『 霧と薔薇と ― (2) ― 』

 

 

 

 

 

  う ・・・ん ・・・?

 

淡い光が レースのカーテンの隙間からほう〜っと室内を照らしている。

フランソワーズは ぼんやりとその明るさを見ている自分に気がついた。

 

    あ ・・・  ここ ・・・?!

 

そろそろと身を起こせば ― そこは淡い花模様のリネンの海の中 だった。

「 ! こ れ ・・・ ボルドー社のリネン?? うっわ〜〜♪

 あ ・・ わたし ?  そうよ! 昨夜 あの不思議な館に泊まって 」

するり、とベッドから抜け出し、改めて一晩過ごした客間を見回す。

「 ・・・ うわあ ・・・ 豪華・・・

 昨夜は疲れてベッドに倒れこんでしまったけど ・・・

 ・・・ どうしてあんなに眠かったのかしら ・・・

 少し アタマが重いわ 」

頭痛、というほどではないが 澱んだものを感じた。

「 昨日の朝は 吹雪の中にいたのに ・・・ わたし、ここにいる ・・・ 

 ここは ・・・多分 秋 かしら 」

  ぷるん、とアタマを振えば 沈んだ気分は消えていった。

「 よくわからないけど ―  楽しんじゃおうっと。

 このお部屋・・・ 素敵! 物語に出てきそうね? 映画のセットとか・・

 すご〜〜い・・・ あら この暖炉、ホンモノね! 薪に石炭?

 うわあ・・・ 可愛いランプ ・・・  」

彼女は しばらく部屋のそちこちを眺め 感歎の声をあげていた。

「 ・・・ そう か。  その年代 なのよね ・・・ 」

昨日 あの青年が教えてくれた年月日が 思い出された。

「 わたし ・・・ 確かにその年代の 北イングランドにいるのね。 」

 

   カタリ。     上下に開く窓を すこし押し上げてみた。

 

「 ・・・ ああ いい風 ・・・ 晴れているわ ・・・

 あら 素敵なお庭だわ・・ ちょっと散歩してみようかしら 」

ベッドに戻れば チェストの上に昼用のドレスが置かれているのに気が付いた。

「 これ・・・ 拝借してもいいのよね?

 ・・・まさか 防護服で出歩くこともできないし 

彼女は手早くそのドレスを身に着け、こそ・・・っと部屋を出た。

 

 

  朝陽の差す廊下に ヒトの気配はなかった。

 

「 ふうん?  ・・・ ああ こっちね 」

廊下の端に 階段が見えその下には外のテラスに続くサン・ルームがあった。

日当たりのよい場所に 鉢植えが幾つか並べてある。

「 まあ ここにも薔薇?  蕾がいっぱい 」

彫刻のある取っ手を押せば ―  中庭と思しき場所に出た。

 

「 ・・・ ああ いい気持ち ・・・  」

薄い陽光が 広い庭をほんわりと覆っている。

「 まあ ここも薔薇だらけ・・・ ふう〜〜ん  いい香り ・・・  

  ・・・ お庭中 薔薇でいっぱいねえ  すごいわ ・・・

 香でくらくら しそう ・・・ ああ あちらの生垣は花盛り ね 」

芝生の上を辿ってゆけば 赤い一重の薔薇の生垣があり その向こうには

簡素な東屋があった。

「 わあ すてき・・・!  あ  あら ・・・ 」

東屋の中には 大きな籐椅子があり ― 白いクッションに囲まれ

 

  あの少女が ゆったりと横になっていた。

 

「 ・・・ あ ・・・ あの  おはようございます 」

「 おはようございます 旅の御方 」

少女は 細いけれどしっかりとした声で応えた。

 

    わ あ ・・・ なんてキレイな子なの ・・・ !

 

透けるほどの白い顔の周りには飴色の髪が波打ち、深く青い瞳が

静かにフランソワーズを見上げている。

 

「 あなた ・・・ あの 昨日の ・・・ 怪我をしたお嬢さん? 」

「 はい 異国のお姉様 」

「 まあ ・・・ あなた 起き出しも大丈夫なの ? 」

「 はい。 旅のお方 ・・・ キレイな髪ですね 

「 あなたこそ ・・・ 美しい髪・・・ いえ 髪だけじゃないわ

 本当に ・・・ 陽に透けて溶けてしまいそう ・・・ 」 

「 ・・・ 」

少女は 黙って微笑む。  その笑みは淡い陽にやわやわと溶け込んでゆく。

「 もう いいのですか? お庭に出ても ・・・  」

「 ・・・・ 」

彼女はそっと少女の頬に手を当てたが 首筋に受けたはずの傷は

すでに 乾き、ほんのすこし痕が残っているだけだった。

 

   ! そんな ・・・ 昨日 撃たれたばかりなのに ・・・

 

「 ・・・・ ? 」

「 あれほどの傷が ・・・ 」

「 両親と兄が つききりで看てくれました。 村の医術の方も来てくださったし 」

少女の頬は すこしだけれどピンク色になってきている。

「 そう・・・ よかったこと・・・・

 あ ・・・ あの お兄さん?  とても あなたのことを

 大事にしていらっしゃるのね 」

「 うふふ ・・・ ええ 兄さまは 小さい頃 小川で水車を作って

 くれたり ・・・ いつもいつも一緒にいてくれます。 」

「 ふふふ  素敵なお兄さまね 」

「 はい。  でもすごく心配性で  」

昨夜の少年の張り詰めた様子を思い出し、フランソワーズは少し笑ってしまった。

「 いいお兄さまだわ・・・ 」

「 ・・・ 異国のお姉さま  貴女にもご兄弟が? 」

「 あ ええ わたしにも兄がいて ・・・

 ええ ええ とてもとても大事にしてくれたわ。 」

「 ときどき うるさいくらい でしょう? 」

「 ええ ええ ・・・ 本当に。 」

「 ね? 」

 

    妹たちは にっこり・・・顔を見合わせた。 

 

  ピー ・・・  中型の鳥が 空を横切ってゆく。

「 昨夜はこちらにお世話になって  ありがとうございました。

 ご両親とお兄さまに よろしくお伝えくださいね 」

「 はい ・・・  あのしばらくご滞在くださいませんか

 お国のこととか お話してください。 」

「 え ・・・ でもご迷惑では 

「 いいえ いいえ 私 この村の外のこと、知りたいのです。

 父様や兄さまは 時々旅行に行かれるけれど

 私はこの村しかしりません 」

「 ここは ご別荘ですか? 」

「 はい。 本宅はロンドンにあるのですって。 」

「 そう ・・・ ここはお庭も広くてキレイで・・・ 素晴らしいわ。

 薔薇だらけ ね 

「 ・・・ 薔薇は 私達にとても大切なものなのです 」

「 そう ・・・ ここにいると身体中 薔薇の香でいっぱいに

 なりそうね  」

「 ・・・  あ  ばあや 」

「 ? 」

少女の声に振り向くと、 灰色の服の老女が畏まっていた。

「 お客さま 朝食へどうぞ。  嬢さま そろそろお戻りください。

 陽差しが 強くなってきました。 

日本からみれば 冬の穏やかな光程度なのだが ・・・

心配性の乳母どのは 少女の肩に毛糸のショールを掛けていた。

「 ・・・ どうぞ 御大事になさって・・・ 

フランソワーズは 軽く会釈をするとゆっくりと庭を横切り

館へ戻っていった。

 

   ― 少女の首の傷は、昨日うけたばかりの傷は もう治りかけていた

   

 

部屋に戻り、髪と服を整えると階下へと降りていった。

昨夜、軽食を取った部屋は 朝陽の中でなおさら がらん として見えた。

 

   あらら ・・・ わたし 一人?

   あの青年 えっと ・・・ ミスタ・スミス と

   お医者さま は お帰りになったのかしら ・・・

 

す・・・っとメイドがやってきてテーブルに案内してくれた。

「 ありがとう ・・・ 他のみなさんは?  

「 今 ミルクをお持ちします。 」

ひくく呟くと メイドは足早に出ていった。

「 ふう ・・・ お答えできません ってことね ・・・ 」

フランソワーズは 椅子を少しずらし改めて室内を見渡す。

 

   随分と広い食堂ね ・・・

   たくさんの御客を呼んで 晩餐会をするのかしら 

 

   ・・・ それにしても 静かね ・・・

 

広がるテーブルには 凝ったレースのクロスと 中央には花が ―

ここにも濃い紅色の薔薇が 花器に盛り上げてあった。

 

   本当に・・・ 物語の中、みたい・・・

   うふふ グレートだってこんなところ、

   実際に居たこと、ないだろうなあ ・・・

 

   ・・・ ジョー ・・・ 心配してるわね

   ごめんなさい ・・・ 

   ここでは なぜか全く 003 は役立たずで

   ・・・ 生身のわたし なの・・・

 

滲んできた涙を そっと指で押さえた。

「 どうぞ 」

す・・・っと後ろから 給仕の少年が銀盆を捧げ持ってきた。

「 あ ・・・ 」

「 お湯は熱いので お気をつけて ・・・ 」

「 あ ありがとう ・・・ 」

「 ・・・ 

 

  ことり。  銀盆ごとテーブルに置かれた。

 

湯気の上がるポッドに 陶器のカップ、そして トースト・ラックには

数枚の小型のトーストが並ぶ。

銀のエッグスタンドに固ゆで卵 と あとはオレンジが瑞々しくガラス器に

盛ってある。

 

「 まあ 美味しそうね  ありがとう 

「 ・・・・ 」

昨夜と同様 給仕の少年は影のごとくに 素早く消えた。

 

豪華な食堂、がらん〜〜〜 とした中での たった一人の食事は

あんまり楽しくはなかった。

 

    ・・・ 相変わらず 香のいいお茶ね ・・・

    トーストもぱりぱりで美味しいわ

 

     でも。  誰もいない のかしら。

    

    それとも ヨソモノは邪魔なのかなあ・・

    

    ここ なにかバリアでもあるのかしら。

    003のメカ部分は 全く機能しないのよね

  

    ・・・ ふう 〜〜〜

 

早々に食べ終わってしまうと 彼女はこそっと席を立った。

「 ・・・ 失礼しなくちゃ。 わたしは 招かれざる客 なんですものね

 ・・・でも これからどうしたらいいの ・・・ 」

思案しつつ 食堂から出ようとした。

 

   ガチャ ・・・ ッ

 

「 あ!  失礼しました ・・・ えっと ・・・

 マドモアゼル・フランソワーズ。  そうでしたね? 」

あの青年が 慌てて食堂に入ってきた。

「 まあ おはようございます  ミスタ・スミス 

彼女は 膝を屈め古風な会釈をした。

「 あ ・・・ おはようございます ってもうそんな時間じゃない

 ですよね 」

彼は バツが悪そうにアタマを掻いている。

「 いえ そんなに遅くもありませんわ。

 わたし 早くに目覚めてしまって・・ お庭を散歩していたのです。 」

「 おお そうですか ・・・ 気持ちのいい朝ですよね。

 僕は どうも早起きが苦手で・・・ 

「 うふふ・・・ わたしの友人も 似たようなことをいいますわ。 」

「 いやあ〜〜〜  突然滞在したお屋敷で 不覚なんですが・・

 いや ・・・ なんか身体 重くて・・・ 目が開かなかった・・・ 」

「 身体が 重い? 」

「 ええ そんなに疲れてはいないと思っていたものですが。

 昨夜遅く あの少年が部屋にやってきて 

 

   妹になにかあったら 許さない ―  チカラを少しもらうよ

 

と言って 僕の首に軽く手を触れていったのです。 」

「 ・・・ 首に ? 」

「 ええ ここです。 」

彼はクラバットを解いて 首を見せた。

「 ・・・ あら 

そこには  薄い痣が残っていた。

 

    ・・・・ ?  ぶつけたのかしら ・・・

 

「 その後のことは よく憶えていないのです。

 多分 僕はふらふらとベッドに倒れ込んだ のではないかと・・・

 気がついたら こんな時間になっていた、というワケです。 」

「 倒れた時に 打ったのかもしれませんね  

「 ええ 多分そんなところでしょう・・・

 この屋敷は素晴らしいけれど  ははは ・・・ 食事はちょっと ・・・ 

 パンとお茶だけでは どうも・・・ね 」

彼は肩を竦め 苦笑している。

「 ああ ・・・ お若い方には物足りないでしょうね 

「 貴女だってそう思われるでしょう? 」

「 ええ ・・・ お茶は素晴らしく美味しいですけれど 」

「 そうですね  ワインも ね。 初めて口にする香でしたけれど 

 この村は 薔薇を使ったものをいろいろ・・・作っているらしいです。 

「 ああ それで ・・・ あんなにたくさんの薔薇があるのですね。 」

「 多分 ね。 庭は薔薇だらけ、ですよ。

 あ 僕はこの後 ・・・ 帰ります。 

 昨日は本当にありがとう。 助かりました。

 申し遅れました、 僕は グレン・スミス といいます。 」

「 ミスタ・グレン・スミス ・・・ 

 わたしは フランソワーズ、 フランソワーズ・アルヌール

 といいます 」

「 フランソワーズ。 美しい名前だ ・・・ いや 名前だけじゃない 」

彼は つ・・・っと彼女の手を取ると 慇懃に口づけをした。

「 あら ・・・ 恐れ入ります、 ミスタ。 」

「 また どこかでお目にかかりたいものです。

 あ そうだ。 昨日のあの・・・ドクター ですか?

 あの方が 客間に来て欲しい、と言っていました。 

「 まあ あの方が?  ありがとうございます。 

 ご機嫌よう、 ミスタ・グレン・スミス 」

フランソワーズは 腰を折って会釈をし、優雅に別れの挨拶をした。

 

 

   コンコン  ・・・ 彫刻を施したドアをノックした。

 

「 どうぞ。 昨日のお嬢さんですかな 」

「 はい。  こちらでお呼び、と聞きましたので 

フランソワ―ズは 静かに客間に入った。

 

 

 

            *******************

 

 

 

    ビュウ −−−−−    吹雪は 止まない。

 

  バタン。  退避小屋のドアが開いて すぐに閉じた。

「 ひょ・・・・  なんてこった ・・・ 」

雪まみれになり グレートが転げ込んできた。

「 お疲れさん。 首尾はどうだ? 」

バサリ。 タオルを投げたアルベルトが尋ねた。

「 どうもこうも ・・・ 一寸先は闇、じゃなくて 白い闇 さ。

 ここいらには人家も稀で 聞きこみなんぞにはならんよ。 」

「 だろうな。  荒野 ・・・ か。 」

「 ああ。 嵐が丘 とはこんな地だったのだろうよ。 」

「 ふふん・・・ で? ヒースクリフ氏 なにか拾えたか 」

「 はは ・・・ かの御仁は本当にこの辺りに住居を構えて

 おったのかね? 

「 そりゃ あんたの資料の情報だぜ? 」

「 う〜〜〜 ・・・ そうなんだが。 

 おっと・・・ 忘れる所だった。  ジョー、おい my boy ? 」

グレートは 窓辺に張り付いて居る009に声をかけた。

「 ・・・? 」

彼は ちらり、と視線をこちらに戻しただけだ。

「 ご心痛は察するがな。 これは マドモアゼルのものかい  」

 

    キラリ。  グレートの手元で なにかが光った。

 

「 ??  それ  は ・・・? 」

ジョーは 大股で寄ってきた。

「 おい〜〜〜 現金なヤツだなあ  拾得物なのだが ―

 この銀のクロス、吾輩にも見覚えがある。 

 お前さんも確認してほしい。 マドモアゼルのものかな? 」

「 ・・・・ 」

ジョーは 手を伸ばし 輝くものを受け取った。

「 ・・・ !  フランのお気に入り だ ・・・

 銀のクロス ・・・ いつもいつも首に掛けていたんだ ! 」

彼は 両手でしっかりと握りしめる。

「 そうか やはり な。 」

「 見つけた場所は? 」

アルベルトがすぐに端末を開く。

「 判然とせんのだ。 足元に 光るモノがあってな ・・・

 拾いあげたら  これだった、というワケだ。 」

「 ふん ・・・ ということは この辺りまで003は来ていた、

 ということだ。 」

「 う〜〜ん ・・・ この吹雪だからなあ ・・・

 どこからか飛ばされて来た、という可能性もある。 重いモノではないしな。」

「 ふん ・・・ この近辺は ― 公式には なにもない だな。

 ただの荒野 ・・・ 春から夏には一部は牧草地になるらしいが。 

 住民として登録してある住居は ナシ。 」

  パチン。  アルベルトは端末を弾いた。

「 だが かの御仁は 敢えてここに住んでいた。  

 ・・・と これはMI6の情報か?  007さんよ 」

「 はは・・・ まあ そんなところさ。

 もともと奴さんは この地方の出身で ― 隠遁するなら

 故郷で、と考えたのかもしれん。 」

「 それだけ じゃないのだろう? ジェームズ・ボンドさんよ? 」

 

 ふん。   グレートは鼻を鳴らすと 熱いお茶をカップい注いだ。

 

「 まあ 飲み給え 同志諸君。 」

「 ダンケ 」

「 ・・・ ありがとう グレート。 」

ジョーも やっと窓辺を離れ仲間たちと狭いテーブルを囲んだ。

 

「 そのマドモアゼルのクロスを見ててなあ ・・・ 合点がいったのだが 」

「 なんだ 

「 うむ・・・ 伝説、というか 地方の伝承の類なのだけれど・・・

 この辺りは ヴァンパネラの隠れ里 なのさ。 」

「 ヴァン・・・?  ああ 吸血鬼のことか? 

 しかし アレは・・・ トランシルバニア地方の話だろう? 

 ハンガリー か 中央ヨーロッパの伝説、と聞いているが。 」

「 ご本家は な。 この地のはあちらさんとは ちょいと違う種族らしいが。

 そんな一族の里が ここいらにある、と信じられているのだよ。 」

「 ・・・ 吸血鬼 って 確か ・・・ 十字架とか苦手なんだよね? 」

ジョーが 顔をあげた。 手にはしっかりと銀のクロスを持ったままだ。

「 そうらしい がね。 まあ 民間伝承だがな。 

 そして ― かの学者殿だがな 彼の研究が 所謂不老不死 なのさ。 

「 不老不死?  ・・・ ああ それでヴァンパイアか 」

「 左様  なにやら因縁を感じるな。 」

「 でも ・・・ その学者はBGに居たって聞いたけど・・

 なんでかな?  兵器にはならない研究だよね?  」

「 おお my boy 〜〜 アタマを働かせたまえよ?

 不老不死を望むのはどんなヤツらだ?  」

「 え ? 」

「 貧乏人は 望むまい? 

「 あ そうか ・・・ 金持ち! 

「 左様。 不老不死のクスリ、として世界の大富豪どもに売りつければ

 ―  まあ 濡れ手に粟 ってとこだ。  」

「 ふん。 手を汚さずして巨万の軍資金 だ。 」

「 ・・・ あ ・・・ それで その学者さんは 逃げた? 」

「 恐らく な。 ギルモア老からの情報だと 表向きは

 生命倫理上の制約で 研究がしづらくなった、として 隠遁する と

 発表したらしい。 そして その後 」

「 杳として行方は知れず か。 そりゃBG側も追い掛けているのだろうな 」

「 恐らく な。 故に我らはヤツらより先にその学者ドノを

 保護せにゃならんのだ 」

「 この吹雪が収まったら 研究所とやらの跡を探りに行こう。

 なにか 残っているかもしれない。 」

「 おう。 まあ 重要なモノは持ち去られているだろうが な 」

「 ふふん そこでなにかを見つけるのが 俺たちの仕事だ。 」

「 イエス サ〜 ! 」

オトコ達は に・・・っとサムズ・アップする。

「  ・・・・ 」

ジョーが 黙って二人を見つめた。

 

    フランソワーズ を見つけるのが 先だ ・・・ !

 

「 当然だ。 」

「 わかってるって my boy 」

「 ・・・ うん。  ありがと ・・・ 」

 

 

      ビュウ −−−−−   吹雪は まだ止まない。

 

 

 

            *****************

 

 

 

客間には 柔らかい陽光が満ちていた。

「 お呼びたてして失礼しましたな 」

肘掛椅子から あの年配の男性の声がした。

「 いいえ。 わたしも もう一度お会いしたいと

 思っていましたから。  ― ミスタ・ブラウン。 

 このお名前でお呼びしてもよろしければ 

「 ふ・・・  そうですな、ここでは そうのように

 呼んでいただきましょう。 」

「 わかりましたわ。 」

「 ありがとう 」

「 ― いえ   あの 伺ってもいいですか 

「 なんなりと。 」

「 ・・・ こちらにいらっしゃるのですか  ずっと 」

「 ・・・・・ 」

男性の眉が ぴくり、と動いた。  長い指が豊かに蓄えた頬鬚をしごく。

「 わたしの言う意味、おわかりですよね 」

「 ―  ああ。  ワシはここにいる。 」

「 ご自分の意志で? 」

「 そうだ。  自らが望んだことだ。 」

「 ・・・・ 」

「 ワシも訊ねたいことがある。 」

「 はい どうぞ。 」

「 ・・・ 確か   003 、 そうだな? 」

「 ・・・・ 」

フランソワ―ズは黙って しかし はっきりと頷いた。

「 やはり な。 ・・・ ドクター・ギルモアの芸術品だ 」

「 ・・・・ 」

次にどんな質問が飛んでくるか、とフランソワーズは身構えていたが

彼は < その問題 > についてはそれきり触れない。

「 先ほど こちらの男爵から頼まれたのだが ― 」

「 ・・・ は? 」

「 令嬢の話し相手、というか 家庭教師になって欲しい、とのことだ。 」

「 ・・・ 誰が ですか 」

「 君じゃよ マドモアゼル・フランソワーズ。

 この別荘の主の男爵の依頼なのだ。 」

「 え わたしが ですか??  そんな・・・見知らぬ者に 」

「 おそらくあのお嬢さんの願いなのだろう。

 フランス語の家庭教師に フランス人を、というのは上流階級では

 ごく自然のことだ。  」

「 ・・・ わたしの名前もご存知ないでしょうに 」

「 ワシだとて この村の風来坊だった。

 今は 医術に長けた人物 といして厚遇されておる。 」

「 わたしは ・・・ どうしてここに来たのか よくわからないのです。

 場所だけではなく 時間も ― 移動していますね? 」

「 うむ。  ここは  ―  遥かなる世界 さ。 」

紳士は 穏やかな視線を遠い遠いところに投げていた。

フランソワーズは 磨き込まれたテーブルの上をじっと眺めている。

    

    このヒトは これ以上はなにも教えてくれないわね

    

    なんとかして元の場所に戻りたい !

    う〜〜ん  もうこうなったら やるっきゃない !

    

「 わかりました。 でも わたしは ここで寝泊まりする場所も

 ないのです。 」

「 この屋敷に住み込みで、ということだ。

 君の素性は ― あ〜〜 私が保証したよ。

 まあ もっとも男爵はほとんど気にしてはいなかったが ・・・ 」

「 え ・・・ 」

「 旧い知り合いの娘さんだ、 とね。 」

「 ・・・ 中らずとも遠からず ってとこですね。

 わかりました。  あのお嬢さんの家庭教師として伺いますわ。 」

「 ありがとう。 彼女が喜ぶだろう ・・・ 」

彼は ゆっくりと肘掛椅子から立ち上がった。

「 あの ミスタ? 」

「 なにかね 」

「 アナタは 本当に ―  自ら望んで ここに・・・ この時代に 来た 

 ・・・ のですか? 」

「 ・・・・ 」

彼は 立ち止まり、ゆっくりとフランソワーズを見た。

 

「 ワシは  ここがいい。  自ら望んでこの一族になった・・・・

 もう 外の世界はこりごりだ。 ワシは彼らとともに生きてゆく。 」

 

彼、 ミスター・ブラウンは 静かに客間を出ていった。

 

     一族に なった ・・・?

     どういうこと ?

 

フランソワーズは じっと閉じた扉を見つめていた。

 

     ここは  この屋敷の、いえ この村の人々は

     ・・・ 普通の人間 とは違うの ・・?

 

     この世界から出ることは 出来ないの ・・・?

 

 

薔薇だらけの屋敷で 薔薇の香に包まれつつ 金髪の乙女は

きゅ・・っと唇をきつく結んだ。

 

      いいえ。  わたし 必ず帰る。   必ず よ!

      ジョー ・・・・  !!!

 

 

Last updated : 08,20,2019.          back   /   index   /   next

 

 

*************** 途中ですが

ああ こんなお屋敷に滞在してみたいです☆

かの不朽の名作少女漫画は 女子の必須科目

だと思うのです〜〜  フランちゃん がんばれ♪