『 プリンス・メランコリィ ― (1) ― 』
舞台が跳ねた後の疲労と満足感、そしていくばくかの後悔、それでいて華やかさが色濃く残る
雰囲気がフランソワーズは 好きだった。
いや 彼女に限らず、多くの舞台人はその雰囲気を味わいたくて、日々それぞれの分野で
精進しているのかもしれない。
疲れきった身体と まだぴんぴんに昂揚している精神をちょっとばかり持て余しつつ、
彼らは楽屋口へ向かい < 外の世界 > へ < 通常の空間 > へと戻ってゆくのだ。
「 おつかれ〜〜〜 」
「 お疲れ様でした〜〜〜 あ〜〜〜 終ったぁ! 」
「 ありがとうございましたあ〜 」
陽気な声で挨拶を交わし ダンサー達が帰ってゆく。
今日は フランソワーズが所属しているバレエ団の定期公演最終日だ。
今回は新人公演で 中堅どころのダンサー達が抜擢され主な役を務めた。
フランソワーズの世代が中心となっての配役だった。
「 フランソワーズ! お疲れ! よかったわよ〜〜 」
「 おめでとう! お疲れ〜 」
「 よかったよ! がんばったね〜 」
大きな花束を抱えた、<黒髪>のパリジェンヌに方々から祝いの声が飛んでくる。
「 あ ・・・ ありがとうございます・・・なんか もう夢中で ・・・ 」
「 ありがとう〜〜 お疲れさまでした 」
彼女は かなり疲れた雰囲気だったが満面の笑みで挨拶を返していた。
そう ― 今日の舞台でフランソワーズは 『 白鳥〜 』 の 主役を踊ったのだ。
「 お疲れ〜 フランソワーズ! ステキなオデットだったわ。 」
「 お疲れでした。 ありがとう〜〜 ミナ。 あなたに褒めてもらえて本当に嬉しい ・・・ 」
背の高い美人が 楽屋に来てくれた。
「 がんばったものね。 次は本公演の主役 ね。 」
「 ううん まだまだ・・・ やっと新人公演で一回だけ ・・・ ですもの。 」
「 主役は特別よ。 ふふふ ・・・ 私も負けないわ。 」
はい、 と 長年の友人、 大久保ミナはピンクの薔薇を差し出す。
「 まあ ・・・! ありがとう! なんて・・・ 綺麗なの・・・ ステキ! 」
「 あなたにぴったり と思って。 あら 打ち上げには参加しないの? 」
「 ええ ・・・ ちょっと予定があって ・・・ 」
「 あ〜〜〜 わ〜かった♪ デートなんでしょ〜〜 あら? 今日、あのカレシは? 」
「 え ・・ ええ パーキングで待っているの。 」
「 ま〜〜 相変わらずお熱いのねえ〜 ふふふ ジャマモノは退散するわ。
ね。 今度 二人で飲みましょ♪ 」
「 ふふ いいわねえ〜〜 雰囲気のいいワイン・バーをみつけたの。 いかが? 」
「 お〜らい♪ 楽しみにしてるわ〜〜 あ ・・・ カレシが待っているんだったわね。
じゃあ これで ・・・ あの彼にヨロシク〜〜 」
「 ありがとう ミナ〜 」
二人は軽く抱き合って頬にキスを交わした。
ミナはひらひら手を振って帰っていった。
うふふ ・・・ ミナ? 貴女だってカレシが外で待っているでしょ?
幸せそうな友人を フランソワーズも笑顔で見送った。
≪ ・・・ フラン ・・・? ≫
突然頭の中に 愛しいヒトの声が伝わってきた。
≪ ジョー ? ・・・ どこ。 ≫
≪ ふふふ きみのすぐそば。
≪ ・・・え? ≫
≪ 楽屋口にいるよ。 荷物 ・・・ 山盛りだろ。 ≫
≪ ええ・・・ありがとう! パーキングで待ってくれていていいのに ・・・ ≫
≪ オデット姫にご足労はかけられないよ。 舞台・・・ よかったよ! ≫
≪ ま〜あ ちゃんと見ててくれたの? 居眠り してた? ≫
≪ おいおい〜〜〜 ≫
≪ うふふ だって 『 白鳥〜 』 って 退屈でしょう? 特に二幕とか四幕の最初の方とか・・≫
≪ あのなあ? 今晩の主役は きみ! なんだよ?
もう〜〜〜 ぼくは最初の幕が上がる前から ドキドキ〜〜だったんだ〜〜 ≫
≪ あらあ〜〜 一幕はわたし、出番ないのよ? ≫
≪ ・・・ ! あ そ そう だっ・・・・ けど〜〜 そのぅ〜〜〜 ≫
≪ はいはい もういじめませんから。 すぐに行くわ〜〜 ≫
≪ お待ちしております、姫君。 ≫
≪ ふふふ ・・・ お上手ね。 ≫
脳波通信で思いっきり私的な甘い会話を交わし ― すっかり幸せ気分満杯になった。
「 お疲れ様でした〜〜〜 」
「 はい お疲れさん〜 」
楽屋口の守衛さんにもご挨拶を フランソワーズは楽屋口を出た。
「 ・・・ ジョー ・・・? 」
すぐ前にいるのか、 と思っていたけれど 見覚えのある影は近くにない。
「 ・・・ あら? パーキングまで戻ったのかしら・・・ きっと待ちくたびれちゃったのね。 」
くすっと笑って、フランソワーズはキャリッジ・カーをごろごろ引いて歩き出した。
「 ふふふ 本当にちゃんと見てたのかしらね? またいつもみたいに が〜が〜居眠り
していたのじゃないかなあ・・・ ま、それでも いいけど ・・・ きゃ!? 」
突然腕が伸びてきて するり、と彼女の肩に回された。
「 なにが いいけど なのかな〜 」
「 !? ・・・ ああ なんだ ジョー ・・・ びっくりした ・・・ 」
「 お。 < なんだ > ですか? ず〜〜っとお待ちしていたのですが? 」
「 もう〜〜 ジョーってばぁ ・・・ 」
くるっと身体を回すと 今度は彼女の方から彼の首へと腕を搦めてきた。
「 お〜や? 今晩の舞姫さんはずいぶんと積極的ですねえ ・・・?? 」
「 ・・・ ジョーってば イジワルぅ〜〜〜 」
「 ふふふ ・・・ね、 きみって黒髪がこんなに似会うだねえ! ステキだよ ・・・ 」
熱い息がフランソワーズの耳元をくすぐる。
「 ・・・ あん 〜〜 ・・・ もう ・・・ 」
今日の舞台で、フランソワーズは役のために黒髪に染めたのだ。
「 いいねえ ・・・ きみの亜麻色の髪、大好きだけど 黒髪もいいよ〜〜 いいなあ 〜 」
ジョーはほれぼれと彼の恋人を眺めている。
「 あ〜ら。 ステキなのは髪だけ ですか? 髪ばっかり見ていたのかしら? 」
「 じらしてますか? ぼくにそんな気はありませんが。 いつだって真剣です! 」
「 また イジワル〜。 いいもん、それなら。 わたし、一人で帰りますから。
ええ 今晩はこの近くのホテルに部屋をとってあります。 それじゃ ・・・ 」
つん と頭とあげると 彼女は踵を返そうとした。
「 お〜っとォ・・・ 待たせたのはどちらでしょう? ま いいけど さ ・・・
でも ウチに帰らないって本気? 」
「 よくないわよ〜〜 ええ 本気よ。 博士もね、今晩はこちらに泊まる・・・って仰っていたのよ。
明日 ちょうど知り合いの学者さんが来日なさるのですって。
だから隣あわせで部屋を取ったの。 ・・・ ゆっくり休みます。 」
「 おや そうかい。 それじゃ・・・ そのホテルまでお送りしますよ? 」
「 ・・・ 送るだけ? 」
「 はい? 」
「 わたし。 宅配便じゃありませんことよ。 」
「 あは? そんなこと、だ〜れも思ってませんってば。 ともかくワタクシめの
車までご案内もうしあげまする〜〜 」
ジョーは彼女の前で大仰に礼儀正しくお辞儀をすると 腕を取ろうとした。
「 あ ・・・ まあ そうなの? それじゃ車までお願いしますわ。 」
「 かしこまりました。 姫君 」
二人はクスク笑いあい、じゃれあい ・・・ パーキングへ歩き出そうとした。
「 ― あ。 いっけない・・! ヴァニティ・ケース、忘れてきちゃった。 」
「 なに ・・・ケース? 」
「 ヴァ二ティ ・ケース。 メイク道具を入れているのよ。
楽屋に置きっ放しだわ きっと。 ちょっと取ってくるわね。 」
フランソワーズはすぐに引き返そうとしている。
「 おいおい・・・ぼくが行ってくるよ。 どんなケースか詳細を教えてくれ。 」
「 え ・・・ ジョーが? ・・・ それは止めたほうがいいかも ・・・ よ? 」
「 なぜだい。 ぼくが ぱっと行ってぱっと取ってくれば一番早いだろ? 」
「 ・・・ だってどんなケースか わかる? それに楽屋にはまだ残っているヒト、結構いるわ。
女子の楽屋 よ? 」
「 あれ ・・・ プリマさんは個室、 じゃないのかい。 」
「 バレエ団のプリマさん は そうよ。 でも わたしは プリマさん じゃないもの。
今日 たまたま一回だけ! 芯 を踊っただけ の新人だわ。 」
「 ・・・ なかなか厳しいですな。 」
「 うふふ・・・ ジョーの世界だってそうでしょう? 」
「 まあ ね。 じゃあ ぼくがその荷物の山をここで見ているから。
きみ 取りに行ってこいよ。 」
「 ええ そうするわ。 すぐ!だから ・・・ 待っててね。 」
「 はいはい 大丈夫ですよ。 」
「 荷物はね これとこれと ・・・ あ これは大事に持ってね。 潰さないで ・・・
ああ お花はちゃんと抱えていてね。 せっかくの薔薇の花がくしゃくしゃになっちゃう 」
フランソワーズは あれこれ細かく注文をだすと、かな〜り多くの荷物を押し付けた。
「 うん ・・・ わ ・・・っと。 あ ・・・ これは肩から ・・・ うわ 重い〜〜〜
え ・・・ これは両手で、 か ・・・ いて! 棘があった あ 〜〜 」
「 じゃ 行ってくるわ! 」
「 ああ ・・・ 気をつけて ・・・ 」
ダッシュで戻る彼女を ジョーは荷物に埋もれつつ見送った。
「 ・・・ ひえ〜〜〜 ・・・・ アイツ、 いつもこんなに荷物、持ってるのか〜〜〜 」
サイボーグだって荷物運びはあまり嬉しいことじゃないのだ。
やれやれ。 荷物の間から首を伸ばし歩き出そうか・・・と思ったとき。
「 ・・・ あの? すみません ・・・ 」
荷物人間の後ろから 細い声が尋ねたきた。
「 ! はい??? 」
「 あの ・・・ 駅に出るにはどうしたらいいのでしょうか。 」
「 ・・・ は? 」
振り返ったジョーの目の前には 若い女性がしな〜〜〜っと内股で立っていた。
栗色の髪が背に渦巻き、パンダもびっくり!な目化粧である。
ぱさぱさと睫毛が音をたてそう ・・・ に ぱちぱちやっている。
「 道に迷ってしまって ・・・ 駅、ご存知でしたら教えてくださいません? 」
「 あの ・・・ 駅 って。 JRの、ですか。 」
「 ええ 」
「 ・・・ あの〜〜〜 目の前 ですけど? 道の向こうが駅舎ですよね? 」
振り返れば駅ホームの灯りも見える場所なのだが・・・
「 あ ・・・ そうですの? あら! まあ〜〜 すごいお荷物ですのね。
ひとつ、お持ちしましょうか。 キレイな花束ね。 」
「 いえ 大丈夫です。 じゃあ これで 」
「 あ! 待ってください〜〜 あの あの 駅って。 地下鉄の、なんですけど。 」
「 え? さっき JR って ・・・ 」
「 ごめんなさい、勘違いでしたわ。 あの 地下鉄の駅 に出たいのですが ・・・ 」
「 ・・・ あの〜〜〜 目の前に 矢印ありますよね? ほら ⇒ 東京メトロ って。 」
ジョーは荷物の中から えいや! と片腕を抜き頭上を指した。
たしかに はっきり・くっきり道案内表示があり ⇒ 地下鉄 と書いてある。
「 あ あの あの 〜〜 でもここからは地下鉄、 見えませんわ。 」
彼女はなぜかシツコク食下がり ジョーの側にぴたり、と縋りつく。
「 ( わわ ・・・ ) あのォ〜〜 地下鉄 ですから。 地下に居ますよね? 」
「 まあ 〜 そうなんですか? 途中までご一緒していただけません?
もう夜ですし ・・・ この辺はお店もなくて暗い ・・・ 」
女性は心細そう〜〜〜に周囲を見回している。
「 ・・・ ここ、 パーキングへの道ですから。 コンビニとかはないですよ。
「 え ええ ・・・ でも 私 道がわかりませんの。 一緒に行ってください〜〜 」
「 ・・・ うわ? 」
ぎゅ・・・っと腕を引かれ 荷物いっぱいのジョーは一瞬足元が揺れた。
「 わわ ・・・ ! 」
「 ああ ごめんなさい。 あの〜〜お詫びにお茶でも・・? 美味しいカフェ 知ってますわ。 」
「 はああ?? ( おいおい この辺は初めて って言っただろ〜が! ) 」
さすがのジョーも 心の中で激しくツッコミをいれていた。
「 ね? ステキな舞台のあとのステキな夜なですもの ・・・ ステキなムッシュウと
お茶 ・・・ いいでしょう? 」
パフン ・・・ やたら濃い香水の香りが ジョーをとりまく。
「 ( うぷ・・・ ) あのですね、ぼくはちょっと急いでて ・・・
じゃあ 途中まで一緒に行きますから。 ほら ここをまっすぐ行けば 地下鉄への入り口が
すぐですよ。 あそこですよ。 」
ジョーは仕方なくパーキングとは逆の方向に向き直った。
「 ねえ ・・・ ステキな腕ですのね。 しなやかで軽くて ・・ いい気持ち♪ 」
女性はますますジョーに密着〜〜で ある。
「 あの ・・・ もう〜〜 それじゃ道を渡るまで行きますよ! こっちです。 」
うんしょ・・・っと大荷物・もろもろ ・・・ を抱えなおすと、ジョーは先にたって
歩き始めた。 件の女性は もうぴ〜〜〜〜ったり♪ 張り付いている。
「 まああ〜〜〜 嬉しい♪ ねえ この辺りはやはり芸術家には相応しい環境ですわね。
ここは芸術の森 ・・・ 劇場に美術館に ・・・ デートには最適ね。 」
「 ・・・ ( はああ ??? ) 」
ジョーはもう憮然としてさっさと歩いてゆくのだが 女性は一人でべらべら喋りまくり・・・
相変わらず一歩も遅れまいとぴったりくっついている。
くそ ・・・! 我慢だ! 道を渡って少し坂を下るまでだっ !
「 うふ ・・・ 無口な方って 気持ちが熱いのよね。 ちゃ〜んとわかってますわ〜 」
「 ・・・ ( 知るか! ) 」
傍目にはカップル な二人は その実、ぎくしゃくと歩いていった。
タタタタ ・・・・ ! 軽い足音が戻ってきた。
「 ・・・ ジョー! ごめんなさい! ・・・・ あ ら ・・・? 」
小さなケースを手にフランソワーズは走って来たのだが ― 先ほどの場所には
< 荷物の山 > を抱えた人影はなかった。
「 ジョー ・・・? あ 先にパーキングまで行ったのかしら。
ごめんなさい〜〜 途中で先生にご挨拶をしていたのよ ・・・ 」
彼女は一応くるりと周囲を見回した。
「 やっぱり先に行ったのね。 え〜と ・・・ こっちよね ・・・
え ・・・? 足が 停まった。
ジョー ・・・・・ ?
道の向こう、坂を下ってゆくカップル。 あの後ろ姿は ― 見間違えるはずなんかない。
彼女を待っているはずのヒト ・・・ ジョーなのだ。
彼はごたごたと荷物を持ったまま 側には若い女性がぴたり、と寄り添って
後ろ姿は仲睦まじ気に歩いているのだった。
「 ・・・ また ・・・ 」
ふううう ・・・・ 深い深い溜息が 彼女の口から漏れる。
「 ・・・ 先に行くわ。 パーキングで待ってる ・・・ ちょっと気になった、のでしょ?
きっと道でも尋ねられて ・・・ 放っては置けなかったのでしょ ・・・ いつものことよね ・・・ 」
ふう ・・・ 今までの疲れがどっと、一気に圧し掛かってきた ― たった一つにヴァニティ・ケース
がやけに重い。
「 ・・・・ そう。 あなたってそういうヒトですもの ね 誰にだって優しい ・・・ そうよ、そんなヒト ・・・
ええ もう慣れているわ 」
今夜の舞姫は足取りも心も重く たった一人で歩いていった。
― カツーン ・・・! パーキングのゲートドアをあけた。
このパーキングは主要施設から少し離れているので、いつも空いている。
常連客はソレを知っているから わざわざこちらまで回って利用しているのだ。
ジョーもその一人 ・・・ フランソワーズのお供で舞台鑑賞の時には たいていココを利用する。
「 ・・・ っと? ああ いつもの場所ね 」
彼女はゆっくり車の間を縫って ジョーの車に近づいてゆく。
「 ・・・ でも ここで待つの、ちょっと怖いわ。 ・・・ 先にホテルまで行っちゃおうかな。
荷物は コレとハンドバッグだけ だし ・・・ 」
多分10分くらい待てば 彼は息せき切って戻ってくるだろう。 そして ―
ごめん! 道を聞かれてさ ・・・ この辺りは初めてっていうから ・・・
駅まで送ってきたんだ。 待たせてごめん!
大荷物を持ったまま ・・・ 髪をみだしてシャツもきっとジャケットもぐしゃぐしゃにして
駆けてくるに違いない。
「 ・・・ そう よね。 それで真剣に謝ってくれるの。 ごめん! って。
それで ・・・ 聞けば 大真面目に < 迷ってたヒト > のこと ・・・若くて綺麗な
お嬢さんのこと、話してくれるの よ ・・・ けど。 」
そう。 ― いつも いつも いつも ・・・・ そうなのだ。
ジョーはいつだって大真面目 なのだ。 浮ついた、いい加減は気持ちで その女性を
案内したのではないだろう。 それはよ〜〜くわかっている。
けど。 ― もう たくさん。
ぷつり、となにかが彼女の内側で 切れた。
「 わ わたしだって わたしにだって 限界 があるわ。
アナタが真剣だから 大真面目だから だから 余計に ― もう 知らない! 」
水色の瞳からぽとぽと涙が落ちる。
誰もいないのを幸いに 彼女は思いっ切り泣いて、すこしすっきりしたらしい。
「 そうよ。 いつだってわたしが黙って待っている・・・ なんて思ってもらっちゃ困るもの。
今日は先に帰ります。 そうね〜〜 車にメモ、張っておくわ。 」
脳波通信は どうしても使いたくなかった。
「 ・・・ そんなに 便利なオンナ って思われたくありません。 ぷん。 」
一人で泣いたり怒ったりしつつ 広いパーキングの中を進んでゆく。
「 あ 〜 またこんな奥に停めて ・・・ ま いいわ。 メモを ― 」
ジョーの車に寄りかかりメモを書着始め ・・・
「 Pardon Mademoiselle ? 」
突然 車の陰から声が響いてきた。
「 !? ・・・ だ 誰!? 」
咄嗟にバッグを抱え屈みこみ身構えてしまった。 イヤな記憶が蘇る・・・
右手でポケットの奥の護身用のミニ・スーパーガンを探った。
「 あ ・・・ すみません。 脅かしてしまったかなあ 〜 」
のんびりした声と共に 長身の青年がふらり、と出てきた。
「 ・・・ 誰 ・・・ですか。 何か ・・・ 用ですか? 」
フランソワーズはジョーの車の陰から 用心深く応えた。
「 あの〜〜 なにもしません。 ってか 僕、 ず〜〜〜っと待ちぼうけ食ってて・・・ 」
「 は? 待ちぼうけ? 」
「 ええ。 裏の駐車場で待っているって言われて ・・・ ここまで来たのですが。
いくら待っても運転手・・・いや と、友達が来ないんですよ。 」
「 裏の駐車場? それはもしかして劇場の裏 のこと? 」
「 そうです。 僕は今晩 大ホールにバレエを観にきたのです。 」
「 まあ ・・・ あの ・・・ それでしたらこのパーキングのことじゃありませんわ。
貴方は反対側に来てしまったのね。 」
「 え・・・!? 参ったなあ〜〜 それでいくら探してもウチの車はないし
ずっと待っててもこない・・・ってワケか ・・・ 」
「 ふふふ あのね、< 裏の駐車場 > は ここからでて左に折れて ・・・ 」
フランソワーズは 車の陰から出て道順を説明し始めた。
「 あ ・・・ はい ・・・・ あ あれ?? 」
「 だから近道は ― はい ? あの ・・・ なにか? 」
目の前に立つ青年が じ〜〜っと、ひたすらじ〜〜〜っと彼女を見詰めている。
? なに ・・? 不審者?? そんな風には見えない・・・けど。
・・・・ ( 失礼! ) ・・・ 普通の 生身な人間だし。
「 あの。 わたしの顔、なにか着いてますか? 」
「 オデット姫!!! そうですね?? 」
「 ― は? 」
「 貴女! さっきの舞台で オデット姫 を踊った方ですね!
いえいえ 僕はヒトの特徴を覚えるのは得意ですから。 あなた でしょ! 」
「 え あ はい、わたし、オデットを踊りました。 よくご存知ですね。
あの 舞台を観てくださったのですか? 」
「 はい。 実は ・・・ 仕事 で観にいったのですが・・・ 」
「 仕事? ああ ・・・ 取材ですか? 」
「 あ いえ いえ ・・・ まあ〜 そんなようなモノです。
で 何気なく拝見していたのですが。 白鳥姫が登場してすっかり舞台に釘付けです。 」
「 まあ ・・・ 」
「 あなたこそ私の理想の女性です、オデット姫! 僕はこの時のために生まれてきたのです! 」
「 ・・・ はあ? 」
「 素晴しい舞台でした! 素晴しい踊りでした!
あああ 〜〜〜 僕は もう 一目で貴女に恋してしまったのです〜〜〜 」
「 は ・・・・ あ ・・・ 恋? ですか・・・ 」
「 はい! それで ちょっとでもお話できれば・・・ と お付に無理を言って ですね 」
「 おつき?? 」
「 い いえ! 一緒に来た友に頼んで 面会 ・・・ じゃなくて 取材を ですね 」
「 はあ? 貴方は どなたですか。 随分 この国の言葉が上手ですのね。 」
「 貴女は ・・・ ああ 貴女もこの国の乙女ではないようですね? お目の色が 」
「 うふふ・・・ この髪は染めているだけです。 はい、わたしはフランス人です。
あなたも ・・・ 同じ大陸の方ではありません? 」
青年は パーキングの薄暗い灯にもはっきりとわかるプラチナ・ブロンドにブルー・グレーの瞳だ。
「 そうです。 こちらへは その ・・・ 仕事で 」
「 ああ 新聞とか雑誌のお仕事ですか? 」
「 え〜〜〜 まあ そんなモンです。 で 地理には不案内なので どうやら場所を
間違えてしまったらしい。 < 裏の > って 建物の裏ってことじゃないんですね 」
「 うふふ ・・・ この国の言葉は難しいですよね。 あの、お探しの駐車場は 」
フランソワーズはやっともとの話題に戻れる、とほっとしていた。
「 −−−− ハックション〜〜〜〜!!! 」
「 ? あら。 コートは? 」
「 あ は 車に置いてきてしまって ・・・ ハックション ・・・! 」
よくみれば青年は ジャケットだけ、なのだ。 それも上質な < 社交用 >、つまり
寒さを防ぐ とかの実用度はかなり低いものだ。
「 あらら ・・・ それじゃこの季節、寒いですわ。 風邪ひきます。 」
「 あは ・・・だらしないですね。 ハックション! 」
「 ご一緒しますわ。 裏の駐車場に戻りましょう。 」
「 いや それは。 マドモアゼル、 貴女はお帰りになるところだったのでしょう? 」
「 あ わたしもココでヒトを待つはずなんです。 でも ・・・ いいわ。
行きましょう ! 」
「 あ ・・・ は はい ・・・ 」
「 こちらです。 」
フランソワーズは 早足でずんずん歩いていった。
「 ― うわああ ・・・・ すごい♪ 」
青年は 店の中をぐるり、と見回し ― 心底感嘆の吐息をもらす。
「 あら 初めてですか? 」
「 はい! 一人で外出ってあまりできないので ・・・ あ! あの! 旅先では、って意味で。
そのう〜〜 じ、上司と一緒だったもので ・・・ 」
「 そうですの? この国はどこに行っても安全です。 それはとても羨ましいな、と
思っています。 」
「 そうですよね! 賑やかな店だなあ。 皆 陽気に笑ったり喋ったり・・・
う〜〜ん ・・・ ビストロ とも違うし ビア・ホールとも ・・・ 」
「 あのね。 ここは izakaya。 若者やら家族連れや・・・気楽に食べて飲んで。
盛り上がって騒いでもあまり叱られないところです。 」
「 なるほど。 一度 来てみたかったんですよ〜〜 うわ〜〜〜 感激だなあ〜〜 」
「 あの〜〜 何名さまですか〜〜〜 」
じりじりしていた店員が口を挟んだ。
「 あ 二人です。 」
「 は〜〜い 二名さま〜 御案内しま〜〜す。 あ 喫煙席ですか? 」
「 いいえ。 禁煙席でお願いします。 ? あの ・・・ 」
フランソワーズは つん! と青年のジャケットの裾を引いた。
「 ― へ?? 」
「 ほら ・・・ 座りましょう。 こっちみたい。 」
「 あ す すいません あまりの ヒト ヒト ヒト なんで・・・ 」
「 ふふふ すぐに慣れますわ。 」
「 ハイ ・・・ あ ここですか。 ふうう〜〜ん ・・? 」
彼は席に案内されてからも 辺りの観察に熱中している。
「 さあ なににします? あ 食べられないもの、ありますか。 」
「 え? ・・・ わあ〜〜 キレイですねえ〜〜 すごいなあ〜 」
彼はフランソワーズが広げた大判のメニュウ ― 写真とコメントつきのいわゆる居酒屋版
― を 感心して眺めている。
「 ふふふ この国のヒトはこういう細かいことをするのが好きみたい。
どれにします? え〜と 飲み物は・・・ あ。 アルコール類は大丈夫よね? 」
「 はい! うわ〜〜 ・・・ ワクワクしてきた! 」
「 じゃ ・・・ まずはビールね。 それで っと。 」
フランソワーズもわくわくする気分でメニュウを選びはじめた。
・・・ ジョー以外の男性、それも ほとんど<見ず知らず> のヒトと 二人きりで食事をする。
それが居酒屋であっても 彼女には大冒険だった。
結局 ・・・
― < 裏の駐車場 > に青年の < 先輩 > の車はこなかった。
少しの間 一緒に待っていたのだが ・・・
「 遅いなあ〜〜 いったい何をして ・・・ ヘックショーーーーン !! 」
「 あら ・・・ ねえ やっぱりどこか ・・・ 暖かいところに行きましょう。
このままここにいたら 貴方、完全に風邪を引いてしまうわ。 」
「 え でも ・・・ ヘックション!! 」
「 ここにメモを残しておきましょう。 それに ね? わたしもお腹 ぺこぺこなの。
あなたもでしょう ムッシュウ? 」
「 え あ ・・・ ははは ・・・わかります? 」
「 ええ。 ごめんなさい、 聞こえちゃったから。 そのう ・・・ 」
「 あは。 派手に腹の虫が鳴いてくれたもんなあ〜〜 」
青年は 赤くなってアタマを掻いている。
「 だ〜いじょうぶ。 わたしのも もうきゅうきゅう鳴いてますから。 あのね ・・・
簡単なビストロみたいな店がすぐそこにあります。 そこに行きましょう。 」
「 え ・・・ あの。 僕 そのぅ・・・ なにも ・・・ 」
「 ご心配なく。 ごく大衆的な店ですもの。 さあ ? 」
「 そ そうですか? ハックショ〜ン ! ・・・ で では ・・・ どうぞ? 」
彼は すい・・・っとごく自然に彼女の腕を差し出した。
あら ・・・。 ふふふ ステキな坊やね?
ちょっと ・・・ 兄さんに似てる かしら。
・・・ いいわ。 わたし。 このデート、楽しんじゃう♪
「 メルシ、ムッシュウ。 あ わたし フランソワーズ です。 」
「 あ! 失礼しました。 僕はテオドール ・・・ いえ テオ と呼んでください。 」
「 あら ステキね。 じゃあ こっちですわ。 」
「 マドモアゼル? では ご一緒に。 」
「 はい。 」
プラチナ・ブロンドと黒髪 ( 染め! ) は しっくりと寄り添い夜の街へと歩いていった。
― 居酒屋めざして。
いわゆるチェーン店のお手軽居酒屋で ― 隅っこの目立たない席は < 大騒ぎ > だった。
プラチナ・ブロンド と 黒髪の 美男美女の外人カップルが、いちゃいちゃ ・・・ いや!
なんにでも感嘆する彼氏に その彼女の方はいささかもてあまし気味風でもある。
初っ端から 彼氏は目をまん丸にしていた。
「 わは ・・・ こ これ なんですか? なにかのカタログ??? 」
「 なに・・ってメニュウよ。 この手のお店のはね〜〜お料理の写真入りでいろいろコメントも
書いてあるの。 これはね、カロリー数ね。 」
「 へえ・・・!? カロリー表示まで?? すごい ・・・ さすがに国民皆ホケンの国だなあ 」
「 ??? ともかく! これを参考にして ― 何が食べたい? 」
「 え え え ?? た 食べたいモノ、選んでいいのか ・・・な? 」
「 勿論。 あ ・・・ 心配しないでね、こういう店はバカ高いこと ないから。
今晩、 わたしの舞台を観てくださったテオへの お礼のつもりよ。 」
「 え ・・・ そ そんな 」
「 いいの。 素直に受けてくださいな。 ねえ! なにが食べたい? 」
「 うわ♪ うわ うわ〜〜 えっとォ 〜〜〜 」
青年は 小さい子供みたいに、あれこれメニュウを舐めんばかりに眺め 吟味していた。
そんなわけで。 二人が満腹して店をでるまで、カレシは興奮気味だった。
「 ・・・ ふぁ〜〜〜 ああ ・・・ 酔い覚ましに冷たい海風って。 最高〜〜〜 」
「 ・・・・・・ 」
そんなに飲んだわけでもない。 それに フランソワーズはこのシチュエーションを
しっかりと把握しているから、 どうしても 監視役 になってしまう。
「 あ 〜〜〜〜 あれもこれも全部!美味かった!! ふうん ・・・・ ♪ 」
「 そうね、 芋焼酎のチューハイとか 美味しかったわ。 」
「 ですよねえ〜〜〜 ふふふ 〜〜 ちゅ〜〜はい〜〜〜 」
テオはご機嫌 ・・・ というよりもかなり酔っているのかもしれない。
ちょっと ・・・大丈夫かしら。
ワイン以外は ダメ ・・・ じゃあないのね
でもねえ ・・・ ただの タコ山葵 とかにも感動するんですもの・・・
・・・ もしかして。 居酒屋とか 初めて??
― カツン ・・・! 足元の小石を蹴飛ばしてしまった。
「 ほら ・・・ お気をつけて。 段差が多いですから。 」
「 ・・・ は あ ・・・・ ( 酔っているクセによく気がつくのね? ) 」
「 ふん ふん ふん〜〜〜 ちゅ〜〜はい ってこんなに陽気な気分になれるんですね!
ふわふわ〜〜〜 あれれ 足元が緩いぞ? スポンジの上かなあ〜 」
「 テオ! 気をつけて〜〜 ほら 次の角を回れば 駅が見えてきますよ。 」
「 ・・・ あ ホントだあ〜〜 電車 ・・・ 乗りたいなあ ・・・ 」
「 ・・・ はい? 」
「 だからぁ〜〜〜 電車に乗ってみた〜〜い ・・・ あ ・・・ うわっ!? 」
ふらふら ・・・ 足下がおぼつかないまま だんだん人通りが激しい地区まで
坂を下りていた時 ・・・
ズル ・・・! テオはバランスを崩し 道路側に大きく身体を傾かせてしまった。
ヂリヂリヂリ ッ !!! 後ろから来た自転車が派手に警笛を鳴らし
彼にすぐ脇を掠めて追い抜いていった。
「 わ ツ ?!?! 」
「 きゃ ・・・危ないわあ〜〜 ほらこっちに避けて。 」
「 ・・・ う ? うん ・・・ やだ〜〜 あの自転車、おれなら ・・・ 乗りたくな〜いぞ〜 」
「 大丈夫 テオ?! こっち 来て ・・・ 道を通るヒトの邪魔よ。 」
「 う〜〜ん まっすぐ歩いているつもり なんですが〜〜 」
「 ほらほら ・・・ こっちきて。 」
「 ハイ。 う〜〜 ?? 地面が揺れて〜〜ますねえ?? ああ この国は地震が多い・・・ 」
「 ちょっと ・・・ しっかりして? 地震じゃないわよ、 貴方が酔っ払っているだけ。 」
「 え〜〜 僕、 酔ってないれす〜〜〜 うわん? 」
どん。 今度はすれ違いざまに通行人とぶつかってしまった。
気をつけろっ !! 罵声が飛んできたが ・・・ それだけですんだ。
「 テオ 〜〜〜 」
「 う〜〜〜 なんだとォ〜〜〜 こらぁ 〜〜 」
彼は 誰もいない虚空に向かって大きく蹴り上げ ―
すって〜〜ん ・・・! みごとに舗道にシリモチをついた。
「 うわ〜〜〜??? 」
「 きゃ ・・・ ちょっと 大丈夫?? 」
「 あは ? な〜〜んか ・・・・世界が回ってます〜〜よ? 」
テオはそのまま道に大の字になって ― のんきなことを言っている。
「 やだ ・・・ ねえ アタマ、打ったのじゃない? クラクラしないの? 」
「 ・・・ あ そういえば ・・・ なんだか〜〜 う〜〜ん ・・・・ イテテ ・・・ 」
「 !? 救急車 呼ぶわ! ちょっと待ってて 」
フランソワーズは慌てて近くを見回した。
「 ・・・ うそ ・・・ 最近 公衆電話ってないの?? あ! 道の向こうに見〜つけ!
テオ! もうちょっと我慢して。 すぐに救急車を 」
「 あ ・・・ ! フランソワーズさん そ それは ・・・ やめてください ・・・ 」
「 え!? だってアタマ、打ったのよ? 」
「 だ 大丈夫・・・多分・・・ そ それに救急車は ・・・ ちょっと ・・・
僕の あ〜〜その〜〜 な 仲間! 仲間に迷惑がかかるので ・・・ 」
「 仲間? ああ 一緒に日本に旅行にきた友達のこと? 」
「 友達 ・・・ あ は はい! そうなです〜〜 ヤツは そのう〜〜 ちょっと ・・・
仕事柄 あんまり行動をオープンには出来ない立場なので ・・・ 」
「 まあ そう ・・・ いろいろ事情があるのね? 」
「 ・・ はあ 」
「 でも そのアタマは心配だわ ・・・ ああ そうだ! 博士に診てもらいましょう? 」
「 ― 博士? 」
「 ええ。 わたしの ・・・そうね、親代わり、父みたいな方なの。 臨床医じゃないけど、
医学の知識は充分だから 安心して。 」
「 ・・・ それは 嬉しいですが ・・・ でもご迷惑じゃ ・・・ 」
「 あのねえ 〜〜 舗道の真ん中に寝っころがっているほうが ず〜〜っと < ご迷惑 > よ?
このままだとお巡りさんがくるわ。 」
「 え! そ それはもっとマズイです 〜〜 あ ・・・ ツゥ 〜〜〜〜 」
テオは 慌てて起き上がったが やはりアタマを押さえ呻いている。
「 ほうら ごらんなさい? 安静にしていなくちゃ ・・・ この近くのホテルにね、 父と部屋を
取ってあるの。 行きましょ。 タクシー、拾ってくる! 」
フランソワーズは ぱっと駆け出していった。
「 あ ・・・ ・・・ う〜〜〜 なんてドジなんだよ 僕は ・・・ やっぱダメだなあ ・・・ 」
テオは手近な街灯に寄りかかりなんとか立ち上がり ― 溜息をついていた。
「 ・・・ まあ 大事ないじゃろ。 派手にコブになっておるからの・・・
今晩一晩 きっちり冷して安静にして様子を見よう。 」
博士は フランソワーズが連れていた珍客に目を丸くしたが すぐに診察してくれた。
「 ありがとうございます。 いきなりの訪問、失礼しました。 」
テオはまだ酔いが残っている様子だが しゃんとして礼を述べている。
「 よかった・・・! あ それじゃわたしの部屋にどうぞ。 」
「 !? そ そんなコトは ! 」
「 いいのよ。 わたしは 父の部屋に移るから。 ねえ いいでしょう? 」
「 ああ 良いよ。 ここはツインだし ・・・ ただしワシのイビキに文句をいうなよ? 」
「 わかってます、ちゃんと耳栓をしておくわ。 」
「 ・・・ 仲良し親子さんで いいですねえ ・・・ 」
テオは二人のやりとりを泣き笑いみたいな顔で眺めている。
「 じゃ ・・・ わたしの部屋へ どうぞ? 」
「 ― ぼくが送ってゆくよ。 」
「 ? ジョー ・・・ 」
ドアがゆっくりと開き ジョーがひどく冷静な表情で入ってきた。
「 はい 花束。 大切なんだろう? 」
パサリ ・・・ ピンクの薔薇の花束が差し出された。
「 え ・・・ ええ ・・・ アリガトウ ・・・ 」
「 きみのメモを見て ― 慌ててホテルまで帰ってきた。 」
「 ・・・ 荷物、 ありがとう。 助かりました。 」
「 どういたしまして。 で ― ずっと待ってた。 探しに行こうと思ったけど ・・・・ 」
「 まあ 友達とでも打ち上げでもやっておるのだろう・・・とワシが止めたよ。
舞台の後じゃものなあ 〜 」
博士が 何気なくフォローしてくれるのだが ・・・ ジョーの表情は崩れない。
「 心配したんだ! その ・・・ 連絡は取れないし。 」
「 ・・・ あ ごめんなさい。 ・・・ 切っていたの。 」
「 ! どうして ・・・ 」
「 あ 〜〜 すみません。 僕が そのう 〜〜 ご迷惑をかけてしまって ・・・ 」
テオも一生懸命で取り成してくれた。
「 ― こちらは? 」
「 お友達とはぐれてしまって ― 道に迷っていらしたの。 だから 」
「 一緒に 飲みに行った のかい。 」
「 お食事に行っただけです。 彼 ・・・ コートを置いてきてしまったし ・・・ 」
「 それで酔っ払って ・・・ きみが介抱してたってわけか。 」
「 ええ そうよ。 いいでしょう? 」
「 別に悪い、なんていってないさ。 友達思いだもの、きみは。 」
「 ジョー。 どうしてそんな風な言い方をするの?
わたしだってお友達とお食事、してもいいでしょう? ジョー だって 」
「 ? ぼく が? 」
「 ええ。 道に迷っていたの? あの女性 ( ひと )。 いい雰囲気だったわね。 」
「 あのヒトは 道を聞いてきたので 」
「 ええ ええ わかっているわ。 ジョーっていつだってとっても親切だもの。
放っておけなかったから ・・・ 送っていったのでしょ。 」
「 あ あのう ・・・ 僕、 やっぱり帰ります ・・・ 」
どんどん険悪なムードになる二人の間に テオがやんわりと割って入った。
「 えっと ・・・ ムッシュウ? 本当に僕がマドモアゼルにご迷惑をかけたのです。
大変失礼しました。 どうぞ誤解なさらないでください。 」
「 ああ 君 ・・・ 動いて大丈夫かの? 君の主治医に手紙を書いておくよ。 」
博士も慌てて言葉を添える。
「 ありがとうございます、 ドクター。 それじゃ 僕は ― 」
「 だめよ テオ。 わたしが送るわ! ジョー? あなたのコート、貸してね。 」
「 どうぞ。 」
― バタン。 フランソワーズはテオの腕を引いて出ていってしまった。
「 ・・・・・・・・・・・ 」
「 まあ ・・・ その。 心配はいらん ・・・と思うが。 トウキョウは治安もいいし ・・・ 」
「 ― お休みなさい。 帰ります。 」
「 ジョー 帰るって ・・・ ウチへ か。 」
「 はい。 ぼくのウチはあの崖の上の ・・・ ギルモア研究所 ですから。
博士 お休みなさい。 」
ジョーは 静かにドアを閉め静かに帰っていった。
「 ! ・・・ やれやれ ・・・ ナントカは犬も喰わん ・・・ か ・・・ 」
はあああ ・・・・ 博士はなんだかどっと疲れてしまった。
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updated : 12,11,2013.
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******** 途中ですが
こんなフランちゃんは 新ゼロ・フラン じゃあないかも・・・
どうも 平フランちゃんっぽい??
まあ たまには反撃?してもいいよねえ ・・・ フランちゃん♪