『  伝説  ― (4) ―  』

 

 

 

 

これは 遠いとおい昔の そして 遠いとおい外国 (とつくに)

でのお話です。

 

      いつの頃のことか・・・って? 

      どこの国のことか・・・って?  

 

      さあ ・・・・

    

      ― 貴方のお好みのままに・・・

 

 

 

 

*********  再び・仏蘭西王国にて

 

 

 

「 お父様〜〜〜〜〜  」

 

     カツカツカツ  カツカツ 〜〜〜

 

陽に輝く白馬が 実に優雅な駆け脚で 城門から入ってきた。

すぐ後ろから 乗り手と似た毛色の馬が ぴたりと付いて来ている。

 

     おお ・・・ また あのお転婆が!

 

     ふむ? 後ろにいるのは ―

     知らせの文にあった < 大地の髪の青年 > か?

 

     なかなか爽やかな青年だな

     彼が 伝説の青年 なのか??

 

居城の中庭のバルコンから 仏蘭西国王はじっと目を凝らしていた。

 

 

 

「 さあさ 寛がれよ ・・・ ここは家族しかおらんのでな 」

ギルモア王は 王宮の奥の間で満面の笑みを浮かべた。

「 そうよ〜〜  お日様もいっぱい入って温かいでしょ 

 ここはね 王家の家族だけのサロンなの。

 さあ ジョー様  こちらにいらして 」

フランソワーズ姫は 珍しくちゃんとドレスを着ていた。

「 はい ありがとうございます。 」

「 遠慮なさらずに。  ああ 私はまだ脚が少し不自由なので

 少々行儀が悪い恰好で失礼します 」

姫君と良く似た金色の髪の王太子は ゆったりと肘掛椅子に身体を埋めている。

片方の脚を 足台へ伸ばしているが乱れた様子ではない。

「 ジャン王太子殿下。  騎乗でのご様子からは

 全くわかりませんでした  

「 それは嬉しいことを伺えたなあ ・・・ 

「 ええ 殿下のおみ足は もう大丈夫ですわ 」

王太子の側から黒髪の美女が言葉を添えた。

「 ありがとう 姫 ・・・

 あ  彼女はアルテミス姫。 私の許婚で将来の仏蘭西王妃です 」

ジャンは 誇らし気に黒髪の姫君を紹介した。

「 アルテミス様。  お美しい ・・・ 」

ジョーは 王太子の隣に控える姫に 丁寧に会釈をした。

「 ジョー様  ご無事でようございましたわ。 

 ふふふ・・・ フランソワーズ姫は本当に勇敢な方ですね 」

「 はい。 そして素敵な方です 」

ちょいと頬を赤らめている青年に 家族は皆 好感を持った。

 

       この青年なら

       ― フランソワーズ姫を繋ぎ留めてくれる か・・・?

 

「 − 時に。  ジョー殿? 」

ギルモア王は 静かに口を開いた。

「 はい。 」

ジョーは 国王に会釈をし、御前に控えた。

 

 

    かちん ・・・ かちゃ ・・・

 

いい香の湯気がサロン中に漂っている。

茶器と銀のスプーンが触れる音が 微かに聞こえたりしている。

小声の会話とさざめく微笑が しばらく続いていたが

王の言葉に 全員が視線を集めた。

 

「 貴殿の話を 伺いましょうかな。 」

 

「 はい。 」

ジョーは 手にしていた茶器を静かにティ・テーブルに戻した。

ほんの数秒 彼は目を閉じていたが やがて静かに語り始めた。

「 ― 私は 夏の明るいある朝 アケビの蔓でできた籠にいれられて

 東の塔の前に置かれていた のだそうです。 」

 

   ザワ ・・・   家族だけの室内の空気が 揺れた。

 

「 側には  誰もいなかったそうです。

ただ 産着には Joe とのみ 青い糸で刺繍がしてあった と。

その前後に誰かが立ち寄った形跡はありませんでした。

ですから どこからか大きな鳥が運んできたのかもしれない ということでした。」

「 ・・・ そんなこと ・・・ 」

フランソワーズが 思わず声を出した。

「 ・・・・ 」

ジャンが そっと彼女の背に手を当てた。

「 ・・・ 兄さま ・・・ 」

「 そんな私を見つけて抱き上げてくれたのが 妖精・ヘレン でした。

 古から あの城の女主人で妖精たちの長 ( おさ ) として

 この国を護っていました。

 彼女は 母として赤ん坊の私を助け育ててくれました。 」

「 妖精・ヘレン は この国では誰もが知っている 善い魔女。

 伝説として語り継がれていますよ。

 しかし ―  それはヒトの目には見えない と ・・・ 」

ジャンが 少し躊躇いつつ口を挟んだ。

「 あ・・・ わたしも その方にお目にかかりに行ったのですけど

 東の塔でお見かけしたのは  ・・・ 白く透けるお姿で ・・・ 」

フランソワーズも 遠慮がちに付け加えた。

「 ― そうですね  普通の方々には そう見えるかもしれませんが。

 ぼくには 優しく温かく 時には厳しい母でした。 」

静かに語るジョーは 穏やかな笑みを浮かべている。

「 母とは主にあの塔で過ごしていました。

 いつも側にいてくれた母は ― ごく普通の女性に見えました。

 幼いぼくが甘えれば 膝に抱いてくれたりもしました・・・ 」

「 優しいお母様だったのですね 

「 はい。 そして − 外の世界のことを 広い広い世界のことも

 きちんと教えてくれました。

 あの紫の魔女が来るまでは ぼく達は自由に森の中を散策したり

 時には 母は外の世界に出かけてゆくこともありました。 」

「 そうですか ・・・ 

 国境の森 は 魔女・タマアラが棲みつく前までは

 僕達にとっては一種の聖域でした。

 精霊の住む城だから むやみに足を踏み入れてはいけない と 」

「 お兄さま  そうよね〜  黒い森は暗くて・・・

 でもね 今は明るくいろいろな木々がいっぱいの素晴らしい森よ 

「 是非 訪れてみたいものだな。

 アルテミス姫 貴女とご一緒に ― 」

「 ええ ええ 殿下。 」

王太子と許婚姫は にっこり笑みを交わす。

「 は〜いはいはい  お熱いことで ・・・

 オジャマな妹は 退散いたします〜〜 

 

 サロンは 明るい声と温かな笑みでいっぱいだ。

 

「 ― 貴殿は ずっとあの城で育ったのかな 」

国王が ゆっくりとカップを置き ジョーと向き合った。

「 陛下。  はい。 あの城が あの塔がぼくのホームなのです。」

「 そうか ― そこにあの魔女・タマアラが 」

「 はい。 しかし 母とぼくは解放されました。

 フランソワーズ姫が ぼく達を魔女の邪な術から解き放って

 くださいました。 」

「 母上は ・・・ 如何なさった? 」

「 ― 今は 空を巡っているのだと思います。

 でも ぼくのことを見守ってくれています、どこでもいつでも ・・・ 」

「 そう そうね!

 そして お母様は どこでもいつでもジョー様の幸せを

 祈ってくださっているのだと思います ・・・ 」

「 フランソワーズ姫様 ・・・ 」

「 国境の森は 再び 善い魔女・ヘレン に護られているのじゃな 」

「 はい 陛下。 陛下の王国を護っております。 」

ジョーは その視線は 空の なおまたその果てを眺めている。

「 ねえ?  貴方はその善い魔女のムスコ なのですね?

 なんかすご〜〜〜く素敵だわ♪

 そして ジョー様。 貴方は伝説の勇者でもあります。 」

「 さあ それは ・・・ 別のヒトかもしれません 」

「 いいえ。  大地色の髪と 暖かな瞳を持つ 青年。

 ずっと探していました。   さあ ―  

フランソワーズ姫 は 青年の前にたち手を差し出した。

 

「 どうぞ わたしにチカラを貸してください。 」

 

「 ― ぼくのできることなら  なんなりと。

 フランソワーズ姫様のお力になれましたら 光栄です 」

青年は 明解に言い切り 姫君の手を取り口づけをした。

 

「 おお よく申してくださった ―

 我が家の ジャジャウマ娘の手綱をしっかり握ってくれ ・・・ 」

「 父上〜〜  まさしくお言葉の通りですが・・・

 君? これは兄としての忠告だけど ・・・・

 フランに付いてゆくのは ― 大変だぜ?  」

「 お父様〜〜〜 お兄さま〜〜〜  もう〜〜〜 」

父や兄の軽口に 一人娘は真っ赤になって声を上げた。

「 ふふふ ・・・ 冗談じゃよ 姫。

 そして こちらは真意ですぞ 」

王は立ち上がると 青年の前に立った。

青年は 自然に片膝をつく姿勢となる。

 

「 ジョー殿。 そなたに我が国でのナイトの称号をお授けしよう。

 ― 姫を 頼む 」

 

「 ― 我が命にかえましても。 」

 

家族だけの部屋で 家族全員が心からこの青年を祝福し歓迎した。

フランソワーズ姫自身も 心を強く揺さぶられ

温かい涙を その碧い目尻に挟んでいた。

 

   ファサ −−−   

 

ドレスの裾を翻し姫は父と兄、そして その許婚姫に向き合った。

 

「 さあ これで。 北の国へと黒い悪魔退治に出発できます。

 伝説の人物が揃いましたもの。 」

 

「 ― そう ・・・ か ・・・ 

 うむ ・・・ 北の皇帝からの要請に応えねばならんな。」

「 父上 ― 」

一瞬 重い空気が漂った。

フランソワーズ姫は 笑顔で口を開く

 

「 わたしは 旅に出ます ― ナイト・ジョー と。

 でもね その前に ―  兄上 そして アルテミス様?

 フランソワーズからのお願いを 聞き届けてくださいませんか 」

「 ?? 」

兄達は 不思議な面持ちだ。

 

  「 お二人のご婚礼の儀を  どうぞ取り行ってください! 」

 

「「  え ・・・ !   」」

「 < え > じゃあありませんよ。

 ねえ お父様! よろしいでしょう??? 

 せっかくアルテミス様がご訪問くださっていることですし。

 それにね! 例の お騒がせ魔女・タマアラ ですけど

 アルテミス様のお力もあって 去らせることができましたのよ 」

「 うむ  ・・・ そうだなあ ・・・

 では 早速、西班牙のシモーヌ女王にご相談してみるか 

「 是非是非!  ねえ 最高に素敵なお式にしましょう〜

 アルテミス様 お好きなお花は なんですか? 」

フランソワーズはもうはしゃぎきっている。

そんな妹を窘めつつ 兄はジョーにそっと囁いた。

 

「 ジョー殿。 この通り、まだまだ子供なんです。

 その辺を走り回っている幼女と同じ ・・・

 こんな妹ですが ― 宜しく! 

「 王太子殿下。  姫様は とても勇敢で誠実で・・・

 素晴らしい方ですね 」

「 ・・・ それは過分なお言葉を・・・

 しかし 年若い姫に相応しい言葉は もっと他にあっていいような ・・・」

「 ジャン様?  妹君は兄君の分も、と頑張っていらしたのです。

 わたくし 頼もしい妹ができて心強く幸せですわ 」

「 アルテミス姫 ・・・ 」

「 フランソワーズ様。  伝説の騎士殿のご助力も得ました。

 黒い魔物退治を ! 

「 ありがとうございます アルテミスお義姉さま。

 兄と父、 そして 我が仏蘭西王国を宜しくお願いします。

 さあ〜〜〜 ご婚儀の準備、しましょう!! 」

 

すっかりフランソワーズ姫のペースで 仏蘭西宮廷の行事が動き始めた。

 

 

  ―  さて。

 

 宮廷の誰もが ものすごく忙しい・疾風怒濤の数日の後。

 

 

     り〜〜んご〜〜〜〜ん    り〜〜んご〜〜〜〜〜ん ♪

 

 

ものみな花開く晴天の朝 そちこちから鐘の音が聞こえてきた。

王都・巴里中の教会が 鐘を鳴らしたのだ。

 

     祝 ・ ジャン王太子殿下 ご成婚 〜〜〜〜♪

 

 

フランソワーズ姫一行が 黒い魔物退治に出発する前に・・・

 ジャン王太子とアルテミス姫との挙式が 国で一番古い教会にて行われた。

 

アルテミス姫は 母女王が着た婚礼用のドレスを自分も、と選んだ。

足元まで届く黒髪は 母国から特別に編んだレエスで飾られている。

これは ドレスと共に西班牙王国から早馬で届いたものだ。

 

「 ・・・  これ 母が嫁ぐ時に持ってきたものなのです。

 ええ わたくしの祖母のもの、と聞いております 

 

アルテミス姫は 母国からの荷を開け顔を輝かせた。

 

「 わたくしもこのドレスを着たい、とずっと願っていました。

 ああ  母上〜〜 ありがとうございます ・・・ 」

「 うわあ ・・・ 素敵! お祖母様とお母様が御召しになったの?

 すごい ・・・ 羨ましいなあ  わたし 母は小さい頃に亡くなって・・・

 あ こちらのベール・・・ 全部レースですのね 」

「 はい  これは祖国の名産にもなっています。

 細い細い糸を 手で編んでゆくのです。

 とても難しくて ・・・ 故郷でも編めるヒトは数人しかいません。」

「 そうなんですか・・・ あら 蜘蛛の糸みたい・・・

 ふわり・・・ 宙に浮きそうですね 」

「 はい。 ああ ・・・嬉しいわ! 

「 お義姉さま  どうぞ どうぞお幸せに 」

「 ありがとう ・・・ フランソワーズさま 」

フランソワーズ姫も荷開けに同席し 義姉の母国の香りを

楽しんだ。

 

城下でも 祝賀ムードの大騒ぎだ。

 

   王太子とアルテミス姫との婚儀に

   それぞれの家庭で育てた花を 一束贈ってもらえたら

   とても嬉しい。

   アルテミス姫は マーガレットがお好み。

 

そんな 国王の言葉はたちまち民たちの間に広まった。  

   

「 お 任せてください! 花好きはいっぱいいるよ〜 

「 ほうら ・・・ ウチの畑の隅に植えていた花だよ〜〜

 これをお城にお持ちするとしよう 」

「 ウチはね 花壇の縁に植えていたんだ ・・・

 さあ これを王太子様のご婚儀に! 

「 アタシ達は 町はずれの野原で摘んできたわ。

 しっかり水揚げしてあるから 萎れたりしません。 」

 

民たちは喜び祝福し この勇敢な姫、我らが王太子妃様に と

マーガレットの花を山のように贈り 若いカップルの門出を祝ってくれた。

 

「 おお  これは素晴らしいなあ 

「 父上 ・・・ はい、こんなに嬉しい贈りモノはありません。 」

「 うむ うむ ・・・ 

 ジャンよ、 王太子よ。 やがてよい国王となりこの国を統べておくれ 」

「 父上。 妃と共に全力で努めます。 

「 よう申した ・・・ ああ これで仏蘭西王国は安泰じゃ 」

老国王の笑顔に 息子のジャン王太子だけでなく

遠目にながめる民たちも 安堵し喜びあっていた。

 

   いやあ〜〜 いいねえ・・・

   王様もご機嫌だよぉ 

   めでたい めでたい〜〜

 

   時に ウチの姫さまはどうなんだい?

 

   あ〜 あのジャジャウマ姫かあ〜〜

   ・・・ 美人なんだがなあ〜

 

   んだなあ〜 勇気もあっていい娘 ( こ ) なんだけど

   あの跳ねっ返り姫サマを御するのは ・・・ 

   並大抵のオトコじゃ ・・・ 無理だぜ

 

   だねえ ・・・

   これから 黒い魔物討伐の旅 だって?

 

   らしいよ。

   勇敢で武芸堪能な姫様だから 大丈夫だろうけど

   でも  なあ・・・

 

   ああ ・・・

   王太子様もご健康になられたようだし

   姫様にも 幸せになってほしいよう〜

 

   うん うん 

   ところで姫様の後ろにいる あのいいオトコは 誰だい?

 

   あ? あ〜

   なんでも 例の伝説の < 大地の髪と瞳 > だと。

   ほらあ〜 金の髪と・・・って伝説 あるだろ?

 

   あ ああ そうそう・・・

   チビの頃ばあ様から聞いたなあ〜〜

   黒い魔物を退治できるのは ってヤツだっけ

 

   ふうん ・・・

   こっちも上手くゆくといいねえ 

 

   だねえ イイコトは続くっていうからねえ

 

 

教会の尖塔からは 祝福の鐘が鳴り響き 国民たちからの花々が溢れる中

ジャン王太子とアルテミス姫は 婚儀の挙式をとり行った。

 

「 おめでとうございます〜〜  ジャン兄さま〜〜〜 

 そして アルテミスお姉さま〜〜〜 」

 

式の後 フランソワーズ姫は 一番に新婚夫婦に抱き付き祝福した。

「 ファンション  ありがとう ! 

「 フランソワーズさま ありがとうございます。

 これからも 仲良くしてくださいね 」

「 はい!  ああ ステキ!

 ― これで わたし 安心して 黒い魔物討伐 に出発できます 」

 

「 姫 ・・・ 」

 

ずっと笑顔だった国王の表情が す・・っと曇った。

「 本当に 行くのか 」

「 お父様。  はい。 わたしには 今、最強の援軍がありますもの。 」

フランソワーズ姫は 傍らに控える青年に微笑かける。

「 ・・・ は。 」

青年は 大地色の髪を揺らし片膝を突いた。  

「 そなた ジョー よ。  姫を護れ。 」

「 は。 命に代えましても。 」

「 あらあ わたしが ジョー様を護るよ お父様。

 なにしろ わたし達は伝説のコンビなんですもの 」

 

「 ― フランソワーズ様。 これをお預けしますわ 」

 

アルテミス妃が 胸から指輪を通した金鎖を外し、差し出した。

「 アポロンの指輪です。 ご無事でお戻りになるまで どうぞ 」

「 太陽の指輪 ですのね! ありがとうございます。

 しっかりお預かりして ― 必ずお返しいたします 」

「 ええ 必ず。 」

勇敢な女性たちは 自信に満ちた笑みを交わしあった。

「 ― あ? お耳の飾り、 素晴らしいですね 

アルテミス妃は 義妹の耳に揺れる大粒の真珠に目を留めた。

「 ・・・ はい これは ・・・ 」

すぐに 国王が口添えしてくれた。

「 こちらは 阿弗利加皇帝からの贈り物なのじゃ 」

「 まあ 阿弗利加皇帝の? 」

「 アルテミス。 阿弗利加皇帝・ピュンマ殿 を存知あげているかい 」

ジャンは 優しく新妻に語りかける。

「 一度だけ ・・・ あちらの宮廷からお招きを受けて・・・

 とても 勇敢なお若い皇帝陛下でしたけれど 」

「 そうなのだよ。 彼はとても水練に長けていて・・・

 ある時 川で鰐に襲われていた子供を 飛び込んで助けたのだ 」

「 え!!  鰐???  ・・・ すご〜〜 」

妹姫は 目を丸くし 我が耳の飾りにそっと触れている。

「 ものすごいことだよ・・・ ただ ・・・

 その時の格闘で ― 身体中に大変な傷を負われた 」

「 まあ ・・・ 」

「 それは ― 存じませんでした。 

 お暑いお国なのに 襟元まである服を御召しでしたけど 

「 うむ  ご本人は少しも気に掛けてはいられないのだが

お目に掛かった時にね ・・・

 

    「 やあ ジャン君。 

     え?  ああ ・・・ うん ・・・

     僕のこの傷痕がね 皆に余計な気を使わせるみたいなんで

     公の場では 出さないようにしてる 」

    「 ピュンマ殿下。 わかる それ!  

     ほら 僕も脚がまだ不自由だろう? 」

    「 ふふふ お互い 気を使うよね〜 」

    「 だ ね  」

 

 実はとてもきさくで楽しい方なのだよ。 」

「 ・・・ 阿弗利加帝国の方々は 幸せですわね 

 素晴らしい皇帝をお持ちで 

アルテミス妃は 夫の腕にそっと手を預けた。

「 うむ。  それでその時に これを 君の妹姫に って。

 彼の亡き妹君のお形見だそうだ 」

「 はい。 大切なものを頂きました。

 そして これは水の禍を避ける真珠 なのですって。

 水辺で困ったときに 口に含みなさい、と 」

「 それは素晴らしいわね 」

「 はい。 皆さま わたし ・・・ 大切なお護りを二つも

 もっております。 どうぞご安心ください。 」

「 最高のナイトを お持ちですしね 

「 はい! 」

 

家族だけに見送られ フランソワーズ姫は ナイトのジョー殿と共に

静かに出立した。

父王と 兄王太子夫婦は 城のテラスに立ち、一行の姿が

見えなくなるまで 手を振り送ってくれた。

 

 

    カツカツカツ   カッ カッ カッ

 

白馬と栗毛の馬が 轡を並べ 軽快に進んで行く。

ほんの少数の供の者は 城下町を出たところで 戻した。

二騎は 足取りも軽く旅を始め ―  やがて国境の森に差し掛かる。

 

「 あ 

ジョーが 小さく声を上げた。

「 ? どうか なさって ジョー様 」

「 ・・・ あ いえ。  失礼しました 姫君 」

「 え ・・・ あ ああ。  もう国境の森まで来ましたのね。

 木々の間から お城が見えます。 

「 はい。 森は ・・・ 皆元気ですね! よかった 」

ジョーは 馬上から森を見渡しほっとした様子だ。

「 ふふふ ・・・ 鳥たちの鳴き声がいっぱい・・・

 木々にも花がたくさん咲いてますね 

「 ・・・ はい ・・・ 」

「 ね? お城に お邪魔してもいいですか ジョー様 」

「 え ・・・ でも 旅程が ・・・ 」

「 あら これも旅程のウチですわ。

 ジョー様のお城に 改めて伺いたいです 」

「 ありがとう フランソワ―ズ姫 ・・・

 では ぼくの城へ どうぞ。 ご案内しま〜す 

「 はい♪ 」

二人は 笑い声を上げつつ 城目指して並足になっていった。 

 

 

 ― 善い魔女、妖精・ヘレンの城  は  静かに佇んでいた。

 

城内は美しく清潔に保たれ どこにも荒れた様子はない。

森の精霊たちが きちんと保っているのだろう。

 

「 ただいま もどりました、ジョーです。 」

ジョーは 声を掛けつつ 城の大扉を開けた。

「 お邪魔いたします。  フランソワーズ・ド・フランス です 

フランソワーズは 狩猟服だけどきちんと姫君としての挨拶をした。

「 さあ ― どうぞ 姫君。 ぼくの城へ! 」

「 ありがとうございます 

ジョーは フランソワーズ姫の手を取り 城の中に入った。

 

 そこここに 花が置いてある。 漂う空気には芳香が混じる。

 

「 さあ 居間へ!  ぼくが母と過ごした部屋です。 」

「 はい 」

 

奥の間は 広く窓が切ってあり陽光に満ちている。

中央にはマホガニーの広いテーブルが据えてあり 

手編みのレエスのテーブル・クロスが広げられていた。

 

「 ステキなお部屋 ・・・ 」

「 うん ・・ あ 失礼しました  はい。 」

ジョーは少しだけ 俯いていたが すぐに笑顔になった。

「 どうぞこちらの椅子に。 クッションも どうぞ 」

「 ありがとう〜  気持ちいい椅子〜〜 」

「 これ ぼくが造ったんですよ 」

「 すご・・・ 貴方 なんでもできるのね、ジョー様 」

「 いやあ 〜 でも いろいろ 母に教わりました。 」

「 ステキなお母様ねえ ・・・ お目にかかりたいな・・・

 あ ねえ・・・ テーブルの上 なにか ありますわ? 」

「 え・・・ 」

 

レースのテーブル・クロスの上には 繻子の細長いクッションが

置いてありその上には   一本の剣   があった。

 

「 これ・・・ あ 手紙が …? 」

剣の下には 一枚の手紙があった。

 

     愛する息子・ジョー

     貴方と 貴方の愛する人の危機に

     この剣は 役立つでしょう

 

     貴方だけが 使える剣です

 

                母より

 

「 おかあさん ・・・ 」

ジョーは 涙を流しつつそっと剣を取り上げた。

細身だけれどしなやかに強く ―  鞘は極上の鞣革だ。

「 凄い剣ね!  お母様からのプレゼントだわ 

「 うん ・・・ 」

「 抜いてごらんになって? 鞘の細工も素晴らしいわ 」

「 ・・・・ 」

 

す・・・っ  とジョーが鞘を祓えば 陽の光をうけて氷の如き刃は

キラリ、と光る。

 

「 ・・・ おお  軽いけれどこの刃は ・・・

「 すご〜〜い〜〜〜〜〜 」

「 これで姫様をお護りできます。 」

  シュタ。  ジョーは静かに剣を鞘に収めた。

 

「 さあ フランソワーズ姫。  討伐の旅に出立しましょう 」

「 はい! 

 

姫君と騎士は 再び轡を並べ国境の森を抜けて行った。

 

 

      ―  いざ 隣国・独逸帝国へ ・・・!

 

 

Last updated : 11.02.2021.            back     /     index    /     next

 

 

*********  途中ですが

今回は 短いです ・・・ ごめんなさい つまらない話で・・・・

やっとジョー君登場ですが まだぎこちない二人です ・・・