「 ・・・ それで・・・アイツはこれを君に・・・? 」
「 ・・・・・ 」
ジョ−は小刻みに震えているフランソワ−ズの肩をもう一度抱き寄せた。
「 ・・・兄が ・・・ もう生きてはいない、とは思っていたわ。 
 ・・・わたしの存在なんか ・・・ とっくに忘れ去られこの世から消えてしまったと
 思ってた・・・ 」
「 フランソワ−ズ ・・・ 」
「 すぴかは・・・パリに留学してから ・・・ 時間があるときに
 捜していたそうよ。 ・・・その ・・・ 兄と ・・・わたしのお墓を。 」
「 ・・・ うん、知ってた。 」
「 ・・・ ジョ− ? 」
「 じつはね。 すぴかに頼んだのは ぼくなんだ。 
 アイツがパリに行く前に ・・・ 出来たら調べてほしいって・・・・ 」
「 ジョ− ・・・ そんなこと、ひと言もわたしに言ってくれなかったじゃない? 」
「 ・・・うん・・・ごめん。 黙ってて・・・。 」
ジョ−はするり、とフランソワ−ズの身体を引き寄せ向かい合わせになった。
白い頬に涙の跡はあるが、その瞳ははっきりと彼に向けられている。

深い碧の瞳が 明るい光を湛えジョ−をじっと見つめる。

・・・ああ。 この瞳、この光。
ぼくは ・・・ 幾度この輝きに救われ、勇気づけられてきただろう・・・

激しい硝煙たなびく中でも、 絶望的とも言える状況でも。
こころが千切れそうに悲しいときも、 生きる意味が見出せないときも。
彼が振り返ればいつもこの瞳が あった。
つよく、暖かい光をたたえ、まっすぐに彼に注がれていた。

・・・ ジョ−。 大丈夫よ。 わたしがいるわ。
あなたは ひとりじゃない。

彼女は何もいわなかったけれど、彼女の瞳はいつもそう、彼に語りかけていた。

ぼくは この瞳、この光の持ち主にずっと護られてきたんだ。


「 実は・・・ ずっときみのお兄さんのことを・・・その消息を調べていたんだ。
 ピュンマも協力してくれてね、いろいろと軍関係の情報とかも当たってくれていた。 」
「 ピュンマも・・・? ・・・でも、どうして? いつから・・・ 」
「 うん・・・ もう、言ってもいいかな。 これはね、博士の遺言なんだ。 」
「 ・・・! ギルモア博士の・・・? 」
うん、とジョ−は頷くと 額に纏わっていたフランソワ−ズの髪を掻きやった。

ジョ−達、島村家の<おじいちゃま>として ずっと一緒に暮らしてきたギルモア博士は
5年前にその生涯を閉じていた。
二人の愛らしい孫たちに囲まれ、幸せな晩年だったが、博士は亡くなる寸前まで
寸暇を惜しんでサイボ−グ達の資料を纏め最新・最良のものにバ−ジョン・アップしていた。
大きなミッションも最近ではほとんどなく、平凡だが幸せに暮らす彼の<子供達>の
人生に安堵して永遠の眠りについたのだった。

「 亡くなるちょっと前にね。 ぼくにみんなの<資料>を渡して・・・
 出来たらフランソワ−ズの家族の消息を調べてやっておくれって。 」
「 ・・・ わたしの ・・・・ 家族 ・・・・ 」
「 あの、きみの時計。 あれを・・・その、保存しておいてきみに返したのは
 博士だろう。 ・・・ずっと、気にかけていたそうだよ。 」
「 ・・・ 時計、 ええ、あの兄から貰った・・・ あの・・・ 」
「 うん。 博士もあれを見て、きみの家族のことを心配していた。
 出来る限り調べてほしいってね。
 それで・・・ その後ぼくが仕事でフランスに取材に行った時、判ったんだ。
 ジャンさんは さらにその5年前に亡くなっていた。 」
「 ・・・ そう・・・ 」
「 だけど、それ以上はわからなくて。 詳しいこと ・・・ 家族とかお墓とかは
 わからなかった。 」
「 それで ・・・ すぴかに・・・ ? 」
「 うん。 アイツがわざわざパリに留学したいって希望したのも
 きっと<なにか>あると思ったし。 」
「 ・・・ ずるいわ〜 わたしに黙って・・・・ 二人で共謀して。 」
フランソワ−ズはつん、と口を尖らせた。
そんな様子は ジョ−の娘とそっくりだった。
「 だから〜 ごめんって。 アイツがもっと詳しく調べてきたら
 きみに話すつもりだったのさ。 それを・・・う〜ん、抜け駆けしたな?? 
 きみの誕生日の最大のプレゼントにしよう、って約束してたんだぜ。 」 
「 ふふふ ・・・ 本当に・・・もう〜〜 二人して・・・ 」
本気で悔しがっている夫の様子に いつしかフランソワ−ズは涙をこぼして笑っていた。

「 もう・・・ そっくりなんだから・・・ あなた達・・・ 」
「 え・・・そっくりって・・ ぼくとすぴかが? 」
「 そうよォ〜 もう、二滴の水みたいよ ・・・ええと、なんだっけ・・・<瓜二つ >? 」
「 ・・・そうかなぁ?? 」
「 ふふふ。 あのコ、顔はわたしに似てるけど、中味はあなたよ、ジョ−。
 あなたそっくり。 そのまんま。 」
「 へえ〜? 」
「 あら、そんなに意外? とっくに気がついていると思ってたわ。 」
「 え〜 全然。 だってさ・・・
 すぴかは小さい頃は男の子みたいで・・・すばると同じ服を着たがったり
 スカ−トなんかキライって言ってたろ? 髪もさ、せっかくきみと同じ綺麗な色なのに
 一つにくくってくしゃくしゃにして・・・ 」
「 そうねえ・・・ いつの間にか髪の色、濃くなったわよね。 あなたと同じくらい・・・ 」
「 うん・・・ ちゃんと手入れしていればきっと亜麻色のままだったかも・・・ 」
「 さあねえ? 」
「 それがさ・・・ 中学生くらいから急に・・・その綺麗になってきて。
 どんどんきみそっくりになってきて・・・ ぼくは実はどきどきしてたんだ。 」
「 まあ・・・やあだ、自分の娘でしょう? オムツも替えたしさんざん一緒にお風呂にも入って・・・ 」
「 だから・・・ アイツは変身した・・・! きみとそっくりになったよ。 」
「 それは、見かけだけよ。 」
「 ・・・そう、かな。 」
「 そうよ。 あのね、あの子は・・・不器用なの。 ああ、手先とかじゃなくて・・・
 とっても温かくて繊細な気持ちを持っているのに、それをうまく表せないの。
 だから・・・ちいさい頃なんかはぶっきらぼうで男の子みたいに見えたのね。 」
「 ・・・ああ、そんなところ、あるなぁ。 」
「 あるなぁって。 ソレってあなたと同じよ。 ・・・だから、わたしすぐにわかったの。 」
「 ・・・え ・・・・ そ、そう?? 」
「 ふふふ・・・ 子は親の鏡ってことかしら。 すぴかはあなたのコピ−だわ。 」
「 う〜ん・・・ そうかな。 そう・・・かもしれない。 」
「 え〜え。 そっくりなお父さんと娘に共同戦線を張られてしまったわ。 」
「 ・・・・ ごめん。 その・・・ 余計なコトだった・・? 」
「 いいえ。 ・・・本当に・・・ ありがとう。 」
「 ああ、よかった・・・! 」
ジョ−は もう一度彼の大切な奥さんを抱き寄せた。

「 ・・・改めて・・・ 誕生日、おめでとう。 フランソワ−ズ 」

まだ涙の跡が残る頬に手を当て、彼のお気に入りの亜麻色の髪を撫で、
ジョ−は心をこめて熱いキスをした。

「 ・・・ ジョ− ・・・ ありがとう ・・・
 このブロ−チも あなたのキスも ・・・最高のプレゼントだわ。 」
「 みんなが・・・ きみを好きなんだよ。 勿論ぼくが一番!だけどさ。 」
「 ・・・ まあ。 」
こつん・・・とフランソワ−ズは自分の額を ジョ−の広い胸に押し付けた。
「 きみが・・・ 好きで。 きみのバ-スディを心から祝いたいのさ。
 きみが生まれてきてくれたことに感謝したいんだ。 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ 」

くぐもった声がジョ−の胸から響いた。
彼の首に きゅっと白い腕が絡みついた。

「 わたしは ・・・ 本当にしあわせだわ ・・・ 」
「 ・・・ きみが教えてくれたんだよ。」
「 え・・・? 」
「 まだあの子達が生まれる前・・・・いや、きみと出逢って間もないころだ。
 ぼくの誕生日にきみが言ってくれた。 」
「 ・・・ ? 」
「 『 ジョ−、生まれてきてくれてありがとう 』 ってね。
 ぼくは 初めてそんなこと言ってもらった ・・・ 」
「 ジョ−・・・ 」
「 多分 ・・・ その、きみの言葉がすべての始まりだったのかもしれない。 」
「 そう? だったら・・・・ 感謝するのはわたしの方ね。 」

激しい愛の動作も、情熱をこめた言葉もない。
・・・でも、いまジョ−とフランソワ−ズはこんなにもお互いが
恋しいのに驚いてさえいた。
何年、いや何十年たっても、
ジョ−はフランソワ−ズに恋をし、フランソワ−ズはジョ−が愛しい。

  ・・・ それで、いいんじゃない?

二人は ただ黙って微笑みあっていた。



「 姉貴。 ちょっと・・・ いいかな。 」
「 なに、すばる。 そっち、行こうか? 」
「 あ〜 ・・・ うん、そうだな。 女の部屋は ・・・ 苦手だ。 」
「 ま。 オンナだなんて・・・ 生意気こくんじゃないわよ。 」
久し振りに顔をあわせた双子の姉弟は 笑って悪態を付き合った。
「 なんか、母さんと話し込んでたから待ってたんだけど。 」
「 あ、ごめんね。 あとであんたにも報告するけど ・・・
 ジャン伯父様のこと ・・・ お母さんの家族のこと、わかったのよ。」
「 ・・・・ そうか。 」
「 うん ・・・ 感動的だったわよ。 」
「 ・・・・ そうなんだ。 」
「 なによ、もっと感心するとか・・・驚くとかしなさいよ?! 」
「 ふん、相変わらずだね。 パリジェンヌにでもなったかと思ってたけど
 全然かわってねぇな。 じゃじゃ馬・すぴか、のまんま。 」
「 悪かったわね。 私は私、いつだって 島村すぴか、なの。 」
「 ・・・だろうね。 」
ぼすん、とすぴかは弟のベッドに腰を落とした。
相変わらずきちんと片付いている部屋だった。

・・・ なんかなあ。 アタシの部屋の方がオトコのコの部屋みたい・・・

ちょっと懐かしげに弟の部屋を見回し、すぴかはすばると向き合った。

「 それで・・・? 」
「 ・・・ うん。 進路のことなんだけど。 」

母の誕生日、 久し振りに家族全員が顔をそろえた島村家では
どの寝室も遅くまで煌々と灯りが漏れていた。


                  back    /     next


       Last updated: 01,24,2006.