『 棲み家 ( すみか ) ― (1) ― 』
コツ コツ コツ
軽い足取りで フランソワーズはその道を歩いてゆく。
平日の午前中 ということもあり行き会う人は ほとんどいない。
先ほど 犬の散歩をしているとおぼしき老紳士とすれ違ったが
彼は こちらにはほとんど興味を示さなかった。
あら ・・・ 挨拶 しないの?
もっとも こちらはストレンジャー( 見知らぬ人 )ですものね
彼女はツバの広い帽子を 目深にかぶり軽いコ―トを羽織っていた。
金色の髪は帽子の中に手繰り込んでいる。
ふふふ これなら < ガイジン > だって
わからないわよね〜〜
・・・ ああ 自由に歩けるって ・・・ !
なんだか面白そうなところね ニッポン って
トウキョウは ヒトが多いって聞いたけど・・・
ここいら辺は ちがうのかしら
大きな家もあったが 使われている雰囲気ではなかった。
庭であったとおぼしき場所は 荒れた空き地になっている。
ふうん ・・・ ヒト いないわねえ
ああ でも! いい気持ち〜〜
ぷらぷら散歩 って なんて素敵なの
・・・ わたし 自由なんだわ
フランソワーズは のんびり人気の少ない、そして ほとんど
車の通らない道を 気ままに歩いていた。
****************
ぎりぎりの状況を切り抜け 当面追手を振り切り ―
彼らが辿り付いたのは 極東の島国 だった。
「 ニッポンに行こう 」
ギルモア博士は 明確に断言した。
「 ニッポン ・・・? 何故です 」
004が冷静に問う。
「 燃料はぎりぎり かな。 」
008はいつも現状をしっかりと観察する。
へえ〜〜 またどうして ふん。 ええやろ
がやがやと私語が飛び交う。 皆 一様に驚いている。
「 ・・・! 」
その中で 009 だけが 一瞬大きく目を見張ったが
口と開くことはなかった。
彼は、この茶髪の少年は いつも無口なのだ。
「 ワシの旧友がおる。 当面の滞在場所を提供してくれる 」
「 ギルモア博士。 既に連絡を取ったのですか 」
「 ああ。 うぇるかむ とな 」
「 ウェルカム ねえ ・・・ 」
004は口の端をねじ上げ 008はちょこっと肩を竦めた。
「 お〜〜し。 とにかく 行こうぜ! 」
002が 勢いよくメイン・パイロット席に座った。
「 目的地、 ジャパン トウキョウ !
ナヴィ 頼むぜぇ〜〜〜 」
「 あ トウキョウではなく ショウナン といれておくれ 」
「 へ? アイアイ サー〜〜〜 」
ぎゅう〜〜〜ん ・・・
潜水艇は静かにスピードアップして行った。
辿りついた場所は ― 案外住み易い処だった。
博士の旧友、という 日本人の老博士は物静かで でも
温かい人柄だった。
いつもまでも 滞在してくれたまえ
彼は 屈託なく言って本当に歓迎してくれた。
提供された住居は もともとは学生たちの宿泊用だった と聞いた。
10人もの大所帯で押しかけたのだが
全員が個室を使えることになった。
「 あ〜〜 003 一番奥 使え。」
004が最初に無造作に言う。
「 え ・・・ 」
「 へ 奥が一番安全だろ。 広いし 」
002が横から口を挟む。
「 でも 」
「 いいから よ。 お前はともかくオンナノコ なんだから さ 」
「 ・・・・ 」
「 え〜〜っと じゃあ オレ とっつきの部屋。 いいよな?
」
「 ああ。 なにかあったらすぐに飛び出せるかな 」
「 へへ まあ な 」
「 あとは 皆 適当に休め。 」
「「 おう 」」
オトコたちは どやどやと宿舎に入ってゆく。
「 ・・・ あ あのう〜〜 」
茶髪の少年が おどおどと口を開く。
「 なんだ え〜〜 ・・・ 009 」
「 あのう ・・・ ドアのトコにナンバー 書いておいてくれる?
皆 どの部屋にいるか わからないから ・・・ 」
「 ほっほ〜 パブリック・スクールの寄宿舎かいな え? 」
「 007。 まあ いいじゃないか。 彼はまだ
僕たちのこと、よく分らないみたいだから さ 」
「 008 あんさん 優しいのことよ〜〜 」
「 ご ごめん・・・ 」
009は いつも皆の後ろにいる。
「 では さっさと部屋へゆけ。 ○○時、 ああ
この国の時間で だ。 この部屋に集合。 いいな 」
004は全員を見渡す。
「「 おう 」」
サイボーグ達は 静かに個室に入っていった。
「 あ〜 お嬢さん? 」
「 はい? 」
家主の老博士が 003を呼び止めた。
お嬢さん・・・?
まあ そんな言葉 久し振りで聞くわね
・・・ わたしのこと?
ヘンな気分よ
「 あの なにか 」
「 これを・・・ ウチの娘のものですが
よろしければお使いなさい。 」
カサリ。 老博士は衣類の入った袋を手渡した。
「 まあ ・・・ いいのですか 」
「 はい。 娘は結婚してアメリカに住んでいます
もう10年になりますか ・・・
少々古びてはいますが 洗濯はしてありますよ 」
「 ありがとうございます 」
003は そっとその袋を胸に抱いた。
「 ああ 奥の部屋はシャワーが付いています。 使ってください。」
「 ありがとうございます ・・・ 」
「 さあ ごゆっくりお休みなさい 」
「 ・・・ 本当にありがとうございます 」
「 ・・・ 」
ポンポン ・・・ 博士は彼女の背にそっと手を当ててくれた。
「 ・・・ ・・・ 」
・・・ 温かい ・・・ !
カチャリ。 木目調のドアを開ければごく普通の個室だった。
「 ふう ・・・ 」
正面に 広い窓があり、カーテンが引いてある。
ふうん ・・・ いいお部屋ね。
ぽすん、 と ベッドに腰を落とす。
ほわん・・と少し沈みこみ ベッド・パッドの上の 羽毛布団 に気付いた。
「 まあ こんな普通のベッド・・・また使えるのね 」
ずっと ― 故郷から連れ去られて以来 寝床はただ横になるだけの場所だった。
ふんわり とか ほわほわ とか そんな感覚はすっかり忘れていた。
このベッドで 休める のね ・・・
ブーツを脱ぎ棄て そのまま横になった。
着替えもあるし シャワーも使えるのはわかっていた。
しかし 初めての場所 で それは避けなければ と思う。
そりゃ ・・・ コズミ博士を疑ってるわけじゃないわ
― でも ・・・
いつなにが起こるか わからないんですもの
それに ここは。 言葉も通じない外国 ・・・
最低限の警戒は しておかないと
カサリ ―
「 ・・あ? 」
先ほど 渡された袋を忘れていた。
「 ああ 着替え とか言ってたけど ・・・ あ。 」
中からは
封を切っていない新品の下着が数枚。 そして新品のタオルも数枚。
そして これは何回か水をくぐったと思われる白いブラウスに
セーター、そして ジャケット。
スカートとパンツも入っていた。
え ・・・? これ・・・
あ。 娘さんの、って言ってたっけ
003は 起き上がりそっとその衣類を手に取ってみた。
彼女の趣味とは少し違っていたが どれも上質の品のいいものだ。
これ ・・・ 着ても いいの?
― 着てみたい ・・・!
ああ シャワー 浴びて 髪 洗って。
でも・・・・
ああ でも でも ・・・・!
コトン。 とうとう彼女は起き出すとドアのロックを確かめた。
「 ・・・ ふうん。 普通の簡単なロック ね。
ああ 勿論 ここは普通の家 なんですもの ・・・ 当然ね 」
しばらく考えていたが ベッド・サイドの小机を引っ張ってきた。
「 〜〜〜 っと。 まあ これで少しは ・・・」
ドア・ノブの下に押し込んでおいたので
まあ すぐにドアを破られる可能性は低いだろう。
「 ― それ じゃ ! 」
ぱらぱらぱらぱら。 引きはがすように真紅の服を脱いだ。
「 ・・・・ ! 」
彼女は タオルと下着を手にとると シャワー・ブースへと
駆けこんだ。
ふううううう ・・・・
普通の湯 が 身体中を浄めてくれる。
温かい湯 が 髪一本 一本を 洗いあげる。
・・・ さ いこう ・・・ !
003は 今 やっと ― < フランソワーズ・アルヌール > を
少しは取り戻した・・・ そんな気分になった。
「 ・・・ もう これで いいわ! 」
髪も半分濡れたまま ベッドに倒れこんだ。
そして 本当に 深く 深く 深く 睡眠の谷に落ちていった。
それは 彼女が ニンゲン として再出発するための
スタート・セレモニー だったのかもしれない。
― 翌日からは。
一風 変わった共同生活 が始まった。
メンバーは もうとっくに知れた顔ぶれだったけれど
それぞれ あの派手なユニフォームを脱ぐと 意外な素顔が見えてきた。
へ ・・・え ・・・?
彼って そういうとこ あったんだ?
フランソワーズは 001から 008まで 全員に
たびたび 小声でつぶやいていた。
ふうん ・・・ そうなんだ?
アナタってば
なかなか いいヒト なのね
改めて < 身内 > 達を見直す時間でもあった。
そっか ・・・ そうなのよね ・・・
ええ わたし達 ― 9人だけの絆 なんだわ
仲間 というか ・・・ もっと近いのね
あ ・・・?
そういえば あのコ ・・・
そして よく分らない新顔クンは ますますもってよく分らない。
彼は いつも後ろに下がっているのだ。
口が重い性質 ( たち ) なのか ミーティングの時なども
ほとんど発言しない。
真剣に聞いていないのか?? と疑ったこともあったが
新顔クンは決定事項はきちんと実行する。 理解力は優れている。
そして さすがに最新型・・・というべきか、完璧にこなす。
ミッションでは 最初の最初こそモタつき 困惑し ・・・
皆の足をひっぱりそうであったが 徐々にそれは消えていった。
・・・ 無理ないわよ ・・
誰だって 最初は ・・・ ね ・・・
彼 泣き喚かないのは スゴイと思うわ
まだ 若いのに ・・・
ここでの生活でも 彼はいつも < 後ろ > にいた。
「 おはようございます 」
朝 キッチン兼ダイニングになっている部屋の入口では
大きな声で挨拶をすることにしている。
「 おう おはよう マドモアゼル 」
英国紳士は タイムズ紙 から顔を上げる。
「 おはよう 」
銀髪の男性は コーヒーカップをちょいと持ち上げる。
「 カフェ・オ・レ でいいか? 」
「 僕も今 淹れるから 一緒でいい? 」
褐色の肌の青年は 笑顔を向けた。
「 あら 早起き組さんたち・・・ カフェ・オ・レ
お願いします 」
彼女は ゆったりと食卓に着いた。
ガタリ。 勝手口のドアが開いた。
「 アイヤ〜〜 裏になあ 菜の花が仰山咲いてまっせ〜〜
やわらかいトコ、 摘んで着たワ 」
「 ・・・ 蕾 たくさんある 」
巨漢と料理人が 活き活きとした顔を覗かせる。
「 え 菜の花? ・・・ それって
え〜〜と ・・・ あの黄色い花? 」
フランソワーズは うろ覚えの記憶を探る。
「 ・・・ 公園の花壇にあった ・・・ かも ・・・ 」
「 え 菜の花?? わあ〜〜い ほろ苦くてオイシイよ!
茹でて御ひたしにしようよ! 」
シンクの前から 茶髪の青年が飛んできた。
「 ほう〜 あんさん、 菜の花、食べはりまっか 」
「 うん! 日本ではね 春の味覚 なんだ。
味噌汁に入れてもオイシイなあ 野菜炒めも! 」
「 ほうほう? そらええわなあ 」
「 ぼく、 洗うから・・・ 朝ご飯に食べられるよね 」
「 ほな たのんまっさ 」
キッチンは 一気に賑やかになった。
へえ・・・?
いつもと違って積極的ね 009って
・・・ 料理好きなのかしら
「 ほ〜い 皆はん、朝ご飯にしまほ 」
陽気な料理人の声で 仲間たちは食卓に集まる。
「 コーヒーは 俺が淹れる。 」
「 004 頼んまっせ〜〜 」
「 ほっほ〜〜 オムレツ やけど〜〜
あ〜 003はん お国のんとはちょいと違うても
堪忍やで〜 」
「 ううん ううん 美味しいわあ〜〜 」
わいわい がやがや ・・・ 賑やかな食卓になった。
「 菜の花〜〜 さっと湯がいてきたよ サラダ代わりかな 」
「 わあ〜 009 いい色だねえ 」
「 どれ。 お ほろ苦くてオトナの味だな 」
「 ふん ふん ・・・ 春の味 か 」
「 あ 醤油とか マヨネーズとか かけてみて? 」
「 ソイ・ソース? ・・・ ちょぴっと ・・・
んん〜〜 あら 美味しい〜〜〜〜 」
わいわい がやがや・・・ 食卓は大賑わいだ。
「 あ れ? あのう〜〜 002 は? 」
009が きょろきょろ辺りを見回している。
「 あ? ああ ヤツはいいんだ 」
「 左様 左様。 気にしなさんな 」
「 うん。 さあ 美味しいの、もっと食べようよ 」
「 え ・・・ でもぉ〜〜 あの 出かけた の? 」
「 あのね 009。 002は ベッドの中 よ 」
「 へ? あ! どこか不具合が?? 」
ははは へへへ あははは ふふふ
009以外 全員が声を上げて笑った。
「 え ・・・ あの ・・・? 」
「 寝てるの! 朝はね 超弱いの。 ほうっておいて。
10時頃になれば 腹減ったぁ〜〜 って起きてくるわ 」
「 あ そ そうなんだ?? 」
「 ほ〜い 009はん。 とーすと、もっと食べなはれや 」
「 ・・・ あ うん ありがとう えっと・・・? 」
「 006 ・・・ うんにゃ 張々湖 いうんや ワテ。
そう呼んでやあ 」
「 あ そ そう?? えっと 張さん。 ありがとう 」
「 ほっほ〜〜 で あんさんは? 坊。 」
「 え ぼ ぼく?? ぼくは し しまむら じょー デス 」
「 ジョーはん やな。 たんと食べなはれや 」
「 は はい! 」
和やかに朝食が終わり、メンバーたちはそのままリビングに残ったり
個室に引き上げたりしている。
「 後片付け やります! 」
「 009 やなくて ジョーはん。 おおきに。
そやけど ええよ。 まったりしてや 」
料理人氏は どうやらキッチンを支配?する気のようだ。
「 そ そうですか。 あのう なにかぼくにできること
ありませんか 」
「 そやなあ〜 ほんなら 今晩のオカズの材料
買うてきてもらいまひょかなあ 」
「 はい! 買い出し 行ってきます 」
009の顔が輝く。
「 あら いいの? ・・・ ああ ここはあなたの国よね?
買い物についていろいろ・・・教えてくださる?
自動翻訳機にかけても よくわからない言葉がいっぱいなの 」
「 あ 任せてください! 003 さん
・・・ あのう よかったらショッピングモール、行きませんか・・・」
「 わあ 嬉しい! わたし 普通のショッピング、したかったの! 」
「 あ でも ・・・ この辺のじゃ ダサいかも・・・
」
「 え?? だ さ い ? どういう意味? 」
「 あ え〜〜と・・・ クールじゃない ってことかな 」
「 そう? あら ごく普通でいいのよ。
あの 是非案内して欲しいわ 」
「 わお♪ それじゃ ・・・ 一緒しましょう! 」
< 無口 > < 口が重い > はずの彼は
他愛のないおしゃべりなら それなりに乗ってきた ― にこにこして。
ふうん ・・・
なんか よくわかならいけど・・・
・・・カワイイじゃない?
一番若いから遠慮しているのかな
弟がいたら こんな感じかしら
フランソワーズは この新顔クンに好感を持っていた。
まずまず平穏は日々 が続く。
命を脅かされる というぎりぎりの生活は 今は遠のいた。
< 当たり前のこと > が 自分のモノになった時、
最初は どうしたらよいかウロウロしてしまった が。
庭の花壇の手入れを試みたり 料理人氏を手伝ったり
地元の商店街に出かけたり なんとものんびりした時間がながれる。
仲間たちとも 少しづつ 普通の会話 を楽しみ始めた。
― それでも。
ひとりに なりたい ・・・
今まで麻痺していた そんな当たり前の感覚が 蘇ってしまった。
「 仲間たち ・・・ 皆 いいヒトたちだわ。 」
でも。 たまには一人の空間が 時間が欲しい。
ある晴れた日 のこと。
「 ちょっと ・・・ 散歩してくるわ 」
玄関に出ようと それとなく声をかけた。
「 お 気をつけてな マドモアゼル 」
「 なにかあったら すぐ連絡。 」
イギリス人とドイツ人 が返事をくれた。
「 大丈夫よ 」
「 あ ・・・ どこへ? 」
庭を眺めていた茶髪青年が 振り向いた。
「 う〜ん 近所を歩いてみたいだけ 」
「 そう・・・? 案内しようか? 」
「 ああ 一人で大丈夫。 じゃあ 」
彼の好意はよくわかったけれど どうしても一人が よかった。
カタン。 簡単なアイアン格子の門を開ける。
ひんやり とした空気が上気した頬に気持ちがいい。
「 あ〜 散歩 なんて本当に何年ぶり・・・?
あ あの木の葉っぱ きれい! 若い緑の葉っぱ きれいねえ・・・
こっちは濃い緑 ・・・・
この国の春は 緑だけでも色取り豊かねえ 」
家から 北へと続く道はずっと舗装されてはいたが 左右の家並みは
雑木林に変わっていった。
たまに大きな家もあったが ヒトの気配はなく、広い庭は雑草が原に
なっていた。
「 あら ・・・ 空き家なのね もったいないなあ 」
若い緑の葉をゆらす木々が多いが 次第にツンツンした葉を持つ背の高い
樹たちが混じるようになっていった。
チチチチ ・・・ ! ツイ −−−− !
小鳥たちの声がはっきりと聞きとれる。
澄み切った空たかく昇ってゆくのは なんという鳥だろう・・・
― 鳥に なりたい な ・・・
フランソワ―ズは ぼんやりと鳥の影を追い 空を見上げる。
ふう ・・・ 誰もいない ・・・
ひとり って いいわね
サワサワサワ −−−− 風に首に巻いたストールが泳ぐ。
大きな草原の側まで来た時・・・
〜〜〜〜♪♪ ♪♪♪
風にのって ふ・・・っと ほんの微かにピアノの音が聞こえた。
「 あ?? ・・・ ショパン? まさか ね 」
〜〜〜♪♪ ♪
音は だんだんとはっきりしたメロディになってきた。
「 ピアノの音 だわ! え どこ ・・・? こっちかしら 」
彼女は 音を探しどんどん草地の奥に入ってゆく。
「 え ・・・ こんな草原に ・・・ ピアノの音?? 」
ガサガサ 枯草を踏み分けてゆく ところどころに若草が混じる。
「 あ。 家があるわ 」
突然 草原の奥に大きな邸が見えてきた。
「 ああ 雑木林の陰になっていたの かしら・・・
立派なお屋敷ねえ 旧い感じだけど 荒れてはいない なあ 」
石作りの洋館風な、堂々とした邸宅だ。
ぐるりには 桧が柵代わりをしているが よく手入れがされている。
「 だれか 住んでいるのかしら ちょっとだけ・・・ 」
彼女は 木々の柵の間をすり抜け 庭に踏み込んでゆく。
「 失礼しま〜す ・・・ あら このお庭もキレイ 」
花壇には つんつんチューリップが芽吹いていて そろそろ
蕾をもっている株あった。
その後ろには 見事な薔薇のアーチがあり これも蕾を沢山つけている。
「 わぁ 可愛い・・・ 皆咲いたらキレイでしょうねえ 」
カサリ カサ ・・・
そうっと邸に近づいてゆく。
カーテンの引いてない窓辺に ふいに白いドレスの金髪の婦人の姿が
さっと横切った。
「 あ ここ ・・・ ヒトが住んでいるんだわ 」
♪♪ ♪〜〜〜〜 ♪
「 ショパンのエチュード。 やっぱり ね 」
フランソワーズは いつしか窓の外枠にもたれ ピアノの音に耳を傾むけていた。
カタン。 窓が 開いた。
「 あら お嬢さん? いらっしゃい。 どうぞ お入りになって 」
白いレースの服の婦人が 顔を出した。
金髪を豊かに背に流し 若くはないが艶のある魅惑的な顔立ちだ。
「 あ ・・・ ごめんなさい ・・・
あの ・・・ お庭のお花が とてもきれいなので
ついみとれて・・・ 入ってきてしまって 」
「 うふふ ありがとう お嬢さん。
これ わたくしが育てましたのよ。 さあ どうぞ?
ほら そっちのテラスから お入りなさいな 」
「 は はい ・・・ 」
フランソワーズは 誘われるままにするすると邸の中に吸いこまれていった。
「 いらっしゃい。 ちょうどお茶の時間にするところなの。
どうぞ こちらへ 」
「 は はい ・・・ 」
彼女は 素直に婦人に付いてゆく。
天井の高い立派な邸で 庭に面した客間は春の陽射しでいっぱいだ。
「 素敵なお屋敷ですのね 」
「 そう? 旧い邸なんですのよ。 ああ どうぞお掛けになって。
今 お茶を 」
「 ・・・・ 」
ふかふかのソファ 壁にはゴブラン織りのタピストリ―が掛かっている。
なんだか 夢みたいなおうち・・・
〜〜〜♪♪ 再び ピアノの音が聞こえてきた。
「 今度は モーツァルト ね 」
「 さあ お茶にしましょう 」
婦人が 自らトレイを乗せたワゴンを押してきた。
「 あ ありがとうございます。 あの ピアノは? 」
「 あ あれは息子が。 庭の温室を改良してピアノ室にしておりますの 」
「 ここでもよく聞こえますね 」
「 そうね。 さあ どうぞ 」
「 はい ありがとうございます。 」
トポポポ ・・・・
銀盆の上には ウェジ・ウッドのティ・セットに香りたかい紅茶が
注がれた。
Last updated : 05,12,2020.
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*********** 途中ですが
原作 でも 平ゼロ でも。
もとネタは もうお判りですね あのお話☆
でも ちょっと違った展開になる 予定〜〜 (*_*;