『  伝説  ― (8) ―  』

 

 

 

 

これは 遠いとおい昔の そして 遠いとおい外国 (とつくに)

でのお話です。

 

      いつの頃のことか・・・って? 

      どこの国のことか・・・って?  

 

      さあ ・・・・

    

      ― 貴方のお好みのままに・・・

 

 

 

**********  いよいよ北の帝国へ!

 

 

 

     カツ カツ カツ   コポ コポ コポ ・・・

 

二騎は ゆったりとその地にやってきた。

大袈裟な塀だの囲いは ない。  警備の兵士が立っていることも ない。

大きな掘りもなく 川もなく ― 一本の立て札がぽつん、とあるだけ。

 

    国境。 これより先は 北方帝国。   独逸帝国 皇帝

 

 

「 ・・・ あ〜  ここまで来ましたね 」

茶色の駒の上から 青年が声をあげた。

「 そうね  あ  ほら。 あの先を見て。 峰が白いわ! 」

白馬の騎士は 金色の髪をゆらし 前方を指さした。

「 ― うわああ・・・ 雪 ですか 」

「 そうね。  帝都は一年の半分以上 雪と氷の中、って聞いたわ。 」

「 ぶるるるる ・・・・ ちゃんと着込まないとダメですね 

「 ええ  ねえ ヒルダ妃様から頂いた帷子は すごく温かいわね 」

「 はい! 軽いのにとても温かいです 

「 帰国したらね 仏蘭西でもイラクサを栽培してみようと思うの。 

 北の地域に住んでいる人々にも 試してもらいたいわ 」

「 ・・・ すごいなあ やっぱり 姫様 なんですね 」

「 え? どういうこと 」

「 あの さ・・・ いつも自分の国のこと、アタマにあるもの。 」

「 そう・・・かも・・・。 いずれはジャン兄様が治められる国ですもの

 出来る限り チカラを合わせたいわ 

「 ― なんか ぼく ・・ 尊敬します! 」

「 え  あら。  ・・・ < 尊敬 > だけ ・・・? 

「 ・・・え  あ!  ・・・  あのぅ ・・・ 」

「 ・・・ 」

二人は 馬上で見つめあい ― 想いが募りかえって指さえ動かない。

 

 

     タタタタ   タタタタ ーーー

 

駆け足の音が 二人を追ってきた。

「 おう〜〜い ・・・ そこの御方〜〜〜〜 もうし〜〜 

 

 「 あら? だれか呼んでる? 」

「 そのようですねえ ・・・ なんだろ 」

ジョーは 馬首を巡らすとゆっくり近寄った。

「 ・・・ あのう ぼく達になにか ・・・? 」

 

「 あ! やっぱり・・・!  茶髪と金髪の騎士様方がゆくって・・・

 お前様方 隣の国から来なすった方々ですかい 

がっちりした中年オトコが 息を切らせて駆けてきた。

「 そうです。 仏蘭西王国から ― こちらの帝都に

 お邪魔してきました 

「 ああ ああ  それじゃ ・・・ そちらの金髪さんは

 仏蘭西の姫さまかね 

「  ・・・ 」

フランソワーズは 警戒しつつもゆっくりと馬首を巡らせた。

「 仏蘭西王国 第一王女 です。 ― そなたは 

中年オトコは 彼女の馬の鞍を見てさ・・・っと片膝をついた。

鞍には 王家の紋章が彫りつけてある。

「 これは ― 失礼いたしやした ・・・ 王女殿下。

 アッシは 一応この国境を管理するモンです。

 え〜〜〜 皇帝陛下からのお預かりモノがありますです 」

「 え?? 皇帝陛下から?? 」

「 へい。  < 伝説の騎士 > 様方が行くから 差し上げてよ と 

「 まあ なにかしら 

「 お待ちになって頂けますか  今 運んで参りやす 」

オトコは さっと立ち上がると来た道を引き返す。

「 ?? なにかしら ・・・ 」

「 う〜ん ・・・ あ あんなトコの小屋があったんだ? 」 

「 え?  あら 本当・・・ 

二人が じっと見つめていると ― 小屋からは小さな荷車が出てきた。

 

   ガラゴロ ガラゴロ ガラゴロ −−−

 

「 ・・・ なにか 積んでる ・・ 」

「 そんなに大きなモノじゃないですよ? 

「 ええ ・・・ 武器とかじゃないわね 」

「 ですね ・・・ 一体なんだろう? 」

「 あ あの旗! 皇帝の旗よ 」

「 ! やはり アルベルト帝からの ・・・ 」

「 そうです、その印ですもの。 信用して大丈夫だわ。 」

 

「 おうい おうい ・・・ お待たせしました〜〜〜 」

 

先ほどの中年オトコは ロバに引かせた荷車を、彼自身も押してきた。

「 姫様 騎士殿 〜〜 どうぞ これをお収めください。

 皇帝陛下から しかとお渡しするように、との御下命で 

 

   ガラガラガラ −−−   荷車の荷台には大きな包が見えた。

 

「 まあ ロバさん、ご苦労様・・・ ありがとうね 」

「 重くはなかったかい? 」

ジョーはロバのたてがみを こそっと撫でてやった。

「 姫様 騎士殿。 荷を・・・ 」

「 ありがとう、 開けて見るわね 」

「 ぼくがやります。  ・・・あれ これ・・・ 」

運ばれてきた荷物の中には  毛皮の防寒具一式が入っていた。

「 あらあ〜〜 すてき! 」

「 うわあ ふっかふかで・・・暖かいですねえ 〜〜

 帽子に上着に ・・・ ああ これは雪用の靴だ 

 ・・・あれ  これ ・・・なんだろ?  」

荷物の底からは 小型のマント用の毛皮と小さな靴が四足でてきた。

「 え 見せて?   ・・・ あらあ〜〜〜

 これって ほら クビクロ用の毛皮よ! 」

「 えええ? 」 

「 ねえ ねえ 着て見ましょうよ  クビクロもいらっしゃい 

「 うわん! 」

二人と一匹は 馬から降り、皇帝からの贈り物を身につけた。

 

「 ふ うん〜〜 温かいわあ ・・・ 」

「 いいですねえ〜〜  」

「 ふふふ  ジョー お似合いよ?  あらあ〜〜〜 クビクロ〜〜

 すごく素敵よ 」

「  くうん・・・ うわん ! 」

「 ほらほら 靴も履いてみろよ? 雪の上でお前の肉球を護ってくれる 」

「 ふふふ  いいわ いいわねえ 

 これで 安心して北方帝国に向かえるわ

 

「 姫様方 ・・・ 皆さまお似合いですだ 」

側で控えていたオトコが 遠慮がちに声をかけた。

「 まあ ありがとう。  ご苦労様でしたね。 ロバさんにも

 美味しいオヤツを上げてね 」

フランソワーズは 金貨を数枚、絹ハンカチに包み オトコに与えた。

「 〜〜〜 ありがとうごぜえやす 姫様〜〜〜

 あ 国境はここであります。 北の国にいらっしゃるとか・・・

 どうぞ ― ご息災でのお帰りを・・・

 お待ち申し上げておりますです。 」

「 ありがとう。  皇帝陛下に御礼を。

 そして 討伐隊は無事に北方帝国に向かいました、と伝えてね 」

「 へい〜〜 」

「 国境を護るお務め ・・・ しっかり頼むね 」

「 へい〜〜 」

 

  出発〜〜 !  二騎は轡を並べゆっくりと進む。

 

馬たちの背も 軽くて暖かい毛織物の布で被われている。

「 姫様 」

「 ― フランソワーズ。 」

「 あ 失礼しました  ふらんそわ〜ず ? 」

「 はい なあに。 」

「 北方帝国の首都まで ― かなりありますね 」

「 そうね。  でもわたし達は表向きは イワン帝への表敬訪問って

 いうことだから ― 多分 その前にヤツらの妨害があるでしょうね 」

「 ふうむ・・・? 」

「 この辺りはまだまだ独逸帝国との国境地域だから

 アルベルト陛下のご威光が強いのね 」

「 ですね ・・・ 最良の道筋は ・・・ う〜〜ん そうだなあ・・・・ 」

ジョーはしばらく考えていたが ぽん、と手を打った。

「 うん、そうだ。  しばらく行くと大河があります。

 船を利用して 首都まで行きましょうか 

「 水路で、ということ? 」

「 そうです。 その方が速いし馬たちの疲労も断然少ないです。」

「 なるほど ・・・ 水路のことは一応調べただけなの。

 首都まで使える船があるかしら。 」

「 聞いてみましょう。  大きな河ですし商用の船があるはず ・・・

 北方帝国の首都は 大きな都市ですよね 」

「 ええ  ぺテルスブルグ は とても美しい都なのですって。

 お父様は まだ王位を継がれる前のお若い頃、

 訪ねたことがおありだそうよ 」

「 へえ・・・ 国王陛下が??? 

 あ ・・・ じゃあ イワン雷帝とは 

「 ずいぶん昔のことですもの。 お目にかかった というか・・・

 イワン帝がまだ赤ちゃんの頃 とおっしゃっていたわ。 」

 「 ― イワン雷帝は ・・・ 永遠の赤子 だって聞いたことが 

 あるのですが・・・ 」

「 そう わたしもよ。  でも真相は誰も知らない・・・ 」

「 そうですか ・・・ あ ほら・・・ 向うに川面が見えます。

 船を借りましょう 」

「 そうしてください。  ― 頼もしいわね 」

「 え? いやあ〜  あ 先に行きます。 」

「 はい。 荷物、わたしが持ちますから。 」

「 ありがとう! 

姫君に荷を預けると ジョーは愛馬を駆って川岸を目指した。

 

 

 

   ザザザザ −−−−  

 

大きな河には 波みたいな揺れがある。

川岸も広く、対岸は遥か彼方に見え 海と見紛うばかりだ。

 

   ザザ〜〜〜〜  ザ ・・・・

 

この河は流通の大動脈にもなっているらしく 大小いろいろな船が

ゆっくり または かなりの速さで行き来している。

 

 

「 ふ〜〜〜〜   船って速いのねえ 」

ふらんそわーズは 船べりで揺れる水面を眺めている。

愛馬も荷物も無事に積みこめた。

船頭は何回も首都まで船を進めたことがある、自信あるよ、と

笑って請け負ってくれた。

船は満帆に張った帆に風を受け するすると進む。

「 さあ 姫さ ・・・ いえ ふ フランソワーズ。

 油断はできませんが しばし休息なさってください。 」

ジョーは 馬たちの世話をしつつ笑っている。

「 ありがとう ・・・ なんだかとてもいい気持ちね 」

 

波止場を離れると  ―  ますます船足は速まった。

不思議なほどの速さで 船は進むのだ。

 

「 ・・・ ??  あ ら ・・・  ? 」

 

    水の真珠をお持ちの方 〜〜〜

    私たちが お運びしますわ

 

川面がうねる合い間に  緑の長い髪が 銀の鱗が見え隠れしている。

フランソワーズは船べりでじっと目を凝らし 耳を澄ます。

「 あれは  ・・・ たしかに水の精 ・・・? 

 あ 見えたわ  ・・・ え まあ 四人?? 

銀の尾をうねらせ 長い髪を波に遊ばせ 水の妖精たちは

 船の周りに集まりするすると運んでゆく。

 

 

    ジョー ・・・

    大きくなって ・・・

 

    私達のヘレンお姉さんの愛でし子

 

    安心してね 私達が護るわ

 

    ジョー・・・ ジョー ・・・

    私達の可愛い甥っ子

 

 

パシャン!  なにか大きな魚の尾鰭が光る。

その水音に ジョーも惹かれて船端にやってきた。

「 ・・・? な なんだろう ? 」

「 なにかが ・・・ この船を運んでいるの。

 ねえ ジョーにも聞こえたでしょう? 」

「 フランソワーズ。 ちらっとだけ聞いたのですが

 ・・・ 水の真珠ってなんですか 」

「 あ  ああ  これのことね たぶん 」

姫君は 我が耳から大きなピアスを手にとった。

「 阿弗利加帝国の ピュンマ帝から頂いたの。 

 これを口に含めば 水の中でも苦しくないのですって 」

「 すごい ・・・ 」

「 でも ね  今は必要ないみたい 」

「 え? 」

「 ほら 耳を澄ませて?   水の精たちの言葉・・・ ほら ・・・ 」

フランソワーズは ジョーを船べりに誘った。

「 水の精たちが 皆でこの船を運んでくれているわ 

 ようく聞いて ・・・ 彼女たちの歌を 言葉を ・・・・ 

 ほら ・・・あなたのお母様の妹たちらしいわよ  」

ジョーは 慌てて身を乗り出し、水飛沫が飛んでくる場所で

 じ・・・っと耳を傾けている。

「 水の精 ですか  ・・・・  あ そういえば・・・

 母には兄弟姉妹がいるけれど 妹たちは水を護っている、って

 きいたことがあります。 姉妹たちは北の河にいるんだって。 」

「 やはり ね。 皆さん ジョーに会えて喜んでいるのよ 」

「 うわあ ・・・ ああ だからかなあ ・・・

 ぼくはどうしても 河が呼んでいるみたな気がしていたのです。 」

彼は ぐん・・と身をのりだした。

 

   おうい ・・・

   ビーナ ダイナ アフロ ダフネ〜〜〜

 

   聞いてるよ  ヘレン母さんから。

   妹たちは 河を護っているってね 

 

   初めまして〜〜 ジョーです〜〜

 

ジョーは 船べりから川面にむかって呼びかける。

その様子を 年季の入った船頭は微笑んで見ていた。

フランソワーズはそっと訊ねた。

「 あの・・・ この河には いつも水の精が現れるのですか? 」

「 ああ?  うんにゃ。  言い伝えはあるがねえ。 」

「 船頭さんは 見たことがあるのですか 

「 はっきりとはね〜がなあ  時にこんな風に船が滑るみたいに

 進むさ。  そんな時に ふと水の中をみると・・・ なあ。 

 なにせ 河を護ってくれる女神さま達だかんな〜〜〜 」

「 そうなんですか ・・・ ええ この河には水の精霊が ― 」 

「 あ〜 確かにねえ ・・・

 この旅は 祝福されたねえ〜〜〜 うん うん・・・

 お客さんらのおかげさあ・・・ この旅は無事に終わるよ 」

彼は ぼそ・・・っと呟きじっと川面を眺めているのだった。

 

船は順当に河を下り やがて 北方帝国の帝都へと近づいて行くのだった。

 

 

   ガヤガヤ  ザザザ〜〜〜  ゴウン ゴウン ・・・

 

河口の近くに大きな港があり 多くの人々が行き交う。

 ザザザーーー ザ ・・・      ガッコン。

船はゆっくりと速度を落として行き港に入り ― 長旅を終えた。

 

「 到着しました。  お客さん方 ・・・ 」

船頭は 船の完全停止を確認すると 乗客に呼びかけた。

「 ― ありがとう。 とても素敵な船路でした。 」

フランソワーズは 皆の前で礼を述べた。

「 素晴らしい腕前ですね。 安心して乗っていられました。 」

「 ― 道中 ご無事で。  ・・・ 姫様 そして 騎士殿  」

「 ! 知っていたの? 」

「 へえ・・・ 独逸皇帝陛下からお達しがありましたし

 お目にかかってすぐにわかりました。

 ・・・ よいナイトをお連れですね 」

船頭は ちら・・・っと馬を引き居ているジョーを眺めた。

「 はい。 わたしは幸運です。 」

 「 ―  ご無事で! 」

 

朴訥とした、しかし 温かい声に送られ 彼らは船を降りた。

「 姫さ・・・いえ フランソワーズ。 足元に気をつけて 」

「 ええ。 馬さん達は大丈夫? 

「 はい。 元気いっぱいです。 」

「 わん! 」

「 あはは ごめんな〜  クビクロも元気ですよ 」

「 よかったわ。  では 行きましょう。 」

「 はい。 」

 

   船を降りれば ―  そこは すでに秋は終わりに近くなっていた。

 

      ヒュウウ −−−−−−−

 

見渡せば 灰色の雲がびっしりと空を覆い始めていた。

帝都までは近いはずなのに 先を見通すこともできない。

幅広い街道でも 端には白いものが凍てついて残っている。

 

「 ぶるるる・・・ 冷えます、防寒具を 

「 はい。 雪は まだ来ていないのね 」

「 いえ 根雪はまですが もう何回か降っています。 」

ジョーは道端やら 街道から入る路地を指した。

「 まあ ・・・ そうなのね? この風の冷たさは

 雪の知らせを含んでいるからなのね 」

「 そうですね。 ゆっくり進みましょう。

 この辺りはずっとヒトやら馬車が多いから いきなり

 魔物が・・・ってことはないだろうけど 」

「 ええ  あ その前に ・・・ はい。 」

フランソワーズは 荷物からビーフ・ジャーキーを取りだし

ジョーに渡した。 

「 クビクロにも 分けてあげてね 」

「 わあ ありがとうございます〜〜  」

「 うわん♪ 」

「 ふふふ 元気ねえ   あ 馬さん達〜〜 リンゴがまだあるわ 

 これと・・・ 黒砂糖の塊りをあげるわね 」

「 姫さ ・・ い いや フランソワーズ も

 ちゃんと召しあがってクダサイ 」

「 はい♪  ・・・ 美味しいわあ 」

「 んん〜〜〜  くうん〜〜 」

「 賛成 だそうですよ?  あ 水を補給してきます 」

ジョーは馬を預け 港を出る前に道端にあった公共の井戸を使った。

 

   パカパカ パカパカ   カッ カッ カッ 

 

二騎は 行き交う人々やら馬車の流れに紛れ 

幹線道路を通り ゆっくりと帝都に近づいて行った。

 

「 ・・・ やはり ヒトが多いわね 馬車も・・・ 」

「 そうですね。 北方帝国、露西亜は 広い広い領土を有していますから 」

「 それもあるけれど ・・・ 帝都はさぞかし賑やかなのでしょうね 」

「 と、聞いていますが。  なにせ一年の半分以上は雪と氷に閉ざされて

 冬季には人々は 家に籠っているというウワサです。 

 それでも 商業は活気があるって不思議です 」

「 ― でも 道路はきちんと整備してあるし ・・・・

 とても発展して豊かな国に見えるわ。  なにが基盤なのでしょう

 お父様は お若い頃、夏の季節にご訪問なさったのですって。

 人々は自然とうまく付き合って暮らしていたって 」

「 そうなんですか・・・  冬季はまた別なのかなあ・・・

 ほら 道路の端には水が流れ 凍結を防いでいます 」

「 ほんとう・・・ すごい設備ね! 費用も・・・

 この国は なぜそんなに豊かなのかしら 」

「 う〜〜ん ・・・ 農地は冬は 休み ですよねえ?

 港が近ければ 他の国との交易とか漁港そして とか考えられますが 」

「 今 降りた河口が一番近い港のはずよ。

 他国の船の姿は ・・・ ほとんど見られなかったわ。 」

「 はい ぼくも気付きました。 国内の船は多くいましたが 」

「 そう ねえ・・・  なにか不思議な雰囲気だわ 」

「 ― 隠れる必要はないと思いますが。

 気を付けてゆきましょう。 」

「 そうね。 ・・・ あ これを持っていって。

 なにが起こるか わからないから ・・・ 」

フランソワーズは 荷物の中から石榴の実を取りだし

 半分に割って ジョーに渡した。

赤い赤い粒粒の実が 北国の低い陽の光を反射している。

 

    ・・・ なんだか 血の雫みたいだな・・・

 

    なにを言ってるんだ ぼくは! 

    不吉なこと 考えるな!

 

    これは ― 魔法の木の実・・・

 

    ああ でもこの色は ― 

 

ジョーはじっとその粒粒を見つめていた。

 

  石榴の実。  ― それは

 

大英帝国のブリテン王から譲られた 食糧の果実 だ。

一粒 口に含めば力が漲り 空腹も感じなくなる、という。

なにかの時にきっと役立つから、 と 姫君の伯父でもある

ブリテン王が 持たせてくれたのだ。

ジョーは 両手でそっと受け取った。

 

 「 ありがとうございます。  

 ですが ぼくは姫様の側を離れません、いつなんどきも、

 どんな状態になっても、です。 」

「 ジョー ・・・ 」

「 これは御守りとして お預かりしておきます 」

「 ― ありがとう  ジョー ・・・・ 」

「 さあ そろそろ帝都の門が見えてくるはずです。

 慎重に行きましょう 」

「 はい。 ごく普通の旅行者ってことね 」

「 はい。  クビクロ 見張っててくれ 頼むな〜 」

「 うわん! 」

 

   カツカツカツ   パカパカパカ  ・・・

 

二人は服装などから 裕福な貴族の旅行者ふうに見える。

すれ違う人も 行き交う人も ごく自然に通り過ぎ 追い抜いてゆく。

特に 彼らに注目したりわざわざ振り返ったりするヒトは いない。

 

「 ・・・ 少し暖かくなってきたわね? 」

「 はい。 ああ 帝都の門が見えてきました ・・・

 あれ? ・・・ 番兵とか役人は ・・・ いませんよ 」

「 え ・・・ 出入り自由 なのかしら。 」

「 いやあ 一応帝都ですから門番はいるはずです 」

「 そうよねえ ・・・ あ ほら 誰か出てきたわ 」

「 通行手形 出します 」

「 お願いね。 わたし達は独逸帝国からきた旅のものよ。

 冬の露西亜帝国を観にきたの。 気楽な旅行者、忘れないで 」

「 はい 」

 

   タカタカタカ ・・・ 毛皮の塊みたいになった役人が歩いてきた。

 

「 お〜〜い お前さんがた〜〜 物見かい? 」

「 あ  はい 独逸帝国からきました 露西亜の冬をみたくて 」

「 ほうほう そら いいわなあ 〜〜〜

 この時期 いろんな行事、ぎょ〜さんあって楽しいで。 

 ようおこし。 ・・・通行手形 ?  んなもの、ええよ ええよ 〜〜

 ほら 通り。 」

「 え ・・・ いいのですか 」

「 ええって。   かまへん かまへん   さ  お通り。 

 ほんで うっとこの街 楽しんでやあ〜 」

「 あ  はい ・・・ 」

「 嬢様と従者さん  寒いで〜〜 きぃつけてやあ〜〜 」

 「「 え ! 」」

一瞬 固まっている二人を他所目に 彼は親指を立てにぃっと笑った。

「 あ  あ  ・・・ は  はい 」

「 ― ありがとう 」

「 ほんなら   な。 」

 

   タカタカタカ ・・・ 彼はまたもこもこしつつ 門の内側に行ってしまった。

他に警備の兵の姿も 巡回する役人の姿も  ない。

 

「 へえ??? 案外無用心ですねえ 

「 ・・・別に 隠すモノはありません ってことかしら 」 

「 とにかく ― 行きましょう。 」

「 ええ ・・・ 」

 

    カポカポ カポ ・・・ カポカポカポ ・・・

 

門を抜けると すぐに大きなメイン・ストリートに出た。

彼らの前後にも 人々がごく普通に門を通り都市の中に入ってゆく。

 

「 ・・・ 温かくなってきたわ 

「 足元が ・・・ 乾いてますね。 雪が ―  ない 

 道端にも残ってないですよ 」

「 帝都の中では 雪が降らないのかしら?? 」

「 そんな ・・・ 街の上に傘をさす なんてことじゃあるまいし。 」

「 でも ・・・ ああ ここではこの毛皮、着ていられないわね 」

「 ― 市民のヒト達でしょうか  皆 軽装ですよ 」

「 露西亜帝国の首都は ― なんもかも整っているのね 」

「 う〜〜ん ・・・ 」

 

ジョーとフランソワーズは きょろきょろと街を見回す。

ここは なにもかもが素晴らしく整っている 北の帝都。

建物は新しく 道路は整備され足に優しく・・・

行き交う人々はみな若く眉目秀麗 シアワセそうだ。

 

「 ― イワン帝の治世は 素晴らしい ということでしょうか 

「 ・・・・ 」

ジョーの独り言みたいな問いに フランソワーズは応えられなかった。

彼女はずっと  なにか  を感じている。

それがなんであるのか は 彼女自身にもわからないのだが。

 

 

    ? ・・・ なにか  ちがう?

 

    この街は とても幸せそう・・・

    シアワセ を 絵に描いたみたいな街だわ・・・

 

     ―  絵 ・・・?

    

    そうだわ。 現実感がないんだわ

    ここは ― 自然ではない  わ!

    ええ そうよ 

 

    なにもかもが 出来上がり過ぎ ・・・

    どこにも ひび割れがないの。

    完全な幸せです って笑顔は ― ヘンだわ!

 

 

なにもかもが 整い過ぎている。

ヒトが多ければ どこかで乱調となり また それが自然に元に戻る

はずなのだが ・・・

フランソワーズは 空を見上げ そして 足元を見つめた。

 

 

     風よ ・・・    風のジェット  いますか

 

     大地の精さん ・・・   いますか

 

     わたしの声が  きこえますか

 

返事は ― 空からも大地からも 戻ってこない。

 

「 これはどうかしら 」

フランソワーズは 荷物の中からあの畑の土を取りだした。

「 撒けばその地は 土壌豊かな農地になる って聞いたわ。

     ―  そら ・・・ ! 

彼女は 一握りの土を街道脇の狭い空き地に撒いた。

 

    パサ ・・・     ぱあああ〜〜〜〜ん !!!!

 

豊かにするはずの土は 弾かれ散ってしまった。

 

「 !?  ・・・ ここは 本当の大地なの? 」

「 ― 見つけましたよ。 」

ジョーが 馬から降りて道端に屈みこんだ。

「 ・・・ な  に ・・・? 」

 

 

Last updated : 11.30.2021.           back     /    index    /    next

 

**********  途中ですが

まだ 終わりません・・・   <m(__)m>

ぐだぐだで山もなく すみませぬ〜〜 <m(__)m>