『 エッセンス ― (2) ― 』
カツカツカツ コツコツ ・・・ タタタ
都会の朝は 忙しない足音で満ちている。
多くのヒトは 自分のほんの少し前を見ているだけだ。
足元の近くのほんの少しの緑や 頭上をゆく小鳥の声などに
まったく注意を払いはしない。
自分自身のことだけに 意識を集中している。
― そんな中 明らかに空気の色を違えている存在がいた。
「 ・・・ あれえ? 場所 わからなかったかしら ・・・
B2の出口で って言っといたんだけど ・・・ 」
金色のアタマが ふらふら四方を見回している。
「 都心にあんまり来ないのかな ・・・
あれ? でも 美大生よね、学校はこっちの方よねえ・・・?
連絡してみよっかな 」
バッグをさぐり スマホを出したところで ―
ぱさ。 目の前になにか紙が ・・・ いや スケッチが降りてきた。
「 !? な なに? ! わあ〜〜 これ 」
「 待ってる姿、描いちゃいました。 踊ってるみたいですね! 」
スケッチの向うから 笑顔が覗いた。
「 ユウジさん! え え〜〜〜 これって ・・・ 今? 」
「 うん。 ゴミ箱の向う側に居たら ・・・ 君が出てきて・・・
すぐに声、かけようかなって思ったけど ―
」
「 え ほんの2〜3分でしょ? それで これを?? 」
「 ざっとだけど。 バレエ団の方に 見せてください。
こんな作品を描くヤツですって 」
「 ええ ええ! すご〜〜い〜〜〜〜
ふふふ この <わたし> うろうろ きょろきょろ してるわ〜
わたしの方が誰かに見つけてもらうのを 待っているみたい 」
「 普通に歩いてても リズムがあるんですねえ 」
「 え?? そ そう?? う〜〜ん ・・・ 意識してないけどなあ
これ マダムに、 ― あ わたし達の指導者でバレエ団の芸術監督の方
なんですけど ・・・ 皆 そう呼んでて ・・・ ― 見せます。
きっと気に入るわ。 」
「 なんか ・・・ アクティブな方 ですねえ
あ アーティスト として パワフルなんですね 」
「 そ♪ わたし達の誰よりもパワフルです☆
わたし達は毎日 マダムにパワーをもらっているんですよ 」
「 ふうん ・・・ 是非お目にかかりたいです 」
「 ええ ええ 行きましょ。
もしかして ・・・ この辺り、 実は詳しい?
ユウジさんの美大って 都心でしょう? 」
「 あ いえ 学校はあそこの反対側だし ― そもそも
あんまし学校 行かなかったから 」
「 そう? この街はオシャレで人気あるから
スケッチするとこ、たくさんありますよ 」
「 僕は ― あの海辺の地域の方が 好きですが。
あの町は ・・・ 生きています 」
「 生きて ・・? 」
「 僕には そう感じられるのです。
― 都会の街は ・・・ 写真で十分 です 」
「 街は 生きている ・・・ か
あ こっちよ。 表通りからはかなり中に入っているから・・・
住宅街なのよ。 スタジオは半分以上地下だけど。 」
「 ・・・・ 」
ユウジは ポケットからサングラスを出した。
「 あら 眩しい? 」
「 いえ ・・・ ちょっと眼が ・・・ ええ 眩しくて 」
「 スタジオは自然光が主流だから 安心してね 」
「 ・・・ すいません 大丈夫です 」
「 よかった ・・・ こっちよ 」
キ ィ −−−−
フランソワーズは 凝ったデザインのアイアン・レースの門を開けた。
カタン。 事務所の人は スタジオの隅に椅子を用意してくれた。
「 あ すいません〜〜 」
ユウジはスケッチ・ブックを抱えて 神妙な顔で座った。
「 ― あのう ・・・ 」
「 はい? 」
「 僕 ジャマじゃないですか ・・・ 」
「 いいえぇ ウチはよく画学生さんを受け入れてますから ・・・
うふふ 貴方こそ蹴飛ばされないように。 」
「 え! は はい・・・ 」
彼はアタマを掻いて スケッチ・ブックを広げ 準備を始めた。
案の定、マダムは快諾してくれた。
「 まあまあ ・・・ 大歓迎よ〜〜〜
アーティストの卵を育てるのは 私達の務めよ? 」
ユウジを紹介すると マダムは大喜びだった。
「 ・・・ あ あのう 僕のスケッチ・ブック ・・・
ご覧になっていただけますか 」
ユウジは ぺこり、とお辞儀をするとスケッチ・ブックを
差し出した。
「 まあ みせてみせて〜〜 」
ぱらり ぱらり ・・・ マダムはスケッチ・ブックをめくってゆく。
「 ・・・ 空がきれいねえ ・・・ あら? これ 全部モノクロよね?
でも ・・・ 不思議だわ ねえ 私、色が見える ・・・ すてき!
まあ これ フランソワーズね? 」
「 えっと ・・・ は はい 」
「 うふふ カワイイ♪ 彼女のこの表情 すきよ〜〜
あ 海! いいわねえ〜〜〜 潮騒が聞こえてきそうよ
あら これは松林? ・・・ 風景が多いのね
その方面を専門にしたいのかしら 」
「 ホントは ニンゲンが、 動くヒト を描きたかったのですが ・・・
あんましチャンスがなくて。
それで そのう・・・ クロッキー の練習をしたいのです 」
「 うん うん いいわね!
ええ どうぞ。 ウチのダンサー達を思う存分 描いて?
あ ウチはねえ 顔を描かないでくれっていうコはいないから。
しっかり描いてくださっていいわ 」
「 ありがとうございます! ジャマにならないようにしますから 」
「 ああら 遠慮しないで? 皆ねえ 張り切っちゃうわよう 」
「 え ・・・ ジャマじゃないですか 集中できない とか・・・」
「 あのね ダンサーってね。 それを目指すコはみ〜〜んな
< 見てほしい > って気持ちのカタマリなの! 」
「 は ・・・ へえ ・・・? 」
「 しっかり見て 描いて。 私も楽しみだわ 」
「 ・・・は はい ありがとうございます。 」
「 うふふ・・・ フランソワーズ〜〜〜 貴女も頑張らないとね〜
いつも一番後ろの隅っこに居たら だめよ? 」
「 はあい ・・・ 」
「 じゃ ご自由にね。 今 皆 ストレッチとかしています
どうぞスタジオの中を見学してね 」
「 ありがとうございます! 」
ユウジは 頬を紅潮させ目を輝かせていた。
「 ― 彼は 沢山のエッセンスを貰っているわ。 」
マダムは ユウジの後ろ姿をに独り言みたいに語りかけた。
「 え?? はい? ・・ エッセンス ? 」
「 そうよ。 あのね、才能は 神様から頂いたエッセンス。
その量が 多いか少ないか は 本当に神様のさじ加減。 」
「 は あ 絵を描く才能ってそうなんですか 」
「 あら 絵に限らないわ。
そうね ・・・ 芸術すべてに言えることだわ。
絵画 彫刻 そう 音楽 ・・・ 踊りも ね 」
「 ・・・ 踊りも ですか 」
「 そうよ。 もちろん練習とか努力は必要よ
でもね 全てを左右するのは そのエッセンスの量なの。 」
「 ・・・ エッセンス・・・ わたし ない かも 」
「 え? 」
マダムは フランソワーズのちょっと困り顔を見て 声を上げて笑った。
「 さあ どうかしら? ふふふ ここにいるコ達はね
あなたもね 皆 神様からの一滴 を頂いているわ。
・・・ その量は さあ〜〜 誰にもわからない。
一生かけて知るのかも しれないわねえ 」
「 一生、ですか ・・・ 」
「 多分 ね。
あのね。 止めてしまうのは簡単よ、一秒でできるわ。
でも 止めたら それまでの膨大な努力を全て捨ててしまうことになるの。 」
「 ・・・ ! 」
「 わかる? ・・・ わかるわよねえ ・・・
捨てられないから また戻ってきたのでしょう? 貴女。 」
「 は はい! 」
「 さ クラス 頑張りましょ 」
「 はい! 」
ぺこり、と会釈をすると フランソワーズはスタジオに駆けて行った。
そう よ! そうなの。
わたし ・・・ 勇気がなかったの
今まで積み上げてきた 踊り を
捨ててしまう 忘れてしまう勇気が なかった
出来なかったのよ!
だから また帰ってきたんだわ
どんなに辛くても また 踊りたいの!
タカタカタカ −−− 足音が軽く明るく響いていた。
「 ・・・・・ 」
スタジオの隅で ユウジはじ・・・っとクラスを見つめていた。
バー・レッスンの間は スケッチ・ブックを広げてはいたが
画鉛筆を持つ手は 動いていない。
彼は 一人ひとりのダンサーたちの動きを観察してる風に見えた。
「 ・・・ 」
そんな彼に マダムは時折、ちらりと笑顔を向けていた。
センター・ワークになってから 彼の手は猛然と動き始めた。
顔は 視線は ひた・・・と ダンサー達に向けられている。
そして 手、いや 彼の画鉛筆は生き物のように
それ自体が意志をもっているがごとく 紙の上を動き続けるのだった。
ササササ カサカサ シャシャシャ ・・・
画用紙の上を 自由自在な線が < 踊って > ゆく。
「 ・・・? 」
順番待ちの時 ちら・・・と覗いたダンサーは
彼が顔を上げたまま 視線を紙に落とさず 描いてゆく姿に
目を見張った。
す ・・・っご ・・・!
フランソワーズも この ちらり組 だったが
やはり息を呑んだ。
・・・ 同じ だわ!
初めて会ったとき と。
向日葵とわたしを するする描いた時と!
彼の目は ・・・ 手にも付いているの???
朝のクラス・レッスンは いつもと同じ、全員が汗をとばして
回って跳んで ― 終了した。
「 ・・・ ん〜 はい じゃあ ここまでね〜〜
また 明日。 お疲れ〜〜〜 」
マダムとピアニストさんに 全員がレヴェランスを交わし
拍手で終わった。
「 ね〜〜〜 見てもいいですか〜〜〜 」
まず 元気なみちよサンが ユウジの元に駆けていった。
「 ・・・ え? あ は はい ・・・
でも 全然 そのう〜〜〜 走り描き ・・・ 」
「 いいの いいの すっごいスピードで描いていたもんね・・
あ うわああ〜〜〜 < 皆 > がいるゥ〜〜 」
「 え なになに? 」
みちよサンの可憐な声に ダンサー達はわらわらと寄ってきた。
「 あの ざっとスケッチできただけ なんですけど・・・ 」
ユウジは スケッチ・ブックを大きく広げ ぱらぱら めくり始めた。
「 ・・・ へえ〜〜〜 すっげ〜〜 」
「 うひゃあ ウマいもんだねえ ! 」
「 あ ・・・ これ ミカ先輩でしょ?
このアームスのかんじ そっくり〜〜〜 」
「 ふうん? あ シンジじゃね? お〜い シンジ〜〜 」
「 ? なんっすかあ〜 」
「 ほら これ! お前だよぉ 描いてくれてるよ
お前さあ ちょ・・っと首、傾げて飛ぶもんなあ 」
「 え わ! これ・・ オレだあ〜〜 」
まだ若いシンジ君 は ぴょんぴょん跳んでいる。
「 ― ねえ ・・・ 色 ついてない よねえ?
あたし なんか皆の稽古着の色が見える ・・・よ〜な 」
みちよサンは 目を細めてたり遠くにしたりデッサン画に見入っている。
「 あ そう思う? 私もね なんか色、塗ってあるのかなあ・・・って
思ってみてたわ 」
「 ね でしょ?? リエさ〜ん 」
「 すごい〜〜 あ これ フランソワ―ズでしょ?
この髪 ・・・・ 私には金色に見えるもの 」
「 あ〜〜〜 ねえねえ これ、マダム! そっくり〜〜〜 」
「 うんうん ご〜〜ばん! ( 五番 )って聞こえてくる〜〜 」
「「 いえてるぅ〜〜〜〜 」」
これには皆が同意し ど・・・っと笑いが盛り上がる。
「 ・・・ ねえ 写真よか そっくり! 変な言い方だけど 」
「 うんうん ・・・ すげ〜な〜〜 」
「 ね! すっごいよねえ〜 」
ダンサー達は ユウジのスケッチを見て 口々に感想を述べ笑いあう。
「 あ は ・・・ そ そですか・・・ 」
描き手は 照れて俯いてしまった。
「 あ これ ・・・ もしかして 俺? 」
ベテランらしく 手拭をカタチよくアタマに巻いている男性が
デッサンを指した。
「 あ そうです! あの あのう ・・・ この後の動きがわからなくて・・・
すいません もう一回 やって頂けますか 」
「 この後? ・・・ ああ アレグロのアレかあ
おう いいぜ よ〜〜く 見ててくれよぉ〜〜 」
「 はいっ! 」
ユウジはスケッチ・ブックを抱え その男性を見据えた。
「 もっと近くにくれば? 大丈夫、 俺 ぶっとんだりしない。 」
「 いえ あの・・・ 少し離れた方が いいんです。
すいません〜〜 どうぞ お願いします 」
「 オッケ〜〜 最初っからやるよっ 」
「 ・・・ 」
タンっ ! シュ ・・・ パパンッ !!
ダンサーが 宙に跳び巧みなテクニックを披露する姿を
ユウジは 食い入るがごとく見つめていた ― その間も
彼の手は それこそ 跳ぶがごとく 紙面を動いていた。
「 ・・・ ! ・・・っと これでいいかな ? 」
「 はい!!!! ああ そうなんだ〜〜
すごい すごいなあ〜〜〜 あ ありがとうございました! 」
「 いやあ ・・・ 一回でわかったかい 」
「 はい! でも どうしてあんな風に動けるんですか
・・・ すご ・・・ 」
「 ・・・ え これ ・・・ 今 描いた? 」
男性ダンサーは ちら・・・っとスケッチを覗きこみ
今度は 彼が目を丸くしている。
「 はい ・・・ あ 違ってますか 脚の位置 ・・ 」
「 いや ばっちり さ。 ・・・ 一回見ただけ だろ?
すごいなあ〜〜〜 君 」
「 ? そうですか? あ ほら 二回目だし
僕は動いてるわけじゃないですし・・・ 普通です 」
「 でもさ でもさ。 全然 手元 見てなかったね??? 」
みちよサンが すぐに声を上げた。
少し下がって見ていた他のダンサー達も また近寄てきた。
「 え ・・・? 」
「 じ〜〜〜っと タカシ先輩の方みてて・・・
スケッチ・ブック 全然見てなかった・・・ のに!
なんで描けるのぉ〜〜 」
「 君達だって ・・・ 踊る時 いちいち足をみてないよ?
あれは ・・・ 順番? 先生が言ってること・・・ 」
「 そうよ、 パ・・・え〜と ステップの繋がりとか順番 」
「 だよね? それ 聞いて ・・・ ふんふ〜〜ん♪ って
ピアノの音にのって 踊り始めてた・・・ すごいよ〜〜〜〜 ! 」
「 ??? そ そう・・・? 」
違うジャンルに住むモノには 他の世界が < 信じられない > 風に
見える ― のかもしれない。
パラリ ・・・ スケッチ・ブックは事務室でも大人気。
「 わあ すご〜〜 これ ミカさんでしょう? 」
「 ね こっちはヒロシさんだわ〜〜 」
「 ・・・ 鉛筆の線なのに 皆が踊ってるわ 」
「 ね! 」
事務の人達の やはり歓声が待っていた。
「 好きなだけ 通ってきて? いい作品を仕上げてね 」
挨拶にいったら マダムはもう満面の笑みだった。
「 え あ ・・・ はい !
あのう・・ ジャマではないですか 」
「 ぜぇんぜん♪ ふふふ・・・ 皆も張り切ってくれるから
ウェルカム〜〜 よ♪ 私も ね♪ 」
「 あ ・・・ そ そですか 」
「 その代わり スケッチ、一枚・・・ 頂ける? 」
「 もちろん! お好きなのを お好きなだけ どうぞ! 」
「 あら 一枚でいいよの。 私の部屋に飾りたいの 」
「 うわ ・・・ 光栄です!
どうぞ お好きなの、選んでください 」
「 メルシ♪ あなたが 完成した、と思ったら選ばせて 」
パチン♪ 彼女はに・・・っと笑いウィンクをした。
「 はい! ・・・ うひゃ ・・・! 」
ユウジは ドキドキ・・・胸がつまり、頬が紅潮するのを
止めることができなかった。
うわ ・・・ な なんか・・・
― 色っぽい って 本当はこういうの か??
・・・すごい ヒト だあ
「 そ それじゃ また明日 お邪魔させてください 」
ぺこり、とお辞儀をし ユウジはスケッチ・ブックを抱えて
帰って行った。
・・・ 帽子の下で頬を赤らめ少しふらふら 歩いてゆく。
「 あ いたいた〜〜〜 ユウジ〜〜〜 」
大きなバッグを抱えて フランソワーズが追いついてきた。
「 ユウジ! 駅まで一緒しましょ? 」
「 ・・・ 」
返事が ない。 どころか 彼の視線は ほわ〜〜ん と
宙に浮いている。
「 ・・・ ユウジ? ねえ 聞いてる? 」
「 ・・・ あ ・・・ ども・・・・
あ また 明日 ・・・ 」
彼は 中空を見つめたまま ふうらふらふら ― 行ってしまった。
「 あ ・・・ ん ・・・ どうしたのかなあ・・・
なんか 顔、赤かったけど ・・・ 具合 悪いのかしら 」
金髪娘は 首を捻りつつ ユウジの後ろ姿を見送っていた。
― ユウジは 三日間、バレエ団に通いスケッチをしまくった。
彼は ほとんど口をきくこともなく 描いて 描いて 描いて・・・
描きまくっていた。
「 それでね〜〜〜 もうすごかったの 」
その日の夜、食卓でフランソワーズは 珍しいほど興奮していた。
「 ほう? ・・・ あの彼は 風景とか静物が得意か
と思っていたがなあ 」
「 ええ・・・ あの向日葵とか 空と海とか 素敵ですよねえ
でもね でも 博士! もう ねえ こう〜〜〜
紙の上 スケッチ・ブックの中で 皆が踊ってるんですよ〜〜 」
「 ほう・・? 見てみたいものだな 」
「 あ これ! 一枚もらったんですけど 」
「 どれどれ ・・・ おお これはレッスン風景だな 」
「 はい。 ずっとスタジオの隅で こう〜〜ささささっと
デッサンしてたんです。 」
「 ほう ・・・ これは うん、この描き手は才能に溢れているなあ 」
「 ね!? ねえ ジョー ほら 見て 」
「 うん? 」
食べることに熱中していたジョーは やっと視線を向けた。
「 ねえ ねえ ほら。 これ 見て 」
「 ・・・・ 」
目の前に置かれたのは レッスン中のダンサー達のデッサン。
手間の隅っこにフランソワーズの横顔が 描かれている。
「 スタジオの熱気が流れてくるわ〜
これはね センターでのアダージオで 先輩たちのグループが
踊っているとこなの。 ああ 靴音が聞こえるわ 」
「 ふ うん・・・ 」
ジョーは なぜか感想も言わず ちょっとばかり不機嫌な感じだ。
「 あら こういうの、好きじゃない? 」
「 ― いや そんなことはないけど。
・・・ ぼく 芸術関係は よくわかんないから さ 」
「 う〜〜ん でもね すごく熱意を感じない? 」
「 ああ ・・・ そうだね 」
彼は 素っ気なく答えるとまた食事に戻ってしまった。
「 う〜ん ・・・ ねえ 博士〜〜 」
フランソワーズも さすがに少し気分を害したのだろう、
博士の方に向き直ってしまった。
「 ・・・ 」
ジョーは もう一度だけちら・・・っとそのデッサンを見た。
これ さ。
― 惚れてる視線 だよなあ
女にはわかんないだろうけど
これ 完全に オトコ目線 じゃんか
好きなコを描きました って
でっかく書いてあるようなもんだよ
フラン〜〜〜 きみこそ ニブすぎるぜ!
カチン カタン − ジョーは食卓に並ぶ料理を
つぎつぎに平らげていった。
ワンワンワン 〜〜〜〜〜
松林を 柴犬と茶髪の青年が駆け抜けてゆく。
「 あはは あっちまで一緒に走るかい〜〜〜 」
ワン!!!! あはははは〜〜〜〜〜
ジョーはしばらく前からペット・ショップでアルバイトをしている。
どうも それは彼の 天職 らしく ― < お客さん >達に
モテモテである。
「 店長〜〜 それじゃ ちび君 の散歩、行ってきます〜〜 」
「 おう 頼む 」
長いリードをつけた柴犬をつれて店を出た。
ほぼ毎日 < 散歩のオーダー > が入っていて
ジョーは お客さん と共にあちこち出歩いている。
大きな松の根方で ジョーは腰を下ろした。
「 ふう ・・ こっち側まで来たのは 初めてかなあ
あ ・・・ ウチのとこの岬が見える 」
くうん〜〜〜 ワンコが鼻づらを押し付けてくる。
「 ああ 水 飲むかい? どうぞ〜
あ わんこ・クッキー もあるよ 」
わん♪ ばくばくばく・・・
「 ・・・ あ。 アイツの実家って この辺なのかなあ
ウチと反対側って この辺のことだよな・・・ 」
ふと ― ジョーは視線を海から林の奥に転じた。
「 ここまでくるのに 民家なんかあったか・・・? 」
散歩からの帰り道 なとな〜〜く辺りを見回しつつ
戻ってきた。
「 只今もどりましたァ ちび君 ブラッシングしますね 」
「 お ご苦労さん 」
ペット・ショップの店長は機嫌がいい。
「 島村クンのお蔭で 商売繁盛〜〜 っていうか
≪ お散歩サービス ≫ の予約 満杯だよ〜 」
「 あ は ・・・ 」
「 大変だろうけど ・・・ 君にしか懐かないコもいるからさ
よろしく頼むな〜〜 」
「 はい あ 店長? の松林の辺って 」
「 うん? あ〜 あの辺は 今は誰も住んでないなあ
やっぱ不便すぎるんだろ 」
「 あ そうですよねえ 」
「 昔は漁師さんとか住んでいたらしいけどねえ ・・・
最近は 空き家も取り壊したって聞いたよ 」
「 そうですかあ ・・・ 」
わんわんわん〜〜〜〜〜 柴犬君が催促をしている。
「 あ 今 行くよ〜〜 」
・・・ じゃあ アイツの実家って。
今は ないのか???
なんで ウチの方の崖まで登ってきたんだ?
ワン君と戯れつつ ― ジョーは一抹の不安を感じていた。
Last updated : 07,06,2021.
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********* 途中ですが
これは かなり実体験です〜〜
企画相方様は 絵描きさん で 本当に 手に目が付いてる のです!
視線は景色を見て でも手はするするスケッチしてゆくの!
えっと 原作あのお話 とは ちがう話であります〜〜