『 Puff ( パフ ) ― (2) ― 』
キチキチキチ ・・・ リ − −−−−−
黒暗々 ・・・ なはずの外の闇は 思いのほか明るく
そして 賑やかだった ・・・ とても。
「 え・・・明るいわあ どこか街灯があるのかしら? 」
フランソワーズは きょろきょろと周囲を見回した。
もちろん 街灯やネオン・サインなど あるはずもなく・・・
ただ ふと見上げた夜空は 降るがごとくの満天の星だったのだ。
「 うわ ・・・ すご・・・い 星灯 って本当なんだ?
街灯とかないから 余計にはっきり見えるのね 」
きゅ きゅ きゅ。 カサ コソ・・・・
フランソワーズは ソフト・タイプのスニーカーの足を
細心の注意を払い 進めてゆく。
「 ・・・ この < 音 > は 虫の声?
日本に来て 初めて虫の声って 知ったのだけど・・・
ここまで賑やかだと ちょっと怖いわね 」
歩を進める毎に 虫の音は止むどころか どんどん大きくなってゆく。
車も通らないし 街の喧騒もない地では
それは大音声のおしゃべりであり この世界での主役だ。
「 ・・・ わたし達の暮らす世界とは 違うんだ ・・・
ここは 別世界 なんだわ 勝手に踏み込んでは いけない。
ムカシからの言い伝えって そういうことよね 」
フランソワーズは 沼の側で立ち止まった。
ニンゲンとしての全感覚を 最大限にオープンにして
その音を 光を 香を 肌による感触を 受け止めた。
この地に 入っても いいでしょうか・・・
自然にそんな想いが 溢れてでてくるのだった。
コズミ教授の調査旅行に同行し北の地域までやってきた。
目的の < 湖 > は 鬱蒼とした雑木林の中に
ひっそりと静まり返っていた。
村からはかなり距離があるのだが 生活排水が流れ込み
他の地からの不法投棄なども重なったため、
そこは淀んだ沼になっている。
「 ・・・ 昼間も見たけど・・・ 酷い状態ね。
これじゃ 生物もほとんどいないのじゃないかしら 」
彼女は 慎重に汀に寄る。
草が池の中まで伸び 半ば枯れているので 沼との境界が
判然としない。
ずるり、 と そのまま水の中に落ち込みそうだ。
「 夕方 ぴりり・・・と感じたのは この汚染のせい?
でも そこまで汚れているのかなあ ・・・
院生の皆さんの予想とは違うのかしら。
・・・ なんだか この沼が可哀想だわ 」
とるん。 水面が微かに揺れた。
藻やら苔の生い茂る水底から 竜はじっと ― 水面を見上げていた。
さて 翌日。
昼間 調査旅行の面々は役場関係者との打合せやら
実施調査の段取りなどに それぞれが奔走した。
肝心の沼には 近寄るヒマもなく忙しく日が暮れていった。
カナカナカナ ・・・・ 蜩の声が夕陽を追っている。
北の地域では 夕陽はあっと言う間に西の彼方に沈んだ。
残照はほんのひと時 空を飾るとすぐに 夜の闇に変わった。
「 ふう ん ・・・ ? 」
ジョーは 沼をず〜〜〜っと見渡している。
「 どう・・・? シマムラ君 としての意見は? 」
「 ん〜〜 アルヌールさん 」
「 明日から 計画通り実行しますか? 」
「 それなんですが。 ご相談したいと ・・・ 」
「 はい? では 実際に現場に近づきましょう 」
「 いいですね。 あ 足元、 気をつけて 」
「 おそれいります 」
仕事上のパートナーとして 二人は沼の岸までやってきた。
< 仕事 > だから 共に行動するが 会話にも気を配り
どうみても二人はただの同僚 だ。
「 あ〜〜 院生の方々は? 」
「 皆さん サンプルの分類に没頭よ
あ え〜と ・・・ タナカさん。 あの方が 沼の中をみたいですって。 」
「 ふうん? 潜りたいのかな 」
「 どうかしら ・・・ 数値とかだけじゃなくて 沼に関心が
あるみたいね 」
「 そっか ・・・ 明日の作業に誘おうか 」
「 う〜ん・・・ 普通のヒト ・・・ 潜れる?
装具は予備もあるでしょう? 」
「 あるけど いや いきなりはやめておく。
・・・ ナンかありそうだもの ここ ・・・ 」
「 ・・・ え。 なんか って・・・ なに? 」
「 う〜〜ん よくわかんないけど ・・・ 」
「 ・・・ やだ トラブル はイヤだわ 」
「 そうじゃなくてさ こう・・・ちょっと予感。
明日は とりあえず 状況の検分ってことで。 測量しますって
言ってきた。 ・・・ いいよね? 」
「 あら グッド・アイディアね そう まずは状況の確認よ 」
「 ・・・ で どう? 003さん 」
「 ・・・ う〜〜ん ・・・ ひ どい わ ・・・
水質調査しなくてもわかるわ 」
「 そっかあ 」
「 ・・・ でも潜るんでしょ? 大丈夫? 」
「 あ ぼくを誰だと 〜〜 」
「 うふ シツレイしました 009さん 」
「 ふふ わかっていればよろしい。
少し遠くから見れば 深い緑の水面が魅力的とも言えるなあ 」
「 そう ね・・・ ああ 『 ジゼル 』 の二幕、
あの沼もこんな感じだったのかしら・・・
・・・ なんだか ヒトを誘う雰囲気ねえ 」
踊りたくなっちゃうわ・・ と 彼女は ジゼル の二幕
ウィリ―の女王ミルタの最初のステップを踏んだ。
「 ・・・ 愚かな人間よ! 真夜中にやってきたのなら
死ぬまで踊らせて 沼に引きずり込んでやる ・・・! 」
「 ひゃ ・・・ おっかな〜〜〜い ・・・
ごめんなさ〜い 騙すつもりじゃなかったんですゥ〜〜 」
「 オトコは皆 身勝手な存在 ・・・
さあ 踊れ! 目が眩むまで 息が絶えるまで ! 」
バサ ・・・!
ミルタ、 いや フランソワーズは枝を拾って大きく振るう。
「 ちょい フラン〜〜 乗り過ぎ・・・ 」
「 えへ ごめんなさ〜い なんかすごく魅惑的な沼なんで
ついつい・・・ ああ 本当にこの沼はヒトを誘うわ 」
「 え そうかなあ ・・・ ぼくにはこう〜〜〜
ナンかが じ〜〜っと沼の奥から見つめている って気がするけど 」
「 やだ・・・ 妖怪 とか? 」
「 いや もっとこう・・・ スピリチュアルな存在・・・
なんか こう〜〜 ヒトの良心 とか 心の声 とか 」
「 そう? ・・・ ナンかヤマシイことでも おあり? 」
「 え なんで 」
「 なぜならば ですね〜 ここは 見るヒトの心の奥を写す沼 ・・・
アナタのココロの鏡です 」
「 へえ〜〜〜 いつからそんな < 伝説 > ができたんだい 」
「 うふふ たった今〜〜 」
「 では 伝説・その二 魔法の沼は 見るモノを惹きつけ
ひっぱり込む。 逃れるためには ― 」
「 ためには ・・・・? 」
「 方法は 一つ。 」
「 なに なに?? 」
「 それ は ― 」
「 あ ・・・・ ん〜〜〜 」
ジョーは 腕を伸ばし彼女を引き寄せ ― 二人は唇を重ねた。
短い時間 ・・・ でも 深く 熱く。
・・・ ん ・・・
は あ ・・・ 身体の奥が
あ つ い ・・・ !
「 ・・・ も う ・・・ 」
「 ふふ ・・・ 沼の魔法に勝ったかな 」
「 うふ・・・ ジゼル が アルブレヒトを護ったように? 」
「 そ。 ぼくだってそのくらい 知ってるぞ 」
「 いいえ 余計に魅かれてしまうわ 」
「 え? 」
「 だって 身体が熱いもの。 冷やさなくちゃ ちょっとだけ・・・ 」
「 あ ・・・ おい 」
フランソワーズは ジョーから離れると沼に近寄った。
「 少しだけ もう一度確かめたいのよ 」
「 ??? 」
フランソワーズは汀にしゃがみこみ 水面に手を延ばした。
「 あ ・・・ あぶな ・・・ 」
「 大丈夫。 境界は < 見てる > から 」
ぽちゃ ・・・ 淀んだ面が少しだけ 揺れた。
「 ・・・ ん !」
彼女は 顔を顰めると急いで手をひっこめた。
「 ― やはり? 」
「 ・・・ 水が ・・・ 噛みついてきた わ 」
「 噛みついた? 」
「 ええ そんな衝撃を受けたわ 」
「 指の皮膚は? 損傷なない? 」
「 ん〜〜〜〜 ・・・ 損傷ナシ。 表面はすこし赤くなったけど
今 深部を見たけど 有毒なものの浸潤は認められないわ。 」
「 よかった・・・! けど ここの水は なんなんだ? 」
「 院生の方たちの分析結果 待ち遠しいわね 」
「 そうだね まあ その結果を聞いてから潜る算段をしよう。 」
「 それがいいわ。
・・・ ねえ ここ・・・ 本当に静かね。
それに とても大きな沼だわ ううん 淀んで岸辺が浅くなって
しまったけれど 本来はかなり大きな湖だったみたいね 」
「 うん。 それに水深も国土地理院の地図の数値は 一応の目安
みたいだな。 < 底 > なんてあるのか?? 」
「 やはり 伝説みたいに 底なし沼 なのかしら 」
「 おそらく ・・ でも水底のカタチも判然としてはいない 」
「 ふうん? あ これが資料ね 」
「 そう ・・・ こっちのが詳しいかな 」
二人は タブレット端末を覗きこみつつあれこれ検討をしている。
カサ カサ カサ ・・・・
枯草を踏みわける音がした。
「 ? ≪ 誰かくるわ ≫
≪ ん ・・・ 一人だ。 ≫
≪ ・・・ あ 院生の方よ お顔を覚えているわ ≫
≪ そうか ≫
二人は一瞬の交信で状況を見て取った。
カサ。 足音は 二人の後ろで止まった。
「 やあ ・・・ こんばんは 」
黒髪の青年が ごく自然に声をかけてきた。
「 !?! わあ〜〜 驚いたあ〜〜 」
ジョーは とても驚いた顔で振り向き ― すぐに笑顔を見せる。
「 あ ああ〜〜 えっと・・・ タナカさん でしたよね? 」
「 ・・・ 島村クン 〜〜 ああ わたし
心臓ばくばく〜〜〜 」
「 あはは アルヌールさん 案外恐がりなんですね〜 」
「 え ・・・ だってちょっとここは雰囲気が出来上がりすぎだわ 」
「 あ〜 そうかなあ・・・ フランスの方でもこういう雰囲気、
なにか出そう〜 って思いますか? 」
「 あ わたし ずっと日本で育ったので・・・ 」
「 彼女 中身は日本人なんですよ 」
「 ああ そうなんですか。 日本語がお上手だなあ って
感心してたんですけど 」
「 日本育ちですから ・・・ ここはちょっとぞくぞくします 」
「 そっかなあ〜〜 」
タナカ氏は 少し残念そうな顔で 沼を見渡している。
「 えっと・・・ タナカさん サンプル、収集ですか? 」
ジョーは さりげなく話題を変えた。
「 ああ いや ・・・ 沼を見にきたんです。 」
「 は あ・・・ 」
「 僕は ずっとこの沼に来たかった ・・・ ずっと 」
「 あ 学術的に関心があったんですね? 」
「 それも ありますが
あの 僕は! 小さなジャッキー になりたかったんです 」
「「 小さなジャッキー ??? 」」
ジョーとフランソワーズは 思わず声を揃えてしまった。
タナカ青年は ちょっと頬を染めた。
「 あは なんか 恥ずかしいかな ・・・ でも! 」
「 で でも?? 」
「 ええ。 島村さん こんな歌 知りませんか?
僕は 音楽の授業で習った記憶があるんだけど 」
ぱふ ざ まじっく どら〜ごん〜〜〜 ♪♪
彼は低い声で フォークソング風のメロディを口ずさんだ。
「 ・・・ あ 〜〜 なんか聞いた覚え、ある かなあ
なんか 悲しいラスト じゃなかったですか 」
「 そうなんです。 パフのトモダチは 去ってしまうんです。
でも ・・・ 僕はパフと、竜と ずっと一緒にいたい。 」
「 ・・・ 竜?? 」
「 そうです。 これは別な話なんですが 」
ガサゴソ。 彼はポケットからスマホを出した。
「 スマホにアップしてあるんですが・・・
これ 古いモノですけど 読めますよね 」
「「 え ・・・ 」」
ジョーとフランソワーズは タナカ青年のスマホを
覗きこんだ。
その画像は −
すこし黄ばんだ大学ノートに 万年筆で書いたのであろう
文章が 綴られている。
きっちりした文字と的確な表現に 高い知性と明確な意志を
感じ取ることができた。
タイトルは 竜神沼 覚書 と記されている。
「 わあ これ 手書きなんだあ 」
「 ・・・ ジョー ・・・ それが普通だったのよ 」
「 あ すいません ・・・ 」
「 あは いいんです。 だってこれ 僕のお祖父さんが
若い頃に書いたものなんです。 もうぼろぼろで・・・
最近 スマホに保存しました。 」
「 これ ・・・ お祖父さまがお書きになったのですか 」
「 たぶん。 僕がまだ子供のころ 祖父は亡くなってしまって
直接話を聞くことはありませんでした。
でも ・・・ 僕 中学生の頃 祖父の書棚でこれ・・・
『 竜神沼ノート 』 をみつけました。 」
「 すごい ・・・ お祖父さまは どこにお出かけだったのですか? 」
「 実名はどこにも書いてないのです。
でも 親戚筋が東北の方にいましたので たぶん こちらでしょう。
山の中の沼・・・ 村の伝説の祭に行った時のことらしいです。 」
「 わあお ・・・ あ 読ませてもらってもいいですか? 」
「 勿論! 僕は いつかこの沼に行きたい と思い続け・・・
この道に進みました。 今までも 休みのたびに 方々の小さな湖やら
沼を巡ってきたんです。 」
「 ・・・ まあ ・・・ あら 可愛いらしい・・・ 」
フランソワーズは ページを繰りにっこりしている。
村の祭風景の写真がでてきたのだ。 浴衣をきた少女がお澄まししている。
「 ああ ・・・ 遠縁の従妹さん かな ・・・ 可愛いですよね
仄かな初恋 かな 」
「 ふふふ そんな感じ ・・・ 」
「 その沼で 祖父は竜神さまと出会ったんです。 」
「 え ・・・ 竜神さま? 」
「 ええ これは絶対に夢や幻ではないから・・・って
彼はこれを記したのだ、と書いています。 」
「 なるほど・・・ 」
それは タナカ氏の祖父の日記にも似た 一種の覚書 だった。
克明な描写は 読むモノをぐいぐい引きこんでゆく。
「 初めて読んだ時 すごいショックで ・・・
あは ちょうど思春期真っ只中だったせいもありますが。
そして たまたま、の パフの歌を習ったんですね 」
「 あ〜〜 ぼく 思い出したですよ〜〜
ぱふ ざ ま〜じっく・どら〜ごん〜〜〜〜 」
ジョーが 楽し気に歌いだした。
「 そうそう! それです 」
「 英語の時間に歌ったかなあ ぼく トモダチとかあまり
いなかったから パフと会いたいなあ と思ったなあ 」
「 へえ ・・・ そうなの ・・・ 」
「 ウン 楽しいメロディだけど 淋しい歌詞なんだ
ああ でも ホントに竜神さま はいるのかも ・・・
」
ジョーは 改めて静まり返った水面に視線を飛ばす。
「 どうでしょう ねえ 」
タナカ氏は 静かに眺めている。
どこかに この沼はきっとある!
そして 竜神さまはいるんだ!
僕は 絶対に ちっちゃなジャッキー・ペイパー には
ならない ・・・!
それは タナカ氏がずっとずっと心の奥に堅持している決心なのだ。
ふ・・・っとため息を吐くと 彼は二人に微笑みかけた。
「 竜神。 ま これは仮定ですからね ・・・
明日からの調査、宜しくお願いします。 」
「 あ こちらこそ。 潜水してできるだけ詳しく
調べたいと思います。 」
「 こちらこそ 宜しくお願いしますね 」
「 ああ 星がキレイですね ・・・ 」
「 ええ ・・・ 本当に ・・・ 」
「 あは 手、伸ばしたら 取れそう ・・・ かなあ 」
「 わたしね、 あのミルキィ・ウェイ の中を歩いてみたいの。 」
「 え〜〜〜 歩くぅ? 」
「 そ♪ ざくざく〜〜 って音がするかも 」
「 あはは ・・・ フランらしいなあ 」
「 星になれるのなら 」
タナカ氏が ぽつり、と言った。
「 え? 」
「 ・・・ 竜を 天 ( そら ) に上げたい ・・・
こんなにたくさんの星座があれば 竜も淋しくないだろうな 」
「 星になる か ・・・ 」
「 ・・・・・ 」
ジョーの言葉は重く フランソワーズは黙って彼に寄り添った。
「 ああ それにしても。 素晴らしい星空ですね
ニンゲン なんて ちっぽけなもんだ 」
タナカ氏の言葉に 二人は深くうなずく。
三人は まさに降るがごとくの星空に見惚れていた。
とるん ・・・ 水底がほんの少し揺らいだ。
「 ・・・ 」
竜は 首を擡げずっと水面を見ている。
「 あのひと と よくにてる 」
竜は ずっとずっと見ているのだ。
そう 茶髪の青年が この地に来てから。
「 にてる・・・ あのヒトと。 かみの色がちがうだけ 」
「 あのヒト ・・・ かもしれない。
もうずいぶんたつから かみの色がかわったのか ・・・ 」
とるん。 竜が尻尾を振ったので 水がまた揺れた。
「 あのヒト ・・・ またきてくれたのか ・・・
」
竜は長い首を胴体に沈め 思い出を手繰る。
・・・ あれは いつだったか・・・
あの青年とよく似た黒髪の少年と出会ったことがあった。
あの頃 − 沼の近くに ニンゲン達が住処をつくっていた。
沼の水面に きらきら太陽が当たるころ 奴らは沼の周りで
なにやら 騒いでいた。
「 ・・・あ? 」
なにか黒い意志を感じ 竜は首を持ち上げた。
「 ・・・ ここを 汚すのはゆるさない 」
とん・・・! 竜は岩を蹴り水面にむかった。
― そして あのヒト と出会った。
黒い髪に 大地の色の瞳。 この地のものではなかったけれど
この地への愛は十分に感じられた。
「 だめだ。 きみが そんなことをいってはいけない 」
あのヒトは そう叫び必死に止めてくれた。
「 きみ が − そんなコトをしては ・・・ 」
「 ・・・ 」
あの時 竜はもっていた百合の花を 落としてしまったことを
覚えている。
あれは いつのことだっただろうか ・・・
あのヒトとよく似た茶髪の青年を 竜は沼の底からじっと見ている。
翌日 ―
沼を前にして コズミ・ゼミのメンバ−達は期待を込めて
水面を見つめている。
集合時間にはまだ間があるのだが のんびりなどしていられない。
誰もが もうわくわくする気持ちではち切れそうだ。
トクン・・・ とくん ・・・
眠っていたみたいな沼が 少し揺れている。
「 あ ? 水面が・・ 波 じゃないよな 」
「 ・・・ これは 天候のせい かなあ 」
「 うん 気圧の関係 かもしれないね 」
院生のヒト達は 空模様も気になっているらしい。
「 今日は この先の村は 祭り なんだってね 」
「 ああ ああ 聞いた。 だから あまり沼を怒らせるなって
あの爺さんが言ってたぞ 」
「 沼を怒らせる?? 」
「 まあ 入ったり 潜ったりするなってことだろ 」
「 う〜〜ん ・・・ 」
「 あ コズミ教授 」
コズミ博士が のんびりと宿舎から出てきた。
「 やあ 諸君。 フィールド・ワークを始めようか 」
おはようございます − ゼミのメンバーたちは声を揃えて挨拶をした。
「 うむ なかなかいい日より、といいたいところだったが
ちょいと・・・ 空模様がアヤシイなあ 」
「 はい。 でも先生、 Web上の予報では 晴れ なんです 」
「 ふむ? 」
「 局地的な雨雲 ですかねえ 」
「 ふ〜む。 まあ しかし調査に支障はあるまい 」
「 ですね。 ああ なでも 村では祭の日には必ず天候が
崩れるそうですよ 」
「 ほう〜〜〜 御祭は 雨オトコ か 」
「 いやいや 竜神さまが雨を呼ぶって言ってました 」
「 ふうむ・・・では 早めに始めようか 」
「 そうですね あ 準備は完了しています。 」
「 ありがとう。 あ 島村君 それでは 」
「 はい。 」
潜水用のスーツを身につけ ジョーが進み出た。
「 アルヌールさん 記録 頼みます 」
「 はい。 任せてください。 」
「 では 打ち合わせ通り 中央の真下に潜ります 」
「 よろしく頼みますよ 」
「 はい 」
ジョーは すたすたと進み 沼の中に入ってゆき
− やがて 水面下にその姿を消した。
≪ ジョー ・・・ どう? ≫
≪ ・・・ うん ・・・ 深度下げる。
あれ どんどん 水が澄んできた ・・・ ≫
≪ まあ ・・・ わたしには見えないのだけど ≫
≪ ・・・ 不思議だ ・・・ 別世界だ ・・・ ≫
ピカッ ! がらがらがら ド −−−−−− ン !!
突然 頭上で稲妻が走り 雷鳴が轟いた。
「 !? うわ〜〜〜 なんだ 急に 」
「 空 ・・・ 真っ暗だ ?? 」
・・・・ ザ ・・・ ―――――― 〜〜〜〜〜 !!!!
雨粒が落ちてきた、 と思ったらいきなりバケツをひっくり返したように
雨が降ってきた。
「 うわああ〜〜〜 機器類を持って入れ〜〜 」
「 うっそだろ〜〜〜 嵐 なんて天気予報で言ってたかあ 」
「 待って・・・ あ〜〜 ピンポイントで雷雲がでてる 」
ぐしょ濡れになりつつ慌ててスマホを確認するモノもいる。
「 落雷の危険がある。 宿舎に戻ろう 」
「 ダメだよ 今 潜水してる・・・ 」
「 諸君らは 機器を持ってゆけ。 ワシが残る 」
「 コズミ教授 ・・・ 」
「 わたくしも 残ります。 皆さん 避難してください 」
フランソワーズは 毅然として院生たちを押し戻した。
≪ ジョー ・・・ どう? 外は突然の嵐よ ≫
≪ え?? 中は 平穏そのもの さ ・・・ ≫
≪ まだ 潜れる? ≫
≪ 勿論。 あ 上 は大丈夫? ≫
≪ 隣にいるのは コズミ博士だけ よ ≫
≪ そっか 好都合かも ≫
≪ ええ で どう? ≫
≪ うん ・・・ 中は信じられないほど 水 澄んでる ≫
≪ ・・・ だめだわ。 眼のレンジを最大限にしても
見えない ・・・・ なぜ?? ≫
≪ う〜〜ん ・・・ 水もね そんなに冷たくはないんだ。
ああ 小魚とか いっぱいいるなあ ・・・ ≫
≪ え あの水面付近からは 信じられないわね ≫
≪ うん ホント 別世界 ≫
≪ ふうん ・・・ 今 水深は ≫
≪ えっと ・・・ えっ???? ≫
≪ ?? どうしたの ジョー ?? ≫
ザ ・・・・・・・・
突然 ジョーからの脳波通信は受信不能となってしまった。
≪ ジョー?? ジョー どうしたの???
ジョー 〜〜〜〜 応答して 〜〜〜〜〜〜〜 ≫
サ −−−−−−−−−−−− ・・・・・
夏とは思えない冷たい雨が 汀のフランソワーズに落ちてきた。
ジョー −−−−−−−−−−− !!!!
Last updated : 08,25,2020.
back
/ index / next
*********** 途中ですが
え〜っと ・・・・ 御大の名作は 『龍神沼』 です。
あれを読んでないと なんのこっちゃ?? かもな〜〜
あ ラストは どこおち じゃないですよお (*_*)