『 蜜月旅行  ― (3) ― 』

 

 

 

 

 

 

 

    ぷわ ん ・・・ !

 

ろまんす・か〜 は 静かにホームから滑り出ていった。

「 ・・・ あ ・・・ 」

すぴかは 小さな声をあげた。

 

   ・・・ いっちゃった ・・・ おとうさん と おかあさん

 

「 うん? どうしたね すぴかや 」

隣にいたおじいちゃまの大きな手が きゅ・・・っとすぴかの手を握った。

「 あ  う ううん! なんでもない〜〜 えへ・・ め  かゆいや〜 」

すぴかはコートの袖で くいっと目を拭った。

「 おや ・・・ すぴかは花粉症じゃったかの〜  ほら これを使いなさい 」

博士はごく自然にハンカチを差しだし 孫娘の小さな涙には気づかないフリをした。

「 ん〜〜〜 おじいちゃま ありがと〜  

「 ほいほい。  さあ 帰ろうなあ。 」

「 うん。  すばる〜〜 帰るよ 」

すぴかは あっちこっちふらふら見ている弟の手をひっぱった。

「 ・・・え? あ うん〜〜  あ あっちのホームに旧式の車りょうがいる〜 」

テツなすばるは もう〜〜 眼をお皿くらいにしている。

「 ほう? すばるは目が速いのう〜  さあ 帰りは行きとは違うルートで

 もどろうか 」

「 え!? ほんとう、おじいちゃま〜〜 」

「 うむ。 お前たちには珍しいかな メトロにのってゆっくり鈍行で帰ろう。 」

「 わ!!! めとろ にのれるの?? わ〜〜〜 なにせん〜〜〜? 」

「 どれを利用したらいいかなあ 案内板を見てみよう 」

「 うん! 」

珍しく すばるは姉の手をひっぱって先頭を切って歩きだした。 

 

  ざわざわざわ ・・・  がやがやがや ・・・

 

巨大駅ターミナルにはヒトがいっぱいいて音もたくさん聞こえて いつもとは全然ちがう空間だ。

テツなすばるは その雰囲気にうきうきし すぴかはなんだか足元がふわふわする

感覚を持て余しつつ ・・・ 博士の両側にくっついていた。

    

 

 

それでね〜  あの車輛はね〜   だからね〜 

地元のバスに乗ってから すばるはず〜〜っとしゃべり続けていた。

いつもはおしゃべりなすぴかは ず〜っと口を閉じていた。

「 うん? すぴか ・・・ 気分でも悪いのかい 」

「 え・・?  ううん おじいちゃま。 アタシ 元気〜 」

「 そうかい それならいいが・・・ 

博士はじっとすぴかの横顔を見つめていたが 艶々した張りのあるほっぺに

ほっと安心した様子だった。

「 ちょっとね〜 びっくりしただけ 」

「 びっくり? 」

「 ウン。 だってさ〜 い〜っぱいヒトがいたから 

「 ああ そうじゃのう ・・・ あの駅は一日の利用客が日本一なんじゃとさ 」

「 へ〜〜〜〜 ・・・ すご〜〜〜

 あは ・・ ウチのとこの駅とはぜんぜんちがうね 」

「 そうじゃな ワシはのんびりしたあの駅が好きじゃよ 」

「 すぴかも !  おとうさんとね〜 お出かけしたとき 乗ったし 」

「 おお よく覚えておるな。 それにな ワシはこのバスも好きさ。

 駅前から ぐる〜〜〜〜っと回ってくれて皆の大事な足だ。 」

「 あし?? 」

「 そうだよ。 大事な足、すぴかもいずれ毎日使うようになるさ 」

「 ウン ・・・ お母さんも毎日つかってるよね 

「 おじ〜ちゃま! このバス! 今年の新型だよ! ね〜〜〜 うんてんしゅさん! 」

「 こ こら すばる〜〜 運転手さんの邪魔をしてはいかんよ 」

「 あ ・・・ ごめんなさい ・・・ 」

バスには乗客も少なく やんわりした笑いが車内に充満した。

 

   ぱぱ〜〜〜  ・・・ !  運転手さんも軽く警笛を鳴らしてくれた。

 

「 ・・・ 申し訳ないです 孫がご迷惑を・・・ 」

おじいちゃまはぺこり と周囲の人々に向かってアタマを下げた。

「 すばる! のりものの中ではしずかに! ってお母さん 言ってるよ! 」

「 ・・・ う うん ・・・ごめんなさい ・・・ 」

「 さあさ そろそろ降りるぞ 忘れ物するなよ 」

「「 は〜〜 い 」」

わいわい・・・おじいちゃまとおしゃべりしつつ、双子たちはバスから降りた。

ウチまでは あとはいつもの坂を登ればいい。 

「 あ おじいちゃま〜 おかいもの ある? 」

「 おじいちゃま〜 たばこやさん ゆく? 」

「 うん? 今日は大丈夫じゃよ。 さあ ウチまであと一息じゃよ 

「 ウン! あ アタシ、 ひっぱったげる おじいちゃま 」

「 僕も〜〜 

「 お〜〜っと ワシはまだそんなに年寄じゃあないぞ?

 ウチの前の坂を一人で登れない なんてことはな〜〜〜い 」

「 じゃ いっしょにいこ! 」

「 いっしょ〜〜 」

  えっほ えっほ〜〜  いっしょ いっしょ〜  

三人は 元気に賑やかに坂道を登っていった。

キイ ・・・ 門を開き すきっぷ・すきっぷ〜〜で 玄関までゆく。

 

「 あ〜〜〜 ははは   おもしろ〜〜  たっだいま〜〜〜 」

「 たのし〜〜  ただいまぁ〜〜 おか〜さ〜〜ん 」

がっちゃり。  ドアを開けて ― 

 

     ・・・・・  ・・・・・ 

 

ウチの中からは なにも音が聞こえない。 

いつもの < おかえりなさい すぴか すばる > や  日曜日なんかの

< おう お帰り〜〜 すぴか すばる > の声が  ない。

「 おか〜〜さ〜〜 ・・・ あ。 」

「 おと〜さん あのね〜〜  ・・・ あ。 」

 

     おかあさん  いないんだっけ ・・・

 

すぴか と すばる の脚が一瞬凍りついた。

「 うん? さあさ 二人とも・・・ 手を洗ってウガイをしておいで。

 昼ごはんにはちょいとまだ早いから お茶でも淹れようなあ 

オーツ・ビスケット でも摘まもう 」

「 うんっ!! 」」

コドモたちは いつもの元気で一緒にバス・ルームへ駆けていった。

 

「 やれやれ ・・・ ちょいとお腹を一杯にするかな。

 え〜〜と すぴか は ウーロン茶 すばるは ミルク・ティ じゃったな 」

博士もよっこらせ・・・と玄関からキッチンにむかった。

 

  バタバタバタ ・・・ すぐに賑やかな音が戻ってきた。

 

「 手 あらった〜〜〜〜 びすけっとぉ〜〜〜 おかあさん! 」

「 僕も〜〜〜 僕 みるく・てぃ  おか〜さん 」

キッチンに飛び込めば  テーブルの上には色違いのマグ・カップと

お皿にはいい匂いのビスケットがならんでいた。

でも テーブルの向こうにいつもの笑顔は ない。

 

    ・・・ あ お母さん いないんだ ・・・

 

二人の笑顔が  ― す・・っと消えた。

「 さあさ 食べような。 お母さんが今朝焼いておいてくれたビスケットだぞ 」

「 う うん。  すばる たべよ? 

「 ・・・ う うん ・・・ 」

すぴか も すばる も とて〜〜〜もお行儀よく自分の席についた。

「 いいかな? それじゃ 一緒に イタダキマス をしよう 

「「 イタダキマス 」」 

二人はとてもとても静かにクッキーを手にとった。

「 あ。 おせんたくもの ・・・ 」

すぴか がぱっと顔をあげた。

「 アタシ お母さんとやくそくだから ・・・ とりこんでくる 」

「 すぴか〜〜 まだおひる食べてないよ〜〜  お母さんってば

 『 お昼ごはんをたべてから 』 って言ってたじゃん。 」

「 う ・・・でも もしかしたら かわいているかも 」

「 上〜〜 の方にほしてあるもん、 かわいているかわかんないよ。

 だ〜から〜〜 おひるごはん たべてから 」

「 う  ん ・・・ 」

すぴかはしぶしぶイスに腰を落とした。

 

いつになく静かな < お茶時間 > の後、 

「 あそびにいっきま〜〜す 

「 どこか遊びにゆくのかい 公園かな 」

「 う う〜〜ん ウチのお庭でてつぼう してる。 」

「 わかったよ。 すばるや? すばるはどうするね 

「 僕 えきでもらったの 読む ! 

すばるは 駅のインフォメーションセンター でもらったチラシやらパフレットを

大事そう〜〜〜に博士に見せた。

「 すぴかにも見せてあげよっか? 」

「 い〜らない。 アタシ てつぼうしてる。 」

「 あっそ。 僕ね〜〜 これ 明日、わたなべ君にもみせるんだ おじいちゃま 

「 ほう そうか。 オトナ向けのパンフレットもあるな すばる 読めるかい 」

「 う ・・・ ん だいたい。 」

「 わからない字があったら言いなさい ワシはリビングにおるから 」

「 ウン♪ 」

博士は資料とノートパソコンをリビングに置いて仕事を始めた。

「 ぼ〜〜くもっと。 

すばるは ちょこん、と博士の隣に座った。

「 僕ね! ろまんす・か〜 についてしらべるんだ〜〜〜  おと〜さん 

いつも父が座っている方向に すばるは習慣的に顔を向けた。

「 うん? そうだなあ お父さんに報告しような 」

「 あ  おじいちゃま 

「 すばるの報告、 お父さんも楽しみにしておるぞ きっと。 

 あ ワシにも見せてくれるかな 」

「 ウン! おじいちゃま ・・・ おか〜さん ・・・

 いま ろまんす・か〜 だよねえ ・・・ 」

「 そうじゃな。 お父さんと一緒に楽しんでおるよ 」

「 ・・・ そ だね ・・・ 」

すばるはしばらく じ〜〜〜っとお母さんのエプロン ― リビングの隅に

畳んで置いてあった ― を見つめていた。

 

 

「 えいっ! 」

空に向かって蹴り上げれば ― くるり。 すぴかの身体はキレイに鉄棒を回った。

「 ん〜〜〜 いいかんじ〜〜〜 へっへっへ〜〜 逆上がり とくいだも〜ん 」

よ〜〜し・・と 今度はぶんぶん勢いをつけて ・・・

「 せ〜〜のっ! 」

 ぶん・・・!  空中逆上がり がばっちり決まった。

「 ん〜〜〜 せいこう〜〜〜 」

 ぽ〜〜〜ん、 すぴかは勢いよく鉄棒からジャンプした。

「 っと。  ふ〜〜ん ・・・・ あ すわってみよっと 」

 えい・・・ 今度は足かけ前回り〜〜〜〜 で ひょい、と止まった。

「 ふ ふ〜〜〜ん♪  ウデはなまっていないな〜〜〜  お父さんに教わったとおり

 ほ〜ら 座れたよ〜〜ん 

 

  さわさわ〜〜〜 鉄棒の上にすわった女の子の 金色のお下げがゆれる。

 

「 あ〜〜 いいきもち〜〜〜  おせんたくモノ、すぐにかわくよね 

ひらひら  ひら・・・  洗濯モノ干しでは タオルやらシャツ、 すぴかやすばるの

パンツが真っ白けっけに輝いている。 その向こうには ・・・

 

  あ。  おかあさんの ぶらうす だあ ・・・

  ・・・ しんこんりょこう ・・・ たのしいかな〜〜

  おかあさん ・・・  おかあさぁん ・・・

 

風に揺れる母のブラウスを すぴかはしばらくじ〜〜〜っと眺めていた。

 

 

 

「 ああ 温泉って最高だわぁ〜〜〜 」

フランソワーズは ほっぺをぴかぴかにしつつ部屋にもどってきた。

浴衣の着方もきっちり、上に半纏を羽織った感じも なんだかとてもイタにつていた。

< しんこんりょこう > で やってきた旅館は 純日本風 ・・・

もう10年以上この国に住んでいるフランソワーズにも とても面白く興味深かった。

彼女は あれこれ・・・ 周囲を眺めおおいに楽しんでいた。

 − カラリ。  襖を開けると ジョーが座敷で寛いでいた。

「 おかえり〜〜〜  うん いいお湯だったねえ 」

「 あら ジョー。 わたしの方が早いかなあって思ってたわ。 

 ちゃんとゆっくり温まりましたか? 」

カラン。  洗面具を置くとフランソワーズはふぁさ・・・っと洗い髪を揺らす。

「 は〜〜い ちゃんと肩までつかって百、数えましたよ お母さん 」

「 はい よろしい。   ・・・ コドモたち ちゃんとお風呂に入ったかしら 

「 う ん ・・・ 博士に迷惑かけてないかな 」

「 そうよ ねえ ・・・ 」

ゆったり寛ぐはずが ― なぜか心配な雰囲気になってしまった。

「 あ  ・・・ でもさ 楽しかったよねえ  箱根 ってさ

 東京に近いのに すご〜〜い自然いっぱいって感じだし 」

「 そ そうよね。 わたし、初めてみる景色ばっかりで・・・

 ほら フランスでは山とか温泉とか・・・いったコト なかったから 」

「 ぼくだってさ 」

「 え そうなの? だってジョー、あなたは地元民でしょう? 」

「 そりゃそうだけど ・・・ 旅行する余裕なんかなかったんだ。

 それにね 近い場所って案外行ったことがなかったりしない? 」

「 ・・・ え  ・・・ ああ そうねえ ・・・ 」

「 う〜〜ん 楽しかった♪  すぴかとすばるに大感謝だよ。 」

「 ええ ええ ・・・ 本当にねえ 」

「 温泉にもはいったし ・・・ ふふふ〜〜 露天風呂だったらもっと

 よかったのになあ そんで 混浴だったら 

「 ろてん?  ・・・ ああ 外にある温泉のことね。

 混浴って え〜〜 そんなトコ、あるの? 」

「 ここにはないかもしれないけど さ。  きみと一緒に入りたい〜〜 

 だってぼく達は < しんこんりょこう > なんだもん 」

「 ま  ジョーってば 

  くすくすくす ・・・・ ふふふふ ・・・

見た目は立派に? < しんこんりょこう >です、 だけど 実は十年以上

連れ添った二人は 低く笑い合った。

 

夕食には 美味しそうで凝った料理が次々と食卓に並んだ。

「 まあ  ・・・ きれい ・・・! すごいわねえ 

「 そうだねえ  なんか食べちゃうの、勿体ないみたいだ 」

「 ええ ええ それにこんなに食べられるかしら 

「 う〜〜ん? ぼくでもアヤシイぞ・・・ こりゃ 頑張らないと

 さあ せっかくの心尽くしなんだ、いただこうよ 」

「 はい。  あ ・・・ 脚を折って座らないと ・・・ だめ? 」

「 いや  ・・・ ほら この座椅子によりかかって・・・

 うん 脚は投げだしていいよ 

「 ありがとう!  ああ 助かったわ。 」

 

 では  いただきます  と二人はきちんと手を合わせてから箸を取った。

 

食卓の上には まさに山海の珍味・・・ さまざまな料理が並ぶ。

所謂和食ばかりではなく 洋風なものも 中華風なもの も 

も〜〜 なんでもかんでもあった!

 

「 すごいな〜  え これはなにかなあ ? 」

「 すごいわねえ  え〜とね ・・・  ゆ ば ですって。

 ここに食べ方が書いてあるわ。 」

「 どれどれ ・・・・ ふうん〜〜 ぼく 初めてだ 」

「 ねえねえ これはなあに? 」

感歎の声をあげつつ ジョーとフランソワーズは < しんこんりょこう > の

晩御飯を賞味する。 

「 あ これ すぴかが好きな甘エビね 

「 ふ〜〜ん これはすばるが大喜びしそうだぞ? 甘い胡桃の味がする 

「 ん〜〜〜 おいしい! すぴかやすばるにもたべさせて上げたいわあ 」

「 あは これはいいなあ〜〜 餡にコクがある ・・・ すばる、絶対好きだぞ 」

「 ねえ? 」

「 なあ? 」

「 ・・・ あの子たちと食べたいわ 」

「 わいわいおしゃべりして わらって ね 」

 

  かちゃり。  カタン。 二人は食事半ばで箸をおいてしまった。

 

「 ね ・・・ これ。 持って帰ったら ・・・ シツレイかしら。

 生もの以外は明日でも平気でしょう?  」

「 ウン。 ぼくらだけじゃ食べきれない。 勿体ないよ。

 それに ― ぼくは皆で 

「 ええ 皆で食べたいわ。  あの ね ジョー ・・・

 わたし お願いがあるの。 もうなんにもいらないわ、ひとつだけお願い 」

「 実は ぼくも、なんだ。 たったひとつ頼みたいんだけど。 

 < しんこんりょこう > なんだけど 

「 え  あの ? 」

「 うん  あの さ。 」

 

     「 朝イチで 帰ろう! ウチに 

 

     「  ええ♪  あ でも 今から電車の切符とか取れるかしら 」

 

「 ふふふ ・・・ じつは 」

「 え? 」

 がさごそ。  ジョーは荷物の中からあの赤い特殊な服をひっぱりだした。

「 あ〜〜〜   もってきていたの ね? 」

「 きみの分もある、ちゃ〜んとね。 だ・か・ら ウチまでは 」

「 まあ〜〜 じゃ すぐに帰れるわね♪ 009さん。

 あ でも荷物やお土産・・・ 燃えちゃう・・・ 」

「 出る前に 宅配便たのもう 」

「 そうね。 あ それからね 朝ご飯も無駄にしたくないの。

 だから今晩のうちにフロントに言いましょう 」

「 うん そうだね。  食べ物を無駄にするのはよくないものね。 」

「 じゃあ わたし ・・・ フロントにお願いしてくるわ。 」

「 あ ぼくも行く。 ちゃんと理由を説明すれば失礼じゃないと思う。

 ぼく達は家族みんなで このオイシイ料理を頂きたいんだ。 」

「 そうよね。  そして ね ジョー。 もうひとつお願いがあるの。 

「 うん なんだい 」

「 いつか ・・・ 家族皆でここに来たいの。 皆で箱根の景色を見て

 湖を見て 温泉に入って・・・ 美味しいお食事をしたいのよ。 」

「 あ いいねえ〜〜  ぼくのサラリーじゃかなりキツいけど 」

「 わたしだって倹約するわ。 二人で頑張りましょ。

 コドモたちの < しんこんりょこう >計画の スポンサーは

 博士でしょ 

「 ウン 博士はね、ワシからの結婚祝いだよ・・・なんて言ってらしたけどね 」

「 ・・・ なんだか申し訳ないわ 」

「 ともかく朝イチバンで 」

「 加速装置! 」

「 あはは そうだね。 」

009 と 003はにんまり笑みを交わしてから フロントに降りていった。

 

 

「 はい?? 

フロントにいた係のオバサンは 目を見張った。

新婚さんだろう ・・・と思われていたガイジンさんカップルが

神妙な顔で現れ ― 

「 あの ・・・ 本当にスミマセン! お料理 もって帰りたいんです! 」

とても流暢な日本語で言いだしたのだ。

「 は あ?? 」

 

 ― やがて。 二人は大きな折詰をいくつも用意してもらったのだった。

 

 

「 さ〜て と。 これを明日の朝、クール便でたのもう 」

ジョーは <お土産> を慎重に部屋の冷蔵庫に仕舞った。

「 そうね、忘れないようにしなくちゃ。 」

「 ウン。  さ ・・・ もう休もうよ 」

「 ええ ・・・ 」

「 で〜は♪ 」

「 え?  きゃ ・・・ 」

ジョーは 彼女をさっと抱き上げた。

「 あらら ・・・ 明日は 早いのでしょう?? 」

「 だって しんこんりょこう なんだよ?  ぼくの花嫁さん 」

「 ・・・ もう 〜〜〜 」

「 あは♪ あいしてるぅ〜〜〜 」

「 あ い し て る♪ 」

その夜は 並んで延べたふかふか〜〜お布団で二人は < しんこんりょこう > の

夜を満喫したのだった。

 

 

  ―  シュ。  ・・・・

 

早朝の空気が 揺れた。

町外れの崖の上、ちょっと古びた洋館の門の前に ― 忽然と人影が現れた。

それを見ていたのは 朝陽とスズメたちくらいかもしれない。

人影は赤い特殊な服を着て もう一人の赤い服の人物を腕に抱いていた。

 

「 ・・・ ん〜〜〜 と。 フラン 大丈夫かい? 」

「 え ・・・ ええ ・・・ はあ 〜〜 」

「 ごめん、途中で休みを入れればよかったかな 

「 ううん 平気よ ・・・ 久々の加速状態だったんでちょっと・・・

 でも もう大丈夫。 

「 それなら いいけど 」

「 はい。  ― メルシ、009。」

ぽん、 と 良人の腕から飛び降りてから、彼女は改めて彼に抱き付きキスをした。

 

 

 

昨夜は すぴか も すばる もなかなか眠れなかった。

いつもベッドに入るとすぐに く〜く〜 寝てしまうすぴかなのに ―

昨夜はなんだかちっとも眠くならなかった。

いつもごそごそやってるすばるは ず〜〜〜っと ごそごそやっていた。

電車の資料をいっぱいもらって楽しかったはずなのに。

 

   おやすみなさい の ちゅ。 してない 〜〜〜

 

   すばる ちゅ〜 って  ・・・ おかあさん ・・・

 

コドモ部屋の隣あったベッドで すぴかもすばるも何回も寝返りを打っていた。

 

 

  ちゅん ちゅんちゅん ・・・ スズメさんの声が聞こえた。

「 ・・・ ん〜〜〜  あれ?? 」

すぴか が目を開けたとき ― 隣にはお父さんの笑顔があった。

「 え??  お おとうさん?? 」

「 すぴか〜〜 おはよう〜〜〜 」

「 おはよう すぴか 

「 わ〜〜〜〜 おかあさん!?!? 」

むにゃむにゃ〜〜〜 ・・・ いつもはなかなか起きないすばるも起きあがった。

「 〜〜〜 すぴかぁ〜〜  なに 〜〜〜 」

「 うふふ  お は よ う すばる〜〜 」

ちゅ。  ほっぺにキスが飛んできた。

「 ?  ・・・ おかあ さん ?? 

くしゃ。 大きな手がすばるの髪を撫でてくれる。

「 ! おと〜さん ? 」

 

   す ぴ か   す ば る ・・・ おはよう。 そして ただいま。

 

二人の両側に お父さん と お母さん の笑顔があった。

 

「 !  ・・・ おか〜〜さん !!! 

「 わ〜〜〜 おと〜さん 〜〜 」

「「 おかえりなさ〜〜〜い  」」

すぴかもすばるも お父さんとお母さんに抱き付いた。

「 あれれ? 二人とも赤ちゃんみたいだなあ? 」

「 うふふ 本当ね。 」

「 おか〜さん しんこんりょこう は?? 」

「 ええ 楽しかったわよ  今度 皆で行きましょうね 」

「 おと〜さん はこね は? 」

「 おう 面白かったよ 次は一緒に行こうな。 」

 「「 うん !!  」」

 

   わぁ〜〜〜〜い ♪♪   

 

チビたちはまたまたお父さんとお母さんに齧り付いたのだった。

そうだよね、 皆一緒ならどこでだって ぽっかぽかの蜜月旅行 なのだ。

 

 

 

*******************************        Fin.       *****************************

Last updated : 03,14,2017.                back      /     index

 

 

**********   ひと言  **********

お決まりのラストですけど ・・・・

【島村さんち】 ですから〜〜 (#^^#)