『 道 ― (2) ― 』
コツ コツ。 カタン。
ノックの音と規則正しい足音が聞こえ ― リビングのドアが開いた。
「 博士。 それでは 行ってきます。 」
「 おお アルベルト 気をつけてな。 」
博士はソファで新聞を広げていたのだが ばさり、とテーブルに置いた。
「 え〜 ・・・フランソワーズと待ち合わせたのは ・・・ 」
「 S駅です。 」
「 そうか ・・・ あ そこまで行けるか? 大丈夫かの? 」
「 大丈夫ですよ ― 多分 ね 」
アルベルトは 少しばかり照れくさそうに笑った。
「 そう か ・・・ ワシが一緒に行ければいいのじゃが〜 」
「 いやいや〜〜 ただの俺の私用に博士を付き合わせるわけには行きませんよ。
フランソワーズ曰く < ワタシはここの住民 > だそうですから ・・・
現地では彼女にナヴィをしてもらいますよ。 」
「 そうか? ・・・・ ジョーの仕事がオフじゃったらのう〜
アイツに車で送ってもらえば 」
「 そんなワケにも行かんです。 大丈夫 俺も一応、日本語は理解できますんでね 」
「 しかし なあ 」
まだ心配気な博士に それじゃ と合図して、彼は例のごとく、黒の革手袋をはめ
淡々とした足取りで出かけていった。
ドイツから突然の電話があって3日のち、彼らの銀髪の仲間は飄々と岬の崖っ縁に建つ
この邸に姿を現した。
「 いらっしゃ〜〜い 〜〜 アルベルト〜〜 」
「 やあ 元気そうだな。 フランソワーズ 」
「 ん〜〜 あなたもね〜〜 アルベルト 」
玄関で彼はフランソワーズと抱き合い、軽くキスを交わす。
「 あ・・・ いらっしゃい アルベルト〜〜 」
ジョーは少々ドギマギしつつ・・・そんな彼らを一歩下がって眺めている。
ふう〜〜ん ・・・ 仲 いいんだな〜〜
・・・ ま〜な ・・・ 西洋人だからな〜 二人とも・・・
ふうん ・・・ キス だよなあ〜 アレって
兄妹みたいな仲なのだ、と理解はしているけれど どうしても やっぱり・・・
中身は完全ニホンジンなジョーは なかなかフクザツな心境なのだ。
「 博士は ― 」
「 リビングに あら 」
「 おお〜〜 よく来たな、アルベルト 」
博士も玄関に顔をだした。
「 ギルモア博士 お久しぶりです。 お元気ですか。 」
「 うむ うむ 君も元気そうだな。 」
「 お蔭さまで・・・ ああ 美味いコーヒー、もってきましたよ。」
「 おお ありがとう! 」
「 ね〜〜 ほら 上がって〜〜 お茶にしましょう、ケーキ、焼いておいたの。
アルベルトの好きなチーズ・ケーキよ〜〜 」
フランソワーズが 男性陣をリビングに追い立てた。
ふわ〜〜ん ・・・ いい香がリビングに満ちている。
「 ふむ〜〜 いい香じゃなあ〜〜 」
「 おいしいね! こういうコーヒー、ぼく 初めてだな〜 」
「 ふん ミルクと砂糖たっぷり、だけがコーヒーじゃないぞ、ジョー。 」
「 えへへ ・・・ いつもはさ〜〜 苦いのはちょっとな〜〜って・・・
でも このケーキと一緒なら全然平気だなあ 」
「 うふふ・・・ いかが チーズ・ケーキ? ちょっと甘口にしたの。
ラム酒漬けのレーズンが入っているのよ。 」
「 〜〜 うまい。 腕を上げたな フランソワーズ 」
「 ふふふ メルシ〜〜 アルベルト。 」
「 ふむ ふむ ・・・ コーヒーもケーキも絶品じゃな ・・・
それにも増して お前たちが元気で平穏な日々を過ごしているのが
ワシにとっては最高のことじゃよ 」
「 博士こそ お元気そうでなによりですよ。 」
「 アルベルト、今回はしばらくのんびりできるのでしょう? 」
「 あ〜〜〜 そうでもないんだ。 電話とメールでも少し説明したが 」
カップをソーサーに戻すと、アルベルトはジョーに向き合った。
「 ジョー あの大学に知り合いはいないのか。 ハイスクール時代の同級生とか? 」
「 いないよぉ〜 」
「 う〜む ・・・ 直接行ってみるか 」
「 う〜ん それはちょっと無理かもなあ・・・ 」
ジョーは 真剣な顔で思案している。
「 ?? なんのこと?? 」
フランソワーズはさっぱり話が見えていない。
「 ・・・ あ! そうだ〜 教会の神父さまに聞いてみるよ 」
「 あの大学の卒業生なのか? 」
「 いや ・・・ でもカトリック系の大学だしね〜 知り合いとかいるかもしれないよ。
うん ちょっとまってて・・・ 聞いてみるから。 」
「 すまんな 」
「 えへ・・・ 一応ちゃんと日曜とかミサに通っているから話しやすいんだ。 」
「 ああ あの教会の神父様ね。 あのね、 小さな教会だけどとても気持ちがいいの。
この辺りにも教会があってうれしいわ。 」
フランソワーズはもともとカトリック信者だし ジョーは教会育ち・・・
二人はごく自然の行動として地元の教会に日曜毎に通っている。
「 そうか 助かるよ。 」
「 え〜と? うん、 じゃ ちょっと行ってくるね〜〜
自転車で行けばすぐだから・・・えっと ・・・ なんだっけ、その〜 ピアノ?? 」
「 ベーゼンドルファ 」
「 〜〜 べ〜ぜんどるふぁ・・っと。 」
ジョーはこちゃこちゃメモを取ると 身軽に出かけていった。
「 ねえ ・・・ なんのことだかさっぱりわからないんだけど??? 」
フランソワーズが つんつん・・・とアルベルトのジャケットの裾を引いた。
「 あ〜〜 すまん、説明してなかったなあ。 ・・・ これ さ 」
彼はゴソゴソ・・・ ジャケットのポケットからなにか会報みたいな紙片を
引っぱりだした。
「 それ ・・・ その大学の? 」
「 あ〜 ベルリンでな 知りあった日本人がもっててさ・・・ ソイツが俺に
このピアノについて聞いてきたんだ。 」
「 ピアノ? ああ それが ベーゼルドルファ っていうのね? 」
フランソワーズは その会報らしきものを覗きこんだ。
「 そうだ。 俺は一応 日本語にも堪能 ってことになっているからな。 」
「 うふふ・・・ これ すぐに読めた? 自動翻訳機は読解はしてくれないでしょ 」
「 ま〜な ここで暮らしていた時に多少は日本語の読み書きは習得してたしな。
ソイツにさ 読み上げてもらい・・・自動翻訳機を使った。 」
「 そうだったの。 このピアノ ・・・ 弾いてみたいの? 」
「 できれば な。 こんなチャンスは二度とないと思う。 」
「 ドイツにももうないの? 」
「 これはなあ ウィーンの至宝 とまで言われたピアノなんだ。
ウィーンで探せば見つかるだろうが 有名ピアニストでもなければ弾かせてはもらえん
だろうな。 」
「 ふうん ・・・ 」
いつも冷静で感情を表に現さない彼が ひどく熱心に語る。
・・・ なんか ステキね、 アルベルト。
アナタにとって ピアノは 音楽は存在そのもの なのかしら
「 あ ・・・ ジョーが帰ってきたわよ? 」
「 お。 早いなあ〜〜 ジョー、 すまんな〜〜 」
アルベルトは ぱっと立ち上がると玄関に出ていった。
翌日 アルベルトは早速出かける、と言った。
「 ぼく 一緒に行けるといいんだけど ・・・ 」
「 いいって いいって。 お前、仕事なんだろう? 俺のことなど気にするな。
わざわざ 神父さんから紹介状をもらってきてくれたんだ、本当にありがとう。 」
アルベルトは 素直にアタマを下げた。
「 え やだなあ〜〜 そんな ・・・ 神父様、喜んで紹介状、書いてくれたよ。
あの大学の教授と親しいんだって。 」
「 ほう・・・そうか。 ほら お前はもう出かけろよ、遅刻するぞ?
」
「 あ うん ・・・ ごめんね 」
「 謝る必要、ないだろ? ほらほら遅れるってば 」
「 う うん ・・・ じゃ イッテキマス ・・ 」
「 いってらっしゃい ジョー。 ほら お弁当。 」
「 あ サンキュ。 それじゃ〜
」
ジョーはなんだか残念そうな顔つきで でも張り切って出勤して行った。
「 ねえ ・・・ 一緒に行きましょうか? その学校、 Y駅にある大学でしょう?
わたしも知ってるわよ、有名だもの。 」
フランソワーズが こそっとアルベルトを覗きこむ。
「 あ〜 いいのか? 」
彼女は コートを着てマフラーをし、大きなバッグを抱え玄関に立っている。
「 これからレッスンなんだろ? 」
「 ええ。 でも今日は午後からでもよければ … 時間あるわ。 」
「
すまん 助かる。
トウキョウは 安全な街だが鉄道網に関しちゃ カオスだからな〜 」
「
そう? 慣れてしまえば 便利よ? 」
「 そりゃ お前は住み着いてるんだからな〜
」
「 ええ ちゃ〜んとね 住民票もあります、わたし。 」
「 はいはい、では 現地の方にナヴィゲート お願いします。 」
「 うふふ・・・ 了解よ。 それじゃ S駅で待ち合わせ どう?
あの駅なら知っているでしょう? 」
「 S駅? ・・・ ああ まあ な。 いざとなったら 」
ツンツン。 彼は自身の銀髪の頭部を突いてみせた。
「 あら〜〜 これ、使ってください? 博士から最新機種、借りたでしょう? 」
フランソワーズは バッグの中からスマホをだして見せた。
「 う〜〜〜 ・・・ 仕方ねえなあ 」
「 うふふ・・・ 不便ですけどね〜〜 < 普通 > に暮らしましょ。 」
「 へいへい 了解いたしました、姫君。 」
「 よろしい。 それじゃ ・・・ え〜と12時半 でいい? 」
「 了解。 」
「 じゃ ね。 いってきまあ〜〜す! あ。 ねえ アルベルト? 」
玄関のドアを半分開けて、彼女は振り向いた。
「 なんだ。 」
「 ねえ あの道・・・ どう思う? 」
「 道??? なんだ だしぬけに 」
「 意見、聞きたくて。 ウチの前の坂道のこと。
」
「 ― 別に普通の道だと思うが? 俺たちには苦になるわけ ないだろ。 」
「 それはそうなんだけど ・・・ 」
「 なにが言いたいんだ〜〜 」
「 あ ごめんなさい、どうでもいいのよ、忘れてね〜〜 じゃあ イッテキマス。 」
わさわさ手を振り 彼女は軽い足取りで出かけていった。
?? だしぬけに なんだ??
まあ ・・・ ここでの生活は順調のようだな
あの〜〜朴念仁はまだなにも言ってねぇわけか
俺たちの挨拶を もんのすごいフクザツな表情でみてたがな〜〜
ふふん 俺の妹をそう簡単にやれるもんかね。
銀髪のドイツ人は ちょっとばかり意地悪い?笑みを浮かべていた。
目的の場所は駅から目と鼻の先にあった。
待ち合わせ場所で無事めぐりあった二人は 昼すこし過ぎには大学の正門前にいた。
都会のキャンパスなので広大・・・とは言い難いが さすがに垢抜け瀟洒な印象だ。
「 ここから勝手に入っていいのかね。 」
「 え〜と? あ ほら 守衛さんに聞いてみましょうよ 」
ジョーがもらってきた紹介状を見せたので すぐに案内してもらえた。
お昼休みもそろそろ終わり・・・という時間なのだろう、キャンパス内には
多くの学生が行き来している。
「 ・・・ 狭い な 」
「 こんな都心の学校ですもの、仕方ないんじゃない? 」
「 まあ な ・・・ 」
「 教会もあるし ・・・ あ ねえ あの建物、石造りよ〜 雰囲気、あるわねえ 」
「 ふん かなり年季が入っているな。
ここは古い大学なのか? 」
「 さあ・・・歴史はよくしらないけど 有名な大学よ。偏差値も高いし。 」
「 へんさち? 」
「 受験生には大変なとこってことよ。 え〜と? あ こっちみたい。 」
「 教授館 とか言ってたな 」
二人は少々古めかしい建物に入っていった。
「 どうぞ こちらですよ。 」
「 ありがとうございます。 」
すぐに初老の男性が出てきてにこやかに二人を案内してくれた。
お国はわからないがいかにもその教授は いかにも 欧州人といった風貌だった。
あら ・・・ この方 ローマン カラー を着けていらっしゃる・・・
神父様なのね それにしも日本語 お上手ねえ
彼の後について歩きつつ フランソワ−ズは熱心にあれこれ観察していた。
「 S神父とお知り合いなのですか? 」
「 いや 実は日本の親戚が S神父様の教会に通っていましてね 」
教授とアルベルトの会話は いつしかごく自然に早口のドイツ語になっていた。
ふうん ・・・ この神父様はドイツの方なのねえ
… あ だめだわ〜 もうわからないわあ〜
フランソワーズも密かに耳を欹てていたのだが ― すぐにギブアップした。
少しはドイツ語も喋れたが完全ネイティヴの早口の会話にはついて行けなかった。
へえ ・・・ なんだか楽しそうねえ アルベルト・・・
あらあ ずいぶん古い感じの建物ね
階段を上り案内された教室は フランソワーズからみてもかなりの年季が入っていて
デザインも現代のものとは随分ちがっていた。
「 この教室ですよ。 」
「 あ 構わないのですか 講義中では 」
「 いや まだ昼休みですから ・・・ どうぞ触れてください。 」
「 ありがとうございます。 ・・・ ああ 」
かなり広い教室の片隅に そのピアノはひっそりと置いてあった。
「 ・・・・・ 」
アルベルトはカバーをめくり そっとピアノに振れ銘を確認している。
「 お弾きになってもかまいません。 どうぞ 」
「 え ・・・ いいのですか。 」
「 はい。 そのためのピアノですから 」
「 ・・・ 」
笑みを絶やさない教授に促され、アルベルトは蓋をあけるとゆっくりと鍵盤に指を置いた。
〜〜〜〜 ♪ ♪ 〜〜〜〜 ♪♪
柔らかく 円やかな音が 響く。
教室で談笑していた数人の学生たちが あれ・・・? といった顔をこちらに向けた。
「 ・・・ なんて穏やかな音 ・・・ 」
「 そうですね 」
フランソワーズが思わず漏らしてしまった声に教授もにこやかに賛同した。
「 なにか一曲 お願いできますか 」
「 ・・・ はい 」
アルベルトは 一旦キイから手を離すとイスに座り直した。
一瞬瞑目してから 彼はす・・・っと手袋をしたままの手をキィに置き ― 弾き始めた。
あ ・・・ モーツァルトの 『 レクイエム 』 ね
トタトタ 〜 コツコツ ・・ え なに?? ピアノの音、聞こえなかった??
数人の学生が あれえ? という顔で集まってきたが ― その教室に入るなり皆 うっとりと
古びたピアノの典雅な音色に聞き入った。
なんか ・・・ いい音だね〜〜
へえ〜〜 あのピアノ、弾けるんだ?
・・・ ステキ! ねえ これモーツアルトよねえ?
学生たちはボソボソ話つつ それでもじっと演奏に耳を傾けている。
〜〜〜♪。 静かに 音が消えた。
「 ― ありがとうございました。 音程はそれほど狂っていませんね。 」
「 そうですか ・・・ ずっと使っていなかったのですよ。
以前は合唱部が練習で使っていたのですが 」
「 この名器を放っておくのはとても勿体ないと思います。 」
ぽ〜〜ん ・・・ 〜〜〜♪
アルベルトは再び鍵盤に向き合うと しずかにアルペジオを奏で始めた。
ざわざわざわ ・・・ これ・・さあ? そうだよね!
次第に集まってきた学生たち、始めは驚いた顔で ピアノを聞いていたが
今度は 自然にそちこしから歌声が上がり始めた。
ああ。 グノーの アヴェ・マリア ね!
フランソワーズもよく知っているメロディなので 低く口ずさみ始めた。
Ave Maria 〜〜〜〜〜 ♪
さすがカトリック系の学校、というか・・・学生たちは原語で歌い始めた。
歌声は人を集め 人々はみなそれぞれに懐かしくも 馴染みのあり歌をゆったりと歌う。
〜〜〜〜♪ ピアノのすぐそばに立ち、一際美声を響かせている男子学生はおそらく
グリー・クラブか聖歌隊のメンバー なのかもしれない。
〜〜〜〜 Amen ・・・・
歌声もピアノもすう〜っと消えていった。
パチパチパチ〜〜〜 ごく自然に拍手が沸き上がった。
「 ありがとうございます、 ハインリヒさん。 」
教授が満面の笑みで握手を求めてきた。
「 いや ・・・ 俺の方こそ。 そして学生諸君にも 」
アルベルトは イスから立ち上がると、歌声を合わせてくれた学生たちに向かって
パンパン・・と拍手をした。
わあ〜〜〜 ステキな音だった〜〜
あのピアノ ・・・ いい音なんだ〜〜
「 ステキな演奏をありがとうございました。 ドイツの方ですよね 」
美声の男子学生が話しかけてきた。
「 このピアノを弾かせてもらえてうれしいですな。 ドイツ語、上手いね。 」
「 あは 僕 ドイツ語学科なんで ・・・ うれしいです! 」
「 そりゃよかった。 しっかり勉強してください。 」
「 はい! 」
「 どうも失礼しました、ありがとう。 」
どうやらそろそろこの教室を使用するらしいので 二人は足早に辞去した。
ドイツ人の教授は正門まで送ってくれた。
教会を臨めるその門で教授は ぎゅっと握手をした。
「 素晴らしい演奏を ありがとうございました。 」
「 いや お礼を言うのは俺の方です。 あのような名器を弾かせてもらって心から感謝します。
それにしても
勿体ないですね〜 このままでは … 」
「 ええ なんとかしたいと思っています。 」
「 よい結果が出ることを祈っています。 」
またお目にかかりたいですね、と挨拶を交わし アルベルトとフランソワーズは
その大学の門を出た。
「 素敵な音だったわ〜〜 」
「 うん 想像以上だった。 予測していたよりもずっといい音だった … 」
「 優しい音ね 昔 むかしの
・・・懐かしい音 ・・・ 」
「 うむ ・・・ ああ そうだ、あの教授になあ お前のこと、奥さまですか と聞かれたから
妹だ と言っておいたぞ、 フランチェスカ。 」
革手袋の手が くしゃり、と彼女の髪を撫でる。
「 あら・・・ まあ ありがとう アルベール兄さま 」
ふふん ・・・ ふんふん♪ 二人はぷらぷら・・・桜の木が並ぶ道を歩いていった。
あのピアノ ・・・ ずっとあそこに居たのかしら
ずっとあそこで 流れる時を感じていたの・・・?
どんなに時が流れても ― 素晴らしい音色は変わらないのね・・・
「 なんだ、むすっとして。 怒っているのか 」
「 あら 怒ってなんかいません。 ただ ― いいなあ〜って思って 」
「 いいなあ?? 」
「 ええ ― アルベルトには 道 があって 」
「 ?? 道?? 」
「 あの ・・・ 求めたいって思ってるモノがあるってこと、かしら。 」
「 それはお前のことだろう?? レッスン、熱心に通っているって
博士も喜んでいたぞ。 」
「 え ええ ・・・ それは そうなんだけど ・・・ 」
「 だけど?? 」
「 ― うん ・・・ 」
彼女はそれきり口を噤んでしまった。
〜〜〜 ♪♪ 〜〜〜 ♪ ♪ 〜〜〜
海辺の崖っ淵の家に戻るまで フランソワーズの心にはずっとあのピアノの音が聞こえていた。
Last updated : 12,15,2015.
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え・・・ また続きます〜〜〜 すいません ・・・