『 霧と薔薇と  ― (3) ―  』

 

 

 

 

 

   カサ コソ ・・・  

 

足元で 落ち葉が密やかに音をたてる。

フランソワーズは 薔薇の垣根をぐるりと巡り 屋敷の外に出た。

小路にも 落ち葉がそちこちに溜まっている。

「 ・・・ まあ 村の中も薔薇だらけなのねえ ・・・ 

 ふふ・・・ 長いスカート、少し慣れたかなあ 」

深い緑色のベルベットのドレスは しっくりと身に馴染んでいる。

編み上げの靴にも慣れてきた。

「 ・・・ お屋敷に居るようになって ・・・ もう何日かしら。

 ここは 時間が止まっているの ・・・? 」

 

あの事件の後、 彼女はずっと 男爵家の別荘 といわれている

この堅牢なお屋敷で過ごしている。

最初は < お客人 > だったが 今は  令嬢の家庭教師 ということに変わり

一部屋を もらっている。

 

 ― マドモアゼル    屋敷の人々はそんな風に彼女を呼ぶ。

 

男爵家の家族ではない、 が 召使いとは違う存在らしい。

 

「 先生! 

当の令嬢は 透き通った高い声で呼び とても慕ってくれる。

彼女は優れた感性を持ち、 フランス語もどんどん上達している。

午前中は 令嬢にいろいろな学科を教え、 午後には二人で庭ですごしたり

時には散歩に出たりしていた。

 

 

    ・・・ なんか ず〜〜っと・・・・

    もう何年も ここに居る みたい ・・・

 

    なぜかしら  ここは 時間がゆっくり流れている

 

ため息を呑みこみ、空を見上げれば ― 色づいた葉の間から 

淡い陽光がもれてくる。  ここは 北イングランド なのだ。

 

「 秋・・・ね。 すこしづつ深まってきてるし ・・・

 まったく時間 ( とき ) の流れがないわけでもない・ ・・・」

結いあげた髪をちょっと押さえ 彼女はゆっくりと歩いてゆく。

 

    コツ コツ  カサ コソ ・・・

 

さらに木立の間を抜けてゆけば 民家が点在していた。

当然、というか どの民家も薔薇の垣根で囲まれ、裏庭には薔薇の花畑があった。

 ― そこは 薔薇の海 だ。 圧倒的に赤い花が占めている。

 

「 すご・・・い・・・ !  多分 今は秋、実りの秋 ?

 なんだか 食物みたいに薔薇が咲き誇っているわ 」

薔薇の海は ずっと広がっていて 背伸びをしてみても 他の植物が

栽培されている様子は見つからない。

「 ・・・ 小麦とか 野菜は・・・ 作っていないのかしら。

 ああ そうだわ、家畜小屋があったから ・・・ 家畜の飼料なんかは

 どうしているのかしらねえ 」

 

毎日の食卓に現れる焼きたてのパンやら 新鮮な卵、バターに ミルク、

サラダやフルーツ そして 香たかいお茶 ・・・

それらはどうやら この周辺、男爵家の所領で生産されているのだろう。

「 村のヒトは何人か見たけれど  外から来る人っているのかしら ?

 ここから出るには 馬車か 徒歩しかないみたいだし 」

 

慎重に状況を分析してみたが ― 結論として ここに大人しく滞在している

 しか 選択肢は見あたらなかった。

 

「 ・・・ ジョー ・・・ 皆 心配してるでしょうね・・・

 ごめんなさい ・・・ どうしたらいいか わからないのよ。 

落ち葉の中を 金髪の若い婦人が憂い顔で歩いてゆく。

たいそう 絵画的な光景だが ― ご本人は 途方に暮れている と言った方が

正しいだろう。

 

   仕方ないわ ・・・ でも! なんとか 出口 を 見つけなくちゃ。

 

歩いてゆくうちに 民家の前に出た。

「 あ ・・・?  ヒトがいる !  このお家の方かしら 」

フランソワーズは 少し足音を高くして近づいてゆく。

農道を 薔薇を籠いっぱいにして歩いてくる老婆だった。

 

    古風な服装ね ・・・

    うふふ  『 ジゼル 』 に出てくる時代のヒトみたい・・・

    ジゼルのお母さん っぽいわ

 

彼女は立ち止まると ゆっくりと話しかけた。

 

「 こんにちは お婆さん ご機嫌いかが 」

「 ? ・・・ はいな  お屋敷の御方。 」

「 穏やかなお天気ですね  

「 はいな 」

「 綺麗な薔薇ですね  花屋に持ってゆくのですか? 」

「 花屋?  いいえ。 これは 煮詰めますですよ 」

「 煮詰める?  薔薇の花を? 」

 

 はい、 と老婆は頷くと、蕾を一輪 彼女に差し出した。

 

「 あら 頂いてもいいのですか 」

「 はいな。 お屋敷の御方。 今年は よくできました。 」

「 綺麗 ・・・ ああ いい香ですね 」

フランソワ―ズはその蕾の香を楽しんだ。

「 ・・・ この村は 薔薇を作っていきていますだ ・・・ 」

「 薔薇を?  花を売っているのですか? 

「 いえ ・・・ エキスを採ったり ジャムにしたりしとります 」

「 まあ あ 香水にしたりするのですね? 」

「 ・・・・ 」

老婆は黙って微笑すると 深く会釈をし また歩いて行ってしまった。

「 ここは ・・・ 本当に不思議な村 ・・・ 」

 

   カーン ―  村の鐘が鳴った。

 

「 あら お昼の鐘 ・・・ 帰りましょう 」

フランソワーズは やってきた道を引き返し始めた。

 ・・・ 薔薇の蕾と一緒に。

 

     カサ コソ ・・・・  枯れた葉が足元で微かな音をたてていた。

 

 

ランチの後は 生徒である令嬢とテラスに面した部屋の日溜りに出た。

「 先生。 ランチ前に 村にいらしたの? 」

「 ええ お散歩して ・・・ そうそうお土産があるの。 はい どうぞ? 」

老婆からもらった蕾を 花瓶から抜き取った。

「 ・・・ ありがとう ・・・ 」

少女は 薔薇の蕾をそっと手に取り唇に当てた。

 

    ?  ・・・ あら ・・・?

 

瞬間 蕾は  しゅう −−−   萎んでしまった  ふうに見えた。

 

    ・・・ 目の錯覚 よ ね・・・?

    まさか あんなに瑞々しい蕾が ・・・

 

「 先生?  どうかなさったのですか 」

「 ・・・え? あ ああ ごめんなさい、 お日様があんまりいい気持ちなので

 ちょっとぼうっとしていたの。 ごめんなさいね。 」

「 うふふ ・・・ 気持ちがいい午後ですものね ・・・ 」

令嬢も カウチの上で手足をう〜〜んと伸ばしている。

「 そろそろ冬になるのね 」

「 ・・・  お姉さま ・・・ あ フランソワーズ先生。

 先生は 恋をしたことが あります? 」

「 え?  ええ ・・・ 

「 まあ♪ どんな方? 」

「 え・・・ 彼は 優しいヒト・・・ 」

「 そうなの? あ 同じお国の方ですか? 」

「 いいえ  彼は 遠い遠い国のヒトなの。 」

「 すてき!  どちらの方?  海の向こうの方?

 インド とか ・・・ 」

「 いいえ  アジアの青年なの。 知っていますか 

「 アジア?  えっと ・・・ あ チャイナ? 」

「 いいえ。 もっと小さな国。 ああ そうだわ。 いいことを

 思い出したの。 」

「 ?? 」

「 ご覧になっていてね 

「 はい 」

フランソワーズは ノートを一枚 丁寧にはぎ取ると正方形に切った。

そして 丁寧に折り始めた。

「 先生  なにをなさっているの 

「 ふふふ  さあ なにができるかな? 」

「 ・・・ あ 紙が ・・・ わあ〜〜 それはつばさね?

 ここは  クチバシ こっちはしっぽ かしら。 」

折り上がった作品に 令嬢は歓声を上げた。

「 わあ〜〜〜 ・・・ ノートの一ページが・・・ 」

 

   とん。  フランソワーズは折り上げた作品を机の上に置いた。

 

「 これは ツル といって 鳥のカタチなのですって 」

「 ・・・ すごい! 初めてみるわ!  可愛い〜〜〜  」

「 でしょ?  彼が これを教えてくれたの。

 彼は 日本のヒト なの。 

「 日本 ・・・・?  どこ ・・・? 」

「 さあ 地図を広げてみましょうか 」

「 はい 先生! 」

令嬢は カウチから滑り降りると 本棚に飛んでいった。

立派な しかし古めかしい地図の本を二人で眺めた。

「 アジア って ・・ え〜と 

「 こちらがイギリスね。 ヨーロッパがあってその先はどこですか? 」

「 え〜と ・・・ トルコ! そして インド ・・・ 

 あ チャイナはここね 先生。 」

「 そうです。 日本は この小さな島です。 」

「 わあ ・・・ カワイイ ・・・・

 先生、 この ツル は この国から来たの? 」

「 わたしも教えてもらったのよ。  他にもいろいろな作品が

 できるみたい。 

「 そうなの ・・・ すてき・・・!

 世界にはいろいろな国があるのね 

「 そうです。 いろいろな国にいろいろなヒトが暮らしています。」

「 行ってみたいわ ・・

 あ そうだわ。 ねえ 先生、ハロウィン が もうすぐでしょう?

 世界中から 皆がいらっしゃるわ 

「 皆 ・・?  」

「 そう お若い叔父様やら 伯母さま方。 遠くのお友達も !

 いろいろなところから いろいろな方がこの屋敷に集まってこられるのよ。

 それは それは賑やかな 集会 なの!  

「 まあ そうなの? 賑やかなのでしょうね 

「 ええ とっても。 一年中で一番!

 私も 選り抜きの薔薇を揃えてお迎えするのだけど・・・

 今年は この ツル を作って皆に見せます。 」

「 それは素敵なアイディアね。 

「 そうでしょ? あ それから フランス語でご挨拶 します!

 先生、 ご挨拶の言葉をいっしょに考えて? 」

「 わかりました。  ノートを広げてください。 」

「 はい。 」

秋の光が差し込む午後 ― 瀟洒な学習室には静かな時間が流れていった。

 

 

    

          *****************

 

 

 

   ビュウ −−−−−   また吹雪はじめた。

 

「 ・・・ ここ か!  」

アルベルトが 雪溜りを踏みしめている。

「 ふふん ・・・ そのようだな。 それでは 〜 」

グレートがしゅるり、とマフラーを解いた。

「 え。 だってここ ・・・ もう調べたじゃないか。

 確かにここには 研究所があったけど 跡地だけ、だろ 」

ジョ― は 少し不満そうに雪の山をじ〜〜っと見つめている。

 

三人は避難小屋に吹雪を避けていたのだ。

少しばかり視界がよくなったので 出てきて、行方不明の科学者が

使っていた、という施設の跡にやってきていた。

 

「 確かに跡地 だ。 故意かどうかはわからんが研究所とやらは

 すっかり焼け落ちた。 」

「 科学者は その前後から行方不明 ・・・ 地元の警察は 

 落雷による焼失、でファイルを閉じているのさ。 

 まあ 無難な解決法であるな 」

「 資料や 手がかりになるモノも全部燃えたって聞いたけど ・・・ 

「 そういうことになっている がな。 」

「 ? 

  トン トン ―  アルベルトが吹き溜まりを 蹴飛ばす。

「 ここ だな。 こじ開けるか 」

「 ふん ほんの隙間でいい。 そこから吾輩が入る。

 ジョー しっかり見てろよ。 」

「 う うん ・・・ え ここに・・・? 」

「 ああ。  ん〜〜〜 よしっ  ジョー 反対側を頼む。 」

アルベルトは 雪の中に手を突っ込み ―  が〜〜〜っと持ち上げた。

「 あ  こっちだね!  ようし 」

ジョーも加勢する。

 

   ザバ  ・・・  雪の小山が持ち上がった。

 

 ガタン。  焼け跡のあるドアが 雪の中から現れ 開けられた。

地面に ぽかり、と四角い穴が開いた。

 

「 ふん ― やはり な。 」

「 それでは 吾輩がまずは 」

   ひゅるん。  大型のネズミが その四角い穴に消えた。

「 わ ・・・ 大丈夫かな ・・・  

「 お前の < 眼 > なら ある程度は見えるだろう? 」

「 ・・・ うん ・・・ フランがいてくれたらなあ ・・・

 あ!  下に部屋がある!  

 

 ≪ お〜〜い 二人とも。 降りて来い。 下はなかなか快適だぞ 

 

グレートから通信が飛んできた。

「 よし 降りよう。  ナビしてくれ。 お前さんの眼の方が

 優秀だろ  

「 了解。 行くよ〜 」

彼らは 地下へと降りていった。

 

 ― そこは かなり古風な、しかし 居心地のいい部屋 だった。

 

「 ・・・ ふん ・・・ 研究室、という雰囲気ではないな。 」

「 チュゥ〜〜〜  ここ一部屋だけ だな 

ネズミは たちまち 中年オトコに戻った。

「 なんか ・・・ 落ち着くね? 博士の書斎に似てないかな 」

「 そんな雰囲気でもあるな  」

 

セピア色のアラベスク模様の壁紙、毛足の長い絨毯はペルシア製か・・・

炉がある場所以外は 部屋のぐるりを書棚が囲んでいる。

中央に マホガニーの大きなデスクがあり、カウチがいくつか置いてある。

 

「 ・・・ 研究室、 というか普通の書斎にしていたんじゃないかなあ

 ふうん  へえ ・・ 魔法書にファンタジー小説 ・・・? 」

「 科学者の書棚には ちょいと見えんが ・・・

 まあ 彼の趣味だったんだろうよ。 」

「 そうだねえ  あ だから吸血鬼伝説 とかに興味を持ってたのか 」

「 で あろうな。  ・・・ ほい。 」

 グレートが 一冊の小型の書籍を差し出した。

「 ? なんか古風な装丁だな  」

「 ウン。  ・・・ わ 英語かあ 」

ジョーは ぱらぱらと広げてみている。

その本は 革の装丁がかなり手ずれがしていて ― 持ち主が愛読していたことが

見てとれた。

金箔と思しきタイトルも 半分消えかけている。 ジョーは目を凝らす。

 

  『 バンパネラ・ハント 』  か

  ・・・ 随分読みこんであるな

  愛読書? いや ラインもたくさん引いてあるし・・・

 

「 ほう・・・ やはり な。 」

グレートがひょい、とその本を取り戻した。

「 やはり、とは? 

アルベルトも覗きこむ。

「 うむ。  奴さんは バンパネラ、つまり吸血鬼伝説に

 かなり関心を持っていた、ということだ。 」

「 不老不死の研究から 吸血鬼??

 そりゃまた ・・・えらく非科学的な分野だな。 方向転換か? 」

「 いや 奴さんは同列に考えたのかもしれんよ 」

「 ・・・ 吸血鬼って 不老不死 なの? 」

ジョーが 目を丸くしている。

「 そうさ。 永遠の命 というか ・・・ 時間 ( とき )を超えて

 存在し続ける。 同じ姿で な。 

 弱点が 十字架にニンニク とか言われている。 」

「 ふうん ・・・ 」

「 彼の消息は ハロウィン前後に途絶えたらしい。 」

「  ― なるほど ね。 その夜に 魔の世界に入った、か 」

「 まさか ・・・ そりゃあまりにファンタジーだぞ、俳優ドノ。 

「 ははは ・・・ 冗談さ。 」

「 ・・・?  ハロウィンでコスプレでもしたの?? 」

「 おお my boy 〜〜〜   ハロウィンとはなあ お前さんの国の 

 繁華街で仮装し 騒ぎまくる・・・ってのは全くの邪道だぞ?

 本来は 万聖節 ・・・ 魔物たちの祭り なのさ。 」

「 へ  え ・・・・ 」

じゃぱにーず・ボーイは もう 目を白黒・・・だった。

「 菓子をくれとガキどもの騒ぎとも違う。 

 その夜だけは 魔物たちが集まり彼らの祭を繰り広げる ・・という

 伝説なのだ。 つまり  」

「 左様。 魔界へのドアが開く。 」

「 ・・・ へ え ・・・  初めて聞くよ 」

「 ふん。 正しい知識を身につけろ。 」

「 ウン ・・・ 」

「 であるから ―  このバンパネラ伝説のあるこの地でも

 万聖節の夜には  」

「 ふん 」

「 ・・・ でも! フランは?? どうして消えちゃったんだよっ 

ジョーは 溜まりかねて声を上げてしまった。

 

    フランは ・・・ これを落としちゃったんだ ・・・

 

彼は 防護服の内側、胸にかけた銀のクロスをしっかりと押さえた。

 

「 ― わかっている。 」

「 ちゃんと考えているさ。 」

  トン。   ポン。   二人の仲間が彼の背を叩いた。

「 あ ・・・ ごめん ぼくこそ・・・ 」

「 正直でいろ。 それが一番お前らしい。 」

「 ・・・ う  ん ・・・ 

「 ふん  それで だ。 もうひとつ、手がかりらしきものもある。 」

グレートが 防護服の内ポケットを探っている。

「 な なに ? 」

「 ふふん ・・・ この吹雪の中 吾輩が拾ってきた情報さ 」

 

  ほい、と彼はスマホを取りだした。

 

「 え ・・・ ? 」

「 まあ 聞いてくれ。 」

 

   ザ −−−− ザザザ    雑音ではなく吹雪の音 が聞こえたきた。

 

「 この先に ちっぽけな集落があるんだ。 そこに聞きこみ さ 

「 ふん ・・・ よく話が聞けたな 」

「 そこはそれ・・・ しけたヤードの刑事、という態でな〜 

 なにやらひと昔前の刑事ドラマのしょぼくれ警官か? と聞かれたよ 

「 ははは ・・・ 似てるぞ お前。 」

「 ・・・? 

平成ボーイは きょとん、としている。

「 知らんのか  は。 ワカモノよ〜〜 」

「 ・・・ まあ 聞いてくれ 

グレートは ヴォリュームを上げた。

 

   ああ・・・ あの偏屈じいさんち かね

   なんだか やたら薔薇を植えとったけんど 

   この地で冬は越せんよなあ〜

 

   え? ああ ほとんど村には来んかった ・・・

   たまあ〜に 食糧の買い出しに来たがねえ

 

   ・・・ ああ 火事じゃった

    万聖節の夜にさあ   ぽう〜〜  っと燃えただよ

 

   そうそう ・・・ 一晩中 燃えとった・・・

   え? 万聖節の夜に外出なんぞできんよ

   ・・・ 魔物にとって喰われちまう・・・

 

   んだ んだ ・・・

   翌朝 おそるおそる行ってみたけんど

   すっかり焼けて ― じいさんの遺体もわからんかった

 

   州の警察もさ、 ちょっと調べて引き上げていったさ。

 

   誰だって 万聖節の夜 のことなんかひっかきまわしたくは

   ないもんなあ ・・・

 

訛りの強い 低い声の会話がいくつか拾えた。

「 ・・・ というわけ さ 

「 そうか。  奴さんは ハロウィンの夜に 消えた んだな。 」

「 らしいな。 」

「 ・・・ 火事で焼死ってことになってるんだね? 

「 < 公式 > には な。 」

「 研究所が全焼するくらいの火事で よくここが残ったね? 

「 まあ 一応シェルター仕様になっていたのじゃないか 」

「 ごく 普通の、というか 古めかしい部屋だけど ・・・ 」

「 入口が ハッチになっていた。 完璧防火仕様だ。 」

アルベルトが 肩を竦めている。

「 ・・・ あ そうか ・・・・ それなら ・・・

 ここはなにかあっても大丈夫って思ってたわけだよね 」

「 おそらく な 」

「 じゃあ なにか大切なもの、 手がかりになるものが

 隠されているんじゃないかなあ 

「 この膨大な書籍の中から探しだせってのか 

「 う〜〜ん  ・・・ この机 ・・・ 古風だけど

 引き出しがたくさんあるな 」

「 昔はなあ こういう机を書斎に置いたものだ。 」

「 ふうん ・・・ 」

ジョーは がたがたと 引き出しを次々に開け始めた。

「 ・・・ メモ ・・・ ハンカチ これは 古いペン? 

 こっちは  うへえ〜〜 煙草の空き箱?? なんでこんなモノを 」

「 ふん  ちょっと見せてみろ 

「 この引き出し?  ガラクタがつまっているだけみたいだよ? 

「 の ように見えるが な 」

アルベルトは 引き出しの中身を全部取りだし、さらに奥に手を突っ込んだ。

「 ・・・ あ やはり な 」

「 ??? 」

   

    カチリ。  小さな音と共に彼は箱をひっぱり出した。

 

「 え? さっきそんな箱 なかったけど  

「 ほほう〜〜 隠し引き出し ってヤツか 」

「 ご明察。 中には ・・・ やはりな。 日記帳だろう 

箱の中には 一冊の革表紙のノートが隠されていた。

「 日記?? 科学者の ? 」

「 おう。 ・・・ 最後のページは ・・・ 」

「 ! ここだ 」

 

        31 Oct.,   行く。

 

それが最後の記述で あとは白紙のままだ。

「 やはり な。 奴さんは 万聖節の夜に < 消えた > 

 そして ここに火を放ったんだ 」

「 どこへ?  バンパネラの里 へか? 」

「 おそらく 」

「 ってことは!  万聖節になら ぼくらもそこに入れるってことだよね 」

「 ジョー。  今日は何月何日だ。 一年近く待つわけにはゆかんだろうが 

「 ・・・・・ 」

「 しかし マドモアゼルも < 消えた > んだ。

 なにか どこかに 手がかりがあるはずだ。  なあ ジョー。 」

「 ん。

「 ここは厳重に保存しておこう。 」

「 合点承知の助。 ふん ・・・ この部屋こそが奴さんの

 < 研究室 > だったのだろうなあ 

グレートは 少々感傷的な面持ちで 部屋を見回す。

「 必ず見つける。 助けだす。 待っててくれ、フラン。 」

ジョーは きゅっと口を結び 改めて銀のクロスを握りしめた。

 

「 ― 行くぞ 」

「 おう 」

「 了解 」

科学者の日記を持ち、三人は地下室を後にした。

ハッチをしっかりと閉め 上には雪でカモフラージュをする。

「 ふん ・・・ まあ こんなことをしなくても

 村人は近づかんだろうがな 

「 ああ。 しかし 後ろ暗い輩がウロウロしないとも限らんし

 用心にこしたことはないだろうよ。 

「 ・・・・ 」

 

     ビュウ −−−−−  

 

吹雪の中で 薔薇の枯れ木が揺れていた。

 

 

 

          *************************

 

 

学習室に ランプを灯す頃 ・・・

カーテンを引きにいった令嬢が 窓辺に張り付いている。

「 ? なにか 見えますか 」

フランソワーズは 机の前から声をかけた。

「 今ね 旅のお方がお帰りになったわ。 」

「 まあ そう? 

「 ええ ・・・ あの方は 鹿狩りにいらしたのですってね。

 ねえ 先生。 伺ってもいい ・・・? 」

「 はい なんでしょう 」

「 あの ・・・ 先生は どうしてこの村にいらした の? 」

「 わたしは ― ある人を探していたの。

 そうしたら ・・・ 貴女の声が聞こえたわ。 」

「 え 私 の ? 」

「 ええ。 私 ここよ って。 そして 飛び出そうとしていて・・・ 」

「 ・・・・ 」

令嬢は はっと息をのみ、自分の首筋をそっと抑えている。

「 ごめんなさい、イヤなことを思い出させてしまったわね。 」

「 ・・・ いいえ ・・・ 先生にお目にかかれたから ・・・ 」

「 ありがとう 」

「 ねえ フランソワーズ先生 ? 」

「 はい? 」

「 先生も 万聖節の集会にいらして? 」

「 でも ・・・ それはこちらのご家族のお集まりでしょう? 」

「 大丈夫。 あのお医者様も今年は見えるって ・・・

 お兄様が言っていたわ。 

「 まあ ・・・ 」

 

    あのヒトに会えれば ― 手掛かりが 見つかるかもしれない!

 

フランソワーズは 手にしていたハンカチをぎゅっと握りしめた。

 

 

Last updated : 08,27,2019.         back    /    index   /   next

 

 

**********  途中ですが

ひゃ〜〜〜 終わりませんでした〜〜 ((+_+))

す すみません〜〜〜  もう一回、お付き合いください〜

ジョー君 しっかりしておくれ〜〜〜 (*_*)