『  道  ― (3) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

 

おはようございま〜〜す   おはよう・・・・  あ おはよ〜〜

 

  バタン トタトタトタ ・・・ どさっ  あ〜〜〜ぁ 

 

更衣室のドアを開けて少し眠そうな声が 次々に集まってくる。

「 ・・・ おはよ〜ございます 」

「 あ おはよう〜〜 フランソワーズ 〜 」

「 みちよサン  おはよう〜〜ございま〜す 

「 あっは  寒いね〜〜  

「 おっは〜〜〜〜よ! 」

大きなバッグを抱えたダンサー達、それぞれの場所でばさばさ荷物を開けて着替え始める。

ごたごた着込み、何をするひと?? といった恰好でスタジオに入ってゆく。

 

 ― ここ  フランソワーズが通うバレエ団の稽古場で 朝のクラスが始まろうとしている。

 

「 ふ〜〜〜 ・・・・ ああ 筋肉痛だあ〜 」

「 あ〜〜 今度の振りでね〜 」

「 そ  ・・・ アレ 辛いなあ〜 」

 

「 それでさ! 前回教えたフリ、きれ〜〜さっぱり忘れてるのよ! 」

「 あは ・・・ チビなんてそんなもんだよ〜 」

「 けどね! 何回おんなじコトをね!

 

「 ね〜〜 M・・のバーゲン まだあ? 」

「 ショップのはもう終わったよぉ 」

「 え ウソ〜〜 

「 もうすぐ 通販の方が来るって ・・・ 」

「 わ〜〜〜 まぜて まぜてぇ 」

 

「 あ〜〜 今日 リハかあ〜 

「 あら みちよも? 

「 ウン ・・・ 小品集って緊張するよねえ 」

「 そうね ・・・ ちょこっとコンクールみたいだし 

「 だよね〜〜 あ フランソワーズ なに踊の 」

「 わたし?  ・・・ 『 ジゼル 』 

「 う〜〜〜 そりゃ大変〜〜 

「 うううう ・・・ 余計緊張するよ〜なこと、言わないで ・・・ 」

「 ご ごめん ・・・ アタシだってテンパってるんだからあ〜 」

「 みちよは ? 」

「 『 パキータ 』 〜〜〜  ああ 痩せなくちゃ〜〜 」

「 今からダイエットしてたら辛いわよ? 」

「 い〜〜の どうせ途中で挫折するから ・・・ 

「 うふふ ・・・ ごめ〜〜ん 」

 

スタジオで 皆 床に座ったり寝そべったりストッチしたり髪を結ったり ・・・・

 ぼそぼそ おしゃべりに花が咲く。

クラス前の貴重なリラックスタイム なのかもしれない。

  ― やがてきっかり時間通りに  カタン。 

「 おはよう。 始めますよ。 」

張りのある声と共に初老の女性が入ってくると全員がさっと立ち上がる。

ピアノの音で 優雅に挨拶をしてから  ―  朝のプロフェッショナル・クラスのレッスンが 

始まった。

 

 きゅ。  フランソワーズも ちょっと緊張した面持ちでバーを握った。

 

隅っこのバーで 仲よしのみちよの隣だ。

 

    うふ ・・・ 今日もクラスができてうれしいわ♪

    ねえ  床さん?  バーさん? よろしく ね

 

「 はい それじゃ 二番 ( ポジション ) から〜〜 

先生のあっさりした順番の説明が終わると 軽やかにピアノが前奏を奏で始めた。

 

 〜〜〜♪♪   〜〜〜♪

 

クラスはどんどん進んでゆく。

スタジオ専属のバレエ・ピアニストさんは実に的確な音を奏でてくれる。

「 〜〜 で 最後に パ・デ・バスク ・・・で アチチュード バランス ね。 」

先生はぱぱぱっと順番を言ってざっとデモンストレーションをするだけだ。

「 ・・・・ なカンジ。 いい? それじゃ〜〜 4人づつね 

ダンサーたちは皆 一様に頷き ほんの少しの間を置き すぐにピアノが鳴りだした。

 

   え〜〜〜っと??  最初はアラベスク〜〜 二番で・・・

   〜〜  あ この音 ・・・ 『 レクイエム 』 だわ

 

   ・・・ いい音ね。 さすがだわ〜〜 この振りちゃんと合ってる

 

フランソワーズは思わずピアノ伴奏の音色に耳を傾ける。

 

   アルベルトのピアノ ・・・ 彼があんな風に弾くの、初めて聞いたわ・・・

   あのピアノも 優しくて柔らかい音だったな ・・・

   ・・・ そう ね ・・・ ムカシのウチの居間みたい だった・・・

   ママンがいつも縫い物やら編み物してて・・・

   キッチンからは良い匂い ・・・ パパの陽気なハナウタやら

   お兄ちゃんの口笛が聞こえて ・・・ 

 

   そうよ ・・・ お家も街も稽古場も なんだか柔らかい雰囲気だったわ

   ええ 今のお家だって好きだけど ・・・

 

   でも でも ね。  空気の色も匂いも味も 全然違ったのよ ・・・

 

      ・・・ 帰りたい ・・・ な ・・・

 

いつの間にか 彼女の視線は遠く・・・ はるか彼方の時に飛んでいた。

 

「 Next !  ・・・ あら あと一人誰? 

「 ! いっけない!  わ わたし の番 ! 」

彼女は慌てて センターに出て踊り始めた。

「 ・・・・ 」

先生は ちょっと首を傾げたが何も言わない。

フランソワーズは 他の三人に合わせて踊り始めた ―  が。

 

   ・・・ あ〜〜?? 次 ・・・ なんだっけ??

   ゆりさん みちゃお。  あ そっか  !

   え? あ あれれ・・・?  え〜〜と??

 

彼女は一人、テンポを外し振りもあやふやで、ぎくしゃくごたごた・・・なんとか踊り終えた。

「 フランソワーズ。 考え事はクラスの後に どうぞ? 」

「 ! す すみません・・・ 

彼女の番が終わったとき 先生は踊りについては何もいわず、ごくさらり、と

言っただけだった  が

 

   ・・・ ううう ・・・ 見抜かれちゃった 〜〜

  

フランソワーズは 真っ赤になり後ろに下がり ― 最後のグループの後ろで

熱心に自習をした。

 ・・・ その朝のクラスは 散々だった。

 

「 はい お疲れ様。 ああ そうそうリハーサルは12時半からね〜〜 

クラスを終え 全員で優雅に挨拶をすると先生は 注目、といった表情で

付け加えた。

「 時間厳守 でお願いね、  今日予定のひと 皆 来てる〜〜〜 わよね?

 フランソワーズ? 目 覚めた?  」

「 は  はい ・・・!!! 」

「 そ? よかったわ。 じゃあ 後ほど・・・ 」

スタジオを見回し ぱちん、とウィンクを残すと彼女は靴音高く

部屋を出ていった。

「 あ〜〜 お疲れ〜〜〜 

「 やれやれ 〜〜 終わったわあ 〜 」

ダンサーたちは てんでに散ってゆく。

「 う〜〜〜 ・・・・ こわ ・・・ 」 

「 フランソワーズ ・・・ ま あんまし気にしない ・・・ってむりかあ 

仲良しのみちよが こそっと声をかけてきた。

「 ウン ・・・ でも自分が悪いんだけど  うわ〜〜 

文字通り 彼女はアタマを抱えている。

「 でもさ どしたの?  フランソワーズ いっつもクラス中、集中してるじゃん 」

「 ううう ・・・ ちょっとアタマ 飛んじゃったのぉ・・・

 ピアノの音、聞いてたら  なんだかいろいろ思い出しちゃって ・・・ 」

「 ふうん まあ そんなコトもあるよねえ ・・・ 

「 しょうがないわよね ・・ううう 」

「 頑張るっきゃないよ 今日 一回目のリハでしょ? 」

「 そ ・・・ 」

「 う〜〜 まあ 健闘を祈るよ ・・・ 」

「 メルシ ・・・ 」

ふう 〜〜 ・・・ 重いため息をつき、重いバッグをもってフランソワーズは更衣室に

向かった。

 

    う 〜〜〜 ・・・ と ともかく頑張らなくちゃ・・・

 

 

カツ カツ コンコン。  スタジオのドアからノックの音が聞こえる。

「 あ ・・・ 開けます! 」

フランソワーズは飛んでいってドアを開けた。

「 お願いします! 」

「 あら 時間前に準備完了ね。 感心 感心♪ 

先生は 笑顔でスタジオに入ってきた。 後ろから先輩が一人ついている。

「 じゃ 始めましょ。  音はまりこがやってくれるって。 」

「 はい。 ありがとうございます、まりこさん。 」

「 はい〜〜 MDは ・・・ 」

「 あ もう入ってます。 」

「 〜〜〜 あ わかりました。 いつでもどうぞ。 」

「 まりこ、お願いね。  フランソワーズ いい? 」

「 はい お願いします。 」

フランソワーズは 着ていたTシャツやらレッグ・ウォーマーを脱ぎ捨て、前にでた。

「 音 でます。 」

 

  〜〜〜 ♪♪  ♪♪ 

 

明るい伸びやかな音楽が流れだし ―  恋する乙女、ジゼル が踊り始めた。

 

  ♪!    ・・・ ハア ハア ハア ・・・

 

ぱっと音が消え 同時にポアントの音も消え ― 踊り手の荒い息づかいだけが残った。

 

「 ・・・ ねえ? どんな気持ちで踊ってる? 

先生は じっとフランソワーズを見つめて聞いてきた。

「 ・・・ え ・・・ き  きもち ・・・? 」

「 そう。 気持ちっていうか 感情 かな。 」

「 え ・・・ あ  あの ・・・ 集中 して ・・・って 」

「 あなた、今 ジゼル を踊ったでしょ? どんな気持ちで 踊った? 」

「 ・・・ あ ・・・? 」

「 あの ね。 このヴァリエーションが踊られる場面、知ってるでしょ 」

「 一幕 ですよね  家の前でアルブレヒト と 」

「 そうよ。   ほら  あなたの好きなヒト そこに居るのよ! 

 そこで見てるの。 どんな気持ちかしら  想像してみて?  

 「 え ・・・ その ・・・   あ。 」

一瞬。 フランソワーズの心の中に優しいセピアの瞳の笑顔 広がった。

 

    え ?  お兄ちゃんの顔が浮かぶ … と思ったのに 

       わたし    ジョーが   そんなに  す   

 

「 ふふふ ・・・ 彼氏の顔が浮かんだかしら? 」

「 え あ  あの  ・・・ ! 」

ぱあ〜〜っと頬が熱くなった。 思わず両手を顔に当てた。

「 わかったかしら。  テクニックがどうの・・・という前にね〜〜

 その気持ち、忘れないで。  ようく研究していらっしゃい。 

「 はい ・・・ 」

「 次回 楽しみにしてるわよ。  じゃあね。 あ まりこ ありがとう 

先生は に・・・っと笑うと 席を立って出て行った。

「 あ ・・・ ありがとうございました ! 

ぺこん、とお辞儀をしたが ぽと ぽと床に散ったのは汗だけじゃ なかった ・・・

「 お疲れ様 フランソワーズさん 

「 あ まりこさん ありがとうございました  ヘタっぴで恥ずかしいです・・・ 」

「 いいえ〜〜  あなた 上手だったわよ? 」

「 え  でも ・・・ 」

「 そうね〜〜 一生懸命 テクニックを追ってた・・・って感じだったけど

 多分 … そこを先生は指摘したかったんじゃない? 」

「 はい ・・・ 」

「 あ ごめんなさいね〜〜   余計なこと 言ったかな〜 

「 い いえ  ありがとうございました  まりこさん 」

「 うふふ カワイイわね、フランソワーズ ・・・ ね がんばって 

「 は はい〜〜〜 」

ひらひら手を振ってでてゆく先輩に フランソワーズはぺこり、とアタマをさげた。

 

     う〜〜〜〜〜〜 ・・・・ どうしよう〜〜〜

 

とりあえず、荷物を全部バッグに詰め込んで 更衣室に戻った。

「 あれ? おわったのお? 」

「 あ みちよ ・・・ ウン ・・・・ まだ見ていただくって段階じゃないみたいで 」

「 え〜〜 なんで??  前にも一回踊ったよね? 『 ジゼル 』 のV. 」

「 でも ね ・・・ ね〜 みちよ どうして踊るの?   」

バッグを放りだすと フランソワーズは仲良しに聞いた。

「  へ?    う〜ん  なんでかなあ〜  ???  そういえばアタシってば

 怒られたり めげたり 落ち込んだり ばっかだよな〜   」

う〜〜ん?? 着替えの手を止めて みちよは真剣に考えこんでいる。

「 ・・・あ ごめん ・・・ 急ぐんだったら 

「 いいよ〜〜 別に ・・・ う〜〜ん?? そうだなあ〜〜

 ま〜・・・  結局 好き だから かなあ〜   アタシ  

「 そ そうよね!  好き だから、って立派な理由よねえ 

「 そうだよね 辛いことのが多いけど ・・・ 結局踊のが好き だから かな 

 フランソワーズは? 」

「 ― あ わたし?  ・・・ う〜〜ん 多分わたしも好き、だから かも 

「 で しょ? ほら〜〜〜 そんならいいじゃない?  皆 同じだよ 多分ね 」

「 そ そう ・・・ ? 」

「 シャワー 浴びといでよ、 一緒に帰ろ。 」

「 ありがとう〜〜 急いで済ませるわね〜〜 」

フランソワーズは タオルを取るとシャワー・ブースに飛び込んだ。

 

    シュワ 〜〜〜〜 ・・・・・  温かい水が心地よい

 

「 こんなシャワー ゆっくり浴びることすらできない日があった なんて ・・・

 わたし自身にも 本当だったなんて思えなくなってる ・・・ 」

透明なお湯を手に受け 彼女はじっと見つめてしまう。

 

    硝煙 と 油 と ・・・ 血の匂いばっかり だった・・・

     生き残るだけで精一杯の日々だったわ ・・・  

 

      また 踊るの!  その望みだけに すがって生きていたわ  

 

 

             今    わたしは・・・・ ?

 

「 フラン〜〜〜〜〜 大丈夫〜〜〜?? 溺れてない〜〜〜 」

どんどんどん。 みちよがシャワー・ブースのドアの外でわめいている。

「 あ!  ご ごめん〜〜〜  今 出る〜〜 」

はっと我に帰り 彼女はあわててシャワーを浴び始めた。

 

 

 

  たったった ・・・・   ゆっくりと坂道を登ってゆく。

 

まだまだウチの門は視界に入ってこない。

はあ〜〜〜  いつもはなんでもない、そして なにも考えずにとっとと歩くこの道が

今日は とても急に感じる。

「 ここ ・・・ わたしの人生 みたい? 」

この道は ギルモア邸にだけ通じる私道だから 舗装などしていない。

皆が日々行き来し、 歩き固めて自然に 道 になっていた。

石ころもあちこちに顔を出しているけれど 道端には春にはタンポポやらハコベが花を

咲かせ なかなかいい雰囲気なのだ。

 

   フランソワ−ズ だって〜  好きだから で踊ってるんでしょ〜?

 

さっきのみちよの言葉が ず〜〜〜っとアタマの中で響いている。

「 わたし ・・・ わたしにとって踊りって  好き だから、だけ?

 わたしの 道 って  好き なだけの踊り なのかしら。 」

 

      それで いいの ?  いいのかしら ・・・

 

登ってゆく足取りが だんだんとゆっくりになり ―  別に足が疲れているわけでも

 なかったけれど ―  最後には 一足 一足 踏みしめるみたいに 彼女は坂道を

辿っていった。

 

「 ― ただいまもどりましたァ〜〜〜 

  カタン ―  玄関のドアを開けると 仄かに香ばしい空気を感じた。

 

     あ ・・・ アルベルトのコーヒーね!

     うふふ〜〜 嬉しな♪

     彼はイヤがるけど ミルクをた〜っぷり入れるともっと美味しいわ

 

「 おお お帰り フランソワーズ・・・ 美味いコーヒーがあるぞ〜〜 」

博士の声がリビングから聞こえてきた。

「 わい♪ 今 行きます〜〜 」

フランソワーズは 大きなバッグを放り出しバス・ルームに手を洗いに行った。

 

 

「 ふ〜〜〜ん ・・・ おいし〜〜〜〜 ♪ 」

「 うむ うむ 〜〜  」

「 日本の冬、 さっぱり晴れた日にぴったりだと思ってね。

 〜〜〜 ドイツで飲むよりも美味いな。 」

三人は のんびりとお茶タイムを楽しんでいる。

ギルモア邸のリビングは ぽかぽか ・・・ 明るい光でいっぱいだ。

「 あ〜〜〜 ・・・ 一口ごとに元気が補充されるみたい〜〜 」

「 なんだ 年寄じみたこと、言って 」

「 だあって〜〜 レッスンはキビシイのです。 」

「 ははは ・・・・ 頑張っておるなあ 」

「 えへ ・・・ 今日のリハは もっとよく考えて って言われちゃいましたけど 」

「 考えナシにできることなどないと思うが? 」

「 そりゃ ・・・ そうだけど ・・・  あ ねえ あのピアノ、どうなるの? 」

「 ちょいと聞いてみたいピアノじゃの。 」

博士にも 大学で出会った < ウィーンの至宝 > については報告してあった。

「 誰も使ってない・・・ なんて惜しいわねえ 」

「 まあ な。  なんとかしたいってあの教授も言ってたが。 

「 そうよねえ ・・・ 今のピアノとはちょっと違う音だった・・・みたい

 ・・・ なんか 優しいのよ、円やかっつていうの? 」

「 ふふん まあ 古風な音っちゃそれまでだが。 」

「 ステキな 雰囲気のある音よ。 」

「 ああ  俺たちが  生きて いたころの  

「 それを伝えてくれるって すごいわね・・・ あのピアノさん ・・・

    わたし  わたしも 優しい躍りが 踊れる  かな  

「 なんだ。 どうしたんだ。  なにかあったのか。 」

カチン。 アルベルトはカップをソーサーに戻した。

博士は黙って 穏やかな表情を向けてくれている。

 

    あ ・・・ ここはわたしのウチ なのよね・・・

    ここには わたしの家族がいるんだわ

 

フランソワーズは 少し躊躇ってから口を開いた。

「 う〜〜ん ・・・ ちょっとね 迷っているの。 」

「 お前は お前の信ずる道を行け。 」

「 アルベルトは? 」

「 俺か?  ああ ・・・ 俺は出来る限り音楽と係って生きてゆければ と思う。

 あんなラッキーなこともあるからなあ 

「 あのピアノのこと? 」

「 そうだ。 ベーゼンドルファを弾ける なんてめったにない幸運なんだぞ。 」

「 ふうん ・・・ それが アルベルトの道 なのか ・・・ 

「 道??  なんだ それ。 

「 あ  ううん  ・・・ ねえ あの道 どう思う? 

「 ?? はあ?? なんのハナシだ? 」

「 だから〜〜 ほら ウチの前の道のことよ。 」

「 ― あ〜  あの坂道か?  まあ 俺たちにとっちゃどうってこと ないだろ。 」

「 そりゃそうだけど ・・・ どう思う? 」

「 ? 別にどうも ・・・ あ あの道も博士のお蔭で道になったわけだろ 

「 どういうこと? 」

「 博士がここに、この辺鄙な場所に邸を構えたから、あの坂道は生まれた・・・というか

 俺たちが通って道になったわけだろ 」

「 ・・・ ああ そうねえ 」

「 ヒトが歩いて道が出来る ・・・ ってことさ。 」

「 ・・・・ 

 

    歩いて ・・・ 歩きながら道をつくってく ってこと ・・・ かしら

 

「 ねえ ・・・ あのピアノさんは どんな道を歩いてきたのかしら ね 」

「 さあ な。 ただ 俺としては価値に相応しい扱いをしてもらえればいいな、と

願うばかりさ 」

「 そう ね 

「 弾いてくれるヒトがあって、弾いてもらってこそ < ウィーンの至宝 > に

 なるんだ。 」

「 そう そうだわね。  弾いて 音を奏でて名器になる のね 」

「 そういうことさ。 」

「 ・・・ 道 と似てるかも ・・・ 」

「 まあ な。  ヒトが歩いて道となるからな。 」

 

      わたし  は? 

      ・・・ わたし、どんな道をつくるのかな

 

突然 セピアの瞳の笑顔が 浮かんだ。

 

      あら また。

      そっか。 

 

        わたし。 あの 笑顔と一緒にいたいんだわ

  

わたしの道は。  ―  あのヒトと一緒に歩いて ・・・道が出来たら いいな。

 

「 なんだ? 突然にこにこして ・・・ 」

「 うふふ ・・・ このコーヒー、美味しいな〜〜って思っただけよ。 」

「 ??  ところで ジョーは遅いのか? 」

「 あら 今日は早く帰るって言ってたわよ?  ・・・あ。 」

 

      いたいた・・・ なあに? ウチのポストの前で・・・

      うふふ  可笑しな人 ・・・ 

 

フランソワーズはこっそり < 見て > こっそり笑った。

 

ぱんぱん。  ジョーが郵便受けにむかって手を合わせる。

「 どうか〜〜 フランに読んでもらえますように。 」

真剣な顔で 彼はそうっと白い封筒を自宅の郵便受けにいれた。

「 大事なコトだから、手紙 書きました。 どうぞ ぼくの気持ち、わかってください。

 ・・・ あの ・・・ 好き です ・・・ 

ぶつぶつ言いつつ ジョーはぺこり、と郵便受けに最敬礼をした。

 

 

     これは ― 二人の後に一本の道ができる、まだまだずっと前のこと ・・・

 

 

 

******************************        Fin.      *************************************

 

Last updated : 12,22,2015.                   back        /       index

 

 

****************   ひと言   **************

これから 二人で歩く のかな〜〜♪

ピアノ云々 は 同窓会の会報から拾ったネタです