『 海に底には ― (2) ― 』
ぴんぽ 〜〜ん ! ・・・・ ぴんぽ〜ん ぴんぽ〜ん !!
忙しなく玄関のチャイムが鳴る。
ほどなくして どんどんドアを叩く音が聞こえはじめた。
「 ほ〜い ・・・ 今 開けるから ・・・ ちょっと待っておくれ〜 」
ギルモア博士は 玄関に向かって声をはりあげた。
「 よいこら ・・・せ! ・・・と。 」
背中の < にもつ > を ゆすりあげると、どたどた玄関に回った。
「 博士!! はか〜〜せ! 僕ですよ〜〜 ピュンマですっ!! 」
どんどん叩く音に 声が加わった。
「 わかった わかった。 ちゃんと聞こえておるからの〜 そんなに叩くな〜〜 」
― カチャ ・・・。 邸の鉄壁のセキュリティが やっとオープンになった。
「 博士! やっと う? ・・・・ ああ??? 」
ピュンマが一瞬棒立ちになり つぎの瞬間 クシャ・・・と表情が歪んだ。
「 あは・・・ あ ああのぉ 〜〜〜 」
「 ほい、よう来たの、 ピュンマや。 」
「 あ は は はい〜〜〜 く ・・・ ぷぷぷ〜〜〜 」
ピュンマはとうとう笑いを弾けさせた。
「 ・・・・ そんなに笑わんでおくれ。 一人でてんてこ舞いなんじゃよ。 」
背中に イワンをくくりつけ、手に皿と布巾をもったまま、博士は玄関のたたきで
ちょっとばかり複雑な表情を浮かべていた。
「 はいはい、 それはもう・・・・ 一目でわかりましたよ。 おっと・・・ 」
ピュンマはまだ笑いつつ、博士の手から皿を受け取った。
「 あの。 ・・・ 行っちゃった んですか? その ・・・一人で ? 」
主語なんぞ言わなくても お互いに十分すぎるほど理解できる。
案の定、 博士は困った 困った とつぶやいてはいるが ― なんとなく嬉しそうだ。
「 ああ。 見事に部屋はもぬけの殻・・・ おそらく夜明け前に出ていったようじゃよ?
ふん ・・・ こんなこともあろうかと、 フランソワーズ号・改 の操縦方法を
しっかり教えておいてよかったわい。 」
「 ぷぷぷ・・・ まあ そりゃよかったですね。
じゃ ・・・ とりあえず追跡と現状のデータ分析とゆきますか。 」
「 それが なあ・・・ 」
「 ― ? 」
「 まあ ゆっくり話そう。 ピュンマ、お前もその荷物を部屋に置いてくるがいい。 」
「 え? あ ああ そうですね、 それじゃ・・・ 」
ピュンマは まず皿を置きにキッチン経由で二階の自室へ行った。
「 ええ?? 追跡不可能?? 」
ピュンマは文字通り仰け反るほど驚愕し 絶句した。
潜航航路はしっかり把握している、現状は ・・・ そんな報告を思い描いていたのだが。
彼を待っていたのは < よくわからん > のひと言だった。
「 そ それで 博士! フランソワーズの安否は!? そもそもジョーはどうなんです?! 」
「 ワシには判らん。 ただ イワンがのう・・・なにも言わんのじゃ。 」
「 はあ〜 まぁ いつもの事ですけどねェ・・・・・・ 」
ピュンマは 博士の聞き飽きた駄洒落に苦笑し、クーファンの中を覗き込む。
「 ぐっすり平穏に眠っておるじゃろう?
あの二人になにか ・・・ 重大なことはない、ということじゃ。 」
「 ・・・ そう信じるしかありません ね。
ああ でも一応、途中まででもデータを見せてください。 」
「 勿論じゃ ― お前の意見を聞かねば・・・ 」
博士はパネルを操作し ピュンマはデータ画像に注目し始めた。
ワンワン ワン 〜〜 !
「 あは ・・・ おい、そんなに速く行かないでくれよ〜〜 」
「 ・・・・・? 」
「 彼を追っていってもいいかな? その ・・・ きみの <いぬ> だけど・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
ぱちぱち瞬きをしつつ・・・ジョーは連れの女性の顔を覗き込む。
彼女は満面に笑みをうかべ うんうん ・・・ と何回も頷いてくれた。
「 そう? それじゃ ・・・ ここで待っててくれるかい?
え〜と ・・・ カレの名前・・・ くびくろ! そうだよね? 」
「 ・・・・・・ 」
亜麻色の髪がゆれ青い瞳がまた 笑った。
「 ありがとう! お〜〜〜い くびくろぉ〜〜〜 待てってば〜〜 」
青年は ひと声叫ぶと、海岸を走ってゆく。
少し古風な服装が なぜかよく似合っている。 背にゆれる白銀のマントもぴったりだ。
「 ・・・・・・ ・・・・・ 」
女性は溜息を吐き、 浜辺にころがっている倒木に腰を降ろす。
足元の砂地には いぬ くびくろ そんな指で書いた文字が残っている。
「 ・・・・・・ 」
彼女はしばらく 青年の走っていった彼方を見つめていたが やがて海に、そして中天に
視線を移した。
そこに ― 突き抜ける蒼天は ない。
じっと目を凝らせば誰でもわかるのだが ・・・ 白く濁ったドームの高い高い天井がみえるだけだ。
― ・・・ ここは ・・・。
大きな大きな籠の中に閉じ込められた小鳥 と同じ ・・・
ふうう ・・・・ 大きな吐息を海風がさらってゆく
さらさらと金色の髪が風に舞い ・・・ その合間から見える白い頬にはいつしか涙の筋が
伝い始めていた。
ジョーが海辺でみつけて助けた女性 ( ひと ) は 王宮に保護され
侍医があれこれ手を施す必要もなく、ほどなくして意識を回復した。
散歩からもどってきたジョーを 召使たちはびっくり顔で迎えた。
彼らの城の <若様> は その腕にマントで包んだ女性を抱いていたのだ。
門番の衛兵から 小姓、侍従まで、呆然とした顔をしたけれど恭しく ジョーを迎えた。
「 あれ 〜〜 若様〜〜 その方は ?? 」
乳母の君があわてて飛んできた。
「 うん ・・・ 海岸でね、倒れていたんだよ。 」
「 まあ ・・・ 昨夜の嵐で流れ着かれたのでしょうか・・・ ああ 侍医を呼びましょう。 」
「 頼むよ、 あ 客用の部屋をつかってもいいかな? 」
「 ええ ええ どうぞ。 若様のお客さまですもの。 こちらへどうぞ ・・・・
さあ そっと寝かせてあげてください。 」
「 うん ありがとう。 」
乳母の君はさすがにてきぱきと采配を揮い、客人用の部屋をすぐに整えさせた。
召使たちも あっと言う間にベッドを整えてくれたので ジョーは彼女を静かに運んでいった。
「 まあまあ ・・・ あ ・・・ この方は ・・・ 」
はらり、 ジョーのマントから彼女の髪が零れ落ちる。 その色は黄金色・・・
「 うん。 この ・・・ 海の国のヒト、じゃないらしい。
ぼくと同じで どこからら流れ着いたヨソモノだね。 」
「 若様。 この国の者は誰一人そんな風には思っておりませんです。
若様は この国のお方・・・・ 次にこの国を統べる、私たちの大切なお方ですよ。 」
「 ・・・ ありがとう。 でも この人が外から来たのは確かだろう? 」
「 そう ・・・ ですね。 この御髪の色はこの国の者の色とは違います。 」
「 うん キレイな髪だ ・・・ いや、 髪だけじゃない ・・・ 」
「 さあさ 若様〜〜 このお方を早くベッドへ! ああ この長いマフラーが苦しそう・・・
早くお着換えもしてさしあげなければ 」
「 ああ そうだったね ・・・ しかしこれは奇妙な服だなあ ・・・ 」
「 本当に ・・・ これは殿方がお召しになるものではありませんか?
それに この色・・・ こんな鮮烈な色合いの服は初めてみましたよ。 」
「 う〜ん ・・・ あ これは・・・武器なんじゃないかな? 」
ジョーは女性がベルトから下げていた銀色のモノをしげしげと見つめた。
「 まあ! おお 恐ろしい・・・ 若様〜〜 どうか外してくださいまし。
ばあやは恐ろしくて 触れません〜〜 」
乳母の君は 彼女の若様の腕にひし、としがみついた。
「 大丈夫だよ、ばあや。 ・・・ ふうん ・・・ 見た眼より随分軽いなあ ・・・
あ ・・・ じゃあ ほら これ。 」
「 ひゃ ・・・ 若様〜〜 お願いです、若様がお持ちになってくださいよ〜う 」
「 なんだ もう〜 弱虫なんだから ・・・ いいよ、 このヒトの側に置いておこう。
気がついたときに安心するだろうから ね。 」
「 ええ ええ そうですねえ ・・・ きゃ?? な なにかもふもふしたモノが・・・? 」
「 ワン ! 」
「 !? あれェ〜〜 ?? 」
ジョーの側にぴたり、と控えている茶色毛のカタマリに 乳母の君はようやく気が付いたのだ。
「 ひえ〜〜〜〜 な なんなんです〜〜 」
「 ワン! ワ ワン〜〜〜 」
茶色毛のカタマリは嬉しそうに声をあげる。 すり・・・と乳母の君の足元に寄ってきた。
「 あれえ〜〜〜 若様 お助けください〜〜 」
「 あはは・・・ 大丈夫だよ、ばあや。 コレは・・・ この女性 ( ひと ) のものらしいんだ。
海岸でもね コイツがぼくをこのヒトのところまでつれていってくれたんだよ。 」
ジョーはすぐに自分の側にもどって来たカレに優しい眼差しを向けた。
「 このヒトのことが心配でたまらないだろうね。 」
「 ・・・ そ そうなんですか ・・・ でもコレも ・・・ この国の生き物じゃないですわね。 」
「 う〜ん そうだねえ ・・・ 彼女が連れてきた生き物だからね・・・
コレもこの国の客人さ。 」
「 え ええ まあ ・・・ あれ 優しい目をしている・・・ 」
「 だろ? ああ そうだ、カレになにか食べ物と飲み物をあげてくれ。 」
「 ・・・ なにを上げましょう? 」
「 う〜〜ん ・・・ あ ぼくの午餐をあげてくれよ。 それと 新鮮な海のミルクもね。 」
「 まあまあ若様。 そんな・・・ ちゃんと若様の午餐は別に用意させますよ。
これ ・・・ 待っておいで。 すぐに準備するからね。 」
「 わん!! 」
「 ひえ・・・ ああ お願いだからそんな大きな声を上げないで〜〜 」
「 ワン〜〜 ワン♪ ワン♪ 」
「 ひえ〜〜〜 」
「 あはは ・・・ コイツ、ばあやのこと、気に入ったみたいだね? 」
「 あ あ あの・・・ そ それは光栄ですわ〜〜 」
乳母の君 は ドレスの裾をつまむと一目散に駆け出していった。
「 ワワン 〜〜 ! 」
「 あはははは・・・・ こらこら あんまりからかわないでおやりよ。
すぐにお前に美味しいモノをもってきてくれるから さ。 」
「 ・・・ クウ〜ン ・・・ 」
茶色毛の頭が ジョーの手に足に擦りつけられる。
「 あ は・・? 」
あ れ ・・・・? この感覚 ・・・ 知ってる?
なんだか 甘酸っぱい 懐かしい気分なんだけど ・・・
ぼくは ・・・ この手触りを 知ってた・・・ のかも ・・・
― 何故だ? 生まれて初めて見たケモノなのに
「 ・・・ なあ? お前は ・・・ぼくを知っている、のかい。 」
「 ・・・ キュウ 〜〜 ン ・・・ 」
ケモノはセピアの瞳で じ〜〜っとジョーを見上げている。
「 うん? なんだい。 なにを ・・・ 言いたいのかなあ・・・ 」
ジョーはぎこちなく手をそっとソレの頭にのせた。
「 クウン ・・・・ クウ 〜〜〜 ン ・・・! 」
ぱたぱたぱたぱた ・・・ ケモノのしっぽが大きく振られ床を打った。
「 あ あれ ・・・? ・・・ うひゃ・・・ 」
ペロリ。 ソイツはジョーの手を舐めた。
「 ひゃあ〜・・・ あ ・・・? でも・・・ この感覚 ・・ ぼくは 知ってるぞ。 」
見上げるケモノの瞳と ジョーの眼差しが しっかりと合わさった。
「 お前は ― ぼく を知っているね? ぼくも ・・・ お前を ・・・? 」
「 ・・・ う ・・・ う ん ・・・・? 」
ベッドの中から 微かに声が聞こえた。
「 あ! 彼女が ・・・ 気がついたのか?! 」
「 ワン ・・・! 」
ジョーはぱっと彼女の側に駆け寄り、ケモノも彼の後に従った。
ベッドの中で その女性 ( ひと ) は ― 少し頭を左右に振ると 目を開いた。
「 ・・・ ああ ! 気がつきましたか? 」
「 ・・・・ ??? 」
ぼんやりと天井を見上げていた視線がゆっくりと巡り ジョーの顔に落ちた。
! わあ ・・・ 空の色 だ ・・・ !
なんて なんて キレイな瞳なんだ !
ジョーはしばし言葉を忘れ じっと彼女の瞳を見つめてしまった。
それは ・・・ 彼自身のものとも、そしてこの国の人々のものとも違っていた。
この国の人々は皆、薄い白茶けた瞳をしている。
「 ・・・ ワン? 」
「 あ! い いけね ・・・ あ〜 あの? お嬢さん? 気が付きましたか?
あ ・・・ ど どこか痛むところとか ・・・ありますか? 」
「 ・・・・・・ 」
空の色の瞳は ひた! とジョーを見つめている。
「 ・・・ あの。 さ さっき ・・・ 浜辺で会いましたよね?
貴女はぼくに抱きついて ・・・ また気を失ってしまったんだけど ・・・
あの ・・・ 覚えていますか? 」
「 ・・・・・? 」
青い瞳が ただただ彼を見つめるばかり、彼女は一向に話してはくれない。
「 あ! そうだ! ほら・・・ これは・・・ きみのモノですか?
彼がきみのところまで案内してくれたんですよ。 ほら ・・・ 」
ジョーはケモノを 半分抱き上げ、彼女の顔の側に持っていった。
「 !? 〜〜〜〜 !! 」
「 キュウ〜〜〜〜〜ン キュウ 〜〜〜 」
彼女は両手をのばして ケモノの頭を抱き締めた。
「 ああ よかった・・・ コイツも喜んでいますよ。 あの ・・・ お嬢さん?
あなたのお名前は? ぼくは ジョー といいます。
あ これはさっき ・・・ 海辺で言いましたよね。 お 覚えてくれてましたか? 」
「 ・・・ ・・・ 」
両手でケモノを抱きしめつつ 青い瞳が再びじっとジョーを見つめた。
「 ・・・ あ ・・? 」
「 ・・・・・ 」
大きな瞳に 透明な膜が盛り上がりたちまち溢れ ・・・ はらはらと流れ落ちた。
「 きみ は・・・ 言葉を話せない のか・・・? 」
間も無く王宮の侍医がやって来て手当と診察を引き受けた。
「 おっほん。 ともかく。 殿方はご退出を。 」
老侍医は断固として ジョーとその相棒を追い出した ・・・
部屋の外でうろうろ・・・ ジョーは茶色毛のケモノと一緒に待たされた。
「 あは ・・・? お前も追い出されちまったなあ オトコは役立たずだね。 」
「 クウ 〜ン ・・・ 」
「 大丈夫、心配はいらない。 ウチの侍医は腕利きなんだ。
ぼくもね ず〜っと世話になっているんだよ。 」
「 ワン。 」
「 あ ・・・ お前はどこか傷めていないのかい? ちょっと見せてごらん。 」
「 ・・・ キュウ〜ン ・・・ 」
ジョーはケモノの側に屈みこみ、彼のセピアの毛を撫でたり足や爪を調べたりした。
「 あ ・・・ ここに擦り傷あるね。 あとで薬を塗ってあげる。
お前が彼女を助けたんだね。 ・・・ 賢い立派なケモノなんだなあ。 」
「 ワン? 」
「 ふふふ ・・・ ちょっと彼女が羨ましいなあ・・・
ぼくもお前みたいな ・・・ 相棒が欲しくなった。 」
「 ワン!! 」
「 うわ・・・ こら〜〜〜 いきなり飛びつくなよ〜〜 」
「 ワン! ワン 〜〜〜 クゥ 〜〜〜ン ・・・! 」
「 あは ・・・あははは ・・・・ こらぁ〜〜 うん? 」
茶色毛のケモノは ジョーにさんざんじゃれつき そしてじ・・・っと彼を見つめた。
セピアの瞳に ― ジョーの姿が映る。
「 ・・・お前 ・・・やっぱり ぼく を知っている んだね?
ぼくも 彼女と同じにあの海岸に倒れていたんだ。 それで ・・・ 以前のことはまるで
覚えていない。 この国の王妃様がぼくを助けてくれた。
ああ せめてお前の名前がわかればなあ・・・
ふふふ ・・・ お前ってば首の周りだけ黒毛なんだねえ・・・ カッコイイぞ? 」
「 クゥ 〜〜ン ・・・・ 」
ジョーに首をごしごし撫でてもらうと、ソレは気持ちよさそうに目を瞑った。
「 ・・・ 彼女 ・・・ すぐに元気になるよ。 な? 」
ジョーはケモノと一緒に 閉じられた客用寝室の扉を見つめていた。
健康に問題はなし。大きな怪我もないしすぐに元気になられます ― 侍医は太鼓判を押した。
「 それはよかった・・・! でも 先生 ・・・ 彼女は ・・・ 」
「 若様。 このお嬢さんがどうして言葉が出てこないのか、はわからんのです。
耳も聞こえるし、咽喉にも傷はありません。 」
「 じゃあ なぜ? 」
「 恐らく ・・・ この方はとても衝撃的な体験をなさってそのために
一時的に言葉が出てこないのではないでしょうかな。 」
「 ・・・ ああ! あの嵐に巻き込まれたことでしょうか? 」
「 御意。 それにこの方は ・・・・ 」
「 ええ。 ぼくと同じに、この海の底の国の人間じゃありませんよね。 」
「 若様。 若様は 私どもの国を継がれる私どもの大切な御方です。 」
「 ありがとうございます 先生・・・
ぼくのことよりも ・・・ このお嬢さんのことですけど・・・ 」
「 普通に生活をしていれば だんだんと回復なさる やもしれませぬ。
気長に ・・・ こちらで過していただければ、と思いますがな。 」
「 はい。 ・・・ 金の髪と 空よりも濃い瞳 ・・・ か。 」
「 まことにお綺麗なお嬢さんですな。 一応、薬を置いてゆきますが ・・・
まあ 必要ありませんでしょう。 のんびり ゆっくり・・・が一番の薬です。 」
「 ありがとうございました、先生。 」
いやいや・・・と 老侍医は鷹揚に笑って部屋から出ていった。
― 黄金 ( きん ) の人 ・・・ そんな意味をこめて彼女は キララ と呼ばれた。
侍医の見立て通り、彼女はすぐにベッドから出ることができた。
「 やあ 元気になったね、 よかったなあ。 もう起きられるのですね。
ああ この国の服がお似合いですよ。 」
気になって仕方がないジョーは すぐに彼女の部屋に顔をだした。
あの・・・赤い奇妙な服を脱ぎ 彼女はこの国の服を着ていた。
海の底の国では皆シンプルな形の服を纏い女性は裾が足元までとどく。
乳母の君があれこれ面倒をみてくれている。
「 若様。 ねえ、本当によくお似合いですよねえ・・・ 」
「 うん ・・・ ばあや、いろいろありがとう。 」
「 まあ〜〜 いやですよ、若様。 若様のお客さまなんですから ばあやがお世話するのは
当たり前ですよ。 」
「 ・・・・・ ・・・・ 」
二人の話を聞いていた彼女 ― キララ は 静かに膝を少し折ってお辞儀をした。
「 あ ・・・ きっとありがとう、って言ってるんだ ・・・ 」
「 そうですねえ。 まあまあ 礼儀正しいこと・・・ 」
「 ・・・ ・・・・ 」 キララは部屋を指差し しきりに首を振っている。
「 ??? なんだろう・・・ なにが言いたいのかな? 」
「 さあ ・・・ 」
「 ・・・ ・・・・ ! 」 彼女はさかんに首を振ってからジョーの前に跪いた。
「 ・・・ もしかして・・・ 」
「 え なんだい、ばあや。 」
「 この方は ・・・ 若様にお仕えしたい、と仰っているのではありませんかしら。 」
「 え ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」 今度は うんうん・・・と何回も頷き、彼女はもう一度ジョーの前で
膝を折って会釈をした。
「 ほうら ね? 若様〜〜 そうしてさしあげてくださいな。 」
「 あ ・・・ え〜と・・・ そんなんでいいのかなあ・・・ 」
「 はい、決まり決まり。 あとはばあやにお任せください。 」
「 はいはい わかったよ・・・ ふう ・・・ 」
「 ワン? 」
「 あは・・・ お前もびっくり、かい? 」
「 ワン。 」
ジョーは茶色毛の頭をそっとなでた。 そうしていると不思議と気持ちが安らぐのだった。
結局 キララ は ジョー付きの侍女として彼の身の回りに世話をすることになった。
乳母の君の隣の小部屋に寝起きし、たっての願いであの茶色毛のケモノも<同居>している。
ケモノは クロ とジョーが名づけ、 クロ もその名前が気に入ったらしく、すぐに反応した。
キララはすぐに宮殿の習慣を飲み込み、くるくるとよく働いた。
毎朝 ジョーのベッドを整え、その日の衣服を選ぶのを手伝う。
「 あ ありがとう ・・・ ふうん? 不思議だなあ〜 ・・・」
ジョーは 彼女が用意してくれた服を見てつぶやく。
「 ・・・・? 」
「 え うん ・・・ キララ、きみはどうしてぼくの好みを知っているのかい?
きみが選んでくれる服は ・・・ ぼくがちょうど 着たいなあ と思う組み合わせだよ。 」
「 ・・・・・・ 」
青い瞳が優しく笑い、ジョーの背後からマントを留めてくれる。
「 ありがとう ・・・ ぼく、こういうの、苦手でさ ・・・ あ れ ・・・? 」
なんか こんなコト。 前にもあった ・・・ かも ・・・
背に垂れる布の感触が 妙に懐かしく思えた。 でも ちょっと・・・ちがう?
「 ・・・・・・? 」
すこし心配な瞳が ジョーをのぞきこむ。
「 あ ・・・ ううん、なんでもないよ。 ありがとう ・・・
ああ そうだ。 今日、きみのことを父上と母上に報告するんだ。
新しくこの国のヒトになりました・・・って ね。 いいかなあ? 」
「 ・・・・・・ 」 こっくり頷く。
「 そうか、よかった。 それじゃお昼前に御前に伺候するから ・・・ 一緒においで。 」
「 ・・・・・・ 」 また こっくりと頷く。
「 あ〜〜 そうだ! ばあやに相談して礼装、用意しなくちゃ。 きっと似会うよ? 」
「 ・・・・・・ 」 白い頬がほんのりと染まる。
「 楽しみだな〜〜 お二人ともびっくりするぞ〜〜 ばあや〜? ちょっと来てくれるかな? 」
ジョーはうきうきと乳母の君を呼んだ。
一国の国王夫妻が じつに気軽に新しい・民 の目どおりを許してくれた。
ジョーは わくわくしつつ彼女を伴って両親の元へ伺候した。
「 ご機嫌いかがですか 父上 母上 ・・・ 」
キララは彼の後ろに従い、 慎ましく控えていた。
この国の王妃は まだうら若い婦人だった。
少々体調不良、とかで目の縁の色がこころもち冴えない。
しかし見事な白銀の髪の美女で 歳は離れていても国王陛下と仲睦まじいふうに見えた。
ジョーは養父母にキララを自分付きの侍女となったと紹介した。
国王は公務繁多ですぐに退出されたが 王妃は暖かく迎えてくれた。
ジョーばかりかキララにも やさしく話かけてくれる。
「 まあ ・・・ そなたが ・・・ ジョーがお助けした方ですの? 」
「 ・・・・・・・ 」
「 綺麗なお嬢さん? どうぞゆっくりお過ごしになってね ・・・
そして ジョーのこと・・・ 宜しくお願いします。
今 ちょっと体調を崩していて ・・・ 息子を放りっぱなしにしています。 」
「 母上! どうぞお大事になさってください。
きっと ・・・ あの嵐のせいでご気分がすぐれないのですよ。 」
「 ・・・ そう かもしれません。 ああ でもきっとすぐに元気になれます。
ジョー、そなたが < 風の香りのする > 方をつれてきてくれましたもの。 」
「 あ ・・・ は ・・・ 母上・・・ 」
「 ジョー、 それから ね。 あちらのことも気に掛けていてね。 来月ですよ。 」
「 ・・・ あ ・・・ は はい ・・・ 」
ジョーは従順に頭を下げたが ― 彼の顔に笑みはなかった。
「 母上こそ どうぞゆっくり養生なさってください。 今朝は空気もおちついていますよ。 」
「 ええ ええ ・・・ ありがとう、ジョー。 」
「 それじゃ 長居しちゃダメですよね、ぼく達は退出しますから。 な、 キララ? 」
「 ・・・・・・・ 」
キララは 王妃に向かって丁寧にお辞儀をした。
晴れた日の昼下がり ― ジョーは彼の公務を終えると海岸を散歩する。
キララとクロがお供をするのがいつしか習慣となった。
サクサクサク ・・・ サクサク ・・・ 砂地に足跡が二つ ずっと続いてゆく
「 ワン ・・・ ワンワン 〜〜 ! 」
クロはいつも二人の側を離れない。
ジョーを護るみたいに、 キララとともに控えている。
「 あはは・・・よしよし・・・ いいコだね、クロは・・・
さあ 好きに走ってきていいよ? ぼくたちはこの辺りにいるから。 」
「 クウン ・・? 」
ジョーにぽんぽん・・・と首筋を軽く叩いてもらい、クロはじ〜っとジョーを見つめる。
「 うん、いいよ。 クロも休まなくちゃな。 しばらく好きに遊んでおいで。 」
「 ・・・・・・ ・・・ 」
キララもクロに微笑みかける。
「 ワン! 」 クロは一際大きく吼えると ― ぱっと駆け出した。
「 あは ・・・ 速いなあ〜〜 元気だなあ 」
「 ・・・・・・・ 」
「 ねえ? クロは本当に優秀だね。 ぼくもあんなケモノが欲しいなあ ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」 キララはジョーに向かって手を差し出し ・・・ どうぞ?と頷く。
「 ・・・ え ぼくに ・・・ってこと? 」
「 ・・・・・ 」 うんうん・・・とキララは盛んに首を縦に振る。
「 いや。 ダメだよ。 クロはきみのものだろ? ずっと・・・ きみと一緒にいたんだ。
きみが ・・・ その、言葉が戻るようになるためにも、クロは必要だよ。 」
「 ・・・・・・ 」 でも、とキララは少し悲しそうだ。
「 う〜ん ・・・ あ じゃあ ね、 きみとクロが一緒に ― ぼくの側にいてくれないか な ・・・ 」
ジョーは言ってしまってから かあ〜〜っと顔が熱くなる。
「 あ・・・ あの ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」 白い手がそっとジョーの手に触れた。
「 あ? ・・・ えへ ・・・ その・・・ありがとう ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」 キララは彼女も淡く頬をそめ、ジョーの側に寄り添った。
あは ・・・ ♪ な んか いいな〜〜 ・・・
あ れ ・・・?
こんなコトって いつか ― あった ・・ よな?
ぼくの隣に彼女がいて 二人で クロが走ってくるのを見てた・・・?
― いや そんなバカな。 ・・・でも ・・・?
「 ・・・・・? 」 気が付けば大きな瞳がじっとジョーを見上げていた。
「 あ ・・・ ごめん ごめん・・・ なんでもないよ。
ねえ きみこそ ・・・ なにか思い出したかな。 何か ・・・ 言えそう ・・? 」
「 ・・・・・・・・・ 」 キララの表情が 曇る。
「 ― ごめん。 イヤなことを聞いた かな・・・ もう聞かない。
ああ ・・・ いい気持ちだなあ 〜〜 今日は風がゆるやかだ ・・・ 」
「 ・・・・・ ・・ 」 こくん、とキララが頷く。
「 なあ ・・・ きみは どこから来たのかい。 」
「 ・・・・・・・ 」
「 本当にキレイな瞳だね。 そして この髪 ・・・ 太陽の輝きを写し取った色だ・・・ 」
海の底の人々は みな白茶けた髪に同じ色の瞳を持っている。
ジョーの濃い髪とセピアの瞳は 大変に珍しがられた。
大地の暖かさ ・・・と < 母 > は彼の髪と瞳をことさら褒めてくれたけれど。
「 この国の人達は 皆いい人さ。 流れ着いたぼくを拾って育てくれた・・・
前にも話たけど ・・・ ぼくは自分自身のことを何にも覚えていないんだ。
どこの誰だか ・・・ どうしてこの国に着たのか も ね。 そんなぼくを受け入れてくれて
そればかりか 国王夫妻の養子にまでしてくれたんだ。 」
「 ・・・・・・・ 」 青い瞳に淡い笑みが浮かぶ。
「 でも。 そんな好意に甘えていて ・・・ いいのだろうか。
父上も母上も・・・ 次にこの国を統べるのはぼくだ・・・と仰るのだけれど・・・
そんなこと・・・ 許されると思うかい? 」
「 ・・・・・・・ 」
「 きみの意見が聞きたいなあ ・・・ 綺麗な青い瞳のキララ ・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
「 父上もお年だし、家臣として出来る限りお援けしたい、とは思うけど。
それにね 来月には隣国の王女と一緒にならなければならないんだ。 」
「 ・・・?? 」 青い瞳が大きく見開かれ ジョーを見つめた。
「 うん ・・・ これは国同士で決めたことらしいよ。
今までに2〜3回 会ったけど ・・・ ちょっと苦手なタイプなんだなあ・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
「 でも もう決まったことなんだし。 父上や母上も薦められるから ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」 青い瞳が揺れて ふっとジョーの顔から外れた。
「 あれ どうしたんだい? 」
「 ・・・・・・ 」 ゆっくりとキララは首を振ったが 彼女の視線は足元に落ちたままだ。
「 婚儀は来月なのだけれど・・・ 姫君が遊びに来る。 もてなしを頼むね。 」
「 ・・・・・・ 」 こくり、と頷くが 彼女の視線は相変わらず足元に向いている。
「 きみはとてもよく気がつくし ・・・その ・・・ ぼくのこと、とってもよく知ってるし。
ぼくが隣国の姫と一緒になってからも 側にいてくれるかな。 」
「 ・・・・・・ 」 ぱっと大きな瞳が ジョーの顔に戻ってきた。
キララはそのまま砂地に屈むと指で砂の表面を撫でている。
「 なんだ ・・・ 何をしているのかい? あ ・・・ クロが戻ってきた。 」
「 ワン ・・・・! 」 ハッ ハッ ハッ ・・・ 息を弾ませてクロが走ってきた。
「 あはは ・・・ 気持ちよかったかい? 」
「 ワン!! 」
「 そりゃよかった。 え? なに ・・・ 」
ジョーのマントを引かれ キララに視線を移した。
「 ・・・・・・・ 」
キララの前の砂地には文字が書かれていた。
「 ・・・ これ ・・・ なんだい。 」
「 ・・・ ・・・ 」
キララは砂地の字を指し、すぐに側に座ったクロを指した。 声は出ないが口をうごかしてみせる。
「 え? ・・・ い ぬ ? クロの名前かい? 」
「 ・・・・・・・ 」 彼女は首を振る。
「 う〜ん・・・? あ もしかして、 クロの種類の名前 なのかなあ? 」
「 !! 」 キララは激しく頷いた。
「 あ そうなんだ? い ぬ? そういう名前のケモノなんだね。 」
うんうん・・・・と頷きつつ、彼女はまた別の文字を書く。 ジョーには読めないのだが
彼女は再び大きく口をうごかした。
「 ? ・・・ く び くろ? くびくろ? なんのことだ? 」
「 ワン!! 」
キララの素振りより先にクロが鳴いた。
「 ええ?? くびくろ ・・・ って お前の本当の名前なのかい? 」
「 ワ ワンッ!! ワン〜〜〜〜 」
クロは いや、 クビクロはジョーにじゃれついたり彼の手を舐めたり・・・大はしゃぎだ。
「 ・・・ そうか〜 お前は いぬ というケモノで くびくろ って名前なんだね? 」
「 ・・・・・・ 」
「 ワン! 」
キララとクビクロが一緒になって <肯定> した。
「 ごめんな、勝手にクロなんて呼んで。
クビクロ。 改めてこれからもヨロシク 〜〜 」
「 ワン! 」
クビクロはさかんにジョーの周りを駆け回る。
「 あは ・・・ それじゃ 一緒に走ろうか? キララ、ここで待っていてくれるかい? 」
「 ・・・・・・ 」
「 うん それじゃ ・・・ あ 〜〜 ずるいぞぉ〜〜 」
ぱっと走り出したクビクロを ジョーも軽快な足取りで追っていった。
あははは ・・・ こら〜〜〜 待て〜〜〜
ワン ワワン ワンワン 〜〜〜
<二人> は声を上げて笑いつつ戯れている。 後になり先になり ・・・
まるで兄弟みたいに楽しげに駆け回っている。
「 ・・・・・・・ 」
キララはそんな <二人> に 微笑みを送っていたが ― やがて深い溜息に変わった。
憶えて ・・・ いない のね?
文字さえ記憶にないのね ・・・ 本当に忘れてしまったんだわ
わたしの 声 ・・・ ジョーの 記憶 ・・・・
ここに入るために 奪われたのかしら
ここは ・・・ この海の底の国は なんなの
ぱた ぱた ぱた ・・・ 知らないうちに 涙が足元に散らばっていた。
「 あ〜〜 気持ちいいなあ〜〜 クビクロってば足,速いなあ 」
「 ワンワン ・・・ ワンッ 」
二人は一緒に駆け戻ってきてからも ものすごく楽しそうにはしゃいでいた。
「 ・・・・・・・ 」 キララは ジョーの袖をそっと引いた。
「 うん? あ ・・・ いっけね。 お茶の時間に遅れちゃうかな? 」
「 ・・・・・・・・・ 」 彼女は少し首を傾げると、クビクロの背をかるくぽんぽん ・・・と叩く。
「 ワン。 クゥ 〜〜 ン ・・・ 」
「 はいはい、わかったよ。 さあ 城に戻ろう。 」
「 ・・・・・・・・・ 」
また 浜辺に足跡を残しつつ 二人は歩いてゆく。
「 さっきも言ったけど。 もうすぐ隣国の姫をお迎えして・・・ パーティがあるんだ。 」
「 ・・・・・・・・ 」
「 ダンス・・・があるんだよ。 ぼく、全然踊れなくて。 困ってるんだ。
姫君がね、『 次回は 踊ってくださいね 』 って言うし ・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」 キララは面白そうにジョーを見ている。
「 ばあやに習ったんだけど ・・・ 全然ダメ ・・・ キララ、きみ、踊れるかい。 」
「 ・・・・・・・ 」 金色の髪が肩口で揺れる。
「 わあ〜 それじゃ教えてくれるかなあ。 うん? いい? わあ〜ありがとう! 」
ジョーはキララの手を きゅう、っ握った。
「 ・・・・・・・ 」
「 あ! ごめん ・・・ つい ・・・嬉しくて・・・ごめんね。
あ そうだよ、きみもパーティに出席するといい。 」
「 ・・・・・・・ 」 うん、とは言ってくれない。
「 頼む。 ぼくの <付き添い> してくれよ? ドレスはばあやに頼んできみにぴったりなの、
誂えてもらおう。 う〜ん 何色がいいかな? やっぱりブルーかなあ
ね、いいだろう? お願いします! 」
「 ・・・・・・・ 」 仕方ないわね、と彼女は苦笑している。
「 そうだそうだ、髪飾りがいるよね? うん、きみには ・・・ 光る石よりも
あ ちょっとだけ待っててくれ。 きっと・・・見つかるから 」
「 ・・・・・・? 」
ジョーは 再び駆け出し波打ち際に戻った。 そしてしばらくうろうろしていたがクビクロが
クンクン言い出す前に帰ってきた。
「 ・・・・・? 」
「 ごめん、待たせて。 さあ城に戻ろうよ。 え? これ? 」
キララの視線を感じて、ジョーはちょっとはにかんだ風に笑った。
「 うん ・・・ もう少し集めるけど。 これできみの髪飾りを作るよ。 」
広げたマントの裾には 桜色や真珠色に輝く貝殻が詰まっていた。
「 ・・・・・・・ 」 キララは目を見開きひとつひとつを見つめ にっこりと笑った。
「 な、きれいだろう? ほら ・・・ こうやって ・・・ 」
ジョーは一際輝く真珠色の貝を キララの髪に翳した。
「 ほうら・・・ すごくよく似会うよ ・・・ 待ってておくれ、パーティには完成させる。 」
「 ・・・・・・・ 」
キララはじっとジョーを見つめ やがてきゅ〜っと抱きついてきた。
「 あ あは ・・・ えへ ・・・ ( ひゃ〜〜 感激♪ ) 」
「 ・・・ ウ〜 ワン! 」
「 あ〜〜ごめん ごめん クビクロ ・・・ さぁ 戻ろうな。 」
ジョーは ― そっと手を差し伸べた。
キララは ― す・・っと手を預けた。
「 ・・・・・・・・ 」 見つめ合い微笑みを交わす。
サクサクサク サクサクサク ・・・・ ザザザザ ・・・・
二人と一匹は 仲睦まじく城へと帰路を辿り始めた。
「 お帰りなさいまし。 」 「 お帰りなさいませ。 」 「 お帰りなさい。 」
城門をくぐれば 方々から家臣らの声が 彼らを迎えた。
「 ただいま。 気持ちのいい日だね。 」
ジョーはどの挨拶にもちゃんと言葉を返してゆく。
キララは 慎ましくクビクロと共に若様の後ろに従っていた。
それでも ― 振り返る彼の笑みに彼女の煌く笑顔が応え・・・
茶色毛のケモノは二人の側から離れない。
「 お美しくて気品に満ちたお嬢さんだ ・・・ この方が若様とご一緒になってくれたら ・・・ 」
「 美人で気立てもよくて 明るいお嬢さん ・・・ 若様にぴったりだよなあ 」
城に戻ってきた二人をながめ ・・・老門番も厩番も同じことをつぶやいていた。
「 ― 若様。 隣国の姫君様のご到着でございます。 ただ今から 御案内いたします。 」
乳母の君が迎賓室の入り口で告げた。
「 ・・・ ありがとう。 お願いするよ。 」
ジョーはゆっくりと立ち上がった。
隣国の王女が <許婚の君> を訪ねて見えたのだ。
「 ふ う ・・・ やっぱり緊張するなあ ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
「 キララ ・・・ そこに居てくれよね。 あ クビクロも ・・ 」
「 ・・・・・・ 」 キララは軽く会釈をすると足元の茶色毛の頭をそっと撫でた。
カツ カツ カツ カツ −−−− !
固い靴音が聞こえ まず濃い脂粉の香りが漂ってきた。
ザワ ザワ ザワ ・・・ 衣擦れの音も賑やかだ。
やがて ― ドアが左右に大きく開かれ ・・・ その女性 ( ひと ) が現れた。
「 ジョー様! ご機嫌いかが? 」
「 ・・・ よ うこそ いらっしゃいました たまら姫 」
「 ああ 早くこちらで暮らしたいですわ、ジョー様 貴方と。 」
豪華なドレスと同じ色の ― 薄紫の髪をゆらして隣国の王女は艶然と微笑んだ。
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updated: 09,18,2012.
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********* またまた途中ですが
はい ・・・ あの御方登場です〜〜〜 (^_-)-☆
言ったでしょう? メルヘン風味、って ・・・
口の利けない人魚の娘 はどうしたのでしたっけ?
・・・ あと一回! 続きます〜〜 <(_ _)>