『 伝説 ― (7) ― 』
これは 遠いとおい昔の そして 遠いとおい外国 (とつくに)
でのお話です。
いつの頃のことか・・・って?
どこの国のことか・・・って?
さあ ・・・・
― 貴方のお好みのままに・・・
******** 北方紀行
うお〜〜・・・・・ ん う〜〜〜
突然 低く重い呻きが 大地の底から湧き出てきた。
― いや 湧き出るみたいに聞こえてきたのだ。
フランソワーズ姫は ぴくり、と身体を震わせた。
「 !? な なんの音?? 」
「 風が 岩場を抜け大気を震わせているのかもしれません。 」
「 ・・・ この地域に岩場があるの? 」
「 確証はありませんが ― この音はとても生物の鳴き声とか
ではないと ・・・ 」
「 そうね なにか不気味だわ 」
「 気をつけてゆきましょう。 」
「 ここを抜けないと北へは行けないわ ― でも この土地が心配よ。
ここは 独逸帝国の大切な穀倉地帯ですもの。 」
「 ・・・ この硬さでは穀物はおろか どんな植物も繁茂できませんよ 」
「 大変だわ ・・・ これは多分 黒い悪魔が裏にいるわね 」
「 そうですね。 用心してゆっくり行きましょう 」
「 ええ、 この硬さでは 馬さん達の蹄が心配よ。
よしよし・・ 大丈夫? 」
フランソワーズ姫は愛馬の首をそっと撫でた。
「 お前も大丈夫かい? ― うん ぼくは降りて歩こう。
ああ 姫様はどうぞ騎乗でいらしてください。 」
ジョーは身軽に地面に降り立ったが ・・・ 顔を顰めた。
「 ! う わ ・・・ 」
「 どうしたの? 」
「 この地面 ・・・ 硬い なんてもんじゃないです!
今 飛び降りた時 ず〜〜んと足元の固さがアタマに突き抜けました。
あ 姫様はそのままで! 」
「 わたし 平気だわ 」
「 いえ ・・・ こんな地面 長くは歩けません。
こら クビクロ! お前もそこにじっとしてろって。」
ジョーは 自分の鞍の後ろの方にいる相棒に声をかけた。
わ わん! ・・・ くう〜〜ん・・・
「 ジョー様 ほら これ。 靴の上から嵌めてみて?
少しは着地の刺激が弱くなるはずよ 」
姫君は 馬に掛けた荷から大きなカバーみたいなモノを取りだした。
「 ・・・ これ なんですか 」
「 雪の上と歩く時に使うの。 北の地域にゆくから・・って
お父様がもってゆけておっしゃって 」
「 あ ありがとうございます・・・ こう かなあ・・
あ ホントだ 少し楽になるかな 」
「 よかったわあ〜 さあ ゆっくり行きましょう 」
「 はい。 ブラウニー 行こう 」
ジョーは愛馬の栗毛の手綱をひき ゆっくりと歩き出した。
足には 所謂カンジキっぽいものを履いている。
異様に硬い地域は かなりの規模で広がっていた。
二騎は なるべくまだ土壌が残っている端を通り進んで行った。
うお〜〜〜〜ん ・・・ ううう〜〜〜〜
あの不気味な声? 音は ずっと続いている。
地面の変化は 徐々に広大な畑作地域にも広がり始めていた。
「 ・・・ 畑が 枯れているわ ・・・ 」
「 この硬い地面では ・・・ あ 農夫さんがいますよ。
ちょっと聞いてみましょう 」
「 わたしも 」
「 姫様。 なにか異様な雰囲気です。 どうぞここでご待機ください。
クビクロ。 姫様を頼む 」
「 うわん! 」
「 すぐに飛び出せるようにしているから。 クビクロも!
なにかあったら合図送ってね! 」
「 ― 了解。 そこの 木立の影にいてください 」
「 了解。 」
「 ・・・ あのぉ〜〜〜〜 もうし〜〜? 」
ジョーは 手綱をフランソワーズに預けると小路を通り
さくさく 畑の中に入っていった。
畑では 農夫が一人、背を屈めて耕そうと苦心していた。
「 ・・・ ああ?? 」
「 こんにちは〜〜〜 あのぉ 北の国へ旅してるんですけどぉ
ここいら辺の地面 ・・・ すっげ〜〜 硬くなってません? 」
「 ・・・ 気付いたかい 兄ちゃん 」
「 ええ 馬がね 可哀想なんで 」
「 だよなあ・・・ 気を付けな お前さんも 」
「 え?? 」
「 ・・・ これは 呪いだ。 あの 黒い悪魔の さ ・・・ 」
農夫は 急に声をひそめひそひそ話になった。
「 黒い悪魔 ですか 」
うんうん・・・と農夫は頷く。
「 兄ちゃん 王都から来たのかい 」
「 ええ ・・・ 」
「 そんじゃ 知ってるだろう? あっちでもウワサになってるはずだよ 」
「 ウワサ・・って なんです? 」
「 だ〜からあ 黒い悪魔の呪い だよ・・・ 」
「 のろい??? そんなもん ないと思うけどなあ
でも ここいらにも 黒い悪魔がワルサしてるんですか?? 」
「 そうさ あんた。 ここはず〜〜〜っと豊かな畑だったのに・・
アイツが飛んできて 冷たい息を吹きかけて ・・・
なんもかんも台無しだよぉ 」
「 そりゃ大変ですね! すぐに王宮に連絡しなくては!
皇帝陛下が討伐隊を手配してくれますよ 」
「 ・・・ 無理さ 」
農夫は さらに囁くみたいに呟く。
「 無理? そんなこと ないです!
お若い皇帝陛下はとても勇敢で慈悲深い方ですから 」
「 ― 兄ちゃん。 アンタ なんも知らんのか ・・・ 」
「 え?? 」
「 呪いがかかってるんだ − 皇帝一家には なあ 」
「 !? 呪い?? 」
「 んだ。 ・・・ 皇帝陛下の あの腕・・・
アンタ 見たこと、あるかい 」
「 腕?? 皇帝陛下の ですか 」
「 ・・・・ 」
深くうなずくと 農夫はぼそ・・・っと言った。
「 恐ろしい鐵 ( くろがね ) なんだと。
黒い悪魔の呪いで そんな腕になっちまったんだ ・・・
だんだん身体が鐵に変わってゆき 今に全身が 」
「 ・・・・ 」
「 おまけになあ〜 あのお妃が。
見たこと あるかい? こう・・・ 頬から首にかけて
おっそろしい傷痕で 引き攣れているんだと。
せっかくの美貌が台ナシだよう〜〜〜
・・・ それも黒い悪魔に逆らったから 呪いが 」
「 それは デマです。 間違いです 」
ジョーは 憤然としてそして毅然と言い切った。
「 ― はへ?? 」
「 皇帝陛下のおん腕は 確かに一部分鋼ですけど・・・
それはあの妃殿下を 黒い悪魔から護るために闘ったから です!
そして 妃殿下の傷は 勇敢にもアイツと闘われた証ですよ! 」
ほう?? そこまで 知っているのかあ〜〜〜
突如 農夫の声が変わり 彼は ぬう〜〜〜っと身をおこした。
「 ! 」
「 ― お前はぁ〜〜〜 皇帝の手のモノだな
ここで捻り潰してくれるわあ〜〜〜〜 」
ザザザザ。 ズザザザザ 〜〜〜〜〜
ひゅるひゅるとヤツの腕脚が伸びる。
農夫の姿はどこにもなく、全身まだら模様で蓬髪が渦巻いたモノが
ジョーを睨みつけている。
― もはやニンゲンではない。
それは蜘蛛にも似た容貌の怪物だった。
「 がははは〜〜〜〜 小僧〜〜〜
ここがお前の墓場となるのだぁ〜〜〜〜 がはははは 」
蜘蛛男は ぴょ〜〜んと跳び上がった。
「 黒い悪魔の手先か! こい ぼくが相手になってやる! 」
ジョーは 剣を引き抜き油断なく構えた。
シュ −−−− ダダダダダ −−−−
蜘蛛男と騎士は 凝り固まった大地の上を縦横に走り回る。
お互いにスキを狙い攻撃するのだが ― 決め手とならない。
シュタッ −−− ジョーの振り下ろした剣は空を切る
ザザザッ ドーン 蜘蛛男の投げる鉛弾が 空き地に散る
「 ・・・ ヤツはぼくと同じ速度で走れるのか! 」
「 小僧〜〜 ちょこまか逃げまわりおって〜〜〜 」
シュ −−−− ダダダダ −−−−
付近は埃の混じった風が渦巻き 枯れかかった畑作物がからからと飛ばされてゆく。
全体に灰色の煙幕がかかった風になり 視界は極端に悪い。
遠目にはもくもくと砂煙が渦巻いているだけだ。
「 ・・・ だめだわ このままでは疲れた方が負けてしまう・・・
怪物相手では ジョーが圧倒的に不利 ・・・
」
フランソワーズは 大木の影でじりじりし始めた。
「 わたしも − 」 一歩 踏み出した時 ・・・
わんっ! クビクロが吠え じっと見上げてきた。
「 え なあに 」
わんっ う〜〜〜 う〜〜〜〜 くうん・・・
茶色犬は身体を振り背嚢を落とす。 さらにそれを前足で引っ掻いている。
「 ・・・使えっていうの? 」
「 わん!! 」
「 ― わかったわ。 ・・・ ありがとう! 」
フランソワーズは小さな背嚢を開け − 手早く細工をした。
そして ― 愛用の弓矢を構え 砂埃の渦に向かって正面に立った。
ジョー ・・・ あなたは そこね!
キリキリ −−− 弓は引き絞られ満月に近くなり ひょうと矢は放たれた。
ヒュンッ ・・・・ ボッ!!!
「 ・・・ ぎゃああああああ〜〜〜〜〜〜 」
突如 蜘蛛男が ゆっくりと倒れた。
− 飛んできた炎の塊に射貫かれたのだ −
「 ・・・ はあ はあ は あ ・・・ 」
ジョーは からくも体勢を保っていたが 荒い息を止められない。
「 ― ジョー様! 怪我は ! 」
フランソワーズ姫が 駆け寄ってきて彼を支えてくれた。
「 ひ 姫様 ・・・ あれは 姫様が・・・? 」
「 クビクロが あの火を使えって。
ええ 矢の先に < 常火の元 > を仕込んで 射たわ 」
「 姫様! よく ・・・わかりましたね
ぼくとアイツは埃の中でかなりの速度で走っていたのに ・・・ 」
「 ・・・ わたし ジョーが走る音を知っているわ。
クビクロも唸って教えてくれました。
− だから 聞き慣れていない方に矢を射たのよ 」
「 そうでしたか ・・ しかしすごいなあ〜 一発必中だ ・・・ 」
「 ・・・ やだ わたしったら・・・
今になって 手が 震えて・・・止まらない 」
「 ありがとう ・・・ 姫君 」
ジョーは その白いしなやかな手を両手で包み我が胸に当てた。
「 ・・・ 温かい ・・・ ぼくの最高の味方だ 」
「 ジョー様 」
「 ジョー でいいです 姫様 」
「 姫様 は やめて。 わたし達 ・・・ 仲間 でしょう?
フランソワーズ って呼んで 」
「 え・・・ 」
「 ここにはわたしとジョーと 勇敢なクビクロ君しかいません。
仲間だけよ 」
「 ― きみは ・・・ いいのですか 」
「 当たり前だわ わたし達、<伝説のコンビ> でしょう?
二人で一組よ! 遠慮していては可笑しいわ 」
ふ フランソワーズ ・・・ ジョーはこそっと言い
「 ありがとう ありがとう ありがとう〜〜〜 」
やっと気づいて ジョーは握っていた手を慌てて離した。
「 あ ・・・ご ごめん ・・・ 」
「 そんな 謝ったりしないで 」
「 くう〜〜〜ん 」
「 あ ごめん ごめん クビクロ〜〜 お前もありがとうね
本当にお前は賢いなあ 」
どぎまぎしつつ 照れ隠しに彼は愛犬のアタマをさかんに撫でてやった。
「 わん〜♪ ! わ ワンッ ! 」
クビクロは得意気に尻尾を振っていたが すぐにまた前方に駆けだした。
「 あ? クビクロ〜〜 どうした?? − おわ! 」
ジョーは慌て追ったが ぎくり、と立ち止まっている。
「 ? どうしたの ジョー 」
「 こ これは ・・・ 」
バキバキバキバキ ・・・・ ズゴゴゴゴゴ 〜〜〜〜
蜘蛛男が倒れたトコロから 硬い地面には細かいひび割れが広がってゆく。
そしてひび割れたトコロから陥没し始めた。
ジョーは ぎりぎりの縁で立ち止まったのだ。
やがて 蜘蛛男は地面に呑み込まれていった・・・
「 やはり 黒い悪魔の・・・? 」
「 あの火に完全に焼かれたら 決して復活はできません。
それは 悪魔でもできないのです。 」
「 あの火は ・・・ コズミ先帝が御造りになった? 」
「 そうです。 コズミのおじさまが 愛する者を護るために
愛する者の危機に 使うように、って ・・・ 」
「 すご い ・・・ 」
「 クビクロは本当に忠実で賢いワンちゃんね。
彼が これを使えって教えてくれたのよ。 」
「 そうですか! ・・・ やあ 相棒。
ありがとうな ・・・ よくやったなあ〜〜 」
くうん〜〜 ♪♪
むちゃむちゃ撫でてもらいジャーキーのオヤツも貰い クビクロは
大喜びだ。
「 ふふふ ・・・ 相棒 なのね 」
「 そうです。 ずっと・・ 一緒です。 」
「 ― わたし は ・・・? 」
「 え あ ひ 姫様は 」
「 フランソワーズ よ 」
「 あ ・・・ え〜〜〜 ふ ふらんそわーず は
大切な な 仲間です! 同士です! 」
「 相棒 にはまだなれないのねえ ・・・ 」
「 え そ それは〜〜 」
ジョーはもう 真っ赤になってどぎまぎしている。
「 ふふふ ごめんなさい。 はい 仲間で同士です!
少し休憩してゆきましょう ジョーは疲れているはずよ? 」
「 すいません ・・・・
あれ ・・・? あの怪物の死骸も消えたのに ・・・
ここの地面 まだカチカチですねえ 」
ジョーは コンコン・・・と足踏みをする。
「 そうねえ ・・・ ああ あの雲がお日様を
邪魔してるからかもしれないわ 」
「 ふうん ・・・ 空の雲まで支配しているのか・・・? 」
「 ! そうだわ ・・・ この指輪でお日様に光を援けて
いただきましょう! ね? 」
フランソワーズは 首から下げていた金の鎖をたぐり 見事な指輪を
掌に乗せた。
「 それ・・・ ぼくがいた城の森を救ってくださった
光の指輪 ですね! 」
「 ええ 次の西班牙国王となられる方から拝借したの。
この指輪で太陽の光を呼び寄せましょう 」
「 この地を 豊かな農耕の地 に戻さないといけないですよね 」
「 はい。 ― 光と熱と優しさの太陽よ ・・・ 」
フランソワーズは 指輪を頭上高く大空に向かって差し上げた。
どうぞ この指輪を目当てに この地域に ― 光のチカラを!
「 ・・・! 雲が! 」
ジョーたちの頭上に重くのしかかっていた厚い雲が ゆるりと動き始めた。
「 見て! 間から青空が見えてきたわ! 」
「 ホントだ〜〜 すごい すごい〜〜〜 」
「 お日様 〜〜〜〜 お願いしまああす〜〜〜 」
パア −−−−−−−
明るい光が挿してくるにつれて 辺りの空気もほんわり温かくなってきた。
「 ・・・ うわあ〜 お日様のチカラってすごいわねえ 」
「 はい! 植物たちも喜びますよね ・・・ あれ? 」
ジョーは 足元の大地に目を向けたが 首を捻った。
コンコン カツン ・・・ 大地はまだ硬い音がする。
「 う〜〜ん まだ溶けないのかあ 」
「 そうねえ 急には無理なのかしら 」
「 ― どうかなあ ・・・ でも早く潤びないと・・・ 」
太陽の光だけでは なかなか大地は潤ってはこないのだ。
空気の冷たさは 完全には消えてはいない。
「 時間がかかるのかしら でも 今が一番いい季節のはずよね
もう一度 指輪にお願いして ・・ 」
「 姫 ・・・ いえ フランソワーズ ・・・
ちょっと待っていてください 」
「 ?? なにか よい考えがあるの? 」
「 はい 」
ジョーは深くうなずくと 腰に帯びてきた剣を手に取った。
「 今 使うべき時 か ― 」
「 ― え? 」
「 ・・・ 風の精よ 大地の精よ 目覚めておくれ 」
ひゅんひゅんひゅん〜〜 ガッ !!
ジョーは 剣を引き抜き 空を切り裂き ― 大地に突きたてた。
ゆらり。 一瞬 周囲の空気が歪み大地が揺れた。
「 !? な なに・・・? 」
「 ― ふふ ・・・ぼくの願いは届いたみたいですよ 」
「 え え?? 願い? ― あ あら? 」
よう〜〜 むうう ・・・
二人の前に ひょろりとのっぽの赤毛 と 褐色の肌の大男 の姿が
現れ ― たちまち消えてしまった。
「 !! 」
フランソワーズは 目を皿のようにしたまま、凍り付いている。
「 あ やあ〜〜 風くん 大地さん 」
ジョーは 柔らかい笑顔で 親しい友を迎える様子である。
「 ・・・ あ あのヒト達・・?? 」
「 え? ああ 彼らはね 風を司る精霊 と 大地の精霊 なんですよ 」
「 風 と 大地 ですって?? 」
「 はい。 ぼく ・・・ ずっと友達なんです。
あの城で暮らしている頃から 」
「 トモダチ??? 」
「 そうです、一緒にいろんなトコ 行ったなあ〜〜
遊びトモダチ かなあ 」
「 え ええ??? 」
凍える大地を 溶かしてくれて ありがとう!
足元の地面の中から 温か味のある声が響いてきた。
ぱああ〜っと明るい笑みをうかべ ジョーは足元に語りかける。
「 この姫様に御礼してね〜〜〜
ねえ これで また豊かな実り、期待できるよね? 」
むう ・・・ 約束するぞ
「 なあ? 茶色髪のジョー 」
ひゅるん〜〜 一陣の風が二人の前に吹き寄せてきて・・・
「 これ やる。 」
風は なにか切り取ったみたいな透明の衣を差し出した。
「 へ! これ。 とっとけ〜
オレ様みたくによ〜〜 さ〜〜〜っと動ける衣さ、やるよ 」
ひら ひらひらひら ・・・・
一片の風が ジョーの腕の中に舞いこんできた。
「 これ 着れば風にのれるぜぇ〜〜 星の彼方までゆけるかもなあ〜 」
「 ・・・ え ・・・ これを ぼくに? 」
「 へっへっへ・・・ ありがとな〜〜〜
チビの頃によ お前とよぉ いろんなトコ 行けて 楽しかったっぜえ〜〜 」
ひゅるん ・・・ 風が吹き抜けて行った。
「 あ ・・・ う うん ・・・ 楽しかった よ・・・・
ぼくも ぼくも 楽しかったんだ ・・・ 風君 〜〜〜 」
ぽとぽとぽと ・・・ 温かい涙が ジョーの足元に水玉模様を描いた。
「 ジョー ・・・ だれか いたわ あなたの側に。
ねえ ・・・ のっぽで赤い髪のヒトが見えたんだけど ? 」
フランソワーズが そっと側に来てくれた。
「 ― え。 彼が 見えたんですか!? 」
「 薄い影みたいだったけど ― ジョーのお友達? 」
「 う うん ・・・ そうなんだ。
ぼくが少年の頃 よく一緒に遊んだよ
あちこち ・・・ 二人で 飛んでいって遊んだ 」
「 そう ・・・ 素敵なヒトね。 なんという方? 」
「 あ ・・・ うん。 風のジェット かな。 」
ジョーは 顔いっぱいの微笑を空に向けていた。
「 俺もいつもお前と一緒だ。 」
足元から ゆったりとした声が湧きあがってきた。
「 え??? な なんか地面から 聞こえるんだけど??? 」
フランソワーズが恐々 大地を見つめている。
「 あ ・・・ あ〜〜〜 ふふふ そうなんです。
お〜〜い 大地の精さ〜ん 姫君がびっくりしているよ ? 」
もわ〜〜〜 ほんの一瞬 大地から褐色の湯気が立ち上った。
「 あ あ ああ??? うそ・・・ 」
びっくり仰天している姫君の前に 褐色の肌の巨人が いた。
「 ― 姫 ・・・ 」
「 ・・・ あ あの フランソワーズ・ド・フランスです ・・ 」
「 驚いたでしょ でもね 彼は心優しい精霊ですよ。」
ジョーが そっと側に寄り添ってきた。
「 大地の精さん。 この地を祝福してくれますか 」
もわもわ〜〜〜ん 巨人の腕が動き 大地が潤ってゆく。
「 ・・・ むう この地はまた豊かになる。
これからはこの地の全ての精霊は お前達の味方だ 」
「 ありがとう! 」
「 ここの土を少し持って行け。 どこの地に落ちても
そこは 祝福された豊かな大地になる。 」
「 まあ・・・そうなの? ありがとうございます! 」
フランソワーズは 地に屈みこむと 白い手で土を掬いあげた。
豊かな大地よ ―
どうぞ しっかりとこの国に根付いてください
そして 国中が豊かになりますように ・・・!
「 ・・・ 安心して ゆけ ・・・ 勇敢な二人よ 」
大地からの声は それきり ― 聞こえなくなった。
「 ― ねえ 彼もジョーのお友達? 」
「 あ はい ・・・ 母が紹介してくれました ・・・
ぼくは 風と大地が 樹々と動物たちが トモダチだったんです 」
「 素敵な少年時代ね ! 」
「 ― ありがとう フランソワ―ズ ・・・ 」
淡い笑みを交わし合い 二人ともほわ〜〜んとココロが
温まってきていた。
「 ねえ ジョー。 さっき ・・・ 嬉しかったわ 」
「 ?? 剣のことですか? 」
「 ううん ・・・ 蜘蛛男との闘いのとき。
アイツが ヒルダ妃さまについて、酷いことを言ったでしょう? 」
「 はい。 許せないです! 」
「 そうよね ジョーは真正面から あの傷痕は勇気の証 って
言ってくれたでしょ 」
「 だってそうでしょう? あの黒い悪魔とサシで格闘する なんて
すごいですよ〜〜〜〜 」
「 そう ・・・ ジョーは ヒルダ妃様の あの傷痕 ・・・
なんとも思わない? 」
「 そりゃ ・・・ 治療は大変だったろうなあ〜 お辛かっただろうなあ
って思うけど なんかちょっとうらやましいです 」
「 羨ましい??
」
「 はい。 皇帝陛下は あの傷痕をとても愛でていらっしゃる。 」
「 ・・・ ええ ええ ・・・ 」
「 あのお二人は 本当に心から愛しあっているんです いいなあ 」
「 ― ありがとう ・・・・
傷痕が 羨ましいって言ってくれたのは − ジョーが初めてよ 」
「 そうですか? だって素敵なカップルですよねえ 」
「 ・・・ 」
フランソワーズは 立ち上がると黙って上着をとり
チュニックのボタンを外し −
「 ひ 姫様! な なにを・・・ 」
「 見て。 」
「 へ・・・? 」
「 見て。 わたしの背中。 この傷痕を
黒い悪魔が 引き裂いていった痕を。 」
「 え ・・・・ う ・・・・ 」
白いしなやかな背中には ひどい引き攣れのある傷痕が
数本 ・・・ 縦に走っている。
それは初雪を踏みにじったがごとく 無残なものだった。
ジョーは 一瞬息を呑んだが すぐに姫の背中にそっと掌を当てた。
「 ぼくは − 誇らしいです。
でも 寒そうですよ〜〜〜 ほら背中がくしゃみしちゃいます 」
ジョーはごく自然に彼女の肩に シャツ・ブラウスをかけ
白い半裸の姿を 隠した。
「 ! ・・・ あ ・・・ ありがとう ジョー ・・・ 」
姫も 涙を目尻に挟みつつ 絹のシャツ・ブラウスを羽織った。
「 このことを知っているのは家族だけなの。
お父様 亡くなったお母様 そして 兄さまだけ・・・
でも − 誇らしい と言ってくれたのは
・・・ ジョー だけです 」
「 姫・・・ いえ フランソワーズ ・・・
きみは ぼくの誇り です。 」
「 ジョー ・・・ ありがとう ! 」
「 ・・・ 」
ジョーは す・・・っと手を差し出した。
フランソワーズは 自らの手を預けた。
さあ。 行きましょう !
行こう ! 一緒に。
北方の大地は 目の前だ
Last updated : 11.23.2021. back / index / next
********** 途中ですが
相変らず つまらない展開で恐縮です <m(__)m>
・・・ 止めたほうがいいかも ・・・ ( ;∀;)