー −−−−− ! ≫
ぎこちなかった彼の手は ― たちまち熱く燃える島村ジョーの腕に変わった。
≪ ・・・ おいおい〜〜〜 チャンネル全開でラブシーンしないでくれよ〜〜 ≫
≪ あ! ご ごめん〜〜 つい ・・・ ≫
≪ きゃ・・・ ごめんなさい 〜〜〜 ≫
二人は思わず 真っ赤になって離れた。
若君は外から戻り、一旦は大広間の宴に顔を出したが < 頭痛がするから > と
少しだけ休む、と自室に引き取った。
「 まああ〜〜 大丈夫でございますか? 若様〜〜 」
乳母の君がとんできて心配顔で彼の額に手を当てる。
「 う わ・?? あ い いや〜 うん ・・ちょっとだけ休めば ・・・ 」
「 そうでございますか? お具合がお悪いのでしたらこのまま失礼さなっても ・・・ 」
「 いや、それはあまりに失礼だよ。 大丈夫、すぐに戻るから。 」
「 本当に? ああ そうですわ! ばあや自慢のホンダワラの煎じ茶をお持ちします!
あれなら風邪や頭痛はたちまち消えてしまいますよ! 」
すぐですから〜〜 と とめるヒマもなく 乳母の君はどたばたと退出していった。
「 さぁ あまり時間はないけど ― いったいどういう事情なのか教えてくれ。 」
「 了解。 どこまで覚えているの、ジョー。 」
「 ぼくは ・・・ 船 ・・・ フランソワーズ号で 海に出て・・・ 呑み込まれた・・・
最後に見たには襲ってくる厖大な水、さ。 」
「 わかったわ。 それではわたしが知っている限りのことを話します。
とりあえず ヒアリング・オンリー ということで聞いてください。 」
「 わかった。 頼む、 003。 」
フランソワーズは今までの ― 海の底の国 での経緯を語り始めた。
「 ・・・ そうか ・・・ ここは 海の底ってわけなんだ。 」
「 ええ。 あなたはこの国の王子ってことになっているわ。 」
「 へええ 王子、 ねえ ・・・ 」
フランソワーズは 目を白黒・・・させている <若様> に一部始終をかなりの早口で
話して聞かせた。
「 ・・・ う え ・・・? 婚約披露の宴??? こ 婚約ゥ〜〜〜 ?? 」
「 そうよ。 これから婚約披露のダンスが予定されているのよ 若君〜〜 」
「 え★ だ だんす??? ウソだろぉ〜 」
「 ほんと。 」
「 うう ・・・・ しかしなんだってこう ・・・ 急にぼくは <思い出した>のかな。 」
「 それは
≪ それはね、009。 僕たちがヤツラの基地跡を完全に殲滅したから さ ≫
「 うわ??? また ・・・ こ 声が〜〜 」
≪ やあ ジョー? やっと正気に戻ったんだって? ≫
≪ ピュンマ。 お手柔らかに〜〜 まだ 全部思い出したって訳じゃないのよ。 ≫
≪ そうか。 ところで003、 きみはどうなんだ ≫
≪ 大丈夫。 多少よろよろしているけど ・・・・ ≫
≪ よかった! それじゃ今から二人とも合流するかい? ≫
≪ ・・・・ そうねえ ・・・ ジョー、どうする? ≫
≪ うん ・・・・ あのさあ フラン、 よかったら手を貸してくれないかな ≫
≪ え ? ≫
≪ うん。 ここの人達 ・・・ 国王陛下や王妃様・・・ 皆 よくしてくれた・・・
どこから来たのかわからないのに 暖かく迎えてくれたんだ。
そんな人達にだまって ・・・ 消えるわけにはゆかないよ。 ≫
≪ そうね。 ジョー、あなたは若君としてみんなの注目の的ですものね。 ≫
≪ 注目の的・・・かどうかはちょっと ・・・ でも ≫
≪ わかったわ。 それじゃ ― ねえ ピュンマも乗ってちょうだい? ≫
≪ えええ? な なんだって? ≫
≪ いいから。 う〜ん ・・・ それじゃ ねえ? ≫
≪ うん ・・・・ え?? えええ? ・・・ あは ・・・それで? ≫
≪ ・・・ ひえ〜〜〜・・・・・ まあ いいけど ・・・ ≫
三人の謀議はしばらく続いた。
― そして 半時間後 ・・・ 城の大広間は再び熱気が盛り上がった。
「 皆様 お待たせいたしました。
これより 若君さまと隣国のたまら姫様とのご婚約のダンスをご披露いたします。
来週のご婚儀に向けて 皆様、ご祝福をお送りください。 」
侍従長が威儀を但し宣言した。
「 ジョー様 たまら姫さま ・・・ どうぞ。 」
宮廷の楽師たちが奏でる音楽にのって 若君が姫をエスコートし、登場した。
ジョーは礼装にきりり・・と表情を改め しなだれかかってくる薄紫の姫の手を取っている。
「 まあ〜〜〜 若様・・・ ステキ♪ 」
「 ほう ・・・ ご立派になられて ・・・ 」
「 まあまあ よかったこと。 ・・・ ジョー様にはちょっとお気の毒だけど 」
「 し〜〜 それは ナイショ・・・ 」
「 ですね。 ああ でもステキねえ〜 」
「 これで海の底の国も平和が保たれればよいですが 」
ざわざわしていた客人たちも 吐息とともにやがて鎮まった。
ジョーは姫君と共に中央に進み出る。
「 踊っていただけますか? 」
「 ええ〜〜〜 喜んで〜〜♪ 」
いくぶんぎこちない足取りで ジョーは姫と踊り始めた。
「 ね〜〜ェ ジョー様 ? 来週のお式ですけど〜〜 わたくし、特製のベールを
用意いたしましたのよ? ええ 薄紫の雲みたいなべール・・・ 」
「 は はあ ・・・ ≪ フラン〜〜〜 ステップ・・・ 助けてくれ〜 ≫
≪ ジョー? いい? それじゃ ・・・ わたしの言うとおりに動いてね。 ≫
≪ うん! ありがとう〜〜♪ ≫
≪ ほら 左足を出して〜〜 はい、 ワン ツ スリ〜〜 ≫
≪ う うん ・・・・ ≫
「 あら? ジョー様ったら〜〜〜 急にステップが軽くなりましたわね〜
うふふふ ・・・ やっぱりわたくしの魅力に舞い上がっていらっしゃるの? 」
「 あ ・・・ いやその ≪ フラン♪ ありがとう〜〜 ≫
≪ ジョー! ほらほら ・・・ 気を抜かないで! ≫
≪ う うん ・・・ いつかきみと 踊りたい な ・・・ ≫
≪ まあ♪ じゃ その楽しみはとっておくわね♪ ≫
ダンスはやたらとくっつきたがり、押してくる姫君を 若様が一生懸命防戦している・・・風だったが
客人たちには 概ね好評だった。
「 ・・・ あら? あの金の髪のお嬢さんは? 」
「 うん? お姿が見えないな ・・・ どちらのお嬢さんだったのだろう? 」
「 優しそうな 暖かい瞳の方でしたのに ・・・ 」
「 若様も愛しそうにお話していらしたわ。 」
「 お帰りになってしまったのかな。 残念だ。 」
若君のご婚儀の仔細な予定が発表になり 宴は和やかな雰囲気のうちにお開きとなった。
カ −−−− ン ・・・・ カ −−−−ン ・・・・
相変わらず垂れ込めた空に それでも晴れやかな鐘の音が響く。
本日 海の底の国の若君は隣国のたまら姫と華燭の典を挙げるのだ。
「 ああ 荒れた空でなくてよかったこと ・・・ 」
「 そうだなあ。 ご婚儀をわれわれも見ることができるのだろ? 」
「 寺院の外なら 誰でもどうぞって。 」
「 そうか〜 皆で行ってみようか。 」
庶民たちも楽しみにしている。
「 ま〜〜 忙しいったら! 準備万端整っているかしら。
キララ? キララはどこにいるの? 」
「 乳母の君〜 キララは若様のお仕度のお手伝いに 」
「 あ そうだったわ。 キララは気が利くし働きモノだから若様の新家庭にも
お仕えしてほしいんだけどねえ・・・ 」
「 あら 乳母の君。 それは ・・・ 可哀想ですわ。 キララは ・・・ 」
「 ??? なにが ? 」
「 し ・・・ 乳母の君はご存知じゃないのよ。 」
「 あ ・・・ そうなのね? 」
王宮や大忙しだ。 侍女たちを追いたて乳母の君は大活躍 ・・・
「 ・・・ うわ ・・・ こんなの、着るのか〜〜 」
「 し。 ジョー ・・・ 若君の正装ですもの。 」
「 うへえ ・・・ あ それよりも打ち合わせ通りにお願いね? 」
「 う うん。 あ〜〜 ぼく、セリフ忘れそうだ〜〜 」
「 もう〜〜 手の平にでも書いておくことね。
それよりも 上手くダイブしてね? 本気で心中・・・ はイヤよ?」
「 わ〜〜 冷たいなあ フラン〜〜 」
「 だ〜から! ・・・ 地上に戻るのが先決でしょ。 」
「 ・・・ でした。 」
「 それに ね。 この王国は大丈夫、 ご安泰よ。 」
「 え?? 」
「 王妃様 ・・・ おめでただわね。 ずっと体調が優れないってそのことだわ。 」
「 え〜〜〜 そうなんだ? よかったなあ〜〜 」
「 だから 国王陛下たちのためにも。
< 若君とキララ > の引け際 を上手く演出しなくちゃ! 」
「 へいへい ・・・ ああ ぼくは芝居なんてできないのになあ〜 」
若君は真っ白に黄金のブレードをあしらった正装を取り上げ、 ふか〜〜〜く溜息を吐く。
「 だったら。 ここに残ってあの姫君と めでたしめでたし になる?
わたしはドルフィンで帰るけど? 」
「 フラン〜〜〜 本気? 」
「 う そ ♪ 」
「 ・・・ いぢわる・・・ 」
ジョーはこそ・・・っと彼女を抱き寄せる。
「 あ ・・・ダメよ。 ばあやさんとか他の侍女のヒトが入ってくるから・・・
ほらちゃんとして 」
「 う〜〜・・・ 防護服の方がず〜〜っと着心地 いいよ? 」
「 ふふふ ・・・ そうそう防護服とスーパーガンはね、 クビクロに任せました。 」
「 お〜♪ 頼もしいなあ。 帰ったら肉にカタマリとか御馳走しなくちゃな。 」
「 そうね、ず〜っとわたしの側にいてくれたし。 」
「 うん ・・・ 」
「 ・・・あ。 ばあやさんが来るわ。 それじゃ ・・・ <スタート> ね? 」
「 了解。 ・・・ ああ セリフ、忘れませんように ! 」
ジョーは宙を睨み まだぶつぶつ言っている。
フランソワーズはじっと部屋の外を <見て> タイミングを見計らっていた。
― バタン ・・・ 若君の部屋のドアが開いた。
「 若様〜〜 そろそろお出ましを ・・・ 」
これも正装をした乳母の君が 侍女たちを従え顔を出した。
「 うん ・・・ 」
「 ・・・ ( 若様 ) ・・・ 」 キララはじっと若君をみつめ口を動かしている。
彼女の声が戻ったことは まだ誰にも知らせてはいない。
周囲の人々は キララは話すことができない娘だと思いこんでいるのだ。
「 キララ ・・・ ありがとう ・・・ 」 若君はキララの手を取った。
「 ・・・・・・ 」 キララの瞳からはらはらと涙がこぼれ落ちる。
「 まあ キララ? お目出度い日に涙は禁物ですよ。
それにね、ご婚儀に加えて、もう一つ素晴しいことがありますのよ、若様。 」
「 なんだい? 」
「 王妃様がご懐妊でいらっしゃいます〜〜 」
「 それは よかった・・・ 父上もお喜びですね。 」
「 ええ それはもう〜〜 今日のご慶事に花を添えた、と大変なお喜びですよ。 」
乳母の君はもう満面の、というより満開の笑顔である。
「 ・・・・ あ い し て いま す さよ う なら ・・・! 」
キララは搾り出すように声を出すと ― 若君を見つめ ぱっと身を翻し駆け出していった。
「 え?? な なんですって ・・・? 」
「 キララ! ああ キララ! 待ってくれ ! 」
― 多少棒読みっぽかったけれど、 若君は必死に叫ぶと彼女の後を追った。
「 ?! あれえ〜〜〜〜 若様 〜〜〜〜〜 」
城中の人々が呆然としている中、 キララは海にせり出した塔の一番高い塔を登ってゆく。
「 キララ! キララ〜〜〜 」
正装のまま、若君も追いかける。
塔の天辺に近い大きな窓にキララの姿が現れた。 すぐに若君も追いついた。
「 ― キララ ・・・! 」
「 ・・・・・・・ 」
二人はじっと見つめ合い ― 固く抱き合った。
「 ・・・ キララ ・・・! 愛しているよ ・・・! 大きな声で言える。
でも この世では許されない恋なのだ。 それならば ― この恋は雲の果てまで・・・
ぼく達は海の泡になって結婚しよう。 それが二人の結婚式だ! 」
「 ・・・・・! 」 必死で喋っている若君にキララが情熱を込めて抱きついた。
≪ ・・・ いい? わたし、先にこのまま飛び込むから! ≫
≪ わ わかってるって。 ・・・ なあ セリフ、間違えてないよね? ≫
≪ いいから〜〜〜 いくわよっ ちゃんと追ってきてね! ≫
≪ りょ 了解〜〜≫
「 キララ。 愛している ・・・ わが愛は海の彼方に〜〜 」
「 ・・・ ジョ ・・・ー ・・・・ あなた は いき て ・・! 」
キララの必死の声が なぜか塔を見上げている人々皆の耳に届いた。
皆が固唾を呑んで見守るなか、 キララはするり、と若君の腕をぬけると ―
そのまま ・・・・ 窓から身を投じてしまった。
「 !? あ あああ 〜〜〜 キララ! なんということだ! 」
― 次の瞬間 若君もに身を躍らせキララの後を追い ・・・ 海に消えた。
わ 若様 っ !!!
うわあ〜〜・・・・ あそこは ・・・ 海流が渦巻いていて・・・
ああ ・・・ 本当に愛しあっていたんだ ね・・・!
可哀想に・・・! 可哀想に〜〜
しばらくの間、誰もが呆然と二人が消えた海を見つめていた。
ザザザザ −−−− ゴウ 〜〜〜〜〜・・・・!
突然 激しい風が吹き海が大きく荒れ始めた。
人々が怯えた顔で身を寄せ合い、恐れと驚きで固まっていると ―
海の底から不気味な声が 轟いてきた。
ふたつの熱い心が 熱い想いが 今、 海に還った
彼らの愛が 彼らの涙が
この海の底の国に 永遠の平安をもたらすだろう
皆 いつまでも仲良く暮すがいい
ビュウ ・・・・ ザザザザ −−−− ・・・・
吹き荒れる風の中、 若君とキララ、二人の影がゆらゆら浮かびあがってきた。
父上 母上 ・・・ 申し訳ありません ・・・
ぼく達は この永遠にたゆたう海原で 泡となって一緒に消えてゆきます
新しく生まれる命を 大切になさってください
どうぞ ・・・ いつまでもお元気で ・・・
若君はしっかりとキララを抱き締め ― 二人は微笑み合い 消えていった。
人々は呆然と言葉を失い ― やがて涙に暮れつつも二人の幸せを祈った。
「 ジョーさまぁ〜〜〜〜〜〜 ・・・ うわ〜〜〜ん ・・・ 」
豪華な衣裳に身を包んだまま、たまら姫は派手に泣き伏していた。
・・・ ち! 王太子妃の地位を逃がしたわ! くやし〜〜〜
次は ― そうそう ダガス国のゾア王子がまだ独り身だわ!
も〜らい♪ さっさと次を目指さなくちゃ!
「 ふん。 随分と失礼なことね! わたくしは帰ります! ぴらら〜〜〜 行きますよ! 」
「 きゅい 〜〜 ん ・・・・ 」
「 ほらほら こんな不吉な国、さっさと出てゆきましょ。 いらっしゃい! 」
「 ・・・ きゅぅ きゅぅ 〜〜〜〜 」
ぴららは海に向かってさかんに鳴いていたが ― 主人は強引に連れていってしまった。
人々の驚きの中 ・・・ クビクロは背中に荷物をくくりつけ密かにするすると海に入り
沖をめざして猛然と泳ぎはじめていた。
ザザザ −−−−− ・・・・・ ザザザ −−−− ・・・・
今夜も海原は穏やかに そして緩慢に寄せてはまた引いてゆく。
岬の突端の家では 皆がのんびりと夜風に当たっていた。
あの不思議な日々も 今となっては夢のようにも思える。
海の底では どうやら地上とは違った速度で時間が流れているらしい。
ドルフィン号で地上に戻ると ・・・ あれからほんの一週間が過ぎただけだったのだ。
「 ふふふ・・・・ ピュンマってば。
なかなか上手だったじゃないか〜〜 < 海の底の声 > というか・・・ 」
「 う〜〜〜 あんな役はさ、グレートに頼むべきだよ〜〜 」
「 あら 本当に上手だったわよ? わたし、ぞくっとしたもの。 」
「 ・・・ へいへい お世辞でもありがとう。 」
「 うふふ ・・・ ねえ ジョー。 本当に ― 何も覚えていないの? 」
「 そうだよ。 なあ フラン? 二人してあんなに情熱的に抱き合っていたのに〜〜 」
「 ・・・え?! あ あの その ・・・ ぼ ぼくたちは 別にそんな ・・・ 」
「「 あ〜〜 はいはいわかりましたよ 」」
相変わらず一人で赤くなっているジョーを ピュンマとフランソワーズが朗かに笑う。
「 ク ゥ ・・・ン ・・・ 」
談笑の輪からすこし離れて クビクロが淋しそうに鳴いた。
「 お前の気持ちはわかるけど ・・・ あの相手は さ 」
「 ク ゥ 〜〜〜ン ・・・・ 」
「 可愛い女の子、 さがしてやるからさあ ・・・? 」
「 クゥン ・・・ 」
それからも 新月の夜になるとクビクロはじっと海を眺めていた ・・・
チャリリ ・・・ 彼女の掌で優しい音がする。
「 え。 なんだい、それ。 貝殻? 」
「 そうよ、ほら・・・綺麗な貝殻で作った髪飾りなの。 」
「 へえ ・・・ これ ひとつひとつ手作りだね。 誰に貰ったんだい? 」
「 うふふ ・・・ ナイショ。 とてもステキな人にもらったの♪
わたしが一番愛している ヒト から ・・・ ね♪ 」
「 ・・・・ え!? 」
海の底には。 あなたの真実 ( まこと ) が 眠っている。
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Last updated
: 10,02,2012. back / index
***************** ひと言 *****************
ははは ・・・ やっと終わりました ・・・・
悲恋に泣いたのは 人魚姫 じゃなくて くびくろ なのでした(;_;)