『  霧と薔薇と  ― (4) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

    ヒュウ −−−− ・・・・

 

吹き抜ける風に 一段と冷たさを感じた。

「 ぶるるる・・・寒いわね ・・・ 

 う〜ん 暖房が暖炉だけって信じられないんだけど 

フランソワーズは 暖炉の前で石炭シャベルを持ち上げ

一振り、炉にくべた。

 

   ゴウ −−−−  炎の勢いが少し強くなった。

 

「 う〜〜 あんまり温かくならないわ・・・ ヒータ― なんてないのよねえ

 ああ コタツ 〜〜 コタツに入りたい ! 

暖炉の前にへばりつき フランソワーズは半ベソだった。

 

「 先生? 」 

 

トントン ・・・  ノックの音と共にドアが細め開いて

令嬢の高声が聞こえる。

 

    ・・・ いっけない ・・・

    < フランソワーズ先生 > なのよね わたし。

 

彼女は さっと目尻に滲んだ涙を払った。

 

「 はい?  なんでしょう? 」

「 入ってもいいですか 」

「 どうぞ 

「 うふふ ・・・ 」

煌めく髪をゆらし 少女が入ってきた。

赤と茶のベルベットのドレスに 輝く髪がことさら美しく映える。

 

    ・・・  ほんとうに綺麗な女の子ねえ ・・・

    将来 どれほどの美人になるのかしら

 

    あ お母様も綺麗な方だから 似たのな

    う〜ん ちょっと違った美しさだけど

 

「 フランソワ―ズ先生? 」

「 はい 」

「 あの ね。 この前・・・ お願いしたでしょう?

 ほら 万聖節のこと 

「 ええ  フランス語のご挨拶は もうちゃんと暗唱なさっていますよ? 」

「 それじゃなくて〜〜 あ それももう一回練習したいんだけど・・・

 ― 集会。 ねえ 先生も 万聖節の集会にいらしてくださいって。 」

「 ありがとう。 でも ご家族とご親戚のお集まりなのでしょう? 」

「 ね だから お母様にお願いしたの。

 それで・・・・ お母様がね 先生とお話したいですって 

「 まあ 男爵夫人が? 」

「 はい。 お母様 お部屋で寛いでいらっしゃるから ・・・

 ね ご一緒しましょう 

令嬢は フランソワーズの手を取った。

「 伺ってもいいのかしら 」

「 ええ。 ねえ お願い 先生。 」

「 わかりました。  えっと ・・・ 」

フランソワーズは 姿見を振り返り さささっと髪を整え

上着をひっぱりスカートの襞を直した。

 

 

「 ・・・ ご機嫌よう、マドモアゼル・フランソワーズ 」

男爵夫人は カウチにゆったりと座っていた。

「 ご機嫌よう マダム 」

綺麗なフランス語で話しかけてきたので 彼女も母国語で返した。

「 ああ〜〜ん 母様。 私、 フランス語はまだあまり ・・・ 

令嬢が 鼻を鳴らす。

「 ふふふ わかりました。  どうぞ おかけになって 」

「 はい 」

「 冷えますね・・・ お茶でもいかが 

「 ありがとうございます  ・・・ 」

「 私も 温かい物が飲みたいと思っていたところですの。 

「 母様 私も〜〜 」

「 わかってますよ。 お待ちになってね。」

 

夫人は 隣の部屋に引っ込むと 衣擦れの音とともに銀盆を手に戻ってきた。

「 ― 今 熱いお湯をもってこさせます。 」

彼女が鈴を振るとすぐに 召使いが湯気をあげているポットを捧げ持ってきた。

「 ああ きたわ。 ありがとう 」

 

     トポポポ  −−−−

 

彼女は白く細い手でお茶を淹れた。

「 母様〜〜〜 私、 ミルクとお砂糖〜 」

「 はいはい・・・ ふふふ マドモアゼル・フランソワーズ、貴女は? 」

「 では わたしも ミルクとお砂糖をお願いします。」

「 まあ 三人とも同じ好みなのね? 」

夫人は声をあげ笑いつつ 湯気の立つカップを配った。

 

     んん 〜〜〜 ・・・

 

     おいし〜〜〜 母様!

 

     ・・・ ふうう ・・・

 

女性たちは 熱いミルク・ティをたっぷりと楽しんだ。

 

「 とても美味しいお茶ですね。 どちらのお茶ですか 」

「 ああ これはウチの所領から ・・・ 薔薇のお茶です 」

「 薔薇の?  ああ それでこんなによい香が ・・・ 」

「 ふふ・・・ 毎日のお茶もすべて薔薇のお茶です。

 これは 特別な畑から採ったものです。 」

「 そうなんですか ・・・ こちらのお屋敷は どこもかしこも

 薔薇の香が漂っていますね。 」

「 ・・・・・・ 」

夫人は 微笑を浮かべたままだ。

「 母様。 私、フランス語のご挨拶、ちゃんと暗唱したのよ 

「 まあ そうなの?  フランソワーズ先生に教えていただいて

 よかったわねえ 」

「 そうなの!  私 いつかフランスに行ってみたい。 」

「 そうねえ ・・・ いつか旅行しましょうね  

「 うん! 

「 それには しっかりフランス語のお勉強をしなければね 」

「 私 ちゃんとお勉強しているわ 」

ねえ 先生? と 令嬢はフランソワーズを振り返る。

「 はい。 きちんと日課をこなしていらっしゃいますわ。 」

「 よかったこと ・・・ 」

夫人は 令嬢の髪をなで 艶やかな笑みを浮かべている。

フランソワーズも微笑しつつ そんな二人を何気ない風で観察した。

 

     とても美しくて 不思議な方 ・・・

 

     そう とても若いわ  とても。 

     この兄妹の 母親 ・・・? 本当に?

 

     ・・・ 二人とも美人だけど よく見れば

     似ていない母娘だわね 

 

     男爵とは一度しか会っていないけれど

     ・・・ 令嬢は父親とも 似ていない・・・

 

「 ねえ ねえ 母様・・・ あのこと 」

令嬢は 母に身を寄せ耳擦りをする。

「 まあ ・・・ え? 」

「 この前 お願いしたでしょう? ほら・・・ 」

 ああ ・・・ という顔で 夫人は頷いた。 

「 わかりましたよ。  マドモアゼル 娘が伺ったと思うのですが

 10月の最後の夜 ― 集会があります。

 遠方から親族のものが この屋敷に集まります。 」

「 はい。 お嬢様が話してくださいましたわ。 」

「 集会といっても ・・・ まあ 皆で会食し談笑し楽しむ、

 といった他愛もないものですが。

 新しく一族に加わる方のご紹介などもします。 」

「 はい ― ご親族のお楽しみなのですね 」

「 ええ ・・・ 遠方からもやってきますので いろいろな

 話が聞けて楽しいですわ 」

「 ・・・ 」

「 その集会に ・・・ 貴女、お望みですか? マドモアゼル 」

「 え  いえ  」

「 母様。 私が先生をお誘いしたいの〜〜〜 」

それまで大人しく聞いていた令嬢が 声を上げた。

「 まあ そうなの?  でも ・・・ 貴女がお望みなら 

 < ご招待 > することもできます。

 私達と 一緒に ・・・ 」

夫人は まっすぐにフランソワーズをみつめた。

その淡い蜂蜜色の瞳が きっちりと彼女を捕らえ離さない。

 

   ・・・ こ の 方は ・・・?

 

「 あ あの。 もう少し考えさせてくださいませんか 

「 ええ  ようくお考えになってね。

 貴女にもご家族がいらっしゃるでしょうし 

「 ・・・え ええ ・・・ 

「 先生〜〜〜 ねえ ご一緒してください〜〜 

令嬢が細い腕で縋りつく。

「 これ これ ・・・ 」

夫人は 軽く娘を窘めるが 瞳には笑みがある。

「 あのう ・・・ あのドクターは お元気ですか 」

「 ドクター? ・・・ ああ あの方。

 えっと ああ 夕方ここにいらっしゃいます。

 主人が久々に話をしたいらしくて 

「 まあ そうですか。 ちょっと伺いたいことがありまして

 わたしもお目にかかってもいいでしょうか 」

「 ええ ええ どうぞ。 晩餐前なら お時間があると思いますよ。」

「 ありがとうございます。 」

丁寧に御礼を述べて フランソワーズは夫人の居間を辞した。

 

    一族に加わる・・・?

    ・・・ ああ 一族の誰かと結婚して、ということかしら?

 

    ただの親族の集まり ・・・ とはちょっと違うみたいね

    ― でも

 

    < 一緒に > ってどういう意味なのかなあ

 

相変わらず 静かなこのお屋敷 ― 廊下を行けば

彼女の足音だけが 響く。

 

    カサ コソ ・・・  窓の外では落ち葉が舞っていた。

 

 

 

「 君は ドクター・ギルモア と一緒に逃げたゼロゼロナンバー だね 」

ミスタ・ブラウン と名乗っている例の年配の紳士は単刀直入に問うた。

「 はい。 ・・・ ミスタ・ブラウン と呼んでいいのかしら 」

「 ああ それで頼む。 ・・・マドモアゼル、と呼ばれているのだろう? 」

「 はい。 」

 

午後の遅い時間 ― 彼と階下の客間で会った。

彼は 仕立てのよい実に古風なスーツを着ていて すっかりこの時代に

溶け込んでいる風に見える。

 

「 この屋敷の暮らしはどうかね? 結構適応しているようだが 」

「 皆さん ご親切ですので ・・・ 」

「 ここで 生きてゆく か?  そう望むかね 」

「 あの ― ここは  どこですか 

「 北イングランドの 男爵家の別邸。 時は18世紀末、といったところだ 」

「 ! ・・・ タイム・スリップ ・・・? 」

「 時を超えた。 多分 君は 迷い込んだ といったとこだろう 」

「 わたしもそう思います。

 仲間たちと 国境に近い地域で探索をしていました。

  ・・・ ひどい吹雪でした。 」

「 うむ。 あの地は冬が早いのさ。

 私は この時代のこの地に来ることを望んでいたのだ。

 そして  ― ここに来た 」

「 ・・・ 突然消息を絶った、というのはそのことだったのですね 

「 そうだ。 研究の成果をあれこれいわれ・・・ 金になる、と

 狙われた。  もう いい。 私は あの世界に未練はない。 」

「 そうですか ・・・ ずっとここで生きてゆかれるのですね 

「 ああ。  ― だが 君は 」

「 わたしは  どうしてここに来てしまったか わからないのです。

 貴男を探していて ・・・ 急に深い霧の中に入ってしまって 

「 ふむ・・・ 君たちはどうして私を探していたのだ? 

「 あなたの研究が 金になる、と狙っている奴らがいます。

 ですから研究の成果と共に貴方を保護するよう、ギルモア博士から

 依頼されました。  」

「 そうか。 ふん ・・・ 置いてきたモノは愚にもつかないモノばかりだ。

 本当の 不老不死 は ―  ここにある。 」

「 ここ・・?  このお屋敷ですか 

「 いや この村全体だ。  この村は ― 特別な里なのだ。 」

「 この薔薇だらけの静かな村が ですか 」

「 ・・・・ 

彼は 深くうなずいた。

「 ! もし 不老不死を悪用しようとする輩が ここに来たら  」

「 ふふん、心配はいらない。

 ここは 容易く来られる場所ではない。

 そもそも 金の亡者どもには、この里の存在自体、信じることなどできん。 」

「 ・・・ ? 

 それでは ここは ― 幻の世界 なのです か・・・? 」

フランソワーズは 背筋に冷たい汗が流れた。

 

   ・・・ それじゃ ここは  あの世 なの?

   わたしは 現世では ・・・ 死んでいる の?

 

「 一般人から見れば幻かもしれないが ― ちゃんと存在する。

 本当にここに残りたい、と思ったものだけが 留まれる。 」

「 ・・・ わたし は ・・・ 」

「 君は サイボーグ だね? 」

「 はい。 」

「 君たちも 普通の人間よりも遥かに長い時間を生きる。 

 ある意味 不老不死な存在だな 」

「 でも。 機械はいつか劣化し わたし達も ― 命を終えます。

 不老不死 とは違いますわ。 」

「 そう だな。 003 いや お嬢さん。 

「 − はい 」

「 君が もし 元の世界に戻りたいのなら ―  万聖節を待て。

 ドア が 開く。 魔界のドアが  」

「 魔界? ここは 魔物の世界ですか 

「 ― 人間界へのドアが開く とでもいうべきかな。 

「 ・・・ に 人間の世界 への ・・・? 

「 君を待つ者が 君を引っ張ってくれる者がいれば

 ― 出てゆける と思う

 君の戻りたい という強い想いと 君を待つ者が いれば。 」

「 ・・・ ありがとうございます。 

 あのう 教えてください。 」

「 なにを 」

「 このお屋敷の、 いえ この村の人々は ニンゲンではない のですか。

 人々は皆 ・・・ 不老不死 なのですか 

「 ―  ヴァンパネラ について聞いたことがあるか 

「 ヴァン・・・?  」

「 一般的には バンパイア とか バンピール などと言われる。 」

「 !  ・・・ 吸血鬼 ですか 

「 ・・・・ 

氏は 黙って深くうなずいた。

「 こ ここのヒト達、 いえ この村の人びとが ・・・? 」

「 私も その一員になった。 自らの意志で な。

「 ・・・ !? 」

「 私はもう以前に属していた世界に未練はない。 ここで・・・

 この村の一員として生きてゆく。 ・・・ 永遠に 」

「 ― わたしは  わたし達も < 時間 > に置いてゆかれた存在です。

 でも いつかは死にます。

 それで いい、と思っています。 だから 」

「 戻りたい のだな。 」

「 はい。 」

「 本当だね? 」

「 はい。 わたしは ― 本来生きてきた世界から離されてしまった ・・・

 それでも必死で生きてきました。

 今は ・・・ 待つ人も 会いたい人も います! 」

「 わかった。 」

「 わたし ―  戻りたい 帰りたい ! 

「 よくわかった。  集会 には参加しないことだ。 」

「 ??  万聖節の集会 とはなんなのですか? 」

「 ― 他言無用だぞ。  ・・・ 一族の一員になるための儀式だ。 」

「 ・・・ 儀式 ・・・? 」

「 エナジーを与え 一族のエナジーを授けられる。 」

「 そ それって ・・・? 」

「 これ以上は言わない。 もう忘れなさい 

「 ・・・・ 」

「 これで失礼するよ。 男爵が戻ってくるから。 」

「 はい ・・・ 」

ミスタ・ブラウンは 立ち上がると手を差し伸べてきた。

「 ― 元の世界で 幸せに 」

「 ありがとうございます。  貴方も 」

二人は 握手を交わした。

 

    ・・・ 不思議な方 ・・・

    ああ でも あの現世には 馴染めないのかも

 

    彼にはこちらの世界の方が生きやすいのね

 

 

軽く会釈をすると フランソワーズは居間から出ていった。

 

 

   コツ コツ コツ ・・・

 

彼女は自室に戻ろうと 二階に上がっていった。

「 先生 〜〜 」

令嬢が ドアの前で待っていた。

「 まあ どうなさったの? 」

「 先生を待っていたの。  あの ・・・ 集会に来てください。 」

「 え ・・・ 」

「 先生がお望みになれば 母様が父様に言ってくれるわ。 」

「 ・・・・・ 」

「 お願い !  先生  ・・・ 私達と 一緒に  ゆく? 

 私達と ・・・ 時を超えて ゆく ・・? 」

「 ・・・ 廊下は冷えるわ、 どうぞお入りなさい 

フランソワーズは自室のドアをあけ 令嬢を招き入れた。

「 ・・・ フランソワーズ先生 ・・・ 」

「 さあ お掛けくださいな 

「 ・・・・ 」

令嬢は こくん、と頷くとソファに腰を下ろした。

「 フランソワーズ先生 〜〜 」

「 わたしは ― 」

フランソワーズはほんの少し躊躇ったが すぐにまっすぐに

令嬢を見つめた。

「 あなた達の、いえ この村の方々と 道は違うけれど一緒かもしれないわ。

 わたしも ―  齢をとらない存在 だから  」

「 ???  フランソワーズ先生・・・? 」

「 わたしの首に 触れてごらんなさい 

「 ・・・ 

屈んでくれた彼女に 令嬢はそっと手を差し出した。

 

   ス ・・・ ッ  細い指がフランソワーズに当てられた。

 

「 ・・・?  ・・・ 先生 ・・・ ??? 」

令嬢の顔色が変わった。

「 わたしは ・・・ 人間だけど < 改造 > されてしまったの。

 エナジーを貰うことも あげることもできない ・・・

 だから 皆さんと一緒には ゆけないわ 」

「 先生 ・・・ 」

「 さあ お客さまがたくさん見えるのでしょう?

 ご準備がありますね、お母様のお手伝いをなさいな。

 そして 集会ではフランス語で上手ご挨拶 なさってね。 」

「 ・・・ 先生〜〜  フランソワーズ先生〜〜〜

 お帰りになってしまうの 」

「 楽しい日々をありがとう ・・・ 可愛いわたしの生徒さん 」

「 先生〜〜〜 

令嬢は ひし、と彼女に縋り付いた。

「 さあさあ  泣いてはおかしいわ。 

 せっかくのドレスが皺になってしまってよ 」

「 ・・・ 先生 ・・・ お姉さまになってほしかったの・・・ 」

「 どうぞ 幸せに ・・・ 」

フランソワーズは 令嬢の白い頬に心を込めてキスをした。

「 先生 ・・・ 集会の間は ・・・ 誰もいません。

  空に扉が開きます ・・・ お帰りになれる と思うの。 」

「 ・・・ ありがとう 」

二人は 心から抱擁を交わした。

 

「 あ お兄さま 〜 

部屋を出ると 廊下の奥に令嬢の兄が立っていた。

「 ・・・・ 」

両腕を広げた兄に 令嬢は駆け寄った。

「 兄さま 〜〜 」

「 ・・・ 」

男爵令息は妹をだきしめると じっとフランソワーズを見つめた。

真っ直ぐな視線だが 敵意を含んだものではなかった。

 

    貴女は ・・・? 

 

「 ・・・・ 

フランソワーズは 腰を折って丁寧に別れの会釈を送った。

「 ・・・ 」

彼は微かに頷くと妹を連れて踵を返し 奥に消えた。

 

 

    さようなら ・・・ 吸血鬼さん たち

    どうぞ  ご無事で !

 

 

彼女は兄妹を 愛情を込めた眼差しで見送った。

 

 

 

         ******************

 

 

 

 

ガツン ガツン ―  雪の下から瓦礫を掘りだす。

 

掘っても掘ってもすぐに雪がその跡を隠してしまう。

「 ・・・ くそ〜〜〜  雪のヤツめえ〜〜 

 うっぷ ・・・  これじゃキリがないや 

ジョーは枯れた薔薇の垣根を直し、研究所址を片づけている。

散乱している瓦礫を集め 跡地を整頓しているだけだが・・・

少しでもなにか手がかりになるものを探したい一心なのだ。

 

   きっと ここに  フランを呼び戻す方法があるんだ!

   

焼け跡は凍てつき どこまでも静まり返っている。

「 フラン ・・・ ! 戻ってくるんだ ・・・ フラン ! 」

ずっと身につけている銀のクロスを手にとった。

「 これを目印に ・・・ 戻ってこい ・・・! 」

 

 

    フランソワ −−−−− ズ ッ   !!!

 

 

ジョーは鈍色の空に向かって銀のクロスを掲げ 声を限りに叫んだ。

 

 

 

          ****************

 

 

数日後 ―  10月の末は陰鬱な空模様の日々が続いたが ・・・

陽が落ちた後、 ぐっと外気は冷えこんできていた。

 

       ガタン。

 

フランソワーズは 屋敷の最上階に登り、窓を開けた。

 

   ヒュウ −−−−−− ・・・・ !

 

風に金色の髪が靡く。 ドレスの裾もバタバタとはためく。

「 よ・・・いしょ 」

窓の柵を跨ぎ 屋根に出た。

「 わたし ― 戻るわ。  わたし 生きて 愛して そして  死ぬの。

 

    ジョー −−−−−− !!!  わたしを呼んで  

 

 

 フラン ・・・  フランソワーズ −−−−−− !

 

空の彼方から ジョーの声が聞こえた。 

  ―  きらり。  一筋の光が目に入った。

 

      さあ ここに おいで。  

      ここに 愛 がある 

 

「 !  ジョー ・・・ !  今 行きますっ 」

 

     バッ !!!  彼女は 空に身を躍らせた 

 

 

 

  ヒュウ −−−−     バサ −−−−−    ドサ ッ  !

 

 

「  !!! フ フランソワーズ ・・・・ っ !!!  」

「 ・・・ ジョー ・・・・ ! 」

 

      ジョーは両腕の中に しっかりと愛しいひとを抱きしめた。

 

 

 

「 ここが ― ミスタ・ブラウンの書斎 ・・・ 」

「 ウン。 ほとんど元のままだよ。

 上の研究所は 焼失してしまったけれどね 

サイボーグ達は あのハッチをこじ開け再び地下室にやってきた。

内部は ちゃんと保全されていた。

 

「 !  絵がある ・・・ 肖像画だわ ! 」

「 え どこ? 」

「 ここ よ ! 」

フランソワーズは 壁のタピストリ―を持ち上げた。

「 お・・・ これは全然気づかなかったぞ 」

「 うむ さすが003 」

グレートとアルベルトも寄ってきた。

 

それは 少年の肖像画だった。

深い青の瞳をした 少年。 しかし その眼差しは恐ろしく冷えている。

 

「 ほお ・・・ 18世紀くらいの絵か 」

「 おそらく。 この少年の服装から見ればな 」

「 奴さんは 絵画にも趣味があったのか 」

「 かも なあ 

「 へえ〜〜  昔はこういう服、だったんだ〜 」

オトコたちは 時代めいた絵画をもの珍しそうに眺めている。

 

    コトン。  フランソワーズは そっと絵に触れた。 

 

「 ・・・ 無事なのね?  今はどこにいるの。 妹さんも一緒?

 ねえ わたしも時を超えて生きているわ・・・

 あら  この本 ・・・・? 」

 

机の上にあった  『 バンパネラ・ハント 』  を手にとりぱらぱらとめくった。

数人のヒトが体験談を寄せあい、 バンパネラ伝説について語っていた。

中の一章に 『 グレン・スミスの日記 』 という話が収録されている。

 

「 ・・・・ グレン・スミス ・・・?

 ・・・ !!!  あっ  あの方・・・! 」

 

ページを追ってゆくと どきり、とした一節を見つけた。

 

   麗しい男爵一家 そして フランス美女 ・・・

   物語の世界にも似て ひたすら憧れの眼差しを向けていた。

   あの不思議な体験を 子孫たちに残したくここに記す。

 

「 ・・・ ああ ・・・ あの方はもとの世界に戻って 

 幸せな一生をすごされたのね・・・ よかったこと・・・。

 ああ あの可愛いわたしの生徒さん。

 ・・・ 今日もどこかであの銀の髪を輝かせているのかしら 」

 

 

    ヒュウ  −−−−  ・・・・

 

        外は再び吹雪が荒れはじめた。  

      あの里では 今日も薔薇が揺れているのだろうか

 

 

 

****************************      Fin.    ***************************

Last updated : 09,03,2019.               back     /     index

 

 

**************    ひと言   ************         

奇しくも 93の日 に 終わることができました (*^^*)

あの不朽の名作・少女漫画 は 現代まで続いていて

< 兄さま > は 存在しています。  

・・・ 令嬢は ・・・ (;O;)

なお 『 グレン・スミスの日記 』 の記述のついては

捏造です〜〜〜 <m(__)m>