『  プリンス ・ メランコリィ  ― (2) ―  』

 

 

 

 

   ファサ −−−−−−  ・・・・・

 

洗濯モノの行列が 真っ青な空の下、ゆらり ゆらり とのんびりと身を揺らしている。

お日様はきらきら ・・・ 空たかく煌いているのだが 午後だというのにあまり暖かくはない。

むしろ 空気の冷たさを一層感じさせてしまう、明るさなのだ。

 

  ― でも。    と、フランソワーズは空を見上げる。

 

「 こんな空、 好きだわ。  こんな冬の日があるなんて思ってもみなかったもの ・・・ 」

う〜〜ん ・・・ とお日様にむかって両腕を差し上げ伸びをする。

「 ふう 〜〜〜〜 ・・・・ ああ いい気持ち♪  あ このカンジ ・・・ なんだか知ってる?

 そうだわ、 冬に一番初めにスキー場に行った時 の空気と似てるのよ。 」

空気の冷たさの割りには この地域には雪の欠片もない。 霙すらあまり降らない。

ここに住み着いた最初の冬は 驚きの連続だった ・・・

「 雪が降らないのは ちょっと淋しいけど。  でも ― この空気〜〜 好きよ ・・・ 」

冷たい空気をいっぱい吸い込んで  思いっきり吐いてみれば。 

なんだかすっきりした。  ぐちゃぐちゃ思い悩んでいたことは さっぱりと消えた ― らしい。

 

  結局 昨夜は − 彼、テオを途中まで送ってゆきホテルに戻ると あとは倒れこむように寝た。

「 ふん ・・・ だ。 せっかく一泊して、 美術展でもいっしょに・・・って思ってたのに〜 」

朝は早く目が覚めてしまい ・・・ 10時前にチェック・アウト、予定がある博士とは別れて

そしていつのまにか 帰宅していた。

「 ・・・ ふうう ・・・ま ウチが一番 かも♪ 遅くなったけどお洗濯ものもきれいに

 乾きそうだし。 」

中天に近い冬の日を見上げ もう一回深呼吸してみた。

 ふわ〜〜ん ・・・・ と なにか暖かいチカラがお腹の底から むくむくと沸きあがってきた。

「 お日様〜 ありがとう〜。 さ〜てと ・・・ お掃除して ・・・ ああ 今晩は何にしようかなあ〜

 あ。 そうだわ。  冬の間に ウチにテオを招待しようかしら。

 ねえ テオもヨーロッパ人だから こんなにステキな冬晴れ ・・・って 知らないでしょ。

 きっと感激するわよ〜〜 ふふふ 」

やっぱり ― 彼のことが気になる ・・・ なぜか理由はないのだけど。

「 だって ・・・ ちょっと兄さんに似てるかも ・・・ な〜んて ふふ ・・・ 」

カッツン。   足下で小石が跳ね飛んだ。

「 そうよ〜〜 招待が無理ならば こんなお日様た〜っぷりは一日を 二人でぷらぷら・・・

 街中の散歩、も楽しいわよね。  そうだ! あそこの銀杏並木もいいわね。 」

本当は ジョーと一緒に歩きたい。  ジョーと一緒に オシャレなカフェにも入りたいのだ。

しかし フランソワーズは無理矢理にジョーのことを思考から締め出していた。

「 ・・・ テオ。 あなただってやりたいこと、たくさ〜〜〜〜ん ある でしょう? 

 うん 決めた!  もう一度 貴方を連れ出すわ。 いいわよね? 」

クスクス ・・・ なぜか軽やかな笑いが唇から零れてゆく。

「 そうよ〜 二人で < やりたいこと > しましょ♪

 ええ いいのよ。 誰かさんは 昨夜先に帰っちゃうし。 今朝だって 早番だから・・・って

 わたしが起きたら もうとっくに出かけてしまったの!  ぷん だ。  」

 

 

 昨夜 ―  結局タクシーで麻布界隈までもどってきた。

テオは電車に乗りたい! と主張したが さすがにそれは諦めてもらった。

「 ・・・ どうしても ダメ ですか? 」

「 だって。 アタマを打ったのよ? 本当なら今晩はあのままベッド入り、でしょ。 」

「 大丈夫ですってば。 僕 石頭なんだ〜〜 

「 だ〜め。  電車はまた次に機会に、ね。 日本の電車は快適よ、 そして 信じられないほど

 時間に正確なの。  3分遅れても < お詫びします > ってアナウンスするの。 」

「 うわ〜〜 ますます乗りたい!  ねえ・・・? 」

「 だ〜め。   あ そろそろ麻布に近いわよ。  」

「 ・・・ あ  うん  そうですねえ 」

「 ねえ ・・・? この辺りってマンションやら大きなお邸ばかりなんけど ・・・ 

 ここでいいのかしら。 」

「 あ  はい。 ・・・ ここで いいです。 」

タクシーから二人が降り立ったのは メイン・ストリートから一本折れた道で人通りはない。

「 え ・・・ ねえ ここ? 間違いじゃなくて? だって  誰も ・・・ 

「 あ 平気です。 ここいら辺は僕でも知ってますから ・・・ 

 ヒトがいないのは ・・・ ほら 時間が時間ですし。 」

「 え?  あら。  もうこんな時間なの?? 」

「 あ すいません〜〜 ホント お疲れのところを・・・ 」

「 いいのよ、気にしないで。   でも本当に ・・・  あ  ら ? 」

 

  ス −− ・・・・   ほとんど音をたてずに 車が後ろから近づいてきた。

 

一瞬  フランソワーズは全身から血の気が引き、足がとまった。

  あの時 の記憶がフラッシュ・バックする。

 

     ! ・・・ しっかりするのよ  フランソワーズ!!

     ヤツらは 壊滅させたはずでしょ?

 

     く! 失敗したわ。  目と耳を稼働させておくべきだった・・・

 

彼女は唇を噛むとテオを庇いつつ、車に対峙した。 ― 手に小型スーパーガンを隠し持っている。

はたして後ろからの < 黒い車 > は 二人のすぐ横で静かに止まった。

「 !  ・・・ テオ!  わたしの後ろに入って。 」

油断なく身構える彼女の脇で テオはこまったな ・・・ とアタマを掻いていた。

「 え ああ いやあ〜〜 コレ 僕の友人の車なんです。 」

「 え ??  だって なに? この車 外交官ナンバー ?? 」

「 えっと その 友人が その〜〜 運転手なんで ・・・ 」

「 公用車を使って ・・・ いいの?? 」

「 あ〜〜〜 う〜〜〜〜 その 〜〜 」

  

  バン ・・・  しずかにドアが開き、 初老の紳士が静かに出てきた。

 

「 ―  ・・・  お探しいたしましたよ! 」

「 あ ・・・ うん。  ごめん。  場所、間違えちゃってさ ・・・ 彼女に助けてもらって・・・ 」

「 おお それでは早速ご招待して  」

「 いや! そんな付き合いじゃだめだ。 僕に決めさせてくれ。 」

「 しかし  ・・・ 」

「 でなければ ― 戻らない。 」

「 〜〜〜〜  脅迫ですか それは。 」

「 さあ どうかな。 とりあえず ― 彼女にお礼を。 」

「 はい それはもう ・・・  あ〜〜〜 マドモアゼル ?? 」

「 ―   はい ・・・  ? 」

品のいい老紳士は フランソワーズに向かって慇懃に腰を屈めた。

「 わたくし共の < 仲間 > が 大変お世話になりました。  心より感謝申し上げ 」

「 はい それでお終い。  フランソワーズ!  とっても楽しかったですよ!

 今度また ― 近いうちに会ってください!   ・・・ いいでしょう? 」

テオは強引に老紳士の会話を横取りして にこにこしている。

「 あ あら ・・・・  テオ。 それは失礼でしょう?  わたし、この方とお話ししていたのよ? 」

「 あは。  彼は警備専門のヒトで  あ いや その ― 僕を迎えにきたんです。 

「  あ〜ら  そう?  」

「 はい ですからどうぞご安心を。  ではもう遅いですから ・・・

 今 ウチのものに遅らせますよ。  少しお待ちください。 」

端に立つ老紳士の  実は怒ってます  な雰囲気を さすがにテオも察しているらしい。

彼は わかってるよ・・・と言うみたいに手を振っている。

「 大丈夫よ。  ここからはメトロ一本で帰れます。  トウキョウの電車はね、

 おそらく世界一、安全なの。  終電に女性が一人で乗っても ― 大丈夫なの。 」

「 え ・・・ でも それでは 」

「 ほら < 仲間 > の方たちを心配させてはだめ。  大人しくお家に帰りましょうね。

 また ― 会いましょう!  トウキョウを御案内しますわ。 」

「 本当ですか!  わ〜〜〜〜 嬉しいなあ〜〜〜 」

「 本当よ。 じゃあ  ・・・ お休みなさい テオ。 」

フランソワーズは さっと握手の手を差し伸べた。

「 ・・・・ 今夜のステキな白鳥姫に ― おやすみ なさい! 

 

    cyu♪  テオは 彼女の白い頬に熱く口付けをして ― 逃げた!

 

「 きゃ ・・・ もう〜〜 悪戯っこねえ、テオ! 」

「  は  はは  お   やすみ  な  さ  い  ・・・! 

 

     テオ ・・・・  

 

彼は いつの間にやら ふ・・・っと夜の闇の中に消えてしまった。

フランソワーズはぼんやり、闇を眺めている。

「 ・・・ あ   ・・・ テオ ・・・ ?  妖精の国 にでも戻ったのかしら・・・・」

「 あ〜〜〜 マドモアゼル? 」

「 ・・・ え?   あ! ああ〜〜〜 先ほどのムッシュウ? 」

「 はい 左様でございます。 あ〜 え〜  あのモノの兄の会社を手伝っております。 」

「 ・・・ は  あ ・・・ 

「 ご迷惑をおかけしました。  ご滞在のホテルまでお送りいたします。  どうぞ。 」

「 それは結構です。 本当にすぐですから。 」

「 いえ ― それでは私共が叱られます。  お願いします。 」

「 ― わかりました。 」

「 では ・・・ 」

恭しくアタマを下げられ ― 結局黒塗りの公用車とおぼしき車で フランソワーズは

部屋を取ってあるホテルの玄関まで送ってもらった。

 

 

「 ・・・ なんだか 夢にみたいな一日 だった わあ ・・・ 」

翌日の午後、晴れた空を見上げていると 全てが夢 ― だったみたいにも思える。

舞台の後の 転寝の夢 ・・・ そんな出来事だった。

「 ふうう ・・・ でもちょっと楽しかったわ。  そうよ、わたしだっていろんなヒトと

 出かけてみたいもの。  ・・・ ふん だ。  ジョーのことなんてぜ〜んぜん気に

 してなんかいませんよ〜〜だ。 

気にしていない とわざわざ思うこと自体、 大いに気になっていることの証明なのだが。

フランソワーズは なんとかして昨夜の あの光景 を忘れたかったのかもしれない。

若い女性と寄り添って歩いていたジョーの姿 ― 出来れば消してしまいたい・・・!

「 テオって 紳士 よね〜 ふふふ ・・・  メールとか来ないかなあ。  

 一応 わたしのアドレスは教えたのだけど・・・  まあ いいわ。  

 う〜〜ん ・・・! 今晩はあったかいポトフにでもしようかな。 いいわよねえ〜

 ふんふんふん♪  そうよね  ジョーってばポトフ、好きだし。

 そうだわ〜 商店街、安売りの日 のはず〜〜  いいお肉が買えるかも〜〜 」

  カタカタカタ ―  サンダルを鳴らして 部屋にもどった。

 

  ・・・ やっぱりジョーのこと、気になっているフランソワーズなのだ。

 

 

 

   ガチャ ―   玄関のドアが静かに開いた。

 

「  ・・・ ただいま。   ・・・?  フランソワーズ?  いないのかい。 」

ジョーは靴も脱がずに 奥に向かって声をかけた。

「 ・・・ 留守 か。  ああ 買い物にでも行ったのかな。 」

こそっと溜息をつき、彼はのろのろとスニーカーを脱いだ。

「 ・・・ 折角 コレ ・・・ 買ってきたんだけど。  まあ 風呂場にでもつけておくか ・・・ 」

ぶつぶつ言いつつ手にしてきた大きな花束をみつめる。

 

駅前の花屋さんで コレを買うのはちょっと勇気が必要だったが。  ここは彼女の笑顔が

みたくて がんばった。

ジョーは日頃 花束とはそんなに疎遠でもない。 いや 結構身近に存在している。

当然、というか ジョーのカーレーサーとしての実力では 大きなレース毎に抱えるほどのモノも

何回も受け取ってはいるが ― それっきり。

大抵、側にいるクルーの一人に渡してしまい、持って帰ることなど考えてもみなかった。

いざ 自分自身で選ぶ となると 彼は店先で棒立ちになってしまった。

「 いらっしゃい〜  なにを・・? 

「 あ ・・・あの。  その ・・・ は 花束を ・・・ください。 」

「 はい。 どんなお花にしますか〜 お好みは? 」

「 えっと あの ・・・ その ・・・ 

ジョーがすらすら答えられたのは 予算額だけ。 あとはほとんど店員さんに決めてもらった。

「 ・・・ こんなトコで いかがですか〜〜  カノジョさん、喜びますよ〜 」

「 あ ・・・ はあ そう だといいですけど 」

「 保証しますよ〜 はい! こうやって大切に持って帰ってくださいね〜〜 」

「 ・・・ はあ 」

 それでもって。  彼は軽いけど やたら嵩張る持ち物を 大汗流して持ち帰ったのだった。

 

      えへへ ・・・ 喜んでくれる  といいなあ ・・・

 

こんなくすぐったい感覚は初めて かもしれない。

花束なんて どれもこれも大して変わらない ・ レースの単なる小道具 ・・・ くらいに感じて

いたのだけれど。  いま 自分で ( ほとんど店員さんの言いなりだったけど ) 選んで

彼女の笑顔を期待して持ち帰ったモノは  特別な存在に思えた。

 

「 うん  今晩 渡そう。  ・・・ お? なんかいい匂いだなあ ・・・

 ! これ〜は ポトフだぞ?  やっほ〜〜〜 ♪  へへへ  フランってば。

 ちゃ〜〜んと僕が好きなもの、用意してくれるんだ〜〜 うん 早番って言っておいたし♪ 

 えへへへ やっぱフランだよ〜〜 うん  ぼくの フラン〜〜♪ なんちっち〜 」

たちまちご機嫌チャンになり 彼は足取りもかるくキッチンにむかった。

 

  キ −−・・・   すこしドアが軋む。

 

「 ・・・ フラン・・・? ってやっぱり出掛けたのか。  きっと買い物だよ。

 お。 あの寸胴の大鍋は ポトフで大当たり、だな。 」

口笛でも吹きたい気分で 彼はレンジ台に近づいた。   大鍋はまだ少し温もりが残っている。

「 ・・・ ふう 〜〜〜ん ・・・・ いい匂いだ〜〜  ふふふ 楽しみだなあ〜〜 」

フタを少しずらせて 中身を見て、彼はくんくん・・・満足げに鼻を鳴らす。

「 あとは サラダ ・・ かな。 そうだ、庭の温室からなにか  ―   あ れ? 」

ようやっと 彼はレンジ台の横に貼ってあるメモに気がついた。

 

     「  今晩、遅くなります。  晩御飯にはお鍋のポトフを温めて食べてね。

 

             フランソワーズ   」

 

「  ・・・・  あ   そう なんだ・・・?  

醒めかけた煮込みの匂いが 急にハナに突いてきた。

「 空気が篭ってる。  換気しなくちゃ 」

彼は急に表情を無くすと、 事務的にキッチンの窓を開けた。

「 ・・・ 別に 今晩 食べなくてもいいよな?   ・・・ ああ コレ 邪魔だなあ ・・・ 

 そうだ ここに漬けておけばいいや。 」

たった今まで 大切に抱えていた花束を 彼は空いていた鍋に水と張るとぼちゃん、と入れた。

「 ふ〜ん ・・・ そっか。  博士も今日は遅いって言ってたし。

 そうそうもしかして泊まってくるかも・・・って ・・・

 ふ〜ん ・・ そっか そっか そ〜ですか。   そうだ。 久々にちょっと飛ばしてくるかな〜〜 」

ジョーはぷらり、とキッチンを出ると そのまま玄関を抜けガレージに下りた。

 

    ババババ −−−−− ・・・・!

 

すぐに一台のバイクが ギルモア邸の門を抜け急坂を下っていった。

 

 

 

「 ・・・ あのパーキングで  って・・・ なんでこんなところがいいのかしら ね?  」

フランソワーズは きょろきょろしつつ、上野の森を歩いていた。

洗濯物を干し終え、ポトフの準備を始めた時 メールが来た。

「 ? あら・・・ 博士かしら   ・・・ え??? 

彼女は目を見張った。  まじまじと文面をみつめ思わず送信人を確かめてしまった。

「 ・・・ ウソ ・・・ 本当にテオなの?  待ち合わせって  上野?? 

 う〜〜ん ・・・こりゃ本当にテオだわねえ。  上野 ・・・ かあ  ま いっか。 

 よ〜〜し ・・・! 

 カチ ・・・! ・・・っと小声で唱えたかどうか ・・・ はわからないけれど、

突然彼女は猛スピードでジャガイモを たまねぎを 剥き、人参を切り ニンニクをスライスした。

そうして ―  あっと言う間に 大なべ一杯にポトフの準備を完了したのだ。

 

 

「  ふうう ・・・ もうず〜〜っと走り続けてきたみたい ・・・ ふう ・・・

 でも ねえ・・・ なでまた  この場所 なのかしら ・・・

 どうせ散歩するなら 六本木とか青山とか。  渋谷とかお台場でもいいのになあ・・・ 」

平日午後の上野の森の外れは 街の喧騒ぶりとはうらはらに人影はすくなく、閑散としていた。

「 ここ で待ってろってこと?  」

フランソワーズは もう一回特大の溜息をもらしてから  パーキングの入り口に立った。

「 ― マドモアゼル ・ フランソワーズ。  お待たせしましたか? 」

不意に後ろから声がかかった。

「 !??   まあ〜〜〜 テオ。  貴方ってば いつも突然、現れるのねえ 」

「 ふふふ ・・・ 僕は  え〜〜 その。 ! そうだそうだ ・・・・ きぼつ なんです。 」

ジーンズ姿のテオが す・・・っと彼女の前に現れた。

ロゴ入りのパーカーを着て、キャップを被っているので ―  どこにでもいる若者にみえる。

「 きぼつ??  あ 〜 それを仰りたいのなら  神出鬼没  ですわ。 」

「 あ〜〜 そうだっけかな?? ともかくよく出てきてくださいました。 」

彼はす・・・っと身をかがめるとフランソワーズの手をとり、 さ・・・っとキスをおとした。

「 ・・・ きゃ ・・・ ふふふ Bonjour ?  昨夜は叱られなかった? 」

Oui Mademoiselle 〜〜〜♪   ねえこれから そのぅ ・・・デートしてくれますか? 」

「 うふふふ  喜んで♪   それで今日はなにがお好みです?

 リクエストとか ・・・  どこにゆく?  カラオケ? 買い物? お寺とか見る? 」

「 リ リクエスト ・・ っていうか ・・・ そのう・・・ 行ってみたいトコが ・・・ 」

「 あら それなら話は簡単ね。 今日は遅くなってもオッケーなの。 だからゆっくり御案内します。

 まずは ・・・ 原宿とか行きます?  」

「 あ いえ その。  御案内いただけるのでしたら・・・ お願いいたします。

  あの〜〜 アレは ― なんですか?? 」

テオはにこにこしつつ ・・・ 決してヒトのペースにはのらない。

「 え?? なになに・・・? 」

「 ほら! アレですよ、アレ。 目の前に広がるアレ は  ―   海のタクシ〜 ?? 」

 

       はあああ???  海 ですって??

 

フランソワーズは彼が指差す方向を眺めた。

上野から海が見えるはず ―  彼女の < 眼 > 以外では ― はなく。

近辺にある < 水 > といえば  ・・・ ああ 確かに至近距離に水面が広がっている。

「 ・・・え?  あの あれは・・・ 池よ、不忍の池。 そして 池のボート だけど ・・・ 」

「 ボート??? うわ・・・ の、乗りたいです! 」

「 ボートに乗りたい?  え〜〜 それじゃあ TDLとか行きましょうか? 

 海賊船とかの 楽しい催しモノ はあるみたいですけど ・・・ 」

「 TDL?? なんですか それ。 」

「 え。 ( 知らないの?? )  あのう〜〜 すご〜〜く有名なテーマ・パーク で ・・・ 」

「 ああ 公園ですか。 だったらここでいいです!  僕はあの池のボートがいいんですが。 」

「 でも あの ・・・ ごく普通の池ですよ? ハスとかあるけど ・・・ 」

「 池!  いいですねえ〜〜  僕の国・・・いや 近所にはあんな大きな池はないんです。

 それに ボート!  緊急脱出用 ですか??  」

「 ・・・ いえ。 あれはただの観光用です。 わかりました。  ご一緒します。  」

これ以上、言葉で説明するのは無理だし疲れるだけ・・・と フランソワーズは腹を括った。

 

     ・・・ いいわ。  このオノボリサンな坊やに 付き合う!

 

  

 ―  バッチャ ンッ !   バシャ バシャ バシャ 〜〜〜

 

「 あ あははは 〜〜〜 なんで進まないんだ〜〜  うわあ〜 ♪ 」

テオは大笑いしているが ・・・ 派手に水しぶきを飛ばすだけで二人のボートは全然進まない。

「 あのね  わたしが代わるわ  ・・・ テオ? 聞いている? 

「 え? ああ これはレディのすることじゃありません。 僕が・・・ あれえ〜〜〜 ?? 」

バッシャン  バッシャ 〜〜〜!    オールがやたらと水面を叩くだけだ・・・

 

平日の昼下がり ―  それも晩秋の頃、 いかに晴天であろうと ボート池 で遊ぶ物好きは

 ・・・ 二人しかいなかった。

 

「 あのう〜〜 ボートってまだやってます? 

フランソワーズのおずおずとした問いに 貸しボート屋のおっさんは へえ・・? と一瞬目を

見張った。   明かに外人サンのカップル ・・・ しかも美少女とかなりのイケメン坊やだ。

そして美女は日本語ぺらぺら ― な〜にも不都合はなかった。

「 あ〜 いいっすよ〜〜  どうぞ。 」

「 まあ ありがとう。  テオ〜〜 乗れますって。 」

「 え 本当ですか。 それはどうもありがとう。  」

彼は満面の笑顔で ボート屋のオッサンに会釈をした。

「 へいへい ・・・ じゃ これを。  あ  あんまりハスの中に入ると動きが取れなくなっちゃうよ」

「 はあい。  それじゃ わたしが ― 」

「 いえ 僕が。 」

「 え? 

テオは さっ!と先に立ち ボートに乗ってしまった。

「 ちょ ちょっと?  テオ〜〜 あなた、ボート漕いだこと、あるの? 」

「 あは? いいえ 初めてですが。  しかし こんなことはレディにはやらせられませんよ。

 コレはオトコの仕事です。 」

「 でも ・・・ じゃ 始めはわたしが漕ぐから見ててね。  ちょっと場所 変わって ・・・ 」

フランソワーズはボートの上で位置を交換しようと立ち上がった。

「 あ〜〜っと ・・・ お客さん〜〜 ボートの中じゃ 立ち上がらないでくださいね〜

 池だけど ・・・ この季節にぼっちゃん・・・・したくないでショ? 」

ボート屋のおっさんの注意が飛んできた。

「 え ・・・ あ  その ・・・ 」

「 ほうら あんちゃん?  カノジョにいいトコ、見せなくちゃ。 オトコならしっかり漕げ〜〜よ〜 」

「 はあ〜〜い♪ 」

おっさんのエールに テオは大喜び ・・・  勇んでオールを握ったのだが。  

 

    バッチャン ボッチャン ビッタン ・・・ 水しぶきが飛び散るだけでボートは全く進まない。

 

「 えい ・・・ えい〜〜〜  う〜〜ん??? なんでかなあ〜〜 

「 ・・・あ あのね、 テオ。 こうやって・・・ オールで水を押すみたいにしないと ・・・

 水面を叩いてはダメなのよ。 」

「 え? そうなんですか?  えい・・・!  えい ・・・!!!   あ!! 少し動いた〜〜 

「 ええ  そうね ・・・ 」

ボートはイヤイヤながらも? やっとすこし動きだした。

「 えい・・・!  えい !  えい !   わあ〜〜 うごく〜〜〜 」

「 テオ? 大丈夫?  ねえ ・・・そんなに頑張らなくてもいいのよ?

 明日、きっとすご〜〜〜い筋肉痛になっちゃうわ。 」

「 こ このくらい平気です。   僕 ・・・ ボートを動かせるって 感動だあ〜〜〜

 すごいなあ〜〜 船を手で動かしたんですよね!? 」

「 船 ・・・ねえ ・・・ まあ ボートも船の一種だけど。  あら でも随分速くなってきたわね。

 すごい〜〜 すごいわ テオ。 」

「 えへ ・・・ そっか〜〜 ちょっとコツがわかった かも・・・ えい !  えい〜〜! 

「 じゃ  ほら あそこのハスの葉っぱのとこでUターンしましょ? 」

「 えい! えい ・・・!   え〜〜〜 この池を一周しましょう! 」

「 それは ・・・ ちょっと無理かも ・・・ まずはあのハスまで行きましょう。 」

「 ハスってなんですか? 」

「 えっと ・・・ ほら この池にいっぱい大きな葉っぱが浮いているでしょう? あの植物の名前。

 とてもキレイな花が咲くのですって。 」

「 そうなんですか。  花 見たいなあ〜  どんな色なんですか? 」

「 わたしも見た事ないのよ。  あ ・・・ ほら〜 もう少し〜〜  がんばれ〜〜 テオ! 」

「 えい!  えい   う〜〜〜ん ・・・! 」

テオは顔を真っ赤にしてそれこそ汗を飛び散らせ ・・・ 必死でオールを動かしている。

ボートは幾分か滑らかに進むようになった。

「 は〜〜い  ここで引き返しましょ。  」

「 ふ〜〜〜〜〜 ・・・  はあ・・・  あ これがハスですか。 

大息をつきつつ、テオは水面に浮かぶ葉に手を伸ばした。

「 そうよ。  ほら ・・・ ころころ水滴が乗っかっててきれいね。 」

「 やあ ・・・ 本当だ。 不思議な植物ですねえ ・・・ ウチにも欲しいな 」

「 テオのお家には池があるの? 」

「 あ ・・・ いや ・・・ でもその・・・近くの公園の池にいいかな〜〜って。 」

「 ああ そうね。 この花は東洋のものだけど 外国では珍しいかも よ。 」

「 そうですねえ  是非!   よ〜〜し 戻るぞォ〜〜〜  えい! 」

「 がんばって〜〜 テオ〜 」

フランソワーズはハンカチで彼の額をさっと拭うと ぱたぱた風を送った。

「 う ひゃ♪  うわ〜〜〜い♪ 行くぞォ〜〜〜 」

「 うふふふふ ・・・・ 

ボートはなんとかまた進み始めた。

 

    うふ・・・  こんな風にボート遊び ・・・ ジョーとできたらなあ・・・ 

    え!?  ええ 今 とっても楽しいわよ 勿論。

    テオ ・・・ 可愛いな、弟みたい ・・・

 

    いいわねえ ・・・ 池ってこんなに気持ちがいいのね

    ジョーってば あんまり自然の中には誘ってくれないもの。

    ・・・ ドライブばっかりじゃなくて 自然の風もステキなのに ・・・

 

大汗のテオの顔をながめつつ ―  フランソワーズの思考はあっちこっちに飛んでいた。

 

  ― ガタン。   やっと発着の桟橋に 到着した。

 

「 ふ〜〜〜〜〜 ・・・ はあ〜〜〜 なんとか ・・・  帰還しました!  」

「 ステキ♪ テオってば すごくステキ♪ 」

「 え えへ  ・・・ うれしいです。  さあ 降りましょう、どうぞ! 」

「 あら〜〜 」

テオはすっくと立ち上がり フラソワーズに手を差し伸べた。

「 急に立ち上がったら危ないわよ。 大丈夫、わたし、先に降りるから ・・・ 」

「 そうですか ・・・ あ?  あれ ・・・ 〜〜〜〜  うわ っ 」

「 !?  テオ 〜〜〜 」

フランソワーズが降り、 ボートの重心が変わり大きくローリングを始めた。

立ち上がっていたテオは バランスを崩してしまった。

「 うわわわ・・・?   あ 〜〜〜 ・・・・  」

「 ・・・ あ。 」

 

   ―   ばっしゃ〜〜〜〜ん ・・・・・!

 

「 あ〜〜〜 ・・・ やっちまったかい ・・・  カレシ、頑張ってたのになあ〜 

ボート屋のオッサンが 盛大に溜息を吐いた。

「 ええ。  あの タオル借りれます? 

「 おう。  なあ カレシのこと、 褒めてやんな? 」

「 ええ 勿論。  あ ありがとうございます〜〜  テオ 〜〜〜!!! 」

フランソワーズは 濡れ鼠で池の中、なんとか立ち上がった < カレシ > を 引っ張り上げた。

 

 

「 うわ うわ うわ〜〜〜   どれにしようかなあ〜〜 」

「 好きなの、どうぞ。 でも早くしないと ・・・ 風邪 引くわよ。 」

「 う〜〜〜ん 迷うなあ〜〜〜 」

「 テオ〜〜〜 」

テオはぎんぎんぎらぎらなファッションの中、 あちこち見回しご機嫌ちゃんだ。

「 よォ〜 日本語の上手なガイジンの兄ちゃん どれもお似合いだよ〜〜 」

「 そ そうですか?? じゃあ ・・・えっと えっとォ〜〜〜 」

「 ・・・・・・・・ 」

フランソワーズは ただただ溜息をつき彼の後ろに立っていた。

 

  ―  ここは 上野の超〜〜〜有名な某横丁。

 

安価でホットでクールで?ぎんぎん ・・・ なファッションの店が並んでいる。

濡れ鼠のテオと とりあえず一番手近な商店街へと駆け込んだ。

まだ暮れには間があり 平日の午後なのでそれほどの人出ではないが 空いてるわけでもない。

常に人々がざわざわと行き来している。  観光客も多く 二人はそんなに目立つことはなかった。

「 う〜〜ん コレもいいな いや アレかなあ ・・・ いや こっちの ? 

 どう思います? アドバイスしてください、マドモアゼル。 」

「 ・・・ え ・・・っと?  (  うわ ・・・ 衝撃的 ・・・ )

 あ〜〜〜 あの? どれもお似合いですわ ムッシュウ ・・・ 

「 え〜〜 そうですか?  それじゃ ・・・ これと これ。 それからボトムズは  ・・・

 え〜〜〜 ??? その値段でいいのですか???   うわあ〜〜 ありがとう。 」

テオは 店の売り子の兄ちゃんとにこやか〜〜に握手なんかしている。

「 決まった? それじゃ ・・・ ちょっと着替えさせてもらったら? 」

「 そうですね!  うわうわうわ〜〜 この姿 ・・・ < なかま > に絶対見せたい! 」

彼はささささ・・・っと試着室に消えた。  そして ―

 

「 どうです?  ニホンジンに見えますか? 」

目の前には ―  パツキン ぎんぎん革ジャン、 そして 今更腰パン の青少年が いた。

「 ・・・ あの < なかま >のオジサマ ・・・ ひっくり返っちゃうかも よ? 」

「 いぇ〜〜〜い ♪  うわ〜〜 一回こういうの、着てみたかったんですよ〜〜

 うわあ〜〜 感激だなあ 僕 ・・・ 」

「 そう?  ね どうする? どこかでお茶でもします? 」

「 いいですね。  あの ・・・ 」

「 ええ リクエストは? 」

「 うわ〜〜〜〜 いいんですか?  それじゃ  ―  あそこ! 」

「 ・・・ わかったわ。 」

フランソワーズは イマドキの若者 を連れて一番手近な某有名ばーがー・チェーン店 に

向かった。

 

 

 

  ―   キッ !   バイクは急坂を登りきると 正確に止まった。

 

「 ふう ・・・ あ〜〜 すっきりした・・・! 」

ジョーはバイクを押し 門のセキュリティを解除してガレージに向かった。

「 ・・・ ただいま ・・・  

どうせ誰もいない ・・・とは思って開けた玄関には 見覚えのある靴が並んでいた。

ぴかぴかに磨きこまれたブランド靴だ。 隅の傘立てには細身のアンブレラが見える。

「 あ。  」

彼は慌ててブーツを脱ぎ飛ばしリビングに向かった。

 

「 お〜〜〜 我らが不良少年のご帰宅だ。 

果たせるかな、ソファでは英国紳士が渋面を新聞の陰から覗かせた。

「 グレ―ト。  いらっしゃい ・・・ 」

「 いらっしゃい、 だけか。  おいおい ・・・ スイッチオフにしてどこ行ってた? 」

「 え ・・・ あ! しまった、 脳波通信もオフにしてた ・・・ 」

「 ったくなあ。  お前さん 自慢のスマホどころかココも通じないだから・・ 」

つんつん・・・と突くのは色艶のよいスキン ・ ヘッドだ。

「 ごめん ・・・ すっかり忘れてたよ。 

「 ふん。 そして忘れついでに。  博士とイワン のことも、 か? 」

「 あ  いや いや グレート。 ワシらのことはいいよ。  今日も遅くなるか 外泊か と

 いっておいたし。 」

「 博士。  すみません〜〜〜 連絡、すればよかった ・・・ 」

「 ったく〜〜  我輩がちゃ〜〜んとお迎えにあがったぞ。 」

「 すいません〜〜 」

ジョーは素直に深々とアタマをさげる。

「 まあ まあ いいよ、ジョー。  お前だってまだまだ遊び足りん年頃じゃし ・・・ 」

「 博士〜〜 またそうやって甘やかす〜〜 ダメですぞ。 

 ここはひとつ ぎゅ!っと説教してやるのが年配者の務め、というものです。 」

「 しかしなあ〜  ・・・ ああ そうじゃ。 フランソワーズのことは ― 頼むぞ?

 ワシはお前を信頼しておる。  あの子を泣かせるようなことだけはしてくれるな。 」

「 はい、博士。 肝に銘じています。 」

「 ふむふむ  ・・・ それでこそジョーじゃな。 信じておるぞ。

 ああ 今晩のポトフなあ・・・ なかなか美味しかったぞ。 彼女、料理の腕前 上げたな。 」

「 そうですか〜〜 うわ〜〜〜楽しみだなあ・・・ 」

すこし和らいできた雰囲気に、 ジョーは少しだけほっとしていた。

「 あ  じゃあ ・・・ コーヒーでも淹れますよ〜  あ 日本のお茶 がいいかな? 」

ジョーはぱたぱたとキッチンに入っていった。  

「 ワシは日本のお茶 がいいな。 頼めるかい、 ジョー。 」

「 ええ 勿論!  ・・・ えっと急須に茶碗〜〜〜 」

カチャカチャ ・・・ 食器棚から手際よくとりだした。

「 え〜〜 湯はちゃんと沸かしたほうが美味しいよなあ〜〜     あ。 」

シンクの前で ジョーは思わず立ち止まってしまった。

 

  そこには  大きな花束が無造作に鍋に漬けて ― 放置してあった。

 

「 ・・・ あ   これ ・・・ 

「 うん?  ああ それなあ〜 どうしたものか と思案しておったのだよ。

 食事の前後にはちょいと移動してもらったがなあ。  」

「 あ  あの  これ・・・  そのう・・・・  ぼくが ・・・」

「 はん? なんだって ―   はあ???  マドモアゼルに? 」

「 ウン。  ぼく ・・・ 昨日の公演に その ・・・手ぶらで行っちゃって・・・・

 それで あの ・・・ さっき買ってきたんだけど ・・・ 今日渡そうって思って 」

 

    ふうう ・・・・・・   老優が 派手に重く長く ― 溜息をついた。

 

「 ―  あのな  boy ?  舞台人にとってな。 花束ってモンは当日じゃなけりゃ

 意味は半減以下だぞ? 」

「 え ・・・ そういうものなのかい?  ・・・ グレートは? 彼女の舞台、観に行くって

 言ってたけど ・・・ 」

「 我輩か?  もちろん〜〜 楽屋に持参したぞ。 アルベルトと な。

 抱えるほどの深紅の薔薇を持参したぞ。  ほら ・・・玄関に活けてあるだろうが。 アレさ。 」

「 ・・・ え  そ そうなんだ? 」

「 お前なあ ・・・ 普段はいろんなオンナノコにきゃ〜きゃ〜言われているクセに ・・・

 てんで 女性の扱い方を知らんのだなあ 」

「  ! だって。 向こうが勝手にきゃ〜きゃ〜言って寄ってくるだけだよ・・・ 」

「 ほう?  それじゃ、今晩も 勝手にきゃ〜きゃ〜言われたってのか? 」

「 ??? 今晩 ?? 

「 背中。  鏡、見てみろ。  誰かを後ろに乗っけたんだろ? 」

「 ??? 

ジョーは慌てて革ジャンを脱いだ。

 

    イケメン ゲット〜〜〜  アユミ   

 

背中に赤い文字が浮かんでいる。 名前の下には番号らしき数字がでかでかと並んでいる。

「 ・・・ え ・・・ 何時の間に ・・・ 

「 おいおいおい? 全く気がつかんかったのか? 」

「 ・・・ 道を聞かれて ・・・ 遅いから駅まで送ったんだ。 後ろに乗っけて・・・ それで 」

「 ほう〜〜〜  それで? 」

「 寒いっていうから ・・・ ちょこっとお茶 して  別れたよ。 」

「 !  ったく〜〜〜  おい 早く落としてこいよ。  それ 口紅だろうが。 」

「 え!?  ・・・ うん ・・・・ 」

彼は革ジャンを抱えると そそくさとリビングから出ていった。

「 ・・・ いやはや 全く ・・・ 」

「 どうもなあ ・・・ アイツは特に意識してはおらんのだろうよ。

 おそらく その・・・女の子にも どこの誰かは聞かんのだろうから な。 」

「 多分そうでしょうな。  しかしなあ ・・・ アイツの優しさ は ちょっとばかり う〜む ・・・

 本人大真面目なだけに困ったモノですよ。  マドモアゼルも苦労が絶えんですな ・・・ 」

「 うむ。  ワシもそれが気掛かりなんじゃ ・・・ 」

「 ま それでもマドモアゼルのことに関しては 猛烈なヤキモチ妬き で。 それも本人だけが

 密かにウジウジしておるのですからなあ 」

「 ふぉ ふぉ ふぉ ・・・ 若いのう〜  うん、まだまだ若いのォ 」

「 ・・・ です な。  まあ ・・・今回は少し大目にみてやって見守っておきますか。 」

「 そうじゃなあ ・・・  フランソワーズを誘った坊やは なにやら品のいい青少年じゃったぞ。 」

「 おお〜〜 それは それは。  まあ こういうことは 成る様になる・・・ってことで。 」

「 うむ ・・・ まったくじゃ。 」

年長者二人は微笑と深い溜息を交わした。

 

 

 

  カツカツカツ  コツコツコツ ・・・・

 

大きなマンションやら立派な門構えの邸宅が並ぶ中 二人の足音がやけに響く。

「 ねえ ・・・ テオ?  本当にこっちでいいの。  

「 はい。  あ  僕 ・・・ トウキョウでは友人の会社関係の施設に泊めてもらってて・・・

 ソレ、この近くなです。 」

「 ふう〜〜ん ・・・ この辺りって高級住宅街なのよ〜〜 すごい会社なのね。 」

「 あ いや  ・・・・ 何にもない貧乏国家ですよ。 」

「 こっか? 」

「 あ ・・・ 会社っこと。  あ っと こっちです。 」

テオは アメ横で買ったぎんぎんの服装のまま 私道へと曲ろうとした。

「 あら ・・・ そうね、昨夜この道に曲ったわね。 」

「 あ  覚えていますか、すごいなあ。 」

「 明るいと全然印象が違うから よくわからかったけど ―  静かでいいところねえ。 」

「 そうですか? 僕は ウエノとかこの服を買ったショッピング街が好きだな〜〜

 賑やかで楽しいですよ〜 」

「 ・・・ ショッピング街・・・ってのとはちょっと違うけど  ・・・  ああいうの、好き? 」

「 はい!  なんかこう〜〜 ワクワクして元気になれます! 」

「 ふうん ・・・ テオはそういう好みなのね。 静かなカフェでお茶 ・・・ はキライ? 」

「 え ・・・ あ あのあの!  マドモアゼルとなら 大好きです! 」

「 あの ね。 フラン  もしくは  ファン よ。 」

「 は? 」

「 マドモアゼル じゃなくて ちゃんと名前、呼んで?  フラン って皆は呼ぶの。

 ファン ・・・ は 兄や家族が ・・・ 」

「 それなら  ―  フラン  と一緒ならなんだって好きです〜 」

「 ふふふふ ・・・ 池に落ちるのも? 」

「 あ ・・・ ええ 勿論!  お蔭で この服〜〜 買えたし♪ 」

テオは よほどぎんぎんの < くーる・じゃぱん > 服 が気に入っているらしい。

「 あ そ そう?  え〜と ・・・ こっち よね。 」

「 はい。  あ  ここで待っててもらえますか。 」

「 いいわ。   ―  ?! 

 

  タタタタタタ ・・・・ッ !  バタバタバタ ・・・! 

 

いきなり足音が追いかけてきて 黒服のオトコ達が二人を取り囲んだ。

「 !?  誰!? 何の用!? 」

フランソワーズは テオを後ろに庇うと油断なく身構えた。

 

     ・・・ 大丈夫。  今日はちゃんとスーパーガンを持っているわ。

     それにしても コイツら  何処から ・・・?

 

オトコらは無言で包囲を狭めてきた。

 

 

 

Last updated : 19,11,2013.               back       /     index     /     next

 

 

 

 

********  途中ですが

え〜〜〜 すいません、終わりませんでした〜〜 <(_ _)>

上野は 喧騒をちょいと外れると結構静かです。

あ 不忍の池 には落ちることはない・・・と思います★