『 わだつみの都 −(2)− 』
ここは なんて静かなのだろう。
青味を帯びた大気に 彼女はゆっくりと視線をめぐらした。
不思議なその街は 一日中青い黄昏に包まれている。
なにもかもが静寂のなかに 建物や全体に白っぽい植物はひっそりと身を潜め
行き交う人々も 大きな瞳を見開いてはいるが皆言葉を発することはあまりないようだ。
最近になって やっと <外> を眺めることが出来るようになったのだが
いつも違和感がついてまわる。
− ・・・ わたし ・・・ どこから来たの 本当に 天 ( そら ) から・・・?
彼女は広い部屋の窓を開けた。
しかし
そこからは 降り注ぐ陽光も微風のそよぎも訪れることはなかった。
すべてが し・・・んと静まりかえっている。
これは ・・・ 何かが違う。
自分が見慣れた、そして肌で感じてきた光景とは違う ・・・ような気がする。
なにが、とはっきりとは言えないのだが。
彼女は深い吐息をつくと窓辺に背を向けた。
さらさらと肩口に薄い色の髪が揺れる。
− わたしだけどうして。 皆、髪も瞳も濃い大地の色なのに・・・
・・・ ああ わからない・・・! なにもかも 霧の彼方にぼんやりと霞んでいる・・・
ふらり、と足元が乱れ、彼女はそのまま豪奢な寝台に身を投げてしまった。
トントン。 ・・・ トントン
彫刻をほどこした扉を軽く叩く音がする。
彼女は寝台でしばらくぼんやりとその音を聞いていたが、はっとして身を起こした。
頬が上気し 自然に微笑みが唇に浮かんできた。
− あ・・・ きっと 彼だわ
しかし
次の瞬間、彼女はそんな自分自身に驚いてしまう。
− ・・・ ? わたし。 誰が来たと思ったのかしら・・・? <彼>って ・・・ 誰。
自然に湧き上がってきた気持ちの揚まりを 彼女は全く途方に暮れ、持て余していた。
トントン ・・・
「 お休みですか。 入っても・・・ よろしいですか。 」
− ・・・あ!
控え目なノックの合間に落ち着いた男性の声が聞こえてきた。
「 ・・・ いけない! どうぞ・・・ ごめんなさい、ちょっと休んでいましたので。 」
飛んで行って開けたドアから 濃い色の髪をした若い男性が顔を覗かせる。
「 ・・・ お邪魔ではありませんか。 」
「 いえ・・・・。 どうぞ、お入りください、陛下。 」
「 それは止めてください。 あなたは私の大切な客人なのですから・・・ 」
小腰を屈め、会釈をした彼女に、彼は穏やかに言って手を差し伸べた。
「 さあ? 私の 天( そら )の小鳥さん。 」
「 ・・・ はい。 」
彼女は白い手を彼に預けると 身を起こし微笑んだ。
「 ご気分は如何ですか。 この街にも大分馴染まれたことでしょう。 」
「 はい、ありがとうございます。
助けて頂いた上に ・・・ 何も判らない私を引き取って下さって・・・ 」
「 あなたは天からの贈り物です。
煌く髪と海よりも深い瞳を持った小鳥さん・・・ 貴女は私の運命の女性 ( ひと )です。 」
「 陛下 ・・・ 」
「 また。 どうぞ名前を呼んでいただくことはできませんか。 そしてもっと自由に振舞ってください。
ここは、 この王宮は貴女を女主人にしたい、と言っていますよ。 」
「 え・・・・ 」
「 天の小鳥さん。 私は本気です。
あなたのその深い青い瞳で わたしを包んでください。 そう、私の国民とこの水底の都も。 」
彼は 軽く頭を下げると彼女の手をとり口付けをした。
夜の色の髪がさらり、と揺れる。
群青色の上着が彼の若くしなやかな身体によく似合っていた。
彼は この海の人々が暮らす都を統べている年若い王者なのだ。
「 陛下。 私は ・・・ 自分の名前すら思い出せない情けない人間です。
陛下の仰るように 小鳥のように頼りなく無力な存在なのですよ・・・
そんな者に ・・・ 軽々しいことを仰ってはいけません。 」
「 貴女という方は・・・。 いえ、もう・・・貴女自身が私の側にいてくだされば
私は、いや私の側近や国民達も 幸せなのです。
これは ・・・ わだつみの神のお導きでしょう。 」
「 わだつみの・・・? 」
「 そうです。 私達の遥か昔の祖先達がこの海の底に王国を築いた時からの
護り神です。 貴女は その神から私に遣わされた宝物です。 」
「 宝物、なんて・・・ わたしは本当に何もできません。 この国や人々のため・・・なんてとても。
陛下の重荷になるだけです。 」
「 そんなことを仰らないでください。 ああ ・・・ 貴女の青い瞳が曇っていますね。
すこし気晴らしに街へ行かれませんか。
私は政務があってご一緒できませんが・・・ お世話係りのミス・オブライエンは? 」
「 あの方は ・・・ この都の方ではありませんね? 」
「 そうです。 貴女のように天 ( そら ) の国のヒトです。 ある事故で・・・
この都に住まうことになったのです。 彼女は医術の心得があるので
こうして私の側近として仕えてくれています。 」
「 まあ、そうなのですか。 しばらくお目にかかっていませんが・・・ 」
「 ああ、そうでした。 申し訳ありません、少し休みたい・・・と自宅に下がっています。 」
「 あの方も ・・・ 地上から・・・・ 」
「 天 ( そら ) の国には いろいろなヒトがいるのですね。
ミス・オブライエンは私達と同じに濃い髪に暗い色の瞳ですが
貴女は ・・・ 」
若い王は 両手で彼女の頬をそっと挟んだ。
「 ・・・ あ ・・・ 陛下 ・・・ 」
「 この輝く髪と 海よりも深い青の瞳 ・・・ なんと魅惑的な・・・ 」
彼の指が柔らかく彼女の亜麻色の髪を愛撫する。
「 天の国を照らす <太陽>とは、貴女のこの髪の輝きをもっているのですか・・・
私達、水底に住む者たちの永遠の憧れです。 ああ・・・ 海の藻よりもしなやかな・・・ 」
「 ・・・ あ ・・・! 」
彼のひんやりとした唇が桜色の唇に重なる。
穏やかだが、巧みな愛撫に 桜色の二枚貝は次第にその扉を開けはじめた。
「 ・・・ ァ ・・・ や ・・・ めて ・・・ 」
・・・ シャラン ・・・
澄んだ音が 微かに彼女の胸元から聞こえた。
乱れた胸元からちかり、と光るものが姿をみせる。
「 ・・・ ああ・・・ これは・・・ 」
目の隅にその光をとらえた彼は 腕をゆるめ彼女から少し離れた。
「 失礼しました、姫君。 海の神が まだお許しくださらないようです。 」
「 ・・・ 陛下 ・・・ 」
「 このペンダントはどこで? ずっと貴女は身に着けていますね。 」
「 わかりません・・・ ごめんなさい、本当にわたし・・・
なにも判らないのです・・・ 」
ほろほろと透明な雫が彼女の頬をすべり落ちる。
「 ああ・・・ どうぞ泣かないで。 」
若い王は愛しげに零れ落ちるはりの珠をわが唇で吸い取った。
「 これ以上貴女を困らせると 海の神のお怒りを買いそうです。
海の神は私達とこの王国の守り神ですからね・・・
さあ・・・ 共の者をつけますから、気晴らしに街へ散歩にでも行っていらしてください。 」
「 ・・・ はい、ありがとうございます。 」
「 私には少々やっかいな仕事が残っていましてね。
お帰りになったらお茶でも飲みながら貴女からこの街の感想を伺うのを楽しみにしています。 」
もう一度、彼女を抱き締めると彼は微笑を残して出て行った。
− ・・・ 一緒には行ってくださらないのね。
静かに閉じた扉を 彼女はじっと見つめていた。
淋しい想いが湧き上がってくる。
この気持ち ・・・ そう、以前にもよく感じていた。
誰かの背を こんな風な気持ちで見送ったことがある・・・
その背の向こうにどんな顔があったのか。
細い記憶の糸を手繰ろうとすると 目の前の光景に突然霞がかかってしまう。
− ・・・ わからない。 ああ、わたしには何もわからない・・・!
俯いた拍子に胸元からペンダントがすべり出た。
不思議な肖像が刻まれた光るメタル。 記されている数字は何なのか。
王は 海の神 と言っていたけれど・・・
何もかも判らない ・・・ でもとても懐かしい。
彼女は手に取ってじっと見つめた。
− これは ・・・ なに?
・・・ 何か 温かい気持ちになるの。 なぜか判らないけれど・・・
あ。 ・・・そう、優しい瞳・・・
セピアの瞳が わたしを優しく包んでくれるわ。
あれは ・・・ 誰。 陛下ではないわ・・・
霧の向こうに ぼんやりとなにか懐かしい面影が浮かんできた。
だんだんとその人影がはっきりとし始めた時。
トントン ・・・
「 失礼します。 陛下のご命令でお供に参りました。 」
ドアの向こうで 子供っぽい高い声が響いた。
「 あ・・・、はい。 ちょっと・・・待ってください。 」
彼女はあわてて身支度を始めた。
「 この街はとても静かなのね。 車もヒトも・・・ ほとんど音をたてないわ。 」
「 ・・・ はい。 王妃様。 」
「 あの ・・・ 私、王妃じゃありません。 」
彼女は紗のベ−ルの蔭から 共の少年を振り返った。
「 申し訳ありません。 ・・・ でも陛下が貴女様はご自分の妃になる方だ、と・・・ 」
「 ・・・ 困った方・・・。 そうね、わたしの事は ・・・ 」
「 あ! お名前を仰ってはいけません。 」
「 どうして? 」
少年は慌てて彼女を制した。
そして ・・・ 一瞬その顔をじっと見つめすぐに赤くなって俯いてしまった。
「 どうして名前を言ってはいけないの? 」
「 あの ・・・。 本当の名前を告げるのは ・・・ 契りあった男女だけなのです。 」
「 ・・・まあ。 それはこの国の習慣なのね。 」
「 はい、 ずっとずっと祖先の時代からの・・・ 」
「 ・・・ そうなの・・・ 」
ますます身を縮めてしまった少年に 彼女は明るく語りかけた。
「 わたし、本当の名前を思い出せないの。 だから・・・気にしないで?
ファン、と呼んでください。 」
「 かしこまりました、ファン様 」
・・・ あ ・・・?
彼女は不意に脚をとめた。
− ・・・ < ファン >? なぜ・・・突然こんな名前が出てきたのかしら
なにか・・・とても懐かしい響きだわ。
ずっと ・・・ そうずっと昔から聞きなれていた ・・・ みたい。
わたし。 わたしの名前は ・・・ ファン ・・・?
「 ファン様・・・? 」
「 ・・・あ、ああ・・・ ごめんなさい。 」
立ち止まってしまった彼女を少年は心配そうに、でも遠慮がちに声を掛けてきた。
「 ちょっと考え事をしていたの。 さあ・・・ 行きましょう。 ・・・あら? 」
角を一つ曲がり、大きな通り − 多分この都のメイン・ストリ−トと思われる − に出ると
なにか工事でもしているのか、幾種類もの機械音が聞こえた。
「 珍しいのね。 工場でもあるの? 」
「 ・・・ はい。 <黒い人々>の仕事場です。 」
「 <黒い人々> ? 」
「 彼らは自分達でそう称しています。 ある日・・・ 外界( そと )からやってきました。 」
「 外から・・・ 何のために・・・? 」
彼女は共の少年の口調にふくまれる僅かな苦々しい響きを拾い上げた。
「 <永遠の火>を齎しに。 ・・・ でも ・・・・ 」
「 ・・・ あなた方は彼らを快くは思っていないのね。 」
「 申し訳ありません、王妃様 ・・・ あ、ファン様。
彼らは ・・・ その代わりに地下に眠る<大地の火>を要求しています。 」
「 よくわからないけれど・・・ そのことを陛下はどう思っていらっしゃるの? 」
「 陛下は ・・・ 重臣達は<永遠の火>を利用して天( そら )の国へ打って出ようと
主張しています。 でも ・・・ 陛下はこの王国代々の教えを守って大地と海と
ともに生きたいと望んでいらっしゃいます。
ミス・オブライエンも 陛下のお考えを支持しています。 」
「 まあ ・・・ そうなの。 」
「 ・・・ お喋りが過ぎました、どうぞお許しください。 王妃様。 」
「 いえ、いいのよ。 わたしが聞いたのですもの。 ありがとう。 」
少年は低く頭を垂れた。
そんな彼の頬に 彼女は軽くキスを落とした。
「 ・・・・・ 」
まだ子供に近い彼は真っ赤な顔をしてますます俯いてしまった。
「 ?! なにか・・・ 誰か来ます! 王妃・・・いえ、ファン様、こちらに! 」
「 ・・・え ? 」
急に少年は真顔になり彼女を自分の後ろに庇った。
角の大きな神殿の影から 乱れた足音が急速に近づいてきた。
「 さあ、ここよ。 入って。 」
「 ありがとう、助かった・・・ 」
ジョ−が街角で鉢合わせした女性は 彼を石造りの小さな家に案内した。
「 大丈夫 ・・・ この界隈までヤツらは来ないわ。 」
「 君は ここの・・・海底のヒトじゃないですね? 地上の女性 ( ひと ) でしょう? 」
「 ええ、そうよ。 貴方と同じに あの大渦巻きに船ごと取り込まれたの。
どうぞ座って? 誰もいないわ、気楽な独り住まいよ。 」
「 ・・・ ここに住んでいるのですか。 」
「 ふふ・・・ 普段は王宮に詰めているけど今は休暇中。 一応はココが私の家よ。 」
「 王宮? ココは王国なのか。 しかしどうしてヤツらが・・・ N.B.G.の手先がいるんだ? 」
「 N.B.G.って ・・・ <黒い人々>のことね。 貴方を追っていた・・・ 」
「 ああ。 こんな処にまで手を伸ばしているとは・・・ 」
ジョ−は深く溜息をつき どっかりと腰を下ろした。
不思議な大渦巻きに飛び込んだ小型探索艇は なぜか厖大な水圧にも潰されることなく
深海の底にまで辿り着いた。
いかに博士の設計した最新型の探索艇でも到底耐えられるはずはない深さを
水深計は示していた。
しかし ・・・ 静寂の中、ジョ−の乗った船は空間の中に何事もなくぷかりと浮かんでいる。
・・・ ここは ・・・ 海底? しかし空気があるぞ。 海底都市?? まさか・・・
シュッ-----
沈黙を破り、外側からハッチをこじ開けよとする音が響く。
・・・ 誰だ? いや、入ってくるヤツを見れば少しは事情がわかるかもしれない。
防護服に身を固め、ジョ−は油断なくス−パ−ガンを構えた。
「 ・・・ 中の者、外へ出ろ! 」
声とともに銃口がハッチから差し込まれた瞬間 ジョ−は船底を蹴り飛び出した。
「 な! 誰だ?! 抵抗すると撃つ! 」
・・・む? あれは あの武器は・・・! N.B.G.・・・?!
ジョ−の視界にはいった銃器類には確かに見覚えがある。
まさか・・・とは思ったがジョ−は咄嗟に身を捻り、迎え撃とうとした兵士たちをなぎ倒した。
ジョ−の迎撃に 指揮官も兵士たちも虚を衝かれたらしい。
「 なんだ?? 何物だ? ・・・ 撃て! 」
「 どうも普通の小型潜航艇ではないようです。 」
「 うむ・・・・ それにあれは・・・ どこかで・・・ 」
「 それにあのオトコもタダモノではありません! 」
「 そうだ! あれは・・・ あの服は たしか・・・ サイボ−グ?? 」
「 サイボ−グ? 」
・・・ やっぱりな。 しばらく鳴りを潜めていると思ったら。 N.B.G.め、こんなところに・・・
ジョ−は兵士と指揮官の会話を拾いつつ、巧みに身をかわしドックと思われる建物の中へ
紛れ込んだ。
ここは ヤツらの海底工場なのか?
・・・ こんなところに ・・・ この地のどこかに フランソワ−ズがいるのだろうか・・・
「 捜せ! 捜し出してひっ捕らえろ---!」
ばらばらと兵士どもの足音が静寂は空気をかき乱し響く。
む・・・ 拙いな。 大騒ぎになる前に街中に紛れ込もう。
そうして なんとしてもフランソワ−ズを探しださなければ・・・!
彼女はきっといる。 この、不思議な海底都市で助けを待っているに違いない。
身の危険に曝されながらも、ジョ−の心は高鳴った。
そうなのだ。
フランソワ−ズは ・・・ 生きているのだ!
ジョ−は歓喜の叫びを噛み殺しつつ、じりじりと街と思われる方面に移動していった。
建物の蔭から蔭へ・・・
しめった石畳の路地を抜けてゆくと小さな広場に行き当たり、
不思議な彫像がところどころに祀ってある。
これは・・・なんだ? 爬虫類と恐竜の間みたいだぞ?
ジョ−はしばし立ち止まり奇妙な彫像にみいっていた。
そう言えば・・・ 街並みも変っていた。
ほの暗い空のしたに拡がる街は 静寂に満ちていて、建物は多くが石造りらしかった。
それも地上の所謂ビルではない。
そう ・・・ 古代のギリシアかロ−マ帝国の街の一つ・・・ そんな風に見える。
時折通り過ぎる人々の服装も古代風だった。
みな一様に透き通るように色白で整った顔立ちをしており、特にどの顔もかなり大きな瞳を持っていた。
・・・ ここは いったい?
ダダダ----!
石畳を踏み拉く乱暴な足音が近づいてきた。
ジョ−は再び石壁に沿って街中へと移動してゆき 角を一つ曲がったとき。
「 ・・・ あ! 」
「 ! ・・・・ きみは 地上の? 」
頭から紗の被布を纏った女性と鉢合わせしてしまった。
驚いた拍子に彼女の顔が露わになり ・・・ それはまったく普通の、地上の人間の顔だった。
「 どうも外が騒がしいと思ったら ・・・ 原因はアナタだったのね。 」
「 ・・・ ぼくは ある人を捜しにきたのです。 」
「 そう? まあ、いいわ。 ・・・こっちに来て! 」
「 ・・・ ぼくはジョ−・シマムラといいます。 」
「 私はロビン・オブライエン ・・・ 追っ手が来るわ! さ、急いで! 」
その女性は先に立って駆け出した。
「 アナタ・・・人を捜しに来た、と言ったわね。 」
「 ええ。 一ヶ月ほど前にクル−ザ−ごとあの大渦巻きに取り込まれて・・・ 」
「 ああ、それじゃあこの街のどこかにいるわ。
あの大渦巻きは<黒い人々>が持ち込んできた一種のマウス・トラップなのよ。
あれに飲み込まれるとどんな水圧にも耐えられるの。
あれで ・・・ 原潜なんかを捕まえるのが目的らしいわ。 」
「 原潜を? なぜ・・・ 」
「 この海の都の人々に <永遠の火>といって原子炉を提供して
見返りに海底地下資源を狙っているらしいの。 」
「 なんだって。 この海底はヤツらの基地になっているわけか! 」
「 そうみたいよ。 ・・・・ ああ、どうぞ? 海の都のお茶も ・・・ なかなかよ? 」
ロビンは変った形の茶器を運んできた。
「 ありがとう・・・ 君は王宮に仕えているのでしょう? そのことをその・・・この国の支配者に
伝えないのですか。 」
「 伝えたわ。 陛下は<黒い人々>を快く思っていないしね。 」
「 それならこの国の王と協力できるかもしれないですよ。 」
「 そうね。 そうかもしれないわ・・・ 」
ロビンの口調に投げやりな響きがあった。
「 きみは 今は? 」
「 ふふふ ・・・ 休暇中ってカンジかしら。
もっとも、私なんかいなくても・・・ いいのよ。 陛下は <天の小鳥> に夢中ですもの。 」
「 天の小鳥? 」
「 そう。 陛下が見つけてきたヒトで・・・ 彼女に付ききりよ。
本当に小鳥みたいに可憐な人だわ。 」
「 その人も 地上の人ですか。 」
「 ええ。 ・・・ああ、 私、・・・疲れたわ。 あの方の背中だけをずっと見つめているのは辛すぎる・・・
・・・ もういいわ! 私・・・ 地上に帰りたい。 アナタが帰るときに 一緒に連れて行って? 」
「 そうしたいけれど。 まず、ぼくはある人を見つけなければ・・
それに地上に帰るには なんとかどこかで船を調達しないとね。 」
「 そうね・・・ 私・・・ 結構この都が気に入っていたの。
私、医師だったから・・・ 陛下もそれなりに優遇してくださった
私も陛下にお仕えするのは 喜びだったわ ・・・ 」
ロビンはじっと目を凝らし 宙を見つめている。
その深い緑の瞳には くらい蔭が過ぎっていた。
「 ・・・ 君は ・・・ その王様のことを・・・? 」
ジョ−の遠慮がちな問いにロビンはふ・・・っと吐息をもらし瞳を伏せた。
「 陛下は ・・・ 王妃となる女性 ( ひと ) を見つけたもの。
私 ・・・ もういい。 地上に帰りたい・・・ 」
「 そうか ・・・ ぼくはまず、彼女を捜して。
それから出来ればヤツらの基地を破壊しなければ! 」
「 アナタの尋ね人は女性なのね。 ・・・ 彼女? 」
「 ・・・え ・・・ あ・・・。 はい。 ぼくの誰よりも大切な女性 ( ひと )です。 」
「 そう・・・ 私も出来るだけ協力するわ。 」
「 ありがとう。 ・・・それじゃ まず手始めに街へ案内してくれますか。 」
「 いいわ。 でも、その赤い服は目立ちすぎるわ。 ・・・ そうだ、この布を被って・・・
服も、上からコレを着たらいいわ。
そう・・・ それなら大丈夫。 なるたけ静かに振舞ってね。 」
「 了解。 」
ジョ−は長いギリシア風のロ−ブを纏いフ−ドを深く被り顔を隠した。
「 この都の人々は皆濃い色の髪と目なの。 あまり顔を上げないほうがいいわ。 」
「 わかった・・・・ 」
ジョ−とロビンは連れ立って 静寂の街に足を踏み込んだ。
遠くからサイレンが響き、静かに行き交っている人々は なにごとか、と不安気な面持ちだった。
「 ・・・ふうん? アナタ、よほど重要人物なの?
<黒い人々>がやけにムキになって捜しているようよ。 」
「 ふん・・・ 今に・・・ 一泡吹かせてやる。 」
「 ともかく、急ぎましょう。 地上から来た人々の集まる場所に案内するわ。 」
「 ありがとう! 」
二人は足を早め 大通りへと向かった。
角に石造りの回廊を大きく張り出した寺院があった。
「 ここを曲がって通りを渡れば ・・・ 」
「 ・・・ 誰か来る! 」
「 え・・・? あ・・・ 足音が・・・ 」
「 しっ! こっちへ・・・」
ジョ−はロビンの手を引いて すっと石壁に身を潜めた。
「 ・・・ 誰だかわかりますか。」
「 ・・・・・・・! 」
暫く耳を澄ませていたロビンは 鋭く息を呑み顔色を変えた。
「 知っている人ですか。 」
「 ・・・ あのヒトよ。 < 天の小鳥 >さん ・・・ 」
「 例の王様が助けた人ですか。 」
「 ええ。 陛下がそう呼んでいるの。 王妃様・・・いえ、王妃になるヒトよ。 」
「 そうか。 未来の王妃様には気の毒だけど ・・・ 丁度いい。
彼女を連れてゆけば 王様も力を貸してくれるかもしれない。 」
角の向こうから軽い足音が近づいてきた。
その足音の主が姿を現した瞬間 − ジョ−は ぱっと飛び出しその人影を捕らえた。
「 ・・・ あ!? 」
「 静かにしてください。 乱暴はしませんから・・・ 」
ジョ−はほっそりとした身体を抱え小声で話しかけた。
「 誰です?! 放してください! 」
「 ・・・・ ? 」
「 さあ、その手を放しなさい! 騒ぎたてたりしません。 あなたの目的はなんですか。 」
紗のベ−ルの奥から怒りを含んだ声がひびく。
− ・・・・ ま ・・・ さか ・・・?
ジョ−は震える手でその女性のベ−ルを剥ぎ取った。
「 ・・・ なにをするの! 」
青い瞳が怒りに燃え 薄闇の中で亜麻色の髪が炎のごとく煌いた。
・・・・・ フランソワ−ズ ッ !!
Last
updated : 01,16,2007.
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***** 途中ですが
すみません〜〜〜 終りませんでした。
どんどん妄想が拡がってしまって 今回だけでは収拾がつかなくなりました。
だって・・・原作のカエルみたいな海底人設定は・・・・あんまりだ〜と思って・・・
美形揃いの海底帝国にしてみました♪ 王様は皆さまのお好みをイメ−ジしてくださいネ
ホント、すみません〜〜 宜しければあと一回お付合いくださいませ <(_ _)>