『 棲み家 ( すみか ) ― (2) ― 』
〜〜〜♪♪ ♪♪ ♪
柔らかいピアノの音が 流れる。
春の陽射しが満ちる客間には ふんわりした空気でいっぱいだ。
ティン。 陶器と陶器が 微かに触れ合った。
「 ・・・ 美味しいお茶ですねえ 」
フランソワーズはふか〜い満足のため息を吐く。
「 まあ そう? ロンドンの店から送らせたんですの。
ああ フランスの方にはコーヒーの方がよかったかしら 」
いい香の湯気に向こうで 濃い金髪の婦人が嫣然と微笑んでいる。
「 いえ ・・・ わたし、ティ― も好きです。
ここは とてもとてもステキなお部屋ですね 」
「 ありがとう。 旧い屋敷ですけど 気に入っていますの。
ねえ このイチゴ 庭の温室で採れましたのよ
どうぞ? ちょっと酸っぱいかしら ・・・ 」
ガラスの器には 小粒だけれど真っ赤な果実が顔を見せている。
「 いただきます。 〜〜〜〜ん〜〜〜〜 美味しい!
甘くて酸っぱくて ああ 春の味 ですね 」
「 春の味 ? まあ 素敵な感性ね・・・
フランスのお嬢さん ・・・ あとでお庭をご案内するわ。」
「 わあ ありがとうございます。 お庭のある家って
ずっと憧れていました。 パリでは アパルトマン住まいだったので 」
「 そう? それじゃ 温室にもご招待するわね。
今 春の花が盛りです。 初夏の薔薇も咲き始めてますのよ 」
「 ・・・ すごい ・・・! 」
「 お茶の後に 庭と温室の散歩 いたしません?
あ・・・ 御引き留めしてもいいのかしら 」
「 え あ ・・・ はい。 わたしは大丈夫でけど
あ お邪魔していても構いませんか なにかご予定とか 」
「 あら わたくしは時間を持て余していますのよ
ふふふ こんな可愛い方と春の時間を過ごせてシアワセよ 」
「 ・・・ 嬉しいです わたしも ・・・
あの・・・お友達 いないし。 この国 初めて来て ・・・
女性の方とおしゃべりしたかったんです 」
「 まあ まあ 嬉しいこと。
それじゃ お茶 終わったらご案内しますね 」
「 ありがとうございます 」
ティン ・・・ 銀のスプーンが軽くソーサーに触れた。
素敵 ・・・ !
ああ 最高の時間が過ごせそう
殺伐とした オトコ達ばっかりの
殺風景な日々に うんざりしていたのよ
フランソワーズは 心も身体もやっと息を吹き返した・・ そんな
気分になっていた。
・・・ わたし ニンゲンよね
どこにでもいる 普通のオンナノコ だわ
早い春の陽射しが 優しく彼女の金の髪を包んでいた。
「 ・・・ ただいま 」
出来るだけ そう・・・っと玄関のドアの前に立った。
春の陽は 西に傾き ただよう空気には冷たさが混じってきていた。
カチャ ・・・
認証キー をおしてドアを開けた。
「 ! お帰りなさい !!! ああ よかったあ〜〜
003さん 心配したよぉ 」
茶髪の少年が飛び出してきた。
「 あ ああ 009 ・・・ 」
「 お帰りなさい! もうすぐ晩御飯です 」
「 あ もうそんな時間? ああ 食事作り手伝うわ 」
彼女は 彼の側を通りすぎようとした。
「 あの なにかあったんですか? 」
彼の真剣な声に 彼女は思わず足を止めた。
「 ? 別になにも。 なぜ? 」
「 ごめんなさい でも 全然連絡もないし ・・・
散歩にしては 長いし ・・・ 」
「 あら そう?
う〜〜ん この辺りって気持ちがよくて。
ほうぼう歩きまわってしまったの。 」
「 そうなんですか?? でも 昼ごはんにも
戻ってこなくて ・・・ ぼく 心配で 」
あら。 なんて心細そうな顔・・・
あは ママの帰りが遅くなったボクみたいよ?
ああ 貴方、きっと優しいママがいたのね
ほんの少し 心が きゅん ・・・ とした。
そんな自分が 恥ずかしくて彼女はことさら平然とした表情をした。
「 まあ ありがとう、ご心配くださって。
でもね わたしだって 003 です、心配無用。 」
「 あ ごめんなさい そういうつもりじゃ・・・ 」
「 ああ いちいち謝らなくてもいいです。
ちょっとね 知り合いができてお宅にお邪魔していたの 」
「 え! この近く ですか 」
「 まあ そうね。 ああ 食事の準備〜〜 手伝いしないと・・・
なにせ 大人数分ですものね じゃあ 」
「 あ ・・・ そう ですね 」
「 着替えて準備してくるわ。 」
フランソワ―ズは さっさと私室に向かった。
― 彼の視線を 背中にずっと感じつつ。
ふうう ・・・
・・・ ほうっておいて ・・・
一人でいたいの わたし。
パタン。 ドアを閉じる。 簡単なカギだけだが
それが また嬉しいのだ。
「 ・・・ ふふふ ・・・
遅く帰ると 兄さんも煩かったっけ ・・・ 」
そのまま べッドに腰を下ろした。
ほろり。 バッグの中から黄色の薔薇が飛び出す。
「 あ 頂いた薔薇 ・・・ ああ 綺麗だわ ・・・! 」
そうっと拾いあげ ガラスのコップに差した。
「 わあ ・・・ お部屋がいっぺんに明るくなった ・・・
ああ そうね、お花 飾るわ。
お店で買えなくても そうよ、ここの庭に咲いてるの、すこし頂いても
いいわよね ああ きれい・・・ 」
彼女は しばし一輪の薔薇を見つめていた。
「 ・・・あ いっけない。 晩ご飯の準備、手伝うって
言ったんだっけ・・・ 薔薇さん またあとでね 」
軽く キスを投げた。
かちゃ かちゃ ごとごと ごと・・・
キッチンでは丸まっちい料理人とスキン・ヘッド氏が
忙しく立ち働いていた。
「 遅くなってごめんなさい。 手伝うわ 」
彼女はエプロンのヒモを結びつつ 仲間に入った。
「 アイヤ〜〜〜 おおきに 助かるわあ〜
えっと フランソワーズはん やったな? 」
「 ええ そうです。 あ〜〜 張さん。 」
「 ほっほ〜〜 ほんなら このニンジンさん 切ってやあ
小口切りでっせ ぶりてんはん 教えたげてえな 」
「 おう 了解。 こうやって だな 」
「 はい。 あ ちょっと待って。 手を洗うわ 」
フランソワーズは シンクに寄ってから スキン・ヘッド氏の
横に立った。
「 ほう 感心だね。 じゃ この人参を 」
「 はい。 あ わかります、 こうやって切るのでしょう? 」
「 左様 左様〜 では よろしく 」
「 はい 」
彼女の隣で 英国人はジャガイモの皮を剥いている。
「 ふんふん〜〜♪ おや マドモアゼル どちらへお出かけかな
えもいえぬ芳香が・・・ 」
「 え・・・ ただの散歩ですけど 」
「 ほう? この季節 花畑はまだ蕾が多いと思うが・・・
花の香いっぱい だ。 ふむ これは 薔薇かい? 」
「 まあ すごいわね ムッシュ・ブリテン。
実は 薔薇の花園を彷徨ってきましたの わたし 」
「 おお? そはいずこ? 」
「 ふふふ あの ね 散歩してましたら 」
彼女は あの屋敷の場所を説明した。
「 ほう? ・・・ 雑木林の向うに 薔薇屋敷 とな 」
「 ええ。 」
「 それはまた風雅な光景ですな 」
「 お庭は広いし 温室もあるの。 春の薔薇がたくさん!」
「 ほうほう それでその香しい空気を纏ってきたのかい 」
「 そうみたい ・・・ ふふ 素敵でしょ 」
「 御意。 夢の花園 ですな。 吾輩も覗いてみたいものだ 」
「 あら いいんじゃない? ちょっと古風な暮らし方を
していらっしゃるから・・ ミスタ・ブリテンとは
お話が合うかも 」
「 それは光栄ですな。 ・・・っとジャガイモ 剥けたぞ 」
「 はいナ〜〜〜 ほんなら 次は豆の筋をとってや〜〜
お嬢はん 人参はどないしましてん 」
「 あ はい ・・・ これで全部よ 」
「 おおきに〜〜 はは あんさん、上手にならはったな〜 」
「 そう? 嬉しい〜〜 ねえ 張さんはずっとキッチンにいるの? 」
「 ワテでっか? いやいや 今なあ 裏庭に畑 作ろう、思とりますねん。
簡単なお葉モノやら 夏野菜、植えよう、てなあ。 」
「 あら ウチで野菜が採れるの? すごい! 」
「 広いお庭 使わんと勿体ないですやろ
005はんも手伝うてくれはります 」
「 まあ いいわね! えっと あとは・・・ 」
「 ほな レタスとトマト 使うてサラダにしまほ。
ドレッシング まぜてやあ 」
「 はあい
」
「 食卓 拭いて・・・ 食器 並べたよ〜〜 」
茶髪の青年が顔を覗かせた。
「 はい おおきに、ジョーはん。 ほんなら
悪いけど 洗いモノ、手伝うてくれるか 」
「 おっけ〜〜 張さん。 」
彼は すぐにシンクの前に立った。
「 ぼく 洗いモノとか得意なんだ〜
あ ねえ 今晩のご飯 なんですか 」
「 ほっほ そら出来上ごうてからの お楽しみ や。 」
「 う〜〜 腹減ったなあ 」
青年は にこにこ・・・機嫌よく洗いモノを始めた。
ふうん ・・・?
おウチでも お手伝いをしていました ってこと?
素直に育った坊やちゃん なのかしら
・・・ そっか・・・
ほんのつい最近まで 彼は普通に平和に楽しく
生活していたのよねえ・・・
009 だものね ラスト・ナンバーだものね
・・・ なんか羨ましい な
彼女は目の端で 青年の穏やかな笑顔を観察していた。
カチャカチャ ワイワイ あははは・・・
総勢10人近い食事風景は 相変わらず賑やかだ。
ことさら大声を出すわけでもないが なにせこの人数・・・
小声の会話も集まれば 結構なヴォリュームになる。
「 ・・・ ( 煩いなあ ) ・・・ 」
彼女は耳を塞ぎ 黙々とフォークを動かした。
♪♪ 〜〜〜 ♪♪
昼間聞いたメロディ を そっとハミングし 気分を飛ばす。
あの優雅な空間に 閉じこもりたい。
「 ? 」
隣のドイツ人が ちらり、と視線を向けてきた。
「 ・・・ あ 失礼。 煩かった? 」
「 いや 別に。 ― その曲、 好きなのか 」
「 え・・・? え ええ ・・・ いい曲だなあって
なんだったかしら ね 」
「 シンフォニー 五番。 ベートーベン。 」
「 ・・・ ああ そうだったわ 詳しいのね 」
「 どこで聞いた? 」
「 え ・・・ ちょっとね。 ピアノを聞いたの 」
「 ほう 」
「 ごめんなさね 食事中に・・・ ただ ちょっと・・・
賑やかすぎて ・・・ そのう 」
「 構わんよ。 しかし 誰が弾いていたのかね 」
「 あるお家の息子さん。 ・・・ 直接には会ってないのだけれど・・・
庭のサン・ルームがピアノ室になっていてね
お邪魔している間 ずっといろいろな曲を聞くことができたの。 」
「 ほう ・・・ 音楽学校の生徒か 」
「 わからないわ でも とても上手よ 」
「 ・・・ 聞いてみたいな 」
「 あら 004。 音楽に興味があるの? 」
「 ― 昔 目指していた。 ピアニスト を 」
「 ! まあ そうなの ・・・
それじゃ 是非 訪ねてごらんなさいな
素敵なお宅なのよ 」
「 ・・・ ふ ん・・・? 」
カチャ。 この邸の老当主が 008と共に入ってきた。
「 やあ 諸君。 お邪魔します 」
「 アイヤ〜〜〜 コズミせんせ〜 お待ちしてましたで
さささ お掛けはって〜〜 」
「 どうぞ コズミ博士。 あ 008 一緒だったんですか 」
006と009が さっと立ち上がりコズミ老ともうひとりの
仲間のために席を作った。
「 いやいや〜〜 これはありがとう。
ああ お招き、ありがとう。 図々しく押し掛けたですよ 」
「 どうぞどうぞ コズミ博士!
食事は皆で食べたほうがオイシイですよね〜〜
えっと ・・・ お皿と箸、もってきますね 」
「 009くん すまんなあ 」
「 いいえ あ 008は フォークがいいですか? 」
「 え 僕? う〜ん そうだなあ チョップスティック は
うまく使えないよ 」
「 ほっほ〜〜 箸 使うとるのんは ワテとジョーはんだけやで 」
「 ・・・ ジョー?? 」
「 ああ ぼくです。 ぼく しまむら じょー っていいます。 」
ふうん ・・・ そういう名前 なんだ?
居合わせた仲間たちは 全員、なんでもない顔をしつつも
こころの中で 頷いていた。
このコは ― とても 若い。
そうか ・・・
特殊な身体にされて まだ間もないのだ
・・・ そう とても 若い。
「 ほっほ〜〜 さあ どうぞ召しあがってやあ〜 」
料理人は 湯気のあがる皿を運んできた。
「 わお〜 すっげな〜〜 」
「 おお これは美味そうじゃあ 」
遅れてきた二人も 嬉々として食卓の仲間に加わった。
「 008。 コズミ先生のお手伝い・・・? 」
009は隣に こそっと話しかける。
「 あ は ・・・ ちょっと違って・・・
コズミ先生の蔵書室に溺れていたんだ。 」
「 ぞうしょしつ? 」
「 そ! いや 実際は図書館だね。
すっごい ・・・ ! 」
「 あ〜〜 いやいや お恥ずかしい。 あの程度でしたら
とても とても図書室ともいえないですな。
あ ご興味のある方 どうぞご遠慮なくいらしてくださいよ 」
老博士は ますます柔和な笑みを浮かべる。
「 ほう? ご専門の蔵書ですか? 」
004が 興味を示す。
「 だいたいそうですよ 」
「 004、 でもね それ以外も た・・・っくさん!
君も来てごらんよ。 あ 009 君もどう? 」
上機嫌の008は 隣の席にいた少年にも話を振る。
「 ・・・ え・・・・? 」
「 蔵書室! 一緒にこないか? 」
「 あ ・・・ ぼくは そうの ・・・ 英語 苦手で 」
え ・・・・????
全員が一瞬固まってしまった。
― マジか?? ( ふざけてるのか このヤロ〜 )
おいおい〜〜〜
誰か コイツに自動翻訳機の使い方、
ちゃんと教えてやれよ〜〜
「 え? あ〜〜 大丈夫だよ。 音読してごらんよ?
君のアタマの中でちゃんと理解できる言語になるから さ 」
008は 動揺しつつも さらり、とフォローしてやった。
「 ・・・ あのう 発音、わかんないし・・・
あは ぼくさ 英語 ダメだったんだ〜〜
」
「 あ ・・・ 僕の言ってること、わかるよね? 」
「 ウン。 えっと 008さん、日本語上手ですね 」
「 あ? ・・・ あ ああ。
ん〜〜と。 明日から一緒に書庫においでよ。
いろいろ・・・・勉強しようよ? 」
「 わあ いいの? ありがとうございます!
ぼく ちゃんと勉強しなくちゃって いつも思ってたんだけど 」
「 いいチャンスだよ コズミ先生にも教わって さ
ねえ 先生? 」
「 ああ? はい 結構ですよ。 学生さん 歓迎〜〜ですじゃ 」
コズミ博士は いつも柔和な笑顔だ。
「 わ・・・ が 学校だあ 〜〜 」
「 ふふふ コズミゼミ に参加だね
えっと・・・ あ ジョー 」
「 はい! あ 008さんって 」
「 お ごめん〜〜 僕 ピュンマ。 よろしく! 」
「 しまむら じょー です。 うわ うわあ・・・うれしいな 」
「 じゃ 明日からクラス・メイトだね 」
「 はいっ 」
集団の隅っこで ワカモノ二人は がっつりグータッチをしている。
ああ? なんかうまく行ったみたいだな
ふん? あの新人も少しは慣れたか
年嵩の連中は 視界の端っこで若いメンバー達を
それとなく 見守っていた。
がやがや ・・・ しつつも 和やかな夕食
ごく当たり前の ― でもとても貴重な ― 一日は 穏やかに暮れた。
コツ コツ コツ
洒落たスーツに身を包み ステッキ片手に中年紳士が歩いてゆく。
早春の空は 水色で白い雲がぽかり ぽかり 浮いている。
「 ・・・ ほう この辺りは空き家が目立つなあ
件の邸は この先か・・・? 」
彼は 辺りをそれとなく眺めつつ ゆるりと散歩を楽しんで
いる風体だ。
行き交う人もいなくなり 人家が途絶え それでも続く小路の
左右は 雑草が原 になってきた。
「 ふん? こりゃ 畑の成れの果て か
所謂耕作放棄地 ってやつか ・・・ お? 」
ちゃぽ ちゃぽ ちゃぽ ・・・
ほんの僅かだけれど 水音が聞こえてきた。
「 ?? 川 か??? はて こんなところに・・? 」
彼は 目の前に広がる草地へと 踏みこんでいった。
音を頼りに進んでゆくと ―
「 ・・・ おお 川だ! なんと これは ・・・
オフィ―リア嬢が流れてきそうな風情であるな 」
草地が 自然に川面に落ち込んでいた。
冬の枯草に若い緑が混じり ・・・ 草たちは訪れるモノの足を
自然に 川の流れへと誘うのだ。
「 ・・・ なんと まあ 」
グレートは 自然に流れに沿って歩き始めていた。
「 ― あら。 川に素敵な紳士が流れていらしたわ 」
突然 ゆったりとした声が聞こえた。
「 ! おお これは失礼 」
あわてて 辺りを見回せば 薮の向うに人影が見えた。
「 御宅様のお庭に 不法侵入いたしまして
まことに申し訳ござらん。 」
彼は 帽子を取り 腰をかがめた。
「 まあ そんな ・・・ 早い春に誘われて
敷地境まで出てきたのですが。 お客さまでしたのね 」
「 あ いや 」
「 どうぞ? お客さま 大歓迎ですわ 」
カサリ。 若い緑の葉の陰から 中年の婦人が現れた。
「 これは ― 麗しのマダム。 ご無礼をいたしました。 」
「 ちょうどお茶の時間ですわ どうぞいらしてくださいな
えっと・・・・ ミスタ? 」
「 ありがたき幸せ。 麗しのマダム 」
「 うふふ では ご案内いたしましょう 」
「 光栄です 」
グレートの差し出した腕に 婦人はするり、と白い手をのせた。
春の茶会 か・・・?
こりゃまた ウサギでも出てきそうな
カサ コソ。 カップルは川に沿って歩いていった。
「 え 小川 ですって? 」
003は カップを持つ手を止めた。
「 あのお屋敷のお庭に 川が流れていたの?? 」
「 庭 というか ・・・ あちらの広大な敷地の一部、
というところかな 」
「 まあ そうなの?
ええ そうね あのお家は お庭もとても広くて・・・
特にはっきりとフェンスを設けてはいなかった はず 」
「 左様 左様。 少々荒れた草原の奥にな
小川があったのさ。 こう・・・地面と同じ低さでね 」
「 それは気が付かなかったわ。 わたし 花壇とか温室とか
ばかり眺めていたのよ。 」
「 そうか? ・・・ なんとも郷愁を誘う眺めでね。
うむ ストラトフォード・アポン・エイボン のように・・・ 」
「 ストラトフォード? ああ シェイクスピアの町 ね 」
「 おう ご存知か 」
「 そのくらいは ・・・ リセで習ったし 『 ロミ・ジュリ 』を
踊ったときに いろいろ調べたわ 」
「 それは それは。 魅惑的な場所であるな 」
「 ええ ええ 」
「 ふむ いい場所を教えてもらった。
この異国で あんな風景に出会えるとは思ってもみなかったよ 」
「 それは よかったわ 」
「 メルシ、 マドモアゼル 」
英国紳士は 恭しくパリジェンヌの手をとり軽くキスをした。
「 どういたしまして 」
・・・ で あの方に逢ったのでしょう?
ハナシが合ったのじゃないかしら。
ふふふ まあ 無粋な質問はよしましょう
フランソワーズは 香たかい湯気の向うのスキン・ヘッド氏に
こそ・・・っとウィンクを送った。
「 ところで 今日はヨコハマに出たとか聞いたぞ
マドモアゼル 」
「 ええ 買い物がしたい、って言ったら 009が
案内してくれたの。 」
「 ジョー 」
「 え? 」
「 彼は ジョー。 そう言っておったであろう? 」
「 ・・・ ああ そうだったかしら? 」
「 おやおや で 港街は楽しかったかな 」
「 ええ。 ショッピングなんて久しぶりですもの〜〜
ず〜〜〜っと続くショッピング街を眺めているだけでも
とっても楽しかったわ 」
「 そりゃ よかった。 彼は 勉強会かと思っていたがな 」
「 ええ そうなんだけど。
わたしとの約束の方が先だから・・・って。 」
「 ほう? ・・・ がんばれよ ボーイ 」
「 え なあに 」
「 いやいや 楽しい時間を過ごせてよかったな 」
「 ふふふ そうね。 お互いに♪ 」
「 ふふん 」
伯父と姪ほどの二人は にんまり〜〜 笑みを交わした。
うん ・・・ 楽しかったわ♪
それに 009 のこと
少しわかってきた かも・・・
いいコよねえ 弟みたい
フランソワーズは 港街でのおしゃべりを思い起こしていた。
「 ぼく ・・・ ヨコハマとは違うけど
湘南地方で育ったんだ。 だから 」
「 そうなの? じゃあ この辺りは貴方の故郷なのね 」
「 まあ そんなモンかなあ ・・・
あ ショッピングとかなら こっちだよ 」
「 詳しいのね カノジョと行ったりした? 」
「 え? ちがうよお ネットとかで見ただけ ・・・
ほら この通りさ 」
「 あらあ 〜〜 」
茶髪の少年は ずうっとにこにこ・・・ 彼女を案内してくれた。
ふうん ・・・
ショウナンって お金持ちが多いって聞いたわ
ああ きっと海に近い邸宅とかで育ったのね
教会に行ってた って言ってたから
家族で日曜日は ごミサに通ったりして
裕福な家の坊やだったんじゃないかな・・・
優しいお母さん がいて ね
そりゃ こんなコトになって
ショックよねえ ・・・ 可哀想に ・・・
彼 009は いつも微笑を浮かべていた ― 少し淋しそうに。
Last updated : 05,19,2020.
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********** 途中ですが
え〜〜ん 終わりませんでした (ノД`)・゜・。
グレート伯父さん 好きなんですねえ ・・・
彼はやはり 俳優 であってほしいなあ ☆
そして アルベルトは ピアニスト なんです♪