『 蜜月旅行 ― (2) ― 』
「 え?? 新婚旅行?? 」
お母さんは すぴかと同じ色の瞳をいつもより特大に見開いてじ〜〜〜っと
すぴか達を見つめた。
「 そ! しんこんりょこう。 おとうさんと行ってきて 」
「 そ。 おと〜さん と おか〜さん と♪ 」
すぴか と すばる は えっへん・・・と胸を張った。
「 おとうさんと?? 」
「 そ! 二人でいってきて。 」
「 そ。 おと〜さんと は こ ね!
」
「 あ〜〜〜 いっしょにいうって約束してたのにい〜〜〜 」
「 じゃ いっしょにいおう? せ〜の 」
「 先にいっちゃったじゃんよ〜〜〜 」
「 だから いっしょにいおうよ せ〜の! 」
「「 はこね に しんこんりょこう〜〜〜 」」
お母さんは なんだか ぼ〜〜〜っとした顔で すぴかとすばるを見つめている。
「 ? おかあさん? きこえてる? 」
「 おか〜さん わかった? 僕たちのいってること。 」
「 ・・・ え ええ ・・・ わかったわ。 箱根 でしょ 」
「 そ〜〜 !!! で これがね、 きっぷせっと。
これもって ろまんす・か〜 に ・・・ あ これはすばるのたんとう 」
「 ウン♪ 新じゅく から ろまんす・か〜 でね〜〜 はこねゆもと まで
行ってください。 そこで かんこうこ〜す があって あ ・・ こっからは
すぴかのたんとう!
」
「 うん! かんこうこ〜す で えっと・・・ 」
「 ちょ ちょっとまって・・・ 」
やっとお母さんの < いつもの声 > が 聞こえてきた。
「 なに、お母さん。 お話はちゃんとさいごまできいてください。
しつもん はさいごまで聞いてからおねがいします。 」
「 わかってるけど でもね あの 」
「 おか〜さん? お口はとじて お手々はおひざ だよ? 」
「 そ それじゃ一個だけ! しつもんさせて、おねがい 」
「 う〜〜〜ん どうする すばる 」
「 う〜ん じゃ一個だけだよ? どうぞ! 」
すばるは ものすご〜〜く重々しい様子で頷いてみせた。
「 まあ ありがと! それではひとつだけ 教えて?
その つまり二人のお話は お父さんとお母さんに旅行にいって
ということなの? 」
「「 ぴんぽ〜〜〜ん♪♪ 」」
「 それをあなた達 二人で計画したの??? こ このチケットも?? 」
お母さんは さっき渡された大き目の封筒を開け中身をのぞき、またまた目をぱちくり。
「 えへへ〜〜〜 それはね おじいちゃまにそうだんしました! 」
「 そ〜だよ〜〜 僕達でけいかくして おじいちゃまと りょうこうやさんに
いってね〜〜 そうだんしたんだ〜 ね すぴか 」
「 そ! りょこうやさんったら ま〜〜〜 えらいですね〜〜 とか
すごいですね〜〜 とかウルサイよね 」
「 ウン。 あ でも 僕 アメもらったからいいや〜 」
「 アタシはいくない! でもね ちゃんとりょこうやさん、チケットかって
くれたよ? だから ね お母さん。 お父さんとさ〜 」
「 そ! おとうさん と〜 おかあさん しんこんりょこう にいってきて 」
「 ・・・ まあ ・・・ これ そうなの ・・・ 」
お母さんは なんだかぼ〜〜っとした顔で 封筒を持ったまま ぺたん ・・・
とソファに座り込んだ。
「 これ ・・・ 全部開けていい 」
「「 いい!! 」 」
「 ・・・ えっと・・・? あ お父さんが帰ってからに ・・・ 」
「 いま みて! おとうさん 帰ってくるの遅いじゃん
」
「 こんやは僕がおきてる〜〜 」
「 ダメです、ちゃんと9時にはベッドの中 よ! 」
「 ふぁ〜〜い ・・・・ 」
「 おか〜さんってば。 いま みて。 はこね のきっぷやりょこうのしおり。
よ〜〜〜くよんでおいてください。 」
「 はいはい ・・・ どれどれ? まあ〜〜 綺麗な写真ねえ・・・ 」
「 えっと・・・ ここの場所をみて おんせんにつかって かんこうします。
で ばんごはんは そうしゅんのやさいをつかった ・・・ え〜っと? 」
「 かいせきりょうり! これです! 」
すぴかが ぱっと < りょこうのしおり > を指した。
「 まあ〜〜 綺麗なお料理。 食べるの もったいないわねえ 」
「 これをおとうさんといっしょにたべて しんこんりょこう します! 」
子供たちは ほっぺをちょいと紅潮させ うんうん〜〜と頷いている。
まあ〜〜 すぴかだけじゃなくすばるまでほっぺ赤くして・・・
二人でここまで調べたの? すご〜〜い
「 おかあさん?? きいてますか? 」
自分を同じ色の瞳が じ〜〜〜〜っと 見上げてきている。
「 ・・え? あ ええ ええ ちゃんと聞いてますよ。
ま〜〜 素敵な < りょこうのしおり > ねえ ・・・ お店で
もらってきたの? 」
「 ウン。 商店街のりょこうやさんにいってね、もらってきたんだ〜〜 」
「 まあ すぴかが?? 」
「 僕も!! 」
茶色のアタマが ずい・・っと入ってきた。
「 まあ すばるも? 」
「 ウン! ね〜〜〜 すぴか? 」
「 そ。 二人でそうだんして・・・ りょこうやさん にね お願いしたの。
おじいちゃま についていってもらったんだ 」
「 そ! おじいちゃま つきそいしてくれた。 」
「 まあ〜 そうなの 」
「「 ウン! 」」
「 そんでもってね〜〜〜 だから ― はい。 おとうさんと
しんこんりょこう してください 」
「 ください。 」
「 あ は はい ・・・・ 」
うそ〜〜〜〜 二人とも マジわあ・・・
「 わ わかりました。 おとうさんと相談します。 」
「 してください。 」
「 ください。 あ ろまんす・か〜 のきっぷもてはいしました。
あ さっき言ったか〜 ね ふうとうにちゃんと入ってるよね〜 」
「 まあ すばるが?? 」
「 ウウン 旅行屋さん が。 すぴかと僕がちゅうもんしました。
ろまんす・か〜 の していせきです。 」
「 まあ 指定席なの? 」
「 ウン。 おとうさんとカップル席でぇ〜す しんこんりょこう なんですって
いったら、 旅行屋のおねえさんがえらんでくれたんだ〜 ね〜 すばる? 」
「 ね〜 すぴか るんるん〜〜ってりょこうしてください。 」
「 ありがとう〜〜 すぴか すばる〜〜 今晩 お父さんともう一度
ゆっくり見るわね。 」
「「 うん!!! 」」
お母さんの前で 双子はもう大満足のにんまり顔だ。
「 すごいわねえ・・・二人とも ・・ ホント お母さんびっくり 」
「 えへへへ ・・・ おじいちゃまにね〜〜 おそわったんだ〜〜 」
「 そ。 僕たちがね〜〜 はこね と ろまんす・か〜 で しんこんりょこう って
いったらね〜 りょこうやさん に行こうって 」
「 まあ ・・・ 」
「 だ〜から おかあさん、おとうさんと はこね にしんこんりょこう だよ! 」
「 しんこんりょこう だよ〜〜 」
「 わかりました。 二人とも本当にありがとう 」
「 えへへへ〜〜〜〜 」
「 じゃ 手を洗ってきてオヤツにしましょ 」
「「 わ〜〜〜い 」」
「 それからちゃんと宿題もする! いいわね 」
「「 ふぇ〜〜い 」」
双子たちはもう大満足〜〜って顔で ぱたぱた手を洗いに行った。
ふう ・・・
フランソワーズは 溜息まじりに < りょこうのしおり > をもう一度
広げてみた。
「 ・・・ 博士にご迷惑をかけたのじゃないかしら・・・・
予算はどうしたの? これはちゃんと博士に伺わなくちゃ。
でもよく考えついたわねえ ・・・ もう赤ちゃんじゃないってことね 」
子供たちの成長に 嬉しいやら びっくりやら ・・・ そして ほんのちょっと
淋しい想いも あるのだ。
「 はやく大きくなあれ って思って育てているけど ・・・
でも そんなに急いで大きくならないで ・・・ わたしの腕の中にいてほしいわ 」
しんこんりょこう か ・・・
そうねえ ・・・ 結婚してから二人だけでの旅行 なんて
一回も行ってないわねえ ・・・
特に行きたいトコもあるわけじゃないけど・・・
― 箱根 ねえ ・・・ 地下に降りていったのはあそこから だったわ
ちくり。 とうに忘れていた心の棘が 双子の母を苛む。
年月がどんなに経とうとも 忘れることなどできないのだ。
場所のせいじゃないわ、もちろん。
そうよ ・・・ チビたちの言う通り、景色を見て 温泉に入って
オイシイものをたべてくればいいのよ ― ジョーと一緒に ね
とん。 彼女は < りょこうのしおり > を 封筒の中にしまった。
「 おと〜さん ちゃんときっぷ もった? おとさないよ〜に! 」
「 おか〜さん < えんそくのしおり > バッグにはいっていますか? 」
駅のホームで 子供たちはわらわら両親に纏わりついている。
遠目には 家族旅行にはしゃいでいる子供たち、にしかみえない。
うん? あ〜〜 ガイジンさん一家かあ〜 お。美少女〜〜
日本初めてなのかしらね〜 まあ あの男の子可愛いわあ〜
チラチラ視線を送ってくる人々もいたが ― この旅行をチビたちが企画?した、とは
思ってもみないだろう。
「 へ え ・・・? チビたちがねえ・・・ 」
< しんこんりょこう > の話を聞いたとき、ジョーはなんだか呆れたみたいな
表情をした。
「 そうなのよ。 」
「 この前の すぴかの < 行きたいトコ ある?? > は 終わってなかったんだな〜〜
しかし 新婚旅行 かあ 」
「 それで おと〜さんとおか〜さん 行ってらっしゃい って。
チケット予約とか 博士に一緒に代理店に行ってもらったんですって 」
「 へえ〜〜 旅行代理店 なんて知ってたんだ? 」
「 なんにも売ってないけど、 りょこうやさん ですって 」
「 あは 確かにね・・・・ で これか 」
ジョーは細君が渡した封筒からパンフレットやら < りょこうのしおり > を
取りだした。
「 箱根 か。 ふむふむ・・・ お。 露天風呂だってさ。 いいねえ〜〜〜
ふうん ・・・ 今時分 きっと水仙やら花もキレイかもな。
あ 美術館とかもあるはずだよ 」
ジョーはすっかり 旅行モード になっている。
「 ちょっと〜〜〜 ジョー? ホントに行くつもり? 」
「 あ ああ いいんじゃないかなあ ・・・ せっかくのご好意を受け取らない
ってのはナシだろ?
」
「 けど、 あの子たちだけで留守番、できるのかしら。 」
「 たった一晩だろ? 」
「 でも わたし達二人ともいない って夜は初めてかもよ? 」
「 あ〜〜 ・・・ ウン でももう四年生だし 大丈夫だろ?
だってアイツらの方から言いだしたんだぜ 」
「 だけども ね・・・ 」
「 ま いつかは 独り立ちするんだしさ いい練習になるさ 」
「 そう ・・・ ねえ 」
「 へえ? チビ達よりもきみの方が不安そうだぜ? 子離れできない? 」
「 子離れって! あだあの子たちは四年生なのよ? 」
「 もう四年生 さ。 それにアイツらはいつだって相棒がいるんだ、一人じゃない。
なんとかするだろ 」
「 そう願いたいわ。 ああ でも当日のゴハンは大人にお願いしたの。
話をしたらね そりゃええことや〜 って。 晩御飯と翌日の朝ご飯も
任せてや ですって。 」
「 わあ ありがたいなあ。 あとでお礼いっておくよ 」
「 お願いね。 大人はね、 すぴかとすばるの好みをよ〜〜く知ってるから
コドモたちは大歓迎なんじゃないかな 」
「 そりゃいいね。 じゃ ぼく達は しんこんりょこう を楽しもうよ♪
ぼくの花嫁さん〜〜 」
ちゅ・・・。 ジョーはかれこれ10年以上連れ添った細君のほっぺに
キスを落とした。
ぱたぱたぱた ・・・ ごとごと がたがた・・・
朝からお母さんは家中を走りまわっている。
「 えっと・・・ 炊飯器のタイム・スイッチはセットしたし、お洗濯は済ませたし。
あ すぴかさん? お昼すぎにはお洗濯モノ、取り込んでおいてね 」
「 わ〜〜かったってば。 おか〜さん 何回同じこというのぉ
」
「 えっとね〜 おはよう のあと。 かお 洗ってくるまえ。 洗ってきたあと。
それから いま! の〜〜 四回だよ〜 」
「 あら そう?? ね それじゃきっと 」
「「 おせんたくもの おひるごはんたべたらとりこみマス 」」
チビたちは 声を合わせて復唱した。
「 ・・・ フラン、ちょっと落ちつけよ 」
ぱさり。 ジョーは朝刊を置いて細君に声をかけた。
「 え? べつに落ち着いていますよ? ただ やることがいっぱいあって 」
「 いっぱい はないよ。 きみがすることは 朝ご飯を食べて出かけるだけ さ。
後片付けはぼくがする。 すぴかもすばるも一人で支度、できるだろ? 」
「 うん! アタシ、 も〜〜 できてるも〜〜ん 」
「 僕 ぅ〜〜 ぼうし かぶってまふら〜して ・・・ 」
「 それはさいご! 」
「 そうだよ、 さあ 皆で朝ご飯食べよう。 座ってすわって 」
「「 は〜〜い 」」
島村さんち の皆は賑やかに朝食を囲んだ。
そして ― 若干のばたばた ・・・ を経て時間どおりに 全員で玄関を出た。
「 いってきま〜〜〜す! 」
「 いってきます〜〜 わ〜〜〜 みんないっしょだあ〜〜 」
「 ほらほら 騒がない。 バスや電車の中では静かにね 」
「 しってる! アタシ、 お母さんとお出かけした時だってしずか〜にしてた! 」
「 僕も。 おか〜さんとおけいこばいっしょに行ったよ〜 」
「 そうね。 だから ・・・ ちゃんとできるわね。 」
「「 うん! 」 」
バスで最寄り駅まで出て 電車に大きな駅まで乗ってゆく。
朝の時間なので電車は結構混んでいた。
「 静かにするんだよ? すぴか、お父さんと手を繋ごう 」
「 ウン。 」
「 すばるはワシと一緒だ おいで 」
「 うん! 」
博士はがっちり孫息子をガードする。
「 フラン 大丈夫か 」
「 あ〜ら わたし毎朝 この線を利用しているのよ?
こっちの車輛が空いているの。 皆 〜〜 こっちから乗るわよ 」
「 はいはい・・ お母さんにナヴィゲーターを任せよう 」
一家は 無事にぎっちり電車に乗り込んだ。
ご〜〜 ・・・ がったんこ〜〜〜
「 おい 大丈夫か すぴか。 すばる 」
「 う ・・ん へいき 」
「 おじ〜ちゃま へいき? 」
「 はは ワシは大丈夫じゃよ すばる 」
お父さんを中心に 皆はこしょこしょ・・・言葉を交わす。
「 ふふふ・・・ なんだか楽しいそうね ジョ― 」
車輛の揺れに軽く身を処しつつ フランソワーズはくすくす笑っている。
「 え そ そんなこと ・・・ ある かな〜〜〜 」
「 でしょう? だってもう口元がに〜〜こにこしてるわよ? 」
「 え そう? 」
「 アタシだってたのしいよ! みんなででんしゃ〜って 」
「 でんしゃ〜〜 僕 だいすき! 」
「 あは ・・・ そうだねえ クルマで出かけることはあるけど
こうやって皆で電車でおでかけって初めてかもなあ 」
「 あら そうねえ そうかも ・・・ 」
「 ウン。 いいよなあ 〜 」
「 え こんなぎゅ〜〜〜詰めでもぉ?? 」
「 そうさ。 えへ
なんかさ〜 こ〜いうの 憧れだったんだ〜 」
「 あこがれ?? 」
「 ウン ・・・ ぼくさ 施設育ちだろう? 旅行には行ったことはあったけど・・・
全員でのバスハイクとか まあ たま〜〜にだけど 篤志家のヒトやら
ボランティアさんが クルマで連れていってくれたこともあった。 」
「 そう ・・・ 」
「 だけどさ ・・・電車の中で こう・・・一緒に乗ってる家族とかみると
いいなあ〜〜 って 羨ましかったんだ。 」
「 うらやましい? 」
「 うん。 お父さんとお母さんとくっついて座ったり笑ったり・・
家族って ああいうものなのかあ・・・ってものすごく憧れたなあ
ぼくには 手の届かないモノなんだ・・・ って悲しかったし 」
「 ジョー。 これはあなたの家族よ。 お父さんがいなくちゃ
な〜〜んにもならないの。 」
「 あ は ・・・ なんか ・・・ ウン。 これも最高の思い出かもな 」
「 まあまあ・・・ 混み混み電車ですけどね。
あ 次の駅で大勢降りるから気をつけて すぴか すばる 」
「 ウン 」
「 このしゃりょう、 最新がただよ? え〜〜とね、すぷりんぐが強かで
ゆれをきゅうしゅうするんだ 」
テツなすばるは 熱心に車内をみまわし博識ぶりを披露する。
「 ほうほう〜〜 すばるはすごいなあ 」
「 えへへへ 僕 < テツ > だから。 えへへ〜〜〜
わたなべクンにもほうこくするんだ〜〜〜 うん このかたのとくちょうもね 」
「 ふふふ ・・・ すばるは電車に乗るだけで楽しいみたいね。 」
「 そうだね。 おっと皆こっちの奥においで 」
大きな駅につき、大勢のヒトが降りてまた新しく乗ってきた。
「 もう少し我慢できるわね 」
「 ウン 大丈夫、お母さん 」
すぴかは きゅ・・っと母のコートを掴む。
「 僕も! 」
すばるも母の側にへばりついている。
ふふふ〜〜 やっぱり甘えん坊さんね 二人とも・・・
― 電車って ・・・ もう慣れたけど ・・・
そうねえ コドモの頃はメトロくらいしか乗る機会もなかったわ
鉄道っていえば ・・・ やっぱり北駅よねえ ・・・
ジャン兄さん迎えに行くのも、いつも北駅だったわ
そう ・・・ あの日も北駅に行くはずだった。 休暇に帰ってくる兄を迎えに。
もし。 もしもあの日 ― 予定の時間通りに家を出ていたら ・・・?
あの黒いクルマが通るずっと前に駅に着き、兄と会っていたはず。
― そう。 今、隣にいる優しい茶色の瞳の青年と出逢うこともなく。
そして すぴか も すばる も ・・・ いない。
! ・・・ そ そんなの だめよっ !
「 え なに? どうした? 」
不意に茶色の瞳が彼女を覗きこむ。
「 ・・・ あ ・・・ う ううん ・・・ なんでもない 」
「 そう? 」
きゅ。 フランソワーズは手をのばすとそっと傍にいるジョーの手を握った。
「 ? もうすぐ着くよ 」
「 ええ ・・・ ああ よかった ・・・ 」
「 ??? 」
「 うふふ〜〜〜 なんでもなあいっと♪ 」
これで いいの。 ううん、 わたし、 これが 今が いいの。
フランソワ―ズは滲んできた温かい涙をそっと拭うのだった。
― そして。 一家はココ・・・ ろまんす・か〜 のホームに立っているのだ。
「 あ おかあさん もう のったほうがいいよ? 」
テツなすばるは 駅の時計を気にしてそわそわしている。
「 え? ええ でもまだ五分あるから 」
「 ぎりぎりはよくないです。 ごじょうしゃください。 」
「 はいはい ・・・ それじゃ すぴか そばる 行ってきますね
博士 どうぞよろしくお願いします。 」
フランソワ―ズは コドモたちのほっぺにキスをすると博士に深々とアタマをさげた。
「 うむ うむ あとは任せて・・・楽しんでおいで 」
「 そ! おと〜さんとぉ〜 らぶらぶ〜〜〜 してきてね! 」
すぴかの甲高い声に 周囲の人々がにこにこ・・・顔をむけてくれる。
「 すぴか すばる ありがとう! お父さん とっても嬉しいよ〜〜
博士、お願いします。 大人にもよろしくお伝えください。 」
「 うむ うむ 後のことは気にせずに な。
すぴか すばる? 父さん 母さんが留守でも大丈夫だな? 」
「「 うん!! 」」
「 それじゃ ・・・ 」
ジョーに促され フランソワーズは振り返りつつ車中のヒトとなった。
「 え〜と・・・? あ ここだ。 お〜〜い すぴか〜〜 すばる〜〜 ココだよ〜」
ジョーはシートに座るより前に 窓越しにわさわさ〜〜 手を振っている。
「 え? どこどこ? あ〜〜 すぴか すばる〜〜〜〜 」
フランソワーズもすぐに窓に張り付き 負けずに手をひらひらさせた。
「 ホントに・・・ 二人で考えてくれたんだなあ 」
「 ねえ ・・・ まだまだ赤ちゃんだと思ってたら・・・ 」
「 うん ・・・ おっとそろそろ発車だな〜 座ろうか 」
「 ええ ・・・ ああ すぴか〜 すばる〜〜 いってきますね〜〜 」
二人はやっと座ったが でも身体を捻じ曲げ窓の外に手を振っている。
ぷしゅ〜〜〜 ・・・ ガッタン ・・・!
わずかなショックを残し、 ろまんす・か〜 は静かに動き始めた。
「 ・・・ あ! 」
「 うん? どうした ? 」
妻があげた小さな声に ジョーは彼女の顔を見つめた。
「 え あ なんでもない わ 」
「 そうか? え〜と ・・・ このバッグ、ここに置くぞ 」
「 ええ お願いします。 」
ジョーは 居心地よく旅を始めるためにごそごそしている。
フランソワーズは まだ窓の外を眺め ・・・ 少しぼんやりしていた。
すぴか ・・・ 泣いていた ・・・?
そう 彼女はホームに残った娘の頬に 光るモノを認めてしまったのだ。
いつも明るく元気で < 正義の味方 > 同い年の弟をしっかり護りリードし
しっかり者のあの すぴか が。 泣いて いた・・・
まさか ・・・ 見間違えよね?
でも・・・ と遠ざかる光景にそっと < 眼 > を使ってみた。
母の目が捕えた景色は ―
ぐい、と袖口で目のフチをぬぐい 弟の手をひっぱってゆく姉の姿 だった。
普段は甘えっ子なすばるは 周囲のいろいろな電車に気をとられきょろきょろ・・・
< 淋しい > 気分などなく、 勿論 すぴかの涙にはまるっきり
気がついてはいなかった。
あ ・・・ すぴか ・・・
「 さ〜て ・・・ と。 いや〜〜 二人で旅行なんて初めてだよねえ 」
隣からのんびりした声が聞こえてきた。
「 え? え ああ そうね ・・・ 」
「 フラン、 きみ ・・・ どうか した? 」
「 ううん ・・・ なんでもないわ。 そうね ちょっと感動していたの。
すぴか も すばる も ホントに大きくなったんだなあ ってね 」
「 あ〜 そうだね。 留守番できるかな? って聞いたらさ
え〜〜 あったり前じゃん〜 お留守番?できるも〜〜〜ん って
二人とも自信満々だったよ もう甘えん坊の赤ん坊じゃないってことさ 」
「 そう ね そうよね 」
「 そうさ。 ねえ きみ お腹減ってない? 朝からばたばたしてたから・・・ 」
「 え ? 」
「 大人がさ サンドイッチ、用意してくれたんだ。 軽くつまもうよ 」
ジョーはごそごそ・・・ バッグから包を取りだした。
ふぁ ん 〜〜〜〜 ・・・
ろまんす・か〜 は 静かに穏やかに < はこね > を目指す。
Last updated : 03,07,2017.
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******* 途中ですが
え〜〜 すいません、終わりませんでした <m(__)m>
湘南地方に住んでいても 案外箱根とか
行ってない・・・だろうなあ〜〜 あの二人☆