『 伝説 ― (6) ― 』
これは 遠いとおい昔の そして 遠いとおい外国 (とつくに)
でのお話です。
いつの頃のことか・・・って?
どこの国のことか・・・って?
さあ ・・・・
― 貴方のお好みのままに・・・
********* 独逸帝国から 北へ!
♪♪ 〜〜〜 ♪♪♪ 〜〜〜
心地よい調べが広い部屋の中に流れる。
皇帝の家族が集う広間で 誰もがゆったりとした気分になっている。
時折 囁きあい軽食をつまみ 湯気のあがるカップやら
クリスタルの酒杯を傾けている。
「 ・・・ ああ 久し振りだわ アルベルト兄様の演奏・・・ 」
「 ふふふ ワシもこのひと時がほんに好きでのう 」
藤の長椅子に繻子のクッションをたくさん置き
先の老皇帝は ゆったりと身体を預けている。
その足元に フランソワーズ姫が孫娘のごとく 寄り添っている。
この二人も 低く呟きあっている。
「 あら ヒルダ様はぴったりと側についていらっしゃいますのね 」
「 嬢や ・・・ 演奏時はあの二人の大切なプライベート・タイム
なのじゃよ 」
「 わあ ・・・ 素敵・・・! 本当にお似合いのお二人だわ
コズミのおじ様。 お国の宮廷は幸せいっぱいですね 」
「 ・・・ そのために失ったものも多いが ・・・
あの二人は 決して後悔はしておらんのだよ 」
「 ・・・ まあ ・・・ 」
「 皇帝と皇妃でなくても 姿形を、時代を、場所を変えても・・・
あの二人は巡りあい手を取りあうじゃろなあ 」
「 ・・・ 羨ましいです 」
「 嬢や。 そなたもようく目を開いて周りを見ておきなされや 」
「 はい ・・・ え 周り? 」
フランソワーズは 身を起こしきょろきょろと周囲を見回す。
豪華な宮廷のサロン ― 集うのは家族だけ 見知った顔ばかり。
皆 微笑みゆったりと話をしたり 会話を楽しんでいる。
いい香りと共に 優雅な音楽が流れ ・・・
「 ― でも ここには ・・・ 」
「 ふぉ ふぉ ふぉ ・・・ おや? 」
きゅう〜〜〜ん くう〜〜〜ん
茶色毛の犬が 先の皇帝の足元でハナを鳴らし甘えている。
先ほど ジョーが部屋に連れきたのだが 彼はすぐにこの老王の
側に ひっついたのだ。
「 なにかね? なにか・・・食べるか? 」
「 あ コズミのおじ様〜〜 大丈夫、 さっきビーフ・ジャーキーを
たくさんもらっていますのよ 」
「 ふん? このワン君はなにか言いたいらしいのう ・・・
あ? ・・・ うん うん 」
コズミ王は クビクロの側に屈みこみ顔をくっつき合わせている。
「 なに? ・・・ ほうほう・・・ ふん ・・ 」
「 コズミのおじ様 犬の言葉がおわかりになるの? 」
「 ふん ふん ・・・ あ? 嬢や いやあ ・・・
この真剣な顔をみていれば 言いたいことは察しがつく 」
わかったよ、と コズミ王はクビクロのアタマを 軽く叩いた。
「 お前さんの望み通りにしてやろうなあ 」
「 ?? 」
「 え〜〜と ・・・・ ああ そこの君 ちょいと来てくれるかな 」
「 はい! 」
愛犬の様子に気を配り控えていたジョーは 文字通り跳びあがり
この老いた王者の側にやってきた。
「 はい 陛下! 」
「 ふぉ ふぉ そんなに緊張しないでおくれ ・・・
君 え〜と・・・ 」
「 ジョー といいます 陛下 」
「 そうそう ジョー君。 東の血脈を持つ若者じゃったな 」
「 御意 ・・・ 」
「 君、 先ほど姫君から預かった小箱、ちょいと貸しておくれ 」
「 はい? あ ― 常火の種 ですね! 」
「 うむ 」
「 あ の・・・? 」
ジョーはちらり、とフランソワーズ姫の方を見た。
「 いいのよ お渡しして。 コズミのおじ様が造られたモノですもの 」
「 は ・・・ これを 」
彼は恭しく 懐からそれを差しだした。
「 すまんのう〜〜 ・・・ これは なあ クビクロくん? 」
くう〜〜〜ん わんっ!!!
「 君に預かってもらおうか。 誰よりも勇敢な犬よ 」
わん!
クビクロは ― 全てをしっかりと悟ったのか ・・・
老王が その小箱を彼の背嚢に詰めるのを じっと控えていた。
「 いいかい。 いついかなる時も主の供をせよ。
そして お前が主のために心底怒った時 ― 主に差し出せ 」
― わん。
茶色の瞳がじっと老人をみつめ 次にジョーを見つめた。
「 よいかな ジョー君や 」
「 は! 」
「 そしてな この嬢やを ワシの可愛い嬢やを護ってくれよ 」
「 命に替えましても。 」
「 なあ ジョ―君。 そなたに使命を与えよう。
いついかなる時も フランソワ―ズ姫を護れ。
命を投げ出すことは許さん。 ぼろぼろになっても生きて姫を護れ。
這いずってでも生きて姫の元に戻れ そして 護れ。 」
「 ・・・ 」
ぐ ・・・っと 一瞬 ジョーが言葉を詰まらせた。
「 とてもとても困難で苦しいことを 委ねてしまった ・・・
しかし ― 宜しく頼むよ ナイト・ジョー そして クビクロ君 」
はいっ わん。
大地色の主従はしっかりと頷いた。
これ以後 常火の種 は クビクロが背負ってゆくことになる。
「 コズミのおじ様 」
「 ほい なんじゃね 嬢や 」
「 あの ですね。 しっかり護る のは わたしの役目ですわ 」
「 ふぉ ふぉ ふぉ ・・・
まあ〜〜 相変わらずのジャジャウマ姫だのう〜〜 」
「 だあって わたし達伝説のコンビで
これから あの! 黒い魔物を討伐して 北の皇帝のお力に
なりにゆくのです! 」
「 ― 嬢や。 無事に戻っておいで。
お前さんだけじゃない ナイト君もその忠実なわん君も な 」
ふぁさ・・・ 老いた手が 温かい手が 金色の髪を撫でた。
「 ― はい ! 」
「 さあ ・・・長い旅になろう・・・
出発前の一夜、 どうか我が城でゆるりと過ごされよ。
もちろん この忠実なわん君も一緒にな 」
「 コズミのおじ様 ありがとうございます。 」
フランソワーズ姫は 先の皇帝であり今は穏やかに微笑んでいる老爺の
手をとると 騎士の礼として恭しく礼を述べた。
ふぁさ ・・・・
絹の夜具に潜り込み 羽根枕に金色の髪を散らばせる。
「 ・・・ う〜〜ん ・・・ ああ さすがに疲れたかな・・・
あら ここもイラクサの香が・・・? 」
フランソワーズはそっと夜具を持ち上げてみる。
「 ・・・ ああ この寝台にもイラクサのマットが敷いてあるのね?
とてもいいわあ ・・・
帰ったら お父様にお願いして仏蘭西王国でも使うようにしたいなあ
北の地域だったら いいイラクサが生えると思うのね〜〜 」
腹這いになり 香ばしいかおりを楽しむ。
「 香だけじゃないわねえ・・・ なんだか 身体全体がのびのびするの。
あ。 ジョーはこんな敷きモノを使っている国のヒトなのねえ・・・
これは ― 仏蘭西王国でも 要検討だわ 」
さすが父王を援けて政務も手伝っていた王女、 ただのふわふわした
オンナノコではないのだ。
「 ふう〜〜 ・・・ アルベルト兄様 お幸せそう・・・
よかった ・・・ ヒルダ様の笑顔って最高ね
― わたし? まず 黒い魔物 を討伐するの。
それから? ― それから ・・・
・・・ う〜〜ん
ま その時に考えるわ
ふぁ〜〜〜〜〜 姫君は 大欠伸をすると すとん・・・と
眠りに落ち いとも健康な寝息をたてはじめた。
ごろごろ ぱたん ・・・ ごろん ぱたん。
このふかふかの羽根布団の寝台に入ってから
ジョーは何百回 寝がえりを打ったことだろう ・・・ !
― 最初に 彼もすぐに気付いた。
「 うわ・・・ ふっかふかじゃん〜〜〜 あれ ・・・? 」
ブランケットを持ち上げただけで すぐにわかったのだ。
「 お〜〜 これって ・・・ 例のイグサの帷子の香りだ !
ああ 敷きモノになってここにも使ってあるんだなあ
」
ほんのり温かい寝台の中で 彼はその香りを存分に楽しんだ。
「 う〜〜〜ん ・・・・ いいなあ なんでだかわからないんだけど
この香をかぐと こう〜〜〜 ごろん、とそのまま寝ころびたくなるんだ 」
彼は国境の森で 妖精の城で育ったのだが
育ての母は いつもこんな香のする夜具を準備してくれていた。
「 あ〜〜 またいいにおいだあ〜〜 」
チビのジョーがはしゃいでいるのを 母はにこにこ・・・眺めていた。
「 かあさん ぼく このにおい 好き! 」
「 そう よかったわ ・・・ これはね イラクサを干した香。
ほら ・・・ ベッドの中にイラクサのマットが敷いてあるの。
ジョーの故郷に国では 皆が使っているそうよ 」
「 ふうん・・・ あ だからぼくとかあさんもここでつかうの? 」
「 そうねえ さあ いいにおいの中でお休みなさい 」
「 うん ・・・ あ ねえ かあさん 」
「 はい? 」
「 おはなし〜〜〜 おはなし して〜〜 」
「 まあ ジョーは 甘えん坊さんねえ・・・
それじゃ ・・・ 東の果ての国、 木と紙と布でできた国のおはなしです 」
「 ・・・ 」
母は 白い手で彼の大地色の髪をなで 低い声で物語るのだった ・・・
「 そうだった そうだったよ〜 ああ 忘れてたな ・・・
ぼくはすぐに眠ってしまうから ― かあさんのお話、いつも途中なんだ
あの結末はどうなったのかなあ 」
香ばしい匂いは 懐かしく甘酸っぱい思い出をゆり起こす。
「 うん ・・・ なんかさ この香ってぼくにとっては幸せの匂いかな
・・・ シアワセ ・・・か。 」
う〜〜〜ん ― ジョーは羽根布団の中で大きく伸びをした。
「 ぼくにとってのシアワセ って。
なにかなあ ・・・ 仏蘭西王国の騎士になれてすっげ♪って思って・・・
ますます鍛錬しなくちゃな〜〜って思って
あ。 ・・・ フランソワーズ姫君 ・・・ 」
彼の心のなかに ぱあ〜〜〜〜っと 彼女の笑みが広がった。
「 ・・・ かっわいい〜〜んだよなあ・・・・ 」
はあ〜〜〜〜 ・・・・ 今までとは違う吐息が漏れた。
「 あんなに勇敢で武術の心得もある女の子って 初めてだよ〜
それで 姫君 なんだぜ? ふつ〜のドレス姿でも超可愛いし・・・
でもさ あの狩猟服で白馬に跨ってさ・・・ かっけ〜〜〜し♪
なんか ― 好きなんだ ああいう女の子 ・・・ 」
でも。 一国の姫君 なんだよなあ 〜〜
高嶺の花 って まんまだよう・・・
「 う〜〜〜ん ・・・ むり かなあ ・・・ 」
ジョーはまた羽根布団の中で呻吟していたが ― そこは健康な青少年。
たちまち睡魔の虜となってしまった。
くうん? ・・・ くん ・・・
寝台の下に控えていたクビクロも 伸びあがって主の寝息をたしかめた。
そして 主の足元に ぱふん・・と 伏して眠ってしまった。
独逸皇帝の宮殿に 穏やかな夜の帳が降りていった ・・・
― 翌朝。
早朝には水色の空に小さく雲が散らばっていたが やがて太陽の光の元
消えていった。
王城の大きな表門の前には 二騎が轡を並べ隣には茶色毛の犬が
ぴん!と耳を立て 座っていた。
「 ありがとうございました。 皇帝陛下 」
金色の髪を揺らし 狩猟服姿の騎士が挨拶をする。
王城の、いや この帝国の主がわざわざ送りに御出座しくださったのだ。
「 うむ ・・・ そなたも息災で使命を果たされよ 」
皇帝は四角張って返答したが 目は笑っている。
「 御意。 皇妃陛下にはくれぐれもお身体おいといくださいますよう 」
「 ありがとう。 騎士・ジョー殿? 」
彼は 側に控える若い騎士にも声をかける。
「 は 陛下 」
「 そなたの主を護れ。 」
「 は。 命に代えましても。 」
側に控える青年騎士は 恭しく頭を垂れる。
「 わんっ! 」
「 おお そうだったな ここにも頼もしい騎士がいたな 」
彼の足元で 茶色毛の犬が盛大に尻尾を振っている。
「 ナイト・クビクロ? 振り落とされるなよ 」
「 わんっ 」
「 ・・・ それっ 馬くん よろしく頼む 」
皇帝自らに 馬の背に乗せてもらい クビクロは得意気に
辺りを見回している。
「 ― っと。 じゃあね アルベルト兄様〜〜
いってきまあす〜〜〜 コズミのおじ様にもおよろしく! 」
金髪に騎士は にわかに高声になると ぱっと皇帝・・・いや
幼馴染の青年に 抱き付いた。
「 おっと・・・ ふふ 小さなファンション いいか 十分に気をつけろよ?
独逸国内なら この俺が目を光らせているが − 」
「 いいのよ〜〜〜 お兄様は ヒルダ様を気遣って差し上げて?
帰りにまたお邪魔しますね ・・・ 赤ちゃんのお顔を拝見しに♪ 」
「 ありがとう。 − お前さんもなあ そろそろ 」
「 あら なんのこと? では ・・・ 」
金髪の騎士、 いや フランソワーズ姫は一礼し騎乗のヒトとなった。
行って参りまあす〜〜〜〜〜 !
二騎は大きく手を振り 王城の門から静かに出立していった。
カッポ カッポ カッポ −−−−
独逸帝国内は 普請がとてもゆき届いており、交通の便がよい。
発明好きの先代、コズミ帝が国内の幹線道路を整備し
現在はインフラの充実に邁進している。
広い道路が四通八通しており 民たちはゆったりと行き交う。
「 ふうん ・・・ 歩きやすいわねえ 馬にも優しい道だわ 」
「 はい とても楽です。 」
「 そうよねえ・・・ ウチもこのような事業をしっかりしなくちゃ 」
「 あ でも 巴里は道も平らで 」
「 巴里は ね。 他の地域でも必要でしょう?
ウチは ほら・・ず〜〜〜っと南部を抜ければ地中海よ
交通の便がよければ もっと商業が栄えるわ
巴里にも沢山の産物が入ってくるわね 」
「 あ そうですねえ 」
「 いろいろ・・・ やるべきことは多いわ。
報告してジャン兄上をお助けしなくちゃ・・・・ 」
「 姫様ならできます! − あれ? 」
「 なあに? 」
騎士・ジョーは す・・・っと馬を止めた。
「 どうしたの 」
「 後ろから − 誰か馬を走らせてきます・・・ 早馬だ ! 」
「 え ・・・ お父様からのお使いなら ルイかシャルルがくるはずよ 」
「 お父上様からではないような・・・
あ 旗を背負ってます あれは − 」
「 うん? ・・・ ああ あれは 大英帝国 の旗よ!
イングランド国王、ブリテン王の御旗だわ〜〜〜 」
振り返った姫君は すぐに歓声をあげた。
「 え ・・・ イングランド王が?? 」
ドドドド ―−− ・・・・
茶色毛で額に白の星を頂く駿馬が 土煙を上げて駆け寄ってきた。
「 あら。 」
フランソワーズ姫は 遠目に確認すると馬首を巡らせた。
「 姫様? どうかなさいましたか 」
「 あの使者・・・ ウチの使者の一人だわ?
とても馬の扱いが上手なの。 万が一の時には伝令になるの 」
「 え! ・・・ な なにか国元で?? 」
「 それは大丈夫。 真の危機にはまずルイかシャルルが飛ぶのよ 」
「 はあ・・・ ちゃんと決まっているですね 」
「 徹底した危機管理は 為政者の第一歩です。 」
「 はあ ・・・ 」
すげ〜な ・・・
ただのお転婆・跳ねっ返り娘 じゃないよ
しっかり 自分の役割を心得てるんだ
ジョーは なぜだか自分自身のコトみたいに誇らしく嬉しいのだ。
「 じゃあ なにか他のご用事での急ぎの使者ですか 」
「 そのようね ・・・ ああ あの旗を上げている、ということは
イングランド国王のお使いでもある、ということよ 」
「 はあ ・・・ なるほど ・・・ 」
ひえ〜〜〜 すっげ〜な〜〜
遠目でちらっと見ただけで
瞬時に判断できるんだ??
・・・ ぼくに できる か??
ジョーは またまた考え込んでしまった。
「 お〜〜い しばし 待たれよ〜〜〜
そこに行かれるのは 仏蘭西王国の姫君様ですかあ〜〜〜 」
早馬を駆る使者が 声が届く範囲までやってきた。
「 いかにも。 お前は ― 早馬使者の オーギュストね? 」
「 あ 姫様〜〜〜 へい オーギュストが早馬の知らせを
お持ちしました。 」
使者は馬から飛び降り 姫君の前に肩の荷を差し出した。
「 お父上・ギルモア国王陛下からの お知らせです。
え・・・ イングランド国王陛下の親書がへえっておりますです〜〜 」
「 まあ イングランドの?
ご苦労様。 馬さんも一緒にゆっくり休んで頂戴。
帰りはのんびり行っていいから。 左手に草地があって
小川が流れているわ 馬さんを休めてあげてね 」
姫君は ぽん、と金貨を数枚、絹ハンカチに包み 使者に与えた。
「 これは ・・・ へへ〜〜〜
フランソワーズ姫様ぁ〜〜〜 いつもいつもありがとうごぜえやす 」
使者は喜び 馬を連れて草地めざし去っていった。
「 ― えっと・・・ 」
フランソワ―ズ姫は 馬を降りると街道脇に寄った。
そして ゆっくりと運ばれてきた小さな荷を開けた。
使者が届けた袋の中には 父王からの書状と小ぶりな包が入っていた。
姫はすぐに父からの手紙を開いた。
「 ふ〜〜ん ・・・
」
「 姫様? 」
「 あ ああ お父様からね わたし達が出発した後で
ブリテン王から使者が到着したのですって。
それで早馬を仕立てて 後を追ってきたのよ 」
「 やはり イングランド国王様からですか 」
「 そうね あ この包がブリテン王陛下からのお届けものね
印章つきの書状が付いてるわ なになに・・・
敬愛する仏蘭西王国の フランソワーズ姫君
可愛いレディ そなたの討伐の旅の仔細、お父上から伺った。
吾輩も もう30年若ければ嬉々として馳せ参じるところだが
なにせ 耄碌老体 ・・・ 残念至極。 申し訳ない。
これは老骨からの献上品なり。 魔法の果実 なり。
お収めあれ。
書状の付いていた木箱を開けてみれば ―
掌ほどの 赤い宝玉の塊のような果実。
「 あらあ これ ・・・・? あ 続きがあるわ 」
「 姫様 よろしければ読み上げてくださいますか 」
「 ええ よくてよ。 あらあら 随分気楽な文面になってるわ ・・・
え〜〜とねえ・・・
「 これは な。 小生が東の大国の皇帝・張からもらったものでな。
決して餓えることがない、という果物なのだよ。
食糧に難渋するとき この実を一粒 齧ればよい。
最低一日は 元気で空腹感も消えるという果実なのだ。 」
「 ・・・ ですって。 」
「 うわあ でもそんな珍しいモノを頂く訳にはゆきませんよねえ 」
「 そうねえ ・・・ ふふふ でもね ブリテン王陛下ってね〜
とても剽軽で愉快な方なの。 わたし 小さい頃 よく遊びに行ったの。
亡くなったわたしのお母様はイングランド王家のご出身だから・・・ 」
「 ご親戚ですか ・・・ いいですねえ〜〜〜 」
ジョーは少し羨ましそうだ。
「 そう? 欧州の王家はねえ 皆 どこかで縁続きだから
だいたいお顔を存じ上げているの。
あら まだ続きあがるわ ・・・ えっと 」
「 遠慮はいらぬよ もってゆけ。 石榴とかいう伝説の樹の実だそうだが
ああ 馬や犬・猫にも 安全、とのことだ。
馬くん達にも役立つと思うぞ 達者で!
また 遊びに来ておくれ 姫の元気な笑顔を待っているよ
ブリテン伯父より 」
「 しっかりお持ちしましょう!
うん ― これは旅の何よりの援軍かもしれません。 」
ジョーはなぜかとても得心した様子なのだ。
「 ジョー様 なにかご存知なの? 」
「 はあ ・・・ 母から聞かされた逸話なのですが
東洋の大国・中華には 不思議な木の実があって・・・
汪桃 ( おうも ) という名なのですが ― これは一粒口にいれれば
即座に満腹となり身体中に力が漲る。
120年に一度だけ 花が咲き 実が生るそうです。
その零れ種が 欧州まで鳥やら虫に運ばれてきて 石榴 となった と 」
「 そうなの〜〜〜〜〜 全然知りませんでした。
ジョー様は 本当にいろいろ知っていらっしゃるのね すごい〜 」
「 あは 姫 これは 母から聞いたのですってば。
ほら・・・ ぼくの母は 世界中に飛んでゆけるから 」
ジョーは 国境の伝説の城で 妖精・ヘレンに育てられたのだ。
「 素敵よねえ ・・・ これ 見かけよりずっと重いわ 」
「 はい。 この木箱に入れて大切に持ってゆきましょう 」
「 そうね そうね グレート伯父さま〜〜
ありがとうございまあす 〜〜〜 」
フランソワーズ姫は 西方に向かって祈りをささげ
大きく手を振った。
あれ ・・・ ?
なんか 透明な羽根 がみえるよ
姫様の 背中に ・・・・
― ああ この方も 妖精 なのかも・・・
ジョーはますます眩しい想いで 彼女を見つめていた。
「 姫様は 遠目が利くのですねえ すごいなあ
ほら さっきすぐにイングランドの旗 っておっしゃいました 」
「 遠目? あら そんなこと なくてよ。
ただ ― 遠くをよく見ていたから 小さい頃 ・・ 」
「 ?? 」
「 その頃ね ジャン兄様はまだまだお怪我から回復なさっていなくて
ほとんど寝たきりだったの。
でもね 身体は傷ついても心は意気軒昂でいらしたから
窓辺に寝台を運ばせて いつも外をみていらしたわ。 」
「 すご ・・・ 」
「 わたし う〜〜〜んと窓から乗りだして
みられるかぎりの景色を お兄様にお知らせしていたの。 」
「 それで とても遠くまで見えるのですね 」
「 そうかも ・・・ それとね その時から小鳥さん達とは
トモダチになって おしゃべりできるようになったの。 」
「 うわあ いいなあ ・・・
あ ぼくも窓辺にくる小鳥さんと話してました あの城で 」
「 あら いいわねえ〜〜 ジョーさんもお城の窓辺で
過ごされることが多かったのね 」
「 はい。 母が帰ってくるのを待つことが多かったので・・・
小鳥や虫たちは ぼくの友人でした 」
「 素敵! ― ねえ わたし達 とても似たもの同士 ね! 」
きゅ。
姫君は とてもとても無邪気に あっけらか〜〜〜んと 堂々と?
ナイト・ジョーに抱き付いた。
― うわああああ〜〜〜〜〜〜〜〜
ジョーは ― かっちん。 真っ赤になって固まっていた。
くうん? ふぁふぁふぁ〜〜 クビクロが面白そう〜に眺めてた。
カッ カッ カッ カポカポ カポ
二騎は順当に国境の近くまでやってきた。
北の国境地帯 ― そこは穀倉地帯になっている。
広々と続く畑に ある地域には麦が 別の地域にはジャガイモが
青々と葉を茂らせ 風に揺れている。
それは まるで海原の波にもにて 民たちは緑の海 と讃え
大切に育て誇りにしていた。
勿論 独逸帝国の重要な食糧庫でもある。
コズミ先帝が 灌漑施設も充実させ 作物の品種改良なども推進したので
最近は不作知らずの豊かな地域となっていた ・・・
― ところが。
「 ・・・ あら? ねえ あそこ 見て 」
フランソワーズ姫は 視線の先にひろがる空を指した。
「 雲 ・・・ ですね。 いや それにしては不自然ですね。
低すぎる ・・・ あれは 天然の雲 とは違います 」
「 そうよね! 今は あんな黒雲が覆いかぶさる時期じゃないし
この地域の天候とは 違うわ 」
「 はい。 ― なにか嫌な予感がします 行きましょう! 」
「 ええ 」
カッ カッ カッ !!!
二人は愛馬の脚を すこし速めさせた。
そろそろ夏が来るのに 黒い雲が広がりお日様の光を邪魔しているのだ。
「 いやな雲ね・・・ 魔女・タマアラの時とも違うわ。
あの時は 森が枯れていたわね 」
「 そうですね。 姫様 このままでは穀倉地帯に被害がでます。 」
「 まずは調査だわ。 黒い悪魔が絡んでいるかもしれない。 」
「 はい。 」
カン カン カン −−−
馬の足音が変化してきた。
二人の愛馬たちも なにか歩きにくそうで速度も落ちてきた。
「 ― 止まって。 降りて調べるわ 」
「 姫君。 ぼくが先に行きます! あ クビクロ ? 」
「 うわんっ!!! 」
ジョーが止める間もなく 茶色毛の犬は馬から飛び降りた。
クンクンクン ・・・ ヴ 〜〜〜〜〜〜〜
クビクロはしきりに大地を嗅ぎまわり 威嚇している。
「 どうした? なにかあるのかい 」
ジョーもすぐに下に降り 大地に手を当てている。
「 ・・・・ 」
「 ジョー様? なにが起きているの? 」
「 姫君。 これは ― 大事です! 」
「 ・・・ なに・・・? 」
「 大地が カチカチに固まっている ・・・! 」
「 凍っているの? 」
「 いえ 冷えてはいなのですが ― カチンカチンなのです! 」
ゾワゾワゾワ −−−− 空気の色が変わった。
Last updated : 11.16.2021.
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********** 途中ですが
やっと出発 ・・・・
つまらない話で すみません <m(__)m>