『 Puff ( パフ ) ― (1) ― 』
・・・ そこは いつからか泉が湧きでていた。
太古の昔 まだ動物たちは遠慮がちに地上を這いずったり
木の上に隠れたりしており 夜になると密やかに水を飲みにきていた。
気候が変わり 雨水が溜りそのまま凍り付き 何百年も固まっていた
こともあった。
そして いつしか ― 小さな竜が棲みつくようになった。
どこから来たのか 仲間が居るのか 竜自身にもわからない。
ただ竜はその大きな水溜りを棲み家とし 悠々と泳いでいた。
ケモノ達の顔ぶれが変わり 周囲には木々が鬱蒼とした緑の闇をつくり
水溜りは どんどん広く そして 深くなっていった。
雨季には 降り注ぎ溢れんばかりな水を溜め 氾濫をふせぎ
乾季は 獣や鳥たちのオアシスとなっていった。
竜は 水底近くの祠に棲み 日に二度 湖の中を泳ぎ回り
小さな生物や サカナや 生い茂る植物たちと 戯れていた。
水溜りが その澄み切った水面が広く空を写すようになった頃、
二本脚で歩く動物 がやってきた。
最初 おどおどと水辺に寄っていたが やがて少し離れた場所に
まとまって暮らし始めた。
奴らは どんどん増えてゆき 棲む地域をずんずん広げていった。
竜は 広大な水溜りの中から 静かに眺めていた。
― そんなある日 ・・・
「 〜〜 ※※※ △▼ ◎〜〜〜 」
奇妙な声に 竜は水底からじっと水面を見上げていた。
やがて。 ざぶん と水面が割れて なにかが放り込まれた。
「 ?? 」
びっくりしている竜の前に 白装束の娘が沈んできた。
「 ・・・・? 」
竜は そっと娘の側に寄ったが 娘はすでに息絶えていた。
仕方ないので 竜はその亡骸を水底のさらに下の岩盤の中に
納めてやった。
こんなことが 結構頻繁に起き始めた。
竜が そっと水から上げ逃がしてやった娘も いた。
汀にはオトコが必死の面持ちで 水の中を探していたから。
「 ・・・・・ 」
娘とオトコは 何回も竜にアタマをさげると 故郷を捨てていった。
「 このまま 死なせて 」 と泣く白装束の娘は 水底に誘い
赤い鯉に変えてやり 池のヌシの息子の鯉に 託した。
彼らは 数多の子や孫に恵まれ 今も季節毎に挨拶にやってくる。
小さな女の子が 落ちてきたこともあった。
竜を見ても恐れたりせずあどけなく笑う子で しばらく一緒に暮らした。
しかし 彼女はいつしか水に溶けて消えてしまった。
楽しい日々だったのに・・・
ああ ずっと 一緒に居たいものだ
そんな存在は ないものだろうか
竜はそんなことを考えていた。
やがて 白装束の娘が投げ込まれることは とんと無くなった。
その代わり なにやら汚れたモノが流れ込み始め
水溜りの水の透明度は 急速に下がっていった。
水は 淀み 不機嫌な色に染まってしまう。
共に泳いだ魚たち 語り合った亀たちは 姿を消していった。
「 ・・・・ 」
竜は くぐもった藻の中に潜み 濁った水をじっと眺めていた。
***************
「 ようこそ いらっしゃいませ コズミ先生。 」
フランソワーズは 玄関で思わず声を上げた。
平日の午前中、 予期せず鳴った玄関チャイムに
彼女は少しばかり緊張して玄関に出た。
・・・ 誰 ・・?
宅急便や郵便屋さん は こちらで登録済み よね・・
ギルモア博士のお帰りは夕方のはず。
彼女は そっと小型モニタを覗いた。
「 ・・・ あ あらあ〜 」
小さな画面には 白髪の老紳士がにこやかに写っている。
「 やだ 登録していなかったかしら・・・ 」
はあい ・・・ と 彼女は 大きく声を上げセキュリティを解除した。
「 ふうむ ・・・ ここはいつも気持ちよいですなあ 」
コズミ博士は リビングのソファににこやかに収まっている。
ジョーが 二階から駆け下りてきた。
「 いらっしゃい〜〜〜 コズミ先生! お待ちしてました。
あ そうですかあ? いっつもごたごたしてて・・・
あのう 先日、メールを頂いた件ですよね? 」
「 ご名答〜〜
実際に会って話し合ったほうが 手っ取り早いと思ってなあ
こんな時間に 来てしまったですよ 」
「 あ〜〜 そうですよね! ぼくもその方が嬉しいです。
あの調査に付いて ですよね 」
「 左様。
あのなあ〜〜 これはピュンマ君向きの仕事じゃと
ギルモア君に頼んだのじゃが ・・・ 」
「 あ〜〜 すいません〜〜 アイツ いろいろ・・・・
国元で忙しくて・・・ 来日はちょっと無理って言ってきて 」
「 あ〜 申し訳なかったのう〜 」
「 いえいえ ピュンマ、声をかけてもらえて嬉しいですって。
こちらの都合で参加できなくてとても残念です だそうですよ 」
「 おお おお そうかい・・・ では次回は是非・・
ということで ジョー君、 君に依頼したいのじゃが 」
「 あ いいですよ〜 ピュンマほどじゃないけど
ぼくもある程度の深さなら 装具とかナシで潜れます。 」
「 ありがとう〜〜 そんな深部ではないんじゃが・・・
なにせ < 伝説の底なし湖 > なんじゃよ。
実際には ほとんど沼化しておってな・・・
その湖の浄化と活性化のための調査 ということなんじゃ 」
「 へえ〜〜 面白そうですね!
あれ でも どうしてコズミ先生が? ご専門とは 」
「 そうなんだが ・・・ ワシが開発した環境整備用の
浄水装置、 それに関心をもってもらってなあ
研究の助成をしてくれておる自治体なのじゃよ 」
「 へ え・・・ すごいですねえ 」
「 公的支援を受けている、ということは 一種の信頼に証にも
なるんじゃなあ ・・・ 特にこう・・・ 地方では 」
「 あ そうですね 地元の協力も得やすいでしょう? 」
「 そうなんじゃよ〜〜
それじゃ・・・ ジョー君はワシの研究室の技術者 という
ふれこみで ― 今回の調査に同行してくださるかの 」
「 はい! 喜んで。 水質調査の方法とか 論理、勉強して
おきます。 ・・・ えへ 技術者 かあ 」
ジョーは なんだか嬉しそうだ。
カチ カチャ カチャ・・・
フランソワーズが お茶のワゴンを押してきた。
「 コズミ先生 どうぞお楽になさってくださいませ。 」
「 おお お嬢さん。 お邪魔しておりますよ 」
「 あいにく ギルモア博士がお出かけで・・・ 」
「 ああ どうぞ 気になさらんで・・・
本日は ジョー君と会うのが目的でしてね 」
「 まあ そうですの? あ どうぞ・・・冷たいお煎茶です 」
露を結んだグラスが 博士の前に置かれた。
イグサを編んだコースターを敷いている。
「 おお これは美味しそうですな 頂きます 」
コズミ博士は 無造作ながら実に滑らかな動作で グラスを傾ける。
「 ・・・ すげ・・・ 」
「 すてき ・・・! 」
「 ・・・? なんですかな? 」
視線を感じたのか コズミ氏は手を止めた。
「 あ あ い いえ〜〜 」
「 え ええ なんでも ・・・
あ この夏はどちらかへ お出かけですか? 」
しげしげと見ていた、 とは言えず フランソワーズは
慌てて話題を変えた。
「 あ〜 実にそうなんじゃよ。 ちょいと・・・ 北のほうに
フィールド調査 というか 実地調査にでます。
今回は ジョー君に助手をお願いして なあ? 」
「 え へ そうなんだ。 ぼく コズミ先生の調査旅行に
参加するんだ。 」
「 まあ いいわねえ〜〜 ねえ わたしも行きたいわ
食事担当 とかで 参加できません? 」
「 フラン〜〜〜 それは ・・・ 」
「 お〜〜 いいですなあ
まあ しかし 参加者が彼女連れ といのは そのう・・・
口さがない連中は あれこれ・・・いいますから 地方では・・・
お嬢さんは ワシの秘書、というか 大学の助手、という形で
ご参加願いましょうかな 」
「 え? い いいのですか?? 」
「 勿論ですじゃ 」
「 きゃあ〜〜 ・・・ あ シツレイしました・・・
大学の助手らしく! 振舞います。
ご迷惑は 掛けませんわ。 」
「 ふぁ ふぁ ふぁ ・・・ そんなに無理せんでいいです。
フランソワーズさん いつも通りで 研究室の助手さんを
してくださらんか
」
「 はい!! わあ〜〜 わたし ・・・ 出来れば
大学院、行ってみたかったんです。
あ ちゃんと水質調査については 勉強しておきます。 」
「 おお それはありがとう。 では ワシの研究室のHPを
お教えしますからな〜 お暇でしたら 覗いてみてください 」
「 はい!! 」
「 ・・・ なんか おっかない助手さん ・・・ 」
「 え? なあに ジョー?
」
「 いえ なんでもナイデス 」
「 ふふふ ・・・ あ コズミ先生? 予定など
お決まりでしたら お知らせください。 」
「 了解ですぞ。 」
「 どうぞ宜しくお願いいたします。 」
「 こちらこそ、です。 」
こうして 夏休み?調査旅行 が決まった ・・・
夕刻 ギルモア博士は 帰宅した。
「 ・・・ やれ ただいま 」
「 お帰りなさい ! お疲れさまでした。
博士〜〜 あの ですね〜 お留守中にコズミ先生が
見えました! それで 〜〜 」
ジョーは玄関に飛び出し、息せき切って話し始めた。
「 はああん? なんじゃな 」
「 ええ それが 」
「 お帰りなさい 博士。 ジョーってば玄関で・・・
博士はお疲れなのよ? 」
慌ててでてきたフランソワーズが 助け船を出してくれた。
「 あ・・・ すいません〜〜 荷物、持ちます! 」
ジョーは 博士の鞄を受け取り フランソワーズはスリッパを揃えた。
「 ああ ありがとうよ 」
「 お疲れでしょう? お風呂 沸いてますわ。
それともお食事になさいますか 」
「 ふう・・・・ そうじゃのう ・・・
まず 荷物を置いて ・・・ そうさな、ひと風呂浴びてくるか 」
「 はい わかりました。
ジョー? 博士のスーツケース、お願いね。 」
「 あ うん ・・・ 博士〜〜 持ってゆきますね〜 」
「 おお ありがとう 助かるよ 」
「 カルい カルい〜〜 」
ひょい、と持ち上げると ジョーはスタスタ・・・ 博士の書斎に
向かった。
「 ふう やれやれ・・・ やはり我が家が一番、じゃな。 」
「 ふふふ お風呂 どうぞ? 」
「 やれ ありがたや・・・ 」
博士は 案外軽い足取りでバス・ルームへ消えた。
「 ・・・ お疲れのようね。
ハーブ・ティ でも用意しておきましょうか 」
フランソワーズは キッチンへ急いだ。
「 ほう そうか それはなかなか興味のある事案じゃなあ 」
ギルモア博士は にんまり・・・して頷いた。
夕食後 ジョーは待ってました! とばかりに
コズミ博士からの依頼の件を しゃべりまくった。
途中 フランソワーズが適切な補整を行ったので
博士は 想像力を駆使しつつコトの全貌を理解したのだ。
「 はい! ぼく 調査旅行っていうか そういうの
初めてなんです。 なんかわくわくしちゃいます 」
「 まあ フィールド・ワークは いろいろ ・・・あるからなあ 」
「 いろいろ? ・・・ アクシデント ということですか? 」
「 大なり小なり異変は付き物だろう?
天候ひとつをとっても 全行程好天とは限るまい 」
「 あ そうですよねえ〜〜 台風とか くるかなあ? 」
「 ま その判断は主催者側に任せればよいさ。
学部のフィールド・ワークなのかな 」
「 いえ・・・ 参加されるのは院生の方々ですって。
コズミ・ゼミのメンバーだそうですよ 」
「 ほうほう それはますます興味深いのう
コズミ君の 浄水装置はおそらくほぼ完璧に近いじゃろう 」
「 え 博士 ご存知なのですか? 」
「 いや? ワシはそちらの方面にはとんと暗くてな・・・
しかし 彼の仕事にミスや欠陥は ほぼない。 」
「 すっげ〜〜〜 」
「 いや その < ほぼ > を < 完全に > にするために
彼は 実地調査にゆくのじゃろうよ 」
「 ・・・ 責任重大ですね! わたし達 ただのお手伝い
じゃすまないです 」
「 ふふふ 頑張ってくれたまえ。 有意義な夏になるぞ 」
「「 ・・・・ 」」
ジョーとフランンソワーズはこっくり、頷いた。
そんな二人を前に 博士は目を細めている。
お。 二人とも いい表情をしておる ・・・
この顔は ワカモノの特権じゃなあ
・・・ 少々 コズミ君が羨ましい かな
「 で、博士。 お願いがあるのですが 」
「 なんじゃな 」
「 そのう・・・ 調査潜水に使う作業着なんです。
そりゃね ぼくらの防護服は万能で最適なのはわかっていますが・・・
・・・ そのう〜〜 あの色彩だと ・・・ 」
「 ああ 田舎では目立ちすぎる な。 」
「 そうなんです! ・・・ 特撮モノのロケか? って
言われてしまいそうで 」
「 ふふん ・・・ それで 新しく誂えろという訳じゃな? 」
「 ええ まあ〜 そんなトコで・・・
博士なら 防護服に近い機能をもった作業着を開発できる と・・・ 」
「 おだてたってだめじゃ 」
「 え〜〜 でも 博士〜〜〜 お願いしますぅ〜〜
普通の潜水用のスウィム・スーツだと
あ〜〜 ぼくには動きにくいかな〜って 」
「 そうねえ・・・ というか ジョーってば
すぐに破きそうよ 」
「 ・・・ 言えてる かも ・・・
そりゃね 普通の湖程度なら 素で潜れますけど
ちょいとマズいですよね? 今回は 特に 」
「 うむ ・・・ ちょいと考えてみよう 」
「 わあ〜〜〜い♪ 」
「 ジョー ちょっと手伝って。
裏の井戸水で 葡萄を冷やしてあるのよ 」
「 え 葡萄?? 紫の? ますかっと? 」
「 いろいろ。 ジュエリーボックス というのですって
いろんな葡萄の < 詰め合わせ > みたいなの。
あんまりキレイなので 買ってきちゃった 」
「 わ〜〜〜 ぼく 葡萄 だいすき! 」
「 よかったわ〜 それでね あまり冷やし過ぎない方が
美味しいって書いてあったの。
だから 冷蔵庫に入れないで 裏の井戸のお水に
浸けてみました。 」
「 わお〜〜〜 今 とってくるね! 」
「 お願いします。 ガラスの器、 だしておくから 」
「 了解! 」
ジョーは キッチンの勝手口から飛び出していった。
「 ほう 裏の井戸を活用しておるのじゃな 」
「 はい。 今の季節、井戸のお水、とても冷たいのです。
なんだか こう・・・ 丸い感じのお水 ・・・ 」
「 まるい? ほう 面白い表現じゃな。 」
「 水道の水は きっちりきっかり角がある感じ・・・
ええ 清潔で素晴らしいですけど ちょっとキツイかな。
井戸の水は 丸いんです、秘密のエッセンスでも
入れてあるみたいに 」
「 なるほど なあ〜 フランソワーズ、お前の感覚は繊細じゃな 」
「 井戸のお水、好きです。 直接は飲みませんけど
いろいろ・・・使っています 」
「 うむ うむ ここはほんに豊かな土地じゃな 」
「 ええ ・・・ 」
ぱたぱたぱた −−−− ジョーが戻ってきた。
「 はいっ! いい感じに冷えてるよ〜〜〜 」
「 わあ 光ってるみたい・・・ じゃ 大きな器を使いましょ 」
「 これは ・・・ 美しいのう 」
その晩のデザートは その名の通り宝石の如く輝いていた。
ジョーが特別に < お願い > した潜水用の作業着も
無事に出来上がり 二人はコズミ博士とあれこれ打合せのを日々を送った。
ジョーもフランソワーズも 滅茶苦茶に張り切っていた。
「 へへ ぼく、こういう旅行って初めてなんだ〜〜
修学旅行にも行ってないし・・・ 」
「 院生の方達のゼミって ものすごく興味があるの。
水質調査も とても興味深いわ。 」
「 ・・・ ムズカシイ? 」
「 細心の注意力と集中力が必要ね。
ジョー 沼に潜るのでしょう?
沼の環境に影響を与えては だめよ。 わたし達は調査に行くのよ 」
「 あ ・・ あ〜 そうなんだね 」
「 これ・・・ ちゃんと読んでおいて。 」
フランソワーズは 分厚い冊子を渡した。
コズミ・ゼミで使われている < 水質調査・概論 > である。
「 う わ ・・・ すげ 」
「 コズミ・ゼミに参加するのですからね 当然です。 」
「 ハイ ・・・ 夏休みの宿題 ・・・って気分 」
「 え なあに? 」
「 いえ なんでもアリマセン。 」
ふふふふ ・・・
ソファの陰で ギルモア博士が笑いを噛み殺していたのは言うまでも ない。
そして ― 調査旅行に出発の朝。
ドタドタ ・・・ ジョーは早足で階段を降りてきた。
「 これで全部かなあ〜 」
でっかいリュックを背負い コロコロ片手に 彼はリビングに
なだれ込んだ。
「 おはよう 島村クン! 準備はできましたか? 」
「 ・・・・ はへ?? 」
リビングには コズミ研究室助手 の アルヌールさん がいた。
縁なしのメガネに 金髪はきりりと一つに縛り ( いつものシニヨンではない! )
化粧はおろか口紅も塗っていない。
「 ・・・ うわ〜〜〜〜 」
「 なにか? 」
「 い いえ ・・・ よくお似合いデス 」
「 ありがとう。 荷物は? 忘れもの、ありませんね? 」
「 あ えっとぉ・・・ 」
「 スケジュールは? メールしておきましたけど 保存してありますか 」
「 え!? メール?? ・・・ 今 見ますぅ・・・ 」
ジョーは慌てて 尻のポケットからスマホを引っぱりだした。
「 スケジュール管理は 研究の基礎のキ です。
コズミ教授には くれぐれもご迷惑をかけないよう お願いします。 」
「 は はい・・・ あのう〜〜〜 」
「 はい? 」
「 あのう〜〜 ぼくの歯ブラシと歯磨きと ・・・
洗顔そーぷ ・・・ どっかいっちゃったんですけど 」
「 ! ジョーってば いつまでもパッキングしないから。 」
どん。 クマさん模様のビニール・ポーチが置かれた。
「 ジョー君の洗面具一式です。 あとタオルと替えの下着、
ちゃんと複数いれましたか 」
「 あ は はい・・・ Tシャツとジーパン・・・ 」
「 シャツとパンツ です! 早く詰めてきてください。
そろそろ出発します。 」
「 あ は はい ・・・ えっと集合は 駅 ? 」
「 いいえ。 行きは コズミ・ハウス前 です。
コズミ教授と院の学生さんたちと マイクロ・バスで出発です。 」
「 ・・・あ そ そうだっけ・・・? 」
「 ! 島村くん! ちゃんと 調査旅行のスケジュール を
最初から最後まで しっかり読んでください。 」
「 ・・・ ハイ すいません ふら・・ いえ アルヌールさん。 」
「 では ― 10分後に出発しましょう。 」
「 ハイ。 あ ぼく 顔〜〜 洗ってくるから
ちょっとまってて〜〜〜〜 」
「 15分 待ちますから。 準備を完了させてください。 」
「 は はい〜〜〜〜 」
ドタドタドタ ・・・・ 彼は二階に駆け戻った。
「 ジョーってば ・・・ 本当に 009 なのかしら。 」
そんな後ろ姿に フランソワーズはふか〜〜くため息を吐いた。
ブロロロロ −−−−
マイクロ・バスは 北の地域へとひたすら走ってゆく。
コズミ・ハウスで合流した院生のヒト達は 皆 物静かで
落ち着いた雰囲気だった。
潜水調査に協力してくれる技術者さん として 二人は紹介されている。
「 あら ・・・ 針葉樹が増えてきましたね 」
「 え? どれどれ? わあ〜 クリスマス・ツリーが
いっぱい生えてる〜〜 」
「 ふぉ ふぉ ふぉ ・・・君達は楽しいのう〜 」
コズミ博士、いや コズミ教授と院生達は 静かに微笑んでくれる。
「 あ ごめんなさい ウルサイでした? 」
「 いやいや 賑やかに行こう。
これから入る地域は 人里離れたところじゃからなあ 」
ガタン ガタン −−−−
マイクロ・バスは幹線道路から 細い山道に入っていった。
−−−−−− トクン ・・・・
水面は ほとんど波立たず ただ時々、小さな虫が動くだけだった。
目的地、それは濁った湖というより 放置された沼 に近かった。
「 ・・・ 役場から聞いとりますだ ・・・
調査かナンか知らんが ・・・ 主様を怒らせなさんな 」
「 ?? ぬしさま??
」
「 あ いや ・・・ こちらのコトで
それで ― この沼に潜るんですかい 」
地元の役場から紹介されたのは この地域の神社を管理する
老人だった。
「 いやあ〜〜 水質の浄化のための調査です。
まあ 平たくいえばこの濁った水を 澄んだものに戻すため、
ですかなあ 」
「 へえ さいですか ・・・
では くれぐれも無茶をせんように 頼みます。 」
老人は ぶっきらぼうにそれだけ言って ぷい、と帰ってしまった。
「 な なんか 機嫌、悪いですね 」
「 いやあ ・・・ ここはなあ 見かけは 濁った沼 だが
地元の人々、代々この地に住む人々は それは大切にしているのじゃ。 」
「 相当 年代モノですね 」
「 ああ ・・・ この付近の伝説よれば
ここは竜の棲み家だから 泳いだり潜るのはご法度、
ずっと厳禁だそうじゃよ 」
「 え それじゃ 調査は 」
「 まあ おいおい・・・ 目立たぬようにやろう。 」
「 はい 」
一行は 村役場から借りた公民館へ 向かった。
さて 初日の調査が終わった夕方のこと。
ぽちゃん ・・・
フランソワーズは こそ・・・っと足先を沼に浸けてみた。
「 ! ・・・ な に これ?? 」
「 どうした? 」
「 ピリ・・・っと したの。 劇薬でも入っているの? 」
「 ??? いや? 普通の沼だよ 」
「 でも ・・・ 」
「 なにか気になるのかい 」
「 ・・・ ええ ・・・ この水 痛いわ 」
「 痛い?? 」
「 ええ 噛みついてきたの わたしの足に 」
「 ??? そんな魚は いないはずだよ 」
「 あ サカナじゃなくて・・・ 水 が 」
「 水が??? 」
「 ええ ・・・ びりり ・・・って 」
「 足 どうか してた? 」
「 あ いいえ 大丈夫。 皮膚はなんともないわ。 」
「 ふ うん? 」
Last updated : 08,18,2020.
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********** 途中ですが
タイトル と 竜 で ピン ときた方 同世代 (>_<)
夏になると かの名作を下敷きにして
あれこれ・・・・ 書きたくなるのです ・・・・