『 忍ぶれど ― (2) ― 』
「 じゃ じゃあ ジュリエットはどうするのよ〜〜〜 」
「 それは 吾輩がやる。 」
え〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ???
主役をオファされた彼女は 思わず仰け反り声を上げてしまった。
「 うっそ〜〜〜〜 オトコ同士で ・・・ BL?? 」
あ。 そっか・・・ 007ですものね
あらまあ おほほ・・・と 彼女はすぐに立ち直った。
「 あ どもう 失礼いたしました。
ごめんなさい ミスタ・ブリテン、女優さんにヘンシンするのね? 」
007はその能力を駆使するのであろう、と察したのだ。
「 いや。 グレート・ブリテン として演ずる 」
「 ・・・ ほ ホンキ? ジョーなら マジ〜〜〜〜〜 って言うわ 」
「 ホンキも本気だ。 大丈夫 しっかり正気であるよ 」
「 ・・・ じゃ ・・・・ じょ 女装 する の・・・? 」
「 女装 などと程度の低い表現をつかわないでほしい。
マドモアゼル、この国の芸術、 歌舞伎 をしっておるだろう? 」
「 え ええ ・・・ すごいわよねえ〜 わたし タマサブロウさんのファン☆
日本舞踊 ってすご〜〜〜く興味があるの。 ステキよねえ・・・
一度 習ってみたいのね〜〜 」
「 さすが マドモアゼル。 一流品にはちゃんとチェックが入っておるな。
あの世界は 男優が女性を演じる。 ご存知とおもうが 」
「 ええ もちろん。 女性よりず〜〜〜〜っと女性らしいのよねえ
すごく華やかでキレイだし ・・・ 」
「 そうであるな。 同じ演劇の世界に身をおくものとして誇らしい。
かねがね 吾輩はあの 女形 ( おやま ) の世界に憧れておったのだ 」
「 そうなの〜〜〜 それで今回・・
え!! そ それじゃ わたし ・・・ グレートとラブ・シーン ・・・」
「 マドモアゼル〜〜〜 これは 芸術だ。 」
「 ・・・ でした でも。 うっぴゃ〜〜〜 だわあ〜〜 」
「 お互いに 新たなる挑戦をしようではないか。 」
「 そうね そうね〜〜 常にアタックしなさい・・・って
バレエ団でもマダムの口癖なの。 」
「 ほう〜 やはり な。 才ある御人は常にそうあるものだ。
では よろしくお願いします。」
「 こちらこそ よろしく 」
さ・・・っと出された老練の手を白い手がしっかりと握りかえした。
「 え ・・・? あ〜〜〜 そっか 」
ジョーは 満開の笑顔 になった ― 顛末を聞かされた途端に
ぱあ〜〜〜 っと雰囲気も明るくなった・
あら〜〜〜 ・・・
よっぽどストレスだったのね〜〜
ちょっと可哀想なこと、しちゃったわね
「 そうなのよ〜〜 ごめんなさいね 一生懸命練習していたのに・・・ 」
「 あ! ううん ううん ううん〜〜〜〜〜〜 ぜんぜん!!!
あ ぼく 大道具係として協力しま〜〜す、 任せて! 」
「 うふ・・・張り切っているのね 」
「 うん! ぼく 縁の下のチカラ持ちってすげ〜〜 タイプなんだ 」
「 へえ ・・・ そうだったの 」
「 ウン。 あ それじゃ ・・・ 主役は誰がやるのかい 」
「 ・・・ これ ナイショよ? 」
「 うん 言わない。 フラン? 」
「 主演は 俳優の ミスタ・グレート・ブリテン と わたくし です。 」
「 ・・・・・・・・・ 」
多分 彼は心の中で叫んでいたのだろう・・・
え〜〜〜〜〜〜〜 そんなの ずるい〜〜〜〜 !!
しかし そこは 009? ちょっと表情が曇っただけだった。
「 ・・・ これは 芝居 だもんな 」
「 え なあに? 」
「 いや こっちのこと ・・・さ
うん いいや きみの美しいジュリエットを よ〜〜〜く みれるんだもんな〜 」
「 うふふふ そう ? 」
「 な なに ・・・・? 」
ジョーの想いヒトは なにも応えずに に〜〜〜〜っこり と笑った。
「 ?? 」
「 あ そうだわ。 お願いがあるの。 」
「 な なに ・・・・? 」
「 あのねえ ジョーのシャツとGパン、貸してくださる? 」
「 あ な〜んだ そんなことかあ〜 うん いいよ〜
ちゃんと洗濯したての、貸すから。 あとで部屋にもってゆくよ 」
「 メルシ ・・・ 」
ちゅ。 淡いキスが頬におちてきて ジョーはすっかり舞い上がってしまった
シャ ・・・ 金色の髪が広げた紙の上に落ちる。
「 う〜〜ん こんなものかしら 」
彼女はドレッサに向かって さっとアタマを振ってみた。
ふわり ・・・ 短くなった金色がアタマの周りにひろがる。
「 ふんふん・・・ いい感じ 」
トントン ― お行儀よくノックがして 暢気な声がきこえる。
「 フラン〜〜 シャツとGパン〜〜 もってきたよ〜 」
「 ありがと、ジョー。 開いてるわ どうぞ〜〜 」
「 あ うん ・・・ はい これ ・・・ 」
ひょこん ― 茶色のアタマが現れた。
「 まあ ありがとう〜〜 」
「 洗濯したて です どうぞ え ??? 」
彼は 彼女の < 異変 > に ― まんまるマナコ だ。
「 ど ど ど〜〜したの〜〜〜 そ その 髪 〜〜〜〜??? 」
「 うふ? どう?? 似合うかしら 」
「 ・・・ フランの髪 ・・・ あの金色の巻き毛〜〜
ふわ〜〜っと背中にひろがって くるくる〜〜〜 してて しっとりしてて
あの ! あの 金色の髪 があ〜〜〜 」
「 あらあ ショートは似合わない? 」
「 ・・・ え? い いや そんなこと ないけど〜〜
でも ショート・カット にしても 短かすぎない ・・・? 」
「 ええ いいの。 あ シャツとGパン ありがとう〜
ね ちょっとそこでまってて? 」
「 ?? 」
フランソワーズは ジョーからの借り着をもってクロゼットに飛び込んだ。
「 ね〜〜〜 フラン〜〜〜 どうしてそんな短く ・・・・ わ?? 」
ぱん。 クロゼットが開くと ― 細身の青年が立っていた。
「 だ だれだっ 」
「 うふふ〜〜〜 僕。 アルヌールといいます。 よろしく 島村クン 」
「 へ??? こ 声は ・・・ フラン ・・・? 」
「 まあ〜〜 バレちゃうわねえ ヴォイス・トレーニング しなくちゃ 」
「 ・・・ ふ フランなの ・・・? 」
「 うふふ ねえ オトコノコにみえる? 」
「 み みえる ! ・・・ ぼくが着るよかず〜〜〜っと
・・・ カッコイイ ・・・ 」
「 ホント? それじゃ これ ・・・ しばらく貸してくださる?
代わりに わたしのブラウス、 どうぞ? 」
「 ・・・ どうぞ・・・って オンナノコのブラウス 着れるかい〜〜
で で でも なんで?? 」
「 わたし。 男役 やるの。 」
「 は ひ・・・? おとこやく・・・? 」
「 そ。 グレートのお芝居 ね、 わたくし が ロミオ なの 」
「 え ・・・? な なに??? じゃ じゃあ じゅりえっと は ・・・ 」
「 それはぁ・・ ふふふ〜〜 これは まだ極秘なんですけど♪ 」
「 は はい ・・・ 」
「 ジュリエットは ね〜〜〜 ぐ れ〜 と ・・・ ! 」
「 ??? フラン からかうのはやめてくれよ 」
「 あら からかってなんかいません?
ねえ ジョー あなたの国の素晴らしい演劇を知らないの? カブキ 」
「 あ〜〜 ・・・・ でも みたこと ないし〜〜 」
「 あら みたこと ないの? 」
「 ないよ。 チケット、すっげ高いっていうし ・・・
TVなんかでちらっとみたけど、 セリフとか何言ってるかわかんないし 」
「 ?? なんで? ちゃんと日本語じゃない? 」
「 でも〜〜〜 あれは昔の 古い日本語 ってか
ぼく達が話す言葉とは違うし〜〜 聞いただけじゃわかんないよ
? でも フランはみたこと あるの? 」
「 歌舞伎座にはいったことないけど・・・ 動画でみたの。
グレートに詳しい解説つきの動画を教えてもらったわ。
素晴らしいわよね〜〜〜 いつか 歌舞伎座にいってみたい ・・・! 」
「 え ・・・ じゃあ スト―リ― とか 知ってるわけ? 」
「 長いものはひとつだけだけど・・・ 『 忠臣蔵 』。
これは バレエの『 ザ・カブキ 』 を知っていたからすぐにわかったわ。
あと 鏡獅子 とか 藤娘とか 舞踊はみんな好き! 」
「 ??? しらね〜〜や ・・・ 」
「 ジョー。 自分の国の最高芸術、勉強しなきゃ だめよ もったいない。
ああ それでね 歌舞伎では俳優さんは全員男性でしょ 」
「 ・・・ あ あ そっか〜〜〜
グレートだもんね 007だもんね、 美人女優さんにヘンシンして 」
「 ふ ・・・ わたしも最初はそう思ったわ。 でもね ちがうの 」
「 ちがう ・・・? 」
「 そう。 グレートは女役をするけれど 女優さんに変身するわけじゃあ
ないのよ 」
「 ・・・ じょ じょそう するってわけ?? げ・・・ 」
「 ま〜あ 女装 だなんて。 ねえ 歌舞伎の俳優さん達は女性の役を
専門にする方 いらっしゃるでしょう
」
「 ・・・ あ〜〜 えっと ・・・ 女形 ? 」
「 そう それよ。 人気の女形さんは 女性よりも女性らしいの 」
「 ほえ〜〜〜〜 それを目指すわけ? グレートは ・・・ 」
「 そうなですって。 だからわたしは 相手役として頼もしく!
ジュリエットを受け止めるロミオ にならなくちゃ〜〜 」
「 ・・・ なんか ちがう 気分 ・・・ 」
「 え なあに 」
「 あ な なんでもないよ 頑張ってね〜〜
ぼく 大道具係に邁進します〜〜 」
「 お願いします。 ・・・ あら 電話 ・・・? 」
rrrrrrr 〜〜〜〜〜〜 !!!
珍しくリビングの固定電話が鳴っている。
「 あ ぼくがでるよ〜〜 は〜〜〜い 」
ジョーが 元気よく返事をすると階段を駆け下りていった。
「 ・・・ 返事 する必要ないのに・・・
ま あれが彼の可愛いトコなんだけど〜〜〜 」
ふ・・・・ アルヌール君は かっこつけて嘯いてみせた。
「 いま でま〜〜す〜〜〜 はい モシモシ? 」
駆け寄ったジョーの耳に飛び込んできたのは
わ〜〜〜〜 オレも参加させろ ! キャストで だ〜〜〜〜〜〜
「 わ?? じぇ ジェット??? ごめ・・・ もうちょっと小さな声で
いってくれる・・・・ え?? 今 空港? え?? 」
ジョーは受話器を押さえると わさわさ手を振ってフランソワーズを呼んだ。
「 な なあに?? まさか 事件?? 」
「 うう〜〜ん ・・・ ジェット こっちにくるって。 」
「 ええ??? ああ この前行くぞ〜〜って電話してきたけど 」
「 今 空港にいるんだってさ 」
「 え!? ナリタに?? 」
「 いや まだアメリカ ・・・ 」
「 でしょうね。 あ! 自前で飛んできちゃ だめっ だめよ〜〜 」
「 あ それはしないって。 で それでね とりあえず
アルベルトとピュンマも誘ったっていうんだよ〜 」
「 え〜〜〜〜 ってことは近日中に 皆 来るの? ・・・グレートの
作品のために 」
「 そうらしいよ あ ごめ・・・ うん うん わかった〜〜
ちゃんと言っとくから じゃね〜〜〜 」
ジョーはご機嫌ちゃんで受話器を置いた。
「 今さ 搭乗開始〜〜 だってさ 」
「 も〜〜〜 せっかちなんだからあ あ それじゃ 毛布とかリネン類
出しておかなくちゃ・・・あと 晩御飯の買い出しも 」
「 ぼくがやりま〜〜す♪ わ〜〜 たのしみ〜〜〜
」
ちょんちょん跳ねている。
「 じゃ お願いします。 買い物は一緒に行きましょ 」
「 うん♪ 」
「 ただいま ・・・ 」
からり、とドアが開き、着流し姿のグレートが入ってきた。
「 お帰りなさ ・・ うわ〜〜〜 どしたの グレート〜 キモノ〜〜 」
ジョーの目はまん丸だ。
「 ふん ・・・ 長唄と日舞の稽古帰りさ 」
「 な な ながう た ・・・? 」
「 左様。 ふ〜〜〜〜 まだ少しは蒸しますなあ 」
「 は??? 」
「 どないしはりましてん あんたはん 」
「 え え あ あのぉ〜〜〜 ジェットたちがきますねん 」
「 ほう ジェットはんが 」
「 へえ 」
ジョーが妙なアクセントで応えるので フランソワーズは爆笑寸前だ。
「 ぷぷぷ・・・・ あのね 皆! 来るんですって。
グレートの作品に参加したいって 」
「 ほう ・・・? 」
グレートは 手にしていた羽織りをきっちり畳み、静かにソファに腰を下ろした。
「 あ お茶 淹れましょうか 」
「 まだ 手ぇ 洗うてませんよって・・・・ それよかさっきのハナシ?
ジョーはん? 」
「 あ うん、 あのさ ― 」
ジョーは勢いこんで ハナシだした ― 今度は < いつもの口調 > で。
「 ふん? 海外組も参加したい だと? 」
「 そうなのよ〜〜 キャスト希望ってことなの、役 ふやす? 」
「 キャスト か 」
「 やるぜ!って張り切ってたよ 電話の向うでさ 」
「 バレエなら < 街中の踊り > とか < ロミオの友人たち > とか
群舞は増やせるけど ・・・ お芝居は どう? 」
うむ ・・・と グレートは腕組みをし、しばし考えていたが ―
「 あ〜〜 ・・・ あの赤毛クンは 脚はあがるかね? 」
「 脚??? あ〜 まあ 身軽だから・・・ ジョーよりは 」
「 ・・・ すいません 」
「 ふむ ちょいと意趣変更するか 」
「 え わたし、男役に燃えるんですけど〜〜
」
「 ご安心召され。 主役は不動だ。 マドモアゼルと小生だ。
― うむ この際だ 仲間達皆に 参加してもらおう 」
「 わ〜〜〜 ・・・・ でも どうやって?? 」
すっく! グレートは立ち上がり ワカモノたちを見回した。
「 ミュージカル に 変更だ。 」
「「 みゅ みゅ〜〜じかるぅ〜〜〜〜 ??? 」」
ぴんぽん ぴんぽん ぴんぽ〜〜ん ・・・ !!
玄関チャイムが忙しなく鳴った。
「 は〜い 今 でま〜〜す〜〜〜 」
ジョーが 駆けだしてゆく。 フランソワーズも後を追う。
「 はやく開けろ〜〜 おう ジョー! 」
「 ジェット〜〜〜 久し振り〜〜 」
「 ジョー 騒がしてすまない。 」
「 わ ジェロニモ Jr. も! いらっしゃい〜〜〜 」
「 教えてくれよ、はやく! 」
「 え なに 」
「 だから〜〜〜 グレートの芝居だよ しばい!
オレ 参加したいって表明してるだろ 」
「 あ〜〜 あれ ね ・・・ 」
「 あれ だ あれ! それで なにするんだ? 」
「 あのね とりあえず地下に行ってくれる 」
「 地下 だあ?? ! 芝居 はカモフラージュで実はミッション か!? 」
「 ち が〜〜〜う ちがうちがう
ともかく 地下のレッスン室に行ってくれるかな。グレートが待ってるから 」
「 おう ! ジェロニモ〜〜 行こうぜ 」
「 ・・・ 俺 スタッフがいい。 」
「 そ〜〜だよね〜〜〜 ぼくも スタッフ志望〜〜 」
「 ジョーも ジェロニモも。 皆 一緒に来てちょうだい。 」
「 は〜〜い 」
オトコ共を連れて フランソワーズは地下のレッスン室に降りていった。
「 おう ようこそ、諸君。 」
稽古場の鏡の前には グレート・ブリテン氏が なにやらリストを眺めつつ
パイプ椅子に腰かけていた。
「 お〜 来たぜ〜〜〜 オレも参加したいっ 」
「 ふん オーディション エントリー・ナンバー 1 名前は ?
」
「 ジェット・リンク! 特技は〜〜 」
「 あ それはいい。 まず センターに立ってくれたまえ。 」
「 へ?? 」
「 ・・・ そこに立って そう・・・真ん中 」
アシスタントのフランソワーズ嬢が さりげなく指示する。
「 へ ここ か おう、 立ったぞ 」
「 まず このステップを真似てくれ 」
グレートは ぱっと立ち上がると 目の前でリズミカルなステップ ―
基本的なジャズ・ステップを踏んでみせた。
「 お? ・・・ あ〜〜〜 音ナシかよ? 」
「 あら ごめんなさい CDで・・・ 」
「 生で弾く。 」
ぽん。 ピアノの音がした。
「 ?? まあ〜〜〜 アルベルト!? 今 着いたの? 」
「 ああ。 オレは早朝について、ヨコハマでのんびり朝食を楽しんでから来たのさ
今のステップに合う曲でいいのか 」
「 お〜〜〜 我らが ピアニスト氏〜〜 頼みます 」
「 よし・・・っと おう 応募者、準備はいいか 」
「 おっけ〜〜 」
〜〜♪♪ ♪♪ 〜〜〜 タッタタタ タッタタッ!!
赤毛ののっぽは けっこう達者にステップを踏んだ。
「 ふん いいね。 じゃあ 次に ― これが肝心だが。
グラン・バットマン。 特に ア・ラ・セゴンド。 左右三回づつ 」
「 へ??? ぐらん?? なに? 」
「 ・・・ こうやってみて 」
目の前で フランソワーズは 耳の横まで脚を上げてみせた。
「 これを 左右三回づつ。 あ 音に合わせてね 」
「 う ・・・ そ ・・・ オレ ・・・ 飛行ユニット、壊れるかも 」
「 飛ぶのに股関節は関係ないだろ〜〜 ゆくぞ 」
ピアニストが声をかけ 音楽が始まった。
「 う 〜〜〜 やっちゃる〜〜〜〜 えいっ !! 」
ぶん ぶん ぶん! ぶん ぶん ぶん!
アメリカンの長い脚が宙を切った。
「 おう〜〜〜 いいね 決まりっ ベルナルド役は お前だあ〜〜 」
「 こんぐらっちゅれ〜しょん〜〜〜 ミスタ・リンク〜〜 」
「 へ? ・・・ なんか メロドラマ やるんじゃね〜の? 」
「 おう メロドラマだとも。 大メロドラマだ
マドモアゼルと吾輩が主役の 一大悲劇だぞ 」
「 ・・・ それと 脚上げと かんけ〜あるのか? 」
「「 あるとも ( あるわ )
だって 『 ウエスト・サイド・ストーリー 』 なんだもの ! 」」
カチャン かちん ・・・ いい香の湯気が流れてゆく。
「 へぇ・・・ グレートの恋人が ふうん ・・・ 」
チョコ・クッキーを頬張りつつ 赤毛のアメリカンは深くうなずいた。
ブリテン氏は 今回の企画の趣旨を語ったのだ。
「 まあ な。 おぬしらにもそれぞれ ・・・ あれこれあるだろうが
甘い恋 ほろ苦い恋 忍ぶ恋 ・・・ みな人生の宝となる 」
「 ま ・・・ な 」
「 ふん 」
ちょいとしんみりした空気が流れる ・・・
「 それを だな。今回のチャンスに昇華してほしい。 」
「 喰う わけか?? 」
「 その 消化 じゃない。 昇華 だ、ちゃんと辞書をしらべとけ 」
「 ぼく しってるよ あのね 」
「 ジョー。 自分で調べる、身に着く。 」
「 あ そっか・・・ で ぼくは大道具係で 」
「 いや 今回は全員キャストだ 」
「 俺もか 」
「 おう お主も頼む、ジェロニモ Jr.
なにせ 人種の坩堝の国が舞台ゆえ ・・・我らが仲間たちに相応しいだろ。 」
「 ふふふ〜〜〜 期待しちゃう〜〜 」
「 ミュージカルだろ? オマエら どうするんだ?
グレートは女形で フランソワーズは男役 ときいたが ・・・ 」
「 あ その心配はない。 歌唱は普通に ・・・吾輩はトニー役を
マドモアゼルは マリア役を歌う。 なに 合わせてしまえば
わかりゃせんよ 」
( わかりますよ グレートさん ・・・! )
「 へっへっへ〜〜〜 なんか面白そうじゃんか〜 なあ ジョー? 」
「 え ? あ〜〜 うん ぼく、大道具とかがんばるからね〜〜 」
ジョーはポテチをぱくつきつつ 暢気に構えていた が。
「 各々方 ( おのおのがた ) 今回は遠路はるばる集合していただき 忝い。 」
グレートは 立ち上がると仲間たちに深々とアタマを下げてた。
「 よ〜よ〜〜 大統領〜〜〜 」
「 静かにしろ 」
銀髪が 赤毛を抑え込む。
「 おっほん、皆の衆 ・・・
この芝居 ― 全員 キャスト だ。 勿論 スタッフも頼む 」
「 おう〜〜 まかせとけってんだ 」
「 黙ってハナシをきけ 」
「 聞いてるって! オッサンこそうるせ〜 」
「 なにっ! 」
「 ちょっと〜〜 静かにしてよね〜〜 痴話げんかはやめて。
え〜と それで ですね。 ほら 聞いて! 」
「 皆 〜〜 フランのハナシ 聞けよ 〜 」
「 お。 ジョーの発言〜〜 謹聴 謹聴〜〜 」
「 黙れって! 」
「 はい、お口は閉じて お手々はお膝 ですよ〜〜
それで ―
ダンス キャプテン は わたしが務めさせて頂きます。
皆さま 覚悟なさって〜〜 」
「 おぅ
頼む マドモアゼル 」
「
任せて! ミスタ・ブリテン。 あ
でも ・・・ 女性キャストが足りないわ 」
「 ご安心めされ 我輩の劇団から 若い研究生を 呼んだ 」
「
きゃ〜 ステキ! あ
ジョーもよ、アジア系の顔 必要よね
」
「 えっ ・・・
ぼ ぼく? 」
「 そ!
本番は 髪 染めてね、 黒髪ね 」
「 ・・・ ひぇ〜
・・・ ぼ ぼく ダンスはできないよ〜〜
」
「 全員キャスト と言ったではないか。
ジョー 大丈夫だ、 おぬしはジェットの後ろのポジションだ。
彼の動きを 真似ろ! 」
「 ま まね ? 」
「 左様。 本来ならソリストの位置なので かなり不安はあるが ・・・
なにせ人数が足らん。 ジョー オマエ 踊れ! 」
「 う ・・・ そ ・・・ 」
「 いま 着いたよ〜 わあ 賑やかだねえ あ お茶タイム? 」
パタン。 リビングのドアがあき、ピュンマがにこやかに入ってきた。
「 あらあ〜〜〜〜 いらっしゃい〜〜 ピュンマ。
グッド・タイミングだわあ〜〜 さ さ 荷物 置いてここに立って 」
「 ? なに? なにが始まるのかな 」
「 あのね。 今回は全員キャストなの。 えっと・・・
ジェットここにいて 〜 ジョー その右後ろね ピュンマは左後ろに立って
ん〜〜〜〜 ミスタ・ブリテン、 如何? 」
はへ・・・? なに?? ほえ〜〜〜
チョコチップ・クッキー やら ポテチをもぐもぐしつつ ワカモノたちは
目をぱちくり。
「 ふむ・・・ よし マドモアゼルのお眼鏡に適った、ということで
― あのダンス・シーンは この三人に決定だ。 」
「 メルシ。 ミスタ・ブリテン。 選抜した以上は わたしが責任を持って!
躍らせますわ。 」
「 おいおい ・・・・大丈夫なのか 」
アルベルトはずっと黙って眺めていたが カップを置き ようやく口を挟んだ。
「 大丈夫 にします!
ああ アルベルト。 あなたも キャストですから 」
「 俺は踊れないぞ。 音響たのむ とグレートから依頼されている。 」
「 ええ。 舞台にね ピアノを置くの。 そこで < 音 > を弾きつつ
― 時には踊って!
」
「 な ・・・ 冗談だろう? 」
「 い〜え わたしは本気よ。 えっと ジェロニモ Jr.、あなたは
最重要人物だわ
」
「 俺 ? 」
「 そうよ。 複数の女性をリフトしてほしいの。 」
「 リフト? ・・・ 女性をもちあげること か 」
「 そう〜〜〜〜 そうよ、 これは貴方にしかできないわ。
それに ・・・ ジェロニモ Jr. って リズム感いいの、
わたし 知ってるもの〜〜〜 お願いね 」
「 わかった。 できるだけの協力 する。 」
「 わ〜〜〜〜 ありがとう〜〜〜 」
「 ワテはな グレートはん。 皆はんの胃袋担当 でヨロシか? 」
「 おう 頼む〜〜 」
「 うふふ〜〜 心強い味方ね。 さあ〜〜て と。
お茶の後は ボーイズ? 地下のレッスン室に集合よ! 」
うへぇ うぐ ごくっ ・・・・
ぞぞぞ ・・・
並み居るオトコ共の背に つつつ〜〜〜〜っと冷たい汗が落ちていった ・・・
Last updated : 11,06,2018.
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************ また 途中ですが
うわ〜〜 ハナシがどんどん広がってきて・・・・
あは 楽しそう〜〜 (^_-)-☆
ジェットは原作 誕生編 で踊ってるよね☆