『  伝説  ― (6) ―  』

 

 

 

これは 遠いとおい昔の そして 遠いとおい外国 (とつくに)

でのお話です。

 

      いつの頃のことか・・・って? 

      どこの国のことか・・・って?  

 

      さあ ・・・・

    

      ― 貴方のお好みのままに・・・

 

 

 

 

*********  独逸帝国から 北へ!

 

 

  ♪♪ 〜〜〜  ♪♪♪ 〜〜〜

 

心地よい調べが広い部屋の中に流れる。

皇帝の家族が集う広間で 誰もがゆったりとした気分になっている。

時折 囁きあい軽食をつまみ 湯気のあがるカップやら

クリスタルの酒杯を傾けている。

 

「 ・・・ ああ 久し振りだわ アルベルト兄様の演奏・・・ 」

「 ふふふ  ワシもこのひと時がほんに好きでのう 」

 

藤の長椅子に繻子のクッションをたくさん置き

先の老皇帝は ゆったりと身体を預けている。

その足元に フランソワーズ姫が孫娘のごとく 寄り添っている。

この二人も 低く呟きあっている。

 

「 あら ヒルダ様はぴったりと側についていらっしゃいますのね 」

「 嬢や ・・・ 演奏時はあの二人の大切なプライベート・タイム

 なのじゃよ 」

「 わあ ・・・ 素敵・・・!  本当にお似合いのお二人だわ 

 コズミのおじ様。  お国の宮廷は幸せいっぱいですね 」

「 ・・・ そのために失ったものも多いが ・・・

 あの二人は 決して後悔はしておらんのだよ 」

「 ・・・ まあ ・・・ 」

「 皇帝と皇妃でなくても 姿形を、時代を、場所を変えても・・・

 あの二人は巡りあい手を取りあうじゃろなあ 」

「 ・・・ 羨ましいです 」

「 嬢や。  そなたもようく目を開いて周りを見ておきなされや 」

「 はい ・・・ え 周り? 」

フランソワーズは 身を起こしきょろきょろと周囲を見回す。

 

 豪華な宮廷のサロン ― 集うのは家族だけ 見知った顔ばかり。

 皆 微笑みゆったりと話をしたり 会話を楽しんでいる。

 いい香りと共に 優雅な音楽が流れ ・・・

 

「 ― でも ここには ・・・ 」

「 ふぉ ふぉ ふぉ ・・・ おや? 」

 

     きゅう〜〜〜ん  くう〜〜〜ん 

 

茶色毛の犬が 先の皇帝の足元でハナを鳴らし甘えている。

先ほど ジョーが部屋に連れきたのだが 彼はすぐにこの老王の

側に ひっついたのだ。

 

「 なにかね?  なにか・・・食べるか? 」

「 あ コズミのおじ様〜〜 大丈夫、 さっきビーフ・ジャーキーを

 たくさんもらっていますのよ 」

「 ふん?  このワン君はなにか言いたいらしいのう ・・・

 あ? ・・・ うん うん  」

コズミ王は クビクロの側に屈みこみ顔をくっつき合わせている。

「 なに?  ・・・ ほうほう・・・ ふん ・・ 」

「 コズミのおじ様  犬の言葉がおわかりになるの? 」

「 ふん ふん ・・・ あ?  嬢や いやあ ・・・

 この真剣な顔をみていれば 言いたいことは察しがつく 」

わかったよ、と コズミ王はクビクロのアタマを 軽く叩いた。

「 お前さんの望み通りにしてやろうなあ 」

「 ?? 」

「 え〜〜と ・・・・ ああ そこの君 ちょいと来てくれるかな 」

「 はい! 」

愛犬の様子に気を配り控えていたジョーは 文字通り跳びあがり 

この老いた王者の側にやってきた。

「 はい 陛下! 」

「 ふぉ ふぉ  そんなに緊張しないでおくれ ・・・

 君 え〜と・・・ 」

「 ジョー といいます 陛下 

「 そうそう ジョー君。  東の血脈を持つ若者じゃったな 」

「 御意 ・・・ 」

「 君、 先ほど姫君から預かった小箱、ちょいと貸しておくれ 

「 はい?  あ ― 常火の種 ですね! 

「 うむ 」

「 あ の・・・? 」

ジョーはちらり、とフランソワーズ姫の方を見た。

「 いいのよ お渡しして。 コズミのおじ様が造られたモノですもの 」

「 は ・・・ これを 」

彼は恭しく 懐からそれを差しだした。

「 すまんのう〜〜  ・・・ これは なあ クビクロくん? 」

 

    くう〜〜〜ん  わんっ!!!

 

「 君に預かってもらおうか。 誰よりも勇敢な犬よ 」

 

    わん!  

 

クビクロは ― 全てをしっかりと悟ったのか ・・・

老王が その小箱を彼の背嚢に詰めるのを じっと控えていた。

「 いいかい。 いついかなる時も主の供をせよ。 

 そして お前が主のために心底怒った時  ―  主に差し出せ 」

 

    ―  わん。  

 

茶色の瞳がじっと老人をみつめ 次にジョーを見つめた。

「 よいかな ジョー君や 

「 は! 」

「 そしてな  この嬢やを ワシの可愛い嬢やを護ってくれよ 

「 命に替えましても。 」

「 なあ ジョ―君。  そなたに使命を与えよう。

 いついかなる時も フランソワ―ズ姫を護れ。

 命を投げ出すことは許さん。 ぼろぼろになっても生きて姫を護れ。

 這いずってでも生きて姫の元に戻れ そして 護れ。 」

「 ・・・ 」

 ぐ ・・・っと 一瞬 ジョーが言葉を詰まらせた。

「 とてもとても困難で苦しいことを 委ねてしまった ・・・

 しかし ― 宜しく頼むよ ナイト・ジョー そして クビクロ君 」

 

     はいっ   わん。  

 

大地色の主従はしっかりと頷いた。

これ以後 常火の種 は クビクロが背負ってゆくことになる。

 

「 コズミのおじ様 」

「 ほい なんじゃね 嬢や 」

「 あの ですね。 しっかり護る のは わたしの役目ですわ 」

「 ふぉ ふぉ ふぉ ・・・

 まあ〜〜 相変わらずのジャジャウマ姫だのう〜〜 」

「 だあって わたし達伝説のコンビで 

 これから あの! 黒い魔物を討伐して 北の皇帝のお力に

 なりにゆくのです! 

「 ―  嬢や。 無事に戻っておいで。

 お前さんだけじゃない ナイト君もその忠実なわん君も な 」

 

   ふぁさ・・・ 老いた手が 温かい手が 金色の髪を撫でた。

 

「 ―   はい ! 

「 さあ ・・・長い旅になろう・・・

 出発前の一夜、 どうか我が城でゆるりと過ごされよ。

 もちろん この忠実なわん君も一緒にな 

「 コズミのおじ様 ありがとうございます。 」

フランソワーズ姫は 先の皇帝であり今は穏やかに微笑んでいる老爺の

手をとると 騎士の礼として恭しく礼を述べた。

 

 

   ふぁさ ・・・・

 

絹の夜具に潜り込み 羽根枕に金色の髪を散らばせる。

「 ・・・ う〜〜ん ・・・ ああ さすがに疲れたかな・・・

 あら ここもイラクサの香が・・・? 」

フランソワーズはそっと夜具を持ち上げてみる。

「 ・・・ ああ この寝台にもイラクサのマットが敷いてあるのね?

 とてもいいわあ ・・・ 

 帰ったら お父様にお願いして仏蘭西王国でも使うようにしたいなあ

 北の地域だったら いいイラクサが生えると思うのね〜〜 

腹這いになり 香ばしいかおりを楽しむ。

「 香だけじゃないわねえ・・・ なんだか 身体全体がのびのびするの。

 あ。  ジョーはこんな敷きモノを使っている国のヒトなのねえ・・・

 これは ― 仏蘭西王国でも 要検討だわ 

さすが父王を援けて政務も手伝っていた王女、 ただのふわふわした

オンナノコではないのだ。

 「 ふう〜〜 ・・・ アルベルト兄様 お幸せそう・・・

 よかった ・・・ ヒルダ様の笑顔って最高ね 

  ―  わたし?   まず 黒い魔物 を討伐するの。

 

     それから?  ―  それから ・・・

     ・・・ う〜〜ん

 

     ま その時に考えるわ

 

 ふぁ〜〜〜〜〜  姫君は 大欠伸をすると すとん・・・と

眠りに落ち いとも健康な寝息をたてはじめた。

 

 

    ごろごろ ぱたん ・・・  ごろん ぱたん。

 

このふかふかの羽根布団の寝台に入ってから

ジョーは何百回 寝がえりを打ったことだろう ・・・ !

 

 ― 最初に 彼もすぐに気付いた。

 「 うわ・・・ ふっかふかじゃん〜〜〜   あれ ・・・? 」

ブランケットを持ち上げただけで すぐにわかったのだ。

「 お〜〜  これって ・・・ 例のイグサの帷子の香りだ !

 ああ 敷きモノになってここにも使ってあるんだなあ  

ほんのり温かい寝台の中で 彼はその香りを存分に楽しんだ。

「 う〜〜〜ん ・・・・ いいなあ  なんでだかわからないんだけど

 この香をかぐと こう〜〜〜 ごろん、とそのまま寝ころびたくなるんだ 」

彼は国境の森で 妖精の城で育ったのだが

育ての母は いつもこんな香のする夜具を準備してくれていた。

 

「 あ〜〜 またいいにおいだあ〜〜 」

チビのジョーがはしゃいでいるのを 母はにこにこ・・・眺めていた。

「 かあさん  ぼく このにおい 好き! 」

「 そう よかったわ ・・・ これはね イラクサを干した香。

 ほら ・・・ ベッドの中にイラクサのマットが敷いてあるの。

 ジョーの故郷に国では 皆が使っているそうよ 」

「 ふうん・・・ あ だからぼくとかあさんもここでつかうの? 」

「 そうねえ  さあ いいにおいの中でお休みなさい 」

「 うん ・・・ あ ねえ かあさん 」

「 はい? 」

「 おはなし〜〜〜  おはなし して〜〜 」

「 まあ ジョーは 甘えん坊さんねえ・・・

 それじゃ ・・・ 東の果ての国、 木と紙と布でできた国のおはなしです 」

「 ・・・ 」

母は 白い手で彼の大地色の髪をなで 低い声で物語るのだった ・・・

 

 

「 そうだった そうだったよ〜 ああ 忘れてたな ・・・

 ぼくはすぐに眠ってしまうから ― かあさんのお話、いつも途中なんだ

 あの結末はどうなったのかなあ 」

香ばしい匂いは 懐かしく甘酸っぱい思い出をゆり起こす。

「 うん ・・・ なんかさ この香ってぼくにとっては幸せの匂いかな

 ・・・ シアワセ ・・・か。 」

う〜〜〜ん ― ジョーは羽根布団の中で大きく伸びをした。

「 ぼくにとってのシアワセ って。

 なにかなあ ・・・ 仏蘭西王国の騎士になれてすっげ♪って思って・・・

 ますます鍛錬しなくちゃな〜〜って思って

 

    あ。  ・・・ フランソワーズ姫君  ・・・   

 

彼の心のなかに  ぱあ〜〜〜〜っと 彼女の笑みが広がった。

 

「 ・・・ かっわいい〜〜んだよなあ・・・・ 」

 

   はあ〜〜〜〜 ・・・・  今までとは違う吐息が漏れた。

 

「 あんなに勇敢で武術の心得もある女の子って 初めてだよ〜

 それで 姫君 なんだぜ?  ふつ〜のドレス姿でも超可愛いし・・・

 でもさ あの狩猟服で白馬に跨ってさ・・・ かっけ〜〜〜し♪

 なんか ― 好きなんだ ああいう女の子 ・・・ 」

 

     でも。 一国の姫君 なんだよなあ 〜〜

 

     高嶺の花 って まんまだよう・・・

 

「 う〜〜〜ん ・・・ むり かなあ ・・・ 」

ジョーはまた羽根布団の中で呻吟していたが ― そこは健康な青少年。

たちまち睡魔の虜となってしまった。

 

   くうん? ・・・ くん ・・・

 

寝台の下に控えていたクビクロも 伸びあがって主の寝息をたしかめた。

そして 主の足元に ぱふん・・と 伏して眠ってしまった。

 

   独逸皇帝の宮殿に 穏やかな夜の帳が降りていった ・・・

 

 

 ― 翌朝。  

 

早朝には水色の空に小さく雲が散らばっていたが やがて太陽の光の元

消えていった。

 

王城の大きな表門の前には 二騎が轡を並べ隣には茶色毛の犬が

ぴん!と耳を立て 座っていた。

 

「 ありがとうございました。  皇帝陛下 」

金色の髪を揺らし 狩猟服姿の騎士が挨拶をする。

王城の、いや この帝国の主がわざわざ送りに御出座しくださったのだ。

「 うむ ・・・ そなたも息災で使命を果たされよ 」

皇帝は四角張って返答したが 目は笑っている。

「 御意。 皇妃陛下にはくれぐれもお身体おいといくださいますよう 」

「 ありがとう。    騎士・ジョー殿?  」

彼は 側に控える若い騎士にも声をかける。

「 は 陛下 」

「 そなたの主を護れ。 」

「 は。 命に代えましても。 」

側に控える青年騎士は 恭しく頭を垂れる。

「 わんっ! 」

「 おお そうだったな ここにも頼もしい騎士がいたな 」

彼の足元で 茶色毛の犬が盛大に尻尾を振っている。

「 ナイト・クビクロ?  振り落とされるなよ 」

「 わんっ 」

「 ・・・ それっ  馬くん よろしく頼む 

皇帝自らに 馬の背に乗せてもらい クビクロは得意気に

辺りを見回している。

 

「 ―  っと。  じゃあね アルベルト兄様〜〜

 いってきまあす〜〜〜  コズミのおじ様にもおよろしく! 」

金髪に騎士は にわかに高声になると ぱっと皇帝・・・いや

幼馴染の青年に 抱き付いた。

「 おっと・・・ ふふ 小さなファンション いいか 十分に気をつけろよ?

 独逸国内なら この俺が目を光らせているが  − 」

「 いいのよ〜〜〜 お兄様は ヒルダ様を気遣って差し上げて?

 帰りにまたお邪魔しますね ・・・ 赤ちゃんのお顔を拝見しに♪ 

「 ありがとう。  − お前さんもなあ そろそろ 」

「 あら なんのこと?  では ・・・ 」

金髪の騎士、 いや フランソワーズ姫は一礼し騎乗のヒトとなった。

 

      行って参りまあす〜〜〜〜〜 ! 

 

二騎は大きく手を振り 王城の門から静かに出立していった。

 

 

   カッポ カッポ カッポ  −−−−

 

独逸帝国内は 普請がとてもゆき届いており、交通の便がよい。

発明好きの先代、コズミ帝が国内の幹線道路を整備し

現在はインフラの充実に邁進している。

広い道路が四通八通しており 民たちはゆったりと行き交う。

 

「 ふうん ・・・ 歩きやすいわねえ 馬にも優しい道だわ 」

「 はい とても楽です。 」

「 そうよねえ・・・ ウチもこのような事業をしっかりしなくちゃ 」

「 あ でも 巴里は道も平らで 」

「 巴里は ね。 他の地域でも必要でしょう?

 ウチは ほら・・ず〜〜〜っと南部を抜ければ地中海よ 

 交通の便がよければ もっと商業が栄えるわ 

 巴里にも沢山の産物が入ってくるわね 

「 あ そうですねえ 」

「 いろいろ・・・ やるべきことは多いわ。 

 報告してジャン兄上をお助けしなくちゃ・・・・  」

「 姫様ならできます!  −  あれ? 」

「 なあに? 」

騎士・ジョーは す・・・っと馬を止めた。

「 どうしたの 」

「 後ろから −  誰か馬を走らせてきます・・・ 早馬だ ! 」

「 え ・・・ お父様からのお使いなら ルイかシャルルがくるはずよ 」

「 お父上様からではないような・・・ 

 あ  旗を背負ってます あれは − 」

「 うん?  ・・・ ああ あれは 大英帝国 の旗よ!

 イングランド国王、ブリテン王の御旗だわ〜〜〜 」

振り返った姫君は すぐに歓声をあげた。

「 え ・・・ イングランド王が?? 」

 

    ドドドド ―−− ・・・・  

 

茶色毛で額に白の星を頂く駿馬が 土煙を上げて駆け寄ってきた。

「 あら。 」

フランソワーズ姫は 遠目に確認すると馬首を巡らせた。

「 姫様? どうかなさいましたか 」

「 あの使者・・・ ウチの使者の一人だわ?

 とても馬の扱いが上手なの。  万が一の時には伝令になるの 」

「 え!  ・・・ な なにか国元で?? 」

「 それは大丈夫。 真の危機にはまずルイかシャルルが飛ぶのよ 」

「 はあ・・・ ちゃんと決まっているですね 」

「 徹底した危機管理は 為政者の第一歩です。 」

「 はあ ・・・ 」

 

     すげ〜な ・・・

     ただのお転婆・跳ねっ返り娘 じゃないよ

 

     しっかり 自分の役割を心得てるんだ

 

ジョーは なぜだか自分自身のコトみたいに誇らしく嬉しいのだ。

 

「 じゃあ なにか他のご用事での急ぎの使者ですか 」

「 そのようね ・・・ ああ あの旗を上げている、ということは

 イングランド国王のお使いでもある、ということよ 」

「 はあ ・・・ なるほど ・・・ 」

 

    ひえ〜〜〜  すっげ〜な〜〜

    遠目でちらっと見ただけで 

    瞬時に判断できるんだ??

 

    ・・・ ぼくに できる か??

 

ジョーは またまた考え込んでしまった。

 

「 お〜〜い しばし 待たれよ〜〜〜  

 そこに行かれるのは 仏蘭西王国の姫君様ですかあ〜〜〜 」

 

早馬を駆る使者が 声が届く範囲までやってきた。

「 いかにも。  お前は ― 早馬使者の オーギュストね? 

「 あ 姫様〜〜〜   へい オーギュストが早馬の知らせを

 お持ちしました。  

使者は馬から飛び降り 姫君の前に肩の荷を差し出した。

「 お父上・ギルモア国王陛下からの お知らせです。

 え・・・ イングランド国王陛下の親書がへえっておりますです〜〜  」

「 まあ イングランドの?  

 ご苦労様。  馬さんも一緒にゆっくり休んで頂戴。

 帰りはのんびり行っていいから。 左手に草地があって

 小川が流れているわ  馬さんを休めてあげてね 」

姫君は ぽん、と金貨を数枚、絹ハンカチに包み 使者に与えた。

「 これは ・・・ へへ〜〜〜

 フランソワーズ姫様ぁ〜〜〜  いつもいつもありがとうごぜえやす 」

使者は喜び 馬を連れて草地めざし去っていった。

 

「 ― えっと・・・ 」

フランソワ―ズ姫は 馬を降りると街道脇に寄った。

そして ゆっくりと運ばれてきた小さな荷を開けた。

 

使者が届けた袋の中には 父王からの書状と小ぶりな包が入っていた。

姫はすぐに父からの手紙を開いた。

 

「 ふ〜〜ん ・・・  

「 姫様? 」

「 あ ああ お父様からね  わたし達が出発した後で

 ブリテン王から使者が到着したのですって。

 それで早馬を仕立てて 後を追ってきたのよ 」

「 やはり イングランド国王様からですか 

「 そうね  あ この包がブリテン王陛下からのお届けものね

 印章つきの書状が付いてるわ  なになに・・・

 

    敬愛する仏蘭西王国の フランソワーズ姫君

 

  可愛いレディ  そなたの討伐の旅の仔細、お父上から伺った。

  吾輩も もう30年若ければ嬉々として馳せ参じるところだが

  なにせ 耄碌老体 ・・・ 残念至極。 申し訳ない。

  これは老骨からの献上品なり。 魔法の果実 なり。

  お収めあれ。

 

書状の付いていた木箱を開けてみれば ― 

 

        掌ほどの 赤い宝玉の塊のような果実。

 

「 あらあ これ ・・・・?  あ 続きがあるわ 」

「 姫様 よろしければ読み上げてくださいますか 」

「 ええ よくてよ。  あらあら 随分気楽な文面になってるわ ・・・

 え〜〜とねえ・・・

 

「 これは な。 小生が東の大国の皇帝・張からもらったものでな。

 決して餓えることがない、という果物なのだよ。

 食糧に難渋するとき この実を一粒 齧ればよい。

 最低一日は 元気で空腹感も消えるという果実なのだ。 」

 

「 ・・・ ですって。 

「 うわあ でもそんな珍しいモノを頂く訳にはゆきませんよねえ 

「 そうねえ ・・・ ふふふ でもね ブリテン王陛下ってね〜

 とても剽軽で愉快な方なの。 わたし 小さい頃 よく遊びに行ったの。

 亡くなったわたしのお母様はイングランド王家のご出身だから・・・ 」

「 ご親戚ですか ・・・ いいですねえ〜〜〜 

ジョーは少し羨ましそうだ。

「 そう? 欧州の王家はねえ 皆 どこかで縁続きだから 

 だいたいお顔を存じ上げているの。 

 あら まだ続きあがるわ ・・・ えっと 」

 

「 遠慮はいらぬよ もってゆけ。 石榴とかいう伝説の樹の実だそうだが

 ああ 馬や犬・猫にも 安全、とのことだ。

 馬くん達にも役立つと思うぞ  達者で!

 また 遊びに来ておくれ  姫の元気な笑顔を待っているよ

                      ブリテン伯父より  」

 

「 しっかりお持ちしましょう!  

 うん ― これは旅の何よりの援軍かもしれません。 」

ジョーはなぜかとても得心した様子なのだ。

「 ジョー様  なにかご存知なの? 」

「 はあ ・・・ 母から聞かされた逸話なのですが

 東洋の大国・中華には 不思議な木の実があって・・・

 汪桃 ( おうも ) という名なのですが ― これは一粒口にいれれば

 即座に満腹となり身体中に力が漲る。

 120年に一度だけ 花が咲き 実が生るそうです。 

 その零れ種が 欧州まで鳥やら虫に運ばれてきて 石榴 となった と 」

「 そうなの〜〜〜〜〜  全然知りませんでした。

 ジョー様は 本当にいろいろ知っていらっしゃるのね すごい〜 」

「 あは  姫 これは 母から聞いたのですってば。

 ほら・・・ ぼくの母は 世界中に飛んでゆけるから 」

ジョーは 国境の伝説の城で 妖精・ヘレンに育てられたのだ。

「 素敵よねえ ・・・ これ 見かけよりずっと重いわ 」

「 はい。 この木箱に入れて大切に持ってゆきましょう 」

「 そうね そうね   グレート伯父さま〜〜 

 ありがとうございまあす 〜〜〜 」

フランソワーズ姫は 西方に向かって祈りをささげ

大きく手を振った。

 

    あれ  ・・・ ?

    なんか 透明な羽根 がみえるよ 

    姫様の 背中に ・・・・

 

    ― ああ この方も 妖精 なのかも・・・

 

ジョーはますます眩しい想いで 彼女を見つめていた。    

「 姫様は 遠目が利くのですねえ  すごいなあ 

 ほら さっきすぐにイングランドの旗 っておっしゃいました 」

「 遠目?  あら そんなこと なくてよ。

 ただ ― 遠くをよく見ていたから  小さい頃 ・・ 」

「 ?? 」

「 その頃ね ジャン兄様はまだまだお怪我から回復なさっていなくて

 ほとんど寝たきりだったの。 

 でもね 身体は傷ついても心は意気軒昂でいらしたから

 窓辺に寝台を運ばせて いつも外をみていらしたわ。 」

「 すご ・・・ 」

「 わたし う〜〜〜んと窓から乗りだして

 みられるかぎりの景色を お兄様にお知らせしていたの。 」

「 それで とても遠くまで見えるのですね 」

「 そうかも ・・・ それとね その時から小鳥さん達とは

 トモダチになって おしゃべりできるようになったの。 」

「 うわあ いいなあ ・・・

 あ ぼくも窓辺にくる小鳥さんと話してました あの城で 」

「 あら いいわねえ〜〜 ジョーさんもお城の窓辺で

 過ごされることが多かったのね 」

「 はい。 母が帰ってくるのを待つことが多かったので・・・

 小鳥や虫たちは ぼくの友人でした 」

「 素敵!  ― ねえ わたし達 とても似たもの同士 ね! 」

 

     きゅ。  

 

姫君は とてもとても無邪気に あっけらか〜〜〜んと 堂々と?

ナイト・ジョーに抱き付いた。

 

     ― うわああああ〜〜〜〜〜〜〜〜 

 

ジョーは  ―   かっちん。   真っ赤になって固まっていた。

 

   くうん?  ふぁふぁふぁ〜〜  クビクロが面白そう〜に眺めてた。

 

 

  

  カッ カッ カッ   カポカポ カポ 

 

二騎は順当に国境の近くまでやってきた。

北の国境地帯 ―  そこは穀倉地帯になっている。 

広々と続く畑に ある地域には麦が 別の地域にはジャガイモが

青々と葉を茂らせ 風に揺れている。

それは まるで海原の波にもにて 民たちは緑の海 と讃え

大切に育て誇りにしていた。

勿論 独逸帝国の重要な食糧庫でもある。 

コズミ先帝が 灌漑施設も充実させ 作物の品種改良なども推進したので 

最近は不作知らずの豊かな地域となっていた ・・・

 

  ―  ところが。

 

「 ・・・ あら?  ねえ あそこ 見て 」

フランソワーズ姫は 視線の先にひろがる空を指した。

「 雲 ・・・ ですね。 いや それにしては不自然ですね。

 低すぎる ・・・ あれは 天然の雲 とは違います 」

「 そうよね! 今は あんな黒雲が覆いかぶさる時期じゃないし

この地域の天候とは 違うわ 」

「 はい。 ― なにか嫌な予感がします 行きましょう! 」

「 ええ 」

 

    カッ カッ カッ  !!!

 

二人は愛馬の脚を すこし速めさせた。

 

 そろそろ夏が来るのに 黒い雲が広がりお日様の光を邪魔しているのだ。

 

「 いやな雲ね・・・ 魔女・タマアラの時とも違うわ。

 あの時は 森が枯れていたわね 」

「 そうですね。 姫様 このままでは穀倉地帯に被害がでます。 」

「 まずは調査だわ。 黒い悪魔が絡んでいるかもしれない。 」

「 はい。 」

 

    カン カン カン −−− 

 

馬の足音が変化してきた。

二人の愛馬たちも なにか歩きにくそうで速度も落ちてきた。

 

「 ― 止まって。 降りて調べるわ 」

「 姫君。 ぼくが先に行きます!  あ クビクロ ? 」

「 うわんっ!!! 」

ジョーが止める間もなく 茶色毛の犬は馬から飛び降りた。

 

   クンクンクン ・・・  ヴ 〜〜〜〜〜〜〜

 

クビクロはしきりに大地を嗅ぎまわり 威嚇している。

「 どうした? なにかあるのかい  」

ジョーもすぐに下に降り 大地に手を当てている。

「 ・・・・ 」

「 ジョー様?  なにが起きているの? 」

「 姫君。  これは ― 大事です! 」

「 ・・・ なに・・・? 」

「 大地が  カチカチに固まっている ・・・! 」

「 凍っているの? 」

「 いえ  冷えてはいなのですが ― カチンカチンなのです! 」

 

    ゾワゾワゾワ −−−−  空気の色が変わった。

 

 

Last updated : 11.16.2021.           back     /     index     /    next

 

**********  途中ですが

やっと出発 ・・・・

つまらない話で すみません <m(__)m>