『  にちようび   ― (3) ―  』

 

 

 

 

 

 

カチャ カチャ ・・・ カチン。  

「 え〜と・・・ 湯を沸かしたら ・・・の順で ・・・ 」

「 ・・・よし、次、次は〜〜・・・っと。  人参とモヤシ か。 

 ハムにチャーシュー・・・これは買置きがあるな〜 」

ジョーはメモをみつつ キッチンをあたふた走り回っている。

「 うむ よし・・・ ジョー 予定通りだぞ。  その調子じゃ。 」

キッチンのスツールに腰掛けて博士が 現場監督をしている。

「 はい〜〜 ・・・って今、自分がなにやってるかてんでわかんないんですが〜〜 」

「 よいよい、全てワシが計算したからの。  

 ジョー、お前はその仕様書の通りに実行しておくれ。 説明はあとだ。」

「 は ・・・ はい・・・  あ! なべが ッ ! 」

だだ・・・!とジョーは横っ飛びにガス台に飛んだ。

 

    ふう〜〜〜・・・ な なんとか間に合った〜〜

    しっかし こんなでホントに 出来るのかなあ・・・

 

「 それが茹ったら 千切りじゃ。 人参とキュウリ。 ハムにチャーシュー・・・はあるか。 」

「 は はい・・・ たしか・・・大人製のが冷凍してあるはず・・・ 」

ジョーは冷や汗を拭う間もなく、冷蔵庫を開け目的物を取り出しまな板の前に立った。

 

     ひえ〜〜〜 ・・・! やっぱ四個同時ってのは無謀かも・・・

 

 

日曜日の昼御飯時、 ジョーは四つの袋を前に呆然としていた。

「 焼きソバ  ラーメン味噌味  冷し中華  さぬきうどん ・・・

 やっぱ順番にいっこいっこ作ってゆくっきゃない・・・か ・・ 」

手間を考えるだけで ジョーはもう溜息漬けである。

「 ジョー・・・ 昼はどうする  おい、 どうした。 」

博士がひょっこりキッチンに顔を出した。

「 博士 ― これ なんですけど ・・・ 」

「 これ か?  ・・・ うん? なんだ、全部違う種類じゃないか。

 チビさんたちのリクエストかな。 」

「 いえ ・・・ ウチにあったのはこれで全部なんです。 」

「 ・・・ そりゃ困ったのう・・・ うん? ちょっと見せておくれ。

 確か袋の裏に作り方が書いてあったなあ? 」

「 え ・・・ 作り方というか・・・ どれも茹でるだけ、というか・・・ 」

「 そりゃそうだが。 それぞれ調理時間が違うじゃろが。 」

「 あ ・・・ そうですねえ ・・・ これとこれとこれ です。 」

「 ふむ? 」

博士は麺類の <作り方> をふむふむ・・・と読むと 側にあったチラシの裏に

なにやらさらさらと数式を書きはじめた。

「 ????? 」

「 ―   ・・・ よし。  ジョー、大丈夫じゃ。 なんとか なる! 」

「 はあ・・・ ? 」

「 よいか、まずは下拵えじゃ。 ・・・ このメモ通りに行動しろ。 」

「 は はい! 」

「 その後は口頭で指示する。 よいな。 」

「 了解! 」

 

    ・・・ お〜し。 戦闘開始、だ!

 

ジョーは手元の作業に集中した。

余分なことは考えず、ひたすら博士の指示を実行してゆく。

どたばたキッチンを走り回ることも少なくなり だんだんと昼食が出来あがってきた。

「 ・・・ふう〜〜〜・・・ うわあ すごいなあ、博士。 」

博士はジョーの作業を眺めつつ、時折なにやら数式を解きメモを書くとジョーに渡す。

「 なに・・・ これは実証実験と同じじゃな。 」

「 はあ・・・?  」

「 条件を羅列して 必須項目 選択項目、そして必要最低時間を掛けてな・・・

 で この数式が成立するじゃろ? 」

ジョーは博士の手元の紙を覗きこんだが ・・・ 

「 ・・・・ なんだかさっぱり ・・・ 」

「 あはは・・・ まあ ともかく。  これで全ての条件はクリアできるはずじゃ。 」

「 そうですよね〜 凄いや・・・ あ でも誰がどれを食べるかで揉めそうだな・・・ 」

「 そんなこともあろうかと、解決策は考えてあるぞ。  ジョー、一番大きな深皿を4個じゃ。 

 あとは・・・そうさなあ・・・ 小鉢を4個、いやありったけ出しておくれ。 」

「 は はい! 」

「 あとは・・・ っと。 そうじゃな、仕上げはワシがやろう。

 お前はチビさんたちを呼んでおいで。  」

「 は はい!   ― すぴか〜〜 すばる ・・・ 」

ジョーはエプロンをつけたまま あたふたと子供達をさがしてキッチンから出て行った。

 

 

 

「 だからあ〜〜 こことここをくっつければいいんでしょ! 」

「 ・・・ そうだけどォ〜 のりしろはできるだけちいさくして 」

「 ちっさくしたらしっかりくっつかないじゃん!  ・・・えい!  ほら これでおわり! 」

「 あ・・・あ〜あ・・・ 

「 なによォ〜〜 ちゃんとくっついたじゃん! でんしゃになったじゃん! 」

「 ・・・ もういいよ ・・・ あとはぼくがやる・・・ 」

「 ふ〜ん だア  もうてつだってやんな〜いもん! 」

「 ・・・・・・・ 」

「 なによぉ〜〜 ありがとう、は!?  ぺちゃんこでんしゃ、なおしたじゃん! 」

「 ・・・ ありがと 」

「 ふん、だ。  もうアタシ、しらないも〜ん  あそびにいってこよっかな〜 」

「 ・・・ あ〜あ ・・・ しゅくしゃく がちがっちゃう・・・ やりなおししなくちゃ。  」

「 あ〜〜〜 せっかくアタシがてつだってやったトコ〜〜 」

「 ・・・・・・・・ 」

リビングの片隅で すぴかとすばるが一触即発! な雰囲気になっていた。

「 すばる! アンタね! 

「 ・・・・・・・・ 

「 なんとか いいなさいよ〜〜 」

 

「 すぴか〜 すばる〜  昼ごはんだよ〜〜 」

 

「「 あ  お父さん 〜〜〜 」」

父ののんびりした声で 姉弟全面対決バトル は即行で回避された ・・・らしい。

「 わあい ごはん〜〜〜♪ 」

「 ご〜はんだ ごはん〜〜だ♪ 」

「 二人とも 手を洗っておいで。  おじいちゃまと一緒に食べような。」

「「 はあ〜〜〜い 」」

二人は弄くっていた紙類を放り出して バスルームに飛んでいった。

「 ありゃ・・・ また散らかして・・・っと。 あ これはすばるの電車だな。 」

ジョーは今度は慎重に息子の作品を拾い上げ リビングのテーブルの上に置いた。

「 ― ふうん ・・・ 本当にちゃんと縮尺してあるんだな〜

 あは・・・ ここの作業はすぴかだな。 盛大に糊がはみ出してら・・・ 」

ジョーはしげしげと眺めて、感心したりにんまりしたりしている。

 

「 おと〜〜さ〜〜ん! ご は ん !!! 」

食堂から娘のキンキン声が響く。

「 おう! ごめんごめん  今ゆくよ〜 」

ジョーは子供たちの元へ駆けつけた。

 

「 ごめん ごめん ・・・ ちょっとリビングを片していたんだよ。 

 お昼御飯、実はね、四種類あるから好きなのを・・・ 」

「 お父さんってば〜〜 見て見て♪ ほらあ〜〜〜 」

「 おとうさん〜〜 ちゃんちゃんこはんてん みたい〜〜 」

「 ? え ・・・ うわあ ・・・ 」

「 ふふふ・・・どうだね?  これで皆で仲良く食べられるだろう? 」

博士が大にこにこでテーブルの前に立っている。

そこには  大きな深皿が4個並び その前に沢山の具が二枚の大皿に ―

ハムやらチャーシューやら 人参やらもやしやら 金糸たまごやらねぎが のっている。

「 さ。 皆、小鉢に好きな麺を取って具をのせてお食べ。 」

「「 は〜〜〜〜い♪ 」」

「 あ ・・・ な〜るほど・・・ こうすれば皆が好きなものを食べられますねえ・・・ 」

「 あははは・・・ちょっとばかり遊んでみたのじゃがな。

 すばるが言ったように大人の店でのメニュウをヒントに考えてみた。 」

「 さすが〜〜博士♪ う〜ん、本当に張々湖飯店の御馳走みたいだ・・・ 」

「 おと〜さ〜ん !  すごくおいし〜よぉ〜〜 」

「 おいし〜〜〜 おとうさん 」

「 そうか〜 おっとそれじゃお父さんもいただくかな〜 」

ジョーもにこにこしつつお椀に焼きソバを取った。

 

 「「  ごちそ〜〜さまぁ〜〜〜 」」

「 はい、ごちそうさま。  ああ ・・・ なんかすご〜く食べた気分だ・・・  

「 そうじゃあな・・・  一人前以上食べた感触じゃな。 」

「 ええ・・・ 不思議ですよねえ・・・ 

 実際の量よりも眼で見た量に満腹したのかもしれませんねえ 」

どのお皿もからっぽ、皆のお腹は満足・満足、だった。

  ・・・ さぬきうどん に キュウリの千切り  とか 味噌ら〜めん に 紅しょうが とか

なかなかのミス・マッチもあったけれど それも新鮮といえば新鮮で・・・

「 う〜ん ・・・博士、さすがですね。 」

「 いやなに。 料理というものは実に科学的なことでな。 いや、科学的反応、じゃな。

なかなか興味深い事象じゃったよ。 」

「 なるほどなあ・・・ こりゃ発想の転換、だなあ・・・

 食べたいものをちょっとづづ取る・・・ってのはたしかに魅力的だよ 」

ジョーは後片付けをしつつ しきりに感心していた。

 

    やれやれ・・・ よかった〜〜〜 なんとか昼御飯クリア〜〜

    あとは ・・・ 晩御飯だけ か

 

フランソワーズのいない日曜日 もあと半日 ・・・・!!!

なんとかなる、なんとかできる〜〜 ・・・ ジョーは密かにに〜んまりしていた。

 

   ―  ところが。

 

BGを倒すことはできても  宇宙人やら未来人を撃退することは可能でも

  ・・・ この世の中は そんなに甘いモンじゃなかった ・・・!

 

 

昼ごはんを終わり、さすがの子供たちもお腹いっぱいでまった〜りしている。

リビングのソファでTVのリモコン・チャンネルを弄ったりどのDVDを見るか早速ケンカが始まった。

「 ほらほら・・・ 仲良くしろよ。  昼ごはん、美味しかっただろ? 」

「 お父さん〜〜 すばるったらねえ 」

「 ・・・ これ、 わたなべ君がすきなんだ〜 」

「 いま みるんだもん、 わたなべ君なんていないじゃん! 」

「 で〜も〜ぉ   ・・・ あ。 」

すばるが ぱっとジョーの方を向いた。

「 お父さん。  わたなべくん、あそびにくるんだ〜〜 」

今度はすぴかがジョーのセーターの裾を引く。

「 あ アタシも。 サアちゃん、くるよ〜 やくそく、した。 」

「「 ねえねえ オヤツに おかあさんのむしぱん つくって〜〜 」」

「 ・・・ む  むしぱん ・・・? 」

 

すぴかとすばるがご機嫌ちゃんな父親に、にこにこと<宣言> と <お願い> をした。

 

       ―  え。  と ともだち ・・・?

       な なんだ??  おかあさんのむしぱん  ??

 

ジョーはまたしてもリビングの真ん中で真っ白になっていた。

 

 

 

 

  ―  バン ・・・!

ドアが乱暴に開き 数人がどどど・・・となだれ込んできた。

「 はあ 〜〜〜・・・・ あと一回・・・! 」

「 ・・・ やれやれ ・・・つ〜〜かれた〜〜〜 」

楽屋に戻りダンサー達は衣裳を脱ぎハンガーに干すと 皆どさ・・っと座り込んだ。

汗でべたべたの顔、化粧を崩さないようにティッシュでぬぐう。

もういいや! とばかりにざぶざぶ洗っているものもいた。

マチネ ( 昼公演 ) がやっと・・・終った。 

 

     ・・・ ふう ・・・ なんとか ・・・

 

フランソワーズも隅っこの自分の化粧前に座ると 引き剥がすみたいにポアントを脱いだ。

「 ・・・ いたた・・・ ああ やっぱりつぶれちゃった・・・ 」

トウの部分がぐにゃぐにゃになり始めている。

「 う〜〜ん・・・? 夜に新しいの、履く ・・?? でもこれで頑張る・・? 

 あ・・・ 足、冷しておくほうがいいかも ・・・ 」

フランソワーズはそっと自分の足に触れ、首をかしげた。

「 クール・ダウンしたほうがいいわね。  

 ま、仕方ない か。 003の足はトウ・シューズで踊るようには改造されてないもの ね 」

少しばかり自虐的な笑みを唇に浮かべフランソワーズは呟いた。

ツクリモノのこの身体 ・・・ 慣れてしまった、と言ってはウソになる。

しかしそのことでいつまでも嘆いたり悲しんだりしていても ・・・ どうなることでもない。

だったらいっそ ― 現実を受け入れ、それを使いこなすことだ。

フランソワーズは 踊ってゆくうちにそのことに気がついた。

 

     踊ってゆくためなら ― なんだってできるわ。

     ・・・ この足、わたし、使いこなしてみせる!

 

     ううん、 仲良く一緒に踊ってゆく ・・・わ 

 

生身の時のように、足の指が剥けたり痣ができたりすることはない。

しかし ごく一部分を酷使するわけだからケアを怠ることはできないのだ。

機械に自然治癒は ありえない。

使った分だけきちんとメンテナンスをしなければならない。

フランソワーズは シップ薬らしきものを取り出すと足に貼った。

「 あ〜あ・・・ つっかれたぁ〜〜  あれ 足、どうかしたの。 」

荷物を取りに来た仲間が ふとフランソワーズの足に目を留めた。

「 あ ううん ・・・ クール・ダウンしているだけ. 」

「 そう、それならいいけど・・・・  大丈夫? 疲れたでしょう?  」

「 疲れたけど・・・平気です。  あと ・・・ 一回♪ 」

「 そ〜ね〜・・・ うわあ、アタシ、顔、作りなおさなくちゃ・・・ 」

「 やっぱり汗でかなり落ちますよねえ。 

笑顔で話しつつ彼女は足に張ったシップ − にみえるパッチをそっと押さえなおした。

実は シップ薬 などではなく、博士が開発してくれたサイボーグ体用の保護シートなのだ。

 

     お願いね、あと一回 ・・・ しっかり踊ってね。

 

「 ・・・わ〜〜 すごい顔になっちゃってる〜〜〜 」

フランソワーズもあわててメイク道具を手に取った。

 

「 え〜と・・・ ソワレ前に簡単にバーやりますって。  〇時に舞台上に集合〜 」

最後に楽屋に戻ってきた<ミルタ>さんが みんなに告げた。

「 は〜〜い わかりました〜〜 

ダンサー達はてんでな作業をしつつ返事をした。

 

     大変ね、まとめ役も ・・・

     ・・・ あら。 <ミルタ>さん、  ちょっと顔色 ・・・悪いわね ・・・

 

<ミルタ> はそのまま楽屋から出た。

「 ・・・? 廊下 ・・・寒いのに ・・・ 」

フランソワーズは静かにたつと、カーディガンをもって彼女の後を追った。

マチネが終わり 観客はすべて帰っていった。

楽屋の廊下の端は し ・・・ んとしていた。 スタッフも休息に入ったのだろう。

「 ・・・あら? どっち・・・ ああ左ね・・・ 」

フランソワーズはきょろきょろしていたが すぐに声に気が付いた。

廊下の角で <ミルタ>は電話に向かって熱心に話していた・・・

「 ・・・ ごめんね、ママ、明日帰るから。 ね、 おばあちゃんとまってて  ね? 

 いいこね、 みいちゃん。  泣かないで ・・・ お土産、買ってかえるから・・・ 

 ねえ みいちゃん・・・  」

どうやら電話の向こうで みいちゃん  は泣いているらしい。

<ミルタ>、いや ママ も少し涙ぐんでいた。

 

      あらら・・・・ これはママの方が辛いわねえ・・・

 

フランソワーズは静かに彼女に近づくと <みいちゃんママ> の肩にカーディガンを掛けた。

「 !???  ・・・・ ありがとう・・・! 」

<みいちゃんママ> は一瞬びっくりした顔をしていたが すぐに笑顔になった。

「 ・・・あ あのね、ママのお友達がいらしてね・・・ 」

「 ちょっとだけお話してもいいですか? 」

「 え? ええ ・・・ 」

フランソワーズは携帯を借りると ゆっくり話しかけた。

「 こんにちは。 みいちゃんのママのお友達です。 ママと一緒にお仕事、してます。

 おばちゃんもねえ、お家で娘がお留守番しているの。  

 だから みいちゃんもいいこでママを待っていてね? 」

「 うん? おばちゃんちの子は・・・もしかしたら泣いているかもしれないなあ・・・

 みいちゃんはきっと ママにがんばって、っていえるわよね? 」

「 はい ・・・わかったわ。 じゃあ ママに代わるわね。 」

「 ・・・ みいちゃん?  ああ もう泣いてないのね、いいこね・・・

 うん うん・・・ そうなのよ、ママのお友達さんのお嬢さんもお留守番ですって。

 じゃあね、今晩はおばあちゃんと一緒にねんねしてね。  うん うん バイバイ・・・ 」

<みいちゃんママ> はそっと携帯を切ると、涙を拭った。

「 ありがとう・・! フランソワーズ・・・  あの子、元気にバイバイって言ってくれたわ。 」

「 よかったですね。 可愛い声のお嬢さん ・・・ 」

「 もう 甘えん坊でね・・・ あなたは電話とかしないの? 」

「 ウチのは・・・ ええ、心配だけど ・・・ 心配しても仕方ないから。 

 考えないようにしています。  」

「 そう・・・ 小学生になるとやっぱり随分、オトナになるのねえ・・・・ 」

「 さあ ・・・ 今ごろジョー・・・いえ、主人がてんてこ舞いしているかも・・・

 ま たまにはね〜 子供達にべったり付き合ってほしいわ。  」

「 まあ うふふふ・・・ じゃ、私達も頑張らなくちゃね。

 いろいろあっても 踊りたくて踊ってきたのだから。 」

「 はい。  ― 実はわたし、どうしても どうしても踊りたくて。

 急なお話だったのですけど、 本当を言うと物凄く嬉しかったんです。 」

「 ― 千秋楽 ・・・ ジゼルには負けないわ。  」

「 ええ。  わたしも 負けません、 ミルタ。 

彼女たちの顔は 母親からすっかり一人のダンサーにもどっていた。

「 さ ・・・ 戻りましょ。  リラックスしておかないと ね。 」

「 そうですね。 」

二人は楽屋へと足を速めた。

 

「 ― ふ〜ん ・・・ 母親ってのは強いねえ ・・・ 」

タクヤが廊下の角で溜息をついていた。

「 ま ・・・ せいぜいミルタにもジゼルにも蹴っ飛ばされないようにビシっ!と決めにゃ な。 」

敵わね〜な〜・・・・ ぼやきつつもタクヤはなんだか嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

「 ほら、熱いよ。  気をつけなさい。 油が飛ぶかもしれないよ!  」

「「「「  へ〜〜き !!!!  」」」」

ジョーの注意に 可愛い声が4つ、元気に応えた。

 

   ― ジュワ ・・・・!!! ジュワ ジュワ  ジュワ〜〜

 

小気味のよい音と一緒に ふわ〜〜ん・・・といい香りが漂う。

「 うわあ〜〜〜・・・ いい匂いだあ〜〜 」

「 ・・・ おとうさん〜〜 すごい すごい〜〜 」

「 小父様〜〜〜 すごいわ〜〜 ! 」

「 おいしそう〜〜〜 すばるのお父さん!! 」

「 ・・・・っと。 上手く焼けるかなあ〜?  ほら よっつ焼けるからね。

 ひっくり返して〜〜 よ・・・っとぉ〜〜  あ 焼けてきたよ〜〜

 皆 お皿、出して。  よ〜し・・・  ほい ほい ほい  ・・・ ほい・・・っと! 」

「「「「  うわあ〜〜〜い♪ 」」」」

またまた可愛い歓声が一緒に上がった。

「 はい、好きなトッピング、して。 いちごジャム と マーマレード。

 粒餡 と これはカテージ・チーズ こっちはシャケ・フレークだよ。 」

「「「「  うわ〜〜〜〜 」」」」

子供たちはてんでに自分の皿にジャムだのチーズだのを取ってゆく。

「 !  おいし〜〜〜〜!!! お父さん、 これ めっちゃおいし♪ 」

「 ・・・ こんな味、初めて、あたし。 この甘いつぶつぶはなあに? 」

「 サアちゃん、それ アンコ だよ。 」

「 あんこ? ・・・ふうん ・・・ あたし、コレ好き♪♪ 」

「 僕も〜〜 僕ね 僕ね いちごジャムとあんこと一緒くたにした♪ おいしいよ〜ぉ♪ 」

「 げ〜〜・・・ すばる、アンタってばアリさんみたい! 」

「 ボク・・・カテージ・チーズとマーマレードで チーズ・ケーキ♪ 」

「 え 一口 ちょうだい、わたなべく〜ん 」

「 いいよ すぴかちゃん   ほら。 」

四人はわいわい・きゃらきゃら大騒ぎ、でも皆にこにこ顔だ。

 

     ふう ・・・ やれやれ・・・・

     な なんとか  なった・・・!

 

 

 

日曜日のオヤツタイム ― 島村さんちのリビングにはちっちゃな顔がよっつ、並んでいた。

双子に加えて すばるのしんゆう、わたなべ君、そして すぴかのお友達の サアちゃん だ。

わたなべ君はお馴染みの顔でちょくちょくやってくる。 すばるもちょくちょくわたなべ君ちにお邪魔する。

新顔のサアちゃんは なんとすぴかに負けないほどの金色の髪ではしばみ色の瞳の女の子だった。

4人のチビっこ達が 庭やらリビングで遊んでいる。

ジョーはちらり、と壁の鳩時計をみる。 三時も近い。

 

     オヤツ、 だよなあ・・・ チョコとかおせんべい か?

     あ・・・ お母さんのむしぱん って言ってたよなあ・・・

     ― 蒸しパン って あのほかほか・ふわふわパンだろ?

     あの作り方は・・・ 聞いてないよなあ・・・ う〜〜む・・・

     

<おかあさんのむしぱん> をせがむ子供たち。 おやつに〜〜と言っていた・・

途方に暮れたジョーだったが ―  ここで負けるわけにはゆかないのだ!

 

    う〜〜〜むむむむ ・・・・!

    か 考えるんだ、ジョー! 必ず突破口があるはずだぞ

    さっき博士が言ったじゃないか。

    料理は化学的事象だ ― って・・・!

 

    う〜〜〜むむむ ・・・ 

    ―  そうだ!  ホットケーキ・ミックスがあるじゃないか・・!

    そうだよ〜〜 さっきの昼飯をまねすれば・・・

 

    ・・! アレがあるじゃないか♪ よしよし よぉ〜〜し♪

 

ジョーはぎりぎりのところで起死回生した。  ジョーのターン だ!

彼はキッチンに飛び込むと戸棚の奥からホット・プレートを引っ張りだした。

仲間たちが集まったときに使うので かなり巨大なもので性能のいい・・・はずだ。

「 よ〜し・・・ あとは〜 これを使って・・・と。 」

ホット・ケーキミックスを溶いてボールに用意した。 あとはトッピングだ。

「 え〜と・・・ジャム ジャム・・・ フランのお手製のいちごジャムとまーまれーど♪

 すぴかのために甘くないモノ・・・あ、カテージチーズがあるな。 

 おお このサケ・フレークも使うか。  おお粒アン! これも出すぞ〜 」

キッチンにはたちまちデザート・ビュッフェ風にお皿がにぎやかに並んだ。

 

    よ〜〜し♪ これでいっか・・・

 

ジョーはひとりにんま〜りして子供たちを呼んだ。

「 皆〜〜〜 オヤツだよぉ〜〜 手を洗っておいで 」

 

 

 

 

「 ば〜いば〜〜い わたなべ君〜〜 」

「 ばいばい〜〜〜 だいちく〜〜ん 」

「 ばいば〜〜い すばる君 すぴかちゃ〜ん サアちゃ〜〜ん 」

わたなべ君はぶんぶん手を振ってから お父さんのお迎えの車に乗った。

西の空の色が変わりだす前に、ジョーは小さなお客サンたちを送っていった。

子供たちと一緒に坂道を降り国道に出て 曲がり角で待つ。

まず わたなべ君ちの見慣れた車が来た。

「 ― どうぞ これ! 自信のブレンドですよ〜〜 」

わたなべ君のお父さんは ジョーと挨拶し、コーヒーの袋をぽん、と渡してくれた。

「 あ・・・いつもありがとうございます。 ・・・いい香りだ! 」

「 いやいや こっちこそ・・・ じゃ 失礼します〜 」

「 あ はい、また〜 」

わたなべ君ちの車はあっという間に見えなくなった。

「 え〜と・・・サアちゃん、おうちの車はどんなのかな? 」

「 ウチの? え・・・っと・・・  あ!  お父様〜〜〜 」

「 あ〜 サアちゃ〜〜ん 」

すぴかと手を繋いでいた女の子は ぱっと駆け出した。 金色の髪が夕陽にきらきら・・とても綺麗だ。

「 ・・・・?  ああ  あの車か ・・・ 」

少し離れたところに停まった車から がっしりした体格の男の人が降りてきた。

サアちゃんは ぽん、とその人の腕に飛び込んだ。

「 お父様 〜〜 ! 」

ジョーはそのヒトと軽く目礼を交わす。 礼儀正しい感じのよい男性だ。

車の中にはサアちゃんとよく似た金髪の女性がいた。 彼女もジョーに会釈をしている。 

サアちゃんはお父さんにぴったり抱きついていた。

 

   ば〜いば〜〜〜い・・・! また明日〜〜〜

 

すぴかとサアちゃんはおっきな声でごあいさつをした。

「 さ、 帰ろう。  すぴか すばる・・・ 」

「「  うん!! 」」

三人は ぷらぷら・・・ウチに向かって歩き始めた。

空全体は茜色、右手にみえる海もきらきら・・・金色の波が揺れている。

「 ・・・ ねえ お父さん。 」

「 なんだい。 」

「 サアちゃんもお父さんといっしょだね。 車の中のひと おかあさんかな。 」

「 そうだね。 」

「 わたなべ君もだよね〜 」

「 そうだねえ。 」

すぴかのちっちゃな手がきゅう〜〜〜っとジョーの手を握った。

 

     あ  やっぱり淋しいんだよなあ・・・

 

「 ぼ 僕もっ ! 」

すばるが反対側の手に飛びついてきた。

「 あはは・・・ それじゃ三人で帰ろう〜 あ〜した天気になあ〜れ・・・ 」

「「 な〜あれ〜〜!! 」」

 

    ― 明日は お母さんが帰ってくる・・・!

 

三人は同じことを考えて同じ笑顔でおうちに帰った。  ― 早く明日になぁ〜〜れ!

 

 

 

 

 

「 ― だ 大丈夫?? 

「 ・・・ ちょっと マズいかも な 」

二人して袖に入った途端に フランソワーズはさっとタクヤを支えた。

『 ジゼル 』 一幕が終った。

息絶えたジゼルを前に アルブレヒトは悲嘆に暮れていたのだが、実は足の調子が気になっていた。

舞台上で フランソワーズがまず、気がついた。

「 すぐに冷して! 」

「 フラン、俺のことはいい。 着替えろ、急げ! 」

「 でも ・・・  」

「 大丈夫さ。 なんとか・・・してみせる。 急げよ、間に合わないぞ! 」

「 え ええ ・・・ それじゃ  これを張ってみて! 」

フランソワーズは 袖に置いたポアントの袋からシップみたいなものを取り出した。

「 父が持たせてくれたの。 」

「 ・・・ ありがとう。  早く ! 」

「 え ええ ! 」

フランソワーズはちょっと困った顔をしたが、すぐに楽屋に駆けて行った。

 

 

   *****  いらぬ注 : 急げ >> 『 ジゼル 』 一幕と二幕の間に

   ジゼル は衣裳を村娘からウィリに替え狂乱の場で乱した髪を

   セミクラシックに結い直さなければならない。 かなり大変!

 

 

静かな音が流れ始めミルタが滑る様にステージを横切っていった ・・・

『 ジゼル 』  千秋楽の第二幕が始まった。

「 ・・・ ああ いい感じだな〜 」

「 あ タクヤ君!  足は? 」

袖に現れたタクヤに 舞台監督が声をかけた。

「 なんとか。  シップもらったんで ・・・やれます。 」

「 そうか!  パ・ド・ドゥ、しっかり頼むぞ〜 

「 ・・・ 任せてください! 」

タクヤは そっと左足を押さえた。

 

     すごいな ・・・ この湿布は。

     鎮痛効果、というよりも消炎効果でもあるのかな

 

     フラン ・・・!  ありがとう〜〜 

 

「 タクヤ君、 後ろ、縫います! 」

「 あ お願いしま〜す 」

衣裳さんがかけてきてタクヤの後ろに立った。

アルブレヒトの出番までには もう少し。  そろそろジゼルのソロが始まる頃だ。

 

     フラン ・・・ 俺さ 見ちゃったんだ

     この湿布と一緒にさ、 家族の写真、入れてたろ・・・

     なんでもない顔してるけど 心配なんだろうなあ

 

     すばる? なあ お前のママはなんてカッコイイだよ?

     すぴかちゃん、 君もママみたくになるのかい・・・

 

顔見知りになっている双子たちに タクヤはちょっと話かけてみた。

 ― けど、当然 ・・・ 彼らの父親の顔も浮かんできたわけで・・・

「 くっそ〜〜〜 やってやる!  」

「 ・・・うわ ・・・ びっくりしたア・・・ 」

背中を縫っていた衣裳さんが驚いた。

「 あ ・・・ す すんません〜〜  」

「 あはは・・・いいのよ。  さ〜て これでよし。 ラスト〜〜 気張って! 」

「  ― 了解 」

びし!っとサム・アップすると タクヤは袖ぎりぎりに立った。

 

     フランソワーズ!  俺 負けね〜ぞ!!

 

彼は舞台で踊る ジゼル にこころで呼びかける。

勿論、 彼女は袖なんぞ見ていないから伝わるはずもない。 

でも 宣言した。 負けたくない・・・!  負けない。

 

  やがて ―  彼 は 彼女 と 一夜限りの再会を果たす

  二人の魂は永遠に寄り添うのだ。

 

 

 

  

   うわあ〜〜〜〜   ブラボォ〜〜〜〜〜!!!!!

 

今回は 義理でもお付き合いでもない万雷の拍手と感動の声がホールに木霊する。

「  大丈夫?  ・・・・え ・・・は 拍手? 」

「  あ ・・・は ・・・はは ・・・ 」

幕が下り、 のっそり起き上がったアルブレヒトにジゼルが袖から駆け寄った。

「「 な なに・・・・ ? 」」

二人は幕ごしの大拍手に ぽかん、としている。

「 きゃ〜〜〜〜〜 もう もう すごい すごい すごすぎるぅ〜〜〜 」

「 ・・・ 泣かせて! わんわん泣かせてよ〜〜 」

ミルタを先頭に だだだ・・っと共演者たちが袖から駆けてくる。

 

「 ・・・ あ  は ・・・? 」

「 なんか ・・・ うまくいったみたいだな・・・ 」

「 ええ ・・・ そう みたい・・・ 」

主役の二人は目をぱちくり、顔を見合わせている。

「 ほらほらァ〜〜  カーテン・コールよ  ほらほら〜〜 」

ミルタが二人をひっぱり起こした。

「 さあ !   お客様に ご挨拶よ 〜 !!! 」

「 よし!  ・・・フラン、ちょっと・・? 」

「 え なに ・・・ わ・・? 」

タクヤはひょい、と彼の恋人を抱き上げるとそのまま幕の前に出ていった。

 

      わ〜〜 すてきぃ〜〜  きゃあ〜〜〜〜〜

 

恋人をきゅっと抱き締めた王子に そして愛しいひとにひし、と縋りついたウィリに

客席からは黄色い声までが響き、拍手がまたまた盛り上がった。

  ― その夜、ホールの灯が全部点くまで拍手が鳴り止むことはなかった。

 

 

 

「 お〜〜〜つかれ〜〜〜〜〜!!! 」

「 きゃあ〜〜〜〜 おわったア〜〜〜 」

「 うわ〜〜うわ〜〜 うわ〜〜〜 オレ どうかなりそ〜〜 」

客席はざわめきも次第に小さくなって行ったが 逆に舞台上では皆の歓声が弾けた。

ダンサー達は涙を飛ばして抱き合ったりぱんぱん背中を叩いたりしている。

「 いやあ〜〜 僕も感動した! ありがとう〜〜 皆!! 」

ず〜〜〜っとダメ出しの連続だった舞台監督が満面の笑みで両手をあげてバンザイしている。

「 さあ〜〜 皆 ! スタッフさん達に感謝と御礼の嵐を〜〜

  それで ― 打ち上げだあ〜〜〜 !! 」

マネジャーの発言がますます皆を沸き立たせる。

   ―  ありがとうございましたァ〜〜〜 !!!

全員でスタッフさん達に御礼を述べると、皆 楽屋へ駆けてゆく。

フランソワーズも やれやれ・・・と楽屋に引き上げた。

ギリギリのピンチ・ヒッターだったけれど、ともかく迷惑だけはかけずにすんだ、と思う。

「 ふう ・・・ ああ でも久し振りタクヤを踊れて楽しかったわ〜〜 

 皆さ〜ん ありがとうございました ! 」

「 ありがとう〜〜〜 フランソワーズ 〜〜〜♪ 」

楽屋の中はもう わいわい・きゃあきゃあ興奮のるつぼだ。

ミルタさん も大口を開けてわはわは笑っている。

 

  ― バンバンバン !!!

 

「 開けていいか〜〜 オレ! 」

突如 ドアが凄い音で鳴り、タクヤの怒鳴り声が聞こえた。

「 ?? 山内くん?  え ・・ ど〜ぞ? 」

 

   バン ッ !!

 

ドアが開き、 タクヤが顔を見せた。

「 フラン! 仕度しろ。 速攻で送ってくぞ! 車、借りた! 」

「 え? 」

「 今から駅にぶっ飛べば 最終の夜行に間に合う・・・! それで 帰れよ。 」

「 タクヤ  ・・・ ちょっと待って! < 仲間 > も一緒にお願い! 」

「 ?? 仲間ァ ??? 」

「 ええ。   ママな方々〜〜〜 !! 」

フランソワーズは仲間達に向かって大声で呼びかけた。 

 

 

 

     ・・・・ タタタン ・・・タタン ・・・・・・・・タン ・・・・・・・タ ・・・・・

 

最終列車はたちまち夜の帳の中へと消えていった。

「 ・・・・・・・・・ 」

タクヤはそのテール・ランプが闇にまぎれてしまってもなお じっと見つめていた。

「 ・・・ 山内君。  ありがとう、私達まで 」

「 え・・・ ああ。 そんなこと ・・・ 」

「 でもすごく嬉しい。 ありがとう 本当に ・・・ 」

「 いや ・・・ そんな ・・・ 」

フランソワーズの <ママ達> たちはそれ以上なんにも言わなかった。

夜闇の中の沈黙が 心地好い。

タクヤは彼女たちの心使いに心から感謝していた。

あと数分で反対方面行きの最終列車がやってくる。

彼女たちはそれに飛び乗り我が家へ ― 愛しい子供の元へと帰ってゆく。

 

    オレは ―  ははは ・・・ 痛飲するか ・・・

    ははは ・・・ ザマァないなあ〜

 

    ふん ・・・ いいさ。

    オレは アイツが、フランが幸せならそれでいいんだ・・・

    なあ フラン。  

    ・・・ オレ やっぱ君が好きだ 〜〜〜〜

 

夜の闇が アルブレヒトの吐息を優しくつつみこんでくれた。

 

 

 

 

 

 

晩御飯は ― なんとか終った。

すばるが大活躍の <かれ〜 > は、ちゃんと美味しかった。

普段、家ではあまりお目にかかれない 福神漬  や らっきょう  は子供達に大好評だった。

デザートはおじいちゃまのお土産の アイスクリームだった♪

皆お腹いっぱい、おいしいかった〜〜 と満足していた。 素敵な日曜日の晩御飯・・・

 

   ―  けど。

 

御飯が終ってしまうと リビングはしーーーーーん としている。

TVだけが 喚いていた。

すぴかはソファでぼんやりTVを眺めているが ・・・ しっかり母親のカーディガンを握っていた。

甘えん坊なすばるが案外機嫌よく でんしゃのもけい をいじっていたが ふ・・・っと涙目になった。

 

    ウチの日曜日、じゃないよなあ・・・こんなの。

 

ジョーはあわてて自分自身のため息を飲み込んだ。

「 ・・・ お父さん。 あした、かえってくるよね、お母さん。 」

「 あした がっこうからかえったら お母さん、いるよね!」

「 すぴか  すばる ・・・  そうだよ、明日、ちゃんと帰ってくるよ。

 なあ すぴか すばる。 お父さんからお願いがあるんだけどな〜 」

「 なに、おとうさん 」

色違いの瞳がじ〜〜っとジョーを見上げてくる。

「 うん ・・ 今晩さ、 お父さんと一緒に寝てくれるかなあ ・・・ 」

「「  うん !!!!! 」」

 ― その晩、 ジョーは息子と娘を左右に、川の字 で眠りについた。

 

 

   

   カサ  ・・・ ゴソゴソゴソ ・・・

 

・・・ うん・・・?

明け方、ジョーはなにかの気配を感じ 薄目を開けた。

そっと左右に手を伸ばして子供たちの存在を確かめる。 二人ともぐっすり・・・だ。

 

   パサ ・・・ 

 

掛け布団がこっそり捲られて ―

「 !?? う・・・・・な なんだ!?  」

「 ふふふ ・・・ た だ い ま♪  」

「 ?? ふ  フランソワーズ ・・・!?? 」

ジョーの目の前に フランソワーズがにこにこ・・・笑っていた。

夜気の寒さのためか 頬が上気している。

「 ・・・ え!? だ だって 明日・・・いや もう今日か。 今日の昼頃帰るって・・・ 」

「 あのね、 タクヤが・・・駅まで送ってくれたの。

 それで昨夜の最終で向こうを発って今朝に始発で帰ってきたの♪ 」

「 そうなのかァ〜〜  (  くっそ〜〜アイツめ・・・ ) 」

「 ええ。 タクヤってば本当に親切よねえ。 」

「 ・・・ まあ な 」

「 あ〜あ・・・今になって疲れちゃったわ、わたし。

 ふふふ ・・・ 一緒に寝ましょ? まだ随分早いでしょう?  」

「 あ ああ そうだな。  朝 すぴかもすばるも・・・びっくりするぞう〜〜 」

「 そうねえ・・ じゃ 二人で子供たちをサンドイッチ しましょ。 」

「 ああ。 ・・・ その前に〜 」

「 ・・・え?  あ・・・ んんんん・・・・ 」

ジョーは子供たちを挟んで愛妻に 思いっきり熱いキスをした。

 

   ふ ふん!  このオンナはオレのもんだ〜〜!

 

・・・ そして その朝。

起きぬけのすぴかとすばるは お母さんにどう〜ん・・・と抱きついた。

  

    「「   おかあさん !!  おかえりなさ〜〜い!!  」」

 

 

 

 

   ******  げにおとこというものは ( おまけ )

 

 

フランソワーズはキッチンで呆然としていた。

まず 冷蔵庫を開けて ―

「 ・・・  う  わ ・・・・  冷凍食品がなんで冷蔵庫につっこんであるの? 」

食器棚は普段は使わない食器も含めて種類はめちゃくちゃに <大きさ順> に並んでいた

「 !?!?  客用のディナーセットがどうして一番前にあるの??? 」

パントリーの中は台風の後みたいで 

「 え!? あ あの・・・コーンフレークス た 食べちゃったの!? 」

「 うん、 美味しかったよ〜 」

「 なんともない?? すぴかもすばるも・・・博士も なんともないの? 」

「 ???  」

「 アレ・・・ 賞味期限、とっくに過ぎていて。 今度捨てるか小鳥のえさするつもりだったのよ!」

「 ・・・げ ・・・ 」

 

    まだまだまだ ・・・ 安心して留守にはできないわ!

 

フランソワーズは重々しく頷いた。  

 

  ― いつだって・どこでだって  お母さんがいっちばんエライ、ってことなのだ。

 

 

 

Last updated : 11,08,2011.            back    /    index    /    next

 

 

 

*******  またまた続きます〜〜

えっと とりあえず、フランちゃんは帰宅しましたが。

もうちょっと番外編っぽく あと一回・・・続きます〜〜<(_ _)>