『 伝説 ― (4) ― 』
これは 遠いとおい昔の そして 遠いとおい外国 (とつくに)
でのお話です。
いつの頃のことか・・・って?
どこの国のことか・・・って?
さあ ・・・・
― 貴方のお好みのままに・・・
********* 再び・仏蘭西王国にて
「 お父様〜〜〜〜〜 」
カツカツカツ カツカツ 〜〜〜
陽に輝く白馬が 実に優雅な駆け脚で 城門から入ってきた。
すぐ後ろから 乗り手と似た毛色の馬が ぴたりと付いて来ている。
おお ・・・ また あのお転婆が!
ふむ? 後ろにいるのは ―
知らせの文にあった < 大地の髪の青年 > か?
なかなか爽やかな青年だな
彼が 伝説の青年 なのか??
居城の中庭のバルコンから 仏蘭西国王はじっと目を凝らしていた。
「 さあさ 寛がれよ ・・・ ここは家族しかおらんのでな 」
ギルモア王は 王宮の奥の間で満面の笑みを浮かべた。
「 そうよ〜〜 お日様もいっぱい入って温かいでしょ
ここはね 王家の家族だけのサロンなの。
さあ ジョー様 こちらにいらして 」
フランソワーズ姫は 珍しくちゃんとドレスを着ていた。
「 はい ありがとうございます。 」
「 遠慮なさらずに。 ああ 私はまだ脚が少し不自由なので
少々行儀が悪い恰好で失礼します 」
姫君と良く似た金色の髪の王太子は ゆったりと肘掛椅子に身体を埋めている。
片方の脚を 足台へ伸ばしているが乱れた様子ではない。
「 ジャン王太子殿下。 騎乗でのご様子からは
全くわかりませんでした
」
「 それは嬉しいことを伺えたなあ ・・・ 」
「 ええ 殿下のおみ足は もう大丈夫ですわ 」
王太子の側から黒髪の美女が言葉を添えた。
「 ありがとう 姫 ・・・
あ 彼女はアルテミス姫。 私の許婚で将来の仏蘭西王妃です 」
ジャンは 誇らし気に黒髪の姫君を紹介した。
「 アルテミス様。 お美しい ・・・ 」
ジョーは 王太子の隣に控える姫に 丁寧に会釈をした。
「 ジョー様 ご無事でようございましたわ。
ふふふ・・・ フランソワーズ姫は本当に勇敢な方ですね 」
「 はい。 そして素敵な方です 」
ちょいと頬を赤らめている青年に 家族は皆 好感を持った。
この青年なら
― フランソワーズ姫を繋ぎ留めてくれる か・・・?
「 − 時に。 ジョー殿? 」
ギルモア王は 静かに口を開いた。
「 はい。 」
ジョーは 国王に会釈をし、御前に控えた。
かちん ・・・ かちゃ ・・・
いい香の湯気がサロン中に漂っている。
茶器と銀のスプーンが触れる音が 微かに聞こえたりしている。
小声の会話とさざめく微笑が しばらく続いていたが
王の言葉に 全員が視線を集めた。
「 貴殿の話を 伺いましょうかな。 」
「 はい。 」
ジョーは 手にしていた茶器を静かにティ・テーブルに戻した。
ほんの数秒 彼は目を閉じていたが やがて静かに語り始めた。
「 ― 私は 夏の明るいある朝 アケビの蔓でできた籠にいれられて
東の塔の前に置かれていた のだそうです。 」
ザワ ・・・ 家族だけの室内の空気が 揺れた。
「 側には 誰もいなかったそうです。
ただ 産着には Joe とのみ 青い糸で刺繍がしてあった と。
その前後に誰かが立ち寄った形跡はありませんでした。
ですから どこからか大きな鳥が運んできたのかもしれない ということでした。」
「 ・・・ そんなこと ・・・ 」
フランソワーズが 思わず声を出した。
「 ・・・・ 」
ジャンが そっと彼女の背に手を当てた。
「 ・・・ 兄さま ・・・ 」
「 そんな私を見つけて抱き上げてくれたのが 妖精・ヘレン でした。
古から あの城の女主人で妖精たちの長 ( おさ ) として
この国を護っていました。
彼女は 母として赤ん坊の私を助け育ててくれました。 」
「 妖精・ヘレン は この国では誰もが知っている 善い魔女。
伝説として語り継がれていますよ。
しかし ― それはヒトの目には見えない と ・・・ 」
ジャンが 少し躊躇いつつ口を挟んだ。
「 あ・・・ わたしも その方にお目にかかりに行ったのですけど
東の塔でお見かけしたのは ・・・ 白く透けるお姿で ・・・ 」
フランソワーズも 遠慮がちに付け加えた。
「 ― そうですね 普通の方々には そう見えるかもしれませんが。
ぼくには 優しく温かく 時には厳しい母でした。 」
静かに語るジョーは 穏やかな笑みを浮かべている。
「 母とは主にあの塔で過ごしていました。
いつも側にいてくれた母は ― ごく普通の女性に見えました。
幼いぼくが甘えれば 膝に抱いてくれたりもしました・・・ 」
「 優しいお母様だったのですね 」
「 はい。 そして − 外の世界のことを 広い広い世界のことも
きちんと教えてくれました。
あの紫の魔女が来るまでは ぼく達は自由に森の中を散策したり
時には 母は外の世界に出かけてゆくこともありました。 」
「 そうですか ・・・
国境の森 は 魔女・タマアラが棲みつく前までは
僕達にとっては一種の聖域でした。
精霊の住む城だから むやみに足を踏み入れてはいけない と 」
「 お兄さま そうよね〜 黒い森は暗くて・・・
でもね 今は明るくいろいろな木々がいっぱいの素晴らしい森よ 」
「 是非 訪れてみたいものだな。
アルテミス姫 貴女とご一緒に ― 」
「 ええ ええ 殿下。 」
王太子と許婚姫は にっこり笑みを交わす。
「 は〜いはいはい お熱いことで ・・・
オジャマな妹は 退散いたします〜〜 」
サロンは 明るい声と温かな笑みでいっぱいだ。
「 ― 貴殿は ずっとあの城で育ったのかな 」
国王が ゆっくりとカップを置き ジョーと向き合った。
「 陛下。 はい。 あの城が あの塔がぼくのホームなのです。」
「 そうか ― そこにあの魔女・タマアラが 」
「 はい。 しかし 母とぼくは解放されました。
フランソワーズ姫が ぼく達を魔女の邪な術から解き放って
くださいました。 」
「 母上は ・・・ 如何なさった? 」
「 ― 今は 空を巡っているのだと思います。
でも ぼくのことを見守ってくれています、どこでもいつでも ・・・ 」
「 そう そうね!
そして お母様は どこでもいつでもジョー様の幸せを
祈ってくださっているのだと思います ・・・ 」
「 フランソワーズ姫様 ・・・ 」
「 国境の森は 再び 善い魔女・ヘレン に護られているのじゃな 」
「 はい 陛下。 陛下の王国を護っております。 」
ジョーは その視線は 空の なおまたその果てを眺めている。
「 ねえ? 貴方はその善い魔女のムスコ なのですね?
なんかすご〜〜〜く素敵だわ♪
そして ジョー様。 貴方は伝説の勇者でもあります。 」
「 さあ それは ・・・ 別のヒトかもしれません 」
「 いいえ。 大地色の髪と 暖かな瞳を持つ 青年。
ずっと探していました。 さあ ― 」
フランソワーズ姫 は 青年の前にたち手を差し出した。
「 どうぞ わたしにチカラを貸してください。 」
「 ― ぼくのできることなら なんなりと。
フランソワーズ姫様のお力になれましたら 光栄です 」
青年は 明解に言い切り 姫君の手を取り口づけをした。
「 おお よく申してくださった ―
我が家の ジャジャウマ娘の手綱をしっかり握ってくれ ・・・ 」
「 父上〜〜 まさしくお言葉の通りですが・・・
君? これは兄としての忠告だけど ・・・・
フランに付いてゆくのは ― 大変だぜ? 」
「 お父様〜〜〜 お兄さま〜〜〜 もう〜〜〜 」
父や兄の軽口に 一人娘は真っ赤になって声を上げた。
「 ふふふ ・・・ 冗談じゃよ 姫。
そして こちらは真意ですぞ 」
王は立ち上がると 青年の前に立った。
青年は 自然に片膝をつく姿勢となる。
「 ジョー殿。 そなたに我が国でのナイトの称号をお授けしよう。
― 姫を 頼む 」
「 ― 我が命にかえましても。 」
家族だけの部屋で 家族全員が心からこの青年を祝福し歓迎した。
フランソワーズ姫自身も 心を強く揺さぶられ
温かい涙を その碧い目尻に挟んでいた。
ファサ −−−
ドレスの裾を翻し姫は父と兄、そして その許婚姫に向き合った。
「 さあ これで。 北の国へと黒い悪魔退治に出発できます。
伝説の人物が揃いましたもの。 」
「 ― そう ・・・ か ・・・
うむ ・・・ 北の皇帝からの要請に応えねばならんな。」
「 父上 ― 」
一瞬 重い空気が漂った。
フランソワーズ姫は 笑顔で口を開く
「 わたしは 旅に出ます ― ナイト・ジョー と。
でもね その前に ― 兄上 そして アルテミス様?
フランソワーズからのお願いを 聞き届けてくださいませんか 」
「 ?? 」
兄達は 不思議な面持ちだ。
「 お二人のご婚礼の儀を どうぞ取り行ってください! 」
「「 え ・・・ !
」」
「 < え > じゃあありませんよ。
ねえ お父様! よろしいでしょう???
せっかくアルテミス様がご訪問くださっていることですし。
それにね! 例の お騒がせ魔女・タマアラ ですけど
アルテミス様のお力もあって 去らせることができましたのよ 」
「 うむ ・・・ そうだなあ ・・・
では 早速、西班牙のシモーヌ女王にご相談してみるか 」
「 是非是非! ねえ 最高に素敵なお式にしましょう〜
アルテミス様 お好きなお花は なんですか? 」
フランソワーズはもうはしゃぎきっている。
そんな妹を窘めつつ 兄はジョーにそっと囁いた。
「 ジョー殿。 この通り、まだまだ子供なんです。
その辺を走り回っている幼女と同じ ・・・
こんな妹ですが ― 宜しく! 」
「 王太子殿下。 姫様は とても勇敢で誠実で・・・
素晴らしい方ですね 」
「 ・・・ それは過分なお言葉を・・・
しかし 年若い姫に相応しい言葉は もっと他にあっていいような ・・・」
「 ジャン様? 妹君は兄君の分も、と頑張っていらしたのです。
わたくし 頼もしい妹ができて心強く幸せですわ 」
「 アルテミス姫 ・・・ 」
「 フランソワーズ様。 伝説の騎士殿のご助力も得ました。
黒い魔物退治を ! 」
「 ありがとうございます アルテミスお義姉さま。
兄と父、 そして 我が仏蘭西王国を宜しくお願いします。
さあ〜〜〜 ご婚儀の準備、しましょう!! 」
すっかりフランソワーズ姫のペースで 仏蘭西宮廷の行事が動き始めた。
― さて。
宮廷の誰もが ものすごく忙しい・疾風怒濤の数日の後。
り〜〜んご〜〜〜〜ん り〜〜んご〜〜〜〜〜ん ♪
ものみな花開く晴天の朝 そちこちから鐘の音が聞こえてきた。
王都・巴里中の教会が 鐘を鳴らしたのだ。
祝 ・ ジャン王太子殿下 ご成婚 〜〜〜〜♪
フランソワーズ姫一行が 黒い魔物退治に出発する前に・・・
ジャン王太子とアルテミス姫との挙式が 国で一番古い教会にて行われた。
アルテミス姫は 母女王が着た婚礼用のドレスを自分も、と選んだ。
足元まで届く黒髪は 母国から特別に編んだレエスで飾られている。
これは ドレスと共に西班牙王国から早馬で届いたものだ。
「 ・・・ これ 母が嫁ぐ時に持ってきたものなのです。
ええ わたくしの祖母のもの、と聞いております 」
アルテミス姫は 母国からの荷を開け顔を輝かせた。
「 わたくしもこのドレスを着たい、とずっと願っていました。
ああ 母上〜〜 ありがとうございます ・・・ 」
「 うわあ ・・・ 素敵! お祖母様とお母様が御召しになったの?
すごい ・・・ 羨ましいなあ わたし 母は小さい頃に亡くなって・・・
あ こちらのベール・・・ 全部レースですのね 」
「 はい これは祖国の名産にもなっています。
細い細い糸を 手で編んでゆくのです。
とても難しくて ・・・ 故郷でも編めるヒトは数人しかいません。」
「 そうなんですか・・・ あら 蜘蛛の糸みたい・・・
ふわり・・・ 宙に浮きそうですね 」
「 はい。 ああ ・・・嬉しいわ! 」
「 お義姉さま どうぞ どうぞお幸せに 」
「 ありがとう ・・・ フランソワーズさま 」
フランソワーズ姫も荷開けに同席し 義姉の母国の香りを
楽しんだ。
城下でも 祝賀ムードの大騒ぎだ。
王太子とアルテミス姫との婚儀に
それぞれの家庭で育てた花を 一束贈ってもらえたら
とても嬉しい。
アルテミス姫は マーガレットがお好み。
そんな 国王の言葉はたちまち民たちの間に広まった。
「 お 任せてください! 花好きはいっぱいいるよ〜 」
「 ほうら ・・・ ウチの畑の隅に植えていた花だよ〜〜
これをお城にお持ちするとしよう 」
「 ウチはね 花壇の縁に植えていたんだ ・・・
さあ これを王太子様のご婚儀に! 」
「 アタシ達は 町はずれの野原で摘んできたわ。
しっかり水揚げしてあるから 萎れたりしません。 」
民たちは喜び祝福し この勇敢な姫、我らが王太子妃様に と
マーガレットの花を山のように贈り 若いカップルの門出を祝ってくれた。
「 おお これは素晴らしいなあ 」
「 父上 ・・・ はい、こんなに嬉しい贈りモノはありません。 」
「 うむ うむ ・・・
ジャンよ、 王太子よ。 やがてよい国王となりこの国を統べておくれ 」
「 父上。 妃と共に全力で努めます。 」
「 よう申した ・・・ ああ これで仏蘭西王国は安泰じゃ 」
老国王の笑顔に 息子のジャン王太子だけでなく
遠目にながめる民たちも 安堵し喜びあっていた。
いやあ〜〜 いいねえ・・・
王様もご機嫌だよぉ
めでたい めでたい〜〜
時に ウチの姫さまはどうなんだい?
あ〜 あのジャジャウマ姫かあ〜〜
・・・ 美人なんだがなあ〜
んだなあ〜 勇気もあっていい娘 ( こ ) なんだけど
あの跳ねっ返り姫サマを御するのは ・・・
並大抵のオトコじゃ ・・・ 無理だぜ
だねえ ・・・
これから 黒い魔物討伐の旅 だって?
らしいよ。
勇敢で武芸堪能な姫様だから 大丈夫だろうけど
でも なあ・・・
ああ ・・・
王太子様もご健康になられたようだし
姫様にも 幸せになってほしいよう〜
うん うん
ところで姫様の後ろにいる あのいいオトコは 誰だい?
あ? あ〜
なんでも 例の伝説の < 大地の髪と瞳 > だと。
ほらあ〜 金の髪と・・・って伝説 あるだろ?
あ ああ そうそう・・・
チビの頃ばあ様から聞いたなあ〜〜
黒い魔物を退治できるのは ってヤツだっけ
ふうん ・・・
こっちも上手くゆくといいねえ
だねえ イイコトは続くっていうからねえ
教会の尖塔からは 祝福の鐘が鳴り響き 国民たちからの花々が溢れる中
ジャン王太子とアルテミス姫は 婚儀の挙式をとり行った。
「 おめでとうございます〜〜 ジャン兄さま〜〜〜
そして アルテミスお姉さま〜〜〜 」
式の後 フランソワーズ姫は 一番に新婚夫婦に抱き付き祝福した。
「 ファンション ありがとう ! 」
「 フランソワーズさま ありがとうございます。
これからも 仲良くしてくださいね 」
「 はい! ああ ステキ!
― これで わたし 安心して 黒い魔物討伐 に出発できます 」
「 姫 ・・・ 」
ずっと笑顔だった国王の表情が す・・っと曇った。
「 本当に 行くのか 」
「 お父様。 はい。 わたしには 今、最強の援軍がありますもの。 」
フランソワーズ姫は 傍らに控える青年に微笑かける。
「 ・・・ は。 」
青年は 大地色の髪を揺らし片膝を突いた。
「 そなた ジョー よ。 姫を護れ。 」
「 は。 命に代えましても。 」
「 あらあ わたしが ジョー様を護るよ お父様。
なにしろ わたし達は伝説のコンビなんですもの 」
「 ― フランソワーズ様。 これをお預けしますわ 」
アルテミス妃が 胸から指輪を通した金鎖を外し、差し出した。
「 アポロンの指輪です。 ご無事でお戻りになるまで どうぞ 」
「 太陽の指輪 ですのね! ありがとうございます。
しっかりお預かりして ― 必ずお返しいたします 」
「 ええ 必ず。 」
勇敢な女性たちは 自信に満ちた笑みを交わしあった。
「 ― あ? お耳の飾り、 素晴らしいですね 」
アルテミス妃は 義妹の耳に揺れる大粒の真珠に目を留めた。
「 ・・・ はい これは ・・・ 」
すぐに 国王が口添えしてくれた。
「 こちらは 阿弗利加皇帝からの贈り物なのじゃ 」
「 まあ 阿弗利加皇帝の? 」
「 アルテミス。 阿弗利加皇帝・ピュンマ殿 を存知あげているかい 」
ジャンは 優しく新妻に語りかける。
「 一度だけ ・・・ あちらの宮廷からお招きを受けて・・・
とても 勇敢なお若い皇帝陛下でしたけれど 」
「 そうなのだよ。 彼はとても水練に長けていて・・・
ある時 川で鰐に襲われていた子供を 飛び込んで助けたのだ 」
「 え!! 鰐??? ・・・ すご〜〜 」
妹姫は 目を丸くし 我が耳の飾りにそっと触れている。
「 ものすごいことだよ・・・ ただ ・・・
その時の格闘で ― 身体中に大変な傷を負われた 」
「 まあ ・・・ 」
「 それは ― 存じませんでした。
お暑いお国なのに 襟元まである服を御召しでしたけど 」
「 うむ ご本人は少しも気に掛けてはいられないのだが
お目に掛かった時にね ・・・
「 やあ ジャン君。
え? ああ ・・・ うん ・・・
僕のこの傷痕がね 皆に余計な気を使わせるみたいなんで
公の場では 出さないようにしてる 」
「 ピュンマ殿下。 わかる それ!
ほら 僕も脚がまだ不自由だろう? 」
「 ふふふ お互い 気を使うよね〜 」
「 だ ね 」
実はとてもきさくで楽しい方なのだよ。 」
「 ・・・ 阿弗利加帝国の方々は 幸せですわね
素晴らしい皇帝をお持ちで 」
アルテミス妃は 夫の腕にそっと手を預けた。
「 うむ。 それでその時に これを 君の妹姫に って。
彼の亡き妹君のお形見だそうだ 」
「 はい。 大切なものを頂きました。
そして これは水の禍を避ける真珠 なのですって。
水辺で困ったときに 口に含みなさい、と 」
「 それは素晴らしいわね 」
「 はい。 皆さま わたし ・・・ 大切なお護りを二つも
もっております。 どうぞご安心ください。 」
「 最高のナイトを お持ちですしね 」
「 はい! 」
家族だけに見送られ フランソワーズ姫は ナイトのジョー殿と共に
静かに出立した。
父王と 兄王太子夫婦は 城のテラスに立ち、一行の姿が
見えなくなるまで 手を振り送ってくれた。
カツカツカツ カッ カッ カッ
白馬と栗毛の馬が 轡を並べ 軽快に進んで行く。
ほんの少数の供の者は 城下町を出たところで 戻した。
二騎は 足取りも軽く旅を始め ― やがて国境の森に差し掛かる。
「 あ 」
ジョーが 小さく声を上げた。
「 ? どうか なさって ジョー様 」
「 ・・・ あ いえ。 失礼しました 姫君 」
「 え ・・・ あ ああ。 もう国境の森まで来ましたのね。
木々の間から お城が見えます。 」
「 はい。 森は ・・・ 皆元気ですね! よかった 」
ジョーは 馬上から森を見渡しほっとした様子だ。
「 ふふふ ・・・ 鳥たちの鳴き声がいっぱい・・・
木々にも花がたくさん咲いてますね 」
「 ・・・ はい ・・・ 」
「 ね? お城に お邪魔してもいいですか ジョー様 」
「 え ・・・ でも 旅程が ・・・ 」
「 あら これも旅程のウチですわ。
ジョー様のお城に 改めて伺いたいです 」
「 ありがとう フランソワ―ズ姫 ・・・
では ぼくの城へ どうぞ。 ご案内しま〜す 」
「 はい♪ 」
二人は 笑い声を上げつつ 城目指して並足になっていった。
― 善い魔女、妖精・ヘレンの城 は 静かに佇んでいた。
城内は美しく清潔に保たれ どこにも荒れた様子はない。
森の精霊たちが きちんと保っているのだろう。
「 ただいま もどりました、ジョーです。 」
ジョーは 声を掛けつつ 城の大扉を開けた。
「 お邪魔いたします。 フランソワーズ・ド・フランス です 」
フランソワーズは 狩猟服だけどきちんと姫君としての挨拶をした。
「 さあ ― どうぞ 姫君。 ぼくの城へ! 」
「 ありがとうございます 」
ジョーは フランソワーズ姫の手を取り 城の中に入った。
そこここに 花が置いてある。 漂う空気には芳香が混じる。
「 さあ 居間へ! ぼくが母と過ごした部屋です。 」
「 はい 」
奥の間は 広く窓が切ってあり陽光に満ちている。
中央にはマホガニーの広いテーブルが据えてあり
手編みのレエスのテーブル・クロスが広げられていた。
「 ステキなお部屋 ・・・ 」
「 うん ・・ あ 失礼しました はい。 」
ジョーは少しだけ 俯いていたが すぐに笑顔になった。
「 どうぞこちらの椅子に。 クッションも どうぞ 」
「 ありがとう〜 気持ちいい椅子〜〜 」
「 これ ぼくが造ったんですよ 」
「 すご・・・ 貴方 なんでもできるのね、ジョー様 」
「 いやあ 〜 でも いろいろ 母に教わりました。 」
「 ステキなお母様ねえ ・・・ お目にかかりたいな・・・
あ ねえ・・・ テーブルの上 なにか ありますわ? 」
「 え・・・ 」
レースのテーブル・クロスの上には 繻子の細長いクッションが
置いてありその上には 一本の剣 があった。
「 これ・・・ あ 手紙が …? 」
剣の下には 一枚の手紙があった。
愛する息子・ジョー
貴方と 貴方の愛する人の危機に
この剣は 役立つでしょう
貴方だけが 使える剣です
母より
「 おかあさん ・・・ 」
ジョーは 涙を流しつつそっと剣を取り上げた。
細身だけれどしなやかに強く ― 鞘は極上の鞣革だ。
「 凄い剣ね! お母様からのプレゼントだわ 」
「 うん ・・・ 」
「 抜いてごらんになって? 鞘の細工も素晴らしいわ 」
「 ・・・・ 」
す・・・っ とジョーが鞘を祓えば 陽の光をうけて氷の如き刃は
キラリ、と光る。
「 ・・・ おお 軽いけれどこの刃は ・・・ 」
「 すご〜〜い〜〜〜〜〜 」
「 これで姫様をお護りできます。 」
シュタ。 ジョーは静かに剣を鞘に収めた。
「 さあ フランソワーズ姫。 討伐の旅に出立しましょう 」
「 はい! 」
姫君と騎士は 再び轡を並べ国境の森を抜けて行った。
― いざ 隣国・独逸帝国へ ・・・!
Last updated : 11.02.2021.
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********* 途中ですが
今回は 短いです ・・・ ごめんなさい つまらない話で・・・・
やっとジョー君登場ですが まだぎこちない二人です ・・・