『 伝説 ― (8) ― 』
これは 遠いとおい昔の そして 遠いとおい外国 (とつくに)
でのお話です。
いつの頃のことか・・・って?
どこの国のことか・・・って?
さあ ・・・・
― 貴方のお好みのままに・・・
********** いよいよ北の帝国へ!
カツ カツ カツ コポ コポ コポ ・・・
二騎は ゆったりとその地にやってきた。
大袈裟な塀だの囲いは ない。 警備の兵士が立っていることも ない。
大きな掘りもなく 川もなく ― 一本の立て札がぽつん、とあるだけ。
国境。 これより先は 北方帝国。 独逸帝国 皇帝
「 ・・・ あ〜 ここまで来ましたね 」
茶色の駒の上から 青年が声をあげた。
「 そうね あ ほら。 あの先を見て。 峰が白いわ! 」
白馬の騎士は 金色の髪をゆらし 前方を指さした。
「 ― うわああ・・・ 雪 ですか 」
「 そうね。 帝都は一年の半分以上 雪と氷の中、って聞いたわ。 」
「 ぶるるるる ・・・・ ちゃんと着込まないとダメですね 」
「 ええ ねえ ヒルダ妃様から頂いた帷子は すごく温かいわね 」
「 はい! 軽いのにとても温かいです 」
「 帰国したらね 仏蘭西でもイラクサを栽培してみようと思うの。
北の地域に住んでいる人々にも 試してもらいたいわ 」
「 ・・・ すごいなあ やっぱり 姫様 なんですね 」
「 え? どういうこと 」
「 あの さ・・・ いつも自分の国のこと、アタマにあるもの。 」
「 そう・・・かも・・・。 いずれはジャン兄様が治められる国ですもの
出来る限り チカラを合わせたいわ 」
「 ― なんか ぼく ・・ 尊敬します! 」
「 え あら。 ・・・ < 尊敬 > だけ ・・・? 」
「 ・・・え あ! ・・・ あのぅ ・・・ 」
「 ・・・ 」
二人は 馬上で見つめあい ― 想いが募りかえって指さえ動かない。
タタタタ タタタタ ーーー
駆け足の音が 二人を追ってきた。
「 おう〜〜い ・・・ そこの御方〜〜〜〜 もうし〜〜 」
「 あら? だれか呼んでる? 」
「 そのようですねえ ・・・ なんだろ 」
ジョーは 馬首を巡らすとゆっくり近寄った。
「 ・・・ あのう ぼく達になにか ・・・? 」
「 あ! やっぱり・・・! 茶髪と金髪の騎士様方がゆくって・・・
お前様方 隣の国から来なすった方々ですかい 」
がっちりした中年オトコが 息を切らせて駆けてきた。
「 そうです。 仏蘭西王国から ― こちらの帝都に
お邪魔してきました 」
「 ああ ああ それじゃ ・・・ そちらの金髪さんは
仏蘭西の姫さまかね 」
「 ・・・ 」
フランソワーズは 警戒しつつもゆっくりと馬首を巡らせた。
「 仏蘭西王国 第一王女 です。 ― そなたは 」
中年オトコは 彼女の馬の鞍を見てさ・・・っと片膝をついた。
鞍には 王家の紋章が彫りつけてある。
「 これは ― 失礼いたしやした ・・・ 王女殿下。
アッシは 一応この国境を管理するモンです。
え〜〜〜 皇帝陛下からのお預かりモノがありますです 」
「 え?? 皇帝陛下から?? 」
「 へい。 < 伝説の騎士 > 様方が行くから 差し上げてよ と 」
「 まあ なにかしら 」
「 お待ちになって頂けますか 今 運んで参りやす 」
オトコは さっと立ち上がると来た道を引き返す。
「 ?? なにかしら ・・・ 」
「 う〜ん ・・・ あ あんなトコの小屋があったんだ? 」
「 え? あら 本当・・・ 」
二人が じっと見つめていると ― 小屋からは小さな荷車が出てきた。
ガラゴロ ガラゴロ ガラゴロ −−−
「 ・・・ なにか 積んでる ・・ 」
「 そんなに大きなモノじゃないですよ? 」
「 ええ ・・・ 武器とかじゃないわね 」
「 ですね ・・・ 一体なんだろう? 」
「 あ あの旗! 皇帝の旗よ 」
「 ! やはり アルベルト帝からの ・・・ 」
「 そうです、その印ですもの。 信用して大丈夫だわ。 」
「 おうい おうい ・・・ お待たせしました〜〜〜 」
先ほどの中年オトコは ロバに引かせた荷車を、彼自身も押してきた。
「 姫様 騎士殿 〜〜 どうぞ これをお収めください。
皇帝陛下から しかとお渡しするように、との御下命で 」
ガラガラガラ −−− 荷車の荷台には大きな包が見えた。
「 まあ ロバさん、ご苦労様・・・ ありがとうね 」
「 重くはなかったかい? 」
ジョーはロバのたてがみを こそっと撫でてやった。
「 姫様 騎士殿。 荷を・・・ 」
「 ありがとう、 開けて見るわね 」
「 ぼくがやります。 ・・・あれ これ・・・ 」
運ばれてきた荷物の中には 毛皮の防寒具一式が入っていた。
「 あらあ〜〜 すてき! 」
「 うわあ ふっかふかで・・・暖かいですねえ 〜〜
帽子に上着に ・・・ ああ これは雪用の靴だ
・・・あれ これ ・・・なんだろ? 」
荷物の底からは 小型のマント用の毛皮と小さな靴が四足でてきた。
「 え 見せて? ・・・ あらあ〜〜〜
これって ほら クビクロ用の毛皮よ! 」
「 えええ? 」
「 ねえ ねえ 着て見ましょうよ クビクロもいらっしゃい 」
「 うわん! 」
二人と一匹は 馬から降り、皇帝からの贈り物を身につけた。
「 ふ うん〜〜 温かいわあ ・・・ 」
「 いいですねえ〜〜 」
「 ふふふ ジョー お似合いよ? あらあ〜〜〜 クビクロ〜〜
すごく素敵よ 」
「 くうん・・・ うわん ! 」
「 ほらほら 靴も履いてみろよ? 雪の上でお前の肉球を護ってくれる 」
「 ふふふ いいわ いいわねえ
これで 安心して北方帝国に向かえるわ 」
「 姫様方 ・・・ 皆さまお似合いですだ 」
側で控えていたオトコが 遠慮がちに声をかけた。
「 まあ ありがとう。 ご苦労様でしたね。 ロバさんにも
美味しいオヤツを上げてね 」
フランソワーズは 金貨を数枚、絹ハンカチに包み オトコに与えた。
「 〜〜〜 ありがとうごぜえやす 姫様〜〜〜
あ 国境はここであります。 北の国にいらっしゃるとか・・・
どうぞ ― ご息災でのお帰りを・・・
お待ち申し上げておりますです。 」
「 ありがとう。 皇帝陛下に御礼を。
そして 討伐隊は無事に北方帝国に向かいました、と伝えてね 」
「 へい〜〜 」
「 国境を護るお務め ・・・ しっかり頼むね 」
「 へい〜〜 」
出発〜〜 ! 二騎は轡を並べゆっくりと進む。
馬たちの背も 軽くて暖かい毛織物の布で被われている。
「 姫様 」
「 ― フランソワーズ。 」
「 あ 失礼しました ふらんそわ〜ず ? 」
「 はい なあに。 」
「 北方帝国の首都まで ― かなりありますね 」
「 そうね。 でもわたし達は表向きは イワン帝への表敬訪問って
いうことだから ― 多分 その前にヤツらの妨害があるでしょうね 」
「 ふうむ・・・? 」
「 この辺りはまだまだ独逸帝国との国境地域だから
アルベルト陛下のご威光が強いのね 」
「 ですね ・・・ 最良の道筋は ・・・ う〜〜ん そうだなあ・・・・ 」
ジョーはしばらく考えていたが ぽん、と手を打った。
「 うん、そうだ。 しばらく行くと大河があります。
船を利用して 首都まで行きましょうか 」
「 水路で、ということ? 」
「 そうです。 その方が速いし馬たちの疲労も断然少ないです。」
「 なるほど ・・・ 水路のことは一応調べただけなの。
首都まで使える船があるかしら。 」
「 聞いてみましょう。 大きな河ですし商用の船があるはず ・・・
北方帝国の首都は 大きな都市ですよね 」
「 ええ ぺテルスブルグ は とても美しい都なのですって。
お父様は まだ王位を継がれる前のお若い頃、
訪ねたことがおありだそうよ 」
「 へえ・・・ 国王陛下が???
あ ・・・ じゃあ イワン雷帝とは 」
「 ずいぶん昔のことですもの。 お目にかかった というか・・・
イワン帝がまだ赤ちゃんの頃 とおっしゃっていたわ。 」
「 ― イワン雷帝は ・・・ 永遠の赤子 だって聞いたことが
あるのですが・・・ 」
「 そう わたしもよ。 でも真相は誰も知らない・・・ 」
「 そうですか ・・・ あ ほら・・・ 向うに川面が見えます。
船を借りましょう 」
「 そうしてください。 ― 頼もしいわね 」
「 え? いやあ〜 あ 先に行きます。 」
「 はい。 荷物、わたしが持ちますから。 」
「 ありがとう! 」
姫君に荷を預けると ジョーは愛馬を駆って川岸を目指した。
ザザザザ −−−−
大きな河には 波みたいな揺れがある。
川岸も広く、対岸は遥か彼方に見え 海と見紛うばかりだ。
ザザ〜〜〜〜 ザ ・・・・
この河は流通の大動脈にもなっているらしく 大小いろいろな船が
ゆっくり または かなりの速さで行き来している。
「 ふ〜〜〜〜 船って速いのねえ 」
ふらんそわーズは 船べりで揺れる水面を眺めている。
愛馬も荷物も無事に積みこめた。
船頭は何回も首都まで船を進めたことがある、自信あるよ、と
笑って請け負ってくれた。
船は満帆に張った帆に風を受け するすると進む。
「 さあ 姫さ ・・・ いえ ふ フランソワーズ。
油断はできませんが しばし休息なさってください。 」
ジョーは 馬たちの世話をしつつ笑っている。
「 ありがとう ・・・ なんだかとてもいい気持ちね 」
波止場を離れると ― ますます船足は速まった。
不思議なほどの速さで 船は進むのだ。
「 ・・・ ?? あ ら ・・・ ? 」
水の真珠をお持ちの方 〜〜〜
私たちが お運びしますわ
川面がうねる合い間に 緑の長い髪が 銀の鱗が見え隠れしている。
フランソワーズは船べりでじっと目を凝らし 耳を澄ます。
「 あれは ・・・ たしかに水の精 ・・・?
あ 見えたわ ・・・ え まあ 四人?? 」
銀の尾をうねらせ 長い髪を波に遊ばせ 水の妖精たちは
船の周りに集まりするすると運んでゆく。
ジョー ・・・
大きくなって ・・・
私達のヘレンお姉さんの愛でし子
安心してね 私達が護るわ
ジョー・・・ ジョー ・・・
私達の可愛い甥っ子
パシャン! なにか大きな魚の尾鰭が光る。
その水音に ジョーも惹かれて船端にやってきた。
「 ・・・? な なんだろう ? 」
「 なにかが ・・・ この船を運んでいるの。
ねえ ジョーにも聞こえたでしょう? 」
「 フランソワーズ。 ちらっとだけ聞いたのですが
・・・ 水の真珠ってなんですか 」
「 あ ああ これのことね たぶん 」
姫君は 我が耳から大きなピアスを手にとった。
「 阿弗利加帝国の ピュンマ帝から頂いたの。
これを口に含めば 水の中でも苦しくないのですって 」
「 すごい ・・・ 」
「 でも ね 今は必要ないみたい 」
「 え? 」
「 ほら 耳を澄ませて? 水の精たちの言葉・・・ ほら ・・・ 」
フランソワーズは ジョーを船べりに誘った。
「 水の精たちが 皆でこの船を運んでくれているわ
ようく聞いて ・・・ 彼女たちの歌を 言葉を ・・・・
ほら ・・・あなたのお母様の妹たちらしいわよ 」
ジョーは 慌てて身を乗り出し、水飛沫が飛んでくる場所で
じ・・・っと耳を傾けている。
「 水の精 ですか ・・・・ あ そういえば・・・
母には兄弟姉妹がいるけれど 妹たちは水を護っている、って
きいたことがあります。 姉妹たちは北の河にいるんだって。 」
「 やはり ね。 皆さん ジョーに会えて喜んでいるのよ 」
「 うわあ ・・・ ああ だからかなあ ・・・
ぼくはどうしても 河が呼んでいるみたな気がしていたのです。 」
彼は ぐん・・と身をのりだした。
おうい ・・・
ビーナ ダイナ アフロ ダフネ〜〜〜
聞いてるよ ヘレン母さんから。
妹たちは 河を護っているってね
初めまして〜〜 ジョーです〜〜
ジョーは 船べりから川面にむかって呼びかける。
その様子を 年季の入った船頭は微笑んで見ていた。
フランソワーズはそっと訊ねた。
「 あの・・・ この河には いつも水の精が現れるのですか? 」
「 ああ? うんにゃ。 言い伝えはあるがねえ。 」
「 船頭さんは 見たことがあるのですか 」
「 はっきりとはね〜がなあ 時にこんな風に船が滑るみたいに
進むさ。 そんな時に ふと水の中をみると・・・ なあ。
なにせ 河を護ってくれる女神さま達だかんな〜〜〜 」
「 そうなんですか ・・・ ええ この河には水の精霊が ― 」
「 あ〜 確かにねえ ・・・
この旅は 祝福されたねえ〜〜〜 うん うん・・・
お客さんらのおかげさあ・・・ この旅は無事に終わるよ 」
彼は ぼそ・・・っと呟きじっと川面を眺めているのだった。
船は順当に河を下り やがて 北方帝国の帝都へと近づいて行くのだった。
ガヤガヤ ザザザ〜〜〜 ゴウン ゴウン ・・・
河口の近くに大きな港があり 多くの人々が行き交う。
ザザザーーー ザ ・・・ ガッコン。
船はゆっくりと速度を落として行き港に入り ― 長旅を終えた。
「 到着しました。 お客さん方 ・・・ 」
船頭は 船の完全停止を確認すると 乗客に呼びかけた。
「 ― ありがとう。 とても素敵な船路でした。 」
フランソワーズは 皆の前で礼を述べた。
「 素晴らしい腕前ですね。 安心して乗っていられました。 」
「 ― 道中 ご無事で。 ・・・ 姫様 そして 騎士殿 」
「 ! 知っていたの? 」
「 へえ・・・ 独逸皇帝陛下からお達しがありましたし
お目にかかってすぐにわかりました。
・・・ よいナイトをお連れですね 」
船頭は ちら・・・っと馬を引き居ているジョーを眺めた。
「 はい。 わたしは幸運です。 」
「 ― ご無事で! 」
朴訥とした、しかし 温かい声に送られ 彼らは船を降りた。
「 姫さ・・・いえ フランソワーズ。 足元に気をつけて 」
「 ええ。 馬さん達は大丈夫? 」
「 はい。 元気いっぱいです。 」
「 わん! 」
「 あはは ごめんな〜 クビクロも元気ですよ 」
「 よかったわ。 では 行きましょう。 」
「 はい。 」
船を降りれば ― そこは すでに秋は終わりに近くなっていた。
ヒュウウ −−−−−−−
見渡せば 灰色の雲がびっしりと空を覆い始めていた。
帝都までは近いはずなのに 先を見通すこともできない。
幅広い街道でも 端には白いものが凍てついて残っている。
「 ぶるるる・・・ 冷えます、防寒具を 」
「 はい。 雪は まだ来ていないのね 」
「 いえ 根雪はまですが もう何回か降っています。 」
ジョーは道端やら 街道から入る路地を指した。
「 まあ ・・・ そうなのね? この風の冷たさは
雪の知らせを含んでいるからなのね 」
「 そうですね。 ゆっくり進みましょう。
この辺りはずっとヒトやら馬車が多いから いきなり
魔物が・・・ってことはないだろうけど 」
「 ええ あ その前に ・・・ はい。 」
フランソワーズは 荷物からビーフ・ジャーキーを取りだし
ジョーに渡した。
「 クビクロにも 分けてあげてね 」
「 わあ ありがとうございます〜〜 」
「 うわん♪ 」
「 ふふふ 元気ねえ あ 馬さん達〜〜 リンゴがまだあるわ
これと・・・ 黒砂糖の塊りをあげるわね 」
「 姫さ ・・ い いや フランソワーズ も
ちゃんと召しあがってクダサイ 」
「 はい♪ ・・・ 美味しいわあ 」
「 んん〜〜〜 くうん〜〜 」
「 賛成 だそうですよ? あ 水を補給してきます 」
ジョーは馬を預け 港を出る前に道端にあった公共の井戸を使った。
パカパカ パカパカ カッ カッ カッ
二騎は 行き交う人々やら馬車の流れに紛れ
幹線道路を通り ゆっくりと帝都に近づいて行った。
「 ・・・ やはり ヒトが多いわね 馬車も・・・ 」
「 そうですね。 北方帝国、露西亜は 広い広い領土を有していますから 」
「 それもあるけれど ・・・ 帝都はさぞかし賑やかなのでしょうね 」
「 と、聞いていますが。 なにせ一年の半分以上は雪と氷に閉ざされて
冬季には人々は 家に籠っているというウワサです。
それでも 商業は活気があるって不思議です 」
「 ― でも 道路はきちんと整備してあるし ・・・・
とても発展して豊かな国に見えるわ。 なにが基盤なのでしょう
お父様は お若い頃、夏の季節にご訪問なさったのですって。
人々は自然とうまく付き合って暮らしていたって 」
「 そうなんですか・・・ 冬季はまた別なのかなあ・・・
ほら 道路の端には水が流れ 凍結を防いでいます 」
「 ほんとう・・・ すごい設備ね! 費用も・・・
この国は なぜそんなに豊かなのかしら 」
「 う〜〜ん ・・・ 農地は冬は 休み ですよねえ?
港が近ければ 他の国との交易とか漁港そして とか考えられますが 」
「 今 降りた河口が一番近い港のはずよ。
他国の船の姿は ・・・ ほとんど見られなかったわ。 」
「 はい ぼくも気付きました。 国内の船は多くいましたが 」
「 そう ねえ・・・ なにか不思議な雰囲気だわ 」
「 ― 隠れる必要はないと思いますが。
気を付けてゆきましょう。 」
「 そうね。 ・・・ あ これを持っていって。
なにが起こるか わからないから ・・・ 」
フランソワーズは 荷物の中から石榴の実を取りだし
半分に割って ジョーに渡した。
赤い赤い粒粒の実が 北国の低い陽の光を反射している。
・・・ なんだか 血の雫みたいだな・・・
なにを言ってるんだ ぼくは!
不吉なこと 考えるな!
これは ― 魔法の木の実・・・
ああ でもこの色は ―
ジョーはじっとその粒粒を見つめていた。
石榴の実。 ― それは
大英帝国のブリテン王から譲られた 食糧の果実 だ。
一粒 口に含めば力が漲り 空腹も感じなくなる、という。
なにかの時にきっと役立つから、 と 姫君の伯父でもある
ブリテン王が 持たせてくれたのだ。
ジョーは 両手でそっと受け取った。
「 ありがとうございます。
ですが ぼくは姫様の側を離れません、いつなんどきも、
どんな状態になっても、です。 」
「 ジョー ・・・ 」
「 これは御守りとして お預かりしておきます 」
「 ― ありがとう ジョー ・・・・ 」
「 さあ そろそろ帝都の門が見えてくるはずです。
慎重に行きましょう 」
「 はい。 ごく普通の旅行者ってことね 」
「 はい。 クビクロ 見張っててくれ 頼むな〜 」
「 うわん! 」
カツカツカツ パカパカパカ ・・・
二人は服装などから 裕福な貴族の旅行者ふうに見える。
すれ違う人も 行き交う人も ごく自然に通り過ぎ 追い抜いてゆく。
特に 彼らに注目したりわざわざ振り返ったりするヒトは いない。
「 ・・・ 少し暖かくなってきたわね? 」
「 はい。 ああ 帝都の門が見えてきました ・・・
あれ? ・・・ 番兵とか役人は ・・・ いませんよ 」
「 え ・・・ 出入り自由 なのかしら。 」
「 いやあ 一応帝都ですから門番はいるはずです 」
「 そうよねえ ・・・ あ ほら 誰か出てきたわ 」
「 通行手形 出します 」
「 お願いね。 わたし達は独逸帝国からきた旅のものよ。
冬の露西亜帝国を観にきたの。 気楽な旅行者、忘れないで 」
「 はい 」
タカタカタカ ・・・ 毛皮の塊みたいになった役人が歩いてきた。
「 お〜〜い お前さんがた〜〜 物見かい? 」
「 あ はい 独逸帝国からきました 露西亜の冬をみたくて 」
「 ほうほう そら いいわなあ 〜〜〜
この時期 いろんな行事、ぎょ〜さんあって楽しいで。
ようおこし。 ・・・通行手形 ? んなもの、ええよ ええよ 〜〜
ほら 通り。 」
「 え ・・・ いいのですか 」
「 ええって。 かまへん かまへん さ お通り。
ほんで うっとこの街 楽しんでやあ〜 」
「 あ はい ・・・ 」
「 嬢様と従者さん 寒いで〜〜 きぃつけてやあ〜〜 」
「「 え ! 」」
一瞬 固まっている二人を他所目に 彼は親指を立てにぃっと笑った。
「 あ あ ・・・ は はい 」
「 ― ありがとう 」
「 ほんなら な。 」
タカタカタカ ・・・ 彼はまたもこもこしつつ 門の内側に行ってしまった。
他に警備の兵の姿も 巡回する役人の姿も ない。
「 へえ??? 案外無用心ですねえ 」
「 ・・・別に 隠すモノはありません ってことかしら 」
「 とにかく ― 行きましょう。 」
「 ええ ・・・ 」
カポカポ カポ ・・・ カポカポカポ ・・・
門を抜けると すぐに大きなメイン・ストリートに出た。
彼らの前後にも 人々がごく普通に門を通り都市の中に入ってゆく。
「 ・・・ 温かくなってきたわ 」
「 足元が ・・・ 乾いてますね。 雪が ― ない
道端にも残ってないですよ 」
「 帝都の中では 雪が降らないのかしら?? 」
「 そんな ・・・ 街の上に傘をさす なんてことじゃあるまいし。 」
「 でも ・・・ ああ ここではこの毛皮、着ていられないわね 」
「 ― 市民のヒト達でしょうか 皆 軽装ですよ 」
「 露西亜帝国の首都は ― なんもかも整っているのね 」
「 う〜〜ん ・・・ 」
ジョーとフランソワーズは きょろきょろと街を見回す。
ここは なにもかもが素晴らしく整っている 北の帝都。
建物は新しく 道路は整備され足に優しく・・・
行き交う人々はみな若く眉目秀麗 シアワセそうだ。
「 ― イワン帝の治世は 素晴らしい ということでしょうか 」
「 ・・・・ 」
ジョーの独り言みたいな問いに フランソワーズは応えられなかった。
彼女はずっと なにか を感じている。
それがなんであるのか は 彼女自身にもわからないのだが。
? ・・・ なにか ちがう?
この街は とても幸せそう・・・
シアワセ を 絵に描いたみたいな街だわ・・・
― 絵 ・・・?
そうだわ。 現実感がないんだわ
ここは ― 自然ではない わ!
ええ そうよ
なにもかもが 出来上がり過ぎ ・・・
どこにも ひび割れがないの。
完全な幸せです って笑顔は ― ヘンだわ!
なにもかもが 整い過ぎている。
ヒトが多ければ どこかで乱調となり また それが自然に元に戻る
はずなのだが ・・・
フランソワーズは 空を見上げ そして 足元を見つめた。
風よ ・・・ 風のジェット いますか
大地の精さん ・・・ いますか
わたしの声が きこえますか
返事は ― 空からも大地からも 戻ってこない。
「 これはどうかしら 」
フランソワーズは 荷物の中からあの畑の土を取りだした。
「 撒けばその地は 土壌豊かな農地になる って聞いたわ。
― そら ・・・ ! 」
彼女は 一握りの土を街道脇の狭い空き地に撒いた。
パサ ・・・ ぱあああ〜〜〜〜ん !!!!
豊かにするはずの土は 弾かれ散ってしまった。
「 !? ・・・ ここは 本当の大地なの? 」
「 ― 見つけましたよ。 」
ジョーが 馬から降りて道端に屈みこんだ。
「 ・・・ な に ・・・? 」
Last updated : 11.30.2021.
back / index / next
********** 途中ですが
まだ 終わりません・・・ <m(__)m>
ぐだぐだで山もなく すみませぬ〜〜 <m(__)m>